鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
今回が1番辛いところです。
ーー再生再開。
ーー急がなくては。
ーー早く見つけなければ。
ーー何処にいるんだ。
ーーお願いだ。
ーー死なないでくれ。
ーー生きていてくれ。
作戦当日、作戦中。
突如として、戦術人形が人間に対して攻撃を始めたという報告が上がった。それ以上に、味方の戦術人形の破壊も確認されるとの報告が、俺に焦燥をもたらした。
45と40は無事か。
他の戦術人形のことも、もちろん心配だ。
だが、それを気にする余裕などなかった。
とにかく走れ。
鉄血の建物内をとにかく探し回る。
消えた40と45の信号を辿るために。
アイツらが死んでしまったら、俺はどうすればいい?
俺が1番、仲良くして、心配して、笑いあったあの二人が死んでしまうことだけは、絶対に避けなくては。
中には幾つもの人形の死体。
これも全部、鉄血の人形がやったものらしい。
信じられない。信じたくない。
吐き気を催しそうな最悪な光景の中、死体の山を踏み荒らしてでも。とにかく向かうんだ。
しかし、その最中に乾いた音が木霊した。
『……銃声……!?』
未だに戦闘が行われているのか。
この銃声は聞き覚えがある。
……間違いなく、UMPによる射撃音。
どんなに危険でもいい。
アイツらの安全を確保しなくては。
『45、40!無事か!無事だろうな!?』
目の前には、力無く倒れた1人の人形。
それは確かに、彼女自身の手で撃ち抜かれている。
夥しい量の流血。生々しく写る風穴。
それは確かに、俺のかけがえのない友人であり……
それは確かに、彼女の唯一無二の姉だった。
そこに落とされた彼女の銃が、それを物語っている。
傍に崩れている妹の銃と瓜二つ。
おびただしく流れる人工の血液。
『……嘘だろ、40……待ってろ、今治してやる……!なぁ、おい頼む、返事をしてくれよ……!』
その日、俺は壊れた。
その日、俺は知ってしまった。
……真に、人形の死という物を。
心の奥底に付けられた深い傷。
未だ脳裏に焼き付く赤、赤、赤。
何時も馬鹿やって、笑いあって。
時に激励し、共に抗った。
そんな俺達の支えであった彼女が……
『うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!』
自分の妹によって、撃ち殺された。
その殺した犯人さえ、泣き崩れている。
本意ではなかった。
きっとそう言うだろう。
分かっている。
分かっているんだ。
だが、それでも聞かずにはいられなかった。
「何でだ、何でだよ45!教えてくれ、何で撃っちまったんだ……!あいつを撃つなんてそれほどの理由があるんだろ?なぁ、願むよ……教えてくれ……何で、あいつが死ななきゃならなかったんだよ……」
肩を掴んで揺するように。
今思えば、俺は残酷な事をした。
恨まれてもしょうがない。
1番語りたくもなければ、現実を見たくないのはアイツのはずだった。それなのにも関わらず俺は……
その口から語られた真実は、あまりに残酷だった。
「裏切り者は、私達」
愕然とした。
その一言だけで。
だが、まだ45は続けて話した。
「……私達のどちらかが死ななければ、両方とも死ぬだけ。良いように使われて、そのまま棄てられる……だから、40は私に選択を迫ったの……40を、殺すことを」
全てに合点が行った。
なぜ人形たちが次々と人を襲ったのか。
なぜここに死体が転がっているのか。
そもそも、元より裏切り者がいた。
そう、鉄血の裏切り者が彼女達だった。
道行く者たちを殺して行ったのも。
この混乱を招いたのも。
全てはこの2人が鍵だった。
ーーあたいを、忘れないでね
あの時、弱音の様に吐き出したあの言葉が……
きっと彼女なりの最後の助けを求めるサインだったのだろう。俺は、それにさえ気づけなかった。
ずっと一緒に居たはずなのに。
アイツの事を、何よりも知っている使用者の筈なのに。
何一つとしてアイツの苦しみに気づいてやれなかった。
