ゴジモスギドラドン温泉   作:ムラムリ

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ギドラが生きている世界線が欲しかったのです。
主なご都合設定一覧:
・映画はそれぞれが役者として出ている
・体のサイズが人間サイズ
 自分の意志で変更出来るか、分身体を作っているかは大して決めてない。
・喋れる

後、ギドラの名前、イチ、ニ、サンとそれぞれ呼ぶのは流石に安直過ぎたので、イツ、フツ、ミツにしてます。
また、あらすじにも書いた通りネタバレなどもふんだんに含みますが、それでも良ければどうぞ。


ゴジモスギドラドン温泉

「ねー、大にーちゃん、あっち見て良い?」

「私はこっち見たいんだが」

「あー、ちょっと待て待て、一つ一つ決めて行こう。転ぶぞ俺達」

 よろよろと歩くギドラの真ん中の首が必死に宥めてそして、ラドンを呼んだ。

「おい! ラドン! あっちの物片っ端から取ってこい! だから、ミツ、一旦そっちに行こう」

「やった!」

「何で弟の方が先なんだよ」

「俺達の住処にまーた下らないものどんどん増やすのかよ」

「あー、そうか」

「下らないってなんだよー」

「それは埃被ってる置物を綺麗にしてから言え」

「うー……」

 そんなブツブツ文句を言ったりよろよろしたりするギドラに、早速食い物を沢山買ってきたラドンがへこへこと渡す。

「いつもの光景だな」

「ですね」

 そんな様子を、ゴジラとモスラが後ろから見ていた。

 

 ここは温泉街。出来た映画を観終えた後にやって来た。

 ゴジラとのくじびきで負けたギドラが負ける映画に今回は仕上がったが、人間達の信仰からか、今までにないヒットとなった。

 映画の中で派手に殺される役目を背負う事になったギドラは撮影の最初から最後までグチグチと文句を言いながらも、自分達が映っているシーンにはそれぞれがそうまんざらでも無い表情を見せていた。

 

 温泉饅頭を食べながらブラブラと歩いていると、ギドラが古いゲームセンターへと入っていくのが見えた。三つの首は真中が長男、右が次男、左が三男といった形であり、それぞれの通称はイツ、フツ、ミツとなっている。

 多分、ミツか、もしかしたらフツの要望だろう。

「入るか」

 入ると、ガムのボールをパチンコの玉にして遊ぶものをやっていた。特定のゴールに入れるともう一つ貰えるやつだ。

 ミツとフツがそれぞれ左右のレバーを操作していて、イツはそれを上から眺めていた。

「相変わらず大変そうだこと」

「弟達が楽しめてれば俺も楽しいからな、それで十分だ」

「そう言うものか」

「それぞれに意志があっても、一心同体だからな。映画でもそうだっただろう?」

「確かに。考えている事まで分かったりするのか?」

「多少は、な。感情もある程度共有しているし。ただ、俺達は俺達自身を尊重しているからな、深くは推し量ろうとはしない事にしている」

「小兄ちゃん!」

「もう一度だ!」

「強く噛みすぎると折れるぞ」

「分かってるって」

 そう言いながらコロコロと落ちて来た一つだけのガム玉を、イツがちゃっかりと食べた。

 三度目で、やっと二つのガム玉を落とす事が出来た。

 その後、ラドンがそれをやって一回で二つのガム玉を落とす事に成功していた。

 

