ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ   作:ヴァルナル

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O☆MA☆TA☆SE


16話 遠回り

[三人称 side]

 

レーティングゲームを目前に控えたその日の夜。

キッチンの方から漂ってくる香りに誘われて、アーシアは部屋の扉を開けた。

 

「モーリスさん? 何を作っているのですか?」

 

扉を開けたアーシアの目に入ってきたのはエプロン姿に三角巾を身につけたモーリスだった。

剣の鬼、泣く子は更に泣き叫ぶチートおじさん等と言われているモーリスだが、実は料理ができるという隠れた特技を持っていた。

意外な事実に木場やギャスパーが驚いていたのは記憶に新しい。

 

モーリスは三角巾の結び目をほどくと、なにやら自信満々の笑みと共にアーシアを手招きした。

首を傾げるアーシアは呼ばれるままモーリスの側に寄っていく。

 

「こいつを見てくれ」

 

そう言って、モーリスが指差した先には―――――ウサギの形をした饅頭が並べられていた。

雪のように白い生地、その上に描かれたクリクリとした目とウサギの象徴ともいえる耳。

その可愛らしい姿にアーシアは感嘆の声を漏らした。

 

「これをモーリスさんが?」

 

アーシアに尋ねられ、モーリスは得意気に鼻を鳴らす。

 

「どーよ、この出来映え。本職にも負けてねーだろう?」

 

「はい、凄く可愛いです! モーリスさんはお菓子も作れるんですね」

 

「どっちかというと、飯より菓子の方が得意なんだよ。せっかく、騎士団長とかいう面倒な肩書きがなくなったんだし、こっちの世界でもチャレンジしてみたんだ。………ま、ちょいとばかし興が乗りすぎたがな?」

 

苦笑するモーリスの視線の先には、モーリス作の和菓子がいくつか並べられていた。

どれもこれも見事な出来だが、明らかに一人で食べられる量ではない。

 

「今日、おまえ達が冥界に出掛けたついでに晩飯も食ってきたんだろう? イッセーの親父さんとお袋さんも今日は夫婦水入らずで外食ときていてな。誰もいない分、調理場を好きに使えたんで、ついついやり過ぎちまった」

 

「ウフフ、モーリスさんにもそういうところあるんですね」

 

「面目ねぇ。………少し相談なんだが、アーシアよ。おまえ、腹減ってないか?」

 

「え? い、今からですか?」

 

「別に明日でも良いんだが、こういうのは作りたてが美味いだろう? 調度良いタイミングでアーシアが来たからな。まぁ、無理にとは言わんよ」

 

外は真っ暗、空には月が浮かび頭上から町を照らしており、そろそろ寝てもおかしくない時間だ。

夜の甘味は女子の敵。

モーリスの言うように明日にしても良いのだが………。

 

「………」

 

アーシアの視界に映るなんとも美味しそうな和菓子の数々。

漂ってくる桜の葉の香りがアーシアの鼻腔を擽ってきて、

 

「え、えっと、少しくらいなら大丈夫ですよね?」

 

顔を赤くしながら言うアーシアに、モーリスは笑む。

 

「すまんな。だが、味の方も期待してくれ。菓子作りならレイヴェルにも負けない自信はある」

 

そんなことを聞かされては、余計に食べたくなるのは甘味好きの性。

 

(あ、あとで運動すれば………た、食べすぎてしまっても………大丈夫………?)

 

そんなアーシアの心の内を察したのか、モーリスが言う。

 

「一日くらいなら平気だろうよ。よーし、そうと決まれば、屋上行くか」

 

「屋上で食べるんですか?」

 

アーシアに聞き返され、モーリスは窓の外を見て言う。

 

「こんだけ綺麗なお月様が出てんだ。綺麗な景色も合わせりゃ、更に美味くなるってもんだ。なぁ、エルメの嬢ちゃんもそう思わないかい?」

 

「え!?」

 

最後の言葉に驚くアーシア。

モーリスの視線を追って、扉の向こう見ると、そこにはこっそりと隠れて二人の様子を伺っていたエルメンヒルデがいた。

 

