(ワートリガチ勢との交流が盛んな最近のある日)


A「もっとワートリSS増えればいいのになー」
B「なー」
C「なー」
D「私とりあえず一本書きますよ」
A「え!?ホントですか!?」
B「Dさんが参戦したら無敵や!」
C「震えてきた」
俺「え?Dさん投げるの?やべぇ戦慄が走るぞ」

俺「(…我慢できねぇ)――俺も書く!!!!!」ドンッ!


というわけで勢いで言ってしまって、かつ二日後くらいにネタがまとまってしまったのでぶちこみます。
長編にするには他の創作の予定もあり時間が足りないので、とりあえずの短編で許してくださいなんでもしますから!

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(ワートリガチ勢との交流が盛んな最近のある日)


A「もっとワートリSS増えればいいのになー」
B「なー」
C「なー」
D「私とりあえず一本書きますよ」
A「え!?ホントですか!?」
B「Dさんが参戦したら無敵や!」
C「震えてきた」
俺「え?Dさん投げるの?やべぇ戦慄が走るぞ」

俺「(…我慢できねぇ)――俺も書く!!!!!」ドンッ!


というわけで勢いで言ってしまって、かつ二日後くらいにネタがまとまってしまったのでぶちこみます。
長編にするには他の創作の予定もあり時間が足りないので、とりあえずの短編で許してくださいなんでもしますから!



鉄は鈍く冷たく、涙のように洪水に沈む

『助けて…!!』

 

大雨に混ざって、湿った血と煙の匂いがする。

 

ついさっきまで、街中には白い巨大な化け物達が闊歩してた。

私は逃げるのに夢中で最後まで見ていなかったけど、いつの間にかそれらはバラバラになってた。

何者かに大穴を開けられたり、切り刻まれたりして、同じく地面に転がっていた。

 

避難し遅れ、化物の被害を受けて、倒れ伏した人々と同じように。

 

私はそれをはっきり見ようと思わなかった。

特に見えた人が死んでいるか、すぐ死ぬものとわかってしまったら、目線を離して放置した。

そう、()()()()()()だ。

 

自分が思うより自分の身が可愛かった。

そうして、情けなくも怪我なく逃れた。

逃れきってしまった。

 

呼吸が落ち着かないままに走っているうちにある声が聞こえて、足を止めた。

その声が聞こえたのはたまたまだったのかもしれない。

だけど。

 

『姉さんが…!!』

『姉さんが死んじゃう!!』

 

私はその声を聞いた時。

 

『姉さんを助けてよ!!』

「――っ!!」

 

私自身の()()()()()()()()を…ただただ恥じたんだ。

 

 

 

 

「ふっ!」

「ちぃっ!」

 

重厚、それでいて軽快な激突音が鳴り響く。

その発生源は一つの部屋にあった。

構造物や上空のところどころが格子のように見えるその部屋では、二人が戦闘を行っていた。

 

一人は日本刀を模した白色の兵器『孤月』を片手で操る青年の男子。

もう一人はスコップの柄を途中で折って、その箇所を尖らせたような白黒の物体を両手に合計二つ携行している、同じく青年の…女子。

その短めの柄に紐づくように発生している不思議な半透明の盾が、彼女を守っている。

 

二人は視界の邪魔にならない程度の黒髪に、ヘッドホン。

また細部こそ違えど、防弾服が目立つようにデザインされた、ある程度似たような服装を着用していた。

そのカラーリングは紫と黒を基調としている。

 

「鬱陶しい――」

 

男が突如左手にハンドガンを出現させて持ち、同時に女から距離を取る。

訓練された動きであり、一切の躊躇を感じさせない素早いものだ。

だが、その後退運動よりも拍子を一つ早く、女が踏み込み、迫った。

 

「しくないっ!」

 

男にゼロインチ近くまで迫った彼女が食い気味な言葉とともに、強烈に盾を上に打ち上げる。

盾の全長は先程は1m程だったが、今は50cmほど。

盾は男の左手を勢いよく跳ね上げ、持っていたハンドガンを吹き飛ばす。

 

「――んだよっ!」

 

だが、男の動きは途切れなかった。

体が跳ね上げられた慣性を利用して、右足で膝蹴りを女の脇腹に向けて放つ。

彼女はフリーになっている右手の携行物から小さな盾を出しこれを受け流すが、ゼロインチからは遠ざかる。

男がそのまま後方宙返りに移行し、距離を離したからだ。

 

