ライダー助けて!
ほのぼのを書きたいなーって思ってます。
でも惨い話も書きたいんです。矛盾です。
花束をあなたに
「……どうして、私は」
太い木の幹に寄りかかって、彼女はそう呟いた。
昼の暖かい風が彼女の肌を撫で上げ、長い髪を少し揺らす。太陽の陽気も相まって、昼寝するには丁度いい天気だった。
だが彼女、WA2000はどうしてもそうする気にはなれなかった。理由は簡単だ。
友人の仇を目の前にして、何故か見逃してしまったから。
「やろうと思えば、やれたはずなのに」
彼女は自分の行いを悔いた。あれは、千載一遇のチャンスだった。またとない、処刑のチャンスだった。
しかしどうしてだろう。あの悪魔が、まるで他の人形の為に涙を流し、人間とも悲しみを分かち合う姿を見ると、銃を撃つ気がなくなってしまったのだ。
それは、自分の復讐心とは明らかな矛盾だった。復讐をすると決めたのなら、何としてでもそれを成し遂げるべきだったのだ。相手になんの事情があろうとも、結局のところ友人をぐちゃぐちゃに解剖し、拷問した悪魔であることには違いない。
──それが出来なかったせいで、WAはただ口を噤んでいるのだが。
「はぁ──」
WAはまた一つため息をつく。あの時から、彼女は数え切れないほどのため息を漏らしていた。後悔の念が頭をよぎっては離れないからだ。
昨日から延々と思考がループしている。怒り後悔ため息、怒り後悔ため息。ここまで後悔するくらいならば、さっさと何かしらの行動を起こせばいいものを、彼女にとってそれだけは思考の外にあった。
「ねえ」
「いっ!?」
突然掛けられた声に肩を竦ませながら振り返る。
「何でそんなにめそめそしてるの?」
「あんたは……」
ネゲヴだった。昨日、大体今と同じくらいの時間に話しかけてきた、あの子供だ。
「どうしてあんたみたいな子供がここに……」
「そんなことはどうでもいいわ。何でそんなにいじけてるのかって聞いてるの」
あの時と変わらず小さな体とは不釣り合いなカバンを背負った彼女は、目を逸らすことなくそう聞いた。
「あいつを殺せなかったからに決まってるじゃない」
「ふーん。何で?」
「何で何でうるさいわね!あんたには関係ないでしょ」
まるで子供のように──実際見た目は子供なのだが──疑問をなげつけ続けるネゲヴに、WAはいらだちを隠すことなく言い放った。
しかしネゲヴは怯むことなく口を開く。
「関係なくても知りたいものは知りたいの。だって──」
「っ!黙って!」
突然WAがネゲヴの口を塞ぐ。何かと思えば、遠くから機械の作動音が聞こえてくるのがわかった。
二足歩行の機械に搭乗するドラグーン、それに随伴する徒歩の人形が複数見える。
WAは舌打ちした。
「鉄血の遊撃隊ね。こっちの方向に来てる。面倒だし、さっさとここを離れ──」
「その必要は無いわ」
「は?」
するとネゲヴは、背中の荷物を下ろした。
蓋を開けると、そこには巨大な鉄の塊が。──軽機関銃だ。
「これは……」
ネゲヴはそれを軽々と取り出すと、慣れた手つきでバイポッドを展開する。そのまま一緒に地面に伏せ──
撃った。
凄まじい轟音と溢れ出る大量の薬莢。辺りに硝煙が立ち込め、独特な臭いが広がる。
遠くを見れば、面白いように鉄血の人形がなぎ倒される光景があった。いきなりの奇襲に見るからにパニック状態に陥っていて、冷静に引き返そうとしたものから優先的に身体を蜂の巣にされていく。
小さな身体からは想像もつかない手腕。WAは無意識のうちに冷や汗をかいていた。
聴覚デバイスが響き渡る音に順応しつつある頃には、あれだけいた鉄血は残り少ない。
そして発砲開始から十数秒。鉄血の遊撃隊は一人残らず地に伏すこととなった。
「……それじゃあ、話。聞かせてくれる?」
WAが目を見開き戦慄するその目の前で、彼女は散らばった薬莢を拾いながら、笑顔でそう言った。
◆ ◆ ◆
あらかた話し終えた二人は、ネゲヴの意向によって物資補給をすることとなった。
どうやらここから数時間程歩いた場所に、グリフィン傘下の街があるという。そこで、バッテリーや弾薬などを補給するのだ。
そもそも実弾を使う戦術人形というのは稀で、さらに言えば既にこの時代の主力はレーザー武器に置き換わっている。
となると普通の街では間違いなくバッテリーの補給しかできず、例え実弾を売っていたとしても身元不明の人形にそう易々と売ってくれるものでは無い。
しかしグリフィン傘下の街となると話は別だ。街の中、もしくは近くには必ずと言っていいほどグリフィンの基地があるため、街ではその人形たちに対する補給手段が整っている。ネゲヴはともかくWAはグリフィンの人形のため、確実に利用できることだろう。
