おい、バトルしろよ   作:ししゃも丸

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悲しいですがレッド君が死んでしまったため、これらからはボクっ子少年が主人公です!


第3章 怒りの逆襲
彼女、きっと売れ残るタイプですね。間違いない


 

 ポケモンリーグから二年後。

 マサラタウンにあるオーキド研究所にて、その主であるオーキドはポケモン図鑑をメンテナンスしている。しかしその顔はパソコンとテレビを交互に行ったり来たり。それを孫娘であるナナミが注意する。

 

 

「おじい様。作業をするか、テレビを見るかどちらかにしてくださいね。怪我をしても治してあげませんよ?」

「そう言わんでくれナナミ。いまからちょうど彼女のインタビューが始まるんじゃよ」

「彼女?」

 

 

 首を傾げながらナナミはテレビの方に顔を向けた。画面の右上にはシンオウTVとある。

 

 

『今からチャンピオンであるシロナさんにインタビューを始めたいと思います! シロナさん、今回も防衛成功ですね! どうですか今のお気持ちは?』

『まあ四天王を倒しただけの実力はあった、かしらね。けど、一匹に倒されているようではまだまだね。でも筋は悪くない。なので、これからの成長を期待してます』

 

 

 シロナの傍に控えるルカリオは、当事者である割にはあまりテレビに映ることが好きではないのか、あまりいい顔をしているようには見えなかった。

 

 

「へぇ。一匹だけで倒すなんて、まるでレッドくんみたい」

「何を言ってるんじゃ。レッドよりすごいんじゃぞ? レッド達と同じ歳ぐらいに旅をし、そしてチャンピオンになってから今日までずっとその座を守ってきたのだ!」

「それはすごいですね。でもおじい様。なんでそんなにシロナさんのこと詳しいんですか?」

「彼女はトレーナーであると同時に考古学者でもあってな? シンオウにはわしの先輩であるナナカマド博士がいて、彼女は彼の教え子でもある。だから発表会などで度々交流があったんじゃよ」

「そうなんですね。あ、一つ気になったんだけど。あのルカリオの顔が赤い部分。資料で見た時は黒かったような?」

「ああ。そのことについてわしも昔聞いたんじゃよ。なんでも進化前のリオルのときに、木の実か何かを磨り潰して染み込ませて赤にしたんじゃと。それが進化したら、そのまま顔の黒い部分が赤くなったらしいぞ。あと昔からの癖で、手にバンテージを巻くようになったとか」

 

 

 適当に相槌を打ちながら再びテレビの方に目を向けると、女性レポーターのためかそういう話を切り出した。

 

 

『ところでシロナさんには気になる方などいないのですか⁉ 世界中の紳士淑女の皆様方も、とても気になっていると思うのですが!』

『そうねー。まあ……私より強くて、ポケモンにも負けない人かしらね』

『え、何それは……。ところで、その腰に着けている赤い帽子は何ですか?』

『ああ。これは私の大切な──』

 

 

 ブチッとテレビの電源が落ちる。どうやら作業に取り掛かるためにオーキドが消したらしい。ナナミが最後のシロナの言葉を思い出し、辛辣に吐いた。

 

 

「彼女、きっと売れ残るタイプですね。間違いない」

「お前は何を言ってるんじゃ……。お前だってレッドばかりに構ってないで、そろそろいい加減彼氏でも連れてくるとか……」

「レッドくんより弱い人嫌です」

「そりゃあ無理じゃろ……」

「レッドくんで思い出したけど。それ、あの子のポケモン図鑑ですよね?」

 

 

 今オーキドがメンテナンスをしているのは、レッド、グリーン、リーフ、ブルーが持つポケモン図鑑と同じ型のはず。新しく作ったという話をナナミは聞いたことがなかったからだ。

 

 

「そうじゃ。あやつ、ジョウトへ旅に出る前に渡しに来たんじゃよ。もういらないとか言いおって! こんなにハイテクマシンは他にないというのに! まあ捕まえた数はともかく、見つけた数は登録しているすべてのポケモンが記録されておる。にしてもこの??? ってなんじゃ。なんかバグってるしのう」

「じゃあなんで今更メンテナンスを? それにその画面の設計図は……新しい図鑑、かしら?」

「そうなんじゃよ。いま、各地にいる博士らと話をしてな? レッド達のような若者を選び、図鑑を託そうかという話があるのだ。そのために今新しいのを設計中なんじゃよ」

「それが最近話しておられた、図鑑所有者ということになるんですね」

「うむ」

 

 

 腕を組み、鼻を高くしてオーキドはうなずいた。

 

