ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ 作:ヴァルナル
霊和都市ゼレン。
それは長い戦乱で命を落とした人達を祀る街。
街は円形になっていて、周囲をぐるりと白い壁が囲っている。
四方には棟が見えるが、あれは魔術棟と言うそうだ。
リーシャが説明をくれる。
「四つの棟で街の気候を制御しているのですよ。棟から展開された結界が街を囲み、結界の内側の気温や湿度を調整できます。災害時の防災シェルターとしての役割もあるのです。といっても、まだ試験的なものですが」
「詳しいですね」
「私が所属していた魔法学校も都市の建設には少し噛んでいましたので」
「へぇ」
そういや、そんな話も聞いてたっけ。
防災用の結界は大雨や酷暑には効果を発揮するそうなのだが、地震や洪水への効果はまだ検証中のようだ。
ゼレンは街の中央に都市庁舎があり、南側に商業地区、西側に居住区、東側に学園地区、そして北側に慰霊地区がある。
ちなみに、俺達が今いるのは南側の商業地区だ。
この地区の一角には各国と繋ぐ転移の門が置かれており、俺達は先ほど、転移の門を抜けてきたところだったりする。
アザゼル先生が言う。
「ほぉ、まだ朝も早いってのに結構混んでるな」
「祭は今日からだが、前乗りしている連中もいるんだよ。まぁ、この時間から店を開けてるとは思わなかったがな」
通りの両サイドには店舗が立ち並んでいる他、鎮魂祭の開催期間は露店も出されているらしい。
まだ早朝にも関わらず店を開け、客引きをしている店員も見られた。
随分な気合の入れようだ。
「とても、『死の土地』と称された場所とは思えない盛況ぶりですね」
周囲を見渡しながら、ソーナがそう続いた。
この街が建造されたライアルナは人族と魔族の領域の境にあるため、過去に何度も両軍が激突し、そして数多くの戦士達が命を落とした場所だ。
ライアルナはかつては大地が血に染まり、『死の土地』とさえ呼ばれたほどだ。
そんなだったから、昔は争い以外でこの場所を訪れる人はいなかったと聞いている。
しかし、今。
このゼレンには多くの人々が集まっている。
それも種族関係なくだ。
モーリスのおっさんが道行く人達を見ながら笑んだ。
「平和なもんだろ? 終戦からはや数年。お互い思うところがないわけじゃないだろうが、今はこうして同じ店に並ぶくらいにはなった。ま、確かに思っていたより賑やかだがな」
すると、ニーナが皆に説明をくれた。
「初開催が延期されて、ようやく開かれた祭だからね。皆、楽しみにしていたんだと思うよ?」
「延期? 何かあったのですか?」
「うん。ソーナさんは聞いているかな? ロスウォードっていう滅びの神様が暴れて、その対応で開催が出来なかったんだよね」
滅びの神と称されたロスウォードは、かつて古の戦士達の手で封印されていた。
しかし、その封印が解けてしまったことで、この世界で暴れまわっていたんだ。
世界各地で猛威を振るわれていたのだから、祭どころではなかっただろうな。
倒した後も、各地の復興で手も空かなかっただろうし。
ただ、延期されていなければ、俺が参加できたのはもう少し後かもしれないな。
匙が露店を指差して言う。
「あれって何かわかるか?」
「ん? ああ、あれな。あれはこっちの世界でのおやつだな。カステラみたいな感じだよ」
「へぇ。じゃあ、その向こうにあるやつは?」
「あれは薬草ドリンクだな。青汁っぽいものもあれば、野菜ジュースみたいなものもある。基本的に美味いけど、中にはとんでもないやつがあってな………。俺はおっさんに騙されて飲んだけど、えげつない味がした」
「………それってどんな?」
「なんかえぐみと苦味と酸味がミックスされたような………うっ、思い出すだけで吐き気が………」
当時飲まされたものは、見た目は良かったんだよ。
カラフルなスムージーみたいな感じだったし。
しかも、飲む直前まではフルーティーな香りがしたんで、疑いもせずに飲んでしまったんだ。
………口にした瞬間、思いっきり吐き出したけどな!
おっさんが言う。
「騙されたとは失礼な。ありゃ、滋養強壮に良いって評判なんだぞ? 実際、傷の治りも早かったしな。良薬口に苦しってことだ。クソ不味いってのでも有名だけど」
「それを先に教えてくれてもよかったんじゃねーの?」
「そりゃあ、ひっくり返る勇者さまの姿見たいじゃん?」
このおっさんめ!
あれ、結構トラウマになってるからね!?
どこが滋養強壮に効くんだよ!
飲んだ後、しばらく動けなかったんだけど!
傷の治りが早くなったのってそれが理由だろ!
