おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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技に関して過去作のみでしか覚えられない技・教え技でしたっけ? それも普通に使いますのでそこのところをご理解お願いします。




俺か? 俺は……マサラタウンのレッドだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セキエイ高原ポケモンリーグ会場。そこは、ポケモントレーナーの誰しもが目指し、憧れる場所であり、頂点を決める祭典。

 地方にある各都市のジムバッジを手に入れ、チャンピオンロードを無事突破したものだけが四天王への挑戦権を得ることができる。そして四天王を倒しチャンピオンを倒した者こそが新たなるチャンピオンだ

 と、言うのがゲームでの流れであったが、どうやらここでは普通に誰でも参加できるものらしい。

 多くの人達がその目で見たいと、リーグ会場に続々と集まってきている。

 トーナメントはAブロックとBブロックの二つに分かれて行われる。二つのブロックであるが、予選はかなり多く一日では消化しきれない量になっている。

 ジムバッジが不要で参加できる大会で当然だともいえた。

 モニターに表示されたそれぞれのブロックには彼らの名前がもちろんあった。Aブロックにレッド、ブルー。Bブロックにグリーンとリーフがそれぞれ。

 順調にいけば途中で当たり、互いの準決勝の勝者が決勝の舞台で相見えることになる。

 男同士ということもあって、レッドとグリーンは予選が始まる前に互いに激励を送っていた。

 

 

「俺はAブロックでグリーンはBブロックか」

「つまり、決勝で当たるということだな」

「おいおい。妹のリーフは眼中にないってか?」

「そんな訳あるか。妹だろうとライバル、手加減は一切しない。お前だってあの女がいるだろう。それに、ドクター・Oなんてよく分からないのもいるしな」

「ドクター・O。いったいどこのユキナリなんだ……」

「とにかく決勝で会おう、レッド」

「おう!」

 

 

 互いに決勝で会うことを約束し、本当にマンガみたいな展開だと思ったレッド。しかし、彼もこの日をとても待ち望んでいたし、とてもわくわくしている自分も確かにいた。

 そしてなによりも、レッドには野望があった。

 

 

「フッフッフ。見てろよ、グリーン。最初にヒトカゲを捕られた恨み、ここで返してやるぜぇ……」

 

 

 自分の色違いのリザードンを見ながら囁くレッドに、リザードンはボールの中でやる気をメラメラと出している一方、ピカチュウがしょうもないと言ったような顔をしていた。

 予選が始まり何時間にも及ぶバトルが繰り広げられた。

 レッドはスピアー、ピカチュウ、カビゴンを一試合ずつどれか一匹を選んで対戦者を葬っていた。多くの強者との戦いをしてきたレッド。そんな彼とまともに戦えるトレーナーはいなかった。

 

 

 そしてポケモンリーグ二日目。

 Aブロックの準々決勝まで勝ち進み、レッドの相手は名も知らぬトレーナー。もう片方はブルーとドクター・O。

 Bブロックはすでに準決勝で、グリーンとリーフの兄妹対決になったのだが……。

 

 

『勝者! マサラタウンのリーフ!』

 

 

 勝ったのはリーフであった。

 本選まであがると個室の控室が割り振られ、レッドはすぐにグリーンの下へ駆けつけ、彼の胸倉をつかんで激しく揺らしながら怒鳴った。

 

 

「あんなにカッコつけて負けてんなよぉ⁉」

「ふっ。リーフもしばらく見ない間に強くなった」

「妹の成長を喜ぶな! いや、喜んでいいが!」

「しかしな、レッド。俺だって全力を出した。それは見ていたはずだ」

「それは……わかってるけどよぉ」

 

 

 手持ちの情報を隠しているレッドと違い、二人のポケモンはすべて予選の間に公開されている。

 グリーンにはリザードン、ストライク、カイリキー、ピジョット、ポリゴン、ゴルダック。対してリーフはフシギバナ、キュウコン、ギャラドス、プテラ、ラッキーそしてカイリューだった。聞いた話では、ゲームセンターの景品で交換してからコツコツと隠れて育てていたらしい。

 

 

「カイリューには驚いたが、そこはまあゴルダックで対処できた。問題が……プテラとラッキーだった」

「……あれは、うん」

「ラッキーのかたくなる連打とちいさくなる、たまごうみのコンボで苦戦を強いられ、最後にはプテラに粘られてしまった。無駄に強かったぞ、あのプテラ」

「ごめん。そのプテラ、俺が鍛えてリーフにあげたやつ……」

「……」

 

 

 沈黙。

 一瞬目を見開くとすぐにいつもの鋭い眼光を向けてくるグリーンに、思わず目を反らす。今度はこちらが思いっきり体を揺さぶられた。

 

 

「お前も人の事は言えんではないか! 無駄に妹を強くしやがって!」

「だ、だって、あいつがひこうポケモン持ってないって言うからさぁ」

「お前はそうやって女を甘やかす!」

「しょうがないだろ! リーフにはつい甘くなっちまうんだよ!」

『只今より、Aブロック準々決勝第二試合を開始いたします。出場者はステージまで上がりください』

 

 

 二人であーだこーだと喧嘩しているとアナウンスが流れたことで、いったん冷静さを取り戻す二人。レッドは扉のドアノブに手をかけながらグリーンに言った。

 

 

「じゃあ、戻るわ」

「ああ」

「そこは勝てよって言わないのか?」

「ふっ。ライバルより妹の方を応援するに決まっているだろう」

「シスコンめ」

 

 

