平和な世界と男子大学生。   作:天澄

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連続で投げてるので、前編読み忘れないように気を付けて。


長久の日常:後編

 唐揚げ丼を食べ終えた長久は予定通り道場へ行くため、まずは一旦家へと帰ることにした。

 流石に、大学にまでトレーニング関係のものは持ち込んでいない。一度、準備をする必要があったのだ。

 

 大学を出て数分。家に着いて時間を確認する。練習時間諸々考慮すると……すぐにでも家を出た方がいいだろう。

 長久は冷蔵庫からお茶を出し、軽く喉を潤してから支度を始める。

 

 大学用の荷物から、道場へ行くようの荷物へと切り替え、ドリンクやタオルなどの毎回更新が必要なものだけ用意する。

 ――問題なし。最後に玄関に置いてある竹刀袋を持って家を出る。

 

 若葉の道場まではさして遠くはない。とはいえ大学レベルで近いかと言えば、そこまででもない。

 自転車のロックを解いて道場へと走り出す。こういう時に咲也のバイクが羨ましい、と思ったりもする。

 しかし残念ながら長久にはバイクを買えるだけの予算はない。千景と遊ぶためにゲームソフトをよく買うので、時期によっては酷い金欠になったりするのだ。

 

 しばらく自転車を漕いでいればやがて道場に辿り着く。

 若葉の実家は昔から続く、所謂名家というやつだ。そのため土地も広く、個人が所有する道場に、自転車置き場まで併設している。

 中学時代からの付き合いなので若干感覚が麻痺していたが、改めて考えると若葉、というか乃木家やべぇ。

 

「こんちわーっす」

 

 こんにちは、ちわー、などなど口々に返事が返ってくる。長久がこの道場に通うようになって既に六、七年。顔見知りも多い。

 そんな人々の邪魔にならないように、道場内の端を通って友人たちの方へと長久は向かう。

 

「若葉、ひなた」

「む、今日も来たか長久」

「こんにちは、長久さん」

 

 片手を上げながら若葉とひなたを声をかける。ちょうど若葉が休憩に入っていて、そこにひなたがタオルなどを持ってきていたらしい。

 

「長久、今日の鍛錬はどうする予定だ?」

「ん、今日は……そうだな、剣道の方にでもしておくか。赤嶺とのトレーニングもあるから軽くになるけど」

「それなら少し私が見よう。休憩は長めにとる予定だったからな」

 

 助かる、と言って更衣室へと入る。

 乃木家の道場では剣道、居合、加えて講師は外部の人間になるが柔道など手広くやっている。そのため長久は日によって練習内容を変えていた。

 今回は剣道、ただし赤嶺との鍛錬も後々に待っているので防具を付けての本格的なものはなし。

 

 剣道着と袴へ着替えたら更衣室を出て、竹刀袋から竹刀を取り出す。

 道場内の空いている箇所へ移動したら、竹刀を置いて準備運動。赤嶺との鍛錬は続けざまになるので準備運動は念入りに。

 それが終われば続いて竹刀を持ち、素振りへと入る。左手の薬指小指を軸にして、右手の握りは軽く。

 すり足で右足を前へ。同時、振りかぶりながら左足を素早く引きつけながら竹刀を振り下ろす。

 それから今度は逆に後ろへと下がりながら。基礎的な素振りをゆっくりと繰り返すことで、自らの動きを確認する。

 正面、左右、上下……それぞれゆっくりと正しさを求めて、合間に若葉からのアドバイスをもらいながら三十本ずつ行ったら、一呼吸。

 続いて今度はその正確さを素早く出せるように、先ほどまでの動きを意識しながら今度はペースと本数を増やし、更に跳躍素振りを追加して行う。それぞれ百本ずつ、何セットかの繰り返し。

 

「ッ、フゥー……」

 

 流石に本格的な稽古に比べれば軽いとはいえ、百本を何セットもやれば体力も削れる。

 時間的に考えるならば……一度休憩を挟んでもう一度、と言ったところだろうか。

 場所を空けるため、道場の端へと移動する。若葉とひなたは……いない。道場内に見当たらないあたり、鍛錬に戻ったわけではなく何らかの用事があるのだろう。

 そんな風に道場内を見渡していると、若葉たちではない知り合いを見つける。何かを探すようにしていた彼女は、長久のことを見つけると小さく片手を振りながら近づいてくる。

 

