UMP45's DYING LIGHT   作:天海望月

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Dying Light
消えゆく灯火


 暗闇の中に一筋、青白い光が走る。

 

 それは大きな音とともに断続的に続く。スパークと呼ばれる一種の放電現象で、よくアニメで見るような、ケーブルが切られた際に電流が漏れ出る表現、それと同じ現象である。

 

 不規則に音と光が溢れ、長い間同じ状況が続いた後に、

 

 “彼女”は突然目を覚ました。

 

「がっ、はっ、ぁ……っ!」

 

 目覚めると同時に襲いくる左腕からの痛みに悶え、彼女は患部を押さえようと手を伸ばす。

 

 そして気がつく。二の腕の一部が欠損して、コードが中から数本出てきていることに。スパークはここから発生していたのだ。

 

 そのせいか、左腕の肘から先はピクリとも動かない。

 

 じんわりと続く痛みを堪えつつ、彼女は地面に右手をついて立ち上がる。

 

 今まで体を預けていたアスファルトから起き上がると、やたら衣服が埃まみれであることが分かった。

 

「一体どれだけ長い間ここでくたばってたって言うの……?」

 

 試しにスカートを数回叩くと、そこから灰色の煙が上がる。ここまで埃がたまるには、相当な時間ここで倒れていなければありえないだろう。

 

 しかし、何故ここで倒れていたのか。戦闘で撃たれたのか、それとも何か事故にでも巻き込まれたのか。

 

 ――それまでに至る記憶が無い。

 

「困ったわね、メモリでもイカれた?」

 

 人形の構成物質は強固なものばかり。しかしその左腕が動かなくなるほどの出来事が起きたのだ。衝撃で記憶装置に異常をきたした可能性は十分にある。

 

 しかもよく考えてみると、自分のことやそれまでの経歴など、色々な記憶が曖昧になっている。

 

「落ち着いて……。一旦記憶の整理をするのよ……」

 

 彼女は深呼吸をし、小さく呟き始める。

 

 ――私はUMP45。戦術人形。

 

 私には仲間がいる。隊の名前は……404。

 

 UMP9、416、G11。私の仲間の名前。

 

 私は、こうなる以前……確か……何かの作戦を……。

 

「クソッ、全ッ然思い出せない!」

 

 そう言って“UMP45”は頭を押さえる。

 

 彼女が覚えていたのは、自分のことについてと、仲間のことについて。何か軍事的な行動をしていたような断片的な記憶、そして、この世界における基礎知識。その程度だった。

 

 故に、いくら記憶を整理しても、45がこうなるまでに至った経緯を思い出せないわけだ。

 

「覚えのある三人に連絡を取る以外、私が取れる行動はなさそうね」

 

 今の彼女は、迷子の子供も同然だ。自分がどこにいるかも、何をしていたかもわからない。右も左も分からない、というのはまさにこのことだろう。

 

 45は自分の服の隅々をまさぐり、ポケットに入っていた無線機を取る。

 

「ええっと、確か404のチャンネルは……」

 

 自分の記憶を必死に辿りながら、無線機に数字を入力していく。

 

「これでいい……はず」

 

 そして彼女は恐る恐る発信ボタンを押した。

 

「あー……、誰か聞いてる?聞いてたら返事をちょうだい」

 

 無線の詳しい使い方など覚えていない。そのため45は誰かと普通に話すように無線を使用した。

 

 無線特有のノイズが流れ続ける。しばらくすれば何か返答があるかもしれないと45は期待し待っていたが、いつまで経ってもノイズ以外がスピーカーから発せられることは無かった。

 

「そんな……どうしろって言うの」

 

 こうして彼女はツテを早々に失った。また時間を置けば連絡を取れるかもしれないが、しばらくはどうしようも無さそうだ。

 

 ――いや、どうやら置く時間もないらしい。

 

「うぁっ」

 

 突然45がふらつく。何事かと思い、彼女が自分をセルフチェックすると、バッテリー残量が少ないことが分かった。そのおかげで、自動的に省電力モードにでも入ったのかもしれない。機械である故の、避けようのない事象だ。

 

 このままではまずい。早く充電をしなければ、またこと切れてしまう。焦った45は、どうにかしようと当てもなく歩き始める。

 

 周りは夜の荒廃した街並みが広がっていて、記憶が曖昧な彼女にも、これはこの世界ではよくある風景であることは分かる。そして、それなりに戦闘が行われることも。

 

 もし戦闘が行われていて、そしてもし人形の残骸があるのならば。非人道的――といっても人形に人道的もクソもないが――だが、自分が生きるためには仕方がない。

 

「何でもいい、バッテリーさえ充電できれば、何でもいいの」

 

 気がつけば、左腕のスパークの間隔が長くなってきている。これがついに光を灯さなくなった時。それが彼女の死だろう。

 

 45はさまようように街を歩き続け、人形の残骸がないか血眼で探し続ける。

 

 ――運がいいことに、お目当てのものはそう時間がかからないうちに見つかった。

 

「ぁ――たすけて……ください」

 

 まだ息はあったが。

 

「っ――」

 

 とりあえず、45はその人形に近づく。

 

 ボロボロの風体で倒れていた彼女は、レーザー系の武器で攻撃されたのか、身体のあちこちが焼け焦げていた。

 

「動ける?」

 

「無理です……。もう、足が制御を受け付けないんです」

 

 彼女の言う通り、無残なタイツを履いた彼女の足は、所々部品が露出していて、これまた45の左腕のようにスパークを発していた。

 

