通算200回目近くの
「今回の敗因はわかちゃんとトシ坊をネタにしたのがよろしくなかったんよ」
「どうして今それに気づくかなぁ!」
福寿空に恋愛はわからぬ、空は香川の侍かぶれである。刀を振り、妹と遊んで暮らしてきた。けれども他人の恋愛には、人一倍敏感であった。
今日未明、空は家を出発し、河川敷を走り帰りに妹の好物をコンビニで買って帰る。空には父も母も妹も居るが恋人は居ない。
幼馴染の男勝りの銀ですら色恋沙汰の話があると言うのに本人は越えるべき師としての乃木若葉にしか見えていないのだ。
道で会った若い衆をつかまえて、何かあったのか、道場に入門したときは、女性として若葉を見ていた筈だが、と当時を知る人間は答えた。若い衆は、首を振って今はそうでもないとも答えた。
「お前ら道場で話したりしてたんだよな? どうしてそうなった?」
銀は両手で園子の身体を揺すぶって質問を重ねた。園子は、辺りに目を泳がせて小さい声で答えた。
「トシ坊がわかちゃんに夢中だから……」
「何故だ!」
「それは……ほら、トシ坊だし」
聞いて、銀は呆れた。
「呆れた奴だ。生かしておけぬ」
銀は単純な女であった。買い物袋を持ったままで、福寿家にのそのそと入っていった。
「そう、そしてアタシはなんやかんや空の家でご馳走になってお土産まで貰ってしまったのだった」
「ふざけないでよ」
園子の声のトーンが平常時の2オクターブ程下がった。
「待て、園子。人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だぞ?」
「でも、友達の意中の相手の家に上がりこんでご飯食べて遊んできちゃうのはあんまりだと思うんよ」
「アタシだって、応援してるんだぞ」
それを聞いた園子は、復讐めいた気持ちでそっとほくそ笑んだ。よくもまぁそんな事を言える。
「というかお前がストレートに言えば良いんじゃないか?」
「ミノさんが言っていい事じゃないと思う」
「え、なんで?」
ダメだこれ。と思っただろそこのお前。
神樹館仲良し六人組は地獄の真っ只中である。
「ミノさんがニブチンって事は置いとくとして、トシ坊がわかちゃんを倒せばどうにかなる気がするんよ」
二重の意味で無理だろ。と思った銀は、少し席を外して空を現在お茶をしていたスタバに呼び出して、その場から逃げ出した。
それがクールだと思っているのは銀一人だけである。
「ふむ、それで話とは何だ園子?」
「どうしてわかちゃんも居るの?」
「ちょうど一緒に走ってたし、休憩しようって話してたら銀が……」
今の園子の心の中はギャンブルに負けたアメリカンよりもグロッキーである。
乃木園子は恋愛弱者である
時は変わって一週間後、福寿空の朝は早い。東郷が朝早くから水浴びをしていると聞いて自分もやりだし、それから朝のランニングに出掛ける。
「朝走るのが一番気持ちいいな……」
「トシ坊お疲れ様~」
ランニングを終えるとほぼ確実に園子に出会い、最初はおかしく思い。
「最近いつもこの辺りに居るけど、何か始めたの?」
と聞くと。
「ひなたんから走ってるって聞いたから飲み物欲しいかなーって思って持ってきたんよ」
と答えた。しかし、それが良くなかった。それを真に受けた空は若葉と朝練を始めたのであった。
園子選手完全にプレイングミスである。その日の園子はサンチョを濡らして休息を取ったのはまた別の話。
次に朝食である。咲也や東郷に聞いてある程度なら料理が出来るようになった空はそのスキルを全て妹につぎ込んだ。
そのおかげか妹の好き嫌いなくすくすく成長していった。
「お兄ちゃんってどうして彼女出来ないの?」
「……出会いが無いから?」
嘘つけ。少なくとも幼馴染に三人、剣道道場で一人、従姉に一人美少女が居る時点で割とより取り見取りでござるよ、薫殿。
「早目に東郷さんに色々教わっておこうかな……」
その時、福寿空の灰色の脳細胞が満開して限界稼働! これからの妹の未来予想図を展開、予知、計算結果を導き出した!