「ねえ! 誰かやらない?」

 そうミツの声が聞こえて振り向くと、エアホッケー台の向かい側でギドラが立っていた。

 フツもマレットを咥えてエアホッケーの準備をしている。

「二対二でいいか?」

「ああ」

「じゃあ、モス。やろうか」

「ですね」

 ラドンもやってきて、観戦するようだった。ゴジラが意地悪く聞いた。

「なあ、どっちを応援するんだ?」

「えっ?」

 マレットを咥えて始めようとしていたフツとミツが頭を持ち上げてラドンを見た。

「えっ、あっ、えっと……不利な方を……」

「なるほど。ちゃんと応援しろよ」

 ゲーム開始、ミツがパックを飛ばし、マレットを爪で突き刺しているモスラが壁に反射させてそれを返す。

 フツがそれを受けて止め、ミツが思いきり叩きつけ、それをゴジラが更に強く叩き返した。

 また壁を反射してゴールに一直線、しかしフツがまた受け止めた。

「いてっ」

 ミツの下を潜るようにフツが動いたせいで、その角がミツの喉を突いていた。

「しかたねーだろ」

 パックをしっかりと戻してからフツが言った。

「中々入んねえな」

 そう、ゴジラが呟くと、

「僕達は一心同体だもんね!」

 とミツが元気良く言った。

「どうしましょう」

「どうするか」

 守りが固い。悩んでいる内に唐突に弾かれたマレットがゴジラの腕の下を通ってゴールに入った。

「あ、すまん」

「いえ」

 0-1。

「ゴジラさんモスラさん頑張ってくださいっすー」

 ラドンが応援した。

「あー、くそ」

 三つの首がニヤニヤと見ていた。

 0-2。

 0-3。

「流石にまずいですよ」

 1-3。

 1-4。

「点差、これ以上付けられるときついですって、頑張ってください!」

「うるせえ!」

 そうゴジラが言うと、イツが

「止めるなよ」

 と釘を刺す。

 2-4。

 劣勢だが、モスラが何かに気付いて、ゴジラに耳打ちした。

「ああ、なるほど」

「何企んでやがる」

「やれば分かる」

 3-4。

 4-4。

 5-4。

「逆転、ギドラさん負けないでください!」

「うるせえ!」

 と今度はフツが睨みつけながら叫び、そこにゴジラがニヤニヤとしながら、

「止めるなよ」

 と釘を刺した。

 やった事と言えば、壁に当てて反射をするとかそんな事は狙わずに、ただ真ん中にパックを飛ばすだけ。

 パックを咥えていた二つの首はそれを受けようとする前に互いに頭をぶつけて、簡単にゴールを許していた。

「兄ちゃん、どうしたら良い?」

「真ん中に来たらどっちが受けるか決めとくだけでいいだろ」

「あ、そっか」

「俺が取る」

 フツが言った。

 6-4。

 モスラがそれを聞いてややミツ寄りにパックを飛ばすと、また頭をぶつけた。

「もう後がありませんよ!」

「ああ、クソ!」

 結局、ギドラが負けた。

「おい、ラドン、今度はお前とだ!」

 フツがラドンに呼びかける。

「おい、それは……」

 イツが言った。ラドンもえっ、という顔で見る。

 イツがそれを言う前に、フツが続ける。

「やらないとか言わないよな?」

 ゴジラが言う。

「手加減するなよ」

 ラドンは、渋々と言ったように前に立ち、そしておずおずとイツを見た。

 イツは溜息を吐いて、やってやれというようにラドンを見た。

 1-0。

 2-0。

 3-0。

 4-0。

「小兄ちゃん、勝てる気がしないよ……」

 ラドンはどの軌道で飛んでこようが、どんなに強くパックを叩きつけようが、全部上から抑えつけてパックを止めていた。

「お前、こんなに強いなら先に言え!」

「え、いや……」

 ゴジラが言った。

「お前、ラドンと良く居る癖にラドンの事全く知らねえのかよ」

「は?」

 イツも呆れながらゴジラの後を続けた。

「映画で俺達は逃げ惑う人間を食う事をしてたが、ラドンは戦闘機から緊急脱出する人間を食う事をしてただろ? 合成で作られたものとは言え、ちゃんとラドンがどんな奴か分かった上でのものだし、分かってるもんだと思ってたがな」

「えっと、要するに」

 その二つ、似たようであっても全く違う。

「ラドンって目が良いの?」

「ええ、はい。一応空から獲物を仕留めたり、狭いところを一気に通り抜けたりとか得意っすよ」

「あー、くそ、やるんじゃなかった」

「すみません、何か」

「いや、こいつらがラドンを分かってなかっただけだ、別に良い」

「あっ、はい」

 ただ、その後もぶつくさと言うフツだった。終いにはイツの動かす尻尾でベチと叩かれていた。

 

 次に小物店にゴジラとモスラが寄っていた。

 ふーん、という様子で置物やらを見ている。

「興味、あるんですか?」

「歴史は好きだ。人の造って来たものに対してはそう興味は無いが、様々な生命がどんな進化を遂げて今に至るのか、それを知るのは中々に面白い。人間はそういう細かい事が好きなようだからな。

 で、お前はそういうのに興味は無いのか?」

「あー、いや、余り」

 怪獣以外なんて、美味そうかどうかで大体見てるとか言ったら、呆れられそうだった。

「私も歴史は好きです。特に、過去の私自身を知れるのは感慨深いです」

「転生しても記憶は残るんじゃないのか?」

「完全じゃないのですよ。あの映画のように(ラドンがギドラに従ったせいで)死んだとしたら、卵を産んでからギドラとの決戦に挑む、そこ辺りからは覚えていないと思います」

 何か途中で聞こえた気がしたがラドンは無視する事にした。

「そういうものなのか」

 イツが口を挟む。

「不完全だな」

「僕達、頭が千切られても全部覚えているもんね」

 それを聞いたゴジラが言った。

「へぇ……。

 確かにそうだろうな。それで? 映画じゃミツの首を俺が千切ったが、そこは合成で誤魔化したよな。

 それは単純に痛いのが嫌だったからか? 違うよな?

 俺が思うに、お前等の首が千切れる瞬間、記憶は完全に新しい頭に引き継がれるとは言え、千切れた頭の先がどうなるのか分からないからだ。所謂、魂ってヤツまでもがきちんと引き継がれるか分からないからじゃないのか?

 ミツの首が千切れた、その瞬間に今喋っているミツという魂は完全に胴体に移るのか、それとも頭に残ったままそっちのミツは死んでいくのか、分からないんじゃないか?」

「えっと、それは……」

 イツが先んじて言った。

「答えなくていい」

「あ、うん」

 ゴジラは、熊が鮭を咥えている置物を気に入って買った。

 モスラは色々興味深く見ていたが、物は買わずに出て、ラドンがインスタントカメラを買った。

 ……歴史、余り興味ないと言ったけど、こういう歴史は好きだな。

 カメラで、三匹の後ろ姿を最初に撮った。

 

*****

 

 旅館に着くと、広い部屋に案内される。

 壁の幅を見ると、1mはあるように見えた。人のサイズに合わせて暇を楽しんでいる怪獣だが、この壁の幅は察せられるものがある。

 ゴジラの背中についているモスラと、どてどてと歩くラドンが顔を合わせた。

 まあ、そういう事なんだろうな。

 そういう事なんでしょう。

 ここでもてなす事を決めた人間達も、流石に何かしらがある事は警戒していると。

 実際、ゴジラとギドラはあの映画のように現状敵対していないとはいえ、地球の外から来た征服者と自然の守護者が仲良しこよしな訳でもない。酒などを飲むと暴れる事もこれまで時々あった。

