ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ 作:ヴァルナル
異世界帰りを読んでる人はもう分かってるよな!
[三人称 side]
「やっぱり、モーリスさんはイッセーさんのお師匠様ですね」
「ん? どういうことだ?」
首を傾げるモーリスにアーシアは微笑んで言う。
「強いところも、優しいところも、困っている人をほっておけないところも。そっくりですよ?」
「そうかい………ま、誉め言葉として、ありがたく受け取っておこうか」
フッと軽く笑むモーリス。
お節介とはよく言われる。
放っておけば良いのに、ついつい気にかけてしまうところも否定はできない。
「それじゃあ、お節介の続きといこうか。エルメンヒルデ、おまえも話してみないか? 別にイッセーやレイヴェルに言うつもりは無いからよ」
その問いかけにエルメンヒルデは、モーリスの顔を見上げる。
「よろしいのですか? あなたは彼の眷属なのでしょう?」
「別に良いんじゃねーの? ここじゃ、俺はおまえ達の愚痴聞きサンドバッグだ。悩みも不安も怒りもぶつけて発散して良い。それを一々、あいつらに報告する必要もないだろ」
モーリスは饅頭を摘まみながら言う。
「おまえも分かってるんだろ? ここにいるには、チームに入るには自分の口から話さなきゃいけないってな」
以前からエルメンヒルデは一誠とレイヴェルにチーム入りの懇願をしていたが、それはまだ受け入れられていない。
それにはいくつか理由がある。
一つは実力。
彼女は純血の吸血鬼だけあってか、高い能力を有している。
だが、今の彼女では一誠達の連携に合わせられないのだ。
「ま、単純な力量だけなら問題ないだろうよ。もう少しすれば、なんとかなる。………が、力をつけても今のおまえには背中を任せられない。理由は分かるな?」
もう一つの理由。
これが一誠達が未だ、彼女をチーム入りさせていない一番の理由だ。
エルメンヒルデがなぜ、大会に出ようと思ったのか。
なぜ一誠のチームを志願したのか。
初対面の時はあれほど高圧的な態度で、純血の吸血鬼以外は否定的な考えを持っていた彼女が、一誠達を訪ねた時には丸くなり、価値観すら変わっていたのだ。
何があったのか知りたいのは当然のことだろう。
チームに入ると言うことは、自分達の背中を任せるということ。
チーム入りを懇願しながらも、本心を語ろうとしない、そんな彼女を信頼して、背中を任せることなどできない。
モーリスの言葉にエルメンヒルデは俯きながら、小さく頷いた。
「………分かっています」
「別に責めてる訳じゃない。無理に話す必要もない。だがな、エルメ。現状を打ち破りたいなら、一歩踏み出す覚悟がいる」
モーリスはじっとエルメンヒルデの目を見て、言葉を続ける。
「おまえは変わりたくて、何かを変えたくて、ここに来たんだろう? おまえはもう行動に移してるんだ、その覚悟は出来ている。俺はそう思うがな」
以前、エルメンヒルデの真意について尋ねられた時、カーミラのため、故国のためだと答えていた。
しかし、それら建前であり、本音は他のところにあることを一誠達は感じていた。
そして、エルメンヒルデ自身もそこのところは理解していた。
「………モーリスさん。あなたは吸血鬼の世界に起きたことをご存じですか?」
「そこそこにな。エルメがうちに来てから、イッセー達に事情は聞いてるよ」
リゼヴィムの悪意が引き起こした惨劇により、吸血鬼の世界は崩壊。
対立していた二つの派閥――――男性の真祖主義のツェペシュ派、女性の真祖主義のカーミラ派のどちらにも壊滅的なダメージを受けたのだ。
クリフォトは両派閥の上流階級の吸血鬼にも甘言を用いて、根深いところまで内政干渉を行っていた。
そのあげく、裏切り者達はその体を作り替えられ、血と誇りを重んじる上流階級の貴族が、邪龍に成り果てたのだった。
エルメンヒルデは語る。
「国に戻った私が見たのは、おぞましくも、もの悲しい結末でした。………なにせ、共に純血の吸血鬼であること、真祖カーミラ様の力であることを誇りにしていた同志が邪龍になり果てていて………。叔父や従兄………カルスタインの一族の者、幼い頃から一緒だった友人ですら、クリフォトと繋がっていたのです」
