ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ 作:ヴァルナル
「よーし、今日はじゃんじゃん釣るぞ! 分からないことがあったら、俺に聞いてくれ!」
『おおー!』
父さんの声に反応する俺達。
今日は父さんの企画で無人島に釣りに来ていた。
この無人島はグレモリー家の関係者が管理している島であり、良い魚がたくさん釣れるという。
今回の企画が行われた理由だが、数日前のある晩にテレビで釣り特集を見ていた父さんが、
『よし、釣りにいこう』
などと急に言い出したのだ。
更に、
『良いですね。私もご一緒しますよ』
と、意外にもリーシャが父さんの言葉に乗ってしまったのだ!
これには俺も「え、マジで?」となったのだが、リーシャの言葉をきっかけに他のメンバーも行きたいとなり、話が大きくなった。
その結果―――――
「ごめんなさいね、イッセー君。私達もお邪魔してしまって」
と、申し訳なさそうにするソーナ。
そう、今回の海釣りには兵藤家に住む者の他にもシトリー眷属の面々からヴァーリチーム、デュリオ、他にも数名と中々の大人数が参加しているんだ。
デュリオが親指を立てて言う。
「俺は皆が釣り上げた魚を食う係りね」
「よし、おまえは俺達が食っているのを遥か遠くから見つめる係りだな」
「イッセーどん、俺に対する当たり強くない!? なんで、そんなに遠くから!?」
そんなデュリオをスルーして、俺はソーナに言う。
「まぁ、こういうのは人数が多いほど楽しいしね。というか、皆の竿とか用意してくれたのリアスだし」
釣り好きの父さんでも流石にこの人数の釣り道具一式を揃えるのは無理なので、そこはリアスにお願いしてグレモリー家に用意してもらっている。
というか、この海釣り企画、実は―――――
「よぉし、今日は私も張り切りますぞ! 私も昔、この辺りの海で釣りをしたことがありましてね。それで――――」
意気揚々と語るのは紅髪のダンディーな男性。
そう、この海釣りにはリアスパパことジオティクスさんまで参加しているのだ!
色々、準備をしてもらっておいて言うのもなんですけど、今日来ても大丈夫なんですか!?
ヴェネラナさんに許可は貰ったんですか!?
以前に公爵の仕事そっちのけで、ゆるキャラの修行とかして、奥さんに怒られてましたよね!?
そこだけが本当に心配です!
リアスが苦笑しながら言う。
「今日はちゃんと休みを取ったそうよ。後でお母様も来るらしいわ」
「あ、そうなのね………」
それは良かった。
ヴェネラナさんといい、グレイフィアさんといい、グレモリー家の奥様方は怒ると怖いからなぁ………。
「お腹が空いたら言ってちょうだいね。おにぎりもお菓子も用意してあるから」
と、母さんが大型のバスケットを指してそう言った。
母さんは無人島の浜辺でパラソルを開いて、陣を敷いており、美羽とサラ、ワルキュリアも色々と準備をしてくれていた。
今日みたいな日でもワルキュリアのメイド気質というのは変わらないらしい。
いつものメイド姿で、メイドとしての役割を果たして―――――
「………サリィ様、フィーナ様。フフフ、スクール水着というものは大変素晴らしいものですね」
前言撤回!
スク水姿の幼女を眺めているただのロリコンメイド長でした!
と、とにかく小休止したくなったら、母さん達のところに行けばいいんだな。
釣りにノリノリな女子達も多い。
ゼノヴィアとイリナは釣竿片手に張り切っていた。
「ゼノヴィア! どちらが多く釣り上げるか勝負よ!」
「望むところだ、イリナ!」
アーシアの手を引いて、ゼノヴィアとイリナは浜辺をダッシュして、釣りのポイントの探索に入った。
「私はダイビングしながら捕ってきます」
ロセはウェットスーツに銛という装備で海に潜っていった。
ロセが銛とはまた意外だけど、銛で捕るのも面白そうだな。
今回の企画に一番に名乗りを挙げたリーシャはというと、
「私も釣ってきますね」
「うん、それは良いんだけどさ………その手に持っているのはなに?」
俺は目元をひくつかせながら、リーシャの手に握られたもの―――――狙撃銃を指差した。
俺の問いにリーシャは気合いの入った表情で言う。
「これで魚を狙い撃ってみせます!」
「違う! それ、釣り違う! それもう、ただの魚の暗殺!」
魚を狙い撃つってなに!?
どんな釣り方!?