 そうなってしまうと、もう何もしない。好き勝手に暴れる二匹を止める程モスラもラドンも命知らずでは無かったし、そしてゴジラとギドラも本気で殺し合いまではしない位に、最後の最後は弁えている。

 諦めて逃げていようと言うのが、良く付き合うラドンとモスラの出した結論だった。

 

 そんな事は大して気にせずに、部屋から外の景色をゴジラとモスラが見ていた。

「中々良いな」

 季節は秋。紅葉が傾いて来た日の赤を帯びた明かりに照らされていた。

 そんな事をしているのにギドラはそれ程興味を示さず、ふぅ、とイツが専用の椅子に座ってゆっくりすると、ミツが言った。

「大兄ちゃん、温泉卵したい」

 フツが「あ、良いなそれ」というが、イツはくたびれた顔と共に言った。

「また今から動くのか……」

 もう弟達の世話で疲れているようだった。

「ラドン、頼む、多めに」

「分かったっす」

 ラドンはどたどたと出て行った。

 飽きたミツがリモコンを取ってテレビをつけた。

 テレビをつけると、ムートーが元の大きさで飛んでいる光景を映していた。

 チャンネルを回すとアニメをやっていて、ミツはそこで止めた。

 必殺技を叫ぶ声が飛んできたところでテレビを見ていないでぼうっとしていたフツが少しそわそわして、リモコンを探すが、ミツが咥えたままだった。

「おい、リモコン貸せよ」

「やだよ、チャンネル変えちゃうでしょ。終わるまで後少しだから」

「あーもう、くそ」

 アニメを見るのが恥ずかしいと思うようなフツと、アニメを楽しく見るミツ。そんな光景を見ると、ゴジラはこいつら本当に俺と同じレベルで生きているのか? と思っていた。

 その真ん中のイツも三つ首の一心同体である弟達に振り回されながらくたびれている様を見せているが、正真正銘、様々な星を征服して来た、宇宙から来た侵略者である事は間違いない。

 ゴジラに対して脅威を抱いているのと同時に、人に対して多少ながらも興味を抱いている事、様々な星を征服してきたギドラが征服する事そのものに対して飽きている事が、ゴジラとの決戦を留めている。

 ゴジラ以外では太刀打ちは出来ないだろうし、ゴジラも戦うならモスラと共に自身の命を、地球そのものを賭けて戦わなければいけない。

 ギドラがその気にならなければ、このようにして居る方が良かった。

 アニメがエンディングになると、ゴジラは顔を合わせないまま聞いた。

「面白かったか?」

「うん!」

 ミツは裏の無い声で言った。

「それは良かった」

 ラドンが戻ってきて、ギドラが立ちあがる。

「じゃあ、温泉に入ろうか」

 

 人間の脱衣場は無視して、貸し切りの広い露天風呂に入る。

「私は足湯くらいにしておきますね。流石に水はそんなに得意じゃないので……」

「分かった」

 そう言って、ゴジラとギドラが対岸に座る。

「あ゛~」

 ゴジラがおっさんのような声を上げる。

「う゛~」

「ふぅ」

「…………」

 ギドラも、それぞれまんざらでない表情だった。

 沢山の人に混じって演技やらをしたのは、何だかんだで神経を使ったし疲れていた。ギドラも、ラドンも、モスラも。

 ラドンが網に入った沢山の卵を湯に沈めて、そこから離れた場所で浸かった。

 その高温の身だからか、ラドンの周りがそう時間の経たない内に沢山の湯気に囲まれた。

 それが気になったフツが体を震わせて電撃で弄ってやろうとにやけた顔をしたが、すぐにイツに止められた。

「こんな場所でそんな事すんな」

「へーい」

 そうして大人しくなったのを見ると、ゴジラはぼうっと空を眺めた。

 ひゅぅぅ、と寂し気な風と、沈んでいく太陽の淡い色を映した空、そして流れていく雲が見える。

 もう、何千、何万年と空を見続けてきたが、不思議と飽きは来ない。

 そして、空を飛べたらどのような光景が訪れるのか、それは僅かながらにずっと、気になっている。

 空を飛ぶ者にとって、空がどのようなものなのか。

「……俺以外空飛べるんだよな……」

 ぼそっと呟いた言葉は、ギドラに聞かれていた。

「羨ましいか?」

 挑発するような物言いは、珍しくイツからだった。

「悪いか」

「いや、俺は空を飛べない者の気持ちどころか、一つの星に固執するような奴の気持ちも分からない。

 分かる気も無い」

「……そうかよ。

 故郷すら覚えてないのか?」

「そんな昔の事なぞ覚えてない。征服したのかどうかすらもな」

 もしかしたらお前、最初は逃げて来たんじゃないか?

 そんな事を言おうとして、やめた。

 ギドラが逃げなければいけないような生態系をした星なんてあってたまるか。

「……はぁ」

 宇宙を駆けて、星々を征服して来たギドラの価値観は良く分からない。そしてきっと、ギドラにとっても自分の価値観は理解出来ないだろう。

 遥か昔に宇宙からいきなりやってきた時の事を少し思い出した。

 赤い空の先からやって来て、ラドンが早速従えられていた。

 ――お前がこの星の王か。

 ――だったら何だお前は。

 ――俺達も王だ。

 少なくとも友好的では無かった。

 宇宙を駆けて来たというそのギドラは多少くたびれた様子を見せていた。

 互いに互いの力量を察し、そしてその時は運悪くモスラは居なかった。

 その時にラドンが居なかったら、もしくはモスラが居ればギドラを殺しきる事が出来ただろう。根本的に暴れる事が好きなラドンが自分の方に着くという確証も無かった。

 それが計算づくだったのかどうかは、未だ知らない。

 ――こいつを借りても良いか?

