元雄英生がヴィランになった 凍結中   作:どろどろ

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奴が来る

 『衝撃反転』により威力を逃がしたとは言え、空から落ちてくるビルを支えるような力を捻出することは叶わなかった。

 瓦礫の中で勇は死の温度を感じ取る。己の内側から染み出る優しい熱。その正体は勇の血だ。定着しきっていない個性を複数個も身体に押しとどめ、それを同時に行使した反動だろう。

 骨を支える筋肉が千切れ、末端の血管が溶け出していた。脳の動きが弱まっているおかげで、痛みは感じない。

 

「……勇、く……苦し……」

 

 ――途端に、鼓動に力強さが戻った。

 壊れきった全身に祈りを込める。

 動け。止まるな。使命を果たせ。身体を精神に追随させろ。楽になろうとするな。

 

 限界を迎えた勇の身体が震え出した。その微熱はやがて灼熱となり、彼の心を焼き焦がす。

 寿命が一気に縮んでいるような気がした。足掻くほど死が近づくような。しかしこのまま消えてしまうよりは遙かにマシな気がする。

 

 やがて“死”は彼の眼前に現れる。それを勇を呑もうと大きく口を開け、魂を咀嚼し始めた。心地よかった。常に絶頂しているような法悦が迸っていた。とてもじゃないが、抗えるような快感じゃない。このまま呑まれきっても良いと感じる。

 

 そして――口内に能面が見えた。

 怪物という言葉を具現化したかのような、異形の生き物がそこでじっと此方を眺めている。

 

 

【     ?】

 

 

 怪物は目を窄めて首を傾げた。勇は自分に向けられている視線の本質を、獲物を値踏みする獣の眼差しと同種であると察する。

 この怪物は、勇のことを餌としか思ってない。

 

 

【    、   。】 

 

 

 辺りから泥が溢れ出てくる。

 限界に差し掛かったときに漏れ出す、いつもの溶液。

 勇は脱力して女の手招きを待つ。少し冷たくて気持ちいい温度の腕が、勇の身体に絡みついた。

 

 やっぱり、ずっとこうしているのが一番幸せな気がする。

 

 しかし、ふと目を開けると、

 

 

「……」

 

 そこには、血塗れで伏す姉の姿があった。

 全身に絡みつく腕を強引に引き千切ると、勇は彼女に駆け寄る。

 

「姉さん! あぁそんな……! どうして!! 何でこんなことに!!」

 

 草壁水泉の腹部には人の拳ほどの大きさの風穴があった。出血は収まる気配がなく、水泉の瞳からは刻一刻と生気が失われていく。

 命が、命が溢れてしまう。

 

「――――忘れ、ないで。だって、私は」

 

 勇は必死に紡がれた言葉に全力で応じる。

 

「忘れないさ! だって……貴方は、姉さんじゃないか……!!」

 

 聞き届けると、水泉は静かに逝った。綺麗な笑顔で、何一つ悔いなんて無かったかのように。

 そんな清々しい末路を無念に感じたのは、たった一人残された勇だけだ。

 

 嗚咽を噛み殺して姉を抱き寄せる。まだ僅かに残っている温もりが胸に突き刺さるようだった。

 

「水泉を貰っていってもいいかね?」

「……ッ!」

 

 忌々しい。

 忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい!!

 勇は己を上から見据える怨敵の名を吐き捨てる。

 

「凱善、踏破ァ……!」

「他人行儀だね。兄弟同然じゃないか、私たち。もう昔のように踏破先生とは呼んでくれないのかな?」

「巫山戯ンな! 俺は知ってるんだよ!! 俺の父さんを殺したのがアンタだって!! 俺たちの幸せを踏みつけにして、当然のように家族の顔をして、俺から全部奪っていく!! いつもそうだ!! 俺はずっとアンタに憧れてばっかで……搾取されてばっかで……!」

「なるほど。どうやら君は倣う人間を間違えたようだ。育ち方を、誤ったようだ」

 

