ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ   作:ヴァルナル

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久し振りの連続投稿!


21話 父として

俺が放ったアグニはバラキエルさんを捉え、一帯を吹き飛ばした。

地面には巨大なクレーターが咲き、辺りに生えていた木々を消し飛ばし、薙ぎ倒してしまっている。

今の俺でもこれくらいの威力は出せるし、手応えはあった。

だが―――――。

 

「今のは危なかった」

 

土煙の中から姿を見せるバラキエルさん。

装備していた軽鎧は変形し、衣服はボロボロ。

バラキエル自身も体から血を流していた。

ダメージはそれなりに受けたらしいが、倒せる程じゃなかったようだ。

恐らく、アグニをくらう直前に雷光を放出してダメージを軽減したのだろう。

 

バラキエルさんは口に滲んだ血を拭った。

 

「流石だ。たとえ、全快でなくともここまでの戦いを見せてくれるとは」

 

「はっ、はっ………伊達にここまでやってきてませんよ」

 

肩を上下に動かして汗を拭う俺。

やばいな、今ので結構スタミナを持っていかれた。

ダメージは今のところ受けていないが、このままだと確実に捕まる。

やられるとは時間の問題だ。

一旦退くか、それとも―――――。

 

バラキエルさんが言う。

 

「この不利な状況下。退くか否かを考えているのだろう? 正しい判断だ」

 

バレてるな………。

 

今の俺とバラキエルさんの単純な力量差は大きい。

だが、逃げようと思えば逃げ切れないことはない。

攻撃しながらも撤退に徹し、身を潜める。

そうすれば、この場をやり過ごせるだろう。

バラキエルさんを撒いた後はアリス達と合流して、相手を迎え撃つ………そんな展開も頭にあったんだけどな。

それがバレてるとなると、そう簡単には逃がしてくれないだろう。

 

バラキエルさんが言う。

 

「このゲームはルール上、先に『王』を倒しても勝敗が決する。こうして君と遭遇した以上、逃がす手はないだろう。他のメンバーもこちらへはこれないようだが?」

 

「なるほど………。アリス達が立て続けにそちらと遭遇したのは俺を孤立させるためだったと」

 

どうりで遭遇戦が連続して生じたわけだ。

 

向こうのチームメンバーも歴戦の堕天使が勢揃いだ。

幹部に、それに近い実力を持った者もいる。

いくらアリス達でもそう簡単には倒させてくれないだろうな。

援護は見込めないか………。

となると、俺は何としてでもこの状況から一人で脱しないとな。

今の俺が真っ向からやって、この人に勝つのは至難の技だ。

 

作戦を頭の中で巡らせていると、バラキエルさんが言ってきた。

 

「この戦い、私は君を殺す気でやっている」

 

「そ、それは真っ昼間から朱乃とイチャイチャしてたからですか!?」

 

「いや、そうではない!」

 

「朱乃が俺を応援すると言ったからですか!?」

 

「………そ、それも違う!」

 

今、言葉を詰まらせたよ!?

ちょっとそれもあったよね!

やっぱり、相当ショックだったんだ!

 

バラキエルさんは一度、咳払いをすると真剣な表情を見せた。

 

「先程、私は君を試すと言った」

 

「ええ。一体、俺の何を試すと言うんです?」

 

俺の問いにバラキエルさんは一拍置いてから答えた。

 

「この先、君が朱乃を本当に守れるかどうかだ」

 

俺が朱乃を守りきれるか………だって?

絶対に幸せにしてみせると誓ったんだ、何がなんでも守りきる。

それはバラキエルさんにも宣言したことだ。

バラキエルさんはこのゲームを通して、その誓いに変わりがないのか見ようと言うのだろうか?

 

「君が朱乃を想う気持ちは本物だということは分かっている。朱乃も君のことを本気で好きなのだということもな。だから、私は君達の仲を認めた。だが………たまに不安になるのだ」

 

「不安?」

 

俺が聞き返すとバラキエルさんは頷く。

 

「私は妻と娘を守れなかった男だ。もっと私が早く駆けつけていれば………そんな、もうどうしようもないことを何度も考えてしまう。今度こそ………いや、もう二度と朱乃にあんな辛い思いはさせたくない」

 

「そのために俺を試す………と?」

 

