鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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理論展開

 

 

「初めまして、異邦の技術屋さん」

 

 

 

最期に謝罪の言葉を送った相手。

グリフィンの部隊を指揮する優秀な人物。

あのAR部隊も、彼が指揮していた。

そう、よく知っている指揮官(あいつ)だ。

 

 

「……お前……!」

「その口ぶりからするに、やっぱり俺の事も分かるみたいだね。……肝心の俺は、例に漏れず君のことがわからないけれどね」

 

 

話し方も、見た目も何も変わっていない。

間違いない。自分が知っている指揮官と同じだ。

一番最初は先輩面をかましていた気がする。

だが、話すにつれて気のいい仲間に変わった友人。

俺の数少ない、普通の人間の友人。

何となく分かってはいたが、やはり自分がイレギュラーのようだ。この考えに至るのも何回目だろうか。

未だに納得が行っていない証拠だ。

 

 

「……まぁ、そうだよな」

 

「そう落ち込まないでくれ。今日はこんな悪い話をするためだけに来た訳じゃないからね」

 

 

落胆する彼を見かねて少しばかりのフォローを入れる。

そういう気遣いができる当たりは、やはり変わっていないと彼は思う。故に良い指揮官だった。

AR小隊のメンバーだけでない、グリフィン内の人形達には非常に人気だった。それこそ、少し妬いてしまう位には。

M4が指揮官に近づいて何かを話し始める。

AR-15は時間を確認し始め、M16とSOPは先に行っているといい外へ出て行ってしまった。

 

話し終わった指揮官が改めて此方を向く。

 

 

「とりあえず、ここで大事な話をするのも何だから……ちょっと着いてきて。ある所に行くからさ」

 

 

もちろん、君を助けたスケアクロウちゃんもね。と一言付け足して。話し方からするに、彼が倒れていた問題についてを追及するつもりだろう。

行き先が刑務所だけは勘弁してくれよとぼやきながら、スケアクロウを手招きして行こう、と外へ出る。

 

 

 

 

 

 

何とか未だに自力だけでは立てない体を支えながら久々に外の空気を吸う。ついさっきの比喩ではないが、久しぶりに娑婆の空気を吸ったようだった。

外には大きな車が止めてあり、乗ってと指揮官が親指で後ろを指す。遠慮なくドアを開けて、車両に乗り込んだ。

さすがに1小隊分を運んだ挙句プラスで2人乗り込むのだ、小さい車両ではスペースが足りないからか、ある程度の大きさを持った車で来たらしい。所謂、ミニバンというやつだろう。

 

 

 

「悪いね、本当はもう少ししっかりしたものを持ってくるべきだと思ったんだが、市街地で物騒な車を乗りまわすわけにも行かなくてさ」

 

 

 

そうやって軽く謝る指揮官。

せっかく足まで用意してくれたのだ、感謝はすれどそこを悪く言える立場ではない。

助手席にはM4が、中間の列にM16、AR-15、SOPが座っている。最後列ではRO635とスケアクロウに挟まれる形で彼……リオンが座っていた。挟まれる形というのはどうにも落ち着かない。

 

 

 

指揮官は未だ生きているラジオの音楽に合わせて鼻歌を歌いながら運転をしている。助手席のM4はそれを微笑ましそうに見ていた。周りに暖かい空気が漂っている気がした。

M16とSOPは暖かい空気に充てられたか、車の中だというのに眠ってしまっていた。

寄りかかられているAR-15はやれやれと言いたそうだったが、何も言わずにそっとしてあげているようだ。

 

 

 

前のメンバーはこの前と変わりがないどころか、むしろ良い方向で変わっていた。

あの時は殺伐としていたからか、今のように平和的で暖かな雰囲気など微塵もなかった。

そんなはずなのに、ここではこんなに穏やかであることが、少し嬉しく感じていた。

元々は鉄血側の人間で、IOP社とは対立していたはずなのだが。そんなことがどうでもよく思えた。

 

 

 

