元雄英生がヴィランになった 凍結中   作:どろどろ

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今回はほとんど蟻塚視点です。それを念頭に置いて読んだ方が分かりやすいかと思います。


草壁菊絵:フォールアウト

 六畳の一室と、密閉された光を通さない窓。汗と酒の香りが少女の世界の全てだった。

 いつからそこに居るのか、どうして居るのか、何一つとして知らない。

 知っているのは、同居人から受ける暴力的な虐待と性的な陵辱の味だけだ。彼女の暮らしに規則性はないが、唯一の生活様式と言えるものが、同居人からの指示に服従することが絶対であるという点だけ。

 

 ――私に従えなきゃ、お前に明日は来ない。

 

 明日が来ないことが恐ろしい現象を指すのだと、直感的に理解できた。

 名も知らぬ同居人の女性が、少女にとっての絶対法則。

 言語と素行だけでなく、社会通念や倫理観すらも彼女の模倣。

 少女にとって血の味は世界の大半を占めるもので間違いなかったし、それを是とする女性の主張が少女にもそれを肯定させていった。

 

 そしていつしか、自分はこの人になるために産まれてきたのだと。

 女性の代替わりが自分なのだと解釈するようになり、少女はより同居人の人格に近づいていった。

 

「私は外に出てくる。お利口にしてろ。じゃねぇと今度は奥歯を折るからな」

 

 そう言って、いつものように彼女は部屋を出て行った。

 ふと、疑問に思う。

 

 あの扉の向こう側の景色を己は知らない。

 

 五年以上もこの日々に耐えた少女に、ある願望が目覚め始めていた。

 途方もない苦痛の毎日だった。そろそろ卒業の兆しが見えてもいいんじゃないだろうか。そろそろ、己もあの扉を開ける側に回ってもいいんじゃないだろうか。

 少女を律する法は自分の内側を由来とするもので、同居人への恐怖そのものではない。恐怖、という感情にそもそも疎いのが少女だった。この当時はあらゆる感情が麻痺していたためだろう。

 

 鍵は掛かっていなかった。

 歯止めを失った少女はその日、扉の向こう側の景色を知る。

 

 

 

 少女は縋るように明るい方向へと歩みを進めていく。少し行くと、庭園のような場所に出た。木々と花の香りが脳を蕩けさせるようだった。

 何だか酷く眠い。

 直射日光が肌に痛かったが、少女は欲望のままに一番香りの強い花壇の上で大の字に寝転がり、そのまま眠りにつく。

 何故だか、いつもより深く眠れた気がした。

 

 目覚めた時、頬を撫でる糸のような感触に気が付く。

 花壇の縁に見たことのない生物が座っていた。

 清潔な白い体毛。水のように澄んだ双眸。四足歩行で小柄な生き物ではあったが、ノミだらけの己より遙かに清らかで、美しく、また優雅であった。

 

「おまえはだれだ」

 

 にゃあ、とだけ返答があった。

 少女がしばらく見つめていると、白いソレは少女のすぐ隣で寝転がり始めた。腹を出して、服従の姿勢を取っているのか。

 ……成る程。コレは己より下位らしい。

 

「わ、わたしがうえだ」

 

 同居人は少女よりも大きかった。きっと、身長が立場を分ける上の要素なのだと思う。

 より体躯が優れている方が、肉体的に強固であり、生物としてのヒエラルキーの上に立つ。それこそ少女がこの短い生の中で見出した世界の理だ。

 であれば己は――私は、彼女が私に命じるように、コレに命じる権利を持っている。私はコレより上位の生物なのだから。

 

「私がおお腹がすいたからなんとかしろ。しないとおマえに明日はない」

 

 しかし、ソレは命令に従う素振りを見せなかった。

 それどころか、寝息を立てて沈黙し始めたではないか。

 従わない者には痛みが必要だ。

 

 少女は自分が受けたように。

 言うことを聞かないソレを暴力的に虐待し、性的に陵辱した。

 

 いつしか白かったソレは、全部が赤くなっていた。

 赤いシチューみたいになっていた。

 ……シチューは好きだ。ソレが作ってくれたのかな。

 木の枝を刺したくらいから、くぱぁっと真っ赤っか。

 糞尿の匂いがするシチューだった。

 少女はシチューがもっと好きになった。

 

