鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ   作:葉桜さん

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雇用契約

嘗ての職場。

と言っても、辞めて(殉職して)からそこまで時間は経っていないのだが。中は彼の記憶通りで、あまり変わった気はしない。

ただ、所々鉄血の人形の量産型が働いているのを除けば。

周りを見れば切り裂き魔(リッパー)が雑用をやっていたり、竜騎兵(ドラグーン)が二足歩行機械を活用して荷物を運んでいたりしていた。人形たちも手伝いで来ているのだろうか?

 

 

 

「そんじゃあ、こっちだ」

 

 

 

案内がされるままについて行く2人。

一週間ほど前の景色を懐かしみながら、目的地へと到着する。

M4が扉を開けようとするが、それを静止する指揮官。

自分が行くからと言わんばかりに彼女の方を向き、扉を開けた。

 

 

 

「失礼します、クルーガーさん。リオン・アッシュフィールド本人を連れて来ました」

 

 

 

そこには非常にガタイのいい男性が1人。

威圧感を感じさせる佇まいに、歴戦の気迫さえ思わせるほどの雰囲気を放っていた。

もちろん、彼はこの人物を知っている。

鉄血を追われた後、自分を拾ってくれた恩人。

 

 

 

グリフィン&クルーガー社社長、ベレゾヴィッチ・クルーガー。

 

 

 

「ご苦労、助かった」

 

 

 

目の前にいる部下たちに労いの言葉をかける。

その時の声色は、強面な面構えからは想像もつかないような柔和さだった。いや、これがクルーガーという人物だ。

彼は、拾ってもらった時からその人柄の良さを知っていた。

心無しか、自分の知っているクルーガーよりも穏やかに見えた気がした。暖かい雰囲気に自分も充てられたのだろうかと頭を掻くリオン。

 

 

 

「済まないな、本来なら私が出向くべきだったのだが……こちらも急に提携先(I.O.P)から呼び出しを受けてしまってな。しかしせっかく開けた時間を無駄にしたくはないためにこのような形を取らせていただいた」

 

 

 

まぁ、それはそれなら仕方がないよなと納得する。

元々クルーガーは真面目な人だ。

あまり理由も無しに急に予定を変えるような人物ではないことはよく分かっていると自負している。

 

 

 

クルーガーが彼を呼んだ理由は1つしかない。

 

 

 

「さて……指揮官に連れてきてもらったのは他でもない……君の記憶と、我々の記録の差異についてだ」

 

 

 

あの仕事の時の感覚を少しながら思い出す。

彼も一応は真面目な部類に入るため、いつものような軽い体制ではなく、しっかりとした直立姿勢になる。

 

 

 

グリフィン所属と言っていた自分だが、この記録が本当にないとなるならば起こる問題は山積みだ。前にも考えたが、この先がどうなるかが分からないということ……さらに言えば、グリフィン所属という事を偽装していたとしたら、まず自分は罪人扱い。

刑務所(ムショ)送りならばまだマシ、最悪は殺される。

体が強張った気がした。

 

 

 

「あー、それなんですがクルーガーさん」

 

 

 

「……ここは正式な場所。呼び方はしっかりして欲しいものだ」

 

 

 

唐突に口を開いた指揮官。

あまりに抜けた話し方にクルーガーは少し呆れながら返した。この様子では、普段もこのような感じなのだろうか?

すみませんとあまり反省していないような回答で答えたかと思いきや、その次は非常に真剣な顔付きになった。

 

 

 

「俺が考えるに、彼が嘘を付いているという雰囲気はありません。彼の過去や、グリフィンに入るまでの経緯……グリフィン内での役職等矛盾はありません。持ち物等にも、どこかのスパイと思わしきものはなし。……騙しているにしては出来すぎてます」

 

 

 

彼を擁護するかのような発言だった。

聞いた話を上手くまとめると矛盾も何も無く、代理人やスケアクロウが調べた倒れていた時の持ち物等にも怪しいものはなかったらしい。鉄血のIDカードはどうなんだ……?と正直なところ内心疑っていた。

 

 

 

「……スケアクロウ。彼の倒れていた時の状況を教えてほしい」

 

 

「分かりました。彼が倒れていた時は……」

 

 

 

スケアクロウは彼を拾い上げた時の状況を話し始める。

医務室に居た時も聞いたが、何の痕跡もない場所に1人で血を流して倒れていたらしい。その時はまだ気絶しているし、血も滴っていて倒れてからそんなに時間は経っていないようだった。

