主にバッジ集めたりチャンピオンリーグに出たりチャンピオンになったりバトルタワー周ったりワイルドエリア制覇してたりポケモン厳選したりしたんですお兄さん許して
日も落ち始め、辺りがゆっくりと暗くなり始めた頃。
「うあっ」
彼女は何かに足をつまづかせた。
陽の光が失われる程、辺りは暗く、闇に包まれていく。その上、街から外れる度に足元には徐々に草が生い茂っていった。
そのせいで、その草むらの中にあるはずの石やら倒木やらに気が付かなかったのだろう。夜の帳が隠すのは自分だけとは限らないのだ。
バランスを崩し、45は前のめりに倒れ込む。地面に激突する前になんとか手を着こうとしたが、如何せん左腕が機能しないため、体を支えきることができない。
「あだっ」
左肩から地面にぶつかり、その衝撃で思わず目を閉じる。
そして当たり前に目蓋を開くと、彼女の目と鼻の先には虚ろな表情をした顔が据わっていた。
「ひっ!?」
石でもなく木でもなく顔。その唐突な恐怖に、反射的に45は転がりながらも飛び下がった。
動揺で落ち着かない心を何とか鎮めつつ、その顔の持ち主を注視する。
腰から下、下半身を完全に消失させた人形の残骸。どこを見ても傷だらけで、見るも無惨な姿だった。
「散々ね……」
どのような戦いに巻き込まれればこうなってしまうのだろうか。よく辺りを見渡すと、確かにそこには薬莢や銃の残骸、えぐれた地形など、壮絶な戦いの跡が残されていた。
45のようにスパークを発生させている訳でもないので、この人形は確実に機能停止している。ならば、彼女にとってそれは罪を犯さずとも手に入る貴重な物資に過ぎなかった。
「それにしてもこの顔、なぜか見覚えがある気がする」
ブーツナイフを引き抜こうとした時、ふと考えが彼女の頭をよぎった。
その言葉の通り、45はこの人形の顔に既視感を感じていた。理由はわからない。何しろ目覚めてからこのような人形と接触したことはないのだ。
45はその顔を近くでまじまじと眺める。
茶色の長髪に黄色の髪留め。左目を縦に裂くかのような古傷。
――会ったことは無いはずなのに、確かにこの顔を知っている。
その矛盾に、45は自分の髪を無造作に掻き乱しながら悩んだ。
「――そういえば、私の髪も茶色ね」
どうでもいいような共通点。たまたま自分の髪を触ったことで、それに気がつく。
だが本当にそれはどうでもいいことだ。自分の髪の毛のことなど、今は関係がない。
そのはずだったのに。
「……嘘」
自然と、彼女は自分の側頭部に手を伸ばしていた。
そしてそこに当たり前のようにある四角いパーツ。まさかと思い髪からそれを引き抜くと、黄色の髪留めが視界に入ってきた。
――この人形のと全く同じ、髪留めが。
「なんで……?どういう……」
この人形が羽織っている上着、それは以前WA2000に狙撃されたであろうとき、囮に使ったあの上着にそっくり、いやそのものであった。
さらに言えば手にはめている手袋も全く同じ物であるし、ワイシャツを着ているというのも一致している。
それ以外にも、不自然な程に共通点が多すぎるのだ。
ここから考えて考え抜いて、彼女が出した結論。それは、
「これって、私……?」
そう考えた瞬間、45は強烈な悪寒に襲われた。
――目の前にいるのが“私”?
なら、自分は一体何?何者なの?