 

「そう言えば何か書いてませんでした? なんか……○○な者、みたいな?」

「それか。まぁ、図鑑を持つトレーナーには内なる才能があるのではないか、そう思ってな。現にブルーから話を聞いて、あの子は進化の知識が豊富であるし何よりもそのタイミングを自分で操作できる。だから『化える者』と例えたんじゃ」

「ふーん。じゃあレッドくんは?」

「あいつか? あいつはなぁ……まさに『戦う者』なんじゃが……些か物騒すぎ──」

 

 

 するとオーキドのパソコンが電話の着信のような音が鳴る。応対すると、そこには隣のジョウト地方にあるワカバタウンで研究しているウツギ博士だった。

 

 

「おおウツギくんじゃないか。どうしたんじゃ?」

『オーキド博士! 実はここ数日で野生ポケモン達におかしな行動があって……!」

「おかしな行動? 具体的にどんな行動なのだ?」

『はい。ここ数日各地にいる研究員やレンジャー達の報告で、野生のポケモン達が次々と住処を離れていると連絡があったのです。最初はよくある群れだけの移動かと思ったのですが、それが群れ関係なくある場所へ向けて大移動しているのです』

「ある場所? それは……」

『それは博士がいるカントー地方です。正確な位置まではまだ把握はできてないのですが、間違いなくカントー地方です』

「なんと⁉ だが、こちらのポケモン達には特に異変はないが」

『そうなんですか? とりあえず続報が入り次第お伝えします』

「うむ。頼んだぞ」

 

 

 通話を切るとオーキドはマウスを動かしてメールを開く。主に各地方にいる博士との研究報告や、カントーのあらゆる場所に出向いて生態系を観察している研究員からのメールが届くことになっている。

 ナナミも気になってオーキドの後ろからモニターを覗き込む。上から順に新しいのが届いていて、その研究員の担当はハナダ方面だった。メールを開くと、先程のウツギ博士の言っていた同じ内容が書かれている。

 

 

「ふむ時期は数日前。カントーとジョウトで一斉にポケモン達がある場所を目指している、ということか? しかしどうして……」

「おじい様。野生ポケモン達にはトレーナーといるポケモン達よりも、ポケモン本来の野生本能が高いはず。ならば」

「彼らはその本能で何かを感じ取った? しかし一体何を──」

 

 

 その時。研究所の扉をがりがりと何かが引っかいて、まさに扉を開けろと言っているかのようだ。二人にはその行動に見覚えがあった。

 

 

「もしかしてピカ? レッドくんかしら!」

「おお。これはナイスタイミングじゃ! レッドなら何かわかるかもしれん。待っておれ。いま開けてやるかのう」

 

 

 オーキドは特製のゴム手袋をはめる。こうしないとドアノブからピカチュウの電流が流れてきてしまうからだ。

 だが扉をあけたそこにはレッドの姿はなく、二人は視線を下に向けると、そこにはボロボロに傷ついた彼のピカチュウだけがいた。

 

 

「ピカ⁉」

「おじい様、早くボールに入れて回復を!」

「う、うむ。そうだな」

 

 

 空のモンスターボールに入れて回復装置に置く。外から見れば、徐々にだが傷が癒えていくのがわかると、改めて冷静になったナナミが言った。

 

 

「おじい様。もしかしてレッドくんの身に何かあったのでは……」

「そうかもしれん。とりあえずわしはジムリーダーやすべての機関に連絡を──」

「こんにちわ~」

「え? きみ、いまは取り込み中だからあとで」

 

 

 突然ドードーに乗った麦わら帽子を被った少年が研究所に入るや否や、ドードーから降りて回復装置を止めるとピカチュウをボールから出す。慌てて二人が彼を止めようとするが、少年がピカチュウを抱きしめるとみるみる傷が癒えていく。

 

 

「よし元気になった!」

「ピカ!」

「じゃあ行こうかピカ!」

 

 

 二人を無視して少年とピカチュウは外を出ようとするが、それをオーキドが止める。

 

 

「ま、待つんじゃ!」

「はい?」

「きみは一体誰なんじゃ⁉ それにいきなりやってきて、勝手に去るとは! 事情を説明せんか!」

「そんなことを一度に言われても」

「おじい様。少し落ち着いてください。……どうしてあなたはレッドくんに何があったか知ってるの?」

「何かがあったのは知っています。それが何なのかは分かりません」

「じゃあどうしてピカを? きみはこの子をピカと呼んだわ。それは彼を知る者にしか知らないこと。さらに言えば、あの子のポケモン達は余程のことがない限り他人に心を開くことはないの。今のピカの様子から見ても、あなたに心を許しているように見えるわ」

