サカキはスーパーでも伝説でもないよ
あくまで普通のポケモントレーナー枠で、レッドの宿敵なだけだよ()
熱い。
体中が燃えるように熱い。
まるで燃え盛る火の中に身を投じているかのようだ。
冷たい。
体中が凍えるように冷たい。
まるで巨大な氷に閉じ込められているような、極寒の地でその身を常に晒しているかのようだ。
息が荒い。胸が苦しい。体が痛い。
もうやめてくれ、休ませてくれ、もう動かないでくれと悲鳴をあげているようだ。
だが断る。
例え地獄の業火に焼かれようとも、絶対零度によって体を凍らせられようとも、止まるわけにはいかない。
アクセルグリップを握る右手に力が入る。よく溶けないなと自分を褒める。そうしなければまとも意識を保ってられない。一瞬でも気を抜けば、鉄の馬は瞬く間に原型を失くしてしまうだろう。
今は夜だというのにまともに夜空を見ることも、夜風にあたることもできない。そもそも見える色は赤一色。
『『『ギャーオ!!!』』』
どうやら目的地についたらしい。
「──ハハッ」
思わず抑え込んでいた本心が漏れた。
わかる、分かるぞ。この下だ。このエネルギー、この力の波動は紛れもなくあの女だ。他の奴らも殺したいほどに憎いが、まずはあの女だ。アイツだけはしっかりとこの前の落とし前を付けさせてやる。
「ありがとう。ここでいい」
『『『ギャーオ!!!』』』
運んできてくれた三鳥が三方向にそれぞれ別れ飛び立つ。
さながら自分はヘリによって輸送されていたコンテナのようなものだ。連結の役目を担っていた三鳥がいなくなれば、このまま真下へと落下する。
そう。それでいい。方角はこのままだ。
イメージする。一点、このまま周りを炎で囲いながら地上になる岩や土を溶かしながら落ちればいい。そこにいるはずだ。
近くに彼女が居るのが分かる。それが目印だ。
──……フレアドライブ!
同時に左のグリップを握る親指にあるスイッチを押す。後部に取り付けられたブースターが点火し、火を噴きだして加速しながら落下する。
「いくぞ──」
状況はどうであれ、人生初めての高度数百メートルからのパラシュート降下ならぬバイク降下を開始した。
イエロー達と別れたナツメとブルーは互いに口を開くことなく洞窟を進んでいた。先頭を歩くナツメの背中にブルーは、敵意とは違った眼差しを向けている。
それは怒りなのだろう。
レッドのことを誰よりも理解し、繋がっている彼女が今になってようやく動いた。本当ならもっと早く対応できたはずで、そうすればこんなにも大事にならずに済んだのではないか。考えれば考えるほど余計にイラついてくる。
そんなブルーの頭の中を読んだのか、ナツメは振り返らずに言う。
「今は目の前の戦いに集中しろ。お前を守ってやれるほど、いまの私は冷静ではない」
「冷静ではない? 今頃になって表舞台に出てきていうセリフがそれ?」
「何とでも言うがいい。私にも目的がある」
「目的?」
「ブルー」
「な、なによ」
ナツメは行き成り足を止めてこちらに振り返った。普段とは違う、以前ロケット団の時にいた時のような冷たい表情をしていた。
「これでも私はな、ブチ切れ寸前なんだよ。つまりそれがどういうことか。レッドに好意を抱いているお前にも分かるだろう?」
「あ、あたしは別に……」
「──レッドがカントーから帰って来てから、度々お前と密会していたのは知ってるんだぞ」
「……なんのことかわかんない」
ば、バレている。いや、これは自分が悪いのではない。どちからと言えばレッドの方に問題がある。自分が連れ去られた事件に関してレッドは訪れるたびに手伝ってくれたし、あとは暇だからと言って勝手に転がり込んできたり……いや、後者が7割だった。
「まったく。あいつは私という女がいながらふらふらと別の女の所に行きおって。そもそもブルー。お前のその格好も原因の一つだ。今は一枚上着を羽織っているが、お前は露出が多すぎる」
「あら嫉妬? 持たない者の嫉妬は心地がいいわねーおほほ」
「調子に乗るなよ。レッドはああ見えて……ん?」
「どうしたの? って、これは」
「ジムバッジだ。どうしてここに」
まるで祭壇に収められてるかのようにジムバッジがあった。ナツメがそれに手を触れようとした時、洞窟内に女の声が響き渡った。
「それを知る必要はないわ!」
「お前は……」
「四天王のカンナ!」
奥からパルシェンに乗ったカンナが堂々と現れた。思わず構えボールを手にしたとき、それを前にいたナツメが止めた。
「ちょっとどういうつもり?」
「言ったはずだ。私には目的があると。それがあの女だ」