「ウフフ、冗談です。ちゃんと釣竿で釣ってきますよ」
「じゃあ、その狙撃銃はなんだったの!?」
「たまには私もボケというものをやってみようかと思いまして」
「お願いだからやめてくれ! リーシャはいつまでもそのままのリーシャでいてくれ!」
これ以上、うちの眷属でボケに走るメンバーを増やされてたまるか!
もうボケの飽和状態なんだよ!
俺のツッコミを聞いたところで、リーシャはちゃんとした釣竿を持って、アリスとニーナ、サリィ、フィーナと共に浜辺を歩いていった。
ちなみに、モーリスのおっさんだが、こちらは父さんとジオティクスさんの二人と釣糸を垂らしている。
異世界メンバーが楽しんでいるのを確認できたところで、俺はヴァーリに声をかけた。
「おまえが来るなんてな」
「たまにはこういうのも良いさ」
ヴァーリチームが参加した経緯だが、たまたま兵藤家を訪れていたヴァーリに父さんが企画を話して誘ったんだ。
そうしたら、ヴァーリチームの面々も参加したいとのことで、今に至る。
近くではヴァーリチームの面々が複数のグループに別れていた。
一つ目は黒歌、小猫ちゃん、レイヴェル、ギャスパー、ヴァレリーのグループ。
二つ目はルフェイとアーサーの兄妹のグループ。
三つ目は美猴とフェンリルのグループで、
「へへへ、ま、大勢での釣りってのも乙なものかもしれねぇな。おい、おまえも海に入って捕ってくりゃーいいんじゃねぇのかぃ?」
美猴がペシペシとフェンリルの頭を叩き、そして―――――
「ガルルルルルルルルルルッ!」
「いってぇぇぇぇぇ! 噛みやがった、このクソ狼ぃぃぃぃぃ! おまえの牙はシャレにならねぇだろうがよぉぉぉぉぉぉ!」
見事に噛まれていた。
うん、そりゃそうなるわ。
まぁ、一部を除いてヴァーリチームも平和な釣りを楽しんでいるようだ。
そんな光景を見ながら、俺も釣りのポイントを探すことにする。
こうして楽しむための釣りも久しぶりかな?
美羽をこっちの世界に連れてきた後に、家族で何度かしたけど、最後にしたのは結構前だ。
そうして歩き出した俺の隣に着いてきたのは―――――ヴァーリだった。
「今回は君に付き合おう」
▽
「おっ、さっそく一匹目か」
俺、ヴァーリで釣りを開始して数分。
最初のヒットを当てたのはヴァーリだった。
「やるな」
「アザゼルによく連れてこられたんでね。まぁ、キャンプの時に役立っているかな」
「そっか。そういや、アザゼル先生も一時期、釣りにハマってたって言ってたな」
今回の釣りにはアザゼル先生も誘ってみたんだが、予定が入ってて来られなかったんだよね。
今は色々と忙しいみたいだし、また今度誘ってみようかね?
釣り竿の穂先を見ながら、俺はふと、ヴァーリに問う。
「アザゼル先生から聞いたぞ。おまえ、最上級悪魔になったんだって?」
「やはり知っていたのか。まぁ、俺も一度は断ったんだが、冥界で活動するには色々と特権がつくとアザゼルに勧められたんだ」
ヴァーリは釣竿を一旦、下に置くと懐から丸く巻かれた書類を出して、俺に渡してきた。
俺は高貴な装いの羊皮紙を広げると、そこには悪魔文字の文章が書かれていた。
小難しい内容だが、とある一文に俺は注目した。
―――――汝、ヴァーリ・ルシファーを最上級悪魔とする。
俺はその一文を見て、フッと笑んだ。
「おめでとさん。これでおまえも最上級悪魔の仲間入りってな。だけど、やっぱり儀式とかはなしなんだな」
「あくまで秘密裏に与えられた地位なんでね」
「なるほど」
俺が羊皮紙を返すと、ヴァーリは懐にしまいながら言ってきた。
「だが、兵藤一誠。君もそろそろ最上級悪魔に昇格しても良い頃だと思うぞ」
「俺が?」
俺が聞き返すとヴァーリは頷いた。
「悪魔に転生後、約半年で昇格。しかも異例の飛び級だ。君の場合は特殊であり、様々な思惑もあると思うが。上級悪魔に昇格後すぐにリゼヴィム率いるクリフォト、伝説の邪龍、そして異世界の神アセム達との戦いだ。先の戦―――――所謂『次元戦争』と呼ばれるものだが、あれは君の力なしでは到底勝てなかった。君の存在がなければ、今頃、この世界は無くなっていたかもしれない。つまり、君は冥界の英雄どころか、この世界そのものを救った英雄になったわけだ。これ程の存在が上級悪魔の位で留まるはずがないだろう?」