 踏破の声は勇の神経を逆撫でする。

 彼から紡がれるあらゆる言語を、勇は憎まずにいられない。

 

「この俺が! 俺様が! アンタなんかを! テメェなんかを! どうして仰ぎ見なくちゃならない!? どうして憧れなきゃならなかった!?」

「それは君の問題だ。こんな私怨にまみれた(・・・・・・・)記憶の中で問う内容じゃない」

 

 踏破は勇の額に人差し指で模した銃口をあてがった。

 

「ともかく、さっさと死にたまえよ」

 

 そのまま、勇は自分の死を連想する。

 直感的に自分が踏破より格下だと思っていたため、それを覆すイメージを持てなかったのだ。

 しかし、勇が閉口していると静観に徹していた“怪物”がゆらりと動いた。

 

 

 

【ソレハ俺ノ獲物ダゾ、凱善踏破】

 

 

 

 身体の奥で、弾けるものがあった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ――勇の身体から裂けるような衝撃が放たれ、彼を締め付けていた瓦礫の山の一部が吹き飛んだ。

 何の個性が暴発したのかは定かでは無かったが、とりあえず九死に一生を得たとして勇は息をついた。

 

「今の……何……? 勇くんがやったの……?」

「質問は後に、してくれ。今は、逃げよう」

 

 勇が肉壁となったおかげで、蟻塚に大きな外傷はなかった。

 彼女を横抱きにすると、勇はビルの残骸を転げ落ちるように下る。複製組とは指定の座標で合流する手筈だ。視界が悪く足場は不安定で、移動することすら困難だが、それはやがて救出に訪れてくるヒーロー達にも同じことである。今が好機だ。 

 

 殆ど記憶だけを頼りに、鉄骨やコンクリの欠片を掻き分けて進む。

 本体の黒霧が使えたなら既に逃げおおせている頃だ。複製体の黒霧は撤収にしか使えない。そう思うと少し悔しかったが、雑念が多いのは余裕が残っている証拠だろうか。

 

「――オーイ、生きてるか!?」

 

 自分の声が聞えた。複製がもう近くにまで来ている。

 

「ここだッ!」

 

 同伴しているであろう黒霧と接触し、何処でも良いから此処ではない遠方へワープする。それで今回の騒動は収束する。

 

「おー、いたいた。……おや、お前また左腕ちょんぎれたのか! ザマァ!」

「殺すぞクズ! さっさと黒霧をこっちに来させろ!!」

 

 複製体には悪いが、もう駄弁る与力もない。自分でも自分が生きていることが不思議なくらいだ。

 

「朝木勇! ご無事ですか!」

 

 見計らったように現れた黒霧を見て勇は、

 

「よォーーし!! 黒霧合流! これにて終了! よっしゃ終わりィ!! 帰るぞヨッシャ! 痛いの終わりィ! よォォォォォッッしゃァ!!」

 

 ……とんでもなく喜んだ。『よっしゃ』を三回も重ねて多用している。おそらく雄英強襲以来、一番の歓喜っぷりだっただろう。

 

「黒霧! 早く俺たちを転送しt――」

 

 その時だった。

 勇の視界を巨大な炎が遮った。

 一瞬遅れて吹き荒れた熱風が勇と蟻塚の肌を焼く。

 

「朝木! コレは……ッ!」

「――何、だ、よ、クソがァッッ!!」

 

 爆炎の中から複製体の二人の断末魔が聞こえた。炎を一身に受けたのだとしたら、無事ではないだろう。消滅する程の欠損が出ていてもおかしくはない。

 

「あァ、ったく! 熱いッ! 痛ェッ! 崩れてく!! 悪いが後は頼むぞ、俺!!」

「……オイ冗談だろ」

 

 複製体の遺言により、嫌な予感が実現してしまったことが確定する。

 救援に訪れていた二人は炎に焼かれて消滅した。

 勇は炎の発生源へと目をやる。

 

「俺なら露払いする筈だ……普通、アンタみたいなのが来る訳が無いのに……! なんで――エンデヴァーが居るんだよ!」

 