「私も、言われてようやく知ったの……私が、代わりになるはずだった人形だって……自由になれって、40が……!」
45を責める気なんて毛頭ない。
アイツが、理由もなく自分から引き金を引くわけが無い。
きっと……40に選ばされた。
どんな事情があったのか知らなかった。
教えてもくれなかった。
そんなことがあることさえ分からなかった。
必死に生きたいと願い、役目から逃げようとして……
必死に抗った筈だ。
自分の望む自由のために、最後まで。
その行先が……こんな結末だったなんて。
こんな方法で、それを叶えようとしていたなんて。
「……俺は……気づいてやれなかった……」
「……え……?」
腑抜けた声を出す45に、ぽつりと零した。
「あたいを忘れないで、って、アイツは……最後の日に俺に言ったんだ……何の事だか全く分からなかった、どういう意味かさえも分からなかった」
俺が大切な友人のことを忘れるわけがない。
当たり前の事を言わないでくれと思っていた。
……けれど、その一言に込められた意味はそんな物じゃなかった。あいつは、もうあの時……いや、それよりも前に。下手をしたら、生まれた時から……自分の死を自覚していたのかもしれない。
それなのに俺は、手を差し伸べてやることが出来なかった。
「俺は、ずっとお前の苦痛を、お前の悲鳴を聞いていたはずだろ……!それなのに俺は何もしてやれなかった!お前にも、何一つさえもだ!」
崩れたまま。
その亡骸を抱えて叫んだ。
己の無力さを。
自分の懺悔を。
「俺は、お前を、アイツを……助けてやれなかった!俺が1番、お前達を守ってやれるはずだったのに……!」
人形の命を預かる者としての恥。
何よりも、友人として救えなかったことが、深く心に傷をつけた。今でさえ、刺されては抜かれ、何度も殺されているような感覚だ。
「……40は、私に言ったの」
あたいは戦術人形。
たとえ死ぬことが決まっていようと、
戦術人形らしく、
最期は戦って死にたい。
「……馬鹿が……お前はいっつも俺と同じで馬鹿やる奴だと思ってたよ!だからってよ……そんな死ぬ事に格好付けるんじゃねえよ……!」
抱えた、友人だった”それ”を強く抱き締めて涙を零した。
俺に言っても無駄だったと思われてしまった。
実際にそうだった。
だからと言って、恐れも知らずに……
別れも告げずに、逝かないでくれと嘆いた。
零れた雫が、壊れた体に落ちる。
ひとつ、ふたつ。
どれほど受け止めようと、何も答えない。
何が理由だ。
最初から埋め込まれていたプログラムか?
それとも国家安全局に入ってから入れられたプログラムか?
どれだ。誰だ。
彼女らの運命を狂わせたのは。
ーー見つけ出す。
ーー見つけ出して。
ーー殺す。
セーフティが外れた感覚がした。
「……手前か……?」
死にかけの人間が1人。
よろよろとそこに現れる。
きっとそれは、命からがら生き延びた安全局の一員だろうが……
……俺にはもう、まともな思考はできない。
「答えろよ、クズ野郎!手前か!手前らが、アイツを殺したのか!」
何も答えない。
足蹴にして踏みつけても。
銃口を突きつけても。
何も答えない。
「……ああそうか、黙りかよ。じゃあそのままずっと寝てろよ……!」
何も無い場所に、ありったけの銃弾を撃ち込んだ。
拳銃の弾倉が空になっても、ずっと引き金を引いた。
怯える45と、息絶えた人間を脇目に、ずっと引き続けた。
カチ、カチとただ空撃ちされるだけの音が響く。
絶対に、殺してやる。
俺から、鉄血の家族だけじゃない。
大切な2人の友人さえ奪い去った黒幕を……
絶対に、この手で……
「……殺してやる……絶対に、ブッ殺してやる!俺が死のうとも、何度だって這い上がって殺してやる!」
狂った悲嘆の声が、ただそこに響いた。
暫くして落ち着くことが出来た。
もう一度、あいつの亡骸に向き合って……
つけていたヘアバンドを外して、彼女の弾痕に被せるようにつけら
た。本当に、よく似合っている。
とても穏やかな顔で亡くなって。