「………アザゼル先生にも似たようなことを言われたよ」
最上級悪魔、か。
正直、今の俺にそんなことを言われても困るな。
悪魔に転生して、ちょうど一年が経つ。
転生後すぐに堕天使とのいざこざに巻き込まれたし、エクスカリバーを巡る事件にも遭い、堕天使幹部との戦いもあった。
その後も、悪神ロキに襲撃されるわ、修学旅行先では最強の神滅具を持つ野郎と戦うわ、冥界の魔獣騒動でも戦った。
昇格後も邪龍だの、ルシファーの息子だのとも戦って………。
これに加えて、異世界絡みでも色々あった。
「自分でもヤバい一年だったと思うよ。全部乗り切ったからこそ、こんな漠然とした感想になるけどな」
「それも仕方がないことだ。この一年で起きたことは、どれもこれも歴史が変わるレベルのことだ。このようなことは過去の歴史を探っても、ほぼ例がないだろう。フフッ、俺達はとんでもない時代に生きているな」
「楽しそうに言うんじゃねーよ。全部、死線ばっかりだったじゃねぇか」
「ああ、そうだ。だからこそ、自然と格も上がって当然とも言える。君が昇格の話が出た時に、困った表情をするのは、下級悪魔、中級悪魔、そして上級悪魔。これらを体験し尽くす前に話が出るからだろう」
「そうなんだよなぁ………」
上級悪魔に昇格する話が出た時も感じたことだ。
悪魔になって日の浅い俺が昇格しても良いのかって。
もちろん、周りが俺を認めてくれた証しでもあるし、それは素直に嬉しいことだ。
でも、今になって思えば、もう少しだけ、下級悪魔や中級悪魔としての経験をしてみたかったと思う。
まぁ、昇格の話が少ない中、贅沢な悩みでもあるんだけどね。
俺がため息を吐いていると、ヴァーリは可笑しそうに言った
「異世界で勇者と呼ばれていたんだ。これくらい今更なんじゃないのか?」
「それとこれとは話が別だろ」
「そうなのか?」
「そうだよ。………つーか、おまえさ。段々、アザゼル先生に似てきたな。話し方と言うか、雰囲気と言うか」
「………そうなのか?」
「そうだよ」
「「………」」
俺達は少し無言になった後、軽く噴き出した。
笑いながら、ヴァーリが言う。
「まぁ、最上級悪魔への昇格も決まった訳じゃない。まだ可能性の話だ。だが、それもそんなに遠い話じゃないだろう。それまでにある程度、考えていた方が良い」
「ああ、何となくでも考えておくよ………っと、俺も当たりだ」
話している間にちょうど、俺の竿にもヒットし、糸を巻き上げていく。
中々の大物なのか、魚が強い力で抵抗してくる。
俺が上手いこと、糸を引くタイミングを合わせていると、ヴァーリが聞いてきた。
「話は変わるが、君は出るのか?」
「レーティングゲームの大会か? ………さて、どうしたものかね。そっちは当然出るんだろ?」
「出るさ。これは好機だ。何せ、既に登録された顔ぶれには神クラスが何柱もいる。公式に神々に挑戦できる機会はそうない。初代孫悟空から預かっている者達にも働いてもらいつつ、チームを構築するさ」
国際大会では、広く募集しており、あらゆる種族、神仏が参加できる。
祭りとしての側面が強いようで、ルールなども本来のレーティングゲームと比べると変わっている部分がある。
まず、チームは最大十六名。
『王』と『女王』が一名、『戦車』『僧侶』『騎士』が二名、『兵士』が八名のチーム構成だ。
ここは本来のルールから変わらないが、ここからが違う。
チームメンバーは眷属でなくても良いんだ。
例えば、悪魔のチームに天使や人間が入って良く、所属チームが二重にならなければ、どんなチーム構成でも許される。
他にも『僧侶』として駒をもらって転生悪魔になった者でも、大会では他の駒として参加できる。
『僧侶』のアーシアが大会では『騎士』として出場できるということだ。
まぁ、アーシアが前衛で剣を振り回す光景なんて、想像できないけど………。
既に各勢力のあらゆる者達、中には神クラスも参加表明をしている。
神々との戦いを望んでいたヴァーリにとって、これ以上ない大会だろう。
「これで昂らなければ嘘だろう?」
と、嬉々として語るヴァーリ。
本当に楽しみにしているようだ。
