Fate/GRAND Zi-Order   作:アナザーコゴエンベエ

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最後の希望1431

 

 

 

 一つ、二つ、三つ―――

 流れるような動作から繰り出す槍が、立て続けに海魔を貫いて絶命させる。

 喰い破られた体が返り血の代わりに噴き出す体液。

 溶解液の噴水を悠々と躱しながら、次の標的は、と視線を巡らせ―――その異常に気付く。

 

 周囲で増殖を続けていた魔物どもが、次々と消えていく。

 召喚魔術でこの世界に繋ぎ止められていたものの完全な消失。

 この事態に対する答えは一つしかない。

 

 その様子を見て一息つき。

 ランサーがほぐすように首を回しつつ、槍を引き戻した。

 そのまま手にしていた朱い槍を消し去った彼は、その手で自分の肩を叩く。

 

「やっと終わったか。流石に手間だったな」

 

 何より、数ばかりで面白みがなかったのがいけない。

 やれやれ、なんてぼやきながら肩を回して。

 そうしてマスターたちのいる方向へと視線を送り、小さな声で呟く。

 

「これで解決なのかね。……ん?」

 

 そんな中、彼の目の前に突然現れる魔法陣。

 ゆっくりと迫ってくるそれを見て、魔力の質に眉を軽く上げる彼。

 その動く魔法陣は、珍妙なものを見る顔をしているランサーの姿を呑み込んでいった。

 

 

 

 

 津波の如く一斉に押し寄せてきた周囲一帯の海魔の群れ。

 それらをひたすらに斬り伏せていたジークフリートが動きを止める。

 

 蠢いた魔物の海が、光に還りだす。

 ジル・ド・レェが召喚していた海魔たちが、自然消滅し始めたのだ。

 先に送り出した彼女らが目標を達成したのだろう。

 

「―――終わったか」

 

 崩れていく海魔を前にして、ジークフリートは軽く一息つく。

 そのまま彼はバルムンクを地に突き刺し、終結した戦場へと視線を向け―――

 そこで、彼の目前に魔法陣が出現する。

 

「む?」

 

 感じ取れる魔力はマスターとして契約した少年のもの。

 だからこそどんな反応を取ればいいか分からず困惑して。

 それが徐々にジークフリートに近づいてきて、彼は大人しくその中へと呑み込まれた。

 

 

 

 

『聖杯の回収完了を確認、今度こそ間違いない!

 これでこの特異点は、自動的に修復に向かうことになるだろう。

 さあ、みんな! レイシフトによる帰還を開始しよう!』

 

「了解しました、ドクター」

 

 そう言って、ロマンからの通信は途切れた。

 向こうでレイシフトによる帰還のための操作に入ったのだろう。

 その様子を見ていたジャンヌが、残念そうに呟く。

 

「もう行ってしまうのですね」

 

「そうだね……ドクターも少しくらい、みんなで話す時間くれればいいのに」

 

 立香がそう言って、ジャンヌに笑いかける。

 そんな彼女の背中にするりと清姫が縋り付いてきている。

 今まで立香の肩に乗っていたフォウが、それの来襲に頭へと避難した。

 

 半ば慣れてきたその蛇ムーブを受けながら、立香は彼女の頭を撫でる。

 撫でるたびに清姫の笑みは深く深くなっていく。

 

「ええ、ですがご安心ください。わたくしはちゃあんとますたぁに着いていきますので」

 

「えっ、できるの?」

 

 ぎょっとする立香。

 マシュが流石にそれを否定する。

 

「残念ですが……レイシフトでカルデアに帰還できるのは、システム・フェイトによるサポートを受けて召喚されたサーヴァントのみです。清姫さんをレイシフトさせることは……」

 

「うふふふふ、大丈夫ですよマスター。()()()()()()()()()()()()

 

 彼女の中の執念が滾るのを見て、わーおと声を漏らす。

 そんな立香の感情に同意するような、フォーウという声が続いた。

 

 とりあえず、彼女は憑いてくるというなら他のサーヴァントと話そう。

 そんな感じで清姫をくっつけたまま歩き出す立香。

 彼女は抱きついたまま、何やら立香をよじ登ることまで始めた。

 はいはい、と頭を撫でつつ歩き続ける。

 

 フォウさんは遂に後ろ足で清姫の迎撃を開始した。

 