 ――……好きにしろ。ただ、ここは俺の星だ。無暗に暴れたりするならば、ただじゃおかない。

 数々の星を征服して来たという事は後で知った。

 その時にはギドラも全快しており、この星に少なからず馴染んでいた。

 後に住処をギドラに奪われたラドンがゴジラに愚痴を言いに来た事があったが、そのラドンは心底から嫌がっている様子ではなかった。

 危機感を覚えたのは束の間、それ以上にギドラは配下を増やそうとはどうしてかしなかった。

 そしてそのまま長い、永い年月が経ち、今までに至る。

 

 最初にリスクを背負っても殺しに行くべきだったか、それともラドンが愚痴に来た時にラドンを説得か、出来なければ殺しでもしてモスラと殺しに行くべきだったか。

 入念に気付かれないように計画を立て、他の怪獣達と潰しにかかるべきだったか。

 そんな事は何度も何度も思った。ただ、考えてもどうしてか実行に移す事は躊躇われた。自分と同じく王たるギドラとの全面戦争にこの星が酷く傷付く事を許容出来なかったのか。現状維持のままが最もこの星が傷つかないままで居られる最良の選択肢だと思っていたのか。それとも、一種の情なのか。

 正直分からないし、自分がギドラに情を持っているかどうかなど、余り考えたくも、はっきりさせたくもない。

 そこを突いてくると、ギドラが考えている可能性も無いようには思えなかった。

 外からはライバルというような認識を抱かれてもいるが、ギドラとの関係は最初から今まで変わらず、親しくなりながらも心を許してはいけない隣人だった。

「温泉卵出来たかな?」

 ミツが言った。

「何分経ったっけな」

 イツが湯気に隠れているラドンに聞いた。

「普通にゆで卵作るときみたいに、沸騰した湯でやってる訳じゃありませんから、もうそろそろ半熟になるかどうかだと思うっス」

「まだ割ったら白身からとろけちゃうかな?」

「後一分もしたら大丈夫っすかねー」

「ふーん」

 ゴジラが起き上がって、その卵のネットまでざぶざぶと歩く。

「あ、お前!」

「良いじゃねえか、多めにあるんだし」

 一つ取って、割ってみるとトロリと白身が流れてきてそれを舐めとりながら食べた。

 黄身もトロトロだが、中々に美味い。

 もう二つ程取って、戻った。

「三つも取りやがって」

 フツとミツがぶつぶつと言うが、イツは特に何も言わなかった。イツにとってはそうなる事も想定済みなのだろう。

 ただ、イツは一言だけ言った。

「どの位か程度は教えろよ」

「まだ固まってない」

 そう言って、二つの卵を手で温泉に沈めながら、またゴジラは温泉に腰を下ろした。

 

 もう少しだけした後に、ゴジラが片方の卵を割って大分固まっている事を確認すると、ギドラがざぶざぶと温泉卵の方へ動いた。

 ゴジラも起き上がって、足湯だけを器用に楽しんでいるモスラの方へ歩いた。

「うん、美味しい!」

「白身もぷるぷるだな」

「あんまり今食うなよ、夜飯が入らなくなる」

「分かったー」

 そんなところにラドンが言った。

「水風呂ありましたっけ? そっちに移しておけば、今の状態のままで出来るっすよ」

「そうしておくか」

 そのままギドラは水風呂に卵のネットを入れると、近くにあったサウナへ入っていった。

「ラドン、サウナ一緒に入って行けよ」

「ギドラの兄貴もゴジラの兄貴も、ある程度までの熱には強いじゃないっすか。サウナ程度、俺が入ったところで何ともなりませんよ」

「俺と比べたらギドラの方が弱いのは確かだから分からないぞ」

「嫌ですって。俺の胃に穴開けるつもりですか? 怪獣に医者なんていないんですよ」

「核爆弾落としてもらえ」

「それはゴジラの兄貴だけですって!」

「そうだな、俺だけだ」

 俺だけの事もあったな、と思いながらモスラに温泉卵を渡した。

「良い具合ですね」

「ラドンは食わないのか?」

「後で食べますよ」

 多分そういう時間が出来るだろうし、と思いながら。

 

*****

 

 温泉から部屋へと戻ると、もう飯が届いていた。

 人のサイズに合わせているとは言え、怪獣達の前に気負わずに居られる人間などそうは居ない。

 居て、狂人かそういう事を専門にする人間位だ。

 ただ、怪獣達の前に姿を現さないとは言え、それぞれの好みはある程度理解しているようで、

 彩豊かで、数多くある一品一品が細部まで丁寧に拵えてあるのが分かる。

 ただ。

「ねえ、小兄ちゃん、大兄ちゃん……」

「そうだな……困ったな……」

 ギドラの飯は、三人前として置かれていた。三つ首のそれぞれの好みに合わせたものが沢山。普通に誰もが美味しいと思うようなもの。味以上に珍しいもの。古来から伝わるもの。

 ただ、三つの首があっても、胃は一つだ。それぞれが食べる量はそう多くなくて良い。

 更に困る事と言えば、一品一品は量が少ないと言う事だ。それが数多くある。

 ただ、イツは少し考えた上で言った。

「好きに食うしかないな」

 それぞれが楽しめるようにとか、それぞれが食べ過ぎないとか色々指示するのも億劫だし、そんな事しても楽しめないように思えた。

 フツがミツにリモコンを奪われる前にテレビをつけた。

 ニュース、回すと映画。ホラー系のモンスターパニックの映画をやっていた。余り好みでは無かったようでまた回すと、動物の生態を追う番組、回すと将棋の解説が出てきて、そこで止まった。