「そうだ。今の君が酷く弱っているのは分かっている。それも世界を救った代償であることも。そんな君にこんなことを言ってしまうのは酷であり、卑怯だとも思う。だが、大切な存在を託す身としては確認しておきたいのだ。君はどんな時でも、どんな状態だろうと朱乃を守れるのだろうか? この先、君が家庭を持ち、親となるならば尚のこと確かめておきたい」

 

朱乃はバラキエルさんにとって、かけがえのない存在。

それを俺に託すと言うんだ。

絶対に、何がなんでも、何が起きても守りきって欲しいと願うのは当然のこと。

たとえ守るという強い意思があったとしても、それを実行できる力がなければ意味はない。

だから、俺が力を失い、不安定な今だからこそ、バラキエルさんは俺を試そうしているんだ。

 

俺はまっすぐ、バラキエルさんの目を見て答えた。

 

「分かりました。全力で今の俺を確かめてください。俺も全力で朱乃を守れる男であることを証明します」

 

「いい答えだ」

 

バラキエルさんはそう言うと、拳を握り、両腕に装着しているガントレットをぶつけた。

火花が散ったと思った瞬間―――――ガントレットから強い波動が放出され始めた!

 

「なんだ………!?」

 

あれは神器か何かか?

アザゼル先生はファーブニルと契約して、自分専用の人工神器を使っていた。

もしかして、バラキエルさんも専用の神器を?

だけど、この波動はドラゴンのものじゃ………。

 

驚く俺にバラキエルさんは言う。

 

「これは私専用の人工神器『蒼雷の籠手(ライトニング・アームド・ギア)』。複数の上位ドラゴンと契約して作られたものだ。まぁ、試作ゆえに出力はそこまで高くない上に不安定なものだが」

 

複数のドラゴンと契約して作った!?

それだけでヤバそうな臭いがプンプンするな!

 

そんなことを考えていると、バラキエルさんは静かに言葉を発した。

 

「―――――禁手化」

 

刹那、閃光が一帯を照らす!

眩しすぎて目が開けられないほどだ!

 

『………気を付けろ、相棒。バラキエルは本気だ』

 

ドライグがそう警告してくる。

 

分かってるよ。

だって、感じられるこの波動、このオーラ………これはヤバい!

 

閃光がおさまり視界が戻ってくる。

すると、白煙の中からバラキエルさんが姿を見せて―――――

 

「『蒼雷の(ライトニング・ウォーロード)武鎧(・アナザー・アーマー)』」

 

見た目はサイラオーグさんの禁手に近く、戦国武将のようにも見える。

周囲には蒼白いスパークが飛び交い続けていて、落ちてきた木の葉が触れた瞬間、消し炭へと変えた。

 

ドライグが言う。

 

『この波動は蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)のものか』

 

アーシアの使い魔、ラッセーと同じ種族のドラゴン!

そういや、タンニーンのおっさんの配下にもいたよ、でっかい蒼雷龍。

あのドラゴンと契約しているのか!

雷光のバラキエルさんに蒼い雷撃を司るドラゴン!

相性バッチリじゃないか!

 

『四、五………いや、もっとか。俺やアルビオンと比べると劣るだろうが、上位ドラゴンの力が複数合わさるとなるとかなり強力だ。堕天使幹部が複数の蒼雷龍の力を纏う。これは想像以上にキツくなるぞ』

 

ドライグの解説に嫌な汗が流れる。

 

断言は出来ないけど、バラキエルさんの性格からして、あまり複雑な能力ではないはずだ。

それに鎧を纏うタイプの神器はパワーを底上げしてごり押しするものが多いしな。

………ま、まぁ、単純なごり押しだけでも相当ヤバいけどね。

 

『だが、複数のドラゴンの力を使用しているということは、ある程度波長が合わなければ相応の力は発揮できないだろう。神器はそんなに簡単なものじゃない。向こうの力が乱れた時が狙い目だな』

 

なるほどね。

試作って話だし、そもそも不安定らしいからな。

こちらで上手く乱すか、それとも時が来るのを待つか。

でも、向こうもそれを分かっているはずだ。

恐らく、短期決戦を仕掛けてくると思う。

制限時間があるとして、俺はその制限時間を生き残ることができるか………?

 

バラキエルさんが拳を引いて、構えた。

 

「構えたまえ」

 

「………っ!」

 

短く発せられた言葉から凄まじいプレッシャーを感じる!

まるで、見えない壁が迫ってくるような圧迫感!

