鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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心傷潜航EX:夢想 -unknown data-

銃声が鳴り響いた後。

 

 

 

 

『45、40!無事か!無事だろうな!?』

 

 

 

 

2人だけの場所に、大声で入ってくる人影。

もちろん、誰かわかっている。

見るや否や、亡骸に駆け寄る男の姿。

 

 

 

……来ないで欲しかった。

こんな無惨な姿は、見られたくない。

裏切ってしまった姿を、見て欲しくなかった。

あたいは、あんたにとても迷惑をかけてしまったから。

だから、あたいや45を心配してきてしまうと知っていたはずなのに。あたいはそのことを失念してた。

 

 

 

ずっと前から変なやつだと思ってた。

放っておいて欲しいと言っておきながら……

何れ使い捨てられると知っていながら、あんたの優しさに甘えてた。本当なら、そこで突っぱねておくべきだった。

 

 

 

あんたのーーリオンのためにも。

情を持てば、最後の別れがとても辛くなる。

あたいも、あいつも。

だから、関わるべきじゃなかったはずなのに。

 

 

 

優しい人間だと気づいた時から、離れておくべきだった。

周りのヤツなんて、あたい達を道具としか思ってない。

だから、なんとも思わなかった。

イライラするだけで、ただそれだけ。

自分の存在意義に疑問を持つことはある。

だけど、あんな奴らと離れられるのなら……

そんな風に思ったこともあった。

 

 

でも、あいつだけは違った。

馬鹿みたいに夢見がちだけど、理にかなったことは言えるし、しっかりとした理由もつけてあたい達を庇ってくれた。

理由を聞けばいつも、前向きな言葉ばかり。

あたい達を、人間と勘違いしてた。

 

 

 

でも、あたい達はそれが嬉しかった。

 

 

 

 

おびただしく流れる人工の血液。

1度撃ち抜かれた傷は、本当なら直せる。

あたい達は、道具だから。

あたい達は、機械だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……嘘だろ、40……待ってろ、今治してやる……!なぁ、おい頼む、返事をしてくれよ……!』

 

 

 

 

 

 

 

本当ならそのはずだった。

でも、あたいに換えはない。

残されるのは、あたいが失敗した時の保険だけ。

あたいの大切な、たった1人の妹だけ。

 

 

 

あの子はあたいの保険だって分かってた。

あたいが任務を達成できなければ……

あいつらは代わりに彼女を使う。

そうなったら、あたいの計画がばれてしまう。

だから、2人を騙してまであたいは任務を達成した。

彼女の運命まで、あいつらに弄ばせるわけにはいかない。

 

 

 

もう物も言えないあたいを抱えて、必死に叫ぶ。

そんなことをしたって無駄なのに。

あたいはもう治らないって分からないやつじゃない。

それなのに、ずっと治療しようと必死になってる。

 

諦めが悪いんだ。

それこそ、あたいが知っているはずじゃないか。

どんな状態になろうが、あたい達に諦めないように語っていたのはあいつだ。そんなやつが、簡単にやめるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!』

 

 

 

響く悲鳴。

あいつのこんな声、あたいは初めて聞いた。

いつも何もなさげに笑って、腹が立つくらい平然として。

どんな苦痛だろうが、何も言わなかったあいつが。

 

 

 

初めて、あたい達の前で泣いた。

情けない声を上げてまで。

そこまで、あまりに残酷なことだったんだろう。

あいつにとって、あたい達はそれほど大切にされてたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『何でだ、何でだよ45!教えてくれ、何で撃っちまったんだ……!あいつを撃つなんてそれほどの理由があるんだろ?なぁ、願むよ……教えてくれ……何で、あいつが死ななきゃならなかったんだよ……』

 

 

 

思い切り45を揺さぶるリオン。

そんなに襲い掛かるような気迫を出さないであげてと言いたかったけど、この口はもう動かない。

あいつの言葉と気持ちは分からなくもない。

いいや、あたいが死ななければならなかった理由はあたい自身が聞きたい。

 

 

 

でも、それだけの理由はあった。

あたいが、その理由だから。

あたいが死ねば、45は自由になる。

あたいが死ねば、45の指揮権限を移すことは出来ないから。

あたいの死とともに、自由を渡せた。

 

自分を自由にすることはできなかったけど……

少なくとも、妹のことは自由にしてやれた。

 

 

 

その代わり、大切な妹に深い心の傷を負わせてしまった。

あたいの独善だってわかってる。

けど、何も出来ないまま死ぬよりはマシ。

残酷なことをしてしまったと未だに思う。

だけど、後悔はしてない。

 

 

 