カーミラ派では、各貴族の当主には代々女性が就くことになっており、男性は当主を支える立場にある。
しかし、カーミラ派に属していた男性は、表面上では女性吸血鬼に支配されることを受け入れていたが、裏では女に支配されることに耐えがたいものを感じていたという。
そして、男性の吸血鬼を重んじるツェペシュのやり方に憧れていたのだ。
――――そこをクリフォトに突かれた。
カーミラ派の裏切り者の大半は男性貴族だったのだ。
この事実にカーミラの女性達は心底衝撃を受けた。
恋人や夫、兄弟、男性の身内と上手くやっていたと思っていたのは彼女達と一部の男性だけだった。
あの事件によって、カーミラ派が打ち立てていた理念に同調していた純血の吸血鬼達の価値観に揺らぎが生じ、裂け目ができることになった。
しかし、それ以上にエルメンヒルデの価値観を崩したのは―――――友人達の裏切りだった。
同性の友人達は男性貴族達に同調し、国を裏切った。
彼女達は男に支配されることを願っていたのだった。
全ての女性が強い訳ではない。
男性よりも力の弱い女性が男性の上に立つには、相応の気力、覚悟が必要だ。
その重荷に耐えられなかった女性吸血鬼は男の支配を求め、裏切り、邪龍と成り果てた。
この中にはエルメンヒルデの友人の姿もあって――――
「私が国のために尽力していた裏で、友人達は悩みを抱え、吐き出せないでいた。彼女達の悩みに気づいてあげられなかった自分に怒りを感じても、当時の私では彼女達を否定する以外の答えが生まれなかっただろうということも分かって………結局、私では救えなかったという事実で押し潰されそうになりました」
語りながら深紅の瞳から涙を溢れさせるエルメンヒルデ。
「だから、国を出た………か」
「……あのまま、国にいては、私は………私の心は壊れてしまいそうで………っ!」
そう言って泣き崩れるエルメンヒルデ。
彼女が国を出て各地を回ったのは、崩壊した故国の復興のため、というのも事実だ。
しかし、それは本当に建前。
彼女は少しでも離れたかったのだ。
家族の、友人達の裏切りを、どうあがいても彼女達を救えなかった自分を思い出したくなかったから。
「辛ぇな………」
彼女の話を聞き終え、呟くように言うモーリスに、エルメンヒルデは小さく頷いた。
初めて、この町に訪れたときのような彼女は、そこにはなかった。
あの時はまだ、純血の吸血鬼である誇り、信念があり、自分が信じていたものが正義だと生きていた。
しかし、それらは全て打ち砕かれた。
一族の者、友人は悩み、それを打ち明けられないまま、心も体も歪ませて、国を裏切った。
リゼヴィムの扇動があったとはいえ、その手を取ってしまったのは紛れもない彼らだ。
裏切る者が悪い………そう割り切ることができれば、どれだけ楽なことか。
モーリスはエルメンヒルデに問う。
「この大会に参加したい理由ってのは、やっぱりそういうことか」
「………多種多様な種族が参加する大会であれば、何かを得られるような気がして」
自分は今まで純血の吸血鬼の――――カーミラ派の世界しか知らなかった、見てこなかった。
故に世界を回り、自分を変えようと、強くなろうとした。
エルメンヒルデが大会出場を決めたのもそれが理由だった。
彼女もまた自らを変えようとしているのだ。
「おまえも苦労してるな。その歳でそれだけのことがあれば、否が応でも変わりたくもなるか」
「私は………強く、なりたいです」
強くなりたい、またあの悲劇を繰り返さないためにも。
失ったものは返らない。
それは分かっている。
だから、もう二度と失わないように――――。
エルメンヒルデの小さくも、籠った声にモーリスは笑む。
「なれるさ。俺が断言してやる。身体的な強さだけじゃない。ここもな」
モーリスは自身の胸を親指で指して言う。
「テキトーなことを言ってるんじゃないぞ? 根拠はある。目を閉じて、俺との修行を思い出してみろ」
そう言われて、エルメンヒルデは目を閉じた。