 誉め言葉を送りレッドは自分の控室に戻り、中継されている映像を見た。

 すでにバトルは始まっており、ブルーはプリンを、ドクター・Oはオニスズメを出していた。

 

 

「あれ。たしかブルーのやつ、鳥は苦手だって……」

 

 

 シルフカンパニーでサ・ファイ・ザーと対峙した時の怯えようを思い出す。案の定、ブルーは怯えつつも応戦する。

 しかしドクター・Oはオニドリル、ドードリオといった鳥ポケモンを次々と繰り出し、ブルーを精神的に追い詰めた。

 そして、戦いの中ドクター・Oの仮面が剥がれ……オーキドが真実を打ち明けた。

 6年前マサラから一人の少女が大きな鳥に連れ去られ行方不明になったこと。そしてその子が、あの旅立ちの日にゼニガメを盗んだこと。

 ブルーは語った。知らない土地に連れてかれ、覚えているのは自分の名前とマサラタウンという地名だけ。偶然知ったマサラタウンから自分と同い年の子供が旅立ったこと。本当は自分も同じようにポケモンと図鑑を貰って旅に出たかったことを。

 結果、準々決勝第二試合の勝者はドクター・Oことオーキドになった。

 その後、ブルーの控室にレッドは足を運んだ。彼女の事情を知ったと言うのもあるが、個人的に聞きたいことがあったからだ。

 

 

「……あら、レッドじゃない。残念だけど、準決勝はあたしとじゃなかったわね」

「別に涙をふかなくたっていいんだぞ。泣きたいときに泣けよ」

「うるさいわいね! 乙女の涙を簡単に見せるわけないじゃない!」

「そんなもんか」

「ほんと、デリカシーがないんだから……。でも、ありがと」

「別に。ただ、俺も結構驚いたっていうか、やっぱりというか」

 

 

 同じゲームの主人公の名を持つ存在。それがマサラタウン以外の生まれだとはにわかに信じられないでいた。それがブルーとの出会いや行動からそういう事もあるのかと、勝手に納得してすっかり忘れていたのだ。

 

 

「ところでブルー。一つ訊きたいことがあるんだが……」

「いつもならお金をもらうけど、今日は特別よ。何が聞きたいの?」

「お前が連れてかれたのって……ジョウト地方か?」

「え、ええ。よくわかったわね」

 

 

 やはりか。どうやら妄想の類だった予想が現実味を帯びてきた。ブルーが連れ去られ、このカントーに戻ってくるとなると、その地方は限られてくる。特にジョウトはカントーの隣だ。距離的にも近い。

 では、どんな鳥ポケモンが彼女を攫ったか。人を攫えてかつ大型なポケモンとなると、一匹しか思いつかない。

 にじいろポケモン・ホウオウ。

 ただ不自然な点がある。ホウオウに出会うためににじいろのはねが必要だ。だが、その入手法はこちらの世界のことを考えると少し不自然だろう。ゲームではとある人物から貰うのだが、こちらの場合となると、すでにホウオウが動いている時点でフラグが消失しているということになる。

 考えられるのは偶然落ちているのを入手したか、出くわしたホウオウから直接入手、あるいはゲットされたかになる。

 仮に、そう仮ににじいろのはね自身にジムバッジと同じようなゲームとは違う力があるとすれば……。

 

 

(ていうか、伝説のポケモンがほいほい捕まってんなよぉ……)

 

 

 思わず愚痴らずにはいられない。だが、それだけ人間の業が深いと言うこと。フリーザーとファイヤーが言ったように彼らの力はあまりにも強大。

 どうやら、ロケット団の残党だけではなさそうだぞ。

 

 

「なら、俺もジョウトへ行くか」

「なによ、急に」

「少し気になることができた」

「もしかして、あたしのため?」

「まあ、それもあるな。ちょっぴり」

「素直じゃないんだから」

「だって、お前のためって言って誤解されたくないし」

「……一応聞くわ。なんで?」

 

 

 何故か一瞬にして声にドスを利かせながら尋ねてきた。

 

 

「だって、ナツメと付き合ってるし」

「……ワンモア」

「ナツメと付き合ってる」

 

 

 直後に沈黙が訪れた。ブルーは下を向いたままレッドに近づくと、両手で彼の頬を引っ張った。

 

 

「あんた、洗脳されてるんじゃないの?」

「ほまえ、ひでぇほというな」

「乙女の唇を奪っておいてよく言うわよ、まったく」

「いってぇー。お前、ナツメと何かあんの?」

「別に。ただ相性が悪いだけでしょ」

「よーわからん」

 

 

 頬を撫でながら言うと、アナウンスが流れる。

 

 

『えー、次のAブロック準決勝レッド選手対ドクター・O選手ですが、ドクター・Oが棄権をしましたことにより、先程Bブロックを制したリーフ選手とレッド選手の決勝戦に変更されました。また、ブルー選手は敗北しておりますので、3位はグリーン選手となります。よって決勝戦はただいまから30分後に開始されます』

 

 

 アナウンスを最後まで聞いていると、ブルーの体がプルプルと増えだして突然叫びだした。

 

 

「あーー!! あたしの賞金がーー!?」

「お前、賞金目当てかよぉ……」

「あっったり前じゃない! 3位だって相当の額なのよ⁉」

「その年で金金言うんじゃねぇよガキのくせにオォン!? ……ほれ、金が欲しいならやるよ」

 

 

 ブルーの手を取って、その上に財布を渡す。中身はざっと上限の半分より上ぐらいだろうか。

 

 