 

俺はすぐに構えを取って―――――

 

「遅いぞ」

 

一瞬でバラキエルさんに顔を捕まれた俺は成す術なく、そのまま吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

バキバキバキバキ………と何本も木をへし折りながら森を突き抜けていく俺。

 

「止まれ………ぇ!」

 

俺は籠手からアスカロンを抜き放ち、地面に突き刺した。

突き刺さったアスカロンを両手で握ることで、ようやく勢いが止んだ。

 

ふぅ、と息を吐く………が、休んでいる暇はない。

バラキエルさんが蒼白い稲妻を放出させながら、とてつもないスピードで突っ込んできているからな!

 

俺が動くよりも早く、バラキエルさんは距離を詰めてくる!

一瞬で間合いを殺された!

雷光の乗った拳が俺の鳩尾にめり込んでくる!

 

「ガッ………ァァァァァァァッ!」

 

吐血すると同時に絶叫する俺。

体に響く衝撃に、肉体を焼く雷撃!

悪魔の肉体を蝕む光の力! 

たった一発で何もかもが消えそうになる!

そんな俺目掛けて、更に拳が降り注ごうとしていて、

 

「させる………かよ!」

 

痺れる体に鞭打って、バラキエルさんの拳をアスカロンで受け止める。

だが、連続攻撃は防いだものの、受け止めた時の衝撃までは流しきれない。 

 

「ぬんっ!」

 

バラキエルさんが拳を振り抜くと、俺はそのまま吹き飛ばされる!

このままじゃ、受け止めては吹き飛ばされるの繰り返しになる。

俺は吹き飛ばされた勢いに身を預けながら、気弾を幾つか放った。

気弾は全てバラキエルさんに命中するが………全く効いていない。

体を包む雷光がこちらの攻撃を完全に打ち消しているんだ。

 

「咄嗟に放ったとは言え、牽制にもならないか………!」

 

こいつは、リーシャの魔法狙撃も当たったところでダメージを与えるのは難しそうだ。

何とか体勢を整えた俺は木々の間を縫うように走り出す。

真っ向からやり合うのはこれまで以上に分が悪すぎる。

ならば―――――。

 

俺はバラキエルさんの追撃から逃げながら、足を使って、小さな気弾を地面に配置していく。

置いていった気弾の数は十。

気弾は地面の中に埋め込まれているので、相手からは見えない。

バラキエルさんが気弾の上を通過した瞬間―――――地面が爆発する!

一つの気弾が弾けた瞬間、連鎖的に他の気弾も弾けていき、一帯を破壊する大爆発を引き起こした!

 

「機雷型の気弾。上手くダメージを与えられるか………?」

 

倒すまではいかないだろうが、多少のダメージは通っていてくれよ?

そう切に願いながら燃え盛る爆炎に視線を向ける。

すると、

 

「これだけかね?」

 

パンパンと埃を払いながら姿を見せるバラキエルさん。

あまりに平然とした様子に俺は苦笑する。

 

「いやいやいや………無傷ですか?」

 

「無傷だとも。君の攻撃は少しも私にダメージを与えてはいない」

 

ハッキリと言われて肩を落とした。

これ、アグニ撃っても、倒すまではいかないんじゃないか?

どうしたものか………。

 

バラキエルさんの対策を練っているところに、通信が入る。

 

『イッセー様! 美羽さんのところにアルマロス様が向かわれましたわ! 襲撃を受けています!』

 

マジか!

美羽は相手に気づかれないよう、隠れて『オブジェクト』の解析に当たっていたはずだ。

なんで、場所がバレた………?

 

そんな俺の疑問に答えるようにバラキエルさんが言った。

 

「アルマロスは対魔法、対魔術のスペシャリスト。広いとは言え、この限定されたフィールドだ。僅かな魔法反応を感じることさえ出来れば、見つけることなど容易い。更に―――――」

 

バラキエルさんが言葉を続けようとした時、実況が叫んだ。

 

『アルマロス選手、なんとアンチマジックフィールドを発動! 兵藤美羽選手の魔法が完全に封じられたぁぁぁぁぁ!』

 

美羽の魔法を封じただと!?

アンチマジックフィールドって、発動させるのにそんな短時間で発動できたか!?