モーリスに言われて、エルメンヒルデは罰が悪そうな表情で部屋に入ってくる。

 

「き、気付いていたんですか?」

 

エルメヒルデに訊かれて、モーリスは笑う。

 

「まだまだ修行不足ってことだな。俺に気取られないようにするには四十六億年は早い」

 

「あ、あなたが言うと冗談に聞こえませんね」

 

目元をひきつらせるエルメンヒルデ。

モーリスはそんな彼女の表情を気にせずに言う。

 

「覗き見ついでにエルメの嬢ちゃんも付き合ってくれ。―――――色々と相談にも乗れると思うしな?」

 

全てを見透かしたように言うモーリスに、エルメンヒルデは小さく息を吐いた。

 

彼はこちらの世界に来てから間もない。

自分達吸血鬼の事情はおろか、転生した悪魔の事情についても十分に把握しているとは言い難い。

だが、それでも、目の前の人物は自分のことなど全て見通している………そんな風に感じてしまう。

 

エルメンヒルデは少しの間、じっとモーリスの目を見つめると口を開いた。

 

「そうですね。年配の方ならではの助言もいただけるかもしれません」

 

 

 

 

屋上に移動した三人はシートを敷き、モーリス作の菓子を囲んでいた。

 

「モーリスさん、これ凄く美味しいです!」

 

「む、本当………意外ですね」

 

二人の感想にモーリスは上機嫌に笑う。

 

「見た目だけじゃねーってことだ。味も一級品なんだよ」

 

饅頭を頬張り、淹れたての茶を啜ったモーリスは小さく息を吐く。

 

「こうして誰かに振る舞うのもいつ以来かねぇ」

 

そう呟くモーリスにアーシアが尋ねる。

 

「お菓子作りは昔からしていたんですか?」

 

エルメンヒルデもその問いに続く。

 

「剣の鬼みたいな人だから、こういうのとは無縁だと思っていました」

 

モーリスといえば、神すらも斬り捨てる最強クラスの剣士だ。

教えを乞えば、命の危険すら感じるほどの無茶苦茶な修行(もちろん死なないように加減されている)が行われる。

そんな彼が菓子作りという、剣とは全く関係のないものを嗜むなど、彼と近しい者以外は誰も思わないだろう。

 

二人の問いにモーリスは答える。

 

「まぁ、元々はこういうのとは無縁だったさ。昔の俺はおまえ達が思っている通り、剣、剣、剣ってな。誰よりも強くなりたくて、俺なりに何かを守れるようになりたくてな。ガキの頃から親父達の背中を追いかけてたんだ」

 

「それでは、なぜ?」

 

エルメンヒルデの問いにモーリスはフッと笑んだ。

空に輝く満月を見上げ、遠い過去を思い出すように口を開く。

 

「アーシア、俺に嫁さんがいたことは知ってるか?」

 

「はい」

 

アセムとの最終決戦で発覚したモーリスの結婚歴。

戦いの最中に話すことではない筈だが、なぜかカミングアウトされたので、あの場にいたメンバーはそのことを知っている。

 

「俺の嫁さんは体が弱くてな。病床に伏せることが多かったんだよ。仕方がないとは言え、あいつにとっちゃ外に出られなくてつまらない毎日だったんだが………そんなあいつに何がしてやれるかなって考えたのさ」

 

己を鍛え上げ、誰かを守れるくらいには強くなった。

だが、絶大な力を持っていたとしても病は治せない。

病で苦しむ者にとって、モーリスの剣士としての力は全くの無意味だったのだ。

 

「部屋に籠りっぱなしで、暗くなっていくあいつを見たくなかった。じゃあ、どうすれば良いのか。色々考えた結果、行き着いたのが料理だった。始めた理由はそれだけだ」

 

モーリスは可笑しそうに笑う。

 

「まー始めた頃は酷かったよ。嫁さんのを見よう見まねでやっていたんだが………砂糖と塩を間違えるわ、配分は間違えるわでな。挙げ句の果てには鍋から火が出て、嫁さんに長々と説教くらったもんさ」