ROは彼に関する資料を確認している。はたから見たら本当に真面目な子なのだなと彼は感心していた。もう片やスケアクロウは上の空で、車の窓越しに見える景色を見つめていた。時々話しかけられては、普通に会話を楽しんでいる。そんな中彼は当事者ということもあり、ずっと考えふけっていた。

 

 

 

「あの、リオンさん。こちらのことに関してなのですが……」

 

 

 

RO635が話しかけてきた。

何だと軽く返事をしたあと、彼女が指を指していた場所を見る。 そこには『記憶と事実・史実の差異について』と書かれていた。そうか、彼女は知らなかったんだなと思い出す。

彼女にも、皆に話した内容を伝えた。

また、その記憶の中に彼女が入っていなかったという内容もつけ加えて。

 

 

 

「その当初、私がいなかったのか……それとも、元々製造される予定もなかったのでしょうか?」

 

「あー、悪いがそこら辺については俺も分からない。グリフィンにはI.O.Pの研究員としてではなく、あくまで現地の修理者的な感覚で雇われたんでね」

 

 

 

どういうことか分からなさそうにするROと、同じように聞いていたAR-15。M4と指揮官もその事について興味がありげに聞き耳を立てているのがバックミラー越しに見えた。

これはあとから説明するつもりだったのだが、まぁここで説明しても構わないだろうと話を始めた。

 

 

 

彼がグリフィンに入社できた理由から、鉄血を追われた理由まで。元々の発端は、彼が偶然負傷していたグリフィンの人形に対して応急処置を施したことだったらしい。

幸い、人形の整備技術や修理技術はあったためにその場で出来ることは難なくやってのけたそうだ。

しかし、本格的な治療はできないために何とかして救助を要請、グリフィンの支援部隊が何とかその人形を回収した……。

だがグリフィンの提携している相手は鉄血の競争相手、IOP社だった故に鉄血の機密を漏らしたという虚偽の報告を流され鉄血を追われたということだった。

 

 

 

その後、その救助の実績があったからかクルーガー直々にヘッドハントされることになった。

現地に赴き、傷付いた人形をいち早く助ける救助部隊の指揮官、及び治療の技術者として。

そのため、鉄血に居た頃とは違い他の人形の製造予定などは全く分からなかった。

故にその時に製造されていなかったRO635の存在を彼が知らなかった訳だ。

 

 

 

「そんな人形の医者が、今は逆に助けられちゃってまぁ……」

 

「正直、俺も死んでるもんだとばかり思ってたよ」

 

 

 

溜息をつきながら答えた。

聞いていたM4はすごい……と驚きを隠せない様子で少し可愛かった。AR-15も確かに驚いてはいたが、それ以上にリスクがないかどうか不安になっていた。

ROも同じ様な感じで、生身の人間が戦場に出ることの危険性を考えて本当にそんな所があったのかと疑問に思っていた。

まぁ、危ないことなんて分かりきった上だが。

 

 

 

「……にしても、記憶を保持したままとはいえその記憶は事実と違ってるか……同じ光景、同じ人物、同じ人形……見えるものは全く同じの筈なのに、中身は全然違うって言うのは辛いよね」

 

「そりゃあな……一方的に覚えているだけって言うのは1番辛ぇよ」

 

 

 

当たり前だ。

忘れた側は何も覚えていないが故に、それが何だったかさえわからない。それを覚えていたことさえも忘れるのだから。

取り残された方は、喪失感に苛まれるのも当たり前だ。

また少し、彼の顔が曇った。

そんな中、指揮官がとんでもないことを口走り始めた。

 

 

 

「いやさ、俺思うんだ……君はもしかして、”別の世界線”から来た人じゃないかなって」

 

 

 

M4はうーんと唸っている。

ROはその意味は分かるが、そんなことが実際に起きるわけがないと口にした。どういう意味か。

そういう風に聞きたくなるような発言だったのだ。

リオンは全く理解ができていない。

 

 

 

つまり、どういうことだ?

