ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ 作:ヴァルナル
[木場 side]
「イッセー君の様子がおかしい?」
放課後、授業を終えた僕達は部活のため、オカルト研究部がある旧校舎に向かっていた。
その中で、アーシアさんが妙なことを言い出したんだ。
僕の問いにアーシアさんが頷く。
「はい。今日のイッセーさん、何か怖い顔をしていて………」
アーシアさんの言葉にイリナも頷いた。
「あ、私も見たかも。ダーリンってば、何かこう鬼気迫る用な………覚悟を決めたような顔をしていたわ。話しかけても、こっちの声が届いてなかったもの」
覚悟を決めたような顔を?
イッセー君に何かあったのだろうか。
特に心当たりのなかった僕はアリスさんに話を振ってみた。
「アリスさんは何か知っていますか?」
僕の問いにアリスさんは首を横に振った。
「私も知らないのよ。ただ、少し前から一人で考え込んでるようだったわ。一応、私も声をかけてみたけど、教えてくれなくて………」
『女王』たるアリスさんにも教えていないのか。
だが、言われて思い返せば、ここ数日のイッセー君の様子はどこか変だった。
一見、普段と変わらない様子だけど、時々、上の空になっているのか、会話が続かない時があったんだ。
どうしたのかと訊いても、「あー、なんでもないんだ。ゴメンゴメン」と言われてしまって………。
レイヴェルさんが肩を落として、深く息を吐く。
「悩みがあるのなら、頼ってほしいのに………。私は頼りにならないのでしょうか………」
「そんなことないよ、レイヴェル。イッセー先輩がレイヴェルを頼りにしているのは皆、知っているよ」
「そうですよ! イッセー先輩はいつもレイヴェルさんは頼りになるって言っていました!」
落ち込むレイヴェルさんに、小猫ちゃんとギャスパー君が声をかける。
イッセー君はいつも「レイヴェルを頼りにしすぎていてなぁ………」「レイヴェルがいなきゃ、うちの眷属マジで終わってる」と言っていたほどだ。
イッセー君にとって、レイヴェルさんの存在が大きいのは周知の事実。
むしろ、レイヴェルさんに少しは休んでほしいとも言っていた。
レイナさんが訊いてくる。
「そのイッセー君はどこに?」
「さぁ? 気づいたらいなかったし。あれ? そういえば、美羽ちゃんもどこ行ったのかしら? 授業終わるまで、二人ともいたのに」
話しているうちに僕達は部室の前に到着。
部長であるアーシアさんが扉を開けて、部屋に入った―――――その時。
僕達は目を見開いた。
「な、何、これ………!?」
イリナが驚愕に満ちた声を出した。
僕達の視界に入ってきたもの。
それは夥しい量の血だった。
床に広がった血の海。
見ると壁や天井にまで血が付着している。
まるで殺人現場のような光景だ。
なんだ………!?
何があったというんだ!?
昨晩、悪魔の仕事で使用した時はこんなものはなかった。
つまり、僕達以外の誰かがここで………?
緊急事態に思考が加速されていく中、不意にあるものが目に移った。
それは―――――血の海に横たわるイッセー君だった!
「イッセー君!?」
慌てて駆け寄る僕達。
イッセー君は白目を向き、ビクンビクンと体を痙攣させていて………。
「イッセーさん、しっかりしてください!」
アーシアさんが治癒を施していくが、イッセー君の鼻から流れる血は止まる気配を見せない。
アーシアさんの力でも治せないなんて………!
僕は小猫ちゃんに言う。
「今すぐリアス姉さんに連絡を! もしかしたら、イッセー君の体に異常があったのかもしれない! 病院の手配をしてもらうんだ!」
僕の指示に小猫ちゃんは頷き、すぐにリアス姉さんに連絡を入れる。
その間にもイッセー君の出血は激しさを増していく。
そうか………きっと、イッセー君は体の異常に気づいていたんだ。
近々、自分の体がこうなると分かっていた。
だからこそ、僕達に心配をかけまいと、一人で何とかしようとしていたんだ………。
僕は震える手でイッセー君の体を抱いた。
「すまない、イッセー君! 近くにいたはずなのに君を助けることが出来なかった………! 僕は………僕は………!」
仲間が苦しみ、悩んでいたのに僕は気づけなかった………!
助けることが出来なかった!
イッセー君は僕達に心配をかけまいと必死に苦しみを堪えていたはずなのに!
レイヴェルさんも涙を流しながら叫ぶ。
「嫌です、イッセー様! 私、まだイッセー様のお役に………! お願いです、私を置いていかないでください!」
「イッセー先輩!」
「ダーリン! お願い、目を覚まして!」
「イッセー君!」
ギャスパー君、イリナ、レイナさんが叫ぶ。
しかし、アリスさんの口からは衝撃の言葉が出された。
「そこのバカは放っておきましょう。さー、部活を始めましょー」
―――――っ!?