「強いのか?」

 ゴジラが聞くと、イツが答えた。

「いや、大して」

 フツが舌打ちをした。

「考えてるようでやりたい事やってるだけだからな」

 それには黙ったままだった。

 

 飯を食べている時自体はある程度静かになった。というよりかは、胃を共通しているギドラの三つの首のそれぞれが好みの物を出来るだけ味わおうとする様は、それはもう見ていて汚く、そして面白おかしかった。

 そしてすぐに、食べるペースが落ちていく。

 それぞれの飯の量が半分程までになったところで、もう食べられないとミツが倒れた。

 げふぅとフツが首を後ろに倒して、イツが先導して専用の椅子に座った。

「あー、食った食った」

「もう、食えないから残りは食っていいぞ……」

「兄ちゃん……ブレス吐けばもうちょっと食べられないかな……」

「馬鹿言え、疲れるだけだ」

「そっかぁ……」

 残りは大体、ゴジラとラドンが食べた。

 それぞれが満足気な顔と、膨れた腹を見せるギドラ。

 ゴジラがそれを見ると、映画みたいに踏みつけたら、三つの首からそれぞれ吐き出すんだろうかと思った。

 蜂蜜を吸いながら、モスラもギドラを見ていた。

「多分、似たような事考えてるような気がします」

「ええ……ラドンは?」

「え? 何の事っすか?」

「あー、いや、何でもない」

 モスラがそんな汚い事思って欲しくはないな。

「何考えてんだよ」

「聞くだけ損だぞ。どうせ下らない事だ」

「けど、気になるじゃねえか」

「大体想像つくだろ」

「……はぁ?」

 ゴジラもモスラも答えはしなかった。イツも含めて、考えている事はきっと同じだ。

 

 ラドンも大体飯を食べ終えると、何となくビデオデッキを漁った。

「あ」

「どうした?」

「映画、俺達の、多分えっと何というんですっけ、完成版」

「マスターアップ、ですかね」

「あ、多分それ。それがありますね。また、見ます?」

 ゴジラが言った。

「後半だけなら」

 ギドラが口を揃えて言った。

「前半だけなら」

「……やめときましょうか」

 そう言えば、とイツが聞いた。

「何か勝手に人間から友よとか言われて友達判定されてたけど、そこの所お前どうなの?」

 多分、ギドラがそんな事を人間から言われたら怒るのだろう。きっと、盛大に。

 そう思いながらも答えた。

「あの世界の話だと、人間がどでかい爆弾やらオキシジェンデストロイヤーとか、まあ、核は俺にとってはご馳走みたいなもんだが、今の生き物たちにとっては毒でしかないし、そういうものを作り上げて使って、人間そのものが俺が排除すべき存在になりかけていたのは理解として良いか?」

「そういう前提だと言うのは理解している」

「それを繋ぎ留める役目が、あのセリザワとか言う人間だった訳だ。

 あの世界での俺……俺自身元々そうだが……そうだな、そして俺がどういう意志を持っているのかを人間達は基本的に理解していなかった訳だ。

 そんな中で俺という存在を最も理解し、そしてギドラ、お前達がお前達だけの為に世界を手中にしようとしているところに、和解の意も込めて回復の為の核爆弾を起動させた。

 良く出来てるし、俺も前向きに捉えると思う。

 ……オキシジェンデストロイヤーとやらを喰らってなかったらな」

「やっぱりそこなんすか」

「ぶん殴られて死にかけて、ごめんなさいって治されたが家まで壊された。許せると思うか?」

「思わないっすね」

「でもまあ、あそこでセリザワ達の仲間、モナークだっけ? そいつらをぶっ潰すかって言われたらそれも微妙だ。

 あのままだったらギドラに全世界を奪われて、モスラ以外の怪獣達もギドラに着いているだろうし」

「ふーん……」

 イツは、納得まではしていない様子ながらも頷いた。

 今度はゴジラが聞いた。

「お前は、仲間とか、そういうのとは基本的に無縁そうだよな。良くて配下とかか?」

「寂しそうだなとか言うのか?」

「いや? そもそも、お前等いつでも孤独じゃねえだろ」

「そうだな」

 実際、だからこそ数多の星を支配し、そして捨てて来れたのかもしれない。

 ゴジラはもう一つ聞こうとして、やめた。

 ラドンの事はどう思っている?

 パシらせたりはしていても、そこまでぞんざいにはしていない。

 今のまま、その曖昧な状態を崩してしまうと必ずしも良い事があるとは思えなかった。

 