目蓋の裏に映るのは駒王町に来てからの光景で――――
『おらおら、シャキッとしろ! シャキッと!』
飛んでくる剣圧。
『そんなショボい攻撃じゃあ、当たる前に消されるぞ!』
放った攻撃をかき消してくるただの気合い。
『んー、まだ元気はあるようだな? よっしゃ、もう一段階上げてみっか』
無慈悲な言葉の数々。
自ら望んで教えを乞うた。
しかし、何度も後悔した。
あれは修行なんて生易しいものじゃない。
あれは―――――
「あ、あれが本当の地獄………!」
「大丈夫ですか!? 震えてますよ!?」
「でぇじょうぶだ。ドラゴ○ボールで生き返れる」
「そういう問題じゃないですよ!? というか、エルメンヒルデさん、生きてますけど!?」
震えるエルメンヒルデ、ボケるモーリス、ツッコミのアーシア。
モーリスは軽く笑いながら言う。
「何度転ぼうとも何度泣かされようとも、おまえは向かってきただろう? あれだけの根性があれば、これからもやっていけるさ。………だがな、おまえさんはもう少し肩の力を抜いてみろ」
「………え?」
不意に言われた言葉につい聞き返してしまったエルメンヒルデ。
モーリスは続ける。
「家族をダチを助けてやれなかった、裏切りを止められなかった。そのことで、おまえが心を痛めたことは無理ない。もう二度と同じ悲劇を繰り返さないためにがむしゃらになるのも分かる………が、抱え込み過ぎだ」
モーリスは茶を啜って、息を吐く。
「人が一人で出来ることなんざ、たかが知れてる。どんなに力があろうと、どんなに賢かろうとな。特に、おまえの背中は全部を背負うには小さすぎる」
だから、
「おまえはもっと、誰かを頼ることを覚えろ。おまえが素直に頼れば、必ず手を差し伸べてくれる奴らがいる。だろ?」
そう言って、モーリスはアーシアにウインクする。
アーシアもそれを受け、笑顔で頷いた。
「もちろんです。私も、イッセーさんも、皆さんもエルメンヒルデさんのお力になりますよ」
「アーシアさん………」
エルメンヒルデはここに来るまで、その想いを誰にも吐き出さず、一人で抱えてきた。
しかし、この町に来て、モーリスのように自身の想いを引き出してくれる人物に会った。
アーシアのように手を取ってくれる者にも出会った。
そして、一誠達もこの手を取ってくれるだろう。
「そういうこった」
モーリスは笑み、二人の頭を撫でた。
「――――おまえ達の人生は長く、この世界は果てしなく広い。焦らなくて良い、ゆっくりでも良い。自分が信じられる奴らと一緒に強く、学び、そして、変わっていけば良いのさ」
∇
それから少しして。
三人で月見をしていると、モーリスがエルメンヒルデに訊ねた。
「で? おまえはイッセーのどこが良いんだ?」
唐突に投げられた問い。
エルメンヒルデの思考が停止すること数秒。
「むぐっ!?」
思考を取り戻した途端、エルメンヒルデは饅頭を喉に詰まらせた。
慌ててお茶で饅頭を流し込むと、エルメンヒルデは顔を赤くして、モーリスに言った。
「な、なにを!? 私はそんなんじゃありません!」
「え? イッセーがいるからここに来たんだろ?」
「ち、違います! そんな理由では――――」
「ほほう? なら、他に理由があるのなら、それを聞かせて貰おうじゃねーか」
「な、なぜ、私があなたに!? なんで、ニヤニヤしてるんですか!?」
「チームに参加するってのなら、志望動機は必要だろ? 就職にもあるし、そんな感じで」
「就活!? チームに参加って就活なんですか?」
「よし、それじゃあ、面接を始めるぞ」
「始めるんですか!? 私の意思は!?」
「では、エルメンヒルデさん。イッセーさんのチームを志望した動機を教えてください」
「アーシアさんッッ!?」
こうして夜は更けていくのだった。
~あとがきミニ~
アザゼル「こいつが新開発した神器――――『
イッセー「いや、それもうただの卵製造器! つーか、人工神器って言えばなんでも許されると思ってません!?」
ヴァーリ「アザゼル、それを譲って貰いたいのだが」
小猫「卵かけご飯用卵………ゴクリ」
イッセー「君達も卵かけご飯に釣られないで、ツッコんでくれませんかね!?」