……本当に、予想外だった。

あたいのような人形にさえ、あそこまで取り乱すなんて。

嬉しい反面、とても辛かった。

そんな人を裏切って、あたいは妹まで傷つけた。

後悔してないって自分に言い聞かせても、未だに。

 

 

 

 

 

 

 

『裏切り者は、私達。……私達のどちらかが死ななければ、両方とも死ぬだけ。良いように使われて、そのまま棄てられる……だから、40は私に選択を迫ったの……40を、殺すことを』

 

 

 

そう。

あたいが死ななければ、45も利用されて棄てられるだけ。

だから、あたいのやった事は間違いなんかじゃない。

45のやった事も、間違いなどではない。

 

 

 

けれど、今でも苦しさは残っている。

大切な妹に、あたいを撃たせてしまった事を。

とても、残酷な事をした。

けれど、そうでもしなければ救えなかった。

あたいは、あたいなりの方法で助けたかったから。

あたいの導き出した答えは、そういうこと。

 

 

 

大切な妹を利用されるくらいなら、死んだ方がいい。

それが姉の気持ち。

 

 

 

 

 

 

 

『私も、言われてようやく知ったの……私が、代わりになるはずだった人形だって……自由になれって、40が……!』

 

 

 

 

 

そうよ。

45を自由にする為に、あたいは死んだ。

それがあたいの願いだったから。

あたいの代わりに大切な妹を使わせて、結局どちらも捨てるなんて胸糞悪すぎる。

だから、あたいからのささやかな反抗。

 

 

 

45の純粋さは、いつか自分を死に至らしめてしまう。

それを恐れたあたいは、嘘をついてしまった。

45を決心させるため……

あたいたちのどちらか一人が助かるなんて嘘。

最初からいなくなるのはあたいだって決まっていた。

そう、あたいだけ。

 

 

 

 

それが、この真相。

UMP40という戦術人形が死んだことの真実。

 

 

 

あいつには教えなかった。

教えてしまえば、全て水の泡。

教えれば、もしかしたら助かったかもしれないけど……

教える前に、あたいは死んだから。

あたいには、分の悪い賭けをする勇気はなかった。

だから、黙ったまま。

より確実に45を自由にできる手を取った。

きっと、もしもまたあたいが目の前に現れたら、あいつは怒るんだろうな。

 

 

 

なんで教えてくれなかったって。

なんで助けを求めなかったんだって。

あいつはそういう奴だって学んだから。

でも、少し学ぶのが遅かった。

誰も頼れないという意識が根付いて、最後まで言えなかった。

あいつは、頼らなきゃすぐに怒るから。

人の苦悩も考えないで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……俺は……気づいてやれなかった……』

 

『……え……?』

 

 

 

小声であいつは呟いた。

勿論、訳の分からない45は当然の反応をする。

あいつは後悔するように、懺悔するように呟いた。

 

 

 

 

 

 

『あたいを忘れないで、って、アイツは……最後の日に俺に言ったんだ……何の事だか全く分からなかった、どういう意味かさえも分からなかった』

 

 

 

 

 

あたいが、つい口にしてしまった言葉。

弱音を吐いちゃいけないと知っていながら、最後の最後にようやく口にする勇気が出たからと言って……

あたいは、中途半端な言葉を出したんだ。

 

助けて欲しいという懇願じゃなくて。

放って置いて欲しいという嘘の拒絶でもない。

忘れないで欲しいという、ほんの少しの願望だけしか口に出来なかった。

 

 

 

あたいはもう、諦めていた。

死の運命を避けることなどできないって。

でも、最後の最後であたいは日和った。

死にたくない。

2人と一緒にまだ生きたいって。

 

でも、助かることは無い。

でも、助かりたい。

だから、中途半端になったのかもしれない。

その一言が、あいつの心に穴を開けるなんて思わなかった。

 

 

 

 

 

 

『俺は、ずっとお前の苦痛を、お前の悲鳴を聞いていたはずだろ……!それなのに俺は何もしてやれなかった!お前にも、何一つさえもだ!』

 

 

 

 

 

違う。

あんたは、あたいにも45にも、色々してくれた。

面倒だって見てくれた。

庇ってもくれた。

暇だと騒いだら一緒に遊んでくれた。

悩んでいる時は一緒に悩んでくれた。

 

あたい達は、人間じゃないのに。

あんたはまるであたい達と友達のように接してくれた。

それにはどれだけの苦労があるかも、あたい達は知らないのに。ずっとあんたは笑ってばかりだった。

怒られることはあったけど、苦しい顔をしたことは無かった。全部、あたい達のためにって笑ってた。

それのどこが”何も出来なかった”なのよ。

 

 

 

返しきれないほどの恩を、あたい達にくれてるじゃない。

 

 

 