「へーい、マスタードせんぱーい」

 

 奇怪な呼び名と共に近づいてきたのは、乃木は乃木でも園子の方だ。

 曰く、白芥子、芥子、からし。それでマスタードだそうだ。よくわからん。

 正直咄嗟に反応できないのでやめて欲しいのだが、まぁその結果更によくわからないあだ名を付けられても困るので仕方なく妥協していたのであった。

 

「おっす、園子」

「おっすおっすー」

「俺に声かけてきたってことは何か用事か?」

 

 珍しいな、と言うとそうなんよ、と返した園子はきょろきょろと周囲を見回したあと長久へと問う。

 

「トシ坊、知らない?」

 

 ……あっ。

 

「あ、あーあーあー……福寿、福寿少年ね……」

 

 思わず目線を逸らして頭を掻く。『ん? あいつなら俺と咲也の話聞いてアマゾンに行ったぞ?』とは流石に言えなかった。

 

「ごめん、知らない……うん、知らないかなぁ……」

 

 普通にしょんぼりする園子を見て、俺にもっと織斑一夏みたいな察しの悪さがあれば……! 長久は苦しんでいる友人を助けられない己の力不足を嘆いた。

 

「俺もちょっと、皆に聞いてみるよ。なんか分かったら連絡する」

 

 うん……と静かに去っていく園子を見て、長久は結局人一人が救える人間には限界があるのだな、と察した。

 

「ん、あれは園子か?」

「長久さんに話でもあったんですか?」

 

 ああ、まぁ……と言葉を濁して答える。原因の一端を担っているためにはっきりとは答えられなかった。

 

「……ふむ、なにやら事情がありそうだし深くは聞かないでおこう」

 

 そうやって気をつかわれてしまうと、やましいところがある長久としてはとても心苦しい。

 長久がひたすら微妙な顔をしていると、そういえば、と話を切り替えるようにひなたが声を出す。

 

「長久さんはその後千景さんとはどうですか?」

「ンンッグェ!?」

 

 突然の話題に思わず妙な咳き込み方をしてしまう。いや、本当に妙な咳になってしまったのだが。

 

「ば、おまっ、ひなたァ!!」

「あら、どうかしましたか?」

 

 そう言いながらチラリと首を傾げている若葉を見るあたり、この女確信犯である。

 しかし如何せん若葉がそこら辺の事情を知らないので、流石に恥ずかしくてはっきりと文句を言うことができない。

 この女は以前もそうだったのだ。周りにろくな恋愛相談できる相手がいなかったために、仕方なしにひなたに恋愛相談したら何故かニコニコと笑みを浮かべてばかり。

 結局明確なアドバイスも得ることもできず、その割には定期的にこうして調子を聞いてくるのだから厄介だ。

 なんやかんやで長久はひなたが一番苦手な知り合いかもしれなかった。

 

 

 

 

「お、来たね長久さん」

「来ましたよ長久さん」

 

 いえーい、と赤嶺とハイタッチする。本日も赤嶺友奈のマッスルトレーニングのお時間である。

 

「じゃあ今日も筋肉チェックいこうか!」

「毎回言ってるけどそれ必要か……?」

「必要必要っ」

 

 音符を幻視しそうなほどの上機嫌の赤嶺を止めるのも忍びなくて、結局毎回長久が折れるまでがセット。

 何が楽しいのかだけは未だに理解できないが、まぁ仕方ないと長久は上着を脱ぐ。

 

「今日は外だからスポーツウェアの上からな」

「んー……ま、仕方ないね。我慢するよ」

 

 我慢してるのはこちらなのだが、と思いながら若干怪しい手付きで触ってくる赤嶺をジト目で見る。

 しかし赤嶺は長久の筋肉に夢中なようでそんな長久に気づいた様子はない。長久は思わず呆れの溜息を吐く。

 

「んー……長久さんの筋肉はやっぱりいいねぇ。無作為に付けたんじゃなくて、ちゃんと目的があって鍛えられてるのがわかる」

 