「……小さい子って進んでるんだね」
さては思考回路散華してるなお前。
朝食を摂った後は大学の課題を済ませて、家事は親にぶん投げた。
「……相手は誰だろうか……金太郎? てつを? 誰だ……一体誰なんだ……」
その時、スマートフォンに着信が来た。とりあえず電話に出る。
「はい、もしもし?」
『空、今暇よね?』
「……何かあったの?」
国防芸人に付き合わされるのは面倒なので、いい加減国防芸人は辞めれば良いのにとか割と失礼な事を考えていた。
『今から駅前に行って、今すぐ』
「えっ……どうして?」
『我、貴殿ノ奮闘ニ期待ス』
通話が切れたのと最後の言葉で空はこれは国防案件なんだな。と確信して親と妹に一言伝えて駅前に行くのだった。
そして、数時間後、空は園子と共に山形の地に立っていた。
「僕、昔から思うんだ……」
「どうかしたのかい? トシ坊?」
「……小学校時代から付き合いがあるけどまだ園子がよくわからないよ」
「エンジョイ! 山形ライフッ!」
今回は空の妹も連れてきていないし、向こうに情報がリークされている事もない、完璧な作戦の筈だった。
「おや、そこの若いお二人さんは新婚さんかなんかかね?」
地元民の老婆が二人を見てそう、問いかける。
勝った! 希望の未来へレディゴー!
「し、新婚? いや、友人ですよ……」
「あれまぁ、なのに一緒に旅行なんて随分仲が良いんだねぇ……」
老婆が何か言いたげに去っていったが、もちろん空は何なんだあのお婆さんという感覚しかない。
新婚発言は出来なかったものの、少しは結婚という物を意識した筈であると園子は一縷の希望にすがる事にした。
ここで、《乃木園子・告白実行委員会》を覗いてみよう。
その後のチャットはどんでん返しの大盛り上がり、誰もが成功の報せを待っていた。
しかし──
その一言でグループチャットはお通夜会場と化した。
「とりあえず宿に行こうよ。観光は明日からで、ね?」
「何か今日の園子圧強くない……?」
「気のせいだよ」
そして、深夜。乃木園子は
しかし、乃木園子、ここで痛恨のミス……!
「サンチョのパジャマ持ってたんだね。前と色が違う気がするけど……」
「えへへ、サンチョさんは正義なんよー」
クソダササンチョパジャマ……ッ!! 男を誘う装いとしては最悪の部類に入る……!
「十時前かぁ……僕はそろそろ寝るよ、おやすみなさい……」
「えっ」
空は布団を敷いて寝入る。まだ時刻は夜の10時、寝るには健康……! 圧倒的健康! 考えてみれば、朝5時には起きて水浴びをするのだからこの時間に寝るのは自然……!
この報告を受けてグループチャットはまたしても地獄の三丁目……! オールウェイズ三丁目の明けない夜……ッ!
しかし、これでいい……! 園子はこの時を待っていた!
「よし!」
現場サンチョ並みの確認をして空の布団に潜り込む……! それなりにあると自負している園子はそれを少し彼の背中に押し付けて反応を伺う。
「……Zzz……」
が……! 駄目っ……! 微動だにせず!
「トシ坊……?」
どんなに頬を叩いたり全力で抱きついてみた所で無力……! 圧倒的無力……ッ!
「ひどい……! 酷すぎるっ! こんなのってないよっ……! やっとの思いでここまでやったのに……トシ坊っ……! 寝付きが良すぎる……! せっかくの……今までの苦労……費やした時間……全てっ! 無駄っ!」
寝顔がじっくり見れるのでラッキーかもしれない。とりあえずスマホで写真を複数枚撮って満足する事にした。
恋愛ではこういう思考が一番危ない。まさに独身に直結する道。
こちらが主導権を握っているという読みはまさに泥沼……!
はまっている……! 既に泥中……首まで……!!
二日目の朝、園子はそれを痛感する事になる。
「……何か柔らかって園子か」
「うへへ~……トシ坊もサンチョさんに~」
空が目を覚ますと、別の布団で寝ていた筈の園子が抱き付かれて寝ていた事に気付いた。
いや、なんでだよとか異性に抱き付かれて思う事があるとかの前に──
「夏梨、大丈夫かな……」
妹の事を気にしていた! 親も親で娘馬鹿なので変な事はしていないだろうけど妙に不安になって落ち着かない。
園子は寝ぼけてて今は動けない。今この場で動いて好感度を上げようという考えはないのだろうか。無いから弱者なのだ。
「散歩でも行こうかな……」
彼女を置いて空は散歩に出て行ってしまった。水浴びは出来ないにしても軽く身体を動かしたいらしい。
「トシ坊が仮面を被ってサンチョさんに牙を剥き始めたんよ~」
「何言ってんだか……いつもの事だけど」
スマホと財布だけ持って山形の街を散歩する事にした。
山形の米沢には特にこれといった観光地はそこまである訳ではないが、朝の気温は少し肌寒く、上着を羽織って軽く走る。
旅行中とは言え、一日でもサボれば乃木若葉には追い付けない。
「……寒いのも身が引き締まって良いな」
打倒・乃木若葉には理由がある。
高校生位までは剣道は身体を動かす為の手段でしかなかった。しかし、高校生になった頃、事件が起きた。
溺愛している妹が若葉の事を「カッコいい」と言ったのだ。
福寿空は激怒した。必ず、かの怨敵乃木若葉を倒さねばならぬと決意した。空には武術は分からぬ、それまでの空はただの少年である。友にため息をつき、妹と遊ぶだけの人生であった。
(我魂魄百万回生まれ変わっても、恨み晴らすからなぁぁぁぁああ!!)