「それは……言えません。けど、ボクはピカと一緒にレッドさんを助けるためにここに来たんです!」

「話にならん!」

「おじい様⁉」

 

 

 オーキドは少年の話に耐え切れず、懐からボールを投げオニスズメを出した。

 

 

「レッドはチャンピオンじゃ。そしてその強さに誰も勝てはせんかった。わしの孫であるグリーンやリーフでさえも。お主にはトレーナーとしての強さを感じぬ。そんなお主が、レッドを下した相手に勝てるわけがない! それでもレッドをピカと共に救いに行くというなら実力を見せ、このバトルを終わらせてみよ!」

 

 

 ナナミは額に汗を浮かべながら少年を見た。年老いても元ポケモンリーグ優勝者。その実力はまだ健在だ。

 どう戦うか。オーキドも目を離さず彼を見る。

 そして少年はそれに応じた。ドードー対オニスズメ。少年はドードーにふきとばしを命じ、オーキドはオウム返しを命じる。彼はさらにふきとばしを命じ、互いにダメージが入ることはなく防戦一方。

 次に少年はドードーに走れと命じる。オニスズメの周りを走り始めると。時計回りに何週もすると、それを追いかけていたオニスズメの目が回りそのまま地上へと落下するのをピカチュウが受け止めた。

 

 

「ハイ! 言われた通り、バトルを終わらせました!」

「な……」

「おじい様の負けですよ」

「ナナミ! しかしだな⁉」

 

 

 未だに意固地になっているオーキドを制し、ナナミは少年に再度問いかけた。

 

 

「きみの名前は?」

「すみません。言えないんです」

「そっか。けど、レッドくんを助けるのは本当なんでしょ?」

「はい!」

「うん。なら、これを持って行って」

 

 

 少年にかつてレッドが持っていたポケモン図鑑を渡す。

 

 

「レッドくんのポケモン図鑑よ。もし彼に会えたら、これを渡して」

「わかりました!」

 

 

 育ちがいいのか、少年はしっかりと頭を下げた。そしてドードに乗ってピカチュウ共に走りさる。

 オーキドはまだ納得がいかないのか、まだ不服そうな表情をしている。

 

 

「ナナミ。本当によかったのか?」

「おじい様も見たはずですよ。レッドくんのピカが、見ず知らずの少年に懐いている。それだけでも託す理由にはなります」

「それはいい。だが、問題は彼自身じゃよ」

「と、いいますと?」

「あのバトルでわかった。あの子は純粋じゃ。優しすぎると言ってもいい。その優しさがあの子の旅を困難にするやもしれん。それにピカの傷を治したあの力。あの子もまた、そういう運命なのかもしれんのう」

「運命……」

「ナナミよ。グリーンに文を頼む。恐らくリーフも一緒じゃろう。いまはわしらはわしらなりに出来ることをしよう」

「はい」

 

 

 それから30分ほど経ち、グリーンとの連絡手段であるピジョットがマサラタウンを飛び立った。とある理由でパソコンおよびポケギアでの連絡を絶ったことで、すぐに連絡が行きわたらないのが欠点ではあるが文句は言ってられない。

 そして各都市のジムリーダー達に連絡が入る。

 チャンピオンのレッドが消息を絶った、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 カントー某所の山岳地帯。

 グリーンは崖の上で妹であるリーフを見下ろしていた。彼女は大きな岩の前に立ち、その右手を振るう。

 ──リーフのはたく! 

 高さ3メートルほどもある岩が、たった一振りのビンタによって粉々に消し飛んだ。

 同時にピジョットが声をあげてグリーンの前で止まると、足で掴んでいた筒を渡す。ピジョットをボールに戻し筒に入っている手紙を読む。

 

 

「……レッドのやつ。また面倒に巻き込まれたな。リーフ!」

「ふー。どうしたのグリーン?」

「とりあえずマサラタウンに帰るぞ」

「どうして?」

「レッドが消息を絶った。原因は不明だ」

「……わかった」

「意外と冷静なんだな」

 

 

 もっと取り乱すかとグリーンは思っていた。だが現にリーフは至って冷静。いや、静かな怒りの炎を燃やしているのがわかる。

 

 

「レッドがやられるほどの相手ってことは、かなりの手練れってことだもん。冷静にもなるよ」

「そうだな。さあ行こう」

「うん」

 

 

 リザードンとプテラを出して二人は故郷であるマサラタウンへと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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