 特にここ、ここがいいと赤嶺が目を輝かせて擦ってくるのは肩の部分だ。

 

「剣道やってるから足腰もいいんだけど、長久さんの場合は三角筋がいいよ。多分本人の体質なんだろうね、はっきりと筋肉が見えて綺麗だと思う」

 

 たかが筋肉、とはいえこうも褒められると照れてくる。しかし今度は打って変わって顔を顰めた赤嶺が長久の胸元を見つめだす。

 

「でも相変わらず胸筋が他に比べると弱いね。多分これも体質かなー。ちゃんと重点的に鍛えてる?」

「やってるよ、ちゃんと」

 

 そこら辺うるさい奴がいるので、とは流石に黙っておいた。言えば多分、妙に絡まれるのは簡単に予想できた。

 とはいえ実際、長久としても中々胸筋がつかないのは悩みどころだ。なまじ他の部位にしっかりと筋肉がついているため、バランスが悪いのは気になっていた。

 だから長久は溜息一つ、苦笑しながら赤嶺へと言う。

 

「ま、俺一人じゃダメだったってことで。今日もよろしく頼むよ?」

「任せてよ、理想的な肉体を作ってあげるから」

 

 へっへっへ、と笑う赤嶺に、こいつにとっての理想の肉体にされるのだな、と察する。

 だが、まぁ。悪いことではない。赤嶺の筋肉への熱意は正直引くレベルではあったが、だからこそその知識はプロフェッショナルじみている。

 悪い方には転がらない。最低限、それだけの信頼はできた。

 

「じゃ、いつもどおり走り込みから行こっか」

 

 いつもどおり、つまり集合場所からジムまでのランニング。そこから到着したジムでのトレーニングというプランだ。

 ジムでのトレーニング内容は、先程のチェックを踏まえた上で毎回調整が入る。

 赤嶺自身に思惑があるとしても、そこまでしてもらっているとなれば長久としても気合が入るというもの。

 自分自身のためにも手抜きはしない。よし、とスイッチを入れて長久は赤嶺と共にジムへ向かって駆け出した。

 

 ――そうして、赤嶺とトレーニングをすることしばらく。

 

「ふぅー……いい汗かいたね!」

「お、お疲れ様です……」

 

 流石に道場での鍛錬に加えてジムでのトレーニングも加われば、いくら毎週やっていると言えど疲労は溜まる。というか負荷をかけなければトレーニングの意味はない。

 そのため単純な疲労からグロッキーな長久と、疲れながらも未だ元気そうな赤嶺と対象的な二人はジムのロビーで言葉を交わす。

 

「んー……剣道でもう負荷がかかってる部分は酷使しないように避けたけど。まだ辛い?」

「単純な疲れだから放っておいて……」

 

 ここから家に帰るのかと思うと長久は気が滅入るが、それでも長久には次の約束があるため帰らなければならない。

 どうにかこうにか、数度深呼吸を繰り返したりして状態を整える。それから赤嶺に別れを告げて帰路へとつく。既にジム内でシャワーを浴びているので、身体が冷える心配もない。

 

 疲れた身体を引きずるようにして、二十分ほど。途中、道場へと自転車を回収しに行ったため、少しだけ真っ直ぐ帰るよりも時間がかかってしまうのはご愛敬。

 

 鍵を開け自宅の中へ。ただいま、と靴を脱ぎながら呟き、それに返事がなかったことでようやく今日は咲也がいないことを思い出す。どうにも咲也がいるのが当たり前になっている節があった。

 いけないな、と苦笑する。咲也は友奈という彼女がいるのだ、あまりここに入り浸るのもよくないだろう。今度強く言って聞かせなければ。そう心に決めたのは何度目だったか。

 

 玄関に竹刀袋を置いて、それから手洗いうがい。そこら辺の衛生面については、咲也……というかその保護者の東郷のせいでみっちり仕込まれている。

 それを終えれば、次はキッチンへ。はて今日は食材が余っていただろうか。

 長久自身は料理はしないが、咲也がするため咲也が帰った翌日などは食材が余っている場合などがある。そうなれば流石に勿体無いのもあって、長久も簡素な料理くらいはするのだが。

 

