デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
士道が天香の事を分かった風に言われ、十香によって抑えられていた怒りが燃え上がったのか、天香が憤然とベンチから立ち上がった瞬間、彼女の苛立ちを示すかのように、彼女の身体から不可視の衝撃が発される。ベンチは拉げ、地面が陥没し、近くにあった柵が弾け飛んだ。士道も例に漏れず、その場に吹き飛ばされてしまう。
「ぐ・・・・!」
士道は吹き飛ばされ、地面に転がりながらも受け身を取っ
て即座に立ち上がり、天香に向き直った。そんな士道を見てか、天香が不機嫌そうに目を眇めてくる。
「不遜と愚弄を許すのもここまでだ。ソコに直れ。その素っ首、落としてくれる」
言って右手を掲げると、ソコに漆黒の光が結集し、巨大な剣ーーーー天香の持つ剣の魔王〈暴虐公‹ナヘマー›〉が顕現された。
「く・・・・!?」
その禍々しいまでの霊力に、士道は思わず眉根を寄せた。
今日1日過ごしてみて、士道は、天香が本気で自分を殺しにかかる事は無いのでは無いかと思っていた。だが今天香から発されているのは、紛れも無く明確な『殺意』である。
士道の見立てが間違っていたのか、ソレとも天香が心変わりする程の事を士道が言ってしまったのか。どちらかは分からなかったけれど、このままでは本当に殺されてしまいかねない。士道はキッと視線を鋭くすると、『コネクトリング』を取り出して、ウィザードライバーに読み込ませる。
[コネクト プリーズ]
デートの時には置いておいたリングのチェーンを取り出してズボンに付けてから、[ディフェンドリング]を読み込ませた。
[ディフェンド プリーズ]
今士道が出せる魔力をかなり込めて、魔法陣の防壁を出現させた。
「ふん。『彼』のいない貴様ごときが、私の〈暴虐公‹ナヘマー›〉とぶつかり合おうとは良い度胸だ」
天香は冷たい視線のままそう言うと、〈暴虐公‹ナヘマー›〉を振り上げ、一瞬で士道の魔法陣を斬り裂こうと振り下ろす。
「く・・・・っ!」
一直線に振り下ろされた剣撃を、魔法陣で受け止める。魔力と霊力のぶつかり合いで、辺りに凄まじい衝撃波を発した。
「ほう、止めるか。だが、その程度ではいつまで保つか怪しいものだな」
「くーーーーおぉぉぉぉっ!」
士道は今にも斬り裂かれそうな魔法陣に更に魔力を流し込みながら、指に[リフレクターリング]を嵌めてウィザードライバーに読み込ませる。
[リフレクター プリーズ]
魔法陣が鏡のように反射すると、〈暴虐公‹ナヘマー›〉を弾き飛ばした。
無論、そんな反射のようなもので天香に通用するとは思っていない。けれどいつまでも天香の攻撃を受け止め、反射する事ができるなんて思っていない、士道から攻撃を仕掛けざるを得ない。
[ドライバーオン プリーズ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
「変身ッ!!」
[フレイム プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!!]
士道はウィザードに変身すると、ウィザーソードガン・ソードモードを手にすると、ソードガンに『フレイムウィザードリング』を読み込ませた。
[フレイム・スラッシュストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!]
