鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
国家安全局の中なのに好き放題やっていたりなど矛盾がありますが、大目に見てやってください。
ーー再生再開。
「……今日はここいらで区切るぞ。今日も一日よく頑張ったな」
あの出会いから数日。
他の戦術人形のメンテナンスも兼任している俺だが……
その自由な時間のほとんどはここに来ている。
UMP40とUMP45。
この2人は、どうも放っておけないらしい。
気づけば足を運んでいるし、気づけば目も奪われる。
いつも見ているが、やっぱり頑張りすぎている。
通る度に目を配れば、どんどんと疲労で動きが悪くなっているのがわかる。
そんな頑張りすぎな奴の支えになろうと40は頑張っているが……当の本人も、かなり頑張っていることが伺える。
度重なる45への侮蔑から庇ったり、45を慰めてやったり。
いい姉じゃないかと思うが、それだけじゃない。
あいつ自身も、休まず自分の問題と戦っている。
自分自身も優れたものでは無いと知っているからこそか。
良くも悪くも、姉妹だと納得がいった。
「はぁ〜……結構やるとやっぱり疲れるね……」
「でも、こんなくらいで休むなって上官は……」
その言葉を遮るように俺は話した。
現場の視点と命令の視点は全く違うと。
命令している側は実際を知らない。
その行動にかかる労力やリスクなど、自分がやらないから全く知らない。けれど、実際に動く者はそれを知っている。
つまり何が言いたいかと言うと、真に受けるな。
そういう事だ。
戦術人形だって個人差がある。
長く体力が持つものもいれば、すぐに息切れを起こす者もいる。それを奴らは知らない。
だが、それを抜きにしても彼女らは頑張りすぎだ。
「命令じゃなきゃ休めねえなら、これも命令だろ」
「だってさ、実質上の人からの許可出たから休もう?」
いつも45は頑張りすぎている。
周りからの評価と、自分の劣等感が重なっている故だろうが……何度も言っているように、度を超えた労力は無駄になるだけだ。自身のパフォーマンスの低下に繋がり、それは更に訓練の効率を下げる。どこかで聞いた話だ。
「いつも頑張るのはいいけどさ、ちゃんと休憩とかも取らないと」
「そういうこった。ほれ、銃を置け置け」
早く休むように急かす。
こうでもしないと、アイツはいつも目を離したらなにかしている。逆に、そうでもしないと落ち着かないのだろう。
自身に劣等感があると、そういうものだ。
俺自身少し近しいものがある。
昔から俺に出来ることなど少なかった。
この技術だって、何でもかんでもやって、漸く手に入れた。
その間は、何も出来ない時間がとてももどかしかった。
それに近い感覚と考えると、無理に言うことも出来ない。
「ありがとさん、じゃあ暫くゆっくりするぞ」
少し息抜きする姿勢を見せてくれた45に礼を言う。
本当に聞かない奴というのは、何を言っても聞かない。
45がなんだかんだ言ってもこうしてくれるのは助かった。
「……あっ!そうだ、この前、自分のデータベース内を調べてたらこんなものを見つけたんだ!」
突然思い出したように、40が話し出した。
広がる青い風景。澄み渡り、光を乱反射する綺麗な一面。
それは……
「海か。未だにそんな所の記録が残ってるなんてな」
「いいなぁ……リオンは普通の人だし、自由に見ることも出来そうだよね」
「そんなこたねえよ。このご時世なかなか行けるもんじゃねえ」
しかし、自由に行こうと思えば行けなくはない。
けれど、彼女らの脳裏に写っているような風景が見られるかどうかは別だ。もしかしたら、この近くの海など既に崩壊液に汚染されきったものかもしれない。
けれど、彼女らの境遇を考えたら羨望する気持ちも分からなくはない。だって彼女達は”役目”に縛られている。
俺とは違い、明確な枷がある。
俺は自由な癖に、自由を選んでいないだけだ。
アイツらから見たら、とてつもなく腹立たしいかもしれない。
「いつか、一緒に行けたらなって」
「行けるだろ。この任務終わったら、グリフィンに戻れるんだ。そしたらクルーガーさんに請け合ってもらおうぜ」
その時はもちろん45も一緒に。
この一言が、上手く重なっていた。
俺も言ったし、40も言っていた。
何となく、お互いの思うことが分かるようになってきた。
俺達の誰か1人でも欠けては行けない。
俺達は仲間で、友達なんだから。
だから、無理は絶対にいけない。
「その夢の1歩に近づくためにも、今はゆっくり休んでまた明日に頑張らなきゃいけないだろ」
「……うん。40と、リオンさんと一緒に、その風景を見たい。だから……今は、少しお休みさせてもらうね?」
それでいいんだよ、と一言。
ゆっくり休んで、また明日頑張る。
疲れたらまた休んで、次に備える。
その繰り返しで、成長していくものだ。
所詮プログラムなどと言うかもしれない。
けれど彼女達は確かに成長している。
45も、40も。
技術的な面もそうだし、少しづつ概念的な面も。
だから俺はそう信じれるのだろう。
そろそろ、作戦の時は近い。
刻一刻と迫る運命の時に、不安と焦燥を抱く。
本当に行ってしまうのか。
本来、こんなことは思っては行けないだろう。
それは、戦術人形の存在価値を否定するような言葉だ。
けれど俺は、どうしても……
失うのが怖かった。
もしも彼女達が戦場で散ったら。
そうならないための俺だ。
だが、本当に俺は助けられるのだろうか?
