ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ   作:ヴァルナル

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12話 魔王の右腕

 

 

魔王の右腕と呼ばれた者がいた。

最強と呼ばれた魔王シリウスの切り札、魔王を守る最後の砦、またはその翼の色から『緋翼』とも呼ばれることもあった。

 

しかし、彼についての情報は少ない。

年齢も容姿も、性別すらも不明。

男という噂も聞けば、女だという噂も聞いたことがある。

この噂ですら、捕虜になった魔族から聞き出したもので、人族側からすれば正体不明の存在だった。

 

こうも情報が少ないのは、魔王の右腕が表舞台に出てくることがなかったからだ。

戦場に現れたという記録もなく、裏で動いていた様子もない。

それは痕跡を完璧に隠滅したからなのか、本当に動いてなかったのか。

それは、対峙した者を全て消したからなのか―――。

 

魔王の右腕を見たことがある捕虜はこう口にしていた。

 

――――まるで氷のように冷たい眼をしている、と。

 

「魔王の右腕………まさか、ここで会えるなんてな」

 

俺はそう呟いた。

戦時中、ずっと謎に包まれていた人物が目の前にいる。

しかも、この霊和都市ゼレンの長として。

こんなの誰が想像できるっていうんだ?

 

魔王の右腕――――ルシアから向けらる視線は恐ろしく鋭い。

鷹のような瞳がこちらを覗いてくるんだ。

そりゃ恐ろしく感じてしまうだろう。

 

ルシアが俺に視線を移す。

 

「勇者か。私も貴様に会えるとは思っていなかったぞ――――」

 

刹那、ゾッとするほどの圧がこちらに向けられた。

全身に刃物を突き立てられるような、鋭いプレッシャーだ………ッ。

こんなのを受けたのはいつぶりだろうか。

 

俺はルシアに言う。

 

「何か言いたそうだな」

 

「私が貴様に思うところがないとでも?」

 

「そりゃそうか。だったら――――」

 

俺の体から赤いオーラが滲み出た。

 

「聞いてやるよ。とことんな」

 

赤いオーラとルシアから放たれるオーラがぶつかり合い、この部屋が震える。

俺達は無言のまま互いに視線を交えた。

………が、少しして、部屋を圧迫していたオーラがピタリと止む。

 

ルシアが鼻を鳴らす。

 

「ふん」

 

「終わりか?」

 

「ああ。あの方が認めたのだ。疑う必要はなかったが、念のためだ」

 

「念のため………ね」

 

「あまりにも腑抜けた顔をしていたのでな」

 

「んだと、この野郎!? その羽むしりとってやろうか!? 焼き鳥にすっぞ!?」

 

こいつ!

初対面の相手に言う言葉じゃないよね!?

 

モーリスのおっさんが笑いながら、俺の頭に手を置いた。

 

「ま、こんな顔だが、おまえさんの心配は不要だよ」

 

「こんな顔ってなんだ!?」

 

そんなに腑抜けた顔してますか!

あーそうですか!

良いもんね!

後で美羽達に慰めてもらうから!

 

いっそのことアグニでもぶっ放してやろうかと思った時、美羽が前に出た。

 

「ルシア………なんだね。ボクのこと分かるかな?」

 

美羽の姿を確認すると、ルシアはその鷹のような眼を見開いた。

すかさず美羽の前に出ると、その場で跪く。

 

「お久しゅうございます、姫。貴女とお会いするのは何年ぶりでしょうか」

 

「前にこっちに来た時は会えなかったからね。四年くらいは会ってないかも。ルシアは元気だったかな?」

 

「はっ、この通りでございます。姫はいかがでしょうか。勇者の世界に渡ったと聞き及んでおります。向こうの世界では問題なくお過ごしでしょうか」

 

「うーん、問題ないとは言えないけど、元気にやってるよ?」

 

苦笑する美羽。

うん、問題ないとは言えないよね。

三大勢力に関わり、他神話勢力とも色々あり、とんでもない強者との戦いがこの僅かな期間で何度もあった。

俺の眷属になってからは特に増えてだな………。

美羽の平和を守るって誓った身からすれば、情けない話だと思うよ。

まぁ、これを口にしてしまうと美羽に怒られそうなので、心の内に留めておくしかできないけどね。

 