……思えば、あの言葉を言われた時も……これを取られていた。余程お気に入りなら、せめて向こうにも持って行ってくれと言わんばかりに、取り返すことはなかった。
もう一度、それを抱きしめる。
ごめんな、とただ小さく呟いて。
しばらくの黙祷の後、目を開く。
アイツの思いを無駄にしないために。
「お前は逃げろ、45」
「……え?なんで、リオンはどうするの?」
描いた筋書はこうだ。
俺が、45と40を破壊したという事にする。
もう既に、ロクに動ける奴も少ないだろう。
彼女らの死を利用するのはとても心が痛むが……
それでも、最期の願いを無碍には出来ない。
俺も処分は免れないだろう。
1番漬け込んでいた奴が、惨事の引き金なのだから。
きっと、そう嵌められるだけ。
……アイツが戦って死んだのなら、俺も逃げたくない。
「駄目だよ、そしたらリオンまで……!」
「お前が捕まって壊されでもしたら、アイツの死はどうなる!……逃げて、生き延びろ。それが、お前が託された願いだろうよ」
語気を強めてそう一喝。
自由になって欲しい。
その願いを受け取ったのは俺ではなく45だ。
彼女が生き残らなくては、意味が無い。
託した意味も、死んだ意味も……
「…………死なないでね、リオン」
「約束出来ねえけど……頑張ってみる」
あんなことがあった上だ。
自信満々で言うことは出来ない。
けれど、生きてやるという気骨は見せなくては。
絶対に45だけでも生きて帰らせる。
それさえ出来なければ、俺に価値はない。
死んだ大切な友人のためにも……
絶対に生きて、アイツを逃がす。
それが終わるまではまだ、死んでやれない。
ーー再生終了。
「……あたいが、45に……?」
あたいが見たあいつの記憶は、とても想像を絶するものだった。最初の方こそ、今のあたいたちの様に温かい光景だった。
出来損ないだと言われていたあたい達に手を差し伸べてくれる、とても優しい影。
今でも、想像は簡単に出来る。
けれど、最後の結末はとても酷い。
さらに言えば、死んでいるのはあたい自身。
あの世界のあたいは、45を自由にするために自ら望んで死んだ。わざわざ、45自身に引き金を引かせてまで。
とても、残酷な事をした。
隣の45も9も、目を伏せている。
特に45は、とても目を合わせられるような状態じゃない。
あたいを殺してしまった張本人であるわけだから。
ここにいるあたいにも、目は合わせづらいだろう。
9も9で、2人に起きた結末に言葉を失っている。
あのまま何も無く終わるはずはないと思っていたけれど、その結末はとても悲しいものであることに辛さを感じているのか。
「……蝶事件。彼が恐れる本当の理由は、40の死だったんだ……錯乱して、目の前の人間を撃ち殺しそうになるほどまで」
鉄血の人形達と離れ離れにさせられた挙句、ようやく出来た大切な友人さえ殺された。
気に入って、信用出来るような人間もいない中で、唯一心を許せた人を殺された。……当たり前だ。壊れて当然だ。
あたいだって、同じような状態で45や9が死んだら、きっと壊れてしまう。気がおかしくなってしまうから。
「あの事件をきっかけに、確か鉄血の人形も……」
「……そうね、突如として人間を襲い始めたと話していたわ」
その引き金は、誰でもないあたい。
何も知らない整備士の友人が、裏切りの原因。
つまりは自身で、その片棒を担いでいたというわけだった。
何も知らなかったとはいえ……
「あの時の錯乱も理解できるね……あんなものを、目の前で見ちゃったら……また居なくなっちゃうかも、なんて考えたら普通で居れる方がおかしいよ……」
9はとても、同情するような口振りで話した。
つまりを言えば、あの襲撃の時の錯乱はフラッシュバックだった。結論としてはそうなる。
それが一番辻褄が合う結論だから。
「……暫くは、彼に細心の注意を払おう。恐らく、対処法はそれしかない。俺たちに出来るのは、限りなく自分達が怪我をするリスクを減らすことくらいだろうからね」
今まで以上にあたいたちの破損状況や、それ以上に安全を最重要視する。変わらないあり方だけれど、その大切さを改めて再確認させられることになるとは。