ウィザード‹士道›はソードガンの刀身に炎を纏わせ、天香に肉薄して、刃を振り上げた。
がーーーー。
「・・・・ッ!?」
ウィザード‹士道›は息を詰まらせた。
ソードモードの刃を振り下ろした瞬間、天香が両手から力を抜くと、〈暴虐公‹ナヘマー›〉を下ろしてみせたのだ。
まるでーーーーウィザード‹士道›の攻撃を受け入れるかのように。
「ーーーーーーーー」
ウィザード‹士道›は慌てて剣尖を逸らそうとしたが、1度振り下ろされたソードガンの刃の軌道を逸らすのは困難を極めた。ドラゴンが入ればウィザード‹士道›の身体を動かして止めてくれたろうが、今ソレは不可能。炎の刃が、無防備な天香を袈裟懸けにーーーー。
「ーーーーシドー!」
「うゎっ!?」
が、その瞬間。
そんな叫びが響いたかと思うと、ウィザード‹士道›は突然右方から体当たりを喰らい、その勢いに押されるように、地面に押し倒された。
「ったた・・・・と、十香?」
士道は突然の事に驚きながらも、自分に抱きつくような格好で突進してきた少女の名を呼んだ。余程慌てていたのだろう。彼女が手に持っていたソフトクリームが辺りに散乱してしまっていた。
「シドー、何があったのかは分からんが、落ち着いてくれ。天香は悪い精霊ではないのだ。天香がこの世界を創ったのはーーーー」
「十香」
天香が、十香を制止するように声を発するが、十香は構わず続けた。
「ーーーー“天香がこの世界を創ったのは、全て、私の為なのだ”」
ー真那sideー
「ーーーーはぁ、こりゃまた派手にやりやがったものですね」
〈仮面ライダービースト〉に変身できない真那は、CRユニット〈ヴァナルガンド〉をその身に纏い、バックを手に持ち、空中に静止して眼下に広がっている、まるで1000年分の天変地異が纏めて来たのでは無いかと思わせるような、盛大な破壊跡を見ながらホウと溜め息を吐いた。因みに仁藤は、「確認しておきたい事がある」と言って、〈国安0課〉に戻っていた。
木々は薙ぎ倒され、地面は抉られ、整備された運動場や広場は最早その面影さえ残していない。事情を知らぬ者がこの光景を写真に収め他者に見せれば、『怪獣映画』、『種まき前の畑』、『チョコシリアル』、『ハルマゲドン』とでも評されそうな有様である。つい数時間前まで、緑溢れる自然公園とは思えない惨状だ。
「十香さんの力を封印さえできれば、世界ごと元に戻るって話ではありましたのが・・・・いやはや何とも」
精霊と言う存在の強大さと恐ろしさを認識した。下手をすれば魔獣‹ファントム›よりも危険なのかも知れないと、真那はもう1度吐息した。
とは言え、その激戦の賜物と言うべきか、周囲には濃密な霊力の残滓が充ち満ちていたのだ。
「・・・・っと、そうでしたそうでした」
真那は、何かを思い出したように眉を揺らした。
精霊達のあまりに見事な暴れっぷりに、暫しの間見とれてしまっていたが、真那が自然公園上空にやって来たのには、別の目的があったのだ。
霊力を使い尽くしてしまった精霊達の捜索である。
戦闘終了の報せを受けてから、真那は〈ラタトスク〉の機関員達と連携して精霊達を保護していたのだが・・・・まだ見つかっていない精霊が数名、いたのである。
脳内に指令を発して、〈ヴァナルガンド〉に搭載された顕現装置‹リアライザ›を発動させる。すると真那の網膜に、辺り一帯のマップが投影されたが、元の地形と随分様変わりしてしまっているから、大凡の座標しか当てにならないのだが。。
「(・・・・はぁ。こう言う時程、キマイラ達の感知能力が優れている事を認識するでやがりますよ。ソレに何か・・・・妙に物寂しい感覚がありやがりますな)」
元々、ウェスコットの気まぐれまがいに与えられた魔獣達であったが、コレまで数多くの戦いや任務を共にこなしてきた相棒達がいない現状に、真那は気落ちしそうになっていた。
「・・・・っと、おセンチに浸るのは後回しでやがりますね。ん〜と。ーーーーお、いましたいました」
真那は空中で身体の向きを変えると、スラスターを駆動させて、アイコンの示す場所へと、一直線に降下していった。、そして地上に至る寸前で身体を捻り、地面に降り立つ。その風圧に、辺りに残っていた木々の葉がバサバサと揺れた。
「さてーーーー」
言いながら、ソコにいた精霊の元に歩み寄っていくと、〈ラタトスク〉司令官・五河琴里が、霊力を失ったあられもない姿で、落ち葉の上に横たわっていた。