乃木若葉に対する印象は純粋に男女の壁が妙に薄いイケメンムーヴかましてくる人位の印象だったのに今ではすっかりこんな感じである。
かと言って、仲が悪いわけではなく、むしろ良い部類に入るのがこの男の面倒臭いところである。
公園を見つけてそこのベンチに座り休憩を取る。
「うーん、どうすれば勝てるのだろうか?」
若葉と自分を比較する空、まずは男女の差これはあまり関係ないと思った。
次に経験値、多分これは大きな差だ。若葉は小学生時代からで空は中学生時代から、年単位の差は大きい。
「……考えても仕方ないか。っと電話」
スマホが着信して震えていたので相手の名前を確認せずに出てしまうところは空の悪癖である。
「もしもし、福寿です」
『あ、もしもしアタシだけど』
「……母さん助けて詐欺かな?」
電話を掛けてきたのは銀だった。一瞬銀も今回の件のグルでは無いかと考えた空だが、いや、銀にそんな隠密行動が出来る訳がない。と、十四年の付き合いになる幼馴染を信用していそうで信用していなかった。
『オレオレ詐欺じゃなくて?』
「確か少し前から母さん助けて詐欺も名前の一つとして使われだしたって話だった……んじゃなかったかな」
『へー……ってそうじゃなくて、旅行はどうなんだよ?』
「別に何も無いけど……?」
『は?』
銀は電話越しに幼馴染の鈍感さに呆れる。が、ブーメランである。
『……とりあえず確認な? お前、昨日はどういう状況で寝た?』
「宿で普通に寝たけど……?」
『園子は?』
「同じ部屋で寝てたよ。別の布団で寝たのに起きたら何故か同じ布団に居たけど……」
『oh……わかった。うん、わかったよ。お土産ちゃんと買って来いよ……』
「あ、うん。それは買ってくよ……?」
『じゃあな……アタシまで胃が痛くなってきそうだよ』
「あ、うん。またね」
そう言って通話を切った。お土産と一緒に胃薬を買っていってあげよう。あと、胃に優しい料理でも探そうと考え、ランニングしながら空は宿に戻っていった。
朝食の時間の少し前に起きた園子は寝起きの空を見るという目的の一つに失敗した事を悔みながら足湯へと向かっていた。
チャットグループの方は空から園子の寝顔が送られてきた、どうなっている。との抗議が絶えないが、泣きたいのは撮られた本人である。
「どうしてこうもうまくいかないんだろう……?」
どの口が言うのか。
「何かあったの……?」
ここで空が偶然足湯に来て隣で浸かっていたのだが自分の世界に入っていて気づいていない。そういう所が恋愛弱者たる所以なのだ。
「どうして私の恋はうまく行かないんだろうって……」
「え、恋……? してたの……?」
そういう所だぞ、福寿空。園子は相変わらず気づいてないので、そのままポロポロと言葉を零していく。
「かれこれ九年になるけど未だに振り向くどころか異次元に行ってる気がするんよ……」
「九年……随分長い事……」
うん? 九年? となると神樹館位からの付き合いか……相当だなぁ。と他人事の様に思っている辺り昔の失恋と妹の事が彼を歪めたのは間違いない。
「……一体誰だろう?」
空はとある人物に相談する為に足湯から出て宿に戻った。
『はい。もしもし?』
「空だけど、今時間大丈夫?」
『うん、大丈夫だけど』
「園子が九年も恋してるって言ってたんだけどさ……僕達以外に誰か付き合いあったのかな……?」
これが無自覚な嫉妬ならどんなに良かった事だろうか。しかし、素でこれなのだ。失恋のせいで自分には無いと思い込み、他の二人は色々あるので無いだろうと踏んでいてこれなのだ。
『しのぶれど 色に出でにけり あの恋は ものや思ふと 彼も問ふまで』
「え……急に何……? 遠回しな告白?」
『うーん、えっと、あー…………どっちかというと、暴露?』
「うん……? 銀の事なら知ってるけど?」
『いつもの現代語訳スキルは!? 第三者視点なの、分かるよね!?』
うーん……? と、首を捻って考えてみるも自分を勘定に入れない空に一生正答が出る訳もなく。
「分かんないから園子に直接聞いてくる」
『あ、うーん…………それでいいんじゃない? うん、日頃人にストレートとか言ってるからね。うん、きっとそれがいい、それがいい』
「早くそうすれば良いのに……じゃあ、とりあえず切るね。結果は後で伝えるよ」