 紅炎を纏った巨漢が煌々と暗闇を照らしている。

 太陽の如く燃えさかる男――エンデヴァーは、火炎の噴射を動力として空中に留まっていた。しかし、その容貌とは対照的に勇を見下ろす瞳は冷淡だ。

 

「…………まさか、こんなことになっていようとはな」

 

「何なんだよ。また、轟かよ……!? お前ら本当は俺のこと好きだろ……!」

「寝言はもう十分だ、クズめ」

「知っての通り、アンタの息子は俺の左手を奪った訳なんだが!? 父親は俺から何を奪うつもりだ!?」

 

 逆上した様子の勇に対し、エンデヴァーは怒気を孕んだ声で言い放った。

 

 

「無論――貴様の運命を」

 

 

(えぇ……? もうほんと、轟家マジ勘弁して……)

 

 その瞬間、勇の脳には轟一家が厭忌の象徴として刻み込まれた。

 もう二度と関わりたくない。今すぐにでもこの轟の姓を持つ全人類を抹殺したい衝動に駆られるが、正面対決でエンデヴァーを討ち果たせるような実力も自負していなかった。轟家抹殺計画はとりあえず保留である。だがきっといつか実行してやる。四割くらい本気だ。

 勇はこの場を脱するため、ひたすらに頭を動かしていた。そんな彼の袖を引く少女が一人、

 

「勇くん、……これも予定通り?」

 

 狼狽する勇を見て、蟻塚も窮地を察したらしい。

 

「いいや、エンデヴァーはキャスティングしてない。コイツの登場は予定外だ」

「……ふぅん。そうなんだ」

 

 少女は落ち着いた風貌で事態を呑み込んだ。

 木材工場での一戦以来、蟻塚には精神的な余裕も生まれていた。その余裕が、今後は今までと反して自分が勇を守るのだという決意を促している。

 

「心配しないで。こんな奴、私がぶっ殺してあげる。もう勇くんは休んで良いんだよ」

 

 甘い声だった。つい頼ってしまいたくなるような、耽美な声。14歳の少女が向けている言葉とは思えなかった。

 まるで、いつも守ってくれていた姉のような、優しい声音。

 

「君は私を迎えに来てくれた。それが嬉しくて、もう負ける気がしないんだ。勇くんが見ていてくれたら、誰だって殺せると思ってる。だから、後は側にいてくれるだけで、もう十分」

 

 庇護すると誓った筈の少女から向けられる情愛は心地良い。

 しかし、それに身を委ねてしまったら最期、朝木勇は萎んで消えるだろう。別の何かが内側から芽を出して、これまで犯した罪を受け止める器量を失ってしまう。

 此処で甘えては駄目だ。捨て去っていた弱さと良心を直視しては駄目だ。

 

「いやいや、まだ君に全て投げる程切羽詰まっちゃいないさ」

 

 考える。

 費やしてきた時間と策略が全て潰えた。その上で、ゼロの状態からこの場を潜り抜ける最善手を紡ぎ出す。

 考える、考える、考える。

 まず、現況の原因を突き止める所から。

 

(――特段厄介な個性を持つヒーローに対しては、同時多発的に犯罪を起こして足止めする段取りだった。つまりエンデヴァーは、目の前の事件を無視してわざわざ収監中の俺の様子を見に来たって訳だ。――あり得るかよ、そんな話。数字に拘るエンデヴァーみたいなヒーローは、とりわけ憶測だけじゃ動かない。

 発電所とビルに運んだニトログリセリンの件がバレてたのか……? いいや、それを知ってたのは三島だけだ。そして三島は俺が殺した。……平時以上に慎重だっただろうに、そんな状態でむこうの俺が第三者に気取られる失態を犯す訳もねェ)

 

 つまり。

 推測だけで骨組みを作り、報道されていた僅かな情報でそれを肉付けした人物がいる。

 誰より朝木勇のことを理解し、憂慮していなければ彼に辿り付く事は不可能だろう。

 ……やはり、思い当たる人物は一人だけである。勇が最も危険視し、不安因子と位置づけていた男。

 