 そうしている彼女たちの前で、アマデウスが硝子の馬車から降りると同時、その馬車は限界だったとでも言うかのように、あっさりと崩れ去ってしまう。

 その様子を見ていたマリーが少し寂しそうに呟く声。どんな小さい呟きだろうと、彼の耳なら拾うのは容易い。そもそも当然の話として、彼が彼女の声を聞き逃すはずもない。

 

「結局。今度もあなたのピアノは聴けなかったわね」

 

「うん? まあ、そうなるね。―――うーん」

 

「どうかしまして?」

 

「いや。もし僕が君にピアノを弾く機会に恵まれたとしたら、僕でさえも緊張を覚えることがあるのかな、なんて考えてみただけさ」

 

 不思議そうに問いかけるマリーの前で、アマデウスが半ば本気で悩むようにそう言葉にする。

 だがそれを聞いた彼女は、本気でおかしそうに小さく笑いを漏らした。

 

「それは残念だわ、本当に。じゃあわたしはいつまで経っても、どんな奇跡に恵まれても―――貴方の、完璧なピアノ演奏だけは聴けないのね」

 

「……それは僕を甘く見すぎだ、緊張程度で僕の指が鈍るものかよ」

 

「そう。では、それはまた機会があったら……いずれ」

 

「ああ。それまで、耳を澄まして待っていたまえ。いつかきっとね」

 

 そうと言葉を交わして、マリーは立香たちの方へと走っていく。

 入れ代わるようにアマデウスの元には、マシュの姿が現れる。

 

 わざわざ来るなんて真面目な子だ、なんて笑いながら彼はマシュに声をかけた。

 

「どうだった、マシュ?

 聖女への救いを求めた結果、世界を滅ぼすことに加担した男の顛末は」

 

「―――確かに、その行為は許されることではありませんでした。けれど、その願いは……」

 

「尊かった? まあ、そうかもね。

 美しい願いを叶えるため、汚い手段を尽くす。汚い願いなのに、そこに至る手段こそ美しい。

 そんなこと、よくある話だ。けれど僕は―――そのままの人間でいいと思ってる。

 この時代で起きたこと、その理由、その結果……それこそが人間ってやつだろうさ」

 

 アマデウスがそう言って、優し気な目でマシュの無垢な瞳を見据えた。

 

「だってそれが、今までそういうものを歴史として積み上げてきた人間なんだ。

 ―――きっといつか、この旅路の終わり。君には選ぶときがくるだろう。

 選ばせたい、と思っている悪魔がいるだろう。

 まあ、今の僕には何となくしか分からないけど、きっとそうなるという確信だけはある」

 

「アマデウス、さん?」

 

 困惑するマシュを見ても、アマデウスの微笑みに変わりはない。

 それどころか彼は、少女を揶揄うように笑みを深くした。

 

「だってほら、君って僕がマリアに一目惚れした時と同じくらいに魅力的だから。

 悪魔の一人や二人、君の魅力で参っているに違いないだろう?

 ―――その悪魔にとっては遅かった出会いだろうけど、僕と同じようにね」

 

「はぁ……」

 

 アマデウスの言葉の意味を掴みかね、マシュは困ったように首を傾ける。

 

「おっと、話がずれたね。なんの話をしてたっけ?

 ああ、そうそう。こうして君は汚いもの、綺麗なもの、両方を見ながら生きていく。

 どう変わるのか、決めるのは君だ。けど……どれを選んだって、結果は“君”なんだ。

 だから安心して変わり給え。きっと、それが君をもっと魅力的にしてくれる」

 

 そう言って踵を返すアマデウス。

 そんな彼を、マシュは咄嗟に呼び止めた。

 

「あの!」

 

「うん?」

 

 足を止め、振り返るアマデウス。

 そうして顔を向けてくれた彼を前に、マシュが数瞬言葉に迷う。

 しかし意を決して口にする問いかけ。

 

「アマデウスさんは、ジル・ド・レェという人間の後悔を、どう……」

 

「そりゃ、さっき言ったように願いは綺麗なんじゃないかな?

 前に言った通りに僕は人間は例外なく汚いと思っているから、綺麗な願いと汚い人間。

 それに尽きるだろうさ。仮に“善い”か“悪い”かで語ろうとするならば―――」

 

「する、ならば……?」

 

「“どうでもいい”だ。だって僕、マリアほどジャンヌ・ダルクに思い入れがないし」

 

 軽く笑いながらそんなことを言うアマデウス。

 ええ? と、マシュが若干だが彼を白い目で見る。

 だが彼は至極真面目な顔をしてその言葉を続けてみせた。

 

「僕にとっては迷惑なだけで、どうでもいい願いでしかなかった。けれど、彼にとっては世界を引き換えにでも果たす価値のあった願いだろ?

