ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ 作:ヴァルナル
美羽と買い物から帰ってきた俺を待っていたのはあまりに悲しくなる光景だった。
「リーシャ………何やってるの?」
兵藤家のリビングにて、カーペットの上に座り込むリーシャ。
そして、リーシャの正面にはフェンリルがいた………仰向けの状態で。
リーシャが帰宅した俺達に微笑みながら言う。
「おかえりなさい、イッセー、美羽さん。今はフェンリルちゃんの歯磨きをしているのです」
そう言って、フェンリルの口を手で開けるリーシャ。
フェンリルはというと、ただ口を開き、なんとも言えないといった表情で黙っていて………。
「はーい、まずは歯石を取りましょうね~」
「………」
専用の道具を使い、リーシャはカリカリとフェンリルの歯石を取っていく。
………なんだろうね、この気持ち。
最初に会った時はとてつもないプレッシャーを放っててさ、背筋が凍ったくらいだったんだよ。
俺も美羽もこいつの牙と爪にやられて、死にそうになったんだよ。
最強の生物、神すらも殺す狼のはずなんだよ。
それが今、床に仰向けの状態で寝転がされて、口を開かれて、カリカリ歯石取りをされている。
俺のこの気持ちが分かるか?
悲しくてちょっと泣けてきたんですけど。
美羽も憐れみを含んだ目でフェンリルを見ていて、
「泣いても良いと思うよ。許されると思うから」
「………キュゥン」
フェンリルゥゥゥゥゥゥ!
そんな鼻をピスピスさせながら泣くなよぉぉぉぉぉぉぉ!
俺も涙が止まらなくなっちまったじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉ!
悲しみの涙で目を濡らす二人と一匹を置いて、リーシャはニコニコ顔でフェンリルの牙を磨いていく。
「立派な牙ですね。ですが、やはり日々のケアは必要ですよ? ちゃんと毎日、歯磨きをしないとです」
なんて言いながらペットショップで買ってきたと思われる犬用の歯磨き粉を歯ブラシに着けてゴシゴシしている。
どうしよう………どうしたら良いんだろう。
俺はフェンリルに何をしてやれるんだろう。
ドライグ、伝説の存在同士だろ?
こういう時、どうすれば良いと思う?
『泣けば………いいんじゃないのか』
俺達はただ泣き続けることしか出来なかった。
▽
「うふふ、フェンリルちゃんはとても大人しい子ですね。こんなに大人しい子は久し振りかもしれません」
フェンリルの歯磨きタイムが終わり寛ぐリーシャ。
紅茶を飲み優雅に決めているが、片方の手はフェンリルの毛並みを楽しむようにモフモフしている。
大人しいというより、全てを諦めただけじゃないだろうか。
リーシャのペースにされるがままだったもんな。
ここでキッチンから茶菓子を運んできたルフェイが会話に入ってくる。
「お疲れさまです。すいません、リーシャさん。私がしなければならないことをお任せしてしまって」
「いえいえ、私も好きでやってることですし」
あぁ、フェンリルが完全にただのペット扱いされてる………。
フェンリルもよく怒らないよね。
ルフェイとリーシャのように純粋な気持ちでやってくる人には怒れないんだろう。
これが黒歌や美猴なら絶対噛んでるよ。
リーシャがフェンリルの肉球を揉みながら言ってくる。
「これも私達のチームには必要なことなのですよ、イッセー」
「あー、例の件ね。一応、確認しておくけど、良かったんだよな、ルフェイ?」
俺が尋ねるとルフェイは頷いた。
「はい。ヴァーリ様も快く許可をくれましたし、私も問題ないと思います」
実はリーシャがフェンリルの歯を磨いたりしているのはちゃんとした理由がある。
それは俺達のチームに関わることだったりする。
だけど、必要以上にフェンリルをモフモフしているのは完全にリーシャの趣味だ。
リーシャがフェンリルの体に顔を埋めながら言う。
「ふぁぁぁ………この時間が至福ですぅ………。この毛並み、ちょうど良い大きさ。添い寝をしてくれたらどれだけ幸せなことか」
どうしよう、リーシャが何かに目覚めちまった。
俺達が帰ってきてからも、ずーっとモフモフしてるもの。
離す気配がないもの。
綺麗な女性が大型犬を撫でている光景って、すごく絵になると思うんだけど………これは何か違う。
そもそも神をも殺す伝説の狼はモフモフしていい存在じゃないと思うんだ。
などと思っていると、リビングにリアスが入ってきた。
「あら、イッセー。お帰りなさい………って、何このすごい光景」
目元をひきつらせるリアス。
それもそうだろう。
リーシャがフェンリルを転がして超モフってるんだから。
俺は苦笑しながら言う。
「ただいま。もう、これに関してはそっとしておいて。俺もツッコミ出来ないくらいだから」
「そ、そう。それより、イッセー。そろそろ大会のスケジュールが発表される時間よ」
「あっ、そんな時間か」
これから国際大会に関する冥界の特別番組が放送されるのだが、そこで当面のスケジュール―――――組み合わせが発表される。
俺のチームも昨日には数試合分の参加登録を済ませてある。
昨日に参加登録した各チーム分のスケジュールが、今夜一気に発表されるらしい。
時間になり、リビングに俺とリアス、それぞれのチームメンバーが集まった。
テレビでは番組が始まり、司会の人が番組を進行させていく。
そして、いよいよ組み合わせが発表されることになった。
画面には組み合わせ表が表示されており、『VS』表記を中心にして、左右のチーム名が出され、対戦カードが決まっていく。
徐々に発表される組み合わせ。
既に発表された中には俺達の次の試合、更にその次の試合が含まれていた。
アリスがおつまみをポリポリしながら言う。
「あ、このチームの試合は前に見たっけ?」
「そうですわね。油断しなければ大丈夫でしょう。心配なのは相手チームの棄権でしょうか」
レイヴェルがチラッとモーリスのおっさんに視線を向ける。
おっさんはというと、父さんと母さんが作ったタコわさを酒のあてにしていた。
「ま、それも作戦だろう。無理して消耗するよりは良い。親父殿、飲め飲め」
「モーリスさんこそ、空じゃないですか。ささ、どぞどぞ」
二人で酒を注ぎ合い、グビグビと飲んでいて………。
うん、仲良いな、二人とも!
