でも、初代じゃ出せるわけないお……
なら、色違いで変異個体として出すお!
ハナダシティ側にあるオツキミ山の洞窟の出入口付近を一人の少年レッドが散策していた。なぜ先へと進まず元来た道を戻っているのか。
それは数日前、レッドはこの洞窟の一件のあとカスミをハナダシティへと送り届けたあとのことである。
そこは水の都と呼ばれるにふさわしいところで、ゲームと違いあたりに水路が流れゴンドラなども走っている。こういうところがゲームと違って新しい発見で面白いとレッドは食い入るように街を見渡していた。
するとなぜか彼女のジムではなく家にいくことに。カスミの家は豪邸でなんとお嬢様だったらしい。
そこで一晩過ごした後、レッドはカスミと戦いバッジをゲット。そのまま彼女に別れを告げてマサキの家に向かう。
当然問題となるのはゴールデンボールブリッジ。トレーナーを倒した後変装していたロケット団をぼこりきんのたまを貰うのだが……。
「おい。もう一個あるだろ。あくしろよ」
「な、なにを言ってるんですか。それは一個しか……」
「惚けるなよ。もう一個あるだろ。ほれ、ジャンプしろよ」
「ひぃいいいい!」
ほぼカツアゲと同じことをしてもう一個を手に入れたレッド。そのままマサキとも出会ったのだが、これがなんとポケモンになっていなかった。
いや、それもそうだと改めて気づく。なにせ、ブリッジの手前でグリーンと戦うイベントがないのだから当然だ。それにマサキが言うにはリーフによってもとに戻ったらしい。
なお、サントアンヌ号のチケットはくれなかった。あげるぐらいだったら自分でいくわと言われたので持ってきたイシツブテを投げてやった。
もうハナダではすることがないと思いクチバに向かおうとした時だ。ゲームと違っていあいぎりとか必要ないし、わざわざあの家を通る必要はないのではと気づいた。しかしだ、あそこにロケット団がいるのでそれはそれで民家の人も困ると思いレッドはなんとなく直感でその家に入り、案の定ロケット団がいたのでぼこぼこにした。
はいこれでおしまい、というわけにはいかないのが現実。家は荒らされ、住民であるきれいなお姉さんは乱暴されていたのだ。彼女を癒すために一日使ったのは必要経費だとレッドは言い張る。
その翌朝。互いに肌をテカテカさせながら別れの挨拶の時に、突然彼女からあるものを託された。
「ねぇ、レッドくん。この子も一緒に連れていってくれないかな」
そう言って渡されたボールにはフシギダネが入っていた。
彼女は続けて言う。
「私はこの子を可愛がることしかできない。でも、この子は男の子だから戦いたいのね。それに私を護れなかったことを後悔していると思うから」
「ありがとナス。大事に育てるよ」
「うん、お願いね。あとこれはおまじないよ」
お姉さんはレッドの唇にそっと自分の唇を重ねる。
「あなたと過ごしたあの夜は忘れないわ。ありがとう」
そしてレッドは彼女に別れを告げ歩き出した。その行先はまさに今ここであるオツキミ山。彼は気づいたのだ。この世界がポケットモンスターのピカチュウバージョンだということに。それは絶対とは言い切れないのは、最初にピカチュウを貰ってないからであるがそれはいい。しかし、ピカチュウバージョンは御三家を手に入れることができるゲーム。なら、ヒトカゲもいるはずだ。
「さてと。多分ここら辺だと思うんだが」
うろ覚えなゲームのマップと実際の位置でそれとなく計測した結果、少し開けている場所に出た。ゲームのヒトカゲはモンスターボールに入っているのは覚えている。それはきっと誰かに捨てられたということだろう。
「なんてことを……。ヒトカゲを捨てるとかこれもうわかんねぇな」
最低な屑人間に愚痴を吐きながら辺りを散策していると、一つの視線をレッドは感じた。そのまま視線のある方に目を向けると、木の傍に青い火の玉が浮いていた。いや、正確には尻尾だ。
ビンゴ。たしかにいた。それにあのポケモンセンターで聞こえた話は本当だったのか。
噂も馬鹿にならないと思いながら、レッドは刺激しないようヒトカゲに近づく。ヒトカゲはすでに彼の存在に気づいており、警戒しながらぬるっと木の裏から顔をだした。その仕草が可愛いと思ったのは一瞬。すぐに青ざめた。
「お前、目が……」
ヒトカゲの左目。そこに縦に引っかかれた傷跡があった。それでわかった。この子は人間に捨てられたんじゃない。群れから追い出されたのだ。色違い、それも赤い炎ではなく青い炎。気味が悪いと群れから孤立し、必死に仲間に加わろうとしたのを拒絶されてしまったのだ。
「そうか。お前も一人ぼっちなんだ。俺と同じだな」
「カゲカゲ」
フルフルと頭を振り、右目で腰についているモンスターボールを見るヒトカゲ。
「こいつらはたしかに仲間だ。けどな、本当の意味でこの世界じゃ俺は一人ぼっちなんだよ」
「カゲ?」
ヒトカゲは頭をひねる。さすがにわからないらしい。
自分はこの世界では特別だ。良い意味でも悪い意味でも。良いことは今までの自分が自分としていられていること。悪いことはこの世界で自分としての自我が残っていること、それに家族は誰もいないこと。
そう考えると本当に悲劇の主人公のような境遇だなとクスリと笑うレッド。
「なぁヒトカゲ。お前さ、見返してやりたくないか?」
「……?」
「お前を捨てた仲間…いや、この世界中にいる自分と同じ奴らを。肌の色や炎の色が違う? だからどうしたって、俺はこんなに強いんだってさ」
「カ、カゲ?」
「本当になれるかって? ああ、なれるとも。俺がそこまで導いてやる。なにせ俺は、ポケモントレーナーだからな!」
レッドは生まれて初めて自分がポケモントレーナーだと胸を張って言った。今まではそんなこと思ってもみなかったような気がする。自覚と言うか覚悟みたいな。ただこの世界を旅できればいいとさえ思っていたから。
だが今は違う。こいつを見て決意した。こいつを立派なリザードンにしてやろうと。そして自分もさらなる高みへいけるかもしれないと。
「だから、俺と来いヒトカゲ!」
「カゲ!」
レッドはヒトカゲをつかまえた!