WAはネゲヴの案内の元、足早に歩き始めた。
「じゃあその後、MP5はどうしたの?連れて帰ったりした?」
少しして、自分より頭一つ分背の小さいネゲヴが、顔を見上げながらそう聞いた。
「……何も出来てない。あの時は、あいつに殺された怒りだけが先行して、復讐だけを考えていたから」
そう言うWAの顔は、いつになく暗い表情だった。
言われてみれば、自分はまだ何もしてやれていない。WAは思う。
惨状を目にしたばかりで、弔いも何もしていない。せめて両手を組ませてやることすらも出来ていなかった。
「ふーん。じゃあ、何か手向けになるものでも買っていけば?」
「──そうね。そうしていく」
ネゲヴはそれを聞いて、薄く微笑んだ。
そうして特に何も無く、一時間ほど歩いたころ、何やら遠く後ろの方からエンジン音が響いてくるのを感じた。
「静かにっ……。あれは、車?」
振り向いて地平線近くをスコープで確認すると、白いバンがこちらに走ってくるのが見えた。
「どこか近くに物陰は……」
「ないわ。まあ鉄血じゃ無さそうだし、運が良ければヒッチハイクでも出来そうじゃない?」
「バカじゃないの?こんなご時世でヒッチハイクとか、誘拐待ったなしよ」
ネゲヴが軽口を叩くのを、WAが真面目に叱責する。だが近くに何も無いのは事実なので、手持ちの銃に弾が込められているかを確認してから道の脇に避けた。
しばらくするとバンも大きくなってくる。このまま何も無く通り過ぎてくれればいいのだが──。
そんなWAの願いも通じず、バンは目の前で止まった。
「よお姉ちゃん。その隣の子は妹か?」
「どうでもいいでしょ。さっさとどっか行きなさい」
「冷てぇなあ」
車の窓を開けて顔を出した男は、愛想良く笑顔を振りまく。
ふとネゲヴの方を見れば、親指を立てて右腕を突き上げている。彼女のせいで車が止まってしまい、面倒事に巻き込まれたと思うと、腹を立てずにはいられなかった。
「そこの嬢ちゃん。どこに行きたいんだい?」
「この近くの街まで!」
「おーそうかそうか。じゃあ乗っていきな」
そういうと男は運転席から降りる。それと同時に、後部座席からも巨漢が二人現れる。
彼らはWA達に醜い笑みを浮かべながら手を伸ばし、白の車へと招き入れようとする──。
その手をWAは払い除けると、腰からナイフを抜いた。
「二度も言わせないで。命が惜しければ、さっさとどっか行きなさい」
男は舌打ちする。
「テメェ、やっぱ人形か!子守り人形の癖して、人間様に刃向かってんじゃあねぇぞ!?」
「勘違いしないでちょうだい!私は殺しのため
WAは一部を強調し、威圧するように言い放つと、逆手に持ったナイフを強く握りしめた。
「そうしたいのは山々だがなぁ?俺たちはそこの嬢ちゃんに教育してやらなきゃいけねぇんだ」
男はWAの態度に顔をしかめ、懐から拳銃を抜く。
「こんな世の中で浮かれてる生意気なガキに、常識を叩き込んでやらなきゃなぁ!」
そして男が得物を突き出した瞬間、WAは屈みながら男の懐に入り込んだ。
拳銃が吼える。だが放たれた弾丸は地面へぶつかって弾けた。同時に彼女はナイフを首に突き立てようとしたが、ギリギリのところで腕を掴まれた。
「──ネゲヴ!」
ちらりと後ろを見ると、大男たちがネゲヴへとにじり寄る姿が見えた。
「逃げなさい、ネゲヴ!」
大男との距離は少しずつ縮まっていくにもかかわらず、彼女は無防備に立ったまま動かない。
今すぐ助けてやりたいが、腕はこの男に掴まれているうえに、隙を見せれば撃たれてしまうことだろう。
「何してるの、早く!」
もう一度大声で叫ぶ。それでもネゲヴは動かない。
「ネゲヴッ!」
あと少しで彼らがネゲヴの肩を掴もうとした、その時。
「あ?」
何かがまるで蛇のように男の体を登ったかと思うと、突然右腕がぽとりと落ちた。
「あ?ああ?」
心臓の鼓動に合わせて、右腕からリズミカルに赤色が吹き出す。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁああっ!?」
そしてようやくその意味がわかった男は、肘から先が無くなった右腕を振り回しながら叫び、暴れ始めた。
「腕が、俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!」
「うるさい」
そういってネゲヴは大男の足を蹴ると、彼はいとも簡単に仰向けに転んだ。そのまま馬乗りになると、右手を大きく振り上げる。
──唐突に、辺りが静かになった。
それは、死。それは、唖然。それは、恐怖。
様々な感情、概念が渦を描くその中心で、ただ彼女は愉悦に顔を歪ませていた。
「てっ──てめぇ!」
もう一人の大男が我に返り、銃を抜いた。
