UMP45's DYING LIGHT   作:天海望月

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Are you “Friend”?

「ねぇっ、ねぇドリーマー!」

 

 目の前のモノクロ少女は片耳を押さえる。まるで誰かと話しているかのように喋り始めた。

 

 これは無線機の類を使っているのだろう。45はそう推測した。

 

「目の前に……えっと、多分UMP45っぽいのが転がってるんだけど」

 

 彼女がUMP45と言ったところで、45は激しくうなずく。発言しようとしたが、猿轡のせいでまともに声を出すことが出来ない。

 

「あー、多分じゃなくて本人みたい。こいつがすっごくうなずいてるし」

 

 上手く伝わったようだ。

 

「……え?おかしい?何で?だって現に私の目の前にいるのに」

 

 すると、無線の相手と話が噛み合わないのか、段々と話の雲行きが怪しくなっていくように感じる。

 

 やがて会話は口論になり、辺り一帯には少女の怒声が響く――のもつかの間、彼女は会話相手に言いくるめられたのか、あっという間に少女は静かになってしまった。

 

「もういいし。信じてくれないなら、持ってくから!」

 

 最後に少女はそう言い捨てると、片耳から手を離した。

 

 これまでの会話から、間違いなく彼女は45を知る者だろう。それも、恐らく詳しくだ。

 

 彼女の記憶には全くこの少女の姿はないのだが、今は彼女を頼るしかない。知り合いとの会合など、滅多にない偶然なのだろうから。

 

「とりあえず……、ドラグーン!」

 

「はっ!」

 

 少女が呼び掛けると、後ろから部下と思わしき者の一人が前に出る。

 

 二足歩行の機械の上に立ち、目元を紫色のマスクで覆ったその女性は、どこか凛々しく、歴戦の戦士かのような印象を与える。

 

 今の自分が彼女と戦えば、確実に負けてしまいそうだ。45はそう感じた。

 

「こいつの口元の縄を切ってやって」

 

「了解です」

 

 ドラグーンは右ももからナイフを抜くと、慣れた手つきで縄を切り落とした。

 

「ぷはっ……。――助かったわ」

 

「はぁ?助かった?ふざけてるの?」

 

「えっ?」

 

 縄を切ってもらい、ほとんど無意識に礼を言うと、モノクロ少女はドラグーンの隣から呆れたような声を出した。

 

 45は困惑から思考が止まった。そしてまたすぐに考え出す。記憶を失う前の私は、礼を言わない人物だったのか?または、この少女とは険悪な関係だったのか?考えれば考えるほど混乱してしまう。いや、そもそも記憶が無いのだ。考えるのも無駄だろう。

 

「ふざけてるって、どうして?」

 

 ならば聞くしかない。質問してこそ、分からないことへの答えを得ることが出来るのだ。

 

「どうしてって……。こんな近くに私がいるのに、怖くないの?」

 

「怖い?……まあ、ああやっていとも簡単に人を吹き飛ばせば怖いわよ」

 

「それもそうだけど、私が聞きたいのは……私自身のことが怖くないのかって話。目の前には鉄血のハイエンドモデルがいるのに、怖くないわけないでしょ?」

 

「……よく分からないし、怖いとは思えないわ。それより、その――」

 

 45は言葉を一瞬詰まらせた。今までのことを正直に話すべきか否か、と。彼女は信頼に足る人物なのだろうか?もし本当にこの少女との関係が険悪なものだったとしたならば、記憶が無いということに付け込まれて大変なことに巻き込まれてしまう可能性がある。

 

 だが、前にも述べた通り、知り合いとの会合は偶然のことだ。もしこのチャンスを逃そうものなら、次は二度とやってこないかもしれない。

 

「その?」

 

 少女が問いかけた。

 

 45は賭ける。事情を話せば、彼女は協力してくれるかもしれないということに。

 

「その、実は私、記憶があやふやなの」

 

「は?嘘だぁ。そうやってまた私のことを騙そうとしてるんでしょ」

 

「本当よ。信じられないなら調べればいい。それに、私があなたの事を怖いと思う理由がないのは、きっと記憶が曖昧なせいじゃない?」

 

「うっ……。確かにそうかも」

 

 案外簡単に信じてもらえたようだ。記憶が曖昧だなんて、普通に考えれば信じ難いだろう。だがそれをいち早く把握出来たということは、もしかするとこの少女は優秀なのかもしれない。

 

「と、とりあえず。その記憶なんかを調べたいのもあるし、一緒に来てもらうわよ」

 

 そういうと彼女は45のロープでつながれた部分、右手首と左の二の腕を掴み、軽々と持ち上げる。

 

「ちょっと、この態勢辛いんだけど、せめて腕のロープも切ってくれない?」

 

「嫌よ、絶対に!そういって逃げようって思ってるんでしょ!」

 

「いや、そういうつもりはないけど……」

 

 この態勢だと右肩を無理に曲げているため、かなり大変だ。そのため45は両腕を開放するよう要求したが、却下されてしまった。

 

 そして彼女の警戒心もひしひしと伝わってくる。間違いなく、記憶を失う前は仲が悪かったのだろうと45は察した。

 

「乗せて。さっさと帰るわよ」

 

「はっ」

 

 少女は45を右腕で抱えたまま、ドラグーンの手を借りて機械の上に立った。そして周りの部下たちに何か命令すると、彼女らは隊列を組んで進み始めた。

 

 ――そして、轟音が鳴り響く。

 

「ッ!どこから!?」

 