「ちょ、ちょっと何のつもりよ。ま、まさか、愛人契約ってこと⁉」

「このおませさんめ。ちげぇよ、それでもう悪い事するなって言ってんの」

「ど、どうしてそこまでしてくれるのよ……」

「例え離れ離れだったとしても、俺達は幼馴染ってことだろ? だったら、助けてやるのが当たり前でしょうが。たくさん悪い事をしてきたのは知ってる。それが生きていくために必要なことだったのも理解できる。なら、もうするな。これからは、盗む必要はないんだ。だから、堂々と日の当たるところを歩けよ」

「……」

 

 

 そう言うとブルーは無言で抱き着いてきた。下を向けば、頬に涙が流れるのが見えた。

 

 

「ほんと、あんたはあたしより質の悪い男なんだから」

「そう、らしいな」

 

 

 ぽんぽんと優しく彼女の頭を撫でる。涙を拭いて、こちらを見上げてブルーはいつものように言った。

 

 

「けど、本当は愛人契約したいんでしょ?」

「雰囲気ぶち壊しかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 リーフは控室で決勝に向けて最後の準備を終えていた。出場させるポケモンはグリーンの時と変わらない。フシギバナ、キュウコン、ギャラドス、プテラ、ラッキー、カイリュウ。本当は控えのイーブイも出してあげたい。けどちょっと力不足で出せないのと、以前レッドからのアドバイスが気になって未だに進化できないでいた。

 結局今日までレッドの手持ちは全部分からなかった。以前に聞いたスピアー、ピカチュウ、カビゴン。残り三匹は登録はされているので、間違いなくいるのは確かだ。

 準備が整い会場へ向かおうとすると、一緒にいたナナミが複雑そうに言った。

 

 

「お姉ちゃん、リーフがグリーンに勝つなんて驚いちゃった。どっちも応援してたから複雑」

「結構ギリギリだったよ。やっぱりグリーンは強いもの。けど、レッドはもっと強い」

「勝つ気でいるんだ」

「当たり前でしょ」

「ふふふ。そっか、まあ私はどっちが勝ってもいいんだけどね」

「?」

 

 

 その言葉の意図はまったくわからなかった。やけに嬉しそうにしているのはたしかだけど。まあ、お姉ちゃんからしたらレッドも弟みたいなものだし、当然か。

 

 

「じゃあ、行ってくるね」

「ええ。私も応戦してるわ」

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってレッドの控室。

 この部屋に激励をしていたのは、ナツメでもはたまた別の女性でもなかった。なんと、男のマサキである。なんだかんだで色んな所でつるんでいた二人には、奇妙な友情が芽生えていたからだ。

 レッドはただベンチに寝っ転がっているが、マサキは本人の代わりのように興奮して話している。

 

 

「いやぁ、ついにここまで来たなレッド」

「んー」

「なんやなんや。そりゃあグリーンとの決勝じゃなかったかもしれんが、リーフだって相当強いで! まあ、素人目やけど」

「確かにリーフは強くなったぜ。あのグリーンを倒したんだから」

 

 

 それは本当だ。グリーンにはああ言ったが、リーフも相当実力とレベルをあげている。勝敗に関してはポケモンの相性と運がリーフを選んだというのもあるが、まあ運も実力の内か。

 

 

「それとなマサキ。一つ聞きたいんだが」

「なんや、突然」

「決勝、そんなに楽しみか?」

「当たり前やろ⁉ チャンピオンが決まる瞬間をこの目で見られるんやから! 

「そっか」

 

 

 ベンチから起き上がり、テーブルの上に置いておいた6個のボールをベルトにつけながら、レッドは申し訳なさそうに言った。

 

 

「たぶん、あんまりいいものじゃないよ」

「へ?」

 

 

 マサキの肩を叩き、レッドは控室を出て出場出入口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンリーグ決勝戦専用バトルフィールドの中央に一人の男があがった。彼はマイクを持ち、コホンと咳払いしてから言った。

 

 

『これより第9回ポケモンリーグ決勝戦を開始いたします!』

『『『『わああああ!!!』』』』」

 

 歓声。

 ドームの外まで響き渡るほどの大歓声の中、男は続けた。

 

 

『改めまして、私は決勝の審判を務めさせていただくミスターうるちと申します。では、さっそく選手の紹介といきましょう! Aブロックよりマサラタウン出身のレッド選手! Bブロックより同じくマサラタウン出身のリーフ選手です!』

 

 

 二人が両サイドからフィールドへと上がる。リーフは今まで見せたことのない真剣な眼差しでレッドを見つめ、その彼はいつもと変わらない態度。

 そんな二人をフィールドの外、一番バトルが見える位置にグリーンとブルーが戦いの行く末を見守っている。

 

 

『さぁ始まりました! 第9回ポケモンリーグ決勝戦! 司会はボク、通りすがりのバトルお兄さんと解説のオーキド博士でお送りします! 博士、よろしくお願いします』

『こちらこそ、よろしく頼む』

 

 

 また会場の設置された司会解説席からの実況解説。

 そして、この会場のレッド側の席で、彼の彼女でもあるナツメがひっそり見守っていた。本来であればジムリーダー専用の部屋が用意されているのだが、わざわざこの『R‐1』の席を取ったのだ。だがどういう訳か、隣の席が4つ空いているのだ。

 まあ気にせずレッドに視線を向ける。

 思わず念話でも送ろうとかと思ったが、邪魔をしては悪いと思ってやめた。まあ昨夜一緒に過ごして、言いたいことは言ったから問題はないのだが、彼女としてちょっとらしいことをしてみたいと思ったのだ。

 

 