 そんなもの、僕の物差しで願いの善し悪しに触れる気はないよ。だから僕は“迷惑だった”の一言だけで終わらせる。だって実際迷惑だったのは事実だし。

 そんな風に僕は考える、ということだ。ははは、君の参考になる意見じゃなかっただろうね」

 

「それは―――いえ、ありがとうございました。あとは自分で考えてみます」

 

 頭を下げて、感謝を示すマシュ・キリエライト。

 そんな生真面目な少女の態度に、少し困った風に眉根を寄せて。

 

「ああ。……君という楽譜が、幸福の詩を記すものでありますように」

 

 最後にそうとだけ呟いて、彼は目を瞑った。

 

 

 

 

 ジオウが疲労に喘ぎながら、寝転がっているところ。

 そこに、ゲオルギウスとエリザベートが駆け込んでくる。

 

 彼らの様子を見て、小さく安堵のため息を漏らすゲオルギウス。

 

「ああ、ご無事でしたか。面目ない、ああも簡単に抜かれてしまうとは」

 

「あんなスピードで逃げられたら追い付けるわけないじゃない。

 最初から逃げられてたら、何もできずにお手上げよ」

 

 同じく溜め息交じりに愚痴るエリザ。

 がっつりと足止めに専念するつもりで残ったというのに、さっさと抜かれてしまった。

 その消化不良が燻っているように見て取れる。

 

「いや、すっごい助かったよ。

 あそこで少しでも止めてもらってなかったら、俺も間に合わなかったし……」

 

 そう言ってジオウが自身を覆うウィザードアーマーに触れる。

 ジオウの装甲ごしにでも、未だドラゴンのブレスの熱を帯びているのが分かるほどだ。

 

 咄嗟にこのアーマーの持つ地のエレメントを活用し、地面に潜るという選択をしたのはいいが、放たれたのは周囲一帯を溶岩溜まりに変える火力だ。

 結局のところ、溶岩遊泳をする羽目になった。

 

 火のエレメントでの軽減。水のエレメントでの冷却。風のエレメントでの断熱。

 早速、このアーマーの能力を全て発揮させるために相当に頭を使った。

 復帰するのに少々時間を使うことになったのはそのせいだ。

 

「そう言って頂けるとありがたい」

 

「……子イヌ、アンタたちはもう帰るのよね?」

 

 立香に文字通りくっついている清姫を見ながら、エリザが問う。

 

「そうなるんじゃないかな。次の特異点にも行かなきゃいけないしさ」

 

「おや、戦いが終わって早々にもう次の戦地の話ですかな?

 こうして一つの時代を救ったのです、少しは体を休めて英気を養いなさい。

 そうでなくては最後の戦いに辿り着く前に、倒れ果ててしまうことになるでしょう。

 ……我ら、聖杯に呼ばれたサーヴァントたちもそろそろ退去が始まりましょうな。最後にジークフリートやクー・フーリンにも挨拶をしたかったが、時間もなさそうだ」

 

 彼らは解決までここより城より側の戦場で使命を果たしていた。

 あの二人がこちらに合流するより前に、特異点消失による強制退去が訪れるだろう。

 それを聞いたソウゴが、うーんと首を傾げた。

 

「それくらいなら、いけそうな気がする」

 

 よっこいせ、と立ち上がり手を前へと差し出す。

 そこに赤い魔法陣が二つ、ぼうと浮かびあがってきた。

 彼らの居場所は何となく感じる。多分、マスターとサーヴァントの繋がりだろう。

 その場に空間を繋げるイメージでもって、彼は魔法を発動する。

 

 魔法陣がスライド移動するように動く。

 するとその中から、面食らったようなクー・フーリンとジークフリートが出現した。

 

「あん? 空間転移か?」

 

「む。これは驚いたな……マスターの魔術か、これは?」

 

「うん、俺のっていうか……ウィザードの魔法?」

 

「魔法?」

 

 ジークフリートが首を傾げる。

 が、そんな面倒な話題はいいだろう、と彼の肩をランサーが叩く。

 

「細かいことはいいだろ、坊主に一から説明してたら日が暮れちまう。

 しかしどうせ消えちまう、ってならアンタとも一戦やってみたかったが……」

 