尋常ではない殺気をカンナに向けるナツメに、思わずブルーは後ずさる。気づけばナツメの体から念力の波動が溢れ出て、その力の大きさに洞窟が揺れ始めている。
「お前だな、レッドを手にかけたのは?」
「流石エスパー。そういうことまで分かるのかしら?」
「瞑想をして極限まで力を高めれば、少しの間だけ過去の予知で見た光景を深く覗くことが出来る。そしてレッドが見ていた光景にお前がいた」
「あらそう。けど意外ね。レッドのことを調べていく内にあなたとの関係も知ったのだけれど、ショックのあまり寝込んでいると思っていたのに。存外薄情なのかしらね」
「確かに泣いたさ。一日中涙を流し声を枯らした。私は以前からある予知でレッドの身に何かが起きることを知っていた。だがレッドは大丈夫と言っていた。私もそうだった。あいつが死ぬはずがないと」
「けど死んだわ」
「いや。レッドは死んでいない」
「どうしてそう言い切れるのかしら? 私は確実にレッドを殺したわ」
「簡単だよ。私とレッドは運命の赤い糸で繋がっている。故に! 赤い糸は絶対に切れることはない!」
「……」
胸を張って言いのけるナツメにカンナはどこか気の抜けた表情をしていた。いい感じの流れだったので黙っていたブルーが口を開いた。
「ナツメって、案外ロマンチストなのね」
「ふん。さあお喋りはここまでだ。覚悟しろカンナ。簡単には死なせんぞ」
増幅するナツメのサイコパワーによって辺りにころがる氷の岩や氷柱がカンナに向けられる。だがカンナは慌てるどころから余裕の笑みを浮かべていた。
「怖い怖い。けどこちらとしては助かるわ」
「戯言を」
「……ナツメ!」
「なに⁉」
──ゲンガーのふいうちからのふういん! ナツメは力をふういんされてしまった!
その瞬間、宙に浮いていたナツメが地面に尻もちをついて落ちた。
「いたっ……ハァッ!」
まるで落ちたことをなかったことしにして、カンナに腕を向けて力を解き放つ。
──ナツメのサイコキネシス! 残念。力をふういんされているせいで技が出せない!
「……」
「……」
「……」
表情を崩さずにナツメは後ろにいるブルーの背後に回り、何事もなかったかのように叫ぶ。
「さあ来いカンナ! このブルーが相手になるぞ!」
「ちょっとあんたねぇ⁉」
「くっ。やはりレッドの言ってたように、こういう時のために体を鍛えておくべきだった……」
「つっかえ! 本当に使えないわねあんた⁉ やっぱあんたよりあたしの方がレッドと相性がいいのよ!」
「はぁ? 相性抜群ですぅ。私とレッドの体の相性は効果抜群ですぅ。悔しいか? 悔しいだろうなブルー。お前が好意を抱いている男は、すでに私とそういう関係なのだよ!」
煽るように言ってくるナツメにカンナに向けるべき敵意が彼女に向いてしまう。だが落ち着けと何度も言い聞かせ、一言だけ口に出して落ち着く。
「腹たつぅ……」
「敵が目の前にいるのに随分と余裕ね。まあこのゲンガーはキクコ様が念のためにおいてくれた子。本来はふういんなんて覚えないけど、そこはあの人ね。そしてこの子を倒さないとふういんは解けない。そして──」
すると手に氷の人形が現れる。形から見て自分とナツメのように見えた。
「これはルージュラのれいとうビームで作り出した氷の人形。そしてこの人形に口紅で印をつけると……ほら」
「なっ⁉」
「あたしたちの手首に氷の手錠が⁉」
「ふふっ。この人形に印をつけられた者は、そこに氷の枷がつくの。本来はじわじわと全身を蝕むのだけれど、あなた達相手には使わない。ああそれとこれを奪うなら気を付けなさい。もしもこれが壊れでもしたら、その部分がそのままあなた達に反映されるわ」
なんとか氷を叩こうにもあまりにも頑丈で壊れそうにない。さらに炎で溶かそうにも、互いにそれができるポケモンはいない。何故か落ち着ているナツメは目を大きく開いた。何かに気づいたらしい。
「そうか! これだな? 予知で見たレッドを縛っていたモノの正体は」
「ご名答。そうね……これから手を下す前に話してあげるわ。冥途の土産にはちょうどいいしね」
そしてカンナは語る。この一連の騒動であるその始まりの戦いを。
短いけど肝心の戦いは次だぁ。
ナツメがなんでこんなにポンコツかと言うと、こうやって弱体化させないとナツメ一人で終わるから。
そのためにこの日までに瞑想をして力を高めていたんですねぇ(他人事)
だけど本当にカンナ一人に拘らなければ、相手を視界に捉えずとも気配を探って心臓の動きを止めてはい終わり!閉廷!以上解散!の流れになる。
この作品において人類最強候補の名は伊達ではないのです。なおその扱いはお察し。
あとゲンガーの件は演出上の処置なので大目に見てください……