ここまでの一連の組み合いに、互いに不意を撃たれたようなぎこちなさはない。

すでに過去に同じような…或いはそれぞれ動き方の一部分を身をもって体験しているからだ。

 

今まで何回も、何十回も…いや、それよりも繰り返した()()()のうちの一つ…

 

「いやー、ワー君強くなったねー!隙が甘かったら追撃行こっかなって思ったけど」

「…おまえが進歩してないだけだ。…訓練を怠ったか?」

「バイトが忙しいだけ!」

 

女は拳を握り、オーバーリアクション気味に否定のジェスチャーを行った。

高めの声で、可愛げの有る動作。

一見した男子ならば、思わず頬がゆるむことだろう。

だがその態度は逆に、彼の寡黙そうな言動を少しずつ過激なものにしていく。

 

「何故俺たちの隊を…A級を抜けた?」

章平(ショー)君が入ったからって前から言ってるじゃん!スナイパー二人に増やす良い機会だったでしょ!」

「戦術のことを聞いてるわけじゃない」

「現場五人構成は無理だー、ってチーム会議でさんざん話したでしょ?」

「控えにでもいればよかっただろう。当然バイトするより金は入ってくる」

「それはそれで私、全く仕事できてないじゃん…」

 

申し訳なさそうなたどたどしさで女が話す。

それを押し切るように、男は迫った。

 

「何故だ?五十嵐」

三輪(ワー)君あれからずっとそればっかー!」

 

女…五十嵐もみじは両手を振り下ろし口を大きく開けて叫んだ。

ワー君と呼ばれる男…三輪秀次はなおも不快な表情を隠さない。

 

界堺防衛機関、ボーダー。

四年以上前から、ここ三門市は近界民(ネイバー)とされる存在の侵略、被害を受けていた。

その驚異を引き受け対処し、以降近界民から市民と街を守っているのが、当時設立されたボーダー。

及び、ボーダー内で活動する隊員たちであった。

 

三輪秀次と五十嵐もみじは、このボーダーに設立時から入隊して、先達の優秀な指導を受け最終的に精鋭隊…A級隊にまでたどり着いた。

二人は三輪をリーダーとした構成チーム『三輪隊』として活動していたが…やがて構成員の増員後、戦術上の問題にぶつかることになる。

1チーム内の現場班をオペレーティングできる限界超過数である五人、現場班構成数がそこまで膨れ上がった二年前。

前衛が三人となり柔軟な連携が困難という理由から、もみじは自ら三輪隊を辞退…チーム無所属のB級フリー隊員となった。

この経緯は、無論三輪隊の間で十分に話し合ったものである。

 

だが三輪が知りたかった彼女の辞めた理由は、そんなことではなかった。

 

「なら邪魔だ!」

 

手すきになっていた三輪の左手上に、再度ハンドガンが構築される。

その動作を察知したもみじは姿勢を改め、軽めに足を構え直す。

ハンドガンの構築から間もなく、三輪はハンドガンから黒い銃弾を打ち出した。

 

直後、もみじの前方に白い巨大な障害物が地面から発生し、そして盛り上がる。

ボーダー隊員の扱う『トリガー』と呼ばれる武装…そのうちの『エスクード』とされるもの。

防御用に設計されたバリケードトリガーだ。

遮蔽物は黒い弾丸を受け止め、着弾点からいくつかの黒い鉄塊を生やした。

 

この鉄塊を生やす弾丸こそ、三輪の得意とするトリガー『レッドバレット』。

半透明なシールドなどを透過して弾丸が迫り、着弾物に重さ100kgの鉛の重しを生じさせる。

弾丸の速度は遅く、トリガー使いの体力そのものである『トリオン』も比較的大きく消耗するものだが…三輪はそれを難なく使いこなす実力を有していた。

 

エスクードが遮蔽したもみじの視界の左側面に、三輪が銃口を構えて現れる。

エスクードは物体にトリオンを流して発生させるもの。

今回は前足…もみじの左足を起点とし、前方へと…だ。

その構えの裏側を突く動きである。

 

だがしかし、三輪の視界には、常人には信じられない光景が有った。

もみじが左足を左90度に大きく広げ、体勢を非常に低くし、ストレッチのような構えから、弾丸のように飛び出す。

銃口の射線を掻い潜る、高速低空の突貫。

 