「ああ、あなたほどの槍使いにそう言ってもらえるならば光栄だ。

 だが俺としては、同じ陣営にいながらも肩を並べて戦えなかったことの方が心残りだな」

 

 笑いながら言うランサーに、無念そうに返すジークフリート。

 そんな彼を揶揄うように、ゲオルギウスが拗ねるような口調で声をかける。

 

「おや。私では不足でしたか?」

 

「いや、すまない。そういうわけではないのだ、聖ゲオルギウス―――

 ……すまない、俺は揶揄われているのか?」

 

 それを傍から眺めていたエリザベートが、呆れたようにソウゴを見る。

 

「なにあれ、男の友情ってヤツ?」

 

「うーん、どうだろ」

 

「アタシにはさっぱりね」

 

 友情かぁ、と。ソウゴも男サーヴァント三人の会話を眺める。

 そのまま見入りそうになって、いやいやと首を横に振った。

 ランサー以外の彼らとはここで別れることになるのだ。

 言っておかねばならないことがあるだろう。

 

「ジークフリートもゲオルギウスもありがとう。助かった」

 

「いや、俺はむしろ助けられた側だ。

 マスターたちにも、ゲオルギウスにも随分と骨を折らせた。

 その対価として払ってもらった労力分の助力にはなれたというなら、俺も誇らしい」

 

「ははは。先にジークフリートにそれだけ謙遜されてしまっては、私も気にするなとかしか言えないでしょうな。あなたたちの旅路の一助になれたと言うなら、私としても喜ばしい」

 

 むしろ申し訳なさそうに言うジークフリート。

 からからと笑いながら、そんな彼のことを茶化すようにするゲオルギウス。

 そうして話している彼らの中に。

 

「やあ、我が魔王。どうやら一つ目の特異点攻略は無事に終わったようだね」

 

 再び、ウォズが姿を現した。

 

 

 

 

「マリーさん、ありがとう。なんか、完全に移動を任せてた気がする」

 

「いえいえ、役に立てたのならよかったです。

 問題が解決したのは喜ばしいけれど、これで終わりなのは寂しいくらい。

 ジャンヌともだけれど、立香さんとももっと色々とお話ししたかったわ」

 

「フォウ、フォー!」

 

 立香の頭の上で鳴くフォウ。

 そんな小動物の様子にくすくすと微笑んで、マリーがフォウの頭を軽く撫でた。

 

「もちろん、あなたともね?」

 

「―――マスター、すみません。その、あの方は……?」

 

 立香がジャンヌとマリー、ついでに引っ付いた清姫で集まり会話していると、ジャンヌが会話の繋がりを断ち切って立香へと声をかけてくる。

 うん? と首を傾げながらジャンヌの方を見ると、彼女はソウゴたちの方を見ていた。そこには、再び姿を現したウォズが立っている。

 

「あれは……なんかあの力をソウゴに渡して、なんかよく祝ってる人。

 ウォズっていう名前だったかな」

 

「その……彼の目的は分かっているのでしょうか。

 ソウゴくんに対して何故そのようなことをしているか、など」

 

「私は知らないし、多分ソウゴも分かってないと思うけど……」

 

「……それなのに信用されているんですか?」

 

 ぎょっとした表情になって立香を見るジャンヌ。

 そんな顔で見られた立香がむむむ、と表情を渋くして顎に手を当てた。

 

「しいて言うなら、必要だからじゃないかな。

 私たちにとっても、ソウゴにとっても、あのウォズって人にとっても」

 

「そんな……」

 

「そんなに気になるのなら、直接訊けばいいのではないですか?

 せっかくご本人がここにいるのですから」

 

 ぽんと手を打ち、そう言うマリー。

 彼女はそれが名案とばかりに、ウォズに向け駆け寄っていく。

 

「マ、マリー!?」

 

「ごきげんよう、ウォズさん? この名前であっているかしら?」

 

 背後から声をかけられたウォズが、面倒そうに振り返る。

 

「……ああ、それであっているよ。フランス王妃、マリー・アントワネット」

 

「わたしのことはご存じなのね。どうもありがとう!

 あなたにお聞きしたいのですけれど―――あなたたちの目的は何なのかしら?

 城にあの時現れた、もう一人の男性もお知り合い?」

 

 特にオブラートに包むことなく、訊きたいことを並べるマリー。

 面倒そうにそれを聞いていたウォズ。

 彼は一度大きく溜息を吐くと、仕方なさそうに話し出した。

 

「……まず、君たちの前に現れた男というのはスウォルツのことだろう?