そう問いかけた。

 

 

 

「並行世界理論……所謂、パラレルワールドってやつさ。で、君が死んだ事をトリガーにこっちの方へ飛んできたっていう考えでね」

 

 

彼が言うには、世界がその歴史を辿る中で幾千幾万……いや、それ以上の分岐点での選択を我々は迫られてきた。分岐点によって枝分かれした1つの世界がこの歴史を辿った今の世界だとするならば、その選択の際に別の選択肢を選んだ時の世界も果たしてあるのではないか……という考えの理論らしい。

 

 

 

彼に置き換えて1番わかりやすい分岐点を彼は挙げて見せた。

 

 

『蝶事件』だ。

 

 

リオンの中の記憶では”『蝶事件』が起こった”という歴史の元、グリフィンと鉄血の対立構造が生まれた。

しかしこちら側の歴史では”『蝶事件』が起こらず”、逆にグリフィンと鉄血が友好関係になった。

 

 

 

これはあくまで大きく切り分けた例えであり、さらに突き詰めていくなら枝分かれした世界は倍以上……いや、それこそ自分たちが認知できない程の数に登るだろうと説明された。

 

 

 

つまり、指揮官が考えるに彼らにとってのパラレルワールドから次元転移……それこそリオンの死を引き金にして彼がこの世界線へ飛んで来たということだ。

 

 

 

「確かに、それなら記憶と史実が違っていたとしてもおかしくは無い……ですが、そんな事が有り得るのですか」

 

「並行世界理論……更にそこへ飛んできたとなれば基本的に証明はできません……跳躍した本人でさえその事を理解できない以上、それを裏づける確証がありませんから」

 

 

 

つい先程まで窓の外を見ていたスケアクロウも聞いていたらしい。いや、同じ車内だから聞いていて当然なのだが。

だが、彼女の言うことは最もだ。

AR-15も言ったように、これはあくまで机上の空論のようなもの。跳躍が成立したと言えど、それを証明できるものは何も無い。故にこれがただの理論や空想だと呼ばれる所以だ。

 

 

 

「……まぁ、あくまで可能性の1つだからさ。でも有り得るのならこれくらいしかないと思ってね」

 

 

 

言ってみただけと言う雰囲気を出す指揮官。

その笑い方には見覚えがあった。

何時もそうだ。その笑い方をする時は決まって何かある。何を企んでいるかはわからないが、指揮官の性格が彼の記憶と同じならば……。

リオンは何も言うことは無かった。

 

 

 

「……AR-15、M16姉貴とSOPちゃんを起こしてくれる?そろそろ着くからさ。あとROはその資料を少し整理してくれるとありがたいかな」

 

 

 

2人の人形は指揮官の指示に従い動き始める。

片や自分によりかかって眠る2人を優しく起こそうとしている。

片方は狸寝入り、もう片方は寝ぼけて抱きついている。

M4に助けを求めるような視線を送るが、残念ながら助手席のM4にはどうすることも出来なかった。

どこかの案山子さんにも見習って欲しいなと思いながらジト目で彼女の方を向いた。

当の本人は私に覚えはありませんとそっぽを向いている。

今度何かイタズラし返してやろうかと内心毒づいた。

 

 

 

もう片や調べていた資料を自分で分析し、優先度の高いものから見やすいように整理をしている。

よく考えたら自分は整理などは非常に苦手だった。……副官やら、時々来てくれる奴らにやって貰っていてばかりだったなと思い返しては、少し罪悪感が芽生えた。

彼は言わば被疑者のようなものだから協力しようと思ってもすることが出来ない。

 

 

 

やがて何とかAR-15は2人を起こせたらしい。

RO635も資料をまとめ終わった。

それに合わせるように回っていた車輪も動きを止めた。

 

 

「それじゃ、行こうか」

 

 

目の前に写った景色……

 

 

 

 

それは、彼の生前のお勤め先(我が家)だった。

 

 

 

 

 




・あと1話でプロローグがやっと終わります!書いている自分でも長いなぁ……と思いました。

・今回M16A1姉貴とSOPMODちゃんの出番が少なくて申し訳ありません。この2人は本編でいっぱい出す予定です。

・ついに評価バーに色が付きました!さらに赤です!さらなるお気に入り登録といい、UA数1000超えと言い、1週間も経っていないのにここまで見ていただけて感謝感激です……!

また次回も見て頂けたらと思います!
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