「あの~R‐2って、ここで会ってますか?」

「そうだが」

 

 

 声の方に向くと、そこには長身の黒髪の美女がいた。白いワンピースに白い帽子、そして日傘。どこかのお嬢様だろうか。それよりも、胸がデカい。白とか関係なく、無駄に強調している。

 

 

「では、失礼して」

「……」

「すみません。R‐3ってここで合ってますか?」

 

 

 再びの来客にそうだと答えるナツメであるが、どこかで見たことのある女だ。

 白衣を着ている女……こいつか。レッドの姉を気取っている女は。

 たしか、ナナミと言ったか。

 

 

「それなら私の隣ですから、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 

 まったく、決勝戦がもう始まっているのになんで今更来るんだ。と、胸の中で愚痴るナツメであるが。

 

 

「失礼します。R‐4はここ……あらあら、ナツメさんではありませんか」

「なんだ、エリカか」

「おほほ。奇遇ですわねぇ?」

「ああ。本当に奇遇だなぁ!」

 

 

 二言交わしてエリカも席に着く。

 一体なんだと言うのだ。ナツメは頭がどうにかなりそうだった。

 

 

「あ、あのぉ……」

「ん? どうしたんだ」

「あーるの5ってここですか?」

「あ、ああ。そうだよ」

「えへへ。やっと着いたね、ラッちゃん」

 

 

 コラッタを抱えた少女がそのまま椅子に座る姿は、なぜかほっこりと和んだ。

 するとルール説明を改めて説明し終えた審判が告げた。

 

 

『では、両者合意と見てよろしいですね⁉ それでは、第9回ポケモンリーグ決勝戦! ポケモンバトルぅーースターートぉーー!!』

 

 

 さらに歓声が沸き起こる。

「レッドぉ、がんばってーーー!」と、どんなに言えたらいいかとナツメは照れくさそうに下を向く。私は、あいつの彼女だ。だから、そういう応援をしたって何ら問題はない。問題はないが、すごく恥ずかしい。

 だが、そんな事を平気でやってのける女が、隣にいた。

 

 

「レッドく~ん、お姉さんが見てますよ~。がんばれ~」

「……失礼」

「はい?」

「私のレッドとどういう関係で?」

「はぁ……? ただ私はあの子のお姉さんとして、レッドくんを応戦してあげているだけなのですが……」

「は? レッドくんのお姉さんポジは私! なんですけどぉ! あなた誰ですか!」

「私ですか? 私は通りすがりのハナダのお姉さんです」

「オホホ。隣の方達は煩くて堪りませんわね。レッドー、ファイトですよー」

「お前もだ、エリカ。気安く私のレッドの名前を呼ぶな」

「あらあら~? そうなんですかぁ? でも、私が誰を応援しようと勝手だと思いますわー」

「くっ。こいつ言うに事を欠いて、よくも抜け抜けと」

「あ、お兄さんだぁ! がんばえー!」

『『『!?』』』

「あらー。レッドくんったら、こんな小さい子まで手を出していたなんて。お姉さん、ちょっと悲しい……」

「だから、お姉さんは私だって言ってるじゃないですか⁉」

「それにお嬢様キャラも被っているのですが、どうしてくれるのですか?」

『『『(こ、こいつらうるせぇ……)』』』

 

 

 応援どころではない彼女達の周りの来場客の想いは一つ。

 そして、ちょっかいを出すことすら疲れたナツメは幼児退行していた。

 

 

「れっどぉーがんばえー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 審判の合図で互いに一匹目を繰り出す。

 

 

「コンコン、お願い!」

「……いけ、フシギバナ」

「え⁉」

「なに?」

「うそぉ⁉」

 

 対面するキュウコンとフシギバナ。素人から見ても有利なのはリーフ。しかし、レッドを知る者達はそのフシギバナに驚く。

 

 

『おーっと! 第一戦はキュウコン対フシギバナだ! これはリーフ選手に有利です!』

『……あやつ、いつのまにフシギバナなど持っておったんじゃ?』

 

 

 リーフは顔を横に振って気持ちを切り替える。すぐに指示を出そうとするが。

 

 

「おー怖い怖い。戻れ、フシギバナ」

「ちょっ!」

『レッド選手! すぐにフシギバナを戻しました! やはりほのおタイプのキュウコンはきついのか⁉」

「カメックス」

「ええ⁉ 今度はカメックスなの⁉」

「レッドのやつ……」

 

 

 次に現れたカメックスに驚くブルーと何かに気づくグリーン。リーフは指示を止めるわけにもいかずキュウコンに言った。

 

 

「コンコン、ほのおのうず!」

 

 ──キュウコンのほのおのうず 

 ほのおのうずはダメージを与え続けながら交代できなくする技。こうかはいまひとつでも、その間にこちらが交換してダメージを与えればいい。リーフの指示はうまく次に繋いでいた。

 だが。

 ──しかしうまくきまらない! カメックスはすでにボールに戻っている

 

 

『これはどういうことですか、オーキド博士』

『うむ。ほのおのうずは相手を拘束している間は交代ができないんじゃが、レッドは攻撃が放たれる前にカメックスをボールに戻したようじゃ』

『ですが、先程からレッド選手は交代しかしていませんが』

『一体何を考えておるんじゃ……」

 

 

 レッドがカメックスを戻し、三回目のボールを投げる前にリーフが叫ぶ。どうやらレッドの態度に納得がいかないようだ。それは審判のうるちも同様でレッドに警告を促す。

 

 