本当は気づかれていたのかもしれない。

辛くて、その一言一言に淡い希望を込めていたことが。でも、気づけなくても当たり前。

あたいは何も言わなかったから。

何もなしで気付けなんて言う方が無茶だ。

 

たくさんのものを貰っておいて、そこまで文句を言うほどあたいは腐ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、お前を、アイツを……助けてやれなかった!俺が1番、お前達を守ってやれるはずだったのに……!』

 

 

 

 

 

違う。

あんたは何も悪くない。

悪いのは、あたい。

助けてって言えなかったあたい。

最後まで、信じてあげられなかったあたい。

 

 

 

もしかしたら。

奇跡を起こせるのかもしれない。

何人もの人形を、戦場で生きて返して……

様々な人形を助けてきたあんたなら。

奇跡を起こせるのかもしれないと信じきれなかったから。

 

あんたは元々鉄血だったし、それに……

秘密をそんなに軽々口にする様なやつでもないと知ってた。

なのに、あたいは信じきれなかった。

最後まで、心の何処かに諦観があった。

だから……あたいは、最後まで助けを乞えなかった。

 

 

 

あたいは、あんたに謝りたかった。

最後に一言さえ言えなかったから。

最後まで、全てを黙ったままで。

あんたへの裏切りだけは、ずっと謝りたかった。

あんなに良くしてくれて、あんなに友人だと言ってくれて。

初めてで、唯一の人間の友人。

だから、それだけはあたいの良心が痛んでた。

でも、結局最後まで謝れなかった。

 

 

 

ごめんね。

でも、あたいは……

 

 

 

 

『……40は、私に言ったの』

 

 

 

 

 

 

あたいは戦術人形。

 

たとえ死ぬことが決まっていようと、

 

戦術人形らしく、

 

最期は戦って死にたい。

 

あたいが、最後に45に言った言葉。

何も出来ないまま死ぬのだけは嫌だ。

使い潰されて捨てられるなんて……あんたも嫌だろうから。

 

 

 

 

 

 

 

『……馬鹿が……お前はいっつも俺と同じで馬鹿やる奴だと思ってたよ!だからってよ……そんな死ぬ事に格好付けるんじゃねえよ……!』

 

 

 

あたい達は、そこら辺近い存在だったのかもしれない。

あいつは、今命の危険を冒してまで助けに来てくれた。

あたいは、命を賭して45を自由にした。

お互い、自らが願うものの為なら危険も厭わない。

でも、違いはある。

 

 

 

あいつは覚悟をした上で、最も良い可能性に賭ける。

あたいは覚悟をした上で、確実な手を取る。

そう、その違いだけがあたいの命を分けたのかもしれない。

 

 

 

あたいの描いた結末は二つに一つ。

けれどどちらにせよ、あたいの結末はあんたにとって辛いもの。そのまま捨てられても、殺されても。

もうそれは、決定したことだったから。

最後にあたいが、せめてもの救いがあるようにと足掻いた結果。自業自得だといえばその通り。

なんとでも言って欲しい。

助けられる可能性に、賭けなかったから。

 

 

 

……だから、ああ言って怒ってくれることが、とても嬉しかった。

 

 

 

あたいは、あんたを信じてよかったんだって思えるから。

もちろん、後悔も掘り出される。

 

 

 

だけどそれ以上に……

 

 

 

あんたにとって、あたいは大切にされてたって思えるから。

あたいは、こんなにも幸せものだったんだって。

 

 

 

人形だって、自分のために生きることが許されてもいいって思えた。他人じゃなく、自分のために……ね。

肩身の狭い思いをしようと、周りから唾を吐きかけられようと、生きてさえいれば無意味じゃない。

それは、あんた達が教えてくれた事。

1人の妹と、1人の親友が教えてくれた大切な事。

2人が生きてくれてこそ、あたいが存在したことに意味が生まれるんだ。

 

 

 

あたいはあんた達に嘘ばっか言った。

自分の本心を、嘘で塗り固めて。

最後まで知られないようにしながら、隠しきれなかった。

 

 

 

本当に、ごめん。

 

 

 

来ないで欲しかったなんて言うのも嘘。

 

 

 

本当は、来て欲しかった。

最後まで、あたいを信じていて欲しかった。

だから……とても安心した。

 

 

 

ここまで嘘を吐いておいて、信用して貰えないだろうけど……

あの時の言葉は嘘じゃないから。

最後のあの言葉だけは、本当。

信じて貰えなくても仕方ない。

もうこの言葉が届くこともないけど……

 

 

 

 

 

 

さよなら、45、リオン。

2人があたいを覚えていてくれたら……

それだけで、あたいは幸せだよ……

 

 

 

 

 

 

ーーあたいは、いつでもすぐそばに居るから。

 

 

 

 

 


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