いや、そんな、そもそも自分が二人いるなんてありえない。私の中に知らない機能でもあるのなら別だが、そんな記憶はない。
思い返してみれば私は自分自身の顔を見たことがなかった。だから目の前の“私”が自分と別人と仮定したなら――。
「もしかして、これがナインなの……?」
自分には“ナイン”という妹がいるのは分かっていた。
妹という以上、自分と何かしら似ている部分があってもおかしくないはずだ。
そして、目の前には共通点だらけの残骸が一つ。
「あ……あぁ……っ」
もし本当にそれがナインなら、45は今までここ朽ち果てていた妹を求めてさまよっていたことになる。
ほとんど憶測で考え、それがまだ妹と決まった訳でもないのにも関わらず、45は人形の前でぺたりと座り込み絶望に打ちひしがれていた。
「私は……わたしは、なんのために」
ナインの為に、他人の命を奪ったのは。
ナインの為に、あの人形の恨みを買ったのは。
ナインの為に、ここまで生きてきたのは。
ナインの為に、あの施しを受けたのは。
全部、全部無駄だったのだろうか。
ナインと会う。そんな儚い夢は、こんな形で終わってしまったのだろうか。
そう思うだけで、45は頬に涙を流していた。
「もうこんなのじゃ、生きていく意味なんて――」
心に差し込んでいた一筋の希望。それが今、思い込みかもしれない憂いによって覆い隠されていく。
こんな不確定要素だけで簡単に心が折れてしまったのは、きっとこれまでの業のせいなのだろう。
45はブーツに震える手を伸ばす。
その先にあるのは鋭いナイフ。さっきまでは目の前の人形――妹のようなものを引き裂こうとしていたものを、今は自分の首に突き立てようとしているのだ。
小さな金属音を立てながらナイフが鞘から抜かれる。
剣先が細かく揺れる。不安定ながらもそれは首筋へと運ばれていく。
みるみる彼女の呼吸が荒くなる。既に溢れんばかりの涙が双眸を満たし、あとは右手に一思いに力を込めれば事は済む。
「……」
あと数センチ。それだけ刃を進めれば、45の人生は幕を閉じる。
だが、その僅かな距離すら、彼女には動かす勇気はなかった。
――死ぬのが、怖いのだ。こんなにも絶望して、生きる気力も何も無いのに、死という選択肢に行き着けずにいるのだ。
「あぁ……私には――もう何も」
手からナイフが滑り落ち、地面に突き刺さる。
死を選べないのは当たり前だった。銃を扱うことが出来るとはいえ、45の心は民間人とほとんど変わらない。記憶を失う前なら違ったのかもしれない。この状況ですんなりと自害していたのかもしれない。
だが今の彼女は、ただの少女なのだ。
全てに絶望している少女に「これで命を絶て」とナイフを渡したとしても、本当にそれができる者などどれほどいるだろうか。
今の45には生きるという勇気も無いうえ、死ぬという勇気すらもないのであった。
立ち上がって歩こうにも、何もかもに希望を失った45にはそれすら難しい。
今の彼女に出来ることは、ただバッテリー切れを待つことだけだった。
――静かになった草原に、微かに草をかき分けるような音がする。
45は察する。あの狙撃手が、WA2000とやらが来たのだと思った。
復讐のために、自分を討ち滅ぼしに来たのだと。
しかし45は逃げようと思えなかった。むしろ、彼女の手によって葬られるほうが幸せとさえ考えた。
足音が少しずつ近付いてくる。
これでこの無意味な放浪も終わるのだろう。やっと楽になれる。彼女は安堵さえ感じていた。
「――じいさん。あたしの目の前に、狂った人形がいる」
声が聞こえ、俯いていた顔を上げると、そこにはブロンドの髪を短くまとめた少女が立っていた。
「あなたが、WA2000なの……?」
ふと45がそう言うと、目の前の少女は耳に当てていた大きな通信機を外して答える。
「誰それ。知らないけど」
彼女の手元を見れば、その得物は確かに長距離射撃には向いていないように見える。
マガジンの大きさ的に拳銃弾を使っていることが分かる。短機関銃、あってもピストルカービンだろう。
「じゃあ、じゃあ一体何をしに……私を殺しに来たんじゃないの?」
「なんで殺さなきゃいけないの。そんな価値はないよ」
無関心そうに答えた少女は45を一瞥したあと、またすぐに無線機に向けて話し始めた。
「それで、どうすればいいの?」
通信相手と少し話したあと、少女は再度45を眺め始めた。今度は一瞥程度ではなく、すみずみまで、というように。
「えっと、左腕が壊れてる。感情センサーがイカれてるのか、顔が涙でぐしゃぐしゃ。銃は……近くに壊れたやつが一つ。ダミー人形も一緒。これも壊れてるけど」
「ダミー……?」
恐らく彼女は45の状況を通信相手に説明しているようだったが、唯一“ダミー人形”という言葉に聞き覚えがなかった。
「この残骸のことでしょ。違う?」
思わずそれを口にして戸惑っていると、少女は足元の“ナイン”と思わしき人形を指さした。
「あの、そうじゃなくて……、ダミー人形って、なんなの?」
「――はあ?」
いまいち状況を飲み込めていない45の問いに、少女が眉をひそめる。
「あんた、第二世代の人形じゃないの?」
「第二世代……?」
「……じいさん、困った。この人形、記憶装置も壊れてる」
少女はため息混じりに声を出す。そしてそのまましばらく通信越しに誰かと会話すると、突然通信機をしまい、
「決まった」
「え?――えっ、ちょっと」