「レッド選手! 次も一度も技を出さずポケモン交換をするなら、戦いの意志がないと見なし失格とします!」

「ふざけてるのレッド! わたしが相手だからって!?」

「別にふざけてはいない。ただ、ちょっとした憂さ晴らしだ」

「憂さ晴らしって……」

「安心しろ。交代するのはこれで最後(・・)だ」

「は?」

「蹂躙しろ、リザードン」

「リザァアア!!」

『な、なんだこれは──⁉ 黒い……黒いリザードンです! オーキド博士これは⁉』

『うむ。あれは色違いリザードンじゃ』

『色違いですか?』

『ああ。報告は少ないが最近色違いのポケモンが発見されていると報告を受けておる。しかし、あのリザードンは色違いであると同時に変異個体じゃな。炎の色が赤ではなく蒼じゃ。こりゃあ、珍しい……もしかしてレッドのやつ』

「あいつ、根に持ってやがる」

 

 

 フィールドの外にいるグリーンが言った。それを聞いたブルーが問う。

 

「それってどういうことよ?」

「レッドはな、ポケモンを貰わずに旅に出たんだ」

「……うそでしょ?」

『そうなんですか、博士?』

『う、うむ。ヒトカゲはグリーン、フシギダネはリーフ。そしてゼニガメをと思ったんじゃが……』

「あれ、いつの間にかあたしに矛先が向いてる?」

『いま博士の評価がだだ下がりですね』

『わしは悪くないんじゃよ……。それにレッドならトキワの森ぐらい平気じゃし』

 

 

 外野が勝手に話を進めてる中、レッドはリーフに言った。

 

 

「別にいまだに根に持ってるわけじぇねえから」

「うそつけ!」

「だがな、リーフ。そろそろ切り替えないと……終わっちまうぞ」

「──! コンコンよけ──!?」

 

 

 ──リザードンのきりさく! きゅうしょにあたった! キュウコンは倒れた

 それは一瞬だった。リーフがキュウコンによけろと命じる前に、リザードンは一気に彼我の距離を詰め、キュウコンを切り裂いた。

 

 

「きゅ、キュウコン戦闘不能!」

「い、一撃で……」

「もう一度言うぞリーフ。俺はもう交代はしない。つまり、リザードンだけでお前と戦う。もしお前がリザードンを倒せれば、お前の勝ちだ」

「レッド選手! それは大会のルールに──」

 

 

 うるちがレッドに忠告を促すがそれを手で制した。邪魔をするな、そう言っている。

 

 

「ふざけないでよ! 何様のつもり⁉」

「ふざけていないさ。それにこいつとの約束なんだ」

「約束?」

 

 

 レッドは頷いて言った。

 

 

「こいつは群れから拒絶され、一人ぼっちだった。だから俺は言った。見返してやりたくないか、お前を捨てた仲間や同族を、世界中の奴らをってな。そのためにこの舞台は最適だ。世界が見ている絶好の機会だ」

「……ギャラちゃん!」

「ギャラドス、か。相性ではお前が有利。ああ、そうだ。リーフ、一つ教えておいてやる」

「……なに?」

「このリザードンはな、俺の手持ちで一番強いぞ」

「っ! ギャラちゃん、なみのり!」

「点ではなく面か。悪くない」

『水がないこのフィールドでこれだけのなみのりを⁉』

『うむ、よく育てられとる』

 

 

 フィールドを覆いつくすほどのなみのりがリザードンを襲い掛かる。しかし、リザードンは動かない。首を動かし、主の指示を待っている。それに対してレッドはたった一言だけ伝えた。

 

 

「お前に任せるよ」

「リザァ!」

 

 

 リザードンはなみのりに向かって突貫。誰もが自殺行為だと思ったが、リザードンはなみのりを突き抜けギャラドスの前に姿を現し、彼の主のように雷が宿った拳を奮った。

 ──リザードンのかみなりパンチ! こうかはばつぐんだ! ギャラドスはたおれた。

 

 

「ギャラドス戦闘不能!」

「そんな。避けるでもなく、あのなみのりの中を通ってくるなんて……」

「水は確かに弱点だ。だが、ある程度は克服できる。死ぬ気で鍛えれば」

「お願いカイさん! いわなだれ!」

 

 

 ──カイリューのいわなだれ! こうかはばつぐんだ! リザードンは落ちた岩で身動きが取れない! 

 

 

『ストーンエッジより命中力のあるいわなだれを選んだか。さらにリザードンの足を封じる。うむ、よく考えたのう』

『さすがに4倍ですから、あのリザードンと言えど……』

 

 

 いわなだれによって確かに大ダメージを負ったリザードンであるが、その顔は依然変わらず余裕を見せている。

 レッドはただ技を伝えるわけでもなく、リザードンの名前を呼んだ。それだけでこの二人には通じるのだ。

 ──リザードンのしっぽをふる。 岩は弾き飛ばされた。

 

 

「かみなりパンチ!」

 

 

 今度はカイリューがリザードンに向けてかみなりパンチを繰り出す。リザードンもまた翼を広げ、空に向けて飛んだ。

 ──カイリューのかみなりパンチ! 

 リザードンはそれを紙一重でかわし、カイリューの背後に回り込み体を掴んだ。

 ──リザードンのちきゅうなげ! 

 空中で縦に円を描きながら地上へと叩き落し、さらに急降下。

 

 

「トドメだ。ドラゴンクロー」

 

 

 ──リザードンのドラゴンクロー! こうかはばつぐんだ! 