アリスさんがそんなことを言うなんて、信じられなかった。
今にも死にそうになっているイッセー君を置いて、部活を始めようとするなんて………!
イリナがアリスさんに食って掛かる。
「アリスさん! あなた、ダーリンのことどうでも良いの!?」
すると、アリスさんは小さく息を吐いて言った。
「だって、それ―――――小さくなった美羽ちゃん見て、興奮しただけだもの」
「「「「え………?」」」」
揃って間の抜けた声を出す僕達。
アリスさんが指を指した方を見ると―――――小さな少女。
イッセー君に気をとられ過ぎて気づかなかった。
歳は五歳くらいだろうか。
艶やかな黒髪の可愛らしい少女が一人、ポツンと立っていた。
少女はどこか面影があって………。
「あ、あはは………。え、えっと………美羽です」
美羽と名乗った少女のすぐ側には見覚えのあるものが落ちていた。
確かあれはアザゼル先生の発明品。
イッセー君が小さくなった時の―――――。
この時、僕達は全てを理解した。
そして―――――
「「「「ただのシスコンだろうがぁぁぁぁぁぁあ!」」」」
全員でイッセー君にハリセンを叩き込んだ。
[木場 side out]
▽
「ゴフゥッ! ゲハッゴボッ! 可愛い………可愛いぞ、美羽ぅぅぅぅぅぅぅ!」
「いや、血吐きすぎでしょ! どれだけ血吐くの!?」
鼻血を滝のように噴き出す俺にレイナのツッコミが入る。
確かに今の俺はいつも以上に血を吐いているのかも知れない。
もう制服はおろか、部室中が俺の血で染まっている。
だがな、これは………これだけはしょうがないんだ!
だって―――――
「おにーちゃんってば、興奮しすぎだよ………」
小さくなった―――――ロリ美羽が目の前にいるんだものぉぉぉぉぉぉぉぉ!
細く小さな体!
全身から醸し出される儚げな雰囲気!
無垢を体現したような存在!
そんなのに「おにーちゃん」なんて言われたら、俺は………!
俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ブッフォォォォォ!」
吐血するしかねぇだろぉぉぉぉぉぉぉ!
イヤッフゥゥゥゥゥゥゥ!
「小さい美羽先輩を見るために態々、アザゼル先生に頼んで、こんな装置まで作ってもらっていたなんて………。まずは私達の心配を返してください、シスコン先輩」
小猫ちゃんが蔑みの目で俺を見てくる!
イッセー先輩じゃなくて、シスコン先輩になってる!
「そうだね。今回ばかりは僕も呆れてしまったよ」
腕を組んで壁にもたれる木場!
なんか、氷のような視線を向けてくるんですが!?
アリスが煎餅をかじりながら言う。
「あんたバカでしょ。大バカ者でしょ。本当、どれだけシスコンを発揮すれば気が済むのよ?」
「無論死ぬまで」
「小猫ちゃん、何か言ってやってよ」
「とりあえず部屋の掃除をしてください、シスコン」
おぅふ!
小猫ちゃんからの鋭い一撃!
ついに『先輩』って付けられなくなったよ!
木場が言う。
「最近、イッセー君の様子がおかしいって話をしてたけど………まさか、小さくなった美羽さんを妄想していただけだなんて。というか、ただでさえ重度のシスコンなのに、小さい美羽さんを見たらこうなることくらい予想できたよね?」
「うん。実は死ぬ覚悟もしてた」
「どんだけ!?」
俺は窓際に肘を置くと、沈む夕日を見つめながら言った。
「自分のことは自分が一番良く分かっている。ただでさえ可愛い美羽の幼少期なんて見てしまえば………更に『おにーちゃん』なんて言われてしまえば、俺は興奮しすぎて死ぬかもしれない。すごく悩んださ。美羽を小さくするか、しないか。だが、俺は何が何でも生きてやるって決めたんだ。何が起きても死にはしない。だから………やっぱり美羽を小さくしてみることにしました」
「絵面だけは渋いけど、言ってる内容はただのシスコンだからね!? しかも、最終的に欲望に負けてるよ!」
「フッ………悪魔は欲に生きる存在だからな」
「魔王様! 八つ目の大罪としてシスコンの罪を付け足してください!」
「無理だな。四大魔王のうち二人がシスコンだもの。妹ラブだもの」
「そうだったぁぁぁぁぁぁ!」
ダァン!と床を叩く木場。
七つの大罪にシスコンは加えられません。
だって、罪じゃないもの。
兄貴が妹を愛でる、これは至って普通の行為。
撫で撫でするのも、アルバムを作るのも当たり前だろ?
可愛さのあまりに血を吐くのも不思議なことじゃないよな?