「四時の方向!敵影確認できません!」

 

 少女は慌てて機体から飛び降りる。

 

 銃というものはある程度発砲音に特徴があるものだ。そして45にはこの音に聞き覚えがあった。

 

 街で狙撃された時。その時の銃声に非常に良く似ているのだ。

 

 まさか今度はこの少女ごと撃ち殺そうと言うのだろうか?45は戦慄する。

 

「やっぱ囮だったんでしょ!」

 

「心外よ!私は過去にこの銃声に撃たれてる!」

 

「はぁ?はぁ!?もう訳わかんない!」

 

 突然背中に強烈な振動が走り、金属音が鳴り響く。それと同時に地面に放り出された。

 

 続いて先程と同じ方向から銃声が轟く。

 

 地面に転げ落ちはしたものの、背中に痛みはないので撃たれたわけではないようだ。

 

「いっだぁぁぁぁっ!」

 

 身を捩り少女を見ると、彼女は右腕を抑え苦しんでいた。だがあれだけの衝撃を受けておいて、傷はあるが欠損は見られなかった。やはり彼女は人間ではない。

 

 だがこのままでは為す術なく鉛玉を喰らってしまう。何とかしようと辺りを見回すが、拘束されている今の状況では恐らく何も出来ないだろう。

 

 ならば取るべき行動はただ一つ。

 

「ちょっ、何してるのよ!」

 

「そっちの方が頑丈なんだから盾になってよ!私が撃たれれば即死よ、即死!」

 

 45は器用に地面を転がると、少女の後ろに隠れた。防壁にしたのだ。

 

「私だって急所に当たればただじゃ済まないし!あぁもう、ドリーマーっ!何してるのよーっ!」

 

 そこにツッコミを入れるかのように追撃が飛来する。甲高い音が鳴った通り、弾はこの少女に吸収された。

 

「ぎゃはぁぁっ!?」

 

 胸を強大なエネルギーで弾かれたおかげで、それを受け止めた身体が後ろに倒れる。それを見かねたドラグーンの一人が少女の元に駆け寄った。

 

「敵の位置が分からない以上、ここは撤退しましょう!敵は正確にあなたを撃ち抜いてきますので、これ以上は危険です!」

 

「えっ、でもUMP45を回収しないと」

 

「敵の狙いは恐らくあの人形の奪還です!あれを持って逃げようものなら更に危険でしょう。今回は少数ゆえ、次回は人員を増や――」

 

 最後まで言う前に、ドラグーンは頭蓋を横から穿たれた。彼女は全身の力を失い、地球の引力に引き込まれる。あっけなく彼女は死したのだ。

 

「うっ……。クソッ、撤退よ!」

 

 それを見て決心したのか、モノクロ少女は振り向き味方に対し叫ぶ。それに従い、彼女たちは乗っている機体であっという間に走り去っていく。

 

「今度は許さないから!」

 

 少女は45に対しそう言い捨てると、最後まで残っていたドラグーンの機体に同乗し、蛇行しながら去っていった。

 

 遠ざかっていく足音を見送っていると、45の目の前の地面が爆ぜる。

 

 五発目。反響する五度目の銃声がそれを知らせた。

 

 ここから離脱するのに失敗した以上、とりあえずは安全な場所に身を隠さねば。45は次の弾が放たれる前に死に物狂いで近くの廃車を目指した。

 

 走ればすぐの距離が、焦りとともに這い転がる今では永遠の距離にさえ感じられる。

 

 あと数メートルの距離。力を振り絞り、全力で這う。

 

 だがこんな鈍い標的など、ただの的にしか過ぎない。

 

「がッ……ぁッ!?」

 

 45の右側腹部に破滅的な痛みが走ったかと思うと、すぐに遠くから発砲音が聞こえてくる。

 

 あぁ、遂に私、撃たれたんだ。

 

 45は激痛に悶えつつも妙に納得しながらうずくまる。

 

 ――私、もう死ぬのかな。

 

 思えば目覚めてからは短く、そして不幸な日々だった。

 

 バッテリーは常に枯渇し、罪のない人形を手に掛け、常に狙撃の脅威に晒され、その上人間に襲われた挙句自分の記憶についての手掛かりも早々に失い。

 

 最後には撃たれた。これから無様に死体を晒すのだろう。

 

 何故だろうか。自然と目から涙がこぼれる。あの時不意に思い出した妹のことすら、何も知れていないのに。絶望の淵に差し込んだ希望の光さえ、まだ掴んですらいないのに。

 

 思えば既に破損した腕からは音も光もほとんど出ていなかった。これが光を灯さなくなったときが彼女の終着点であると言ったが、その終わりの時は今訪れるのかもしれない。

 

 徐々に意識が薄れていく。手足を縛られている今では、バッテリーの充填も行えない。45に出来ることは、ここで横たわりながら死を待つだけだった。

 

 抗おうとしても抗えない事実。いずれ訪れる死。少しずつ重くなっていく目蓋を必死に開こうとしつつも、先に頭の方が限界を迎える。

 

 涙を溢れさせながら、やがて45は意識を手放した。

 

 遠くから近づいてくる足音に気づくこともできずに。




“friend”には複数の意味があります。
一つは友達。
もうひとつは、「味方」です。

まあ何が言いたいかって言うと
「お前知り合いなん?ていうかそもそも味方なんか?」
ってことですね。はい(投げやり)

あと前回から更新がだいぶ空いてしまいました。
リアル多忙だったんです!!!!謝罪!!!!(許して)
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