「何してるんだお前ェェ!?」

 

 同居人が帰ってきたらしい。

 いつになく鋭い蛮声に、少女の肩が震える。

 私は彼女の言いつけを破って、部屋の外に出た。きっと折檻されるのだと思い、少女は両目から透明な液体を流した。

 後から知った話だが、それは涙という飲み物らしい。

 涙は痛い飲み物だった。

 

 ✕✕✕

 

 少女が同居人の飼い猫を虐殺してから二年の歳月が過ぎようとしていた。

 あれ以来、少女の胸の内に沸き立つような衝動が芽を出している。

 その芽は時折開花しようと少女から養分を吸い取るのだが、その度に少女は激しく抵抗していた。視界に入る物を全て破壊する勢いで暴れ回り、もはや同居人の忠言すら耳に入らない程深く狂乱することもしばしばだ。

 

 情緒が不安定な少女を手に余ると判断したらしい同居人は、彼女を売り払うことを決意した。

 買い手はすぐに見つかり、数週間後、引き渡しの日がやってきた。

 

「今日からお前は余所の家の子になる」

 

 告げられた言葉に、少女は疑問符を浮かべる。

 余所の家、という語義がそもそも理解し難い。この部屋とは異なる場所で、同居人とは異なる上位の者の奴隷になるという意味だろうか。

 少女は初めて、疑念を口にした。

 

「どうして、私は此処の子でいられないの?」

「はぁ? はぁ。……あのな、そもそも、お前はブラックマーケットの商品なんだよ。お前は私の家族じゃないし、私はお前の母親じゃない。お前は七年前に私に買われ、今日、別の人間に買われた。弁えろよ奴隷が」

「……母親、って?」

 

 少女が問い返したのは、同居人の言葉の中で何故だか耽美な含蓄を感じた箇所だった。

 

「チッ、無知の愚図が。お前を産んだ女のことだっつの。……まぁ何だ。最後だし、お前の商品名も教えといてやる。ちゃんと覚えて、次の飼い主に迷惑かけんじゃねぇぞ。飛び火を喰らうのは私なんだ」

「うん。覚える」

「お前の名前は菊絵。草壁菊絵(くさかべきくえ)。覚えたか?」

「……覚えた」

 

 夢現な状態で、菊絵は頷いた。

 草壁菊絵。それが私を縛る記号。忘れたら、同居人に迷惑がかかるらしい。覚えておこう。

 

 しばらくして部屋に数人の男が現れた。彼らに引き摺られるようにして、菊絵は扉の向こう側へ出る。二年ぶりのことだった。

 複雑に曲がりくねった廊下を進み、かつて見た庭園のある縁側に辿り付く。そこで、かつての風景、香り、そしてシチューの姿を幻視した。

 菊絵の胸の内の花が咲いた。

 

 ――にゃあ。

 

 菊絵に現状からの逃避という選択を促したのは、偏に内界で渦巻く真っ黒な欲望だった。

 ここにいたら、それが満たせない。しかし同居人にも逆らえない。ならば逃げるしかない、と菊絵は脇目も振らずに駆け出した。

 同居人や、男たちの呼ぶ声が聞える。怯えながらもそれを無視し、菊絵は跳んだ。

 自分でも驚くほどの脚力が発揮された。2メートルはあった塀を難なく跳び越えた菊絵は、一心不乱に、行き先も定まらぬままに走り続けた。

 

 

 どれだけ遠くに来たのだろう。

 体力が底を尽き、菊絵は「みんなの公園」との看板が飾られている敷地に侵入した。その中から魅惑的な気配を感じ取ったからだ。

 公園の隅に、パーカーを被った子供がしゃがみ込んでいた。

 菊絵は気配の元がそのパーカー人間だと察し、声を掛けた。

 

「お前は誰だ」

「……あなたこそ誰ですか?」

 

 パーカー人間の声は高い。女だ。私と同じ女だ。だって男は声が低いから。

 

「私は草壁菊絵。お前は誰だ」

 

 最近覚えた記号を口にし、再度問う。

 するとパーカー人間は振り返り、

 

「トガです。トガヒミコ」

 