 皆が飯を食べ終えて、残ったのは氷水に漬けられた酒の瓶が幾つか。古今東西の様々な酒があった。

「飲むか?」

 ゴジラがギドラに言う。

「飲もうか」

 そんな様子を見て、モスラとラドンが顔を合わせた。ラドンがこっそりと温泉卵を自分の方へ引き寄せた。

 ゴジラが日本酒を開け、ギドラがのそりと起き上がって酒をそれぞれが咥える。

 ミツが梅酒、フツがウイスキー、イツがワイン。

 ラドンがモスラに小声で言った。

「梅酒とウイスキーって両方とも度数高かったよな……?」

「ですね……」

 ギドラとゴジラの距離が自然と近くなっていた。

「でも、まあ良いのでしょうね。

 互いに心を許してはいけない相手だと分かっていますけど、酒が混じればその部分が多少なりとも解けて、分かり合える部分が出て来るかもしれませんし」

 ゴジラは日本酒をもう、ぐびぐびと飲んでいた。

 それからげふぅ、と息を吐く。

 フツがウイスキーをロックで飲んでげふげふと咳をしていた。ミツはちびちびと梅酒を舐めるように飲み、イツは普通に香りを楽しみながらワインを飲んでいた。

「あ゛ー……でさ、次はお前がメインで映画作る事決まった訳じゃん」

「だな」

「俺にどんな死に様を期待する訳?」

「俺にエネルギーを吸収され尽くして干からびてミイラになる様」

「反逆を翻した他の怪獣どもに蹂躙される様」

「うーん、宇宙に放り出して地球に戻れないまま月みたいにぐるぐるしていて欲しいかなあ」

「粉々にした俺が言える事じゃねえが、お前等も大概な事考えるな……」

「あんな死に様描かれて何も思わないと思ってたのか?」

「流石に酷いよあれは」

「今でも俺、思い出すとイライラするからな」

 ゴジラは黙った。まあ、言われても仕方ないよな、というような姿だ。

「映画の中じゃやられてやるけどよ、実際にはやられてやらねえからな」

「俺達だって粉々になる時なんて更々無えよ。その時を首洗って待ってろ」

 ふぅー、とゴジラがまた酒をくい、と飲み、ふぅ、と息を吐いた。

「そうだな。その時はな」

「いつか、な」

 いつかとは、一体いつなのだろう。

 そんな事をラドンが思っていると、ミツの首がふらふらしている事に気付いた。

「あー、うー……。小兄ちゃん、大兄ちゃん、何か僕、もう体が熱くなってきたんだけど……」

「え? あぁ? 何かおかしいな……フツ? お前そのウイスキーの隣にあるの何だ?

 レモンと、おい、隠すな! その瓶は何だ! テキーラ……。しかもその減り方……。

 お前、強い酒を沢山飲める事が格好いいとか思ってんじゃねえだろうなぁ?」

「そんな事思って」

「思って、る、だろ?」

「……」

「ねえ、テキーラって美味しいの?」

「飲み方、教えてやろうか?」

「おい、ゴジラてめえ!」

「良いじゃねえか、どうせもう酔っぱらってんだろ」

「小さいグラスにな、少量注いで、一気に飲んで、そしてレモンを齧る。まあ、美味いよ」

「へぇ、小兄ちゃん、ちょっと」

「え、あ、ああ」

「渡すな!」

「良いじゃねえか、ミツ、ほれ。ちょびっとだけだ、ちょびっとだけ」

「うん……うっ! な、なにこれ!」

「そこにレモンだ」

「え、あ、うん。

 ……美味しい、のかな? あ、でも、すっとするね、良い感じ!」

「もう一杯飲むか?」

「流石にやめろもう!」

 イツがゴジラの持つウォッカを咥えて奪い、そしてゴジラがそのボトルの底を掴んで、上に持ち上げた。

 どばどばとイツの口の中にウォッカが流し込まれ、一気に咳き込む中に更にレモンを口に捻じ込んだ。

「なぁ、モスラ。ゴジラの兄貴、もう酔ってる?」

「いや、単純にギドラと手合わせしたいだけかと」

「……ああ、そう」

「げほっ、げほっ、ゴジラ貴様ァ! お前のエネルギー今全部奪ってやろうか!」

「やってみろ!」

 単純に楽しそうだ。

「ほら」

「じゃあ、出るか」

 ラドンは窓を開けて温泉卵を手に取って、窓枠に足を掛けた。

 フツが言った。

「ラドン? 何逃げようとしている?」

「いや、俺ァ流石にそんなケンカまでに巻き込まれたくはありません。すいません」

「私も、ほとぼりが冷めるまで外に居ますね」

「よそ見してんなよフツゥ!」

 がつ、とゴジラがイツとミツに噛みつかれながらもフツの頭を掴んで、ウイスキーを流し込んだ。

「げふっ、げふっ」

「強いのが好きなんだろ!」

「う、うるせえ! 飲めたら格好良いだろ!」

「おめえにゃまだ早いわ! 中二病がぁ!」

「うるぜえ! 人間共が嗜めて俺達が嗜めないモンなんてあっちゃいけねえんだよ!」

 ズン、とか、ドン、とかそんな音が響いてくる。

「……ゴジラの兄貴ってギドラの兄貴以上に暴れるの好きだったりすんのかなあ」

「そうですかねぇ。私が思うに……心を許してはいけないとは言いつつも、対等に手合わせが出来る唯一の存在ですから。

 酒というのを言い訳に、殺し合いではなくケンカをしたいんじゃないんですかね」

「ゴジラの兄貴にとってギドラの兄貴は貴重なのか」

「ギドラにとってはどうなんでしょうね?」

「ギドラの兄貴にとってゴジラの兄貴が? …………ライバルというにはどうも違うと思うなァ」

「だとすると?」

「超えるべき壁……倒すべき障害……そんなところか?」

「何が違うのですか?」

「ギドラの兄貴は……兄貴達は、兄貴達だけで完結してるんだよ。ゴジラの兄貴とモスラが一緒に共生しているように、ギドラの兄貴達は、兄貴達で一緒に生きている。何をするにも一心同体で、そしてそれ以上の繋がりなんて最終的には必要ない。