 

 

 

「医務室にて療養中も、怪しい行動は一切ありませんでした。私としては、彼が危険因子である確率は限りなく低いかと」

 

 

 

クルーガーは顎に手を当て考え込む。

何度かチラリと彼の顔を見ることもあった。

少しばかりの時間が経つと、指揮官の方へ顔を上げて言葉を発した。

 

 

 

「……やはり……君の言うことが1番近いかもしれないな」

 

「まぁ、あり得るとしたらそれくらいですから。グリフィンのIDカードのフォーマットも全く同じ、恐らくこのカードを使っても1部の所は通りますよ」

 

 

 

待て、待ってくれ。何の話をしているんだ。

そう言って混乱したかのように取り残された彼は言う。

自分たちだけで話を進められ、こちらとしては全く持って何が何だかわからない。

クルーガーが何の話をして何に対して指揮官が返しているのか。この場に理解出来ている人物はクルーガーと指揮官だけだろう。

 

 

指揮官があー、悪いとまた軽く謝り口を開いた。

 

 

 

「……俺が来てからの会話、クルーガーさんは全部聞いてた。車の中の事とかも。だから”あの理論”のことを話してたんだ」

 

 

 

は?と素っ頓狂な声を上げた。

つまり、自分は何も知らずに全てを吐いていたのか?

焦っていることも全て見え見えで、お前たちの手のひらで踊らされていたということなのか?

彼はそういう風に言いたくなった。

いや、実際は完全に踊らされているのだが。

 

 

 

「ごめんね、君が嘘を言っていないと証明するにはクルーガーさんに話を聞かせる必要があった。でも、自然に出たものじゃないと信憑性は低いでしょ?だからわざわざ盗聴させてもらったんだ。さらに言えば……盗聴だけじゃない。レコーダーによる映像記録もね」

 

 

 

自分の考えていた、つい先程の並行世界理論も含めて。

彼の狙いはこうだった。

車内等で何も伝えずに盗聴、記録を行うことで、クルーガーへの連絡の手間を省いた。

それと同時に何も知らないリオンは自らの経歴を自然に言うことによって信憑性を高め、かつ不審な行動をしないことを証明した。そして追い打ちにそこに辻褄が合う唯一の理論を用いた自分を考えを述べることによってクルーガーを納得させようとしたらしい。

 

 

 

確かに理に叶っている。

聞かれているということを伝えてしまっては挙動不審になりかねず、そうなってしまえば事実を話してしたとしても危ぶまれるのは当然だ。

さらにそれによって可能性を絞り込んでいくことにより、より並行世界転移が起こったということを信じやすくさせたのだ。

 

 

 

ついでに言えば、行動や発言からの人柄の分析も出来ないかと目論んでいたようだが。

指揮官からしたら、バックミラー越しに見える表情があまりに穏やかすぎて本当に戦場に出向くような人間だったのかと疑いたくなったらしい。話しているあいだも特に怪しい事はなく、一時的な信用には値する程だろうと判断できたとの事だった。

 

 

 

「……上記の理由より、グリフィン所属であった可能性は十分にあります。もしそう出なかったとしても、彼が敵対する勢力に属している可能性は限りなく低いと思われます」

 

 

 

「……分かった。いいだろう」

 

 

 

クルーガーの言った、『いいだろう』の意味がわからない。

何に対していいだろうと言われたのか。

あまりに周りの人物が置いて行かれすぎていて何も言えなかった。いや、詳しくいえば彼とスケアクロウだけが分かっていなかった。AR小隊の皆は何かを知っているように黙っている。

 

 

 

「リオン・アッシュフィールド」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

静寂。

重苦しくなる空気。

一瞬が一瞬に感じられない。

時間の流れが遅く感じる。

来るのだ。

自分に対する判決が。

これからを決する恐ろしい答えが。

 

 

 

「今君を連れてきた指揮官……クラウス・ヒルシュフェルトの発言により君の処遇が決まった。……君は確かにグリフィン所属だったようだ。だが、ここでは君の記録は存在しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

……初めからになってしまうが、もう一度我々と来てくれ。

リオン・アッシュフィールド。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当ですか!?」

 

 

 

目を見開いて事実を確認する。

クルーガーは本当だと厳かな雰囲気に似合わない微笑みを見せてくれた。指揮官……クラウスの方を見れば計画通りと言わんばかりのドヤ顔。AR小隊はよかったと言わんばかりの暖かい表情をこちらに向けてくれていた。