簡単に言うならば、ノーモーションタックル。

一連の動きは、体の一切のブレなく行われた。

常人はそもそも最初の足を広げる動きだけで体勢を崩しかける。

その上でストレッチした状態からクラウチングスタートを行うのは、だいぶ無茶だ。

トリガー使いは()()()と呼ばれるトリオンで作った戦闘用のボディを構築し身体能力を増強するが…それでもである。

 

「スラスター」

 

もみじが三輪と盾を密着させる瞬間、左手でトリオンの噴射武装を起動する。

 

『スラスター』はオプショントリガーと呼ばれ、『レイガスト』という武装と紐づけて使用するもの。

つまり、もみじが最初から両手に握っているものはレイガストだ。

強力な盾かそれなりの切れ味の刃のどちらかを生やし、使い分ける事ができる。

だがもみじのそれは、それは通常の盾剣と形容できるレイガストと見た目を異なった、専用の()()()()()()だった。

 

「ぐお、っ!?」

 

小さめのシールドを展開した状態でのレイガストのシールドバッシュを三輪はとっさに右の孤月で受け…そして吹き飛ばされる。

エスクードの遮蔽での視界の不自由は、逆にもみじがこれを行うための誘いだった。

 

「ふっ――」

 

くるり。

もみじは右手のレイガストの盾を消し、回転を加えながら手を離すと同時に…意識を集中させる。

中空のレイガストの柄の先端に()が生え、持ち手の後ろには()()が出現する。

 

「たっ!」

ズガンッ!!

 

紋様が消えると同時に、釘が三輪の吹き飛ぶだろう位置に高速で射出される。

紋様状のジャンプ台を出現させ、触れた物体を一気に跳ね飛ばすトリガーは『グラスホッパー』と呼ばれる。

そして釘と思われるものは、レイガストの()()()()

盾を消す代わりにレイガストの特定部分に生やすことが出来、通常のレイガストならそれは刃の形を取るが――これは他でもない改造トリガーである。

 

スラスターも同時に加えて二重の慣性で打ち出すは、過剰なまでの点火力。

鍛錬によって中距離までを捕捉できる精度にまで動作を鍛え上げた、鬼殺しの弾頭。

 

()()()()()()()

彼女の必殺技の一つであり、シールド複数ですら容易に貫きかねない重すぎる一撃。

 

三輪は体勢を立て直し、これをとっさに回避した。

当たれば彼ですら防ぎようがない。

もみじの手札を知っている彼は即座に体勢を立て直し、迫るもみじの向きを捕捉すると同時に銃撃し――

 

――前方から()()()()()()()がプレスしてきた。

 

もみじが攻撃形態(ブレードモード)のレイガストにエスクードを生やして、スラスターで発射したのだ。

視界を塞ぎながらも同時に強烈な破壊力を発揮するこの攻撃は、特にレッドバレットに対して強力に作用する。

重さを増した投擲物は、直撃したトリオン体を一瞬でミンチに変える。

これも彼女の必殺技の一つであり、何よりもレッドバレットへの回答だ。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

エスクードを発射した直後のもみじは両手に再度レイガストを防御形態(シールドモード)で発生させて持ち、突撃する。

中距離戦においては、細かく動き回りながら銃撃を行える三輪のほうが有利。

もみじに純粋な中距離以上用のトリガー装備はない。

近づくならば一息に。

彼女はこれまでこの動きで三輪から期先を制してきた。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

自らのエスクードで一瞬だけ閉ざされた視界の中から、()()()()()()()が複数飛び出し、彼女を包囲した。

 

三輪があの時撃っていたのは、レッドバレットではない。

変化弾(バイパー)』…銃手(ガンナー)用の基本トリガーの一つだ。

曲がり方と方向を指示し、指定したように弾丸を打ち込む曲芸。

自由に使いこなすには、これまた高い腕前が必要だが――

 

もみじの踏み込み先に立ちはだかったバイパーは、彼女の動きの勢いを完全に殺していた。

多角的に、いやらしく展開された弾丸をレイガストで防がざるをえなかったもみじは、失速を余儀なくされる。

その瞬間を狙って、エスクードを躱した三輪が文字通り蛇のように鋭く踏み込み、迫る。

 