「その銃はまだ使えるの?私は、銃をどこかにやっちゃったみたいで」

 

 自分が銃を使って戦っていたことは覚えている。しかし、目覚めた時にその銃は辺りには無かった。今あるのは、ブーツに仕込んだナイフくらいだ。

 

「はい、使えます」

 

 そう言うと、彼女は持っていた銃を出す。

 

「お願いします……。どこでもいいんです、グリフィンの基地でも飛行場でも、連れて行ってくれませんか……?」

 

「グリ……フィン?」

 

 ――確かに、この名前には聞き覚えがある。しかし、それがどんな意味を持つのか。それが分からない。

 

 つまり、この倒れている彼女を連れていくことは、

 

「無理……ね……」

 

「そんな……!お願いします!まだ、こんなところで死ぬのは……!一人で寂しく朽ち果てるなんて、嫌です……」

 

 45が無情にも事実を伝えると、倒れている彼女は目に涙を浮かべて、45に懇願し始めてしまった。

 

 本当は、彼女は人間なのではないか。そう見間違うほどの感情表現だった。しかし、そんなことをされても45にはどうしようもない。

 

 45だって、今にも死んでしまいそうなのだ。

 

「お願いです……、置いてかないで……」

 

 こいつが生きていなければ、こんな気持ちは味わうことはなかったのに。今頃、自分はバッテリーを手にしていたのに。

 

 ――なら、今こいつを黙らせてしまえばいいのでは?45の頭にそんな考えがよぎる。

 

 彼女の他に、いつ人形と出くわすか分からない。なら、今ここで彼女を……。

 

 だが葛藤する。そんな自分のエゴで、彼女を殺めていいのだろうか?45は頭を押えて苦しむ。

 

 こんなにも彼女は死にたくないと願っているのだ。自分の都合で殺していいものか。そう考える。

 

 ならせめて、引きずってでも彼女を連れて行って、そのグリフィンとやらの基地に届けてやろう。そう結論を出す。

 

「そうね、じゃあ――」

 

 そう言うと、彼女はバランス感覚を急に失った。

 

 地面に立っていられなくなり、45は目を回して倒れ込む。

 

 何が起こったのか確認すると、どうやらバッテリーがもう持たないようだ。

 

 一番重要なことを考慮していなかった。これでは、まだ這って移動することは出来ても、持って数分。それまでに他の人形が見つかるかといえば絶望的だ。

 

 ここで、45に究極の選択肢が生まれた。

 

 自分がバッテリー切れで倒れるか、それとも、

 

「ひっ……」

 

 目の前の人形を殺してでもバッテリーを奪い取るか。

 

 45の目付きが変わったのを彼女は見て、その恐ろしさに彼女は悲鳴をあげる。

 

 自分は死にたくない。しかし、それは彼女も同じだ。

 

 だがここで共倒れになるくらいなら……、彼女を殺して、バッテリーを奪うべきなのでは?いや、そんなことはできないし、したくない。

 

 そうしていくうちに、みるみる45のバッテリー残量は減っていく。

 

「やめてください……まさか、そんなことはしないですよね……?」

 

 彼女の声は震えている。怯えているのだ。

 

 一体どうすれば。もう、自分には決められない――。45は薄れゆく意識の中、自分はこれで良かったのかと自問自答し続ける。

 

 そして、

 

『これからは家族だよ、45姉!』

 

「――ナイ……ン?」

 

 今まではっきりと思い出せなかった、妹の声と顔が頭の中に蘇った。

 

 曖昧だった彼女との思い出も、断片的に、しかし次々に蘇っていく。

 

 それと同時に、45の決心がついた。

 

「ぐっ、ううっ……!」

 

 彼女は最後の力を振り絞って、右手一本で体を起こす。

 

 立ち上がると同時に彼女は――ブーツナイフを引き抜いた。

 

「そんなっ」

 

「――ごめん。私だって、生きなきゃいけない理由があるの」

 

「いっ、嫌……!冗談ですよね?そうですよね?そうって言ってくださいよ……!」

 

 45は彼女の悲痛な叫びを聞きつつも、彼女の首元に向けてナイフの刃先を向け、足で彼女の腕を押さえつける。

 

「あっ……ああッ!やだっ、やだやだやだやだ!やめて!死にたくないっ、死にたくないぃ!」

 

 それを見て、彼女が一気に暴れだした。

 

 だが45は歯をくしいばり、涙が溢れてくることにも気を止めず、ゆっくりと刃先を近づけていく。

 

「やだぁ、やだぁッ!あなただって、グリフィンの仲間のはずですよね!?その仲間を殺すなんて、嘘ですよね!?」

 

「……何も覚えてないの。だから、私を許して」

 

「そんなっ、たすけてっ、だれかぁ!だれかぁぁあぁッ!」

 

「せめて、安らかに眠って……」

 

 そして、鈍い音を立てて、人形の首元にナイフが突き刺さった。

 

「ぁ……」

 

 パクパクと何か言いたげに口を開き、やがて目から光を失っていく。そして、すぐに彼女は動かなくなった。

 

 45は他人の命を奪って、自分の生存を選んだ。その業を、彼女は一生背負っていくことになるのかもしれない。

 

 そんな、人形の絶命の瞬間を泣きながら見ていた彼女は、そのままバッテリーの摘出を始めたのだった。

 




かなーりエグい話になってしまいました。

記憶も曖昧なまま知らない場所に放り込まれた45。妹の顔やらを思い出して、自分の生存意欲が高まっちゃいました。いつか会えるといいんじゃないですかね(適当)
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