「……リオン?どうしたの?」
「いや、なんでもねぇ。作戦、無事に成功させるために頑張るぞ。俺らの夢の為にもな」
【ここから先は映像が乱れている】
ーー再生再開。
それは”あの事件”が起きるほんの数日前。
そろそろ決行が近い中、俺達は変わらずだった。
しっかりと訓練と休憩のメリハリをつけて、いつもの様に頑張る。それが俺たちのやり方であり、その時も変わらなかった。
ただ違ったのは、今日は45は別の場所で訓練の成果を確認しに行っている。
俺が教えた方法でどうやら上手くいっているらしい。
40が教えたコツと組み合わせて、しっかり劣らないくらいには上達できたと教えてくれた。
自信が無い故の悪循環から徐々に抜け出せているようで何よりだ。……つまり、今日は2人だけ。
よりにもよって、いちばん真面目なのが居ないのだ。
国家安全局の中に、こんなガサツな奴がいると知られたらまずいだろうに。けれども、そんなことは全く気にしてさえいなかった。
そんな中、あまりに退屈を拗らせた40がある提案を持ち出した。
「ねね、リオン、おにごっこしよう!」
「いや、出来ねえだろ。んな走り回ったらクソうるさい奴らにバレちま……」
いくら暇とはいえ、そんなことは出来ない。
ただでさえうるさい奴らの巣窟なのに、これ以上煩くされたら耳が壊れてしまいそうだ。
そう言おうと思った瞬間、40が俺のお気に入りのヘアバンドを外して奪っていった。
すぽんと綺麗に抜けたものだから俺も唖然とした。
何しやがる、と俺が言っても聞かない。
そのまま自分の頭につけて……
「どうよ!似合ってる?」
ただ単につけたかっただけらしい。
似合ってないことは無い。
むしろ意外と似合っている。
ふんす、と聞こえてきそうなくらいのドヤ顔。
「いや、まぁ、似合ってるけどよ……俺のだから返してくれ」
そう伝えると、ほんの少しだけ照れくさそうに笑う。
似合っている、と言われたのは純粋に嬉しかったのだろうか?
けれど、その笑いは段々と悪戯っぽくなって……
「ふふふ……返して欲しければあたいを捕まえてみろー!」
「は?」
そう言って一目散に逃げ出す40。
畜生、最初からそれが狙いだったのか。
アレはお気に入りだし、しかもなかなか同じものが見つからない。偶然見つけて気に入った一品だ。
「畜生、せめて面倒な奴らに見つかんのだけは勘弁な……!」
乗らざるを得ない。
必ず返してもらうからな。
そう言って、悪ガキ2人の追いかけっこが始まった。
走って逃げて、走って追って。
面倒な奴に見つかりそうになったら40はすぐ隠れるし、俺は何とか言い訳をする。この言い訳を考えるのも一苦労だ。
忘れ物をした、急ぎの用がある、誰かに呼ばれた、探し物をしている……正直、一生分の頭を使った気分だ。
「はぁ……はぁ……クソ、ようやく捕まえたぞ……!」
当の俺はもう息を切らしているどころではない。
正直、なぜ立てているのか分からないレベルで苦しい。
当たり前だ。向こうは機械の体、こちらは生身。
人に近いとは言え、そこの差は埋められない。
「ふぅ、隠れながら追いかけられるのは結構楽しかったよ!」
「あのなぁ……言い訳考える俺の身にもなってくれよ」
でも、言い訳考えるのはいつもの事じゃない?
