鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ 作:葉桜さん
ーーあたいを、忘れないでね。
ーーーーあたいはいつでも、すぐそばに居るから。
「……ぁ……?」
あの強制的な眠りの後。
数日間の強制的な休暇を取らされた。
クラウスは特に忙しくないと言っておきながら、今まで以上の量の書類をこなしていた。
手持ち無沙汰だと代理人の所などに行っても仕事は無いと言う。その割には、とても基地内が忙しなく見えてた。
普段は表立った仕事をしない404小隊の皆も、何故か最近は基地の中を右往左往。
そう、なんだかとても落ち着かなかった。
いつもと違う、少し暗めな雰囲気に。
……理由は分かっている。
彼らは、俺の記憶を覗き見た。
あれほど拒否した筈なのに、指揮官権限で強制的な開示をさせられたようだ。
名目上はペルシカの技術応用試験。
本命は、俺の”蝶事件”に関する記憶。
あれ程見るな、と言ったが結局知られてしまった。
皆、後悔していなければいいが。
俺の記憶はいつも悪夢として出てくるほど酷いものだ。
そんな物を見せないようにはしていたが、結果として見せざるを得ないような状況にしてしまったのは俺だ。
正直、謝りづらい。
申し訳ないという気持ちはあるが……
しかし、良いこともあった。
不思議な声と、陽の光に照らされて目が覚める。
いつもの悪夢じゃない。
同じ夢の筈なのに、目覚めは悪くない。
同じ悪夢が、変わったような気がした。
いつも、あいつの遺言が最後に来る。
忘れないでという望みが。
覚えていて欲しいという願いが。
でも、今日は違う。
夢の中のあいつは、意味ありげな言葉を呟いた。
その言葉の意味は分からない。
……でも、その言葉のおかげなのだろうか。
とても、悪夢を見たという感覚が薄い気がした。
いや、苦しんでいたのは間違いないはずだ。
涙の跡が、それを物語っている。
「……起きた?」
「なんでまたしれっと居るんだよ……」
すぐそこに、友人の姿がある。
最近、こいつはよく俺の部屋に来る。
心配しているのか、暇なのかは分からない。
あいつの顔は覗き込むように、俺の顔の真上にかかる。
その髪が、まるでカーテンみたいに見えてしまう。
新手のイタズラみたいで、なんだか笑ってしまった。
「なんだか今日は寝起きが良さそうね?」
「……不思議とな。変なモーニングコールのお陰で、誤魔化しが聞いてるよ」
俺でも、こんな軽口が叩けるまでに戻ったのかと驚いた。
最近はこんなことを言おうという思考さえ無くなっていたのに。……それ程、俺も回復傾向にあるということか。
でも、あいつはそれが気に入らなかったらしい。
む、と顔をふくらませてそっぽを向いてしまった。
「せっかく人が心配してるのに」
「悪い悪い……なかなかモーニングコールなんて受けたことないもんだからな」
ずっと、起こされるよりも前に悪夢で起きてしまっていた。
誰かに起こされるなんて何時ぶりだろうか。
ついつい、むず痒くて笑ってしまう。
昔でも無かったような光景に、幸せも覚えて。
なんだか、本当に古い友人のような感覚だ。
間違いではないような気もするが、でも不思議な。
それこそ、以前のあいつと話していた時と同じような気がした。
「あっ、そうだ!忘れるところだった!」
そう言うと40はごそごそと何かを近くにある袋から取り出した。
大して大きくもない、手頃な箱。
しかし、丁寧に包装されたプレゼント。
大きなものでないことはわかる。
何を渡そうとしているのかは全く分からない。
「これ、リオンに渡そうと思って」
ありがとう、と受け取る。
なんだか、丁寧にラッピングされていると剥がしづらい。
持ってみれば大きさほどの重量はない。
けれど、開けてと急かす40に押されて、渋々その箱を開ける。
その蓋を取ってみれば……
「……!お前、これを何処で……!」
その贈り物の中に入っていたのは懐かしいもの。
蝶事件の当時、俺が付けていたヘアバンド。
タイプもデザインも、何もかも同じだ。
あの時から、何も変わっていない。
だが、ここにも同じものがあったとは思わなかった。
だってあれは、だいぶ前に買ったものだ。
俺が鉄血工造に入る前のものだったはず。
とても懐かしい。
しばらく見たくないと思ってはいたが……
見ることになるのが、まさか死んだ友人と全く同じ様な相手からだとは思わなかった。
まるで、偶然とは思えない。
「これ、なかなか見つからないから探すの大変だったのよ……でも、喜んでくれてるみたいで何よりね!」
わざわざ遠くまで探しに行っていたらしい。
そもそも、記憶で俺の姿を見たとはいえここまで全く同じものを直ぐに特定できるものなのだろうか……