別に良いことなんだけどさ!
出場メンバーなのに、我関せずなおっさんを放置して、俺は再びテレビに視線を戻す。
試合の組み合わせが進む中で、あるマッチングに注目が集まった。
会場のアナウンサーもその対戦カードに思わず大きな声をあげていた。
『おおーっと! ここでこれらのカードが決まるとは! 今回行われたマッチングでは、大注目の組み合わせになりそうです!』
映し出された二つの組み合わせ。
それは―――――
「紫金の獅子王」サイラオーグ・バアルチーム
VS
「天帝の槍」曹操チーム
「異世界帰りの赤龍帝」兵藤一誠チーム
VS
「天界の切り札」デュリオ・ジェズアルドチーム
このカードが発表され、テレビの向こう側に映る会場では怒号のような歓声が鳴り響いた。
ここでこの組み合わせが来るかよ。
俺とデュリオが戦うなんてな!
参加する以上はいつかはチーム『D×D』のメンバーと当たることになる、それは分かっていたが………。
モーリスのおっさんが言う。
「ほう、こいつは面白い。あの兄ちゃんが率いるチームか。イッセー、気合い入れとけよ? こいつらは今まで当たった連中とは一味も二味も違うぜ?」
「分かってるよ。デュリオとはガチのバトルになりそうだ。おっさんも油断すんなよ?」
「はっ、言うようになったじゃねぇか。だが、今までの対戦相手はどうにも本気じゃあなかったからな」
おっさんの言葉に木場が訊ねる。
「というと?」
「多くの神々が、神に匹敵する猛者が集まるこの大会だ、自分達が最後まで勝ち残れると本気で思っちゃいねぇ。運良く滑り込めたら良い、記念参加程度に考えている奴らがいたのさ。見たところ、この大会に出ている大半がその程度だろう」
おっさんはテレビに視線を移して続ける。
「たとえ神だろうが、魔王だろうが、最強のドラゴンだろうが倒してみせる。本選に駒を進め、最強の名を手にするのは自分達だと信じて進む。そんな気概で臨んでいるのは極僅かだろうよ。まぁ、この大会自体が祭りみたいなもんだし、俺達もそこを楽しんでいるところはある。だが―――――」
「そこには決定的な違いがある、ということね?」
リアスの言葉におっさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「そういうこった。さっきも言ったが、この大会のルール的にも、神との戦いを避けるのも本選に進むための一つの手だ。だが、裏を返せば通じるのは予選まで。本選に入ってからは間違いなく神との戦いになるんだよ。作戦は作戦、気持ちは気持ちだ。無理して強豪とやり合う必要もない。それでも、心は常に高く持っていた方が良い。今の段階でそんな消極的な心の在り方じゃぁ、どのみち本選には辿り着けまいよ」
おっさんはリアス達を見渡して言葉を続けた。
「自分の手で運命をねじ曲げようとする、そんな奴ら程に手強いものはない。おまえ達も経験あるだろう? そういう奴らには手は抜けねぇよ」
力が相手より劣っていても、それでも何とかして勝利を掴もうとする。
最後の最後まで抗おうとする人達には共通して、諦めの悪さ、信念や執念がある。
過去に戦った強敵は全員が何かしらの強い意思を持っていたもんだ。
そして、俺達の仲間もそうだ。
美羽が微笑みながら言ってくる。
「嬉しそうだね、お兄ちゃん」
「あ、分かる?」
「だって、すごく顔に出てるもん」
デュリオとの対戦が待ち遠しすぎて、バレバレだったらしい。
まぁ、事実そうなので否定はしない。
俺はレイヴェルに言う。
「後で作戦会議でも開くか」
「そうですわね。どんなに奇抜なチームでも、他のチームに研究され、対策を講じられれば封殺されます。恐らく、向こうもこちらを徹底的に研究してくるでしょう。こちらも対策を考えなければ」
すると、小猫ちゃんがボソリと呟いた。
「イッセー先輩達の場合は奇抜過ぎて研究し難いと思います」
リアスが苦笑しながら訊いてくる。
「もしかして、これまでのゲームって、自分達が研究されないように、わざとああいうことをしているのかしら?」
「「「「………」」」」
リアスの疑問に黙り込む俺達チーム一同。
俺は冷や汗を頬に伝わらせながら、口を開いた。
