UMP45's DYING LIGHT   作:天海望月

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なんか評価バーが赤くなってモチベが上がった筆者です
(プレッシャー掛かって辛いから)やめろォ(建前)ナイスぅ!(本音)


破綻者

 やった。

 

 遂に当てた。

 

 あの忌々しい悪魔の脇腹に、最後の一発を確かに命中させてやった。

 

 彼女はスコープ越しにその事実を確認して、にぃっと口角を上げた。

 

 弾倉を入れ換えながら、その狙撃手は立ち上がった。悪魔の無様な姿を見ようと、薬室に弾を送り込んでから歩き出す。

 

 かつての友を八つ裂きにし、綺麗だった身体をぐしゃぐしゃにされた仇を、今とったのだ。あれだけの質量体を身体に受けたのだ、生きているはずがないだろう。

 

 本当なら、生きているうちにあいつが味わせた苦しみをそのままそっくり返してやりたい。彼女はそれが出来ないだろうということを悔やむ。

 

 だが今は息絶えた姿を確認することが先だ。その後、死骸を好きなように蹂躙してやればいい。

 

 数百メートルの距離を歩き終え、あの人形が隠れようとしていた車を探す。

 

「――見つけた」

 

 彼女の目の前に、あの時街で撃ち逃した悪魔が横たわっていた。身体をぴくりとも動かさず、うつ伏せでうずくまった状態で。

 

 その瞬間、彼女は計り知れない優越感と達成感に包み込まれた。

 

 いつも遠距離射撃を滅多に命中させられなかった自分。ライフルカテゴリの人形として失格の成績だった。その自分が、最後のチャンスで仕留めた獲物。自分の力が発揮できたことに喜びを覚える。

 

 バチッ。

 

「――?」

 

 ふと鳴った音に、彼女は辺りを見回した。

 

 バチッ。

 

 もう一度鳴った音。今度はどこから鳴ったのかは見当がついた。

 

 “こいつ”だ。こいつの破損箇所から、音は出ていたのだ。機能停止したと見られていたこの悪魔は、まだ息があった。

 

 それがわかった途端、彼女は怒りに飲み込まれた。

 

 お前は容易く理不尽に命を奪ったくせに、奪った張本人はまだしぶとく生きるつもりなのか?

 

「――そんなの、許せない!」

 

 衝動的に“こいつ”を掴み、仰向けにすると、そのまま彼女は馬乗りになる。

 

「起きろ、さっさと起きろ!まだ生きてるってなら、起きなさい!」

 

 そう言いながら、彼女は全力で悪魔の顔面を殴り始めた。

 

 右。左。右。左。交互に続くその暴力は、今にも頭のフレームをかち割ってしまってもおかしくない程の勢いだ。

 

「あんたに罪を償わせてやる!あいつを殺したこと、後悔しながら殺してやる!だからまずは、目を覚まして怯えて見せろ!」

 

 全力で、彼女の出せる出力の限界で。だが悪魔の顔にはひび一つ入らず、また目蓋を開けることもなかった。

 

 人形とはいえ、外部からこれだけの攻撃を受ければ何かしら反応を返すはずだ。自己防衛や痛覚センサーによる痙攣。しかしそれすらないとなると、もはや不気味に思えてくる。

 

 ――もしかしてもう中身は壊れきってる?

 

 そう思った彼女は、あそこまで滾っていた憤怒も冷め、握っていた拳も緩めた。

 

「……なら、せめてあんたが殺めた、あいつと同じ格好になってくたばりなさい」

 

 そう言うと彼女はスリングで吊っていた銃を握って、狙いを相手の腹部に狙いを付ける。

 

 あの時、彼女が到着した時には、友は腹をぱっくりと開けられて力尽きていた。おぞましい拷問でいたぶられたのだろう。当時の事を思い出すと今でも憎悪の感情が湧き出してくる。

 

 その時感じたのだ。これを行った“こいつ”は、メンタルすら持たない、悪魔なのだと。

 

 だがどうだ。その悪魔は鉄血に捕まり拘束されたあと、今こうやって無惨に斃れている。

 

 改めて思い返してみれば何て滑稽なのだろうか。自業自得、自分のした事で身を滅ぼしたのだ。

 

