ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ 作:ヴァルナル
[木場 side]
激しいゴールの奪い合いが続く中、試合は新たな局面に突入しようとしていた。
天使達の放った光の輪によりイリナと拘束されていたイッセー君が光の輪を破壊したのだ。
リアス姉さんが興味深げに言う。
「洋服崩壊の出力を調整することであんな使い方ができるのね。もし、特定の部位を指定して破壊できるようになるのなら、色々と応用が効きそうだわ」
洋服崩壊のパワー調整。
それが出来るのなら確かに様々な使い方が出来そうだ。
例えば、相手の武器のみの破壊、身体に施された魔法や呪いの破壊のようなこともできるのかもしれない。
まぁ、それも女性限定になるんだけどね。
それはともかく、今回の新技だけど、
「卑猥な技、最低です」
小猫ちゃんの意見には僕も同意見かな?
全部ではないとはいえ、イリナの服を半壊させたわけだし。
すると、レイナさんが何かに気づいた。
「ねぇ、イリナさん、イッセー君の羽織の匂い嗅いでない?」
「嗅いでいるな。イリナめ、羨ましいことを」
「ゼノヴィアさん!?」
女性陣が何か言っているけど、僕は聞かなかったことにするよ。
モニターの向こうでは復帰したイッセー君を天使達が囲んでいた。
天使の一人が言う。
『赤龍帝が復活したか!』
『既に禁手の制限時間は過ぎたと見た。このまま彼を倒せば、赤龍帝チームの勢いは確実に落ちる』
確かにイッセー君には禁手を発動できる時間はもう過ぎているだろう。
拘束されている間に体力を回復させたとはいえ、彼らを相手にどこまで持つか。
しかし、イッセー君は不敵に笑む。
『悪いが、俺も一人で戦ってる訳じゃないんだ。やるぞ、美羽! サラ!』
その呼び掛けに応じるように、美羽さんとサラがイッセー君の隣に降り立つ。
美羽さんが言う。
『そういうこと。お兄ちゃんを簡単に取らせるわけにはいかないかな』
『ここからが本番だ。赤龍帝チームの底力を見せてやろう』
美羽さんは魔法陣を幾重にも展開し、各種属性の魔法を打ち出す!
サラは両手に槍を握り、天使複数名と剣撃の火花を散らし始める!
『決着をつけようぜ、おっぱいドラゴンッッッッ!』
乱戦の中、イッセー君目掛けて飛び出すのはヒーローの格好をしたネロ・ライモンディだった。
イッセー君も応じるように前に出る。
『元気なやつだな! 散々走り回ってるのによ!』
『俺の自慢がそれだからな!』
その姿にスタジアムの観客席からも子供達の声が上がる。
『いけー、キャプテンッ!』
『勝って、キャプテン・エンジェル!』
彼を精一杯応援する教会の子供達。
ネロ・ライモンティ。
大天使ウリエルのAに選ばれた者。
聞いた話によると、神器に抵抗力のない妹さんを始め、神器に苦しむ子供達を励ますためにヒーローの格好を買って出たという。
あの格好は、彼の強い覚悟そのものを表しているのだろう。
ネロ君の拳がイッセー君に届く――――その時だった。
二人の間に割って入り込み、その攻撃を受け止めた人物がいた。
アリスさんだ。
イッセー君がアリスさんに言う。
『ここで入ってくるのかよ』
『まぁね。ここは私が抑えとくから、ちゃちゃっと点数を稼いでくださいな』
『簡単に言ってくれるな』
『最強を名乗るならそれくらいやってくれないとねぇ?』
イタズラな笑みで言うアリスさんの言葉に、イッセー君は肩をすくめる。
『それ言ったの他の奴らなんだけど………いいぜ。やってやろうじゃねぇか』
それだけ言い残すと、その場をアリスさんに任せて離れるイッセー君。
アリスさんはネロ君と向き合うと、雷のオーラを放出する。
『悪いけど、主様の邪魔はさせないわ。あなたの相手は私よ、ネロ・ライモンディ君。それとも、赤龍帝の「女王」では不服かしら?』
画面越しでも分かる凄まじいオーラ。
威風堂々と立ちはだかる彼女の姿は正に歴戦の戦士のそれだ。
ネロ君は頬に汗を伝わせながらも、嬉々として言った。
『凄いな、あんた! とんでもない迫力、流石はスイッチ姫ってところか! 相手にとって不足なしってなッ!』
『スイッチ姫言わないでくれる!?』
激突する赤龍帝の『女王』とキャプテン・エンジェル。
白い雷と光の力がフィールドを目映く照らし、周囲を焦がしながら駆け抜けていく!