 

「え、えーと………げ、元気な奥さんだったんですね」

 

「それだけ酷かったってことだな。なにせ、火加減間違えて料理が爆散した程だ」

 

「何をしたらそんなことに!?」

 

「分からん。分からんがとにかく爆散した。凄いだろ、えっへん」

 

「自慢するところじゃないですよ!?」

 

アーシアの貴重なツッコミシーンだった。

彼女も知らず知らずのうちにイッセーのツッコミを覚えてきているらしい。

 

「とにもかくにも最初はそんなだったんだが、何度も練習していると、上達していってな。まともに食えるものが出来たんだ。今でも覚えてる、初めて『美味しい』って言ってくれたあいつの顔はな。久しぶりに見た、あいつの笑った顔は忘れられねぇ」

 

「大好きだったんですね、奥さんのこと」

 

「ああ。心底惚れてたさ、今も昔もな。………って、おっさんの惚気話を聞いても楽しくないか」

 

苦笑するモーリスにアーシアは首を横に振る。

 

「私はもっと聞いていたいですよ?」

 

「そうかい。じゃあ、気が向いたら、また話してやるよ」

 

そう言って湯呑みに口をつけるモーリス。

モーリスはじっと空を見つめた後、アーシアに視線を戻した。

 

「まぁ、料理にしかり、部長にしかり最初は失敗が付き物ってことだ」

 

「………っ」

 

唐突に降ってきた単語にアーシアは目を見開いた。

少し驚いた表情のアーシアにモーリスは言う。

 

「アーシアが悩んでいることは見りゃ分かる。というか、アーシア自身、イッセー達が気にかけていることも知っているんだろ?」

 

「あ、あの、すいません」

 

「別に謝ることじゃない………が、話してみな。悩みにしろ、愚痴にしろ、誰かに言うことでスッキリすることもある。俺みたいな部外者だからこそ、気にせずにぶちまけられる。それに――――」

 

モーリスはニッと笑む。

 

「おっさんとしちゃ、若い奴の話を聞いてお節介するのも楽しみの一つなんだ。どうだ、ここはおっさんの趣味に付き合ってみねーか?」

 

そう言って、ウインクするモーリス。

悩みを聞くにしては軽い雰囲気。

だが、笑みを浮かべるモーリスの瞳は相手の目をじっと見つめており、何を話しても真摯に受け止めてくれる、そんな雰囲気も感じさせた。

 

気付けば、アーシアは吐露し始めていて、

 

「………私、いつも不安なんです。部長としてやれているか。リアスお姉さまと自分を比べてしまうんです」

 

時にはリアスのように振る舞おうとした時もあった。

アーシアにとって、リアスは姉のような存在でもあり、憧れでもある。

リアスのようになれればと、思ったこともあった。

だが、不意に感じてしまう――――何かが違うと。

 

「木場さんは朱乃さんの後任として、副部長の役目を立派に果たしています。でも、私は何も………。だから、木場さんが部長の方がよかったのではと思うこともあって………」

 

「ほう? じゃあ、祐斗に部長をやってほしいと?」

 

モーリスの問いにアーシアは首を横に振る。

 

「いえ、そうじゃないんです。私もリアスお姉さまの後任として、その役目を果たしたいです。リアスお姉さまは私なら出来ると信じて、オカルト研究部を託してくれました。だからこそ、私もその想いに応えたいんです」

 

アーシアは言葉を続ける。

 

「リアスお姉さまはリアスお姉さまならではのスタイルがありました。そして、私は私なりのスタイルでの部長を目指すべきもので、リアスお姉さまもそれを望んでいると思うんです。ゼノヴィアさんは会長を立派に務めていらっしゃいますが、かといって、ソーナ前会長のやり方ではなく、ゼノヴィアさんのやり方で生徒会を運営しています。イッセーさんも自分なりに、『王』としてのやり方を模索しています。友達や好きな人がそれを目指したなら――――私も目指したいんです」

 

アーシアは乗り越えようとしている。

自分で考え、自分で答えを見つけ、悩みを、壁を乗り越えようとしているのだ。

アーシアの強い意思を感じたモーリスは言う。

 

