ハクビシン対策に必要な物をあちこちから取り寄せている中で久々に山城さん案件が舞い込んで来ました。また何かにやられたようです。
戦艦寮
「おはようございます」
「おはようございます。またお世話になります」
「モウオワリダワ」
お姉さんの隣で暗黒物質に包まれた山城さん。これ採取してNASAかJAXA辺りに送ったら何か驚くような発見があったり……しないか。
「ヤマシロ。いつまでもそんな調子じゃ今度こそ全滅よ」
「また手伝うからさ」
「今度はスケジュールが合えば私も混ざろう」
更にその隣はリシュリューさん。何だかんだ世話焼きらしい。またその隣に伊勢&日向。
「裏の方へどうぞ」
「失礼します」
今日は現状の確認とスケジュール調整がメインだ。まず裏に出て花壇を見る。
「……正に虫食いだらけ」
葉っぱに幾つもの虫食い穴。かなりの数。しかし犯人の姿は無い。
「因みに今回は捕まえられたり」
「コレヨ」
また薬を入れるような透明のパッケージを差し出されたので受け取る。中には芋虫が2匹。どっちも色が違う。
「違う種類?」
「カタチハトウイツセイガアルヨウニカンジルワネ」
「ヤマシロ、しっかり喋って。いつまでも沈んでないの」
実はこっちが本当のお姉さんだったりして……
「……その2匹を捕まえたのは偶然よ」
「他に居ましたか?」
「居たかも知れないけど……ちょっと余裕がなかったわ」
さてと、申し訳ないがこの方面は詳しくないので前にアドバイスを貰った園芸店に連絡する。
「ヨトウムシ?」
「大昔に夜盗ってのがあったろ。あれでヨトウって読むんだ。幼虫の内はヨトウムシ、成虫はヨトウガって呼び分ける。下手すると年に2回ぐらい発生してイネ科以外は何でも食うし、放っておけば壊滅的な被害も起きる。新芽まで食っちまうからタチの悪いやつらだ」
またイネ科絡みか。あのカバキコマチグモはイネ科に棲息するそうだけど今度はイネ科以外を食うのと来たもんだ。
「因みにですが見に来て貰えたり」
「残念だけどこの時期は忙しくてね、取りあえず資料送るよ。パソコンのアドレスでいいかな」
「大丈夫です。また連絡すると思いますがその時はその時で」
「俺は居ないかもしれないからカミさんに話しとくわ。よろしく」
通話終了。鞄からノートPCを取り出して立ち上げ、メールが届くのを待った。
「……お、来た来た」
添付されたPDFを開く。かなり詰め込まれた内容だけどまず目の前の幼虫が本当にヨトウガなのかを確認。これだけで10分ぐらい掛かってしまう。
「お待たせしました、ヨトウガと言われる蛾の幼虫みたいです。園芸店の人から資料を貰えたんですが実物と資料の特徴が一致しました」
場所をアリの時に使った小会議室へ移す。扶桑さんのお茶がとても香り高くて美味しい。
「最も人出が用意出来るのはいつでしょうか」
「明々後日なら数が揃っています。全員ではありませんけど……」
「ローマたちが戻って来る翌日だな。いい経験になるだろう」
「あ、そっか。ようやく帰って来るんだった」
「……何年も居なかった気がするわ」
聞いた事のない名前が出た。まだ知らない戦艦が居るのか……
「ではそこで作業といきましょう。特別に必要な物があれば至急ご連絡します」
今日はこれで失礼。園芸店に出向いて何が必要かを聞き出し鎮守府に連絡しなければ。
商店街 園芸店
「必要なモンは大体こんな感じだろ。前にコナカイガラ出たんなら土いじりする服はあるんだろうし」
案外少なかった。取り急ぎ纏めてしまおう。
「ありがとうございます」
「鎮守府ってあれだっけ、美人ばっかりなんだっけ」
「忙しいんですよね?」
「その気になりゃスケジュールぐらい」
「広樹ちゃーん、太ももの裏とか蹴っ飛ばしてやんな」
「では遠慮なく」
「ウソウソ!」
奥さんから許可が出たのでローキックでもしてやろうかと思ったが不発に終わった。当日必要な物をもう1度確認して鎮守府にメールを出す。明々後日に備えてこっちも準備だ。