スピードはアリスさんの方が上回っており、雷の残像を残しながら相手を翻弄。
槍による斬撃がネロ君の体を傷つけていく。
一方、ネロ君も引いていない。
刃が触れる直前に体を反らして致命傷を避けている。
しかも、拳で槍を弾いてから距離を詰め、アリスさんの間合いの内側に潜り込んでからの接近戦まで仕掛けているほどだ。
一度潜り込んだら決して逃がさないと言わんばかりに放たれる拳の乱打。
それらをアリスさんは体捌きによる回避と槍のガードで確実に防いで見せていた。
ネロ君の猛攻にアリスさんが唸る。
『うちの主様と同じタイプ。体術も大したものだわ。だけど――――』
ネロ君の拳を流して、アリスさんは後ろに飛び退く。
そして、槍を正面に突き出して、その名を呼ぶ!
『起きなさい、アルビリスッッ!』
刹那、槍から莫大なオーラが解き放たれる!
そのあまりにも圧倒的な力はネロ君の勢いを完全に止めてしまうほどだった。
アリスさんが言う。
『この槍の力についてはあんまり情報がないんじゃない? ま、私自身、使ってこなかったからしょうがないんだけれど』
アリスさんは白いオーラを身に纏ったまま、槍を振るい――――その一撃は前方の地面を大きく抉り、地形を変えてしまった!
あまりの威力にネロ君も思わず下がってしまうほどだ!
『これが異世界の霊槍の力か!』
驚く彼にアリスさんは言う。
『今の私ならこの程度。私もまだまだ修行中の身だから、これから更に伸びる予定よ』
不敵に笑むアリスさん。
アリスさんの中にあった疑似神格は今、イッセー君の魂と肉体を保つために元の場所へと戻されている。
そのため、神姫化は使えなくなっているのだが、そこを補うために槍の力を引き出そうとしているようだ。
イグニスさん曰く、アリスさんは槍の力を使わなかったというよりは、まだ使える段階ではなかったとのこと。
つまり、イッセー君の眷属となり、数多の強敵達との戦いによって、今はそのステージに立っているということだ。
彼女が槍の力を完全に使いこなせるようになった時、どれほどのものなのか、想像もつかない。
アリスさんは指で挑発しながら言う。
『さーて、ここから先は加減は出来ないわ。覚悟があるならかかってきなさい』
その挑発にネロ君は楽しそうな笑みを見せる。
『俺はキャプテン・エンジェル、どんな時も引かない男さ! それにな、俺にも必殺技があるんだ!』
叫ぶと同時にネロ君の体が白銀の輝きを放つ!
明らかにオーラの雰囲気が変わった。
あれが彼の禁じ手―――――
ネロ君は豪快に笑う。
『こいつが俺の禁手「
互いに奥の手を発動したアリスさんとネロ君の攻防は更に過激になっていく――――。
フィールド内での戦闘が激しさを増す中、肝心のボールはイッセー君の手にあった。
既にデュリオさん達にマークされており、彼らからボールを守りながら切り抜けようとしているところだ。
『えぇい、ここに来て俺のマーク多くね!?』
『相手がイッセーどんなら妥当な数だと思うけどね。回復したのなら尚更さ。それに――――』
デュリオさんがイッセー君の左腕に視線を向ける。
そこにあるのは赤龍帝の籠手だ。
『Boost!!!!!』
籠手から発せられる倍加の音声。
禁手の制限時間を越えても通常の状態であれば能力は使えるらしい。
復活してからずっと倍加による力の増大が発動している。
デュリオさんが問う。
『何か大技でも出してくるのかな?』
『さーて、そいつはどうかな?』
意味深に笑むイッセー君。
この状況を覆す奥の手があるのだろうか。
ふと思い付くのは『雷光』チーム戦で見せたイクス・バースト・レイだ。
赤龍帝の力と錬環勁氣功、そして特殊な触媒を使用して発動する超高火力の大技。
頑丈なフィールドを破壊し尽くすあの技をくらえば、神クラスとてリタイヤは免れない。
だが、
「リタイヤは無意味。イッセーもそれはわかっているはずよ」
リアス姉さんが言うように、今回のルールでは相手を倒したとしても、それは点数にならない。
時間内にどれだけ点数を取れるかが勝敗を決める。
体力勝負のようなところもある以上、消耗が大きい技は避けるべきだ。
イクス・バースト・レイは消耗が大きく、使った後は体が小さくなり、戦闘不能になるという致命的な欠陥を抱えてしまっている。
一撃必殺ではあるが、この試合では意味を成さない。
ならばどうするのか。
デュリオさん達もそこを警戒しているはずだ。
と、ここでイッセー君は不可解な行動に出る。
イッセー君はその場に立ち止まると、ボールで軽くドリブルを始めたんだ。
相手に囲まれる中、そんな隙を見せる行為を………?