 君の言う“あなたたちの目的”というのが、私とスウォルツが同一の目的を持っている、という解釈からの言葉だとしたら、それは違う。私と彼はむしろ敵対している、と言っていい」

 

「まあ、そうなのですか?

 では今の言い方だとあなたは彼以外のお仲間はお持ちなの?」

 

 不意に、マリーが首を傾げる。

 今のやり取りで彼は、“あなたたちの目的”という言葉を迂遠に回避したように見える。

 スウォルツを引き合いに出すことで、自分の目的から話題を離した。

 

 ―――最後に私たち、ではなく私、と言ったこと。

 あるいは、自分たちが集団であることを隠すための物言いだろうか。

 

「仲間という言葉の解釈にもよるが、私だけだよ。

 そして私の目的はもちろん、我が魔王に万事恙なくその覇道を歩んで戴くために―――」

 

「嘘」

 

 ―――その瞬間。

 立香の腰にしがみ付いていた清姫が、身を乗り出してその口から炎を吐いた。

 止める暇もなく、火炎の飛礫がウォズへ向かって殺到する。

 自身に向かって飛んでくる炎を見て、呆れるように片目を瞑るウォズ。

 

 直撃、の直前。

 彼が引っかけたストールの裾が翻り、その炎を消し飛ばす。

 

「……なんのつもりかな? 私に突然攻撃される理由があるかい?」

 

 炎を弾いたストールを軽く叩きながら、ウォズは清姫に視線を向ける。

 ウォズを睨む彼女の瞳には理性があるのかないのか。ただ狂気に濁っている。

 彼女がそうなる、何らかのトリガーを引いたことに疑いはない。

 僅かながら顔を顰めるウォズ。

 

 そんな彼に、突然の攻防を見ていたエリザベートが声をかける。

 

「そいつ、人の嘘に過剰に反応するのよ。意外と普通に見えても頭バーサーカーだもの。

 アンタ、何か嘘ついたんでしょ?」

 

「嘘? 私が?」

 

 そう言われたウォズが、面倒そうに眉を顰める。

 周囲から注目を集めながら、ウォズは考えるように顎に手を当てた。

 

 そうして数秒。

 ウォズが再び表情に笑みを浮かべ、口を開く。

 

「では言い直そう。私に仲間がいるとするのならば、その名は常磐ソウゴ。

 それこそが時空を越え、過去と未来をしろしめす時の王者の尊名である。

 そして彼の家臣ならば私の同僚、仲間と言えるだろう。

 私たちの目的、我が使命は魔王たる常磐ソウゴ、その覇道の一助となること。

 ――――どうだい?」

 

 仲間はいない。と言っていた口で、今度は仲間がいるならそれはソウゴである、と。

 だがそれを口にしたところ、清姫の表情が渋くなる。

 嘘がない、と判断した顔だとエリザベートは理解した。

 

「見た感じ、嘘じゃなさそうね」

 

「それはよかった。あまり疑われて良い事もないからね」

 

「っていうかウォズは何しに来たの?」

 

 ソウゴはアーマーがそろそろ冷めてきたと判断し、変身を解除する。

 ジオウの装甲が消え、常磐ソウゴの姿を現す。

 そんな彼に、ウォズは懐から取り出したウォッチを投げ渡した。

 突然のパスに、危うげながらしかしキャッチに成功するソウゴ。

 

「うぉっと……あ、バイクの」

 

「言っただろう? 君のフォローをするのが私の使命だと。

 君が壊したままに放置していたから、回収しておいたよ」

 

 黒ジャンヌの宝具効果の盾にして、完全に破壊されたバイク。

 投げ渡されたのは、そのウォッチであった。

 

「まだ完全に修復はしていないだろうが、次の特異点に赴くまでには直っているだろう」

 

「自動で直るんだ……」

 

「もちろん。君の装備は全て、時の王者に相応しいものが揃っているのだから。

 ではね、我が魔王。また次の特異点で会おうじゃないか」

 

 そう言って彼はストールを翻す。

 それは竜巻じみた現象を起こし、ウォズの姿を呑み込んでいく。

 ストールの回転が消えた時には、その場からウォズは消えていた。

 

「―――どうかしら、ジャンヌ。嘘はついてなかったようだけれど?」

 