スケアクロウの方は……相変わらずガスマスクで見えづらいはずなのだが、目に見えて笑顔で拍手をくれた。

ここまでされると非常に恥ずかしくなってくる。

少し彼は赤くなりながらも笑ってみせた。

 

 

 

担当としては臨時の指揮官や救護者らしく、普段は異常を訴える人形たちの検査や整備などがメインになるらしい。元々技術者であった自分には適任だし、他にそういった仕事が出来る人材は今は少ないようだ。

 

 

 

歓喜のまま、その喜びを皆と分かちあった。

何時しか、日は落ちていてしまったが。

案内されるままに空いた部屋へと入り、すぐさま微睡みに身を任せて。今日は疲れた。

明日からは、ようやくいつも通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜を越した後。

また昨日のように朝日が目に入る。

眩しいなと思いながらも、狸寝入りに入りそうになる。

が、もう今は怪我人と言えどここの社員だ。

まだ痛む体を起こして、ベッドから立ち上がる。

 

 

 

ハンガーにかかったYシャツを手に取り、さっさとボタンを止めていく。シャツをインするのはあまり好きではないからそのままで。ネクタイはさすがにしっかりと付ける。

余り締めすぎても苦しくなるだけなのだが。

 

 

 

「一週間ぶりだ、この格好。……まぁ、しっかりした格好じゃないんだがな」

 

 

 

そんなふうにボヤきながら、そこにかかっている上着を掴んだ。普通の指揮官が着るようなものではなく、どちらかと言うと技術者が着るような作業服を指揮官の服装風にしたものだ。曰く、彼以外にも整備技術を持った指揮官が居たらしい。よってそんな特殊な服装がある。

そんな上着の袖に腕を通し、ボタンも閉めないままに身なりを整える。

 

 

 

「……さて、転勤先の初めての仕事だ。張り切って行きますか!」

 

 

 

 

 

晴れて、彼はグリフィンへと戻ってきた。

考えることもなかった、かつての仲間とともに。

 

 

 

 

 

 




ーおまけー
前回書き損ねた解説

「やっほー、やっと劇中で名前が判明した指揮官ことクラウス・ヒルシュフェルトだよ。今回は作者からの依頼でなぜリオンがRO635のことを知らなかったのかの解説をするからね」


と、言っても簡単なんだけどね。

まず、RO635がドールズフロントライン本編の時系列では何時出てくるか知ってるかな?
答えは『第七戦役』だ。
キャラクターとして使えるようになるのは第七戦役をクリアしてからだけどね。

これだけでは何故分からないのかが分からないよね。
では、もうひとつ教えなきゃ行けないことがある。
リオンが射殺された時期だね。
これは本編の前日譚に当たる『第零戦役』と、ゲーム本編開始直後の『第一戦役』。ここの中間とされているよ。

ちなみに話はズレるけど、第零戦役は恐らく2061年。でも彼が鉄血を追われたのは2060年。1年遅かったら彼も蝶事件で死んでいたかもしれないんだ……

で、本筋に戻るよ。
RO635が出てくるのは物語の中盤らへんだと思っているんだけど、それに比べてリオンが死んだのは最序盤。

つまり、パラレルワールドに飛んだ際に記憶をなくしたとかではなく、”元々会ったことがなかった”が普通に正解なんだ。

ちなみにこれと同じ理由でとある人形の記憶もないけど、まぁそこは本人が出てきてからだね。

短いし適当な解説だったけど、ご清聴ありがとうございました。

「最後に作者からのコメントだよ」

・これにてプロローグ編終了です。
早くプロローグ終わらせろの一心で書いたので非常にアラが目立つと思います……なんでこれ載せようと思ったの?(本人が困惑)

・さらなる評価、お気に入り登録、さらに初めての感想まで!もっと言えばまさかの一日でUA数が2倍の2000に跳ね上がりました!やばい、これはやばいと思いながら転げ回って頑張りますと連呼していました……(落ち着きましょう)

・前回のおまけの書き損ね申し訳ありませんでしたぁ!(焼き土下座)

・まだ本編書いてすらいないのに気が早いですが、他の方が書いていらっしゃるドルフロ小説といつかコラボとかもできたらなぁ……と目論んでおります。うちの整備者と指揮官はフリー素材の容量でも大丈夫です。事後報告でも全然構いません!(失礼な欲丸出し)


次回もお楽しみに!

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