 

 

「カイリュー戦闘不能!」

「そんな、カイさんでも止まらないの……プテちゃん!」

「久しぶりだな、プテラ」

 

 

 レッドが久しぶりに出会ったプテラに挨拶をすると、プテラもまた大きく声をあげた。リザードンは再び上昇、空中対決となった。

 

 

「プテちゃん、ちょうおんぱ!」

「絡め技で来るか。だが、それも対策している」

 

 

 ──プテラのちょうおんぱ。リザードンはこんらんした! 

 混乱状態というのはとても不思議なところがある。混乱していても、一応トレーナーが何かを言っていることは理解しているのだ。ただそれが分からないため、自分を攻撃する。ならば、前もってその対処法を体に叩きこめばよかった。

 リザードンは頭を抱えつつ地上へ落ちる。そう、自ら飛ぶことを止めて落ちた。そして、そのまま頭をフィールドに叩きつけた。

 ──リザードンのこんらんがとけた! 

 

 

『あれって有りなんですか?』

『あいつ、どんな教育しておるんじゃ……』

「空から引きずり降ろせ」

「リザァ!」

 

 

 再び上昇してリザードンとプテラのかえんほうしゃ対決が繰り広げられる。赤と蒼のかえんほうしゃが飛び交う空の戦場は観客たちを魅了している。しかしリザードンにそんな舞を演じているつもりはない。かえんほうしゃ対決には圧倒的リザードンに分があり、プテラではほのおタイプのリザードンには劣ってしまう。

 炎を吐きながら肉薄するリザードンは途中、プテラのかえんほうしゃを浴びながら強引に距離を詰めた。プテラの尻尾をつかみ、ぐるぐると回しながら地上へ落とすと最大級のかえんほうしゃを食らわせた。

 特大の蒼炎がプテラを包み込み、それはリザードンが攻撃を止めるまで続いた。しかしリザードンが攻撃を止めるということは、プテラを倒したということになる。

 かえんほうしゃがやみ、煙が晴れる。そこには体の一部にやけどを負ったプテラ。

 その状態を見て審判が下す。

 

 

「プテラ戦闘不能!」

「さあ、残りは二匹」

「……まだチャンスはある。お願い、姐さん!」

「ラッキー(かかってこいや、このトカゲ野郎)」

「出たか、ピンクの悪魔」

「わたしの姐さんをそんな風に呼ばないで」

「知らないってのは時として罪だよなぁ」

『ここでリーフ選手ラッキーを投入です! しかし、ラッキーを使うトレーナーは珍しいですね』

『確かにポケモンセンターにいるジョーイさんのパートナーとして有名じゃ。しかしわしも現役時代では使っておったぞ。なにせ、耐久力が高いからのう』

『あ、手持ちに資料によりますと。リーフ選手と戦ったトレーナーの半分はラッキーで止まっているようです』

 

 

 ラッキーは耐久力と特防力の高いポケモンである。しかし同時にその入手手段はサファリゾーンのみで、さらに出現率は低い。それを捕まえたリーフはまさに豪運の持ち主と言える。

 だが、ラッキーの恐ろしさはその進化後と後に手に入るアイテムが素のラッキーを強化した。レッド自身、あの有名な『ハピで止まります』や『桃色(ピンク)の悪魔』と呼ばれていることは知っていた。まあ廃人ではないため、その詳しい経緯は知らないが対処法はいくつか覚えていた。

 そしてリーフがラッキーに指示する技も、およその見当がつく。

 

 

「姐さん、かたくなるからのちいさくなる×たくさん!」

 

 ──ラッキーのかたくなる! ちいさくなる! ぼうぎょりょくとかいひりつが限界まであがった! 

 すでにラッキーの姿はイシツブテよりも小さい小石ほどの大きさになる。その姿をレッドもリザードンも捉えてはいる。が、そこにかたくなるという防御をあげる補助技を使って補うことで、運よく当たっても耐えられる。さらにたまごうみを使えば体力を回復できる。

 リーフはこのまま持久戦に持ち込む考えだ。

 

 

「あれだ。俺もあれにやられた」

「リーフったら、見た目に反してえげつないわねぇ」

「しかもラッキーは水技も覚える。これはわからなくなった」

 

 

 確かに持久戦に持ち込めばリザードンに勝てる。それは間違いないとレッドも同意する。何だかんだで、リザードンの体力は半分くらいは削れているだろう。なみのりにいわなだれ。どれも悪くはなかった。

 

 

「その戦法は見事だよリーフ」

「姐さんはわたしの手持ちで一番の壁役。リザードンは確かに強いけど、このラッキーは簡単には倒れない!」

「そうだな。たしかにそうだ。だけどな、リーフ。俺だって悪魔対策はしていなかったわけじゃないんだ」

「は?」

「俺も育てたよ。ハナダの洞窟にいるラッキーの内一匹を捕まえ、鍛え上げて完成させた……まさに悪魔を」

 

 

 そう。初代においてラッキーはハナダの洞窟でも出現する。レッドのブートキャンプにおいて、一番手こずらされたのがラッキーでもある。そしてレッド自身、特訓用と称してラッキーの群れの内とても根性のある一匹を捕まえて鍛え上げたのだ。

 そのラッキーは今ではハナダの洞窟の番人として存在している。

 

 

「だから対処法も知っている。リザードンじわれだ!」

 

 

 右足を相撲の四股踏みのようにフィールドに叩き付ける。この特別フィールドは簡単には壊れない作りになっている。だがそれでも、フィールドが裂け大きな揺れを起こしている。

 ──リザードンのじわれ! ラッキーは身動きが取りづらくなった。

 その戦法はサカキと同じだった。トレーナーの身動きをとめ、次の一手さえも封じる。それはポケモンにも有効だ。

 

 

「あいつの真似をするのは癪だが、まずは動きを止めた。そしてふみつけだ!」

 

 

 ふみつけ。それは初代から存在した技で、ちいさくなるを使用したポケモンに二倍のダメージを与えることができる。ある時期からちいさくなるを使用したポケモンに対して必中にはなったが、こちらではそんな都合のいいことは滅多にないだろう。

 そのためのじわれである。

 ちいさくなったラッキーはフィールドが崩れたことにより身動きを封じられまともに動くことができなくなってしまった。そして、自身を何かの影が覆ったことに気づいた時には、遅かった。

 ──リザードンのふみつけ! 