 ……一番親しくしている俺であろうと、きっとその時になったら簡単に切り捨てる事だって厭わない。

 だから、ライバルとかそんな繋がりのある言葉は似合わない」

 近くの大木にラドンとモスラは留まって、その頑丈に作られた部屋から響く音を聞いた。

「一本ッ、背負いィィィッ!」

 ガシャァン! と窓からギドラが投げられていき、飛んで旋回、ゴジラにまた突っ込んでいく。

「ミツ、フツ! 腕を狙えぇ!」

「やらせるかよお!」

「あーあーあーあー……」

「いつまで続きますかねえ」

 派手にしながらも、互いにブレスは吐いていない。ゴジラは首を千切ったりまではしないし、ギドラも本当に殺そうとはしないだろう。最後の最後、ケンカから殺し合いに行くその境界線までは踏み込んでいない。

 ラドンは温泉卵をつまみながら、空の上にある月を眺めた。

「ギドラの兄貴は月にまで行けるんだよなぁ」

「宇宙、ですか」

「俺もモスラも、ゴジラの兄貴も知る事の出来ない世界だ」

 モスラは、きっとラドンは最終的にギドラの方に着くのではと思った。

「モスラは羨ましいとは思わないか?」

「多少は。

 でも、月まで行かなくとも、この地球にも美しいものはあります」

「まあ、な」

 それ以上は、ラドンは言わなかった。

「私にももう一つ、下さい」

「おう」

 殻を器用に剥き、半分を齧るととろりととろける黄身が流れ出た。

「半熟卵作るの得意ですね」

「そりゃあ、火山育ちで温泉やらは日常だったからな。…………美味いものを食うのは好きだしな」

「そうですか」

 妙に間が空いたが、それは聞かない事にした。

 

 ほとぼりが冷めた頃に部屋に戻ると、中は荒れに荒れていて、ギドラとゴジラは組み合ったまま寝ていた。

 ふざけあって酒を飲ませ合ったりしたんだろうか、様々な酒の匂いがしていた。

「……外で寝るか」

「ですね……」

 ただ、その前に、とラドンがカメラを取り出した。

「こんな光景、撮っておかないと損だよな」

「ですね」

 フラッシュが焚かれても、うーん、とミツが動くくらいだった。

 

*****

 

「うーん……うーん……重いよ……うん? ああ、おう? えっと? なんだこれ。何だこれ!! 小兄ちゃん、大兄ちゃん、ゴジラどけて! 重いよ!」

「え? なんだこれは! ゴジラ貴様!」

「ゴジラてめえどけや!」

「……こんな最悪な目覚め方、初めてだ」

 ミツの首を枕にして寝ていたゴジラがゆっくりと起き上がる。後ろからどつかれて、転ぶ。

 そんな翌朝。

 朝日に照らされた部屋の中は、畳はボロボロになり、壁はコンクリが削れ、テレビはぶん投げられた後に液晶が粉々になり、酒瓶は全て割れて中身が飛び散り、特に甘味の強い酒には虫が既にたかっていた。

 割れた窓からラドンとモスラが入って来た。

「どうして起こしてくれなかったの? ゴジラの枕にされるなんて僕、こんな思い出作りたくなかったんだけど」

「勝手に暴れて無暗に部屋をぐちゃぐちゃにした輩の助けをするほど、私は優しくありませんの」

「おい、仕掛けて来たのはゴジラだぞ」

「冷たくあしらって外へ逃げれば良かったじゃないですか」

「……このギドラに逃げろと?」

「無理っすよねー」

 朝風呂を堪能している時も、軽く朝飯を食べた後も、ゴジラとギドラはむっすりと一言も口を聞かないままだった。

 

 そして、すっかり明るくなった頃に温泉宿から出た。

 ゴジラとギドラの気分は最悪だが、ラドンとモスラにとってはそう悪くない。

 人もほぼ居らず、閑散としている温泉街をたらたらと歩く。それぞれが持ち帰る事にした、多少の名物が入った袋ががさがさと音を立てていた。

 そんな中、ラドンは撮った写真を思い浮かべて良い気持ちになっていた。

 ……あんな写真、人間に見せたら兄貴達にぶっ殺されそうだな……。

 現像するならこっそりと、両方の兄貴が居ない場所で、そして人間共がコピーしないように脅さないといけないか。

「何楽しそうにしてんだラドン」

「え?」

 後ろを歩くゴジラからいきなり呼びかけられ、ドキリと胸が鳴った。

「俺達がこんな不機嫌になってんのが楽しいのか?」

「あ、いや、えーっと……こんな平穏がずっと続けば良いなあって思ってただけっす」

 誤魔化す為に咄嗟に出て来た言葉だったが、それも本音だった。

「……あっそ」

「ラドンって意外と平和が好きなの?」

「いや、そういう訳でもないっすけど、まあ……嫌いでもないっす」

「何だそれ」

 まあ、誤魔化せればいいや。

 ほっと空を眺めると、今日は快晴。薄い雲が点々とあり、空を飛ぶと気持ち良くなれそうな天気だった。

 温泉街の先に、海が、水平線が見えて来る。

 そろそろ終わりの時だった。

「でもまあ、全部が最悪だった訳じゃないっすよね?」

「あー……まあな」

「温泉卵また作ったし、僕のコレクションも増えたし」

「……そうだな」

「ゴジラが喧嘩を吹っかけて来なければな? 最高だったなあ?」

「お、お前も意外と平和主義なんだな」

「何だと貴様」

「別にそれなら俺も歓迎するぞ」

「嫌なこった」

「そうか。残念だ」

 