「せめて苦しんでるところは見たかったけど、全身ぐちゃぐちゃにするので我慢してやるわ」

 

 再度、彼女は得物を構え直す。

 

 引き金に指をかけ、ふーっと息を吐き、

 

 そして目の前の車のボディがへこんだのを見て振り向いた。

 

「やはり、あなたでしたか」

 

「……ッ!」

 

 目を合わせることも無く彼女が刺客に反撃する。しかし相手は悠々とその放たれた弾丸を回避すると、代わりに一発だけ右手の銃を放った。

 

 ぷしゅっと銃火器らしくない音とともに放たれた弾丸は、確かに彼女の頭を貫く。

 

 そのはずだった。

 

「……」

 

「お元気そうですね、WA2000」

 

「なんで……ウェルロッド」

 

 WA2000。“彼女”は、ただ呆然と立ちつくしていた。

 

 ウェルロッドと呼ばれた少女が放った一撃。それは間違いなくWAの眉間を捉えており、そして同時に彼女は死を覚悟した。

 

 だが外れた。いや、“外した”のだ。

 

「あなたは今、何故、という顔をしていますね」

 

「――当たり前でしょ。あんたはいつでも私を撃てたはず。なのに何で」

 

「簡単なことです。さすがの私にも、元とはいえ仲間は倒せません。ただそれだけです」

 

 そういうとウェルロッドは両手の銃のボルトを器用に引いて、薬室に弾を送った。

 

 それを見てWAは銃を構える。だがそれでもウェルロッドは余裕の表情を崩さなかった。

 

「基地から離反してからというものの、どこへ行ったのかと思っていましたが、まさかこんな所にいたなんて」

 

「何をしようが私の勝手でしょ。私は落ちこぼれ、誰にも必要とされてないんだから。……あいつ以外には」

 

 そう言うとWAは歯を食いしばり、後ろに倒れている悪魔を横目で見た。

 

「こいつさえ……こいつさえいなければ!あいつは私が助けてあげられたのに!」

 

 再度WAは銃を構えた。かなり感情的になっていて、今すぐにでもそこに倒れているのを撃ってしまいそうなほどだ。

 

「やめてください。そんなことをされたら、私はあなたに危害を加えることになる」

 

「……ッ、何よ。あんたは関係ないでしょ!放っておきなさいよ!」

 

「放っておけません!もう私は、私の目の前で誰かが死ぬのを見たくはない。それは、人間でも人形でも同じです」

 

「その死ぬのが犯罪者であっても?鉄血であってもそう言うの!?」

 

 ウェルロッドは目を閉じながら、うつむいた。

 

「……はい」

 

「――狂ってる。そんなの、戦術人形としてあっちゃならないことじゃない!」

 

 WAが半狂乱でそう叫ぶと、ウェルロッドはそれを見てどうしようもなくはにかみながら言う。

 

「そう、狂っている。私も、あなたも、恐らくはそこの彼女も――」

 

 

 

「破綻しているんですよ。人間として見ても、ただタスクをこなす人形として見ても」

 

 私も、狂っている?

 

「ちがっ……私は、破綻してなんか」

 

 ウェルロッドの言葉に動揺した瞬間、二度の腑抜けた音と共に突如周りから白煙が立ちのぼる。

 

 発生源を見ると、無惨に割れた黒い缶が転がっている。恐らく発煙手榴弾の類で、ウェルロッドはそれを正確に撃ち抜き煙を発生させたのだ。

 

「あっ」

 

「ではお元気で。いつかは一緒に紅茶でも飲める仲になれればいいですね」

 

「そんなっ、それはあいつの仇なの!やめてっ、やめてウェルロッドッ!連れていかないで!」

 

 足音と、何かを引きずる音。それを聞いたWAは、きっとウェルロッドがあの悪魔を連れ去ろうとしているのだと悟った。

 

「ウェルロッドッ!許さない、絶対に!今度姿を現してみろ、殺してやる、ぶっ殺してやる!あんたも私の敵だ!」

 

 今度こそ、WAは狂乱しながら喚き散らす。だがそんな脅し文句で、ウェルロッドが足を止めるはずがない。

 

「ウェルロッドォォォッ!」

 

