ONE PIECE -Stand By Me - 作:己道丸
大変長く間をあけてしまい、申し訳ありませんでした。年をまたぐのはマズいな……って感じで、戻ってまいりました。
リハビリも兼ねて一話5000文字前後の縮小運転ですが、続きを出したいと思います。
※前回までのあらすじ(久しぶりすぎるので)
ギーアはシキとともにインペルダウンを脱獄、逃亡先の船でモリアと再会する。
しかしその船は大オークションに向かう天竜人の船だった。
天竜人を暗殺し、乗っていた奴隷を解放し、護衛の海兵たちをゾンビにしてオークションを襲撃しようとするギーアたち。
しかし警備で詰めていた元海軍大将ゼファーに見破られ、全面対決となる。
「は?」
相対する海兵の誰もが目を丸くする。
当然だ。天竜人だと思っていたものの行列が運ぶ巨大木箱、そのすべてから瓜二つの人間たちが出てくれば。
だがこれが自分たちの切り札だ。
オークションへの出品物だと偽り、奴隷のふりをさせた兵士ゾンビたちに運び込ませた女の一団。
赤い長髪。
青い瞳。
色白の肌。
大柄な背丈。
起伏に富んだ体型。
女奴隷に着せられる踊り子装束。
百人あまりのそれらが、列をなして戦場に立つ。
「何だコイツら!?」
同一人物の群れとでもいうべき光景。向かい合う海兵たちの中から次々と声が上がる。
「ふ、双子?」
「バカ、数を見ろ! 何ツ子だよ!?」
ライフル銃を構えつつ、しかし隊列を組む海兵たちは顔を見合わせる。相手は異様な集団だ、当然である。
しかし最も声を張り上げたのは、あろうことか彼らを率いる将校だった。
「……パシフィスタ!?」
胸に勲章をつけた屈強な海兵が顔を青くする。
「バカな、アレはまだ理論段階のはず! たかが海賊ごときが生み出せる訳が……」
「落ち着け」
泡を吹く将校の肩に、大きな手のひらが乗った。
巨漢だ。
髪の色、顔に刻まれたしわの深さからして初老。しかし剥き出しにした上半身は隙無く筋肉で固められ、落ち着き払った態度はまるで山のようだ。
「ゼ、ゼファー教官」
将校は巨漢を見上げた。
「で、ですがあれは」
「お嬢さんの仕込みだろうさ。なぁ、そうだろう?」
そう言って放たれた眼光の鋭さ。
将校に向けていたのとはまるで違う、銃弾のような鋭い眼光に、心臓が射貫かれた思いがした。
圧倒的な格上に敵として認知された恐怖。
けれど、そんなものはこれまで何度も体験してきた。
「――そうよ」
だからこそギーアは胸を張って答えた。
自分と同じ姿をした、その集団の最前線に立って。
(さすが元海軍大将、一発で見抜かれた)
いや、当然か。
木箱から現れたそれらは、自分の背後に控えている。まして、最初に海兵たちの前に現れたのは自分なのだから、そう推理するのは自然だ。
つまり、この状況で正常な判断をする胆力があの男にはある。
(彼の存在はまったくの予想外)
元海軍大将、“黒腕のゼファー”。
大海賊時代以前から名を馳せた大英雄だ。今は一線を退いたと聞くが、やりあって勝てるほど実力が衰えたようには見えない。
しかし、臆する姿を部下たちには見せられない。
堕ちたとはいえ一国の軍隊を率いたこともある身だ。士気の重要性と、隊長がそれに深く関わるのは熟知している。
だからギーアは一歩進み出た。
「私はヌギヌギの実の脱皮人間。傷ついた体を脱ぎ捨て、より強くなって再生する」
だが、
「必ずしも脱いだ“皮”を捨てるとは限らない。無傷のまま能力を使えば、当然無傷の“皮”ができる」
「……なるほど。つまり、それが“そいつら”か」
「そう。彼らは私の“皮”をかぶった“私”という軍勢。――それが“ブギーマンズ”!!」
問いには答えた。
ならばあとは進むしかない。
「モリア」
「あぁ」
この場でそれができるのはただ一人。
攻め手を率いる者、自分たちの長であるゲッコー・モリアだけだ。
塔のように巨大な体で進みでた彼は、控えるブギーマンズを一瞥する。
「やるぞ。てめぇらの初陣だ」
自軍の、いや敵軍も、誰もが息をのむ。次の瞬間、火ぶたが切られると予感したからだ。
それは果たされた。
「海軍を蹴散らし!! 宝を奪え!! ――海賊の名乗りをあげろォ!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ――――――ッ!!!!」
雄叫びは地響きとなる。
ブギーマンズと兵士ゾンビ、合わせて1000人になる兵力が進撃したのだから。