その日の夜、了解の返信と人数について連絡が来た。参加するのは扶桑型、伊勢型、ヴィットリオ・ヴェネト級で各2人ずつ。あとリシュリューさん。他の所にも声を掛けたのか草刈りの時に会った神威さんにちょっと久しぶりの瑞穂さん。そして鹿島さんの名前まであった。
しかし気になるのはこの発音し辛そうなカタカナの羅列よ……
「……ヴィ、ヴィットリオ……ベ、ヴェ…ネト」
うーん、何かしら呼び方を提案して貰える事を期待しましょう。今日はもう寝ます。
当日・戦艦寮
表にハイエースを停めると伊勢型の2人が待っていた。土いじりに最適な格好もしている。持って来た道具類を一緒に裏手へ運ぶと、ほぼ全員集まっているのが見えた。
「おはようございます」
「Bonjou」
何かよく分からないけど後ろに見える花たちと相まって野良仕事姿のリシュリューさんが美しい。まるで絵画のようでございます。
「本日はよろしくお願い致します」
扶桑さんも中々どうして。
「イタリア、ローマ、この人よ」
微妙に表情の消えそうな山城さんが隣に居る見た事のない2人へ目配せした。
「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦、イタリアと申します。長くここを空けてましたがようやく戻って来れました」
「戦艦ローマよ。私たちが居ない間に色々とお世話になったそうね。感謝するわ」
あ、これは嬉しい。ネームシップの方ではなかったみたいだ。
「後藤田です。害虫害獣の駆除、捕獲、撃退をしている者です」
「マエストラーレたちにはもう会われましたか?」
「ちょっと前に挨拶させて頂きましたね」
「ポーラが何か迷惑掛けてないかしら」
「……これと言って」
「ならいいわ」
眼鏡のせいかとても生真面目に見えるがそうなんだろうか。ポーラさんは向こうに居た頃から酒が好きらしいです。
「本国で装備の調整が随分長引いていたが先日戻って来た所だ」
「実はけっこう前から居たんだけどね」
伊勢型の2人が補足を挟んだ。本当に俺が出入りする前から居た模様。
「お疲れ様です」
あ、この声は香取さん……
「どうもおはようございます」
振り返った先には何でか眼鏡が光ったままでどうにも表情の窺えない香取さんに作業服姿の鹿島さん。恐らく1度は経験したいと思った鹿島さんの話しを聞いて付いて来たと予想。
「今日はお手伝いさせて頂きます」
「よろしくお願いします。説明の方は改めて行いますので」
あまり過度に接するとあらぬ疑いをされそうなので控える。そこへやって来た残り2名。
「えっと、遅れてしまいましたか?」
「大丈夫大丈夫、まだ始まってないよー」
「ご無沙汰しております」
神威さんに瑞穂さんも合流。当然だがしっかり着替えている。神威さんの両サイドも当然隠れている。
「ではそろそろ」
「最初の説明はやるわ。これぐらいはさせて。資料も読んで来てから」
と仰るのでお任せした。もう準備は全員OKだ。
「葉っぱの表か裏に緑色か茶色っぽい色の芋虫が居る筈だわ。ヨトウガって名前の幼虫よ。全部捕まえて。入れ物はそこにある備品と持って来て貰ったバケツ。後で殺虫剤掛けるわ。もし見当たらない時は根元やその周辺の土を少し掘り返すと見つけられる事もあるから、そのつもりでお願い」
「付け加えさせて頂きますと名前が現す通り夜行性になります。日中で見つけにくい場合は恐縮ですが日没後、1~2時間程度お付き合い頂きますのでよろしくお願いします」
因みにその場合は一旦解散とする。最集合も夕方の予定。
「じゃあ……そろそろいいかしら」
「そうね、始めましょう」
「怪我のないようにね」
1番上が扶桑さんで真ん中にリシュリューさん、末妹の山城さん。と言う可能性は……
「参ろうか」
「鹿島ー、こっちおいで。教えるから」
「はい」
ちょいと悩みの種だった鹿島さんは伊勢さんの下へ。それでも視線は感じるが取りあえず4人を受け持つ。
「一先ずこちらの資料も見ながら探しましょう。バケツまで距離がある場合も考えられますので捕まえたのはこのボックスに入れてある程度溜まったら、と言う感じで」