 

バラキエルさんが言う。

 

「特定の相手のみに発動するアンチマジックフィールド。彼女の魔法力や彼女の特性を完全に解析することで、即時発動できるものだ。無論、対象の人物以外には効果を出さないが」

 

「美羽の特性の解析? こんな短時間で………いや、違うな。日常から美羽を観察していなければ、こんな芸当はできない。そんなことが出来るのは―――――」

 

レイナしかいない。

兵藤家に住み、生活を共にしているレイナなら、美羽の魔法力を観察することができる。

バラキエルさんは事前に美羽を封じる手立てを得ていたんだ。

 

バラキエルさんが言う。

 

「彼女を責めないでやってほしい。私がやらせたことなのだからな」

 

「最初から俺達の対策をしていたってことですか」

 

「ああ。この大会で君と当たることもあるだろうと考えていたからな」

 

そう言って、バラキエルさんは雷光を放ってくる。

俺は再び回避に徹しながら、反撃の隙を伺う。

 

なんてこった。

バラキエルさんはこの大会が始まった時から、俺と戦う時に備えて準備していたのか。

 

俺は飛んでくる雷光を避けながら、メンバーに通信を入れる。

 

「美羽、無事か?」

 

『かなり厳しい! 完全に魔法を封じられて………今は魔力で対応してるけど、このままじゃやられる!』

 

魔法は無理でも魔力は使えるのか。

そこだけは救いだ。

 

「いいか、無理に戦うな。魔法が使えるようになるまで逃げに徹しろ。………リーシャ! 美羽に一番近いのは?」

 

美羽は『オブジェクト』解析の要。

ここで撃破されたら、探索が難しくなる。

つまり、俺が討ち取られた場合は敗北が決定するが、この場を凌げたとしても、美羽が討ち取られたら、俺達の敗色が濃くなる。

このゲームに勝つには俺と美羽、二人が生き残る必要があるということだ。

 

リーシャからの返事が返ってくる。

 

『モーリスですね。私の魔法狙撃は全て弾かれました』

 

「リーシャの狙撃も?」

 

『ええ。ですが、発動自体は出来ていますし、アルマロスさんの着ている鎧に触れてから霧散していました。恐らく、装備にアンチマジックが施されているのでしょう』

 

アルマロスさんがアンチマジックの研究者なのは知っているが、異世界の魔法も封じてくるとは………。

流石に研究者気質の戦士が多いグリゴリの幹部だな!

 

「どっちにしてもリーシャの援護が出来ないのは痛手だな………。よし、とりあえず、モーリスのおっさんは美羽の援護に向かってくれ!」

 

俺の通信におっさんが言う。

 

『ふぁぁぁ………寝みぃ。へいへい、任されたぜ』

 

何とも緊張感のない返事ですね!

あくびしてたぞ、このおっさん!

俺がツッコミを入れようとした時、アナウンスが流れる。

 

『「雷光」チーム、「兵士」三名リタイア』

 

おおっ、うちのメンバーが倒したのか!

しかも三名も!

誰が倒したんだ?

 

『へっ、俺を足止めするには実力不足だな』

 

「いや、あんたが倒したんかいぃぃぃぃ!」

 

このおっさん、あくびしながら、しかも木刀で上級の堕天使三人倒しちゃったよ!

大丈夫かな、堕天使の人達!?

トラウマ刻まれたりしてないよね!?

 

アリスから通信が入る。

 

『それより、あんたはどうなのよ? かなり厳しい状況みたいだけど………。「王」がとられたら、負けなのよ?』

 

分かってる。

このゲームは『オブジェクト』を多く破壊するか、相手の『王』を討ち取れば勝敗が決する。

このままだと、俺が取られる可能性は高い。

『王』と『戦車』を入れ替える『キャスリング』を使いたいところだが、バラキエルさんの追撃がする暇を与えてくれない。

 

「一、二………いや、三か」

 

俺は周囲を見渡しながらそう呟いた。

なるほど、バラキエルさんの作戦が読めてきたぞ。

 

バラキエルさんから逃げるのも限界がある。

このゲームはこうなった以上、絶対に負けられない。

となると………しょうがない、か。

 

「皆、すまん。アレを使う。今から言うことを聞いてくれ」

 

そう言うと俺は懐から赤く輝くそれを取り出した。

 

 




~あとがきミニストーリー~ 


イグニス「私のターン! ドロー!」

イッセー「前回から続くのか!? えぇい、木場の次は誰が犠牲になるんだ!」

イグニス「『可哀想な英雄・劉備(ネームミスヒーロー)』をツッコミ表示で召喚!」

曹操「いや、曹操ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

イッセー「おまえかいぃぃぃぃぃ!」

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