 即座に菊絵はトガを上位者だと認識した。

 トガの手元には鴉の死骸が抱きかかえられており、彼女の口元は鴉のものと思われる血で汚れていた。

 シチューを食べているのか。

 でも、何故だかトガの食べるシチューは不味そうに思える。理由は直ぐに分かった。

 菊絵はシチューを作る過程に喜悦していたのであって、それを食すこと自体に快感を得ていた訳ではなかったのだ。

 

「……菊絵ちゃんは不思議だねぇ。怖くないんですか?」

「何が?」

「だって、動物の死体、皆怖いって言うんです」

「そうなのか。可愛いのに。哀しいね」

「うん、とってもカァイイのです」

 

 言うと、トガは鴉に口づけした。

 その猟奇的な風景を目の当たりにして、菊絵は戦慄した。自分の胸から沸き上がる久しぶりの感情。身体が痺れ、熱を帯び、心臓の鼓動が強くなっている。

 紛れもなく、彼女は高揚していたのだ。

 

「菊絵ちゃん。私たちお友達になりましょう」

「お友達って何?」

「一緒にお手々を繋いだり、小鳥さんや子猫さんの血を見たりするんです」

 

 類は友を呼ぶという。

 トガは先天性の人格破綻者であり、菊絵は後天性の精神異常者ではあったが、双方とも物狂いであることに変わりはない。

 共通項を見出した菊絵がトガに友情を感じるのは避けられないことだった。

 

「……いいよ」

 

 同類の友を得たこの日を境に、菊絵の異常性は更に悪化していくのだった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 それからと言うもの、菊絵は河原の橋の下で生活を送るようになった。食料はトガが差し入れてくれた。

 同居人のいない、檻の外の生活。彼女を縛るものは何もない。

 菊絵はトガと共に、欲望に身を任せた毎日を過ごした。

 

 動物を切り刻み、押し潰し、バラバラに解体する至高の毎日が、彼女に蜜の味を覚えさせていく。猛獣が人の肉の味を覚えるように、彼女もまた、虐殺の快感に悦んでいた。

 そうして甘い日々を享受する中で、菊絵の行動はエスカーレートしていった。

 最初は小動物。それからより大型の動物へと標的を変えていき、ある日、何らかの一線を越える感覚が菊絵を襲ったのだ。

 

 初めて自分より小さな――人間の子供を殺した瞬間のことだった。

 

 今までと比較にならない快楽が全身に走った。

 きっとそれが、菊絵にとって本物の肉の味だったのだろう。殺人衝動が沸き立ち、肥大化し、理性の縁からこぼれ落ち始めた。

 不可避の中毒症状。

 もっと殺したい。もっと味わいたい。

 友人のトガにそのことを打ち明けたとき、彼女は涎を流しながら応えた。

 

「狡いよ菊絵ちゃん! 私だってまだ好きな男の子の血の味知らないのに……私を置いて、先に行っちゃうなんて……!」

「えっ、もしかして我慢してんの? 何で? 気持ちいいぞ。やってみるべきだぞ」

 

 そう言うと、トガにも決心がついたらしい。

 好きな男の子を襲うとの発言を残し、その日の遊戯はお開きとなった。

 

 ――そして夜。薄い毛布の下で縮こまりながら、菊絵は子供を殺した時の感覚を想起した。直後、欲望の波が押し寄せてくる。

 次は明日にしようと決めていたが、あぁ、もうだめだ。耐えられない。殺したくてうずうずしている。コレを抑えきるなんて不可能だ。

 

 菊絵は寝床から飛び出した。

 昼間、初めて殺人を犯したあの場所へ、あの場所へ向かえばまだアレを感じられる。また遊べる。

 そんな生き急ぐ彼女を呼び止める声があった。

 

「ちょっと君、待ちなさい!!」

 

 その人物はケイサツと名乗る男性だった。同居人よりずっと体格に恵まれていて、自分より上位者であることは確実だ。

 命令に従わなければ、と思った。

 しかし、以前までの菊絵と違い、今の彼女を突き動かしているのは制御不能の殺人欲。

 

「邪魔、するな」

 