そんなやり取りの横では他のメンバーも異世界組に色々と聞いていて、
「ワルキュリアさん、あれは何なのでしょうか?」
「あれは山に住まう部族の髪飾りですね。大きな翼を持つ魔物の羽を使っているとか。厄除けのお守りでもあるそうです。アーシアさんにも似合うと思いますよ」
鮮やかな羽の髪飾りに目を奪われているアーシア。
うん、あれはアーシアに似合うかもな。
後で買っておこう。
「リアス、興味深いものもありますね」
「あれは魔法の本かしら? 露店で売って良いものとは思えないけれど………」
「あれなら大丈夫よ。汚れを落とす魔法とか、寝癖を直す魔法とか、生活に使えるニッチなものを載せてるだけだから。他のもそんな感じね」
「もしかして、あちらに並んでいるのは魔導具なのですか?」
「そうね。売ってるのは魔力を注ぐと一定時間、灯りがつくランプよ。こっちの世界って、魔法が一般に普及しているけど、ほとんどが生活に役立つ程度だし、皆がそこまで魔法を扱える訳ではないの。だから、ああいう便利グッズも出回っているのよ」
「なるほど。冥界でも使えそうなアイディアがあるかもしれませんね」
と、アリスがソーナとリアスに解説をしていたり。
アスト・アーデに来たことがないメンバーはもちろんのこと、前回訪れたメンバーも見たことがないものに目を奪われているようだった。
ここまでテンション高くしてくれるのは、俺としても嬉しい限りだよ。
すると、ゼノヴィアがとある方向を指差した。
「イッセー、あそこに売っているものはなんだ? 随分、並んでいるようだが」
「どれどれ………って、おい」
ゼノヴィアが指差した方を見て、俺は一度瞼を擦った。
おかしいな、何か変なものを見たような………。
だって、祭で売ってるようなものじゃないもの。
そもそもこんな公衆の場で売って良いものでもないもの。
仮にだよ?
俺の見間違いじゃなかったとして、そこに行列が並ぶなんてあり得るだろうか。
いやない。
断言してやる。
そう自分に言い聞かせ、俺は再びその露店に目を向けた。
「チコン~、チコンはいかがですか~。焼きたてだよ~。熱々だよ~」
と、呼び込みをかける店員の手に握られるのは、串に刺さった男性のアレに似たなにかだった――――
「おいぃぃぃぃぃいいい! アウトだろ! あれは完全にアウトだろぉぉぉぉ!」
チコンってなんだ!?
完全にアレじゃねーか!
知らない!
あんなの知らない!
おっさんが言う。
「なに騒いでんだ?」
「いやアレぇぇぇぇぇ! 卑猥物が露店に並べられてんだろうが! こんがり焼かれてんだろうが! つーか、ナニあれ!?」
俺も数年この世界に住んでたけど、見たことないよ!?
「外はカリッと中はプリプリだよ~」
なんか外はカリッとしてて、中はプリプリらしいよ!?
大丈夫なの!?
おっさんは「あー」とどこか納得したように言う。
「そういや、おまえがいた頃は流通が止まってたからな。知らないか」
「問題そこじゃなんですけど!?」
「チコンってのはある地域で取れる果実だな。果実という割には甘くないんだが、歯応えが良くて独特の味がするんで、結構人気なんだよ。珍味ってやつだな」
「珍味っていうか、チン味だろあれ!?」
「皮が剥け始めたら収穫するらしい」
「聞いてねーよ! つーか、その情報ぶっ込む意味あったか!?」
男のアレに似てて皮が剥けたら収穫って、どんな果実だ!?
聞けば聞くほどアウトなんだが!?
というか、アリス達は知ってたのか!?
「そういや昔食べたっけ。美味しかったのよね、あれ」
「食ったのか!?」
「食べたけど?」
平然と返してくるアリスさん。
マジですか。
あれ食ったんですか。
なに、その首を傾げて「何言ってるの?」みたいな顔しちゃつてさ。
すると、イタズラな笑みを浮かべたニーナがアリスに耳打ちした。
「お兄さんが言ってるのはねー、あれがゴニョゴニョ……に見えるってことで――――」
「うん、うん………はっ!?」
バッと振り返るアリス。
アリスは露店で売られているチコンと俺を交互に見て、みるみる内に顔を真っ赤にしてしまった!
「あ、いや、だって………小さい頃から食べてたら気づかないじゃない!? 違和感持たないじゃない!?」
「気づいてなかったのかよ!?」
そうかもしれないけど!
理解はできるけども!
でも、見た目はまんまだよ!?
気付くだろ!?
「皆の分を買ってきたわ!」
「イリナァァァァァァ! なにやってんだぁぁぁぁぁぁ!?」
「イッセーの分もあるぞ?」
「聞いてねぇよ!?」
いつの間にかイリナとゼノヴィアが買ってきてるんですけど!
紙袋いっぱいに男のアレに似たものが入ってるんですけどぉぉぉぉぉぉ!
「モーリスが小遣いをくれたんだ。ダメだったか?」
「ゼノヴィアが興味津々だったしな」
「そんなに興味あったの!?」
「ホワイトソースがオススメだと言われたぞ」
「絵面的にアウトォォォォォォォォ!」
白いソースとか完全に狙ってんじゃん!
わざとだろ!?
もうそういうことなんだろ!?
「あらあら、こぼれてしまいそうですわ」
朱乃さん!?
なに、見せつけるような食べ方してるの!?
わざとだよね!?
その上目遣いやめてくれません!?
口についたソースの取り方もいつもと違くないですか!?