一瞬。

もみじの視界の中で三輪の持つハンドガンと、孤月の切り込む軌道が一瞬だけ重なる。

 

「! やばっ」

 

レイガストで孤月を防ぐ瞬間、()()()に彼女が気づく。

だが遅い。

一瞬だけ孤月と重なったハンドガンは、リロードされている弾丸の種類がすでに異なる。

 

トリガーのスイッチ技術。

複数のトリガーの発動・操作は、両手に持つ二つ分までが一般的な隊員の対応力、許容力だ。

だが、そこに数々のオプショントリガーの発動なども場合によっては絡んでくる。

複雑化したトリガーの発動や操作の切り替えは、熟練者でさえ習熟を困難とするものだ。

 

だが三輪は、特にこのうちの()()()()が上手い。

精鋭とされるA級隊員等は、9割方この手の操作技術の一定段階に到達しているが…その中でも三輪のこの技術は上位に値する。

非常に大きな武器であり、三輪の最も油断ならない点であり――

 

「っ!」

 

気がつけばもみじの左腕に、大きな鉛が三本生えていた。

300kgの荷重が彼女の左腕に襲いかかり、一気に左側へと倒れかかる。

 

「くたばれ!」

 

孤月での仕留めのニの太刀が、崩れた守りの隙間に襲いかかる。

レッドバレットを受けた瞬間に左手のレイガストはもみじの手から離れ、盾も消え去った。

右手のレイガストによる防御も、この瞬間には角度も支えも、もはや伴わない。

通常の『シールド』トリガー…空中に発生させられる盾を考慮しても、小さく凝縮したものでなければ孤月なら貫通する。

ほぼほぼ、詰みである――

 

――五十嵐もみじが、強化バランス感覚という特殊な才覚(サイドエフェクト)を持っていなければ。

 

 

パァン。

 

 

――瞬間、三輪ともみじの頭部が、同時に爆ぜた。

 

『『戦闘体、活動限界』』

 

機械アナウンスが響いた後の数秒間、空間になんとも言えない静寂が訪れた。

 

 

 

 

「うひゃー!もみじの奴やっぱやっべーな!」

「これが五十嵐先輩…ですか。凄まじいですね…」

 

紫と黒の服装…三輪隊の隊服を着た男子二人が、同じく三輪隊のトレーニングルームから中継されていた模擬戦を眺め、呟いた。

黒髪をオールバックに整え、隊服を半袖に整えたラフな格好をしている攻撃手(アタッカー)、米屋陽介。

前方45度に尖ったショートの前髪と、緑色のフチ眼鏡が特徴的な狙撃手(スナイパー)、古寺章平である。

 

「まさかあいつ、倒れ込む流れで左のレイガストにオーバーヘッドキックするなんてな!からの頭部に向けてブレード!」

「戦いの時毎回こうなんですか?左手のレイガストを『離してた』のはわざと…なんですよね?」

「おう、わざとわざと。普通なら気づいてもミニシールドで博打するところだぜ?」

 

秀次のやり方知らねぇと、まず反応すらできねぇよ。

米屋の呆れと驚嘆が混ざった言葉に、古寺は複雑な表情を浮かべた。

彼は、かつてここを去った五十嵐もみじが三輪隊を辞めた原因が、自分の三輪隊加入にあると思っていたからだ。

 

「甘いな。今取った行動が博打そのものだ。シールドで防いではジリ貧と変わらない」

「おっ、奈良坂どこ行ってた?てか最後見てたのか」

「たけのこの里を買ってきていた」

「えっ、気遣いそこ??」

 

同じく三輪隊の隊服で部屋に現れた狙撃手、奈良坂透。

整った顔立ちを持ち、それと…キノコ頭と呼ばれるような髪型をしている男子。

だが食べ物の好物は揃ってたけのこ絡みであり、一部のきのこの眷属からは名指しで批難される半ばどうでもいい来歴を持っていた。

 

「ちっ…」

 

不機嫌な顔が治らない三輪秀次が、トレーニングルームから顔を出した。

 

「おつかれ秀次~!相打ちまで行ったじゃねぇか!良い戦いだったぜ」

「…最後の手を予測できなかった」

「ありゃ事故だって。予期できても予測はきついんじゃね?」

「お疲れ様です、三輪先輩」

 