だが、それではもう遅かった。
「え──」
気がついた頃には、彼の両腿からは血が吹き出ていた。内側を大きく抉られたせいで筋肉が傷付けられたのだろう、たちまち前のめりに倒れ込む。
「がっ!?」
ネゲヴが男の顎を掴み、そのまま力任せに上を向かせる。そして、露出した首元にはナイフの刃先。
すると、何をされるか悟った彼の屈強な顔つきに涙が浮かんだ。
「い、嫌だ……死にたくない……!やめてくれ、殺さないでくれ……」
「ふぅん?命乞い?自分から仕掛けておいて、ずいぶんと情けないのね」
「違う、違う、あれは……!だから、お願いだ、頼──」
どすっ。
何ともつかない鈍い音がする。それと同時に、ナイフが情けなく懇願する男の喉を塞ぎきった。
喉笛から風を切るような音が鳴る。同時に、首や口から滝のように赤色が溢れ出る。
それと同じくらいの量の涙を流した後、痙攣していた身体はぴたりと動くのをやめた。
「あぁっ……」
その頃にはもう、最後の一人は腰を抜かし、力無くこの惨状を眺めているだけだった。
ぐじゅっと音を立ててネゲヴがナイフを引き抜く。刃は真っ赤に濡れ、先端からはゆっくりと血が滴っている。
そして次に彼女の双眸は、腰を抜かした男の姿を捉えた。
声にならない悲鳴。ネゲヴが一歩近づくたびに、男の足は暴れるばかりで何も起こさない。
一歩。また一歩。次第に距離を縮めるのを、
「もう十分よ」
WAが右腕を広げて静止した。
「もうこいつには戦う意思はない。危害を加えようが無い。もういいでしょ……?」
「……何で止めるの?」
「何でって──」
ネゲヴがWAを睨みつける。その子どもの姿からは想像もつかない気迫に、WAは息を飲んだ。
「ねえWA。もしもこいつを見逃したら、どうなると思う?」
「そのまま、逃げる……」
「私は当たり前のことを聞きたい訳じゃないわ。私は、その先のことを聞いてるの」
「その、先のこと──」
ふとWAの脳裏に、とある風景が浮かび上がった。
MP5の、無惨な死体だ。
轟く悲鳴を耳にしながらも助けられなかったあの時、WAはこう思った。──絶対に許さない。絶対に、
自分と多くの時を共有した親友を殺した悪魔を、この手で必ず葬り、無念を晴らそうと、そう誓ったのだ。
そこまで考えたところで、彼女は気がついた。
「こいつを生かしたら、必ず復讐しに私たちの前に現れる」
と。
「ビンゴ」
ネゲヴが笑う。
「だからこそ、今あいつの息の根を止めなきゃ……って、WA!」
ネゲヴが指さす。先には、死に物狂いで走り去ろうとする男の後ろ姿。
「撃って!早く!」
「……でも」
「何躊躇してるの!理解したんでしょ、なら!」
急かされ、WAは素早く銃を上げた。
スコープには男の背中が映る。このまま引き金を引けば、間違いなく彼は弾丸に貫かれることだろう。
歯を食いしばり、肺から息を吐きながら、そのまま──撃った。
銃声とともに男が倒れる。だが何故かむくりと立ち上がると、そのまま走り去ってしまった。
背中にあるはずの傷は見当たらない。WAの放った弾は当たらなかった。いや、
「私には……できない」
当てなかったのだ。
銃を下ろす彼女を見て、ネゲヴは大きくため息をつく。
「でもまあ、それはそれ」
すると突然WAの目の前に、サムズアップした右手が突きつけられた。
「ヒッチハイクは、出来たでしょ?」
◆ ◆ ◆
「あんた、最初っからこういうつもりで……」
ところどころ舗装の荒れた道路を車で走りながら、WAはふとそう呟いた。返答はない。
あれから彼女たちは、街で補給して夜を明かした後、しばらくしてから出発した。
車の機動力は侮れない。あそこで車を奪っていなければ、街に到達するのは真夜中。つまり危険な夜道を進むことになっていた。
おかげで沢山の物資も詰めることができた。それに、手向けの花も。
「ねえこれ、なんていう花なの?」
揺れる車内で、助手席に座るネゲヴがそう言う。膝の上の花を落とさないよう大切そうに抱える彼女は、昨日と比べて何だか頼りなさげだ。
「アングレカムって言うらしいわ。……それにしても、こんな世の中でも花屋はあるのね」
「へぇ。変な名前」
それからは特に何も起きることはなく、順調に旅を進める。
やがて地平線に、大きなビルが見えてきた。例の廃都市だ。
郊外の町を通り抜け、目的の場所へと進んでいく。そのハンドルさばきに迷いはなかった。
「降りるわよ」
そういって、彼女は運転席から降りた。ネゲヴもそれに続く。
WAは花束を受け取ると、数歩歩いて跪く。
「──久しぶり。MP5」
WAは花束をそっと置いた。
ネゲヴ:戦闘ならなんでも出来る
WA2000:射撃以外ならなんでも出来る
ところで、アングレカムの花言葉ってなんだと思いますか?