「そ、そそそそそそうだよぉー。バ、ババババババレちゃったかぁー」
しばらく乾いた笑いが続いた。
▽
作戦会議が終了後、俺は一息つくべく自室に戻っていた。
しかし、部屋に入った途端、俺を急激な脱力感が襲う。
「あっ………やべ………」
視界がかすみ、頭がクラクラする。
倒れそうって程じゃないが、体が重く感じてしまう。
「大丈夫?」
不意に体を支えられた。
俺の体を抑えてくれたのは美羽だった。
美羽は心配そうな顔で俺を見上げてくる。
「問題ない………って、言っても無駄かな?」
「足元おぼつかない姿で言われてもね」
苦笑する俺に美羽は深く息を吐いた。
美羽にベッドへと連れて行ってもらった俺は、ベッドに座り込み、受け取った冷たいお茶を一気に飲み干した。
美羽が言う。
「ねぇ、やっぱり、試合のペースをもう少し落とした方が良いんじゃ………」
「かもな。でも、今でも結構落としてる方だしなぁ」
今、俺達のチームは出場するペースを参加した当初に比べると落としている。
その原因は俺だ。
今の俺は非常に疲れやすくなっている。
肉体的にも精神的にも。
激しい戦いを繰り広げた後、傷を治してもらったとしても、暫く重たい疲労感に悩まされ続けるんだ。
これに気づいたのは―――――チーム『雷光』とのゲームの後だ。
ドライグが言う。
『バラキエルとの一戦。あれは死闘にも近いものだった。あれだけの戦いをすれば、今の体では暫くの間、蓄積されたダメージを引きずることになる。肉体もそうだが、魂にもな』
籠った一撃は魂の奥深くに響くもの。
あの試合で受けた拳は、時間が経った今でも、この身に残っている。
小猫ちゃんや黒歌にも治療を続けてもらっているから、日に日にマシにはなっているけど………。
俺は息を吐くと、ベッドに仰向けに倒れた。
「参ったな………」
今回の大会において、本選に進むのに重要なのは勝ち星ではなくポイントだ。
そのため、無闇に連戦をする必要はない。
だが、ポイントを稼ぐにはある一定の試合回数が必要になってくる。
休んでいる間にも他のチームはポイントを稼いでいくからな。
それに―――――
「あんまり心配かけたくないんだよ。リアス達もそうだけど、俺との戦いを望んでいる奴らにもな」
極端に試合ペースを落とせば、当然、俺の状況に気づく者も出てくる。
ヴァーリ辺りは特にそうだろう。
これから戦うであろうライバル達に変な気を使わせたくないんだ。
「美羽、怒るの承知で頼むよ。このままやらせてくれ。もちろん、大会に出場する条件のことは守るし、命を使うような真似はしない。だから―――――」
「怒らないよ」
俺が言い切る前に美羽は即答した。
「それがお兄ちゃんの望みなら、ボクはそれを支える。というか、最近の試合じゃ、お兄ちゃんを前に立たせないようにしてるし」
「まぁ、そう言われるとそうか」
最近の試合じゃ、モーリスのおっさんやアリス、ボーヴァが前に出てくれているので、俺はレイヴェルと一緒に後衛で指示を出すことになっている。
試合をこなしながらも、俺の体力、気力を少しでも回復させるためだ。
………というか、今更ながら『王』がガンガン前に出るのも考えものだよね。
前にアザゼル先生がリアスに言ってたけど、俺も同じか。
美羽は俺の頭を撫でながら言う。
「ボク達はお兄ちゃんが望む最高の舞台を用意する。その時が来るまで我慢、だよ?」
まるで子供に聞かせるような言い方だが、俺のワガママに付き合って貰っている以上はしょうがないか。
「アハハ………主想いの眷属を持って俺は幸せ者だよ」
あとがきミニストーリー
イグニス「うぇぇぇぇん!」
イッセー「ど、どうした!? なんで泣いてるの!?」
イグニス「もっと出番がほーしーいー!」
イッセー「いや、おまえが出ると色々壊れるし………せめて、エクセリアになって出てきてくれない?」
アセム「うわぁぁぁぁん!」
イッセー「今度はおまえか!」
アセム「僕も出番がほーしーいー! もっとボーケーたーいー!」
イッセー「黙って寝てろ、このアホ神!」
リーシャ「フェンリルちゃんのモフモフがたまらないですぅ」
イッセー「フェンリルゥゥゥゥゥ!」