 一回だけではない。何度も、何度もふみつけた。それぐらいしなければ、この悪魔は止まることを知らない。

 そしてひんしになったのか、ちいさくなるを解いたラッキーが現れた。

 

 

「ら、ラッキー戦闘不能!」

『ラッキー戦闘不能により、リーフ選手の手持ちは残りは一匹! おそらくフシギバナでしょう!』

『まさか、レッドのやつここまで強くなっておるとは……』

「……お願い、バナちゃん!」

 

 

 リーフは最後のポケモンであるフシギバナを出した。勝敗はすでに明白、観客たちもリザードンとレッドの勝利を確信している。だが、リーフの目は最後まで諦めてはいなかった。

 

 

「これで最後だ。いくぞ、リーフ」

「──バナちゃん! ソーラービーム!」

「リザードン、かえんほうしゃ」

 

 

 ──フシギバナのソーラービーム! 

 ──リザードンのかえんほうしゃ! 

 衝突する二つのエネルギー。フィールドの中央でぶつかり合うエネルギーは、だんだんとリザードンのかえんほうしゃがソーラービームを押していく。

 

 

「頑張ってバナちゃん!!」

「ば、バナァ!!」

 

 

 リーフの想いに答えるべく気合を入れたフシギバナ。しかしその顔に余裕の文字はない。対してリザードンの勢いは止まることを知らない。

 そしてだんだんと蒼炎が緑を燃やし尽くした。

 

 

「バナちゃーーん!!」

 

 

 蒼炎に焼かれたフシギバナの立派な花は焦げた。だがフシギバナは倒れず、意識を失いながらも立ち続けた。

 そして──審判が判決を言い渡した。

 

 

「フシギバナ戦闘不能! よって勝者、マサラタウンのレッド!」

『決まったーーー!!! 第9回ポケモンリーグ決勝戦、優勝は……マサラタウンのレッド選手だーーー!!!』

 

 

 実況の後に続くように巻き起こる歓声。勝利を祝うために風船や花びらが、とにかくこの興奮をぶつけるかのように持っている物を投げまくる。

 レッドはリザードンをボールに戻しリーフの下へ歩いた。彼女もフシギバナを戻して、今にも泣きそうな顔を必死に堪えていた。

 そんな彼女にレッドは現実を突き付ける言い方をした。

 

 

 

「リーフ。これが俺のいる場所だ。これが俺の見ている世界だ……リーフ?」

「う……」

「……う?」

「うわぁーーーん! 負けちゃったよーーー! 勝ってレッドを手に入れるつもりだったのにぃ!」

「──は?」

 

 

 大声で泣き叫ぶながらその場にへたり込むリーフを見下ろす。

 

 

「ぐす、バトルに勝てば合法的にレッドをわたしのものにできる完璧な計画がぁ!」

「人が知らぬところで、お前はなんて恐ろしい計画を立ててんだよ……」

「だって、非合法だと色々面倒じゃない!」

「威張るな! たくよぉ……。おい、グリーン。お前の妹だ、何とかしろ」

「……お、俺に妹なんていない」

「うわぁ……。ブルー、お前も何か言ってやれよ」

「バカねぇリーフは。こういう時は既成事実を作って責任を取らせればいいのよ。あと負けたら自分を差し出すとか、あたしみたいに愛人契約を結ぶとか」

「だからちげぇって言ってんだろぉん⁉」

「最低だなレッド」

「バカレッド最低」

「レッドってば最低」

「お、お前らなぁ……!」

 

 

 今にも怒りで拳を奮いそうになる右手を左手で抑えることに成功するレッドに、スーツを着た一人の男性が声をかけてきた。

 

 

「レッド選手いえ、チャンピオンのレッドさん。まずは優勝おめでとうございます。これからその功績をたたえるために、記録の間へ案内させていただきます。こちらへ」

「あ、ああ。お前ら、後で覚えてろよ」

 

 

 グリーンは鼻で笑い、リーフは下まぶたを引き下げて怒りを露わにし、ブルーに至っては高らかな笑いの声をあげてレッドを見送った。

 決勝会場を出てざっと5分ぐらいだろうか。それほど遠くない場所にその記録の間へと案内された。

 

 

「ここから先は一部の人間のみが立ち入ることを許された場所。チャンピオン、どうかこの部屋の奥で殿堂入りを。それがチャンピオンだけに与えれた権利であり称号でもあります」

 

 

 部屋に入ると後ろでドアを閉める音が聞こえたが振り返ることなく進む。部屋は薄暗いが床にはライトが非常出口を案内するかのように行く先を示していた。

 部屋の奥には一つの端末があった。ボールを収める6個のくぼみ。置く前に辺りを見回せば、歴代のチャンピオンの銅像とそのポケモン達のデータが投影されている。そこには知った人間もいた。

 

 