(――絶対に凱善踏破の根回しだ。となると……活路と思える道筋は、たった一つ(・・・・・)だけ。大博打になるな)

 

 正真正銘、最後の手段が弾き出された。

 もう後は人事を尽くすのみである。

 

「前言通り、少しだけ蟻塚ちゃんのことを頼ろう。でも、一先ず今は君が後ろで俺が“前”だ」

「無茶しないでよ。もうボロボロじゃん」

 

 確かに身体は蟻塚の言うとおりだ。

 オールマイトとベストジーニストと死闘を繰り広げ、死線を何度も跨いだ挙げ句、限界だとばかりに飛び出そうとする複数の個性を圧し殺し、ここに辿り付いた。

 その上ビルに押し潰され、個性を強引に濫用し、左腕から内臓に至るまであらゆる箇所を破損しながら立っている。

 

 常時、精神が肉体を超越している状態だ。今すぐにでも死んでも不思議ではない。

 

「余裕さ。俺は朝木勇だぜ?」

 

 超然とそう言う勇の気力は、もはや人間のものではなかった。

 

「もうじき俺の隣が空く。その時は頼むよ」

「……分かった」

 

 蟻塚を背にして、悠然とした佇まいで目前の男を睨め付ける。

  

 

「No2ヒーロー、エンデヴァー」

 

 

 今するべき事は明白だ。

 勇は自らに強く命じた。

 

 

「少し、お前と話したい」

 

 

 ――とにかく時間を稼げ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「あれは……エンデヴァー!?」

 

 上空の報道ヘリから現場を俯瞰していた男性リポーターは、他の報道陣より比較的早期に乱入者の正体に気が付いた。

 

「炎が光源となってあの一帯だけ照らされて……その中で、エンデヴァーと朝木が睨み合っている……? これはいい絵になるぞ……!」

 

 ビルの下敷きになった人間も多くいるというのに、男は関心の的になりそうな光景に執心していた。

 例えヒーローの救助活動を阻害する結果になったとしても、より視聴率の取れる映像を入手しなければ。彼を支配するのは醜い願望だけである。

 

「下の連中、何か話し始めたみたいだ! 音声拾えるか!?」

「無理ですよ! ここからじゃ遠すぎます!!」

「なら必要な高度まで降下させろ!! 何が何でも音を拾うんだ! カメラも死ぬ気で回し続けろよ!? いいな!!」

「は、はい!」

 

 そして、これから起こる朝木勇の弁論は全国へと発信され、一部の層へは煽動的な効果を及ぼすようになる。

 それが後に、『地獄の明朝』を越える悲劇を巻き起こす結果となるのだが、この時点では誰も知る由のない事だった。

 

 

 666

 

 

「この期に及んで、まだ自分のペースで語らう猶予があると勘違いしているとはな……。頭の中身は随分おめでたいと見える」

 

 エンデヴァーの反応は辛辣だった。

 それもその筈、彼は勇に深い怨恨があるのだから。

 

「俺の息子を負傷させた――その懺悔なら耳を貸さないこともないが」

「お前の返答に興味はない。俺が勝手に話し、お前が勝手に聞くだけだ。時間が経つほど有利になるのはそっちの方だろう? とにかく黙って聞いてろ」

 

 勇の主張は間違っていない。エンデヴァーにとって現時点で相手を鎮圧することは難しくないと思えるが、ヒーローの増員を待つのも一つの得策だ。

 ビルの倒壊に巻き込まれた被害者を効率的に救助する為にも、ここで戦闘するのは早計かもしれない。誤って戦闘に巻き込み、死者を出さないとも限らない。

 

 一先ず増援が到着するまでの数分、エンデヴァーは沈黙することにした。

 

 

「――昔から、俺はこの世界に懐疑的だった」

 

 エンデヴァーの閉口を見計らって、勇は雄弁に語り始める。

 

「憧れを胸に、直向きにヒーローを目指し、距離を縮める毎に疑問の影は大きくなる。輪郭も見えない漠然とした疑問だ。その答えに気付いたのはつい最近のこと」

 