あたい達は替えが効く。
けれどあいつは、それでも苦しむ。
あたい達は、あたい達しか居ないと信じてるから。
記憶も何も壊れれば、それはただの別人。
それがあいつの考え方。
「……私が……原因だったの……?」
そんな風に呟く45。
でも、あたいは直ぐにそんな訳ないと否定する。
あの映像を見ていればわかる。
45が原因などではない。
アイツは、45を責めることさえしなかった。
自分自身にも、そう言っていたじゃないか。
「……下手に考え込まないほうが良いかと。彼は、貴女を責める気は無いとあの心層内でも語っていましたから」
ありがたいフォローだ。
代理人がとても心に来てしまった45に優しく言葉をかけてくれた。本当は、あたいの役目の筈だけど……
今は、どう声をかけてあげればいいか分からない。
「……今日の所は、これ以上の結論を出せそうにないと思う。原因の解明はできたけど、これ以上どうしようも出来ないことであることも確かだと分かってしまったね」
ペルシカさんからすると、実験的には良かったと言えるが本人の心情的には良かったとは言えないだろう。
映し出されたそれは、余りに残酷すぎるものだったから。
できるのは、現状維持を持ってこれ以上悪化しないようにすることだけ。
とても、何も出来ないことに腹が立つ。
別の世界線から来たんだから、元からあたい達では何も出来ないということは知っていたはずなのに。
今のあたいにできることは……残念ながらない。
けれど、少しでも支えになれるのなら……
「……45、9。先に戻っててくれる?あたいは……少しだけあいつの様子を見てるから」
その言葉に何も語らず、少しだけ頷いて2人はその場を後にした。眠りの浅くなりつつあるこの男の手を優しく取る。
あんたは、色々背負いすぎーー
「ごめんね、いつも、別の何処かでも、こんなに良くしてくれてたのに……気づいてあげられなかった」
あたいらしくない。
けれど、どうしても謝りたくなった。
あたいが、あいつの傷の一因になってたんだから。
「でも安心して。今度こそ、絶対に死なないから。あんたはあたいが守るし、あたいはあんたが守ってくれるでしょ?逃げられない運命なんて、今度はないんだから」
見ている指揮官は真剣な目で頷く。
あたいが今までで見た事がないくらいまで。
代理人やペルシカさんも。
暗いながらも、確かに真剣で。
「我々鉄血も最大限に助力しましょう。この状況と彼の仕事ぶりに免じて、ですが」
嫌々に聞こえるが、そんなことは無い。
きっと、立場上そう言わざるを得ないだけで。
必ず繰り返させないという意志を感じて。
同じ仲間を死なせない為に、人間と人形の絆の為に。
「大丈夫。彼の修復技術は誇れる。彼さえマトモであれば、そうそう壊れることは無いよ。……死にかけでも、お構い無しに直そうとすると聞いているからね、あれは」
全くもって、その通りだ。
あの姿を見て、そう思わないものはいないだろう。
だから、この基地は生存率がトップクラスで高い。
周りの基地にも知れ渡っているらしい。
あの基地には、人形専門の名医がいると。
全く笑ってしまう。
自分が一番不安定なくせに。
あたいたちも、もっと頼って欲しい。
信頼して欲しいのに。
そんなことを言っても、すぐに変わる訳でもない。
だから、ゆっくり変えていこう。
ゆっくり落ち着けていこう。
「……あたい、リオンを部屋に運ぶね。そのまま部屋に戻っちゃうから」
「分かったよ。とりあえず、ゆっくり休むことを優先にね」
あの光景とは逆。
あいつを抱えて、あたいは部屋に戻る。
……とても、眠気が……
ようやく部屋に着いた頃には、意識が持たない。
……バッテリーではないのに。
とても、眠くーー
・まさかの少戦待機中の投稿。筆者は馬鹿なのかもしれない。
・心層潜航のストーリーは原作の深層映写を元にしていますが、かなり展開が違うと思われます。お気をつけください(遅い)
・次の話はーー[削除されています]
・そろそろ奇襲時の指揮官視点の話も書かなきゃ……
次回もご覧下さいね!