 菊絵は抵抗した。

 上位者は自分より強い。過去に受けた虐待から学んだ事だ。自分はケイサツよりも格段に弱い。その先入観があるからこそ、菊絵は全力の暴力で抵抗した。

 だがその夜、少女が振るった腕は、まるで豆腐を崩すかのようにケイサツの頭部を粉々にしたのだった。

 

 

 

 ――とんでもないことをしてしまったのだと、寝床に逃げ帰った後になって気が付いた。

 

 ケイサツと名乗ったあの男――上位者を、私は殺したのだ。

 

 ずっと自分を押さえつけてきた法則が、簡単に覆ってしまった。

 自分は何のルールに従って生きていけばいいのか。

 分からない。怖い。

 自分より身の丈の大きな人に逆らわないこと。単純なように聞えるが、その束縛は不愉快であると同時に、菊絵にとっては重要な行動指針だった。

 

「ようやく……見つけたぞ」

 

 上位者を象徴する女性の声が降ってきた。

 菊絵が顔を上げると、そこには寝床を覗き込むようにする同居人の姿があった。

 

「お前! よくも私に恥をかかせてくれたな!?」

「私、は」

「お前のせいで、私はマーケットのブラックリスト行きだ! 奴隷の分際で、どう責任とってくれんだよクソガキが! あぁ!?」

 

 思考が状況に追いつかなくなっていた。

 唾を飛ばして声を荒げる同居人が、気持ち悪くて仕方がない。

 今までこの人に反抗の意志を懐いたことなんて一度もなかったのに、今の自分は同居人を殺したくて我慢できない。

 

 発情していた。

 だから、爆発した。

 同居人をこの手で殺した。

 頭が割れるような感じ。しかし痛くはない。

 気持ち良かったのは、きっと生理現象だからだろう。

 不眠で、断食して、禁欲したまま生きていける者はいない。

 最高潮に達した欲望を、生きるために解放した。それだけのこと。

 

 菊枝の殺人欲は、既に生理的欲求にまで昇華していたのだ。

 

 

 ヒーローや警官が菊絵の寝床を包囲した頃、彼女は放心状態になっていたらしい。

 

 

 

 ✕✕✕

 

 同じ地方、同じ地域で、一夜に未成年殺人者が二人も出たとの報道があった。

 その二人の内、逮捕されたのは一人――痩せ細った少女だった。

 

 警察の調べによると、少女の脳は大幅に萎縮し、複数の機能障害を併発していた。その中には記憶力の異常低下も含まれ、彼女は自分の名前すら覚えていない状態だったと言う。

 少女には身体的な問題も多く発見された。栄養も不足していた。個性因子による重要器官の異常発達が功を奏し、寸前の所で彼女の命を繋ぎ止めていたのだ。それが無ければ、とうに栄養失調で死んでいただろう。

 

 程なくして、少女は心神喪失のシリアルキラーだと断定され、法廷では不処罰が認められることとなる。

 

 無罪判決を受け、少女は兇悪な未成年犯罪者を専門とする医療少年院――通称『ショッズ』へと送られた。

 

 同施設に草壁勇斗が収容される決定が下されたのは、それと同年のことである。

 

 ◇◆◇

 

 

 蟻塚。

 それが、ショッズにて少女に与えられた第二の名前だった。

 蟻塚は自分の欲望を抑える術を知らない。自分に反抗的な者を虐待し、例外なく痛めつけ、時には本気で殺しかけることもあった。

 

 ショッズで共同生活をしている子供たちは、誰もが強力な個性を恣意的に振り翳す。そこに安全な日々などない。時には命を落とす子供もいる程だ。

 そこで毎日のように暴れていく内に、蟻塚はヒエラルキーの頂点にまで登り詰めた。

 子供たちは勿論、常駐の監視員すら蟻塚の顔色を伺わない日はなかった。

 偏に、彼女が強かったからだ。

 

「テメェ私のプリン食いやがったなァァァ!?」

 

 朝食時間の喧噪。

 蟻塚が逆上するのは毎朝の恒例だが、その日は怒りのボルテージが普段より一段階高かった。

 

「死にてェのかコラ!!」

「ひぃい!」

 

 長机を蹴り上げ、蟻塚は誤って彼女のデザートに手を付けた男児を吹き飛ばした。

 特殊合金の壁に衝突した男児は、悲鳴を上げるより先に土下座の姿勢を取った。

 