「琴里さん、琴里さん。大丈夫でやがりますか」
肩を揺すると、琴里は小さなうめき声を上げた後、ゆっくりと目を開けた。
「ん・・・・真、那・・・・?」
「はい。お疲れ様です」
真那がニコリと微笑みながら言うと、琴里は辺りを見回し、自分の姿を見下ろしてーーーーそのままバッと起き上がり、両腕で身体を覆い隠す。
「ま、真那、アナタ一体何を・・・・!」
「落ち着きやがって下さい琴里さん。寝惚けてらっしゃる」
「え? あ・・・・」
言われて、状況を思い出したのだろう。琴里が再度自分を見下ろしてから、大きく溜息を吐いた。
「ああーーーーそっか。負けたのね、私」
「残念ながら、そのようです」
真那はそう言いながら、手にしていたバックから着替えを1着取り出すと、琴里に手渡してやった。
「どうぞ。暖かくなって来たとはいえ、いてまでもそんな格好じゃ風邪を引いちまいます」
「ん・・・・ありがとう」
「いえいえ。それより、立てますか? もう皆さん集まっておられますよ。ーーーーああ、勿論捜索作業は女性機関員のみで行ったのでご安心下さい」
「抜かりないわね」
琴里はそう言って笑うと、服を着ながら尋ねる。
「ーーーーそう言えば、結局最後まで勝ち残ったのは誰だったの? 折紙? それとも六喰? いや、あの場にいなかった精霊って可能性もあるのか。だとすると・・・・狂三?」
少し不安そうな色を覗かせながら、琴里が言ってくると真那は目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。
「勝者はーーーー『四糸乃さん』だそうです」
「ーーーーえっ?」
意外な名が真那の口から発せられ、琴里は以外そうに目を丸くした。
「四糸乃? 四糸乃って・・・・あの四糸乃?」
「ええ。まあ、真那も結果を聞いただけですから、真那の知る四糸乃さんがいらっしゃるのなら、その方かも知れねーですが」
自分でもマヌケな質問をしていると自覚する琴里に、真那が冗談めかした調子で答えると、驚いたような顔をしながら腕組みする琴里。
とはいえ、真那もその気持ちは理解できる。実際、先程戦いの結果をマリアから聞いた時、似たような反応を示してしまった。恐らく〈フラクシナス〉にいる神無月達も同じ気持ちであろう。
別に、四糸乃が他の精霊に比べて力が劣ると言っている訳ではない。氷と冷気を操る四糸乃の〈氷結傀儡‹ザドキエル›〉は、他に見劣りしない、非常に強力な天使まであり、戦い方によっては優勝の可能性も高いのは確実である。
しかし、四糸乃は精霊の中では最も争いを好まない温厚な性格と穏やかな物腰を見ると、『バトルロワイヤルで優勝』の文字がすぐに結びつかなーーーーイヤ、前に水着選びで優勝したダークホースな所があった。
「そっか・・・・四糸乃が」
「ええ。マリアも驚いてやがりました」
大仰に頷いてから肩をすくめる。なお余談だが、途中で二亜がやられてしまい、〈フラクシナス〉にいたマリアの個体も消えてしまい、マリアは艦橋のスピーカーから愚痴を漏らしていた。
【二亜には暫くオヤツとオツマミは与えません】
と、告げていた。
「さ、こちらへ」
「ええ・・・・」
真那は琴里の手を取って立ち上がらせると、そのまま琴里の身体を随意領域‹テリトリー›で包み込み、空を飛んでいった。
そしてそのまま低空飛行する事1分。琴里と同じように保護された精霊達の元へと辿り着く。周囲には〈ラタトスク〉の女性機関員達の姿もあった。今は皆に着替えに履き物、後温かな飲み物などを配っていた。
「あっ、真那さーん! コッチです、コッチー!」
真那と琴里の接近に気付いた美九が、大きく腕を踏むてくる。何やらその左手には七罪(全てを諦めたような虚無の貌)らしきものを捕まえている気もしたが、取り敢えず真那は気にしない事にして、再び地上に降り立った。
「ハイ、皆。ご機嫌いかが」
琴里が皆の元に歩み寄りながら、フッと笑う。するとソレに応えるように、精霊達もまた肩をすくめたり笑みを返したりした。
「まあまあであるな。勝ち残れなかったのは残念ではあるが」
「首肯。本気でぶつかり合えたのは中々気分が良かったです」
「チックショー! やっぱ不公平だってこんなーん! 今度はペーパーテスト勝負にしようぜ妹ちゃーん!」
等と、1部二亜のように悔しそうにする精霊もいたものの、概ね皆、全力を出し切って清々しい顔をしていた。琴里が小さく息を吐き、四糸乃に顔を向ける。