クリアファイルに挟んだ資料は色違いの幼虫数種類の画像を張り付けたもの。そしてホームセンターで売ってるプラスチックボックス。蓋付きの不透明なやつ。一応人数分ある。捕まえる時は割り箸か小さいトングだ。
「うっかり潰してしまいそうですね」
「その時はまぁ、しょうがないですかね」
「両方試してみます」
瑞穂さんはどっちを使うか迷っている。神威さんはどっちも使って見るそうだ。
「ローマ、どうしようかしら」
「自分に合ってる方がいいわよね。私も取りあえず両方使うわ」
俺が出入りするようになる前からここに居たなら割り箸も別に難しい事はないだろう。自分がやり易い方でやってくれればそれでいい。
そんな訳で総勢11名で花壇を取り囲み作業開始。だが名前の通り夜行性なのが災いして今は大した数を見つけられなかった。土を少しだけ掘り返すと確かに埋まっているのは居たがそれでも現状の被害を考えれば少ない。
「やっぱ夜の方が出て来るみたいですね」
「……始めたばかりだし、まだ解散にはしたくないわ」
「ヤマシロ、特に被害の多い所は分かってて?」
「…………中央がよく食われてる感じ」
「なら外側を今の内に出来るだけ探るわよ。陽が落ちたら中央にも手を付けましょう」
「……そうね」
「山城、ムキにならないでね」
「大丈夫」
やっぱり実は3姉妹……じゃないか
「よいしょ、あ!」
「っと!」
急に立ち上がった鹿島さんにぶつかってしまった。やばい。
「すいません!」
「いえいえ、私も周りを見てなかったので」
「大丈夫か」
「気を付けなー」
伊勢型の2人を盾にイタリア組と補助艦艇組の方へ行く。こちらはどうですかね。
「問題ありませんか」
「この辺、結構居るわ」
「バケツがいっぱいになりました」
「何かで蓋をしないと逃げ出してしまいそうです」
「また捕まえました!」
無邪気な神威さんをよそに他の3人はもう疲労が顔に出ていた。瑞穂さんがバケツの傍でしゃがみ上へ登ろうとする幼虫を割り箸で弾き落としている。このバケツは底がちょっと浅めだったのでもういっぱいになったらしい。
「すげぇ。こいつは貰います。新しいのを用意しますので」
蓋、蓋に出来そうな物。何かないか……
「もし良ければですがこういう物が」
香取さんの声。主人公は逃げ出した。しかし回り込まれてしまった。そんな感じのナレーションが脳内で再生される。
「……えーと」
「もし溢れそうになったら蓋などに、と考えて事前に用意しておきました」
そこにあるのはタライだ。バケツより一回り大きいぐらいのサイズ。十分に蓋として使える。
「…………お借りして宜しいのでしょうか」
「遠慮なくどうぞ」
「では使わせて頂きます」
タライを抱えて相変わらずバケツの横でしゃがんでいる瑞穂さんの所へ。
「瑞穂さーん、蓋しますんで大丈夫ですよ」
「それ、さっきまで壁の所に立てかけてあったヤツですよね」
「え、そうなんですか」
「戦艦寮の備品だと思ってたんですけど」
もしかして昨日の内に置いといた? 仕込まれていたとでも言うのか?
「何か……香取さんが用意した物だそうで」
「でしたら大丈夫ですね」
「あの、箱がもういっぱいに……」
困り顔の神威さん。仕切り石の上に置かれたプラスチックボックスの蓋が浮いていた。かなり捕まえたらしい。
「新しいバケツは何所でしょうか」
「これにどうぞ」
またもや香取様がご登場。新しいバケツを置いて下さりました。
「すいませんどうも。そのボックスは貰いますから新しいやつでお願いします」
「ローマ、この分お願い出来る?」
「姉さんちょっと待って。あっ」
ヨトウガの詰まったボックスを落としてしまった。土の上でウゾウゾした光景が広がる。
「これは受け持ちますんで引き続き作業の方を」
「イタリアさん、新しいのを使って下さい」
「ありがとうございます」
何か変だ。サポートが手厚い。
(……もしかして後でお小言でも頂戴されてしまうのか否か)
やっぱ香取さんには全てを見透かされているのだろうか。いや、俺の詰めが甘いのを分かってる可能性も高い。取りあえず作業を継続しましょう。