そして場所を移してハナダの洞窟の一階付近。手持ちのポケモンたちは全員外に出ており、彼らの前に立ってレッドは高らかに宣言をした。
「えーでは、これからレッドブートキャンプ先取り編を開始します!」
「ぴ、ぴかぁ……」
「どうしたピカチュウ?」
ズボンの裾をピカチュウは引っ張る。その仕草はいかにもお化け屋敷を怖がる子供と同じだ。ピカチュウだけではない。新入りのフシギダネも怯えた様子で、スピアーは少し落ち着きがない。先ほどのヒトカゲと言えば。
「か、カゲ!!」
先程のこともあって彼だけはファイティングポーズを取っていた。
「見ろよこのヒトカゲの背中を! こいつはやるかもしれねぇ! ま、お前らは野生の勘でここのヤバさがわかるから仕方がないんだけど」
ハナダの洞窟はゲームにおいてチャンピオン後に開放されるステージ。ここには高レベル野生ポケモンたちが数多く存在し、その最深部にはミュウツーがプレイヤーを待っている。
しかし本来、ここはなみのりを手に入れても警備員がいるため入ることはできないがどうしてか警備員はいなかった。それになみのりを使えるポケモンを持っていないレッドがどうやってここまで来れたかと言えば、単純に泳いできたからである。トレーナーが海で泳げるんだから俺だってできるだろの精神である。
「それにしても……うーん、やっぱいないなアイツ」
何となく気配を探ってみてもミュウツーの気配はない。あるのは強い野生ポケモンたちのみ。
もしかしてまだ生まれてないのか? それとも別の場所とか? 逆襲のあそことか……ていうかあそこどこなのだよ。
「ま、いないならいないでいっか。というわけで、段取りな。俺が瀕死状態まで追い込むから、トドメは自分でさせ。以上!」
『……』
「何だなんだ。だらしない奴らめ。お、丁度いいところにアーボックが来たぜ」
アーボックは比較的凶暴な部類に入るポケモンである。腹の模様で威嚇して獲物を捕らえるのだ。そして今回は真っ先に人間であるレッド目がけて襲い掛かった!
「シャー!!」
「踏み込みが甘い!」
「⁉」
『『⁉』』
アーボックの攻撃を華麗に躱したレッドはどういう原理で技をかけているのかまったくわからないが、コブラツイストをアーボックにかけている。
レッドのコブラツイスト! アーボックの体力をじわじわと削っている!
「ちょっとダメージが弱いな。もっと……こう!」
「グエェ───!!」
「ん、そろそろだな。ヒトカゲ、ひっかく」
「か、カゲ……」
えいっと小さな体で巨体なアーボックの尻尾あたりをひっかく。
すると。
「カゲ? ……リザァ!」
おめでとう! ヒトカゲはリザードに進化した!
「やりますねぇ! あ、でも左目の傷は残ったままか……。男の勲章と思えばカッコいいから気にすんな」
「リザァアアア!」
「お前らもヒトカゲ、じゃなかったな。リザードでやり方はわかったな!」
「ちょっと何を言っているかわからないピカ(ピカピカピ)」
「お前ら丸太は持ったな⁉ では、ハナダの洞窟RTAはいよーいスタート」
『『⁉』』
突然現れた丸太を手に持ってレッドは洞窟内へと突貫した。少し遅れてポケモンたちも彼のあとに続く。
その様子はさながら映画の戦闘シーンのようだ。レッドが丸太でポケモンたちをちぎっては投げて、時にはメガトンパンチやメガトンキック、すてみタックルを繰り出して。そしてそのあとにピカチュウ達が続く。
そしてブートキャンプ開始から数時間後。
ハナダの洞窟の入り口前にて。レッドは涙を流していた。
「お前らぁ……立派になって」
レッドは貰って初めてポケモン図鑑をやっと使った。今までバッグの奥底に放り込まれていたからかなり汚い。
ピカチュウレベル56、スピアーレベル58、フシギバナレベル53、リザードンレベル61。
何て言う強さ。これならセキエイ高原なんて余裕だぜ。しかしリザードンはなんかメガ進化っぽい見た目になった。けど、カッコイイからいっかとレッドは一人でうんうんと頷く。
「ピカピ」
「どうしたピカチュウ?」
「バナバナ」
裾を引っ張って何かを伝えようとするピカチュウを補佐するようにフシギバナのつるがレッドのポケモン図鑑をさしている。
「なんだ見たいのか。ほれ」
レッドからポケモン図鑑を渡されると、フシギバナのつるで図鑑を支えピカチュウが小さな手でポチポチと操作してある画面が現れた。
【レッド レベル24】
画面を覗き込むようにスピアーもリザードンも顔を近づけ、画面を見てレッドを見る。
『あれで24なのか……』
彼らは自分たちのマスターがとんでもない存在だということを改めて自覚するのであった。
先取り(ハナダの洞窟)
レベルが高くても負けるときは負けるのがポケスペ風(偏見)