「結果、聞いたわよ。ーーーーおめでとう、四糸乃」
「あーーーー」
琴里の言葉に、四糸乃は小さく身体を震わせると、恐縮するように肩をすぼめた。
「ありがとう・・・・ございます。でも・・・・」
「勝者はもっとドンと構えやがるものですよ、四糸乃さん。自信を持って下さいをアナタは精霊さん達の中で最後まで勝ち残ったんです」
真那が言うと、四糸乃は困惑したように眉根を寄せた。
「あの・・・・本当にーーーー私の勝ちで良いんでしょうか?」
「え?」
「・・・・四糸乃!」
と、ソコで、虚無の貌となっていた七罪に生気が戻り、美九の魔の手から逃れて声を上げた。
「な、七罪さん・・・・」
「・・・・まだ言ってるの? 良いじゃない。勝ちは勝ちよ。“アイツ”もそう言ってたでしょ」
「は、はい・・・・」
七罪に言われ、四糸乃が躊躇いがちに頷く。そんなやり取りに、真那は首を傾げた。
「『アイツ』ーーーーとは? 一体何がありやがったんで?」
「ソレは・・・・」
と、四糸乃が言いかけた所でーーーー。
「ーーーーきひひ、ひひ」
その不吉な笑い声が、何処からか響いてきた。
「・・・・! 時崎狂三ーーーー」
真那が警戒と共に名を呼ぶと、地面に影が蟠り、ソコから、黒と紅のドレスを纏った狂三が姿を現した。
「ええ、ええ。皆さんの保護、ご苦労様ですわ、真那さん」
「アナターーーー」
その姿を見て、真那は眉根を寄せた。
狂三がまだ、霊装を纏っていたからだ。この精霊バトルロワイヤルの参加者で、優勝者は四糸乃だ。つまり狂三もまた、参加者の誰かに敗れ、霊装と天使を顕現できない状態になっている筈なのだ。
そんな真那の思考を察しているのか、狂三が唇を笑みの形をする。
「ーーーーご安心下さいまし。わたくしは既に敗北しておりましたよ。四糸乃さんの勝利にケチを付けるつもりはございませんわ」
「なら、その身体のヒラヒラは一体何だと言いやがるんです? 敗北の条件は、『霊力を使い果たして、天使及び霊装』が顕現できなくなる事では?」
「ええ、ええ。その通りでしてよ。そしてご覧の通りーーーーわたくしは四糸乃さんに敗れ、“書の天使〈囁告編帙‹ラジエル›〉と〈神威霊装・2番‹ヨッド›〉を顕現できない状態にありますわ”」
「・・・・何ですって?」
狂三の言葉に、真那は目を細める。
言われてみれば、狂三が纏っているのは、今までのーーーー二亜の霊結晶‹セフィラ›を取り込む前の、ゴシックロリータ調のドレスであった。
「・・・・・・・・」
確かに、ルールの捉え方によってはそう判断できない事もないのだが、勝つ為ならばまだしも、“敗ける為にルールの穴を衝く”等と言う行動自体が、真那には理解できず、不愉快そうにフンと鼻を鳴らす。
「・・・・詭弁を弄してくれやがりますね。一体何のつもりですか」
「うふふ、至極単純な理由でしてよ。わたくしには、バトルロワイヤルが終わっても、霊力を残しておく必要があったのですわ。ーーーー“やり残した事”を、成す為に」
「やり残し事?」
「ええ、ええ」
真那が眉を歪めながら問うと、狂三は不敵に微笑んで見せた。そして影の中から、長さの異なる2挺の古式銃を顕現させ、真那に向けてくる。
「どうせなら、キマイラさん達も居ればもっと良いのですがーーーー真那さんと、キチンと決着を付けたいのですからね」
言って、狂三が笑みを濃くする。そのまさかの行動に、精霊達がざわめいた。
「狂三・・・・!?」
「は・・・・な、何してんの?」
「そうじゃぞ。仲間に銃を向けるとは何事じゃ」
精霊達が口々に言う。しかし狂三は薄い笑みを消す事無く、真那から視線を外す事も無かった。
「・・・・抜いた以上、冗談じゃあ済まねーですよ」
「あら、あら。もしやまだ冗談で済ませてくれるつもりでしたの? 〈国安0課〉に所属されたからか、お優しくなりましたわーーーーねッ!」
叫びと共に、引き金が引かれる。狂三の構えた長銃と短銃から、連続して影を固めたような漆黒の弾丸が放たれた。
「ふッーーーー」
しかし、真那とてビーストキマイラを得て〈仮面ライダービースト〉になる前から、CRーユニットを用いて『DEMインダストリー』の『世界最強の魔術師‹ウィザード› エレン・メイザース』の次ぐ実力者である『アデプタス2』の称号を持っていた強者である。随意領域‹テリトリー›によって強化された視覚と反射速度を以て銃弾の軌道を捉え、冷静に身体を沈めて躱した。