三輪にねぎらいの言葉かかった数秒後、

 

「あっ!(トー)君!来てたんだ!」

「五十嵐、試合を見れずすまない。代わりと言ってはなんだが…」

「うわーっ!たけのこの里!トー君気が利くーっ!」

 

もみじが餌付けされた犬のようにたけのこの里に反応する。

…犬にチョコレートを与えるのは毒になるとは決して言ってはいけない。

 

米屋(ヨー)君!ショー君!これ一緒に食べよ!私月見さん呼んでくるから!」

「あっ、はい!わかりました先輩!」

「堅くしなくていいぜ章平?単にKUNOICHIなだけだしコイツ」

「KUNOICHI?なんですかそれ?忍?」

「昔やってたスポーツ番組の優勝経験組な。最年少」

「ええっ!?そうなんですか!?」

「私は忍者じゃありませーん!!ぷんっ!」

 

SASUKE。

スポーツ・エンターテインメント番組の金字塔の一つ。

近年では放送頻度が激減し知名度が減ったが…かつて数々の運動超人を世に知らしめた、障害突破競争のタイムアタック実況番組だ。

 

五十嵐もみじはこの番組の女性部門K()U()N()O()I()C()H()I()、そのグランドファイナルを最年少で制覇したかつての伝説の一人だった。

そのせいか、昔から彼女は()()忍者だのくのいちだのと無理に呼ばれ続け、思わず忍者っぽい髪型であるポニーテールを断念した過去がある。

他にも忍者を忌避するのは一つ、彼女の中に大きな理由があるが…

 

「ワー君も!一緒に食べよ!」

「俺はいい。おまえとは一緒に食べない」

「………」

 

三輪が隊の個室…作戦室からもの言わずに出ていく。

もみじは黙って、苦虫を噛み潰した顔でそれを見たのち、一呼吸遅れて別室へと歩いていく。

場に残された者達の空気が、一気に重苦しくなった。

 

「…あの二人、いつも会うたびずっとこんな感じですね」

「秀次、こればっかはずっと認めてないみたいだからなぁ…頑固過ぎんだろ」

「あいつらは同期だからな。この心境ばかりは、俺たちには推察は難しい」

 

今回…久しぶりに三輪隊に顔を出したいと、もみじが三輪に(断られること前提で)個人での模擬戦を提案したのがことの始まりだ。

常日頃、彼女に対して不機嫌をこじらせている三輪は、珍しくこの提案を飲んだ。

二人が仲直りするきっかけにつながる、かとも思えたが…

 

「あの…じゃあ…試合中、三輪先輩が五十嵐先輩に辞退の理由を聞いてたのは?」

「あいつまた聞いてたのか…」

「アレ?いつもの癖。ここまで納得しないってことは…なんか別のワケもあんだろうが」

「「「……」」」

 

一瞬の沈黙。

 

「……たけのこの里。食べて良いんでしょうか」

「月見さんの分は残しとこうぜ。後がこええし」

「だな」

 

 

 

 

「お疲れ、五十嵐ちゃん」

「あっ、月見、さん…」

「彼と仲違いしたままだからって、私にも気まずくする必要はないのよ?」

 

三輪隊オペレーター、月見蓮。

ボーダー開設初期から入隊し、古参の戦術指導者として多数からの信頼を集める女性。

黒髪の長髪で、中央分けの前髪に着こなしたスーツ姿は、ボーダー隊員でも随一の大人の女の風格を感じさせるが…これでも大学生で、未成年である。

高校生が殆どを占める三輪隊では無論最年長だが、年齢を間違われることが悩みと当人は仲間に語る。

もっとも同隊員の誰一人としても、未だに彼女を相応の年齢では認識していないのだが。

 

「すみません…」

「謝らなくていいわ。皆、親しい人にほど不器用になるものなの。覚えが有るでしょう?」

「……はい」

「駄目だったら、また時を待てばいいわ。あなたが何か悪いことをしたわけでもないもの」

「そうです、よね…」

 

月見の悪いこと、という言葉に、もみじは眉を潜ませる。

彼女の表情の動きを見逃さなかった月見は、少し時間を置いて、こう切り出した。

 

「三輪くんね、「あなたみたいになりたい」って言ってたわよ」

「…えっ!?それは、いつ…?」

「増員する前。米屋くんが加入する少し前ほどだったかしら」

 