「なんだ、俺が何かを言うまでもなく解決してんじゃねーか。せっかく、おじさんが悩める若者を華麗に導いてやろうと思ってたのによー」

 

唇を尖らせるモーリスにアーシアは慌てて両手を振る。

 

「そ、そんなことないです! モーリスさんに話せて、頭の中を整理できたと言うか、スッキリできたというか………。でも、自分のスタイルというものをどうやって見つけるかはまだ分かってないんです」

 

小さく息を吐くアーシア。

そんなアーシアにモーリスはハッキリ言う。

 

「まぁ、いきなりは見つからんさ」

 

モーリスは湯呑みに茶を酌みながら言う。

 

「始めてのことってのは、最初は分からないことだらけだ。それをいきなり『自分なりのやり方』でやれと言われても、難しいだろうさ。ゼノヴィアみたいに良くも悪くも思いきりの良い奴はとにかく突っ走って獲得するだろうが………。リアスも部長に成り立ての頃は手探りでやってただろうし、当時は『自分なりのやり方』なんてものは分かってなかったんじゃないかね」

 

モーリスは言葉を続ける。

 

「こう言ってしまっては、アーシアの決意に水を差しそうなんだが、最初は模倣でも良いと思うぞ。あえてリアスのやり方を真似てみるのもありだな」

 

「でも、それだと………」

 

アーシアの言葉を遮るようにモーリスは言う。

 

「言いたいことは分かるが、まぁ聞いてくれ。真似ると言ったが、最初だけだ。リアスのやり方をなぞっていくと、感じるはずだ――――自分には合わないってな。ここはこうした方が良いんじゃないか、こういうやり方があるんじゃないか、そうした点を変えていくんだよ。まぁ、変えたせいで失敗することもある。だが、それはそれだ。失敗すりゃ、またやり直せば良い。するとだ、いずれはそれが『自分なりのやり方』ってやつに仕上がっていくんだ」

 

モーリスとて、自分が最初から出来ていたとは思っていない。

誰かの真似をして、自分に合うやり方を探してきた。

無論、失敗したことも多々ある。

しかし、失敗が終わりじゃない。

失敗から学び、次の糧にする。

そうすれば、いつかは模倣から離れていくものだ。

 

「アーシアは学校は、部活は楽しいか?」

 

「はい、とても」

 

微笑み、即答するアーシア。

モーリスは笑む。

 

「なら、思いっきり楽しめ。ぐだぐだ言ってしまったが、今のアーシアに足りないのはズバリ経験だ。失敗しても良い、やりたいように思いっきりやってみな。皆が、そして、アーシア自身が楽しめるようにな。そうすりゃ、いつの間にか、自分らしいやり方が何なのか辿り着いてるもんだ」

 

そう言って、モーリスはアーシアの頭を撫でた。

 

「遠回りなのかもしれない。だが、遠回りした分だけ、近道をしたやつより多くのことを学べる。こいつは部活の部長だけじゃなく、この先の人生でも活かされると思うぜ?」

 

僅かな時ではあるが、モーリスもアーシアのことは見てきた。

アーシアは守られる立場だったのだろう。

一誠やリアスの背中を追いかけて来たのだろう。

しかし、今は違う。

自分の意思で、自分の足で立とうとしている。

 

(この娘も近い将来、イッセー(あのバカ)の横に立つ日がくるか。いや、いっそ抜かれたりしてな?)

 

そんなことを考えるとついつい、笑みが溢れた。

 

 




~あとがき~

イグニス「十五人……候補も入れて二十人。うーん、足りないないわね」

イッセー「なに悩んでるんだ?」

イグニス「イッセーのお嫁さん達でアイドルユニット出来ないかなって考えたんだけど、あと四人足りないのよ」

イッセー「うん、ツッコミの準備はしておくぞ? ちなみにユニット名は?」

イグニス「え? TKB48だけど?」

イッセー「お願いだから、やめてくれませんかね!? あちこちから怒られるから!」
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