それはともかく、やっぱり美羽とルシアの面識はあったようだ。

なにせ、魔王の右腕と魔王の娘だ。

知らないわけがないか。

 

美羽は俺達に言う。

 

「改めて紹介するね。彼はルシア。もう気付いていると思うけど、お父さんの側近だったんだ。ボクとは子供の頃からの付き合いだよ」

 

「正確にはシリウス様が私を拾ってくださった時からだ」

 

ルシアの訂正に俺は聞き返した。

 

「シリウスが拾った?」

 

「私は孤児だったのでな。しかも、当時は記憶も失っていて自分の名前すらも覚えていなかったのだ。のたれ死ぬしかなかった私を拾い、名を授け、育ててくれたのがシリウス様だ」

 

なるほどな。

そういう話は何度か聞いたことがある。

長く戦争が続いていたこの世界では戦災孤児というのは珍しくない。

ルシアもその一人だったということか。

 

しかし、ここで一つの疑問が生まれる。

『ルシア』って名前………確か、この世界じゃ女性の名前じゃなかったっけ?

元々、魔王の右腕は女性って噂もあったから疑問に思ってなかったけど。

 

そんな俺の疑問を察したのか、美羽が耳打ちしてくる。

 

(えっとね、お父さんってばルシアのこと女の子だと思ってたみたいで、それで………)

 

シリウスさん!?

あんた、厳つい顔してちょっとお茶目なところないですか!?

確かに今のルシアは美形だし、子供の頃は女の子のように見えたかもしれないけども!

 

リーシャが微笑んで言う。

 

「可愛いお名前ですね。私はとても良いと思います」

 

「ああ。私も気に入っている」

 

瞑目して頷くルシア。

………本人が気に入っているなら良いか。

 

ルシアが言う。

 

「積もる話もあるが、先に用件を済ませよう。といっても、アーデルハイド騎士団殿から事前に話は聞いているがな」

 

モーリスのおっさんは口笛を鳴らす。

 

「流石は俺の後任。仕事が早ぇ。てことは、おまえさんにも異世界からの侵略者に関する情報は伝わっているってことで良いんだな?」

 

「手紙に書かれている程度の話はな。信じがたい話ではあるが、こうして《剣聖》が私を訪ねて来たとなると本当なのだろう。ちょうど祭には各国の上層部も参加する。場は設けよう」

 

「助かる」

 

俺はおっさんに尋ねる。

 

「もしかして、この祭の期間中にお偉いさんと話すのか?」

 

「ああ。これから関わってくるだろう連中が一同に会すんだ。都合が良いだろう? まぁ、祭の最中に戦の話をするなんざ無粋だろうが………事が事だからな」

 

今度はアザゼル先生が問うた。

 

「しかし、向こうからすれば話が急すぎて、飲み込めないんじゃないか?」

 

「かもな。それでも、早めにしておくにこしたことはない。幸い、集まる連中はどいつも顔馴染みだ。なんとかするさ」

 

祭の期間中に、集まる各国の上層部。

その人達におっさんが話をつけてくれると言うのか。

本当に頼りになるよ、この人は。

 

ルシアは席に戻ると、何枚かの紙を取り出した。

それは何かのパンフレットのようだった。

 

「この都市とこの庁舎の地図だ。しばらく滞在するのであればあって困るものではない。持っていけ」

 

これは助かるな。

リアス達はおろか、俺もアリス達もこの町は初見だからな。

かなり大きな町だし、何もなければ迷子になりそうだ。

 

………心遣いはありがたいんだが、このルシアという男。

出会ってからほとんど表情が変わっていない。

ずっと不機嫌な顔なんですけど。

美羽と話してる時ですら変わらないってどゆこと?

 

「なんだ、勇者。私に言いたいことがあるのか?」

 

「いや、大したことじゃないんだけどね? なんか怒ってる?」

 

「私は普段からこういう顔だ」

 

「ああ、そう?」

 

美羽が苦笑する。

 

「子供の頃から変わってないね。あの頃のボクもルシアの目が怖くて………あんまり話せなかったんだよね。なんか、目付きが怖くて小さい子が泣いちゃったって話も聞いたことあるし。………ボクもちょっと泣きかけたことあったし」

 

ダメじゃん!