ヴァーリが真正面から言ってくる。
「曹操、サイラオーグ・バアル、デュリオ・ジェズアルド。あの温厚な鳶尾ですら、『王』としてチームの登録を済ませてある。リアス・グレモリーも出場するのだろう?」
「リアスとソーナも登録は済ませたって言ってたな」
俺の呟きにヴァーリは頷いた。
「俺が知る強者達の中で、登録を済ませていないのは君だけだ、兵藤一誠。………君の場合、体調のこともあるのだろうが」
最後にそう付け加えたヴァーリの目はどことなく寂しげに見えた。
出会った頃のこいつなら、強引に「出ろ」って言ってたんだろうけど、随分と優しくなったものだな。
ここは落ち着いたと言うべきなのか………こう、丸くなった気がする。
「よっと………へへっ、どうよ。おまえよりもデカいのを釣り上げてやったぜ」
釣り上げた魚を手にイタズラな笑みを浮かべる俺。
ヴァーリが釣った魚よりも大きなサイズだ。
すると、今度はヴァーリの竿が海面に引っ張られた。
一気に釣り上げるヴァーリ。
上げられた魚は俺が釣った魚よりも大きい。
ヴァーリはニヤリと笑みを浮かべて言う。
「これで逆転だな?」
「なにおう!? こっちも次の当たりが来てるんだよ! うぉりゃぁぁぁぁぁ!」
などと叫びながら、糸を巻き上げる俺。
見事に釣って見せたが、ヴァーリのものよりも小さくて………。
ふと横を見ると、ヴァーリはフッと笑っていやがった!
ちくしょうめ!
俺はやれやれと息を吐くとヴァーリに問う。
「知っての通り、今の俺は万全には程遠い。禁手すらまともに維持が出来ない程にな。出たところで情けない姿を見せることになるかもしれない。そんな俺でも………おまえは望むか?」
仮にこいつと当たった場合、俺達はサシの戦いになる。
ヴァーリもそれを望むだろうし、俺もやるなら誰の邪魔の入らないサシでやりたい。
だけど、そうなった場合、今の俺がヴァーリと戦ったとして、勝てる確率は相当低いだろう。
十に一つあるかどうか………いや、それ以上に低いか。
俺の問いにヴァーリは静かに口を開いた。
「君は絶対的な危機を前にして、あらゆる手を使って越えてきたはずだ。十に一つ、万に一つだったとしても、君はその一を引き当ててきた。情けない姿と言ったが、俺はそうなるとは思わない。むしろ、今の君なら、これまでにない緊張感と衝撃を与えてくれると思っているよ」
そう言うと、ヴァーリは拳をこちらに突き出してきて―――――。
「俺は今の君と―――――今の兵藤一誠と戦いたい。これでも君の意思は固まらないか?」
「………っ」
………この野郎、言ってくれるじゃないか。
俺の心の内を見透かしたように言うなんて、益々、アザゼル先生に似てきやがった。
しかし、なんだ………今の一言で迷いが晴れた。
モーリスのおっさんが言っていた通り………いや、言われなくても分かってはいたんだ。
俺のライバル達はこういう奴らだって。
でも、もしかしたら俺はその言葉を本人から直接聞きたかったのかもしれないな。
俺は一度目を閉じると、心を完全に切り替えた。
「いいぜ。魅せてやるよ、明星の白龍皇ヴァーリ・ルシファー。とことんまでやってやろうじゃないか」
「楽しみにしているよ、我がライバル。異世界帰りの赤龍帝兵藤一誠」
不敵に笑む俺達は互いの拳を合わせた―――――。
▽
日が沈む夕方。
今晩の夕食は釣り上げた魚を捌いてバーベキューだ。
皆でワイワイ騒ぎながら、準備をしていると、
「あら、たいへん。醤油を持ってくるのを忘れたわ」
母さんの言葉に皆の視線が俺に集まった。
そして―――――
「イッセー、出番だぞ!」
「イッセーさんのお醤油を!」
「メタリックな義手の数少ない出番よ、イッセー君! さぁ、人差し指から醤油を出して!」
「うるせぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! なんで、醤油忘れるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ! ちゃんとチェックしとけよぉぉぉぉぉぉ!」
島全体に響くほどの叫びをあげた俺は、泣きながら人差し指から醤油を出した。
皆さん、忘れ物をしないようにチェックをしましょう。