「え、ええ……はい、それならそれでいいのですが……」

 

 満足げに振り向くマリーの姿。

 そんな彼女に苦笑しながら、ジャンヌもまた納得しようとする。

 だが果たして、彼女に授けられた啓示の力だろうか。

 どうにも引っ掛かりを感じる。本当に―――

 

「……ソウゴくん」

 

「ん、どうしたのジャンヌ?」

 

「ソウゴくんは彼を―――あのウォズという人間を信じているのでしょうか?」

 

 わざわざマリーに本人からの言葉を引き出してもらったのに、それでも確認してしまう。

 彼はそんな言葉をかけられたこと自体にきょとんとして、小さく笑った。

 

「いや。別に今のとこはウォズのことは信じても疑ってもいないけど」

 

「え?」

 

「俺とウォズの目的が同じかどうかは分からないけど、俺が王様になるにはウォズの協力が必要みたいだしさ。ウォズだって俺の事を導くのが目的みたいだし。

 だったらもしウォズと俺の目的が別だったとしても、それ以上は一緒にいられないってなる時まで協力してもらえばいいかなって。少なくとも今のとこは、俺もウォズも得してる感じするし」

 

「そ、それでいいのでしょうか? もし彼の目的が……」

 

「だって俺、王様になるしさ。自分が信じてる人間しか使えないんじゃ、王様失格でしょ?

 全ての民を救う王様になるためには、まず全ての民に俺のことを信じてもらわなきゃ」

 

 そう言って彼は笑う。

 そんな彼の笑顔を見て、彼女がそれを口にするのはずるい、と理解しながら。

 ジャンヌ・ダルクはもう一つ彼に問いかけた。

 

「もし―――そんな民に裏切られたなら……あなたはどうしますか?」

 

「どうって……? 民を救いたいって想いは俺のものなんだから、俺の想いを裏切れるのは最初から俺だけでしょ? だから裏切らないよ。俺は、俺の民と国を―――世界を救ってみせるから」

 

 何の迷いもなく、というかそれが最悪の未来などと思うことすらせず彼は断言した。

 ソウゴは訝し気な顔でジャンヌを見る。

 

「っていうかジャンヌもそんな感じだったんじゃないの? わざわざ俺に訊く必要ある?」

 

「―――ええ、そうかもしれませんね」

 

 彼女の心に湧いて出る懸念。それはたぶん杞憂だったのだろう。

 それが例えどんな障害となっても、きっと彼は越えられる。

 彼と言葉を交わしてそれを確信として持てた。

 

 少しほっとしたところで、彼女の体が光となってほつれ始める。

 強制退去が始まったようだ。

 他のサーヴァントたちも、光に還っていく様子だ。

 

「さて。呼ばれた時はどうかと思ったけれど……意外と良い召喚だったね。

 また会うことがあれば、今度はちゃんとピアノを用意しておいてくれよ?」

 

 アマデウスが消失する。

 

「わたしの最期から、こうして誰かのために力になれる日がくるなんて。

 まるで夢のように素敵な話だと思うわ。

 こうしてわたしたちが貴方たちに託せた輝きがいずれ、世界を救う光になりますように。

 フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)―――!」

 

 マリーが消失する。

 

「マスター、貴方に捧げた剣を世界を救うという目的のために奮わせてくれたこと。

 改めて礼を言う。そしていつかまた機会があれば、今度は肩を並べて戦おう」

 

 ジークフリートが消失する。

 

「うふふふ、ではまた。ま・す・た・あ」

 

 清姫が消失する。

 

「アンタたちのおかげでカーミラを倒すって目的も果たせたし、特に言うことないわね……んー、ありがと。今度機会があればアタシのライブに招待するわ。

 ―――チェイテ城での開催なら、サーヴァントのまま何とかなったりしないかしら?」

 

 エリザベートが消失する。

 

「では、私も。貴方たちの旅の道行に祝福あれ。

 そしてまた、その旅路が貴方がたに多くの成長を齎さんことを」

 

 ゲオルギウスが消失する。

 

「最後になりましたが―――さようなら。

 そして、ありがとう。特異点の修正とともに、全てが虚空の彼方に消え去るのだとしても。

 残るものが、きっとあなたたちの中に―――」

 

 ジャンヌ・ダルクが消失する。

 それと同時に、カルデア側からの帰還レイシフトが実行された。

 意識が混濁する中、彼らの存在は全て1431年フランスという国から消失した。

 

 

 

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