動揺するもみじに、月見は穏やかに口調を丸め、優しい表情で会話を続ける。

 

「…きっと、元々はあなたへの憧れだったのよ。それがほんのちょっと拗ねちゃっただけ」

「ほんのちょっと…なんでしょうか?」

「いずれ仲直りできるレベルはみんなその範疇なの。暗く考えなくていいわ」

「なら、良いんですけど…」

 

励ましの言葉を聞いても気落ちが戻らないもみじに、「それより」とポンっと肩を叩く。

とても美しく、初見の人間が絶好調だと錯覚するような満面のその笑みで――

 

「男子達、あなたの分のお菓子食べきっちゃうわよ?誰がヒエラルキーの頂点か、教えてあげないとね」

「…そうですねっ!!」

 

十秒後、三輪隊の作戦室内に三人分の恐怖の悲鳴が轟いた。

 

 

 

 

あいつは、(じん)は…何もせずに俺の前から立ち去った。

姉さんを助けることもなく。

 

心の中ではわかっていた。

もう姉さんは()()()だった。

誰にも助けることができなかったんだ。

そんなこと、そんなこと…最初からわかっていた。

 

虚しさと、怒りと、悔しさと、悲しさで、涙は前よりも一層、目から流れてくる。

もうどれが雨で、どれが自分の涙なのか、何もわからない。

崩れた家も、瓦礫も、姉さんも、ひとまとまりにこの涙で包めてしまえばと…何度思ったか。

そして何より…ここまで起きて何もできず泣き叫ぶ自分に、ただただ抱えきれない嫌な感情が溢れ出す。

 

『ちょっと診せて!』

 

――そんなときに、()()()は現れた。

 

涙でよく見えなかったが、そいつが何かを決意した強い眼光を持っていたことはわかった。

奴自身の、或いは余った服をちぎって使い、姉さんを止血して…やることが終われば、ひたすら黙って姉さんを見ていた。

 

『…ごめん』

 

姉さんが事切れたとわかった時、あいつは数十秒ほど目をつむり、手を合わせて…そして他の転がってる奴にも同じことを始めた。

 

なんであいつはただの一般人なのに…この状況でこんなことができたんだ?

 

あいつは誰よりも強い意志を持っている。

呆然としていた俺は、やがてそんなことを思いだした。

どうしてもやらなきゃいけないことを、誰に言われずともやり遂げる意志。

俺は、それが出来るあいつになりたかった。

 

()()()()()()()()()()()()()

姉さんを殺したあいつらを、あいつみたいに動ける意志で――絶対に。

これだけは、俺がやらなきゃいけないことなんだ。

 

「…近界民(ネイバー)は、全て殺す」

 

姉さんの復讐を終えて――俺はあいつと、肩を並べて戦いたかったから。





【挿絵表示】

(※イラスト制作:俺)

◇五十嵐 もみじ:PARAMETER (TOTAL:52)
・ トリオン:8
・ 攻撃:6
・ 防御・援護:12
・ 機動:9
・ 技術:9
・ 射程:2
・ 指揮:3
・ 特殊戦術:3

・サイドエフェクト:強化バランス感覚


コンセプトは真っ正直に『()()()()()()』。
何かとネタにされる三輪秀次だが、大規模襲撃編を中心としためっちゃかっこいいシーンも多いので、描写するのなら彼を掘り下げるしか無い!ということでこのような設定で一本書きました。
長編もいけそうな膨らみは持たせてあります。

搭載トリガーの中身は、体が闘争を求めるアーマードコア構築。
ぶっちゃけ10割作者の趣味。
もみじの頭の中では忍者から離れつつ体術を活かした構成にしようと、長年の模索の果て、レイガストの父であるエンジニア雷蔵の酷使を経てこのスタイルにたどり着いたが…彼女の戦いを見た他の隊員は、忍者すら生ぬるい何かを彼女のスタイルに見ている。
本末転倒である。

元三輪隊かつ開設時入隊勢なため高次元の戦闘能力を持っており、アタッカーソロランクは村上より上くらいまで行ってるんじゃないかなぁ、という想定。
なので基本的にソロでは三輪より強い。
影浦あたりやこなみ(not双月)あたりと同格だと思うが、影浦には必殺技が全く当たってくれないため相性が悪く、戦いたくないともみじは思っている。


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