「……オーキド博士がチャンピオンなんて設定あったか? まあ、どうでもいいか」

 

 

 興味がないのか手持ちの6匹を台に置き、レッドは物足りなそうに呟いた。

 

 

「こんなにも普通のバトルで満足できないなんてなぁ……」

 

 

 あの男に言われた言葉が脳裏に蘇る。弱者との戦い、命を懸けた戦いばかりを繰り返してきた。だからお前は私には勝てないんだと。だからあの日から本来のポケモンバトルに専念した。相手の行動一つ一つを想像し、常に先を読む戦いをしてきた。

 だが、結果はこれだ。

 リーフが弱いんじゃない。バトルがつまらないんじゃない。

 あの感覚、一瞬でも気を許せば命を落とすような緊張感。ミュウツーや多くの野生ポケモン達と拳を交えて感じたポケモンとの対話と自然との一体感。ナツメやサカキのような強者との戦いでぶつかり合って感じる両者の思想、信念、執念。

 そして仲間達と共に戦うことでしか生まれない絆。

 そうだ。俺は、俺自身が、仲間であり家族でもあるポケモン達と一緒に戦えないことが……もどかしい。

 ──ポケモン達の記録が完了しました

 どうやら、終わったようだ。

 あの男との戦いを思い出しながらレッドは天を仰ぎ言った。

 

 

「サカキ、お前ともう一度バトルがしたいよ」

 

 

 ──スピアー  レベル/90

 ──ピカチュウ レベル/88

 ──リザードン レベル/92

 ──フシギバナ レベル/86

 ──カメックス レベル/85

 ──カビゴン  レベル/83

 ──殿堂入りおめでとう! 

 

 

 ──『レッド』 レベル/30

 ──残ったおこづかい 0円

 ──ポケモン図鑑 みつけたかず152 つかまえたかず24

 ──評価 24とかほんま……つっかえ やめたらポケモントレーナー? 

 

 

 

 

 END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンリーグ決勝会場特別来賓室。

 そこは協会が特別な人物を招いた時に使われる部屋。招かれるのは協会本部役員やスポンサーが主になっている。

 そこには4人の男女が決着のついたバトルフィールドの上で言い争っている少年少女達を見下ろしていた。

 4人の内、眼鏡をかけた女がマントを身に着けている男にたずねた

 

 

「で。どうするの彼?」

「今はまだその時ではない。時間はまだある。ゆっくり見極めればいいさ」

「フェフェフェ。下手に近づけば警戒されちまうかもしれないからねぇ」

「その通り、彼は危険だ。だからこそ、こちらも油断はできない」

「それもそうね。それにあなたとは相性いいんじゃない?」

「……」

「もう。体格に似合わず不愛想なやつなんだから」

 

 

 四天王。それはチャンピオンを守る存在であり、挑戦者を待ち受ける壁。

 しかし暗闇の中でひっそりとチャンピオンに向けて牙を研いでいた。

 チャンピオンである彼──レッドに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンリーグから一か月後──

 ジョウト地方、キキョウシティにあるキキョウジム。そこの門下生である鳥使いの青年が、一人の挑戦者に対して上から目線で対応していた。

 それも当然であった。

 挑戦者の格好があまりにも不審者だったからだ。ベージュ色のポンチョ、所謂足元まであるマントコートを羽織り、頭もターバンを顔まで巻き付けていて目だけしか正体が分からないのだ。

 

 

「お前みたいな不審者野郎がジムリーダーと戦うなんておこがましいぜ! いけ、オニスズメ!」

「……ラプラス」

「へ?」

 

 

 ──ラプラスのれいとうビーム! こうかはばつぐんだ! オニスズメはたおれた。

 ──鳥使いはおこづかい810円を渡した。

 バトルを終えると、部屋の奥からジムリーダーらしき男が鳥使いを怒鳴った。

 

 

「まったく、何をやってんだ!」

「は、ハヤテさん⁉ ち、違うんすよ! お、俺はあの不審者を……」

「不審者だと? まったく、うちの門下生が失礼をした。お前も相手の力量が分からぬうちはまだまだ」

「……おい、バトルしろよ」

「ああ、そうだった。私はここキキョウジムを任されているハヤテだ。チャレンジャー、君の名は?」

 

 

 ジムリーダーが問うと、男が口元だけ露わにすれば口角がぐんと引きあがり、まるでよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに告げた。

 

 

「俺か? 俺は……マサラタウンのレッドだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1章完

 

 

 




レッドが戦わないと戦闘がすげー単調だと思った。
そしてレッドにバトル症候群というなの満足病が発病。まるでサカキがヒロインみたいだぁ

補足
見つけたかずが152なのは最後がサ・ファイ・ザーだからです。データは???状態ですが。それ以外は一応画面外ですべて見ていたという設定です。
捕まえた数はミュウツーや三鳥、あとイーブイの進化先も含めました(レッドが捕まえる+所持をした)。ただ肝心の数字に関しては本当に偶然です。
御三家9 スピアー1 ピカ1 カビゴン1 プテラ1 イーブイ4 ギャラドス1 伝説4 ラプラス1 ラッキー1
多分これで合ってるはず。見逃していたら報告お願いします。

最後のハヤテはハヤトの父です。ポケスペには出ますがゲームに出てたかはもう覚えてないです。


一応次の投稿はしばらくお休みをいただきます。多分今月中には再開します。
まあ自分としてはある程度書き溜めしてからの毎日更新がいいかなと思っているのですが、皆さんはどうでしょうか?
ちょっと意見を聞かせてもらえたらと思ってます。




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