 足音のした方向へ闇雲に、装填された弾全てを撃ち込む。

 

「クソッ、クソッ、くたばれッ、クソッ!」

 

 だが、一発も当たった様子はない。彼女の命中精度の悪さは、ここでさえも発揮されたのだ。

 

「あああああああああああああああああぁぁぁぁ!」

 

 次に煙が晴れた時、

 

「うぐっ……あ……」

 

 そこにあったのは、膝を付き、ただ悔しさに顔を濡らすWA2000の姿だけだった。

 

「また、私は……何も、出来ずに――」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 バッテリー残量――86%。充電中。

 

「う……ぐっ……うぁ」

 

「おっと、大丈夫ですか?」

 

 痛みに眉をしかめつつも目覚めた45は、直後に誰かに声を掛けられ目を丸くした。

 

 何故かひりひりと痛む頬を右手でさすりつつ、仰向けの状態で声の主を探した。

 

「まだ無理に動かないでください。きっと痛みます」

 

「あなたは……」

 

「あと、左腕は直せませんでした。義手が必要で。ごめんなさい」

 

 彼女はすぐ隣に座っていた。

 

 短くまとめられた金髪を風になびかせながら、手には45にコードで繋がれたバッテリーを持っている。

 

「ウェルロッドMkIIです。気軽にウェルロッドとでも呼んでください。そちらの名前は?」

 

「え?えっと……」

 

 思い返してみれば、45が最初に目覚めてからまともに他人と他愛もない会話をしたのは初めてかもしれない。したとしても、一人は自分のエゴのために命を奪った人形。一人は強盗。一人はそもそも自分の名前を知っていた、よく素性の分からない少女。

 

 だからこそ、今なんとウェルロッドと名乗った少女と話していいのか分からなかった。

 

「ああ、まだ起きたばかりで混乱しているんですね。落ち着いたらで大丈夫ですよ」

 

「……UMP45。私の名前は、UMP45よ」

 

「――」

 

 目をぱちくりとさせながら、ウェルロッドがこちらを眺める。

 

「……では45さんと。よろしいですか?」

 

「……ええ。なんというか、それが一番呼ばれ慣れてる……気がするわ」

 

「気がする……というのは」

 

 ウェルロッドが首を傾げた。

 

 しまった、と思った。初めて出会う相手に、このままだと自分の経緯を説明しなければならなくなる。

 

 別にそれ自体は悪いことではないのだが、相手が信頼に足る人物でなければ後々大変なことになるような気がしているのだ。

 

 ――自分の身体をよく確認してみると、狙撃されて受けた傷が、簡単とはいえ修復されているのに気がついた。金属の骨格が露出さえしているが、確かに痛みは消えかけていた。

 

 45が驚いた顔でウェルロッドを見上げると、彼女は微笑みで返答した。修復は彼女がやったとみて間違いないだろう。

 

「……実は私、つい最近の記憶しかメモリーに残ってないの」

 

 その事が決め手となり、45は簡単ながらも今までの事を説明することにした。

 

 恐らく長い間眠っていたこと。葛藤と共に、一人の人形を手にかけたこと。それが原因で自分もまた命を狙われているであろうこと。探すべき妹がいること。モノクロ少女に出会い、もしかしたら彼女から何か情報が聞き出せたかもしれなかったこと。

 

 手短に、要点だけを抜き出して話した。

 

「――なるほど。ずいぶん、辛い道のりを歩いてきたのですね」

 

 それに、ウェルロッドは否定すること無く頷いてくれた。

 

 そして代わりにウェルロッドからは、

 

 45を狙っている人形は、“WA2000”と呼ばれるライフルカテゴリの人形であること。出会ったモノクロ少女は、十中八九“鉄血”の人形だろうということ。

 

 鉄血とは、人類を滅ぼそうとする暴走した人形達のことらしい。この世界にそういった存在があるという知識自体はあったのだが、その正体は一体何なのか、という肝心の記憶は抜けていた。

 

 もしその鉄血の人形に連れ去られていたなら、辛い拷問なりを受けていただろうとウェルロッドは語った。

 

 戦慄した。きっと味方だろうと思って接していたあの少女は、実は敵と呼べる存在だったなんて。無知というのは危険である。

 