 大胆な身振り手振りを交えつつ、肝要な箇所で強く抑揚をつける。

 まるで大衆に演説しているかのような口調である。

 いや、実際に大衆に向けて語りかけていたと言っても過言ではない。彼は自分の発言の重みを熟知した上で、エンデヴァーの斜め後方の報道ヘリに気が付いていた。

 

「――フロイト曰く、花を見て癒やされるのは、花に感情も葛藤もないからだそうだ。人は完璧なものに癒やされる。確かに、俺が見ていた花はいつも笑顔を絶やさなかった。完璧に見えた。苦悩なんて無かったんだろう。

 だがどうだ。無個性の落伍者に葛藤するなという方が酷ってもんだ。悟ったよ、俺は花にはなれないのだと。結局、生まれながらに結末の決まった出来レースなんだと。

 だが、それに気付いても尚、人を癒やすことも何処かで諦めきれなかった。だからこそ見えてきたものがある。

 そうだな――今度はカフカの言葉を借りよう。悪は善のことを知っているが、善は悪のことを知らない。確固たる意志でここに立てるのは、きっと俺が悪に成り下がったからだ。自覚しよう、花になれなかった無様な俺は、ついぞ“悪”に堕ちたらしい」

 

 そこで区切りを付けると、今度はエンデヴァーに底意地の悪い眼差しを向ける。

 

「――うん。こうして話していると、殊の外本音が出るもんだな」

「……本音だと? 美談めいた言葉で着飾って誤魔化しているつもりだろうが、失敗者の負け惜しみにしか聞こえんな」

「言うね。じゃあ本音ついでに、お前たちヒーローにも疑問を呈すとしようか」

 

 もはや負傷者であることを匂わせない程に、勇の語り口調は滔々としていた。

 

「理想と実利は共生しないのが世の常だ。勧善懲悪の物語なんて、所詮は願望と現実の折り合い。その矛盾を解決するような、もっとこう……概念的な言葉、それをヒーローと言うんじゃないか。何十年も前までは、極度の理想主義者は盲人と呼ばれ、そんな奴らの逃げ口が『ヒーロー』って言葉だった。

 つまりさ、ヒーローを職業に落とし込んじまった時点で、俺とお前たちの夢は破綻していたんだ。元来ヒーローに込められていた意味を、今の世の中は忘れてる! スーパーマンなんて望まれちゃいない! スーパーヒーローは何処にいるんだよ!? 誰も実現できない、誰もが幸せな結末を知ってるような、この俺すら救ってみせるような、偉大なヒーローは何処だ!?」

 

 発言を重ねる度に、語勢は強まっていく。

 

「お前たちは知らないだろう! 俺はオールマイトの竹馬の友を、奴の目の前で殺してやった! その途端奴はどうしたと思う!? 鬼のような形相で襲ってきやがった! 同じ悪人だから分かったよ。あの一瞬、あの場所で、奴は俺を殺そうとしていたんだと! 裏では何人殺しているか知れたもんじゃない!! No1がこの始末なら、残りも大差ないだろうぜ!!」

 

 ヒーローとて場合によっては殺人を犯す。エンデヴァー自身がそうなのだから、他にも同類がいた所で違和感はない。

 だがオールマイトだけは、誰も殺さないと無意識に確信してしまっていた。

 “ヒーロー”を身体で示す聖人であると信じ切っていた。

 

「つまらん嘘をペラペラと……!」

「嘘だと? オールマイトが人殺しをするわけがないと、そう感じたのか? 違うだろう! それより先行した感情があっただろう!?