つーか、抵抗なし!?
「冥界にもゲテモノはありますからね。これくらいは大丈夫です」
「そうね。もっとエキゾチックなものも多いわ」
ソーナさん!?
リアスさん!?
その手に持ってるモノのどこに情緒があると!?
「イッセー君、これも異文化交流だよ」
「木場ァァァァァァ! おまえ、ホンットそういうところだぞ!?」
チコンの味は悪くなかった。
▽
そんなこんなで、朝早くからのツッコミに俺のHPが削られた頃。
俺達はゼレンの中心にある都市庁舎に来ていた。
目の前にある建物は庁舎というより、教会に近い形状をしており、街を囲む壁と同じく純白だ。
都市のメイン機能がここに集中しているらしく、このゼレンでは一番高い建物だという。
「言っておいた通り、祭の開会式が始まる前にここの市長に会うぞ」
そう言ったモーリスのおっさんに続き、俺達は庁舎の中へと向かう。
入り口はガラスで出来ており、俺達が近づくと勝手に扉が開いた。
俺達の世界にある自動ドアと同じようなものだが、こっちは電気ではなく魔法によるものだ。
現に美羽とアリスがビビっていない。
「おーにーいーちゃーんー?」
「何を考えてるか分からないとでも?」
二人にとっては恥ずかしい記憶のようだ。
だが!
俺はあのかわいい姿を一生忘れないけどな!
中に入ると、広い空間が広がっていた。
大理石の床、非常に高い天井。
柱や壁にはシンプルながら、装飾も施されている。
本当に教会みたいな場所だ。
入ってまっすぐ進むとカウンターがあり、受付と思われる女性が二人並んでいた。
一人は人族、もう一人は魔族の人だ。
おっさんが女性に話しかけた。
「ここの市長に会いに来たんだが」
「お約束をいただいておりますでしょうか?」
「モーリス・ノアだ。アーデルハイド騎士団長が話を通しているはずだ」
「はい。確かに伺っております。それでは、そちらの魔法陣にお乗りください。上階に向かいます」
女性に促され、俺達は受付の奥にある大きな魔法陣に乗る。
これだけの大所帯でも十分乗れる大きさだ。
全員が乗ったことを確認すると、女性が魔法陣を起動する。
魔法陣が光を発すると、俺達はそのまま上階へと向かうことになった。
匙が言う。
「まるでエレベーターだな」
「重要な場所にはこういう移動手段が作られることがあるんですよ。この魔法陣は許可がないと使用できない仕組みになっているので」
ニーナの解説に「へぇ」と納得する匙を横に、アザゼル先生がモーリスのおっさんに尋ねた。
「これから会う市長ってのは、おまえの知り合いか?」
「顔は知っているが、話したことはない。あいつと話したことがあるのは、このメンツだと、ニーナと………美羽くらいかね?」
「え? ボク?」
自分を指差して聞き返す美羽。
ニーナは分かる。
アリスから後を継いでから、各国との会談だの復興だの色々と動いていたみたいだし。
オーディリアの魔法学校がこの都市の建設に絡んでいるなら、当然、ニーナも関わっているだろう。
しかし、美羽はそうじゃない。
そうなると、その市長は美羽が以前から知っている人ということになる。
リアスが問う。
「魔族の人なのね?」
「そうだ。まぁ、美羽は会えば分かるかもしれん」
魔法陣が止まり、周囲を覆っていた光が消える。
到着したところにあったのは、長い廊下と幾つかの扉だった。
扉の上には札があり、『急騰室』、『資料室』、『会議室』とまさに事務所って感じの部屋が並んでいる。
そして、廊下の奥にある『市長室』。
そこに件の人物像がいるという。
おっさんがノックする。
すると中から、
『どうぞ』
と、声が聞こえてきた。
若い男性の声だ。
だが、どこか重みのある声。
おっさんが部屋に入ると、俺達もそれに続いた。
部屋で俺達を迎えたのは藍色の髪をした若い男性。
鷹のような鋭い瞳を持ち、頬には傷跡が残っている。
青を基調にした司祭服のようなものを身に付けており、その背には緋色の翼があった。
そんな彼は事務仕事をしていたようで、俺達が入室した今も手を動かしている。
「こうして話すのは初めてか。改めて挨拶を」
おっさんは男性の前に立つと深くお辞儀をした。
「俺はモーリス・ノア。オーディリア騎士団元団長にして、今はここにいる赤龍帝兵藤一誠の眷属をしている。本日の面会許可、感謝する」
おっさんの挨拶を聞き、男性は筆を置いた。
立ち上がると、その場で口を開いた。
「私はルシア。このゼレンを任されている者だ。『剣聖』からの面会申請となれば、断るわけにはいくまい」
彼の言葉にハッとなった。
――――ルシア。
聞き覚えのある名前だった。
緋色の翼、頬の傷跡。
昔聞いたことがある特徴と同じだ。
俺の反応に、モーリスのおっさんが頷く。
「そうだ。この男はかつて、魔王シリウスの右腕と呼ばれた男さ」
※チコンはアスト・アーデにある果実です。
見た目はまんまアレですが、アレではありません。