大丈夫なの、市長!?

もうちょっと営業スマイルも出来た方が良いのでは!?

 

「勝手に泣く者など私は知らん」

 

冷たッ!

全く意に介してないよ、この市長!

 

何かを思い出したように、モーリスのおっさんが言う。

 

「そういや、市長と孤児院の院長も兼任してるってアーデルハイドから聞いたが」

 

「嘘っ!? あのルシアが!?」

 

「人手が足りていませんので」

 

「それ上手くやれてるの?」

 

「運営は問題ありません」

 

「いや、子供達との関係は………」

 

「そちらも問題ありません。面談の時に泣かれることはありますが」

 

「ダメじゃん!」

 

やっぱり圧が強すぎるんだよ!

だって、ずっと不機嫌な顔なんだもの!

表情筋どこに行ったのってレベルで表情変わってないんですけど!

 

ずーっとその表情でいられたら、そりゃ怖いよ!

子供は泣くよ!

美羽も思いもよらない情報にツッコミ止まってないよ!

 

つーか、『氷のような冷たい眼をしている』って話、ただただ目付きが怖いってだけかい!

もっとヤバい奴を想像していたんですけど!

 

まぁ、口調もぶっきらぼうだし、目付きも相まってそういう印象を持たれたのだろう。

これで孤児院の院長は無理があると思うが………。

 

などと思っていると、部屋の扉がノックされた。

ルシアがそれに応じると、部屋に入ってきたのは数名の子供達だった。

子供達は俺達の間を抜けて、ルシアの元に寄る。

 

「いんちょーせんせー」

 

「仕事中にこの部屋には入らないようにと言ったはずだが………。何の用だ」

 

ルシアが問うと子供達は一斉に手を突き出す。

手には露店で買ってきたであろう、軽食が握られていた。

 

「おやつ買ってきた!」

 

「いんちょーせんせー、朝早かったからお腹空いてると思って!」

 

「食べて食べて!」

 

「そうか」

 

小さく息を吐いて、ルシアは出された軽食の一つ――――チコンを摘まむ。

 

って、またチコンかいぃぃぃぃぃぃぃッ!

 

「悪くない味だ。行事の前に軽く済ませるつもりだったからな。ありがたい。礼を言おう。だが、前にも言った通り、仕事中はこの部屋に入らないように」

 

「「「はーい」」」

 

手を挙げて返事を返す子供達は、ドタドタと部屋を出ていく。

しかし、見ると一人の女の子が残っていた。

ルシアが問う。

 

「どうした?」

 

「せんせー、これあげる」

 

「これは?」

 

「せんせーの絵描いたの」

 

女の子が渡した紙にはルシアの似顔絵が描かれていた。

なんか美少女っぽく描かれているような気もするが………あの子からはこう見えているようだ。

 

ルシアは似顔絵を受けとる。

 

「そうか。受け取っておく。おまえも早く行くと良い」

 

ルシアに促され、女の子も先に出ていった子供達の後を追って部屋を出ていく。

女の子が部屋を出た後、ルシアはどこか面倒そうに言った。

 

「ふん………。このようなものを書く暇があるのなら、もっと有意義なことに時間を裂けばいいものを」

 

「そう言う割には、しっかり受けとるんだな?」

 

「態々、描いて持ってきたのだ。拒む理由もない」

 

そんなことを言いながら、部屋の物入れから額縁を取り出し、先程の絵を収めるルシア。

慣れた手付きで額縁に綺麗に入れると、壁に飾る。

 

って、良く見たらこの部屋。

壁のあちこちに子供達が描いたであろう絵が飾られていた。

しかも、子供達の似顔絵もあるし。

似顔絵の隅にルシアのサインがあるってことは描いたのは………。

 

あ、うん。

なんか今の動作で分かったわ、こいつのこと。

ずっと不機嫌な顔だし、口調もぶっきらぼうだけど、間違いない。

 

 

この魔王の右腕―――――ツンデレじゃねーか。

 

 

 





新ツンデレキャラ爆誕……か?
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