木場が嘆いている横ではイリナが美羽に訊ねていた。
「美羽さんもよくオッケーしたよね」
「ま、まぁ、なんというか………ボクも小さいおにーちゃんで色々と暴走しちゃったし」
美羽の言葉にこの場の女性陣はハッとなった。
俺は小さくなる度に美羽に、アリスに、リアスに、皆に弄られてきた。
抱っこされたり、服を着替えさせられたり、まるでぬいぐるみのように扱われてきた。
だからさ―――――
「フハハハハ! 分かったか、君達! これはこの俺、兵藤一誠の逆襲でもあるのだよ! 故に、正義は我にありぃぃぃぃぃぃ!」
「イッセー先輩のキャラが変わってますぅ!」
「ギャスパー君! これは僕にも捌ききれない! ツッコミを頼んだよ!」
「ひぃぃぃぃ! 僕には無理ですぅぅぅぅぅ! アリス先輩、助けてくださいぃぃぃぃ!」
「なんで、私!?」
木場が、ギャスパーが、アリスがツッコミの擦り付け合いをしているが、今の俺にとってはどうでも良いこと。
今の俺にはやるべきことがたくさんあるのだ。
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
「今のうちにロリ美羽の写真を撮っておかねば!」
高速でシャッターを切る俺!
ソファにちょこんと座るロリ美羽が可愛くて可愛くて可愛くて!
「ちぃ! カメラのメモリーが! だが、予備はまだまだある!」
ガシャン ジャキン!
「今の何の音!? 弾丸のリロードした!?」
「問題ない。こいつはアザゼル先生に頼んで作ってもらったカメラ。早撃ちならぬ早撮りができる」
「それ必要!?」
木場のツッコミをスルーして、俺は様々な角度から撮影した。
お菓子を食べるロリ美羽、あくびをするロリ美羽、横になった時のロリ美羽…………。
「ゴフゥゥ!」
「もう吐血は良いよ! しつこいよ、いい加減!」
木場のツッコミが全力投球される。
すると、美羽があることを提案した来た。
「ねぇねぇ。折角だから、サラちゃんにも小さくなってもらう?」
全身に衝撃が走った。
なん、だと………!?
サラちゃんを小さくする、だと!?
良いのか、そんなことして。
お兄ちゃん、マジで天に召されるぞ。
興奮しすぎて体が破裂するかもしれないぞ。
北斗○拳のモヒカンキャラみたいになってしまうぞ。
サラに視線を向けると、サラは指をモジモジさせながら言った。
「え、えっとね。にぃにがしたいなら………良いよ?」
いかん、この段階で既に可愛い。
抱き締めたくなる。
だが、サラの許可は得た。
俺は迷わず、息をするようにアザゼル先生の発明品にあるボタンを押した。
カッと眩い光が部室を照らす。
光が止むと、そこには―――――
「うぅ………服ダボダボ………」
小さくなった体には大きすぎる制服に戸惑う紫色の髪の幼女がいた。
まるで子犬のような雰囲気があり、今すぐにでも抱き上げたくなるそんな………。
なに、この儚さの化身みたいな存在。
こんなの見せられたら俺は―――――
「くっ………俺の命もここまでか………」
「だから、なんでそうなる!?」
「いや、可愛いすぎるだろ………見ろよ、木場。おまえ、ロリサラたんを見て何とも思わないのか?」
俺に言われてロリサラたんを見る木場。
数秒後―――――
「ふぅんっ!」
木場は自身の側頭部を全力で殴り付けた!
ギャスパーが叫ぶ。
「祐斗先輩、何をしているんですか!? 凄い音しましたよ!?」
「………危うく向こうの世界に旅立ってしまうところだったよ。ここで僕がボケに回るわけには………!」
なんてやつだ………!
木場め、自分を痛め付けることでシスコンゲートから逃れやがった!
シスコンの道は走らないというのか!
イリナが感嘆する。
「なんてツッコミに対する責任感なの! 流石よ、木場君!」
「いや、この状況的にもうボケ側だと思うけど」
小さくなった美羽がサラに目配せする。
二人は俺の両サイドに来ると、甘えるように腕に抱きついてきた。
そして、二人は俺の顔を見上げて、
「おにーちゃん」
「にーに」
そして―――――
「「大好き!」」
その後の記憶はない。
ただ、後で聞いた話によると、興奮しすぎて気を失った俺は床の上を魚のようにビチビチ跳ねていたという。
▽
後日、サーゼクスさんと話す機会があったのだが………。
「アザゼルから聞いたよ。妹を小さくする装置を貰ったそうだね。そこで、相談がある。………リーアたんを! リーアたんを小さくしてくれないか! あの頃のリーアたんをもう一度、この目に!」
この事をリアスに言ってみたところ、
「却下よ」
却下されました。
~あとがきミニストーリー~
イグニス「体は子供、頭脳は大人! その名は――――」
アセム「おねショタイッセー!」
イッセー「よぅし、おまえら表出ろ。まとめて説教してやらぁぁぁぁぁぁぁ!」