その行為に訝しげな表情を浮かべる天使達だが、イッセー君は笑みを浮かべる。
『こいつが欲しいんだろ? だったら、取らせてやるよ! そぉぉぉらッッッッッッ!』
言うなり、イッセー君は真上にボールを放り投げ、完全に手放してしまう!
思いもよらない行為に一瞬、動きが止まる天使達だったが、すぐに我に返り、ボールを奪いに前に飛び出した――――その時。
イッセー君は両手を大きく広げて、手を叩く動作をした。
両手が合わさる瞬間、
『Transfer!!!!!!』
刹那―――――フィールドにとてつもない爆音が鳴り響いたッ!
爆音が生み出した衝撃に試合を映していた映像にノイズが走る!
観戦ルームにいた僕達にもスピーカーを通して、室内に爆音がと轟くほどだ!
ゼノヴィアが耳を抑えながら言う。
「な、なんだ、今のは?」
「わ、分からないけど………今のは手を叩いた音?」
突然のことに試合を見守っていた僕達ですら、状況が理解できていない。
それどころか、スピーカーを通して聞こえてきた爆音に耳をやられそうになった。
イッセー君は一体、何を………。
状況を確認しようとモニターを見た僕の目に映ったのは―――――崩れ落ちる天使達の姿だった。
『ぐっ……あっ……』
『な、なにが………』
『あ、足が……立てな………』
耳を抑え踞る者や、足をフラつかせ転んでしまう者がいて、いずれも手にしていた武器を落としてしまっていた。
この状況を作り出した張本人であるイッセー君はというと、少し辛そうな表情だが、なんとかその場に立っているようだ。
《これはどうしたことでしょうか! 兵藤一誠選手の周りにいた転生天使達が倒れていっております! ベルゼブブ様、兵藤一誠選手は何をしたのでしょうか?》
アナウンサーの問いにベルゼブブ様が答える。
《手を叩き音を出したんだ。ただし、赤龍帝の力を使って何倍にも大きくしてな。大きな音を近場で聞いてしまうと、人はショックで動けなくなることがある。特に人間の場合だと、鼓膜が破れたり、三半規管が狂うことにより平衡感覚を乱される。赤龍帝はそれを利用したんだろう》
ベルゼブブ様の解説に答えるようにイッセー君が言う。
『転生天使も元人間だ。体の作りは人間とほぼ同じ。なら、こういう手も使えるって訳だ。ちなみに俺は事前にリーシャの魔法で耳栓をしておいたから、この通り。まぁ、全くダメージがないってわけでもないけどね』
そう言うイッセー君も周囲の天使達程ではないにしても少し体がフラついている。
今のは自身もダメージを受ける諸刃の剣だったのだろう。
しかし、音を利用した予想外の攻撃は天使達に大きなダメージを与えることに成功した。
ベルゼブブ様が言う。
《ダメージ量からして彼らはリタイヤにはならない。狂わされた感覚はしばらく元に戻らないだろうな。回復の神器で傷は癒せても、平衡感覚までは回復させるのは無理だろう》
リタイヤはしないが、復帰までに時間がかかるということ。
しかも、神器でも回復しきれないとなると、ディートヘルムさんの能力が効かないということだ。
僕達のような元人間の転生者にとって厄介な技だ。
ロスヴァイセさんも頬に冷や汗を流していて、
「倒すことが無意味なら、動けなくすれば良い。理屈は分かりますが、こんな手を打ってくるなんて………!」
モニターの向こうではイッセー君は既に呼吸を整えており、先程放り投げていたボールをキャッチしていた。
『切り札ってのは何も大技じゃなくても良い。こういう意外な手段が切り札になり得るんだぜ?』
久し振りにまともなバトルだった気がする