「ごめんなさいごめんなさいすみませんごめんなさいすみませんもうしません許してくださいごめんなさいもうしません許してください殺さないですみませんしないでごめんなさい痛いの嫌だ許してくださいすみませんもうしませんもうしませんもうしませんもうしません……」

「何言ってるのか分かんないんだよ!! 要らないベロを引っこ抜いてやる!!」

「あの、蟻塚さん。そいつ頭がアレなんスよ。許してあげてくださいよ……」

「アレってどれだ? 私の知らない言葉を使うな!!」

「ごっ、ごめんなさいィ!」

 

 彼女の機嫌を損ねたら命すら危ぶまれる。蟻塚に逆らえる子供は誰一人としていなかった。抑止力となるのは大人の仲裁だけだ。

 どう事態を収拾するんだと騒然としていると、物音に気が付いた医務服の女性が食堂に駆け込んできた。

 女性の名はミサキ。臨床心理学の博士号を持ち、子供たちのメンタルケアを担当している。ショッズで勤務する医師の一人だ。

 

「こらこら! 駄目でしょ喧嘩しちゃ!! 何が原因!?」

「あ、あいつが間違えて蟻塚さんのプリンを食っちまって……」

「あ゛あ゛ああぁぁぁもう!! そんな子供みたいな理由で!? ……いやまだ子供だけど!! 全く世話の焼ける!!」

 

 常駐の医師や監視員にはある程度の身体技能が要求される。今のように、凶暴な子供たちのいざこざを解決する時のために。

 しかし、蟻塚は凶暴という枠組みを超えている。並大抵の大人でも蟻塚絡みの喧嘩には関与したくないというのが本音だった。

 だと言うのに、ミサキは一瞬の逡巡すらなく、男児に飛びかかりそうな蟻塚の肩を掴みにかかった。

 

「蟻塚さん、プリンなら新しいのをあげるから。ここは抑えて。ね?」

「……殺すよ?」

 

 少女に加減はない。声に乗った殺意は威嚇でも警告でもなく、獲物を狩るための準備完了を知らせるものだった。

 一拍の間を挟み、少女の小さな手がミサキの両目に迫る。

 その時に、

 

「天啓が舞い降りた!!」

 

 素っ頓狂とも言える声音で場違いな発言をする空気を読めない馬鹿がいた。

 

「これこそがエリニュエスの導きだったか! そう、預言者たるこの身は堕落と背徳を滅する為にこそ在り! 故を以て、俺は貴台を天上に誘おう何度でも! 悪魔に取り憑かれた魂をハーデスに捧げるのです! それがタナトスの決定だ!! ……あれ? 今俺タナトスって言った? まあいいや! エリニュエスもタナトスも似たような物だ! 語感はかなり違ってるけどねーーっ!!」

 

 闖入者の存在に食堂が静まりかえった。

 声を立てた青年は妖精を彷彿とさせる美貌だったが、発言内容は完全に気が触れているとしか思えないものだった。

 

「アイツ、確か新入りの……」

「草壁勇斗だよ! ヘッドロッカー殺し!」

「……早死にしそうだな」

 

 青年――草壁勇斗は、硬直中の蟻塚とミサキとそれぞれ視線を交わすと、

 

 

「汝らが離別者かーー!! 我が名はメフィスト・フェレス!! さぁ、共に現世に誅を下そうではないか!!」

 

 

 この瞬間、食堂にいる者全員が草壁を同様に評価した。

 

 ぶっちぎりでイカれた奴が来たと。 

 




草壁勇斗「我が名はメフィスト・フェレス!」


この時の主人公は全力で狂ったフリをしているだけで、中身は聖人のような人格者です。


それから本番の補足になりますが、蟻塚(草壁菊絵)の元同居人はレズビアンのサディストでした。分かりにくかったら申し訳ない。

次回のタイトルは『蟻塚:オリジン/草壁勇斗:インバート』です。
しっかり書いたら全然1話で纏まらなかったんだ……。苦渋の二分割。すまぬ。更新頻度上げるから許してください。

余談ですが、フォールアウトの意味は「落ちる」、インバートの意味は「反転させる」です。主人公オルタ化でもするのか?

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