『うん。……って、僕は言えたら言ってるって! あれは三ノ輪さんが僕のこと──』
「……ごめんね!(憤怒)」
いい加減にしろよお前ら。空は通話を切って、園子がまだ足湯に居るかもしれないと思って部屋のドアを開けると、ドアに耳を当てていた園子が目の前に居た。
「……何やってるの?」
「ぽあ~……」
「……あ、たまによくあるやつか」
剣道の終わりとかボーっとしてる時に、何故かこうなるのはまさか──。とここで気づけば東郷の胃痛が少しは良くなったのだろう。
「ぽあ~……」
しかし、これから現実に戻って来るのに結構時間が必要なのは知っていた空は暇だったので園子の周りに彼女が持参していたサンチョ四体を配置して写真を取って妹に送った。
「これ、他の人が見たらどう思うんだろう……? うん?」
妹から返信が届き最速で中身を見ると『仲良いの? 悪いの? どっち?』と来て、とりあえず『多分悪くはない』と返しておいた。
「「「「スイ・ムーチョ」」」」
「……くふっ、何この絵面」
サンチョのボイス再生機能を四体同時に鳴らして見たがやはり笑いが抑えられず吹き出す。
こんな様子の空は珍しいのだが、残念ながら園子はまだ固まってその様子に気づいていない。
「はっ……!? 坂上・サンチョ・三明がサンチョヶ原に!」
「何の話!? 三明ってサンチョだったの!?」
つまり三明は人とサンチョの茨の道を征こうとしている……? 昔見た番組でクリーニング屋の男の人と怪人の女の人がとても子供向け番組の展開じゃない結末を迎えていた記憶があるのだが気のせいだろうか?
「いや、そんな訳ないでしょ」
「ところで何か言いたい事ありそうだったけど何かあったの?」
そういえば何だっけ? と、坂上・サンチョ・三明とサンチョヶ原で聞こうとしていた内容を忘れてしまった空。園子が変な事言わなければ忘れなかった筈なのだが……。
「何だっけ?」
「もうちょっと頑張って!」
「……園子の何かだった気がするんだけど」
「そう、私の?」
少し期待してる表情をしてる辺りオメーわざとだな? 乃木園子、だからお前は弱者なのだ。
「あ、若葉ってどの位同性に人気あるのかな? だったかな?」
「多分違うよ、きっと違うよ。きっとそうだよ。はい、もう一回!」
「いや、絶対これだよ。何で若葉が試合する時に女性の方が見に来る人多いのかなって気になってたし」
「さかみーにそんな事聞いてたの!?」
「三明……? 三明、三明……? あっ!」
ようやくか、と胸を撫で下ろす園子
「園子、僕達以外に誰か好きな男の人居るの?」
無意識である。無意識に脳内で変換されているのだ、質が悪い。
「──っは!? 意識が数秒飛んでた……」
「……そんなに?」
というか流石に軽率だったかなと言ってから後悔する空だが、違うそうじゃない。
「え、あ、その……」
「うん……?」
今言えば、確実に終わるのだ。しかし──
「トシ坊ってさ、私の小説の内容って覚えてる?」
「うん。覚えてるよ」
九年間に何本か、園子の小説を読まされて200本にもなる。
その内容もモチーフになった人物も一つを除いて「園子から貰った物だから」という理由で、覚えてるのが福寿空なのである。
「じゃあ、それが答えだよ」
「答え……?」
しかし、覚えていない。というよりモチーフがわからないその一つは空と園子の初対面の時の実話である。
その話は何の事もない普通の一日を切り取っただけの物で、空からしても特に何も無い日だったが、園子にとってはそうでもなかったというだけの話。
「……何かあったっけ?」
「そう言うと思ったんよ……少し散歩してくるね」
どこか寂し気な表情で部屋を後にした園子を見て、決定的な何かを忘れている。それだけは理解した空はスマホで彼女が小説を投稿をしているサイトを開いた。
「……これ、か?」
一つだけ話がよく理解出来なかった物語。という事で目星はついていた、その話を今一度読んで空は──
「もしかして、園子ってあの時の……?」
遠い日の記憶を思い出して、園子の意図を理解した。
銀と三明曰く、山形から帰って来た二人は少しだけ雰囲気が変わっていたとの事。
Q:いつもと文体とか色々違わない?
A:今回は効果音くんが書きました。ちなみに大パロでのヒロインが園子なだけで、本編でのヒロインは未確定だそうです。