そんなことを言われた。
いや、まぁ、確かにそうなんだが。
でも今回に関しては露骨すぎるから中々誤魔化しがバレそうで今まで以上に大変だった。
バレれば処罰は待ったナシ、そうなると余計に面倒だ。
正直に言えば、スリリングな綱渡りだ。
「たまにはいいでしょ?……それに、そろそろこうして遊べ無くなっちゃうし……作戦が終わったあとも、こうして会えるとは限らないでしょ?」
最後だけ、とても寂しそうで悲しそうな声だった。
確かに作戦が終わったあとに一緒に居れるかは分からない。
そのまま会うことはなくなってしまうかもしれない。
いや、そこまでは無いだろうが、交流が減るかもしれない。それは確かに、俺としても寂しい。
その気持ちがわからなくはない。
だからこれ以上は何も言えなかった。
子供のような純真さ故かと考えれば、怒りもない。
ただしょうがないな、と言うだけで……
「……でも、一生のお別れなんて訳じゃねえだろ」
「そうとも言いきれない。あたいも45も、ヘマをしたら死んじゃうんだから」
最近の彼女にしては珍しい物言いだと思った。
確かにそうだ。
ヘマをすれば死んでしまう。
そんなことは当たり前だ。
……だが、そんなことにさせないために俺がいる。
死にそうになっても、助ける為に俺がいる。
そう強く言い聞かせた。
「そうだよね。……リオン……」
その先の言葉は聞こえなかった。
いいや、最初から言葉に詰まっていたのかもしれない。
けれど、小声で何かを言っていた気がする。
今となっては、真偽は分からない。
「生きて帰るんだよ、俺もお前も45も、皆でな」
40は笑うだけで、何も返してくれなかった。
もちろん、という肯定にも見えて、そんなことなど出来ないという否定にも見えた。
でも、どこか弱々しい笑顔だったのは覚えている。
「……不安か?」
「……そりゃ、不安だよ。だって、戦いに行くんだから」
そう漏らしてくれた40に微笑んだ。
それでいいんだ。
不安を無くしたら、今度は生きることへの執着が消える。
そうしてしまえば、より死は近づく。
そうであるよりかは、不安で生き残りたいと願った方がいい。
それが俺の意見だ。
「……リオン?」
震える手にそっと手を重ねた。
それは子供に向けるようなおまじないかもしれない。
けれど、それで不安が消えるのなら……
ガキのような笑顔で、語って見せた。
「大丈夫だ。何時だって、俺はお前達と一緒に居るからよ」
「……あたいを安心させようとしてくれたの?」
また、あの時のように吹き出していた。
俺のこういう所は子供らしいと思われているのだろうか?
でも、あの時よりは少し控えめだった。
あそこまで腹を抱えて笑ってはいなかったし、ほんの少しクスリと笑う程度だった。
「ありがと」
「どういたしまして」
軽い返事。
軽い会話。
でも、そこには確かな温もりがあった。
「ねぇ、リオン」
その言葉に振り向く。
どうした?
そう言おうと思った。
「もしもこの作戦が終わって、離れ離れになっても……」
ーーあたいを、忘れないでね
……何を言っているんだ?
とても当たり前のことを、彼女は言った。
俺があそこまで手をかけて、あそこまで馬鹿やった友人を忘れるわけがないだろう。
そんな意を込めて。
「当たり前だろ。忘れるわけなんてねえよ」
「そっか、ありがと……」
笑って返すと、安心したように笑い返してくれた。
変な奴だ、と今更ながら思った。
……ごめんね、でも。
何かを、小声で呟いた。
とても当たり前の事を聞いたり、急に弱気になったり。
でも、それが彼女の個性なんだと納得している。
彼女はさらに俺に近づいて、耳元の辺りでさらに暗号のような言葉を紡いだ。
「……あたーー、いーーもーーーーいるーら」
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