「いいでしょう。皆さんの戦いを見て身体が疼いていやがった所です。久しぶりに魔術師‹ウィザード›として相手してやります!」
真那は弾丸を避けた勢いのまま地を蹴ると、一瞬で狂三に肉薄。右腕のレイザーエッジ〈ヴォルフテイル〉を展開し、狂三の首目掛けて横薙ぎに振り払う。
「きひーーーーッ」
が、狂三とて数多の死線をくぐり抜けてきた百戦錬磨。その1撃を予見していたのか、大きく身を反らして紙一重で躱して見せた。
とはいえ、真那も多くの戦いを経験してきた戦士。その程度の動きは予測済みである。姿勢の崩れた狂三に追撃を放つべく、左手の〈ヴォルフファング〉を展開ーーーー。
「な・・・・!」
ソコで、真那は息を詰まらせた。
随意領域‹テリトリー›によって極限まで研ぎ澄まされた意識の中、地面に蟠った自分の影から、チラッと銃口が覗くのが見えたのだ。
慌てて身を引こうとするも、遅い。次の瞬間放たれた影の銃弾は、ビーストのアーマーを纏っていれば防げていたが、今は生身、乾いた音と共に真那の首元に影の銃弾が突き刺さった。
「くーーーーあ・・・・ッ!」
苦悶と共に、真那はその場に崩折れると、琴里達が駆け寄ってくる。
「真那!」
「だ、大丈夫ですかぁ!?」
心配そうな精霊達の声の中、地面から『もう1人の狂三』が姿を現す。
「うふふ。キマイラさん達がいなくて腑抜けたんですの? こんな初歩的な手に引っかかるだなんて、真那さんらしくありませんわね」
「でも真那さんが本気ならば、わたくしの首は既に胴ち繋がっていませんわよ。本当にわたくしを殺るつもりなら、もう1歩足を踏み込んでいた筈ですわ」
元いた狂三(分身体)が、自分の首を撫でながら言う。すると狂三(本体)が、驚いたように目を丸くした。
「ーーーーあら、あら。と言う事は、わたくしを殺さず無力化するおつもりでしたの? 本当にーーーーお優しくなりましたわね」
言って狂三(本体)が、吐息を零しながら言った。
「・・・・っ、ーーーー」
そんな声を聞きながら、真那は震える手で、自分の喉元に触れた。
「(ーーーー痛みも、失血もーーーーねぇです・・・・! と言う事は、通常の弾丸ではなく、天使の能力の弾丸、ならば一体どの能力の弾丸をーーーー)」
と、分析していたその時。
「・・・・あ、あ、ああああああああ・・・・っ!?」
真那は頭の中身を滅茶苦茶にシェイクされるかのような感覚を覚えた。凄まじい目眩と嘔吐感が、怒涛の如く押し寄せてくる。視界が明滅し、針を刺されるかのような頭痛と虚脱感が身体を襲った。
「真那! 真那! っ、狂三・・・・! あなた真那に一体何をしたのよ!?」
琴里が声を荒げるが、狂三は笑い声を上げる。
「言ったではありませんの。『キチンと決着を付けたいのですからね』、と。ーーーーでも、拍子抜けですわね。わたくしを殺そうとしない真那さんだなんて」
「アナタ、一体何を言ってーーーー」
「ーーーーあああああああああああああああーーーーッ!」
琴里の言葉を遮るように、真那は咆哮じみた叫びを上げた。
そうして漸く、頭の中を引っ掻き回されるかのような感覚が収まっていく。顔中に汗を滲ませながら、力なく地面に突っ伏す。
「真那!」
琴里が肩を揺すってくる。真那はどうにか呼吸を整えてから、ヨロヨロと顔を上げた。
「琴里・・・・さん・・・・」
だが、真那はソコで『違和感』に気づく。
ーーーー身体が重い。まるで全身に鉄の塊を括り付けられているかのように、手足の自由が利かない。
と、ソコまで考えて真那は思い直し、理解した。今の真那は、全身に金属の塊のCRーユニットを纏っており、自由に動かせていたのは、身体全体を随意領域‹テリトリー›で覆っていたからだ。つまり、狂三の攻撃は、『随意領域‹テリトリー›生成を阻害する弾丸』であったという事である。
「・・・・・・・・ッ、・・・・」
ソコで、真那は1つの可能性に思い至り、刺すような視線で狂三を見上げた。
「うふふ、ビースト‹獣›らしく、無様に地べたを這う姿がとても良くお似合いですわよ?」
「・・・・何処かの天才物理学者で言うとーーーー最悪です。よりによって、“アナタに助けられるなんて”」
真那がニッと唇を歪めながら言うと、狂三もまた、楽しげに笑みを浮かべてきた。
「ーーーーあら、あら。流石は狼さん。余す所無く抜いたつもりでしたけれど、牙が1本、残っていたようですわね」
冗談めかすような声を聞きながら、真那は意識を失い、ガクリと頭を下ろした。