 何もなし、思わずそう呟いて、長久はコンビニに行かなければならないことに気づいた。

 ジムから帰ってきたばかりで面倒ではあるが、一度座れば数時間立ちたくなくなる自信が長久にはあった。そのため仕方無しに長久はコンビニへ行くことにする。

 幸いにも自宅からコンビニまではそう遠くない。十分程度で買い物を済ませ、家へと戻ってくる。

 

 そうしたら次は食事だ。買ったきたコンビニをデスクの上に持ってきて、PCを起動する。

 長久の家は昔から食事時はテレビを見る家庭だった。その癖は今も変わらず、けれど最近はテレビで好みの番組がやっていないためパソコンで動画見ながら食事を取るのが日常だった。

 見る動画は、基本的にゲームをプレイしている動画、所謂実況プレイ動画というやつになる。特に、長久は面白さよりもプレイも解説も上手い動画を好んで見る。それは単純に参考にするためだ。

 

 夕飯を食べ終えた長久は、PS4を起動してから後片付けに入る。長久の持つPS4は初期型であるため、劣化も相まって起動が遅い。

 まぁ後片付けの時間を全て使うほど遅いわけではないのだが。待つのもアホらしいという話だ。

 

 今日は特に洗濯物もなし、済ませておくべき家事もない。

 PC前に座って通話アプリを立ち上げる。通話相手は千景になる。

 

「うぃーっす」

『ん、じゃあ今日もやるわよ』

 

 うーん、テンポが早い。とはいえ、毎日やっていれば早くもなる。

 長久はとあるゲームを起動しながら、どうせ先に始めてるだろうと千景に今日のクイックマッチの仕様について尋ねる。

 

『今日は港湾基地、コスト450のエスマね』

 

 なるほど、と一つ頷く。それならと使う機体を自分と、千景の方も何となく予想を立てる。

 それからゲームを起動しながら、軽い相談を千景とする。

 

「千景はどうせ四号機だろ? でもメンバーに支援いなかった場合はどうする?」

『私がマドロックに乗るからあなたは自由な機体で大丈夫よ』

 

 それは長久としては助かる提案だった。千景と比べるとやり込み具合の関係上、長久の手持ちの機体は少ない。そのため兵科の調整は千景の方でやってもらえた方が長久としてはありがたかった。

 加えて、千景の方が乗りこなせる機体が多いのも一因だ。

 

「んじゃ、俺はエーオースで」

『了解』

 

 そうして言葉少ななに試合を開始する。

 このゲームに関しては千景はサービス開始から、長久も約半年前程からやっているため慣れたもの。適度に連携を挟みつつ、試合を進めていく。

 基本的に野良ともチームになるため、個人の実力だけで勝負を決めるのは難しいが、それでも流れを傾ける程度ならできる。

 なので千景とやる時は勝率はある程度安定しており――今回もまた、無事勝利することができた。

 

 ……夜に二人でゲームとか、少なくとも色恋沙汰の気配があることはやってないよなぁ。

 そう思いつつも、長久としては好きな相手とサシで通話できてる事実が嬉しかったりもする。

 まぁ少なくとも悪くは思われてはいないのは確かなのだ。

 

「お疲れ様、今日も無事勝率はキープできたな」

『お疲れ様。私はまだ続けるけれど。……あなたはもう寝るのよね』

「うん……まぁ」

 

 疲労もあって、明日起きれなくなるのが怖いので寝るつもりではあった。

 しかし……こう、なんだ。ちょっと寂し気な声出されると、困る。

 

「……けど、眠くないからもうちょっとやろうかな」

『……! どうする、私は別のゲームに移ってもいいけれど』

 

 ……意思が弱いとは、言わないで欲しい。

 

 ちょっとトーンが上がった辺り、喜んでるのは分かる。それが二人でだからなのか、単純にゲームができるからなのか。どちらかは長久には分からないが……まぁ、喜んでるしいいだろうと納得しておく。

 

 ……まぁ流石に、大学入ってから約二年間も好意を抱えたままというのは情けない話だ。

 いい加減重い腰を上げるかと、長久は密かに腹を括るのだった。




Q:日常描写とか、一番最初にやるべき話だったのでは?
A:せやな。だから多分、しばらくしたら順番は入れ替える。
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