「く、来るぞ! 総員、構えぇ――!!」
津波にも似た突撃の群れに、しかし海兵たちは揺るがない。
隊列を崩さず、柵を思わせる等間隔で向けてくる銃口の数々は、日ごろの訓練の結実に他ならない。
誰もが熟練の海兵である証拠だ。
「撃てぇ――――ッ!」
銃声もまた一律。
重なって一つの巨大な音となり、空気を貫いた数百の弾丸がブギーマンズへと迫る。
だからギーアは、銃声にも勝る叫びで命令を飛ばす。
「兵士ゾンビ、前へ!!」
「イエスマム!!!」
応えてブギーマンズの前に出る影があった。
兵士ゾンビだ。並走していたそれらが速力を上げ、その身をもって弾丸をさえぎったのだ。
「何!?」
海兵たちの驚きも当然だ。本来なら、一を守るために一を犠牲にする無意味な行動だ。一兵卒が将軍の身代わりになるのとは訳が違う。
だが守るのが兵士ゾンビなら話は別だ。
「アァ~~~~……腐れ痛ぇ~~~~」
「へ……へへ……許さねえぞ、てめぇらぁ~~」
「何だコイツら! 撃たれても倒れない!!」
体に穴をあけた兵士ゾンビたちだが、しかしその足を止めることはない。
彼らは血の通わない、動く肉の壁だ。痛いと言うが、それも生きていた頃の思い込み。実際には何の支障も得ていない。
その様を見て、いよいよ海兵たちは敵が本当の化け物だと気づいたらしい。
「ま、まさか、本当にゾンビなのか!?」
「いや待て! それより、こいつらの顔!」
前線にいた海兵が一人、声を上げた。
「こいつら!! 天竜人の護衛に出た海兵だ!!!」
(へぇ、知り合いがいたのね)
目を丸くするギーアをよそに、青ざめた叫びは一瞬で居並ぶ海兵たちへ及んでいく。
「な、何だと!?」
「み、みんな死んでるのか!? 操られてるとかじゃなく!?」
「か、海賊ども! こいつらに何をしたぁ!!」
理解とともに、激怒と恐慌があちらこちらで噴き上がる。腰が引ける者もいれば、ことさらライフル銃をつきつける者もいた。
隊列が乱れる。
(そんな様じゃ、彼らの激情には耐えられないわよ)
敵への感情であれば、ブギーマンズこそ凄まじいのだから。
「何かされたのは!!! おれたちの方だぁ――――!!!!」
「!!!?」
腕力は怒涛となった。
恨みがブギーマンズの腕をより強く膨らませ、海兵の隊列を打ち砕く。
「……!!」
声もなく、あるいは白目を剥いて、海兵たちはブギーマンズの突撃によって吹き飛ばされていた。
彼らの感情が、ギーアが与えた“皮”の力を存分にふるった証拠だった。
(ブギーマンズが着るのは私自身、全員が私の身体能力を持っている)
ギーアは思い返す。
あの日、天竜人を始末した後、思いついた策がこれであった。
ギーア自身が回復するために脱皮するのではなく、皮を他人に着せるために脱ぎ捨てる。
モリアに影を奪われた者たちが、陽の光を浴びずに日中行動するための対策だったが、しかしそれがギーアの膂力を得たのは、予想外の幸運だった。
(これで頑丈さもあれば文句なかったんだけどね)
残念ながら肉体の耐久力は得られなかった。
ものが皮なのだから当然だ。ある程度のダメージを受けると破れ、中身があらわになってしまう。
(つまりブギーマンズは“撃たれ弱い攻撃要員”)
ゆえに、兵士ゾンビがそれをフォローする。
死んでいるからこそ、もう死ぬことがないゾンビ兵。異常な耐久力を持つ彼らこそ、ブギーマンズを補う優秀な盾となる。
兵士ゾンビに守られ、ブギーマンズは拳をふるう。
「結局お前ら海兵は権力に媚びを売るクズだった!」
「正義なんてどこにもなかった!!」
「くたばれ海軍——————————!!!」
圧倒的な腕力の群れが敵を蹴散らす。
だが特筆すべきは腕力以上にそれをふるう攻撃性だ。突然与えられた強靭な力を、彼らはあますことなく存分に発揮している。
当然だった。
ブギーマンズの中身は、あの船で海兵たちが見捨てた天竜人の元奴隷たちなのだから。
萎えた体に釣り合わない巨大な恨みと戦意が、“皮”によって即席で強化し、かつ弱点を補うゾンビたちも用意できる。
ヌギヌギの実とカゲカゲの実、その相互補完だ。
「おれとお前の能力がここまで噛み合うとはな」
「ええ、予想通り補い合ってる」
鮫のような口を吊り上げたモリアに、ギーアもまたニヤリとした表情を返した。
その胸に熱い感情が湧き上がる。
あたかも示し合わせたかのような能力の相互関係。自分こそ彼を支えるのに相応しいと、