 ここまで話をしていると、45の中にはウェルロッドに対する信頼感が湧くと共に、ある疑問が浮上した。

 

「どうしてあなたは、私を助けようなんて思ったの?こんな、赤の他人を」

 

 素朴な疑問だった。責め立てるでもなく情報収集でもなく、ただの質問。

 

 だがそれにも、ウェルロッドはすんなりと答えてくれた。

 

「昔は私、誰にでも救われる価値があるという訳では無い、と思ってたんです。恐らく昔の私だったら、死ぬと分かっていても、倒れていたあなたをそのまま素通りしていたでしょうね」

 

 彼女は一呼吸おき、少し目を震わせながらまた話し出す。

 

「でも、その後私を大きく変える出来事があって、やっぱりどんな人でも、死ぬってことだけは許せないと思うようになったんです」

 

「大きく変える出来事……?それは――」

 

「――言えません、それだけは。すみません」

 

 ウェルロッドの顔が急に曇ったのを見て、45はそれ以上追求するのをやめた。

 

 そしてそうやって話をしているうちに、45のバッテリーが満たされそうになっていることに気がついた。

 

「……あの、本当にありがとう。あなたは命の恩人よ」

 

「いえ。すべきことをしたまでです」

 

 45は身体を起こすと、ウェルロッドに丁寧に礼を述べた。彼女はそれに笑みで返す。

 

 ウェルロッドは持っていたバッテリーを45に託した。

 

「話を聞く限り、あなたはまた妹を探すのでしょう。きっと苦しい道程になります」

 

「分かってるわ。でも、私にはそれくらいしか目的がないの。むしろ目的がなくなったら、私は生きる意義を失ってしまうから」

 

「ええ。目的のため生きるというのは、素晴らしいことですから」

 

 そう言うと、ウェルロッドは羽織っていたジャケットを脱ぎ始めた。

 

「ですが、その格好で妹と会うというのは少々忍びないと思いますよ?」

 

「……そうかしら」

 

 思えば、自分の脇腹の部位は金属が丸出しになっていた。このまま誰かと会うというのは、まあ不審がる者もいないとは限らなかった。

 

「そうです。ですから、私のジャケットを差し上げましょう。これで少しはマシに見えるとは思いますよ」

 

「――いいの?こんなものもらって」

 

「大丈夫です。私は一応これでも軍属の人形。帰ればまた補給してもらえますから」

 

 そういいながら、ウェルロッドは45にジャケットを押し付けた。

 

「どうぞ」

 

「……」

 

 その押し付けられた際の笑みがあまりにも優しかったせいで、45は返す気が失せてしまった。

 

 おもむろに、彼女はジャケットを羽織りはじめる。

 

「……いいですね。とても似合ってますよ」

 

「そう……かな」

 

 サイズは意外にも丁度よく、以前着ていた上着と同じような感覚だった。違う点といえば、デザインと生地の硬さくらい、といったところだろうか。

 

 やがてウェルロッドの屈託のない笑顔につられ、45の顔にも自然も笑顔が浮かんでいた。

 

 ――目覚めてから、初めて笑ったかもしれない。

 

 ウェルロッドが立ち上がる。

 

「では私はこれで。またいつかお会い出来るといいですね」

 

「ええ。本当にありがとう。またいつか生きて会いましょう」

 

 その言葉に、ウェルロッドははにかみを返事として立ち去っていった。

 

 人格者とはまさにああいうのを言うのだろう。誰にでも手を差し伸べ、救い、施す。

 

 ここまでしてもらったのだ。彼女のためにも、生き続けなければならない。

 

 いつか見た妹の幻想を現実にするため。一人残された45は、また当てもなく歩き始めることにした。

 

 風に、黒のジャケットをはためかせながら。




やっと45姉にも希望の光がさし始めましたね。よかったね(他人事)

人って言うのは、見る者によって評価が愕然と変わるものなんですよね。
その人を悪く言う人もいれば、良く言う人もいる。そういうもんなんですよ。



ところで、私は今まで色んな小説サイトを転々としてきたわけなんですが(衝撃の新事実)、この作品みたいにまともに評価を貰えたのは割と初めてのことなのかもしれません。本当にありがとうございます。めっちゃうれしいです。
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