 足に砂がつく。潮風の匂いが鼻に付く。ニャアニャアと海鳥が鳴いている。

 ざぁざぁと打ち寄せる波と、その波打ち際を歩くヤドカリが居た。

「さて、お別れですね」

「そうだな」

 ギドラとラドンは住処へと帰り、ゴジラとモスラは暫く、そう行先も決めずに人間の監視も兼ねてぶらぶらと世界を巡る。

「次会うのはいつになるだろうな?」

 ゴジラが聞くと、

「さぁな」

 イツがそっけなく返した。

「ラドン、行くぞ」

「あ、はい。それではゴジラの兄貴もモスラも、お元気で」

「じゃあな」

「さようなら」

 ギドラが跳び上がるように、砂を巻き上げながら一気に飛んだ。黄金色の体が太陽の光を反射して煌めいていた。

 そして、その後をラドンが飛ぶ。チリチリと火の粉を巻き散らしながら飛んで行くそのラドンの後ろ姿は、やはり上機嫌そうだった。

「あー、くそ。俺に砂を浴びせやがって」

「分かってた事じゃないですか」

「まあな。どうせ泳ぐし、問題じゃあ無い」

「それで、どこに行きます?」

「あー、久々にキングコングの所にでも行くか?」

「そう言えば、この頃顔出していませんでしたね」

「決まりだな。じゃ、俺達も行くか」

 ゴジラは歩いて、海に足を踏み入れる。カニを踏みつけそうになって、一歩ずらした。

 

*****

 

 風が気持ち良く、そして前を飛ぶギドラの兄貴はいつまでも格好良い。とてもいい気持ちだ。

 そんな事を思っていると、イツが唐突に聞いてきた。

「なあ、もしあの映画みたいに俺達とゴジラが敵対する事になったら、お前はどっちに着くんだ?

 あの映画みたいに、先にお前を従えた方に着くのか?」

 それがふざけた質問では無い事は聞くまでも無かった。

 ただ。

 ギドラは、宇宙から来た侵略生物である。それを思い出す事になった。

 イツが前を向いて飛んでいるのに対し、フツとミツが自分の方をじっと見て来た。

 ラドンは思ったままの事を答えた。そう答えられたのは、その自分の考えがギドラを不快にさせないものだと分かっていたからでもあった。

「……俺ァ、ぶっちゃけるとゴジラの兄貴やモスラみたいに使命感めいたようなこの地球のバランスを保つとか、そんな意志は無いんですわ。

 どっちかと言うと、あの映画みたいに好き勝手に暴れている方が好きだし、元の大きさに戻ってゴジラの兄貴に怒鳴られないなら、人間やらをバクバク好き勝手に食いまくりたいっていう欲望もあるっちゃあるんです。

 だから、ギドラの兄貴達と俺が組んで、ゴジラの兄貴やモスラ、もしかしたらその他の怪獣相手に勝てるならば、俺ァそっちに着くかもしれません」

「……分かった」

「ただ」

「ただ」

 ラドンとイツの言葉が重なった。

 イツがラドンの方を向いて、ラドンは先にどうぞと答える。

「……ただ、そんな事をするとしても、それは当分先だがな。

 生まれ故郷のもう、どこにあるかも覚えていない星を征服して、飽きて宇宙に飛び出した。

 他にも幾つかの星を征服して来た。その度に飽きは次第に早く来るようになった」

「だったら何故、当分先、だと?」

 フツが答えた。

「ゴジラと本気で殺し合いたい、そういう欲望が俺達にはあるのさ。

 様々な星を見て来て、色んな大きさ、色んな形をした奴等と戦ってきたが、あいつほど、俺達並みに強い奴は見た事が無い。

 この地球という星を、あいつを征服したい、その欲望は俺達にとってかなり強い」

 ミツが続ける。

「でも、今のままでも楽しいけどねー」

 イツがそして締め括る。

「そういう事だ。

 何にせよ、殺し合いは一回限りのメインディッシュだからな。この地球を十分に堪能して、そして飽きたら、きっとゴジラとの仲良しごっこは終わるさ」

 映画は、娯楽作品としてだけではなく、この怪獣達が本性を現したらこうなってしまう、というような恐怖を忘れさせないものでもあった。

「そう、ですか」

「で、ラドンは何を言おうとしたんだ?」

「俺ァ……出来れば敵対しても、殺し合って欲しくはないと思っちゃいますね。試合みたいに、勝ち負けがはっきりしたら終わらせて欲しいというか……。

 俺ァ、何だかんだで他の有象無象の怪獣達よりはちょっと強いとはいえ、それでもただの怪獣なんですわ。

 だから、そんな俺等とは一線を画する強さのゴジラの兄貴も、ギドラの兄貴達も、俺は色々振り回されているけど尊敬しているんですわ。だから、死んで欲しくはないかな、と」

「……そうか」

 多分、本当に敵対するとなったら、自分のこの気持ちなどごみ屑のようなものなのだろうと思った。

 どちらも王なのだから。ゴジラとギドラ、どちらも現状は仲良くしているが、心底から信頼している訳ではない。

 少しの寂しさを覚えた。




映画を観て、ギドラ格好良いけど死ぬんだろうなあと思ってたら、マジで凄惨な死に方したのがこの役者パロ書く原動力になったかもしれない。
実際凄くエネルギー貰った映画だったし、そしてゴジラファンな絵師達が色々FAを投げていたのもあって、自分の中の熱もかなり長続きしたし。

まあ15000文字位書いて、結構満足しました。
因みにギドラド派です。



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