 ――『お前なんて殺されて当然だ』と思っただろうが!! 現代のお前たち“超人アイドル”なんて結局はそんなもんさ!」

 

 ……認識の埒外にある他人の本音を、朝木勇はいとも容易く暴けるらしい。

 彼は、エンデヴァーが無自覚だった感想を即座に引き出した。

 言われてみれば、そうだ。

 

 勇から告げられた事実を拒絶するより先に、彼の死を望む感覚があった。間違いなく一瞬だけ、エンデヴァーは朝木勇の死を連想し、歓迎した。

 

「いい加減に教えてくれよ。ヒーローは何処だ? この俺がその疑問の形になってやる。俺を終わらせられるのは真のヒーローだけだ! 悪鬼が壇上に上がり、無辜の民を殺したぞ! さぁ、それを解決するのは誰だ!? エンデヴァー、お前だと言うなら示してみろ!!」

「――もういい、黙れ。それ以上何か減らず口を叩くなら……」

 

 炎を荒々しくまき散らし、威嚇する。

 暗に警告したつもりだったが、勇は辟易するどころか、挑発的に表情を歪める始末だった。

 

「俺を殺したければそうするといい。俺は永遠となり、この社会のイデアになるだろう。正義の為の踏み台として確立され、未来永劫、誰も俺を無視できなくなる。そしてまた、新たな問いが俺以外の誰かによって繰り返される。それもまた、一つの素敵な未来だ」

 

 エンデヴァーは面貌に怒りを滲ませた。本気で殺すつもりはなかったが、静かに、だが確かに、殺意が沸き立ち始めていた。

 当初から場合によっては殺すのも視野に入れる構えだった。今ではそれがより確実な形と成ってきている。

 

「お前が紡ぐ全ての言葉が憎らしい。耳を傾けた俺が愚かだった。焼き焦がしてでも、貴様をここで捕らえよう。第二、第三の貴様が現れる事態になろうとも、その悉くを俺が燃やし尽くしてやる! このエンデヴァーに、恐れるものなど有りはしない!」

「そうかい。……話に付き合ってくれてありがとう。感謝するよ」

 

 この謝辞は心から述べられたものだった。エンデヴァーが慎重になることは、勇にとって非常に都合が良かったのだ。

 そして同時に、勇に好都合な状況というのは、この場における不吉な未来を示唆していた。

 

「ところでさ、ついさっきまでお前は増援を期待して俺との話に興じてくれてたんだろうけど、いくら待ってもお前の味方は来ないからね」

「ほう、来ない……とは、どういう意味だ?」

「それよりもっと厄介な奴が先に来るって意味さ。というか――」

 

 ――――もう来てるみたい。

 

 

「お疲れ、No2」

 

 

 風の揺らぎすら伴わず、初めからそこにいたかのように、彼はエンデヴァーの背後を陣取っていた。

 純黒の装束を身につけ闇に溶け込み、虚空から染みだしたかのように蒼白の肌が蠢いている。真っ赤な髪はその染みを更に血染めして、骸を彷彿とさせる姿形を演出していた。

 

「貴様は――」

「お や す み」

 

 闖入者は指を鳴らした。

 すると、エンデヴァーは男の瞳に吸われる様に意識を手放し、無気力に落下してくる。

 彼が倒れると、不気味な静寂が辺りを襲った。

 

「……さて、舞台作りはこんな所か」

 

 寂然と来襲した傑物は、朝木勇を見据える。 

 

「やぁ草壁、私が君を殺しに来たぞ」

 

 そして、凱善踏破は旧知の友であるかのように柔和な声で語りかけるのだ。

 

「諦めたまえ。詰みだよ」

「馬鹿言え。まだ王手だ」

 

 探り合いのようなやり取り。

 因縁の宿敵と相対した勇は、かつてない程の憤りを腹の中で煮やす。それを見透かしたように、凱善踏破は薄ら笑いを浮かべた。

 そんな中で、

 

「……コイツ誰?」

 

 蟻塚だけが、まだ状況を掴めていなかった。

 

 

 




主人公の演説報道を見た一般市民の反応
 
ステイン「コイツ見所ある」
荼毘「俺の求めていた思想だ」
スピナー「神……!」
トガヒミコ「好きです。勇様、死んでください」
蟻塚「あぁ!?」
 
がっつり三章のネタバレです。

とりあえず次回は朝木勇&蟻塚VS凱善踏破になります。
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