45の右腕を強引に掴んで走り出す。
彼女の華奢な身体からは思いもよらないような力で、やはり彼女も人形なのだろうと薄々察するが、そんなことよりも今この状況のほうが理解できない。
「待って、待って!どういうことなの!?」
「いいから黙って着いてきて」
抵抗しようにもやはり少女の力は凄まじく、掴まれた腕を引き抜こうにもビクともしない。
ほとんど拉致としか思えないが、この身は今捨てたようなものなので正直問題ではない。
それよりも45は、自分のことよりも落としたナイフ、そしてあの妹のことを心配していた。
「ねぇっ、どこに向かってるの!?」
「じいさんのとこ」
さっきから何を質問しても雑な回答しか返って来ない。変に情報を漏らさないようにしているのだろうか。
45は成す術もなく引かれるままに走っていくと、やがて前方に森が見えてくる。
手を引いている彼女は、なんの躊躇もなく森へと突っ込んでいく。彼女の目的地はそこにあるのだろう。
「あっ、ベクター!後ろの誰それ新入り?」
森の入口から一人、何かビンを持って出てくる。
彼女は二つに結んだ金髪を揺らし、手に持ったビンを呷りながら近付いてくる。
ベクターと呼ばれた少女は、それを見るなり溜息をつきながら止まった。
「スコーピオン……。また飲んでるでしょ?」
「いいじゃん別に使わないんだからー。火炎瓶に着火するためにしかアルコールなんて使わないわけなんだし、それなら飲んだっていいでしょ?」
「それはいいけど、酒臭いのが一番の問題」
「我慢してよ。で、その後ろの子は誰なの〜?」
スコーピオンはそのまま酒を飲み干すと、空きビンを適当に放る。そして45に近寄ると、彼女の全身をじろじろと眺め始めた。
「うっ……」
むせ返るようなアルコールの臭いに、思わず眉をひそめる。鼻を覆いたいが、今は両腕が使えないのでどうしようもない。
「なかなか可愛いじゃーん。いいの連れてきたねぇ」
「はぁ……とにかく、私はもう行くから。じいさんにこの人形を会わせないと」
「ふーん。それはいいけど、なんか物凄く怯えてない?また事情も伝えずに無理やり連れてきたでしょ」
「……」
隣で騒ぐスコーピオンを無視し、そのまま歩き出すベクター。これを見るに、45に対する素っ気ない反応もそれが普通なのだろう。
「あ、うちのバカがごめんねー。あたしはスコーピオン、そっちのバカがベクター。君は?」
「――えっ……あ、あの……」
「ほらぁー、やっぱベクターのせいで怖がってるじゃーん」
突然のことに45が答えあぐねていると、スコーピオンは無駄に高いテンションのままベクターに密着した。
「ごはぁ」
ベクターはそれを肘打ちし、そのまま膝蹴りして適当に引き剥がす。
「くっ……容赦ない……。まあいいや、名前の方は後で聞けば」
蹴られた勢いで数歩下がった彼女は、蹴られた腹部を抑えつつ、肩に提げていたカバンを開けた。
彼女はごそごそと中を漁ると、二本のビンを出した。
「新入りくんにはこの酒をあげよう!ウォッカは好きかな?」
「やめてスコーピオン。それにこいつは左腕がないから受け取ること自体できないから」
「じゃあその掴んでる腕離してよぉ」
そう言いながらスコーピオンはビンを一本開け、すぐに飲み始めた。
そうしてベクターがスコーピオンの口撃をかわしながら歩いていると、やがて森の中に開けた場所があるのが見えた。
「見えた見えた。新入りくんよ、あれがあたし達の拠点だよー!」
「……これは」
――のどかな風景だった。
コンクリートの瓦礫や人形の残骸は一切なく、代わりにあるのは木製の家や畑、アンテナや綺麗な装甲車。
ほとんど黒に染まった空の中、眩しくない程度の光が一つ灯っている。家から漏れ出る光だろう、確かにそこには何かが住んでいるという証拠であった。
争いの似合わない、素敵な空間。それが、目の前には広がっていた。
「こんなに、平和な光景があるなんて……」
目覚めてから今まで、45は殺伐とした風景だけを見てきた。死や絶望の渦巻く地獄絵図。人形から人間まで、自分が生きるためだけに行動しているような、そんな世界だけを見てきた。
だからこそ、この平和な空間にて、45は夢見心地で立っていたのだった。
「じいさんに会わせる。付いてきて」
そう言いながらベクターは腕を掴んだまま歩き出す。どちらにせよ断ることは出来なさそうだ。
「いやいやそれ普通に拉致じゃん」
腕を掴まれているため拒否権がないというのをスコーピオンも感じていたらしく、ビンを呷りながら付いてきた。
「ここ」
木製の家の前でベクターが止まる。やはりここ一体唯一の住居に、彼女の言う“じいさん”はいるらしい。
彼女はスコーピオンに顎で指示し、ドアを開けさせた。
「じいさん、連れてきたよ」
そして中で45を迎えたのは、
「おお君が!さあ入りたまえ」
とても老人とは思えない屈強な体格の、白髪の男性だった。
「あ、はは……どうも……」
苦笑いしつつ、45は玄関へと導かれた。
なんだこのおっさん!?(読者目線)
45姉は自分の顔を覚えてません。そのうえまだ鏡とかで自分の顔を見てません。よかったですね自分の顔知らなくって。多分知ってる状態で例の人形の残骸に遭遇してたらSAN値チェック入ってたと思いますよ。はい(適当)
次回は年内を目標に投稿目指します。もしなかったら新大陸行ってたりトレーナーになってたりマスターになってたり特殊部隊になってたりすると思ってください。