40の行動力には脱帽した。
お礼を言おうと、口を開こうとした時だ。
「……あたい、不思議なことがあったんだ」
ポツリ、ポツリと口を開き始める。
いつもの元気で活発な声とは全く違う。
とても穏やかで、とても静かに語る。
「戦術人形であるはずのあたいが……夢を見たんだ。誰かに撃たれて、誰かに泣き付かれて……あたいと瓜二つの人と、一緒にその光景を他人事のように見てた」
本来、戦術人形は夢を見ない。
人間に近い思考であり、それがほぼほぼ差異の無いものだったとしても……結局は、0と1の組み合わせ。
信号が全て0になれば、無意識というのもシャットダウンされる。けれど、あいつはその無意識に入れた。
おかしな話だ。
その夢の内容もよく分からない。
瓜二つの人物と、凄惨な光景を他人事のように見ていた。
彼女が言うには、手を出そうとしても出せなかったらしい。
まるで、スクリーンに映し出されたものを見ているようだったとも語っている。
……とても、混乱しそうな話だ。
40は続けて話す。
「……これは、その人が返しそびれたものなんだって。何となく、その持ち主の察しがついた。だから今のうちに返そうと思ったの」
「変わってんな。夢の中の借りまで返そうだなんて」
でも、悪い気はしなかった。
とても不思議な気分だ。
今目の前にいるのは別の人形の筈なのに、いなくなった友人から貸していたものを返されたような気分だ。
ほとんど本人と言っても差し支えないが、過去に共に過ごしたUMP40は、既にあの時死んだ。
死んだものが、再び蘇るなどありえないのだから。
付けて付けて、とまた40が急かしてくる。
渋々、そのヘアバンドを自分の頭につける。
……偶然だろうか。
髪の長さに気を使ったことは無いが、不思議とあの時と同じような髪型になっている。
それよりも、少し伸びているかもしれないが。
「なんだか、見てると懐かしい気分ね……その姿、1度も見た事がないはずなのに……なんだか不思議。すごい似合ってる。本当に、1度現実で見たような感覚がする……」
なんだか、とても擽ったい。
懐かしい、その言葉に揺さぶられた。
ここの40は、そんな姿を1度も見た事がない。
そう、記憶の中で無ければ。
なのに、なぜ……
違う。
きっと、自分でも予想はついているはずだ。
でも、有り得ない。
有り得るわけがない。
あたいを、忘れないでね。
あたいはいつでも、すぐそこにいるから。
欠片の言葉が繋がって、漸く分かった。
その言葉を意味を分かった。
あいつはいつだって、すぐそこで見てくれてた。
死んだって、ずっと傍にいた。
しかも、不思議なことに……
本当に、すぐ近くに姿を現してまで。
知っている。
知っている筈だ。
死んだ者は、二度と帰って来ないなど。
自分で何度も、何度も。
忘れないように語りかけていたはずだ。
「……分かってる。お前が俺の知っているUMP40じゃないってことぐらい……」
でも、それでも。
奇跡があるのなら。
信じさせて欲しい。
「お久しぶり……なーんてね。あたいは、過去にいなくなった人じゃないから」
「……この野郎……冗談みたいに人の心を弄びやがって……!存分にいじり回してからその頭ん中見てやる!」
「わぷっ……ちょ、ちょっと!乱暴だよ!待って、頭くしゃくしゃになっちゃう!」
言葉とは裏腹に笑って、いつもの様に構ってやる。
あの時のように、今のように。
文句が飛んできているが、そんなこと関係ない。
引き寄せて頭をがしがしとする。
それは家族と言うより、悪友と呼べるような接し方で。
こうでもしないと、本気で泣いてしまう。
俺は案外、涙脆いのかもしれない。
強がってばかりで、本当はきっと弱い。
1番頼っていたのは、間違いなく俺だろう。
だから……本当に、戻ってきてくれたことが、これほどないまでの救いだ。
「本当にお前って奴は……!もしもあの時の記憶がまるまる入ってやがったら説教してやるからな……!本当、に……」
最後まで言葉が出ない。
せめて、戻ってきたならしっかりとしたところを見せようと思ったのに。
どうしてかそんな文句も途切れた。
何も言えない。
何も出てこない。
やっぱり、耐えられない。
こんなの、無理だ。
気づけば、あいつに縋った。
容量を超えたカップから水が溢れるように……
1度緩んだ涙腺からは涙が止まらなかった。
「……俺も一回死んで、知らない場所に来て。そんな所にまで、死んだはずの友人が追ってくるなんて。普通じゃありえないだろ……?……でも、何故か……何でか、帰ってきたような感覚がするんだよ……」
メンタルもメモリも、全部跡形なく消えた筈なのに。
何故か、目の前にいるやつは全てを覚えてる。
寸分違わず、姿も同じで。
そんな零した言葉に、あいつは返した。
「あたいは変わりになれないと思うけどさ……でも、夢の中で教えて貰ったの。もしかしたら、このあたいも同じ結末を巡ったのかもしれない。……だから、生き残れなかった”あたい”の代わりに、伝えて欲しいって」
おかしい。
信じられなくて当然だ。
でも……目の前にあるのは、事実だけ。
「”あたい”を忘れないでくれてありがとう、リオン。これからも、”あたい”はあんたの側に居る。あんたの友達であり続けるよ……わざわざ、あたいなんかのために泣いてくれたあんたに、もっと報いたいから……帰って来れはしなかったけどね、それでもあんたは、きっと信じてくれてたんでしょ……?なら、あたいはそれで十分だよ……」
その言葉が、押しとどめていた理性にトドメを刺した。
「馬鹿!馬鹿野郎!ほんッとうに馬鹿がよォ!何が忘れないでくれてありがとうだよ!忘れられる訳あるかよ!いっつもいつも楽しかった時間を寄越しやがったのは何処のどいつだ!忘れられない程平和だった時間を作ったのは何処の誰だ……!答えてみろよ……忘れるわけ、無いだろ……いくら死んだってわかってても……帰ってきて欲しいってどこかで思ってるに決まってるだろうが……」
溢れ出す言葉は止まらない。
責めるようにも聞こえる強い語気。
当たり前だ。
忘れさせないようにしたのは何処の誰だ。
覚えていて欲しいと言ったのは誰だ。
全部お前だ。
お前が、忘れないでと言ったんだろうが。
だからしっかり覚えてた。
いつかきっとあの時のまま帰ってきてくれると馬鹿みたいに幼い心で信じ続けていた。
いつかお前を治すために、ずっと探し続けた。
この役目をずっと続けた。
いつか帰って来れるように。
いつか帰ってきた時、忘れてないぞと言うために。
……諦めておくべきはずだったのに。
どうしてお前は、それを後悔させてくれないんだ。
死んで尚、どうして俺に希望を持たせてしまうんだ。
「……本当に、お前に振り回されてばかりだよ……」
そんな震えた声が、ただ響いた。
静かに、その顔を見られないようにしながら。
こんな場所じゃ、雨が降ってるだけなんて言い訳は通らない。
室内に雨なんて降らないんだから。
いい誤魔化し方が分からない。
目薬をしれっと差した?
そんな隙はなかった。
欠伸をした?
こんな話をしていてそんな余裕はない。
唾が飛んだ?
無理がありすぎる。
どうやったって、顔を見られればわかってしまう。
だから、せめて伏せさせて欲しい。
コイツの前では、せめてしっかりとしていたい。
あの時は、助けられなかったから。
今はもう、強くなったと伝えたいから。
……でも、やっぱりダメそうだ。
その後、UMP40の臨時メンテナンスが入った。
UMP40のプロトコルに、鉄血製人形にしか搭載されていないオーガスプロトコルの存在が確認された。
ペルシカに連絡したり、技術班に聞いたりしてみたが、この世界の40には元々搭載されていなかったと言う。
……これもまた、不思議な話だ。
しかし、この世界線では悪用されることがない。
安心はしている。
これが何を意味しているのか、俺には分からない。
……でも、ほんの少しだけ感覚で理解出来た気がする。
そして……
記憶媒体の中に、確かに見覚えのないデータ。
その内容は、俺たちしか知らない。
俺達しか証明出来ない、大切なもの。
あの奥底の記憶に残るデータ。
死の真相、傷の元凶。
けれど、俺の中に確かに残る、幸せな記憶。
忘れてしまいたかったけれど、忘れては行けない。
そんな記憶が仕舞い込まれたファイル。
削除もロックもせず、そのまま。
何よりも、UMP40がそれを望んだから。
何時か、何処かで辿った同じ自分の記憶。
それを忘れないために。
次こそ、同じ結末を迎えないために。
UMP40と、リオン・アッシュフィールドの話。
今度は平和に終わらせると心に誓って。
「ねえねえ、全てを思い出した新生UMP40のお祝いってことでなんかちょうだい!」
「なんかってなんだよ、またこれでもくれてやろうか?」
「それは昔にひっぺがしてとったでしょ!それに返したものを突き返すの?」
「冗談だよ」
「ありがとな、40」
・これにて、心傷潜航編は終わりになります。
書いてて思いましたが、もしかしてシリアスが下手なのでは……?と思ってしまいました。
でも楽しくかけたのでOKです。
・かなり前から達成していましたが、UA30000越え、お気に入り数300件越えいたしました!描き始めた当初だと全然予想もしなかった多さに未だにびっくりしています。
不定期更新ですが、これからも見ていただけると嬉しいです!
・次回からまた日常へ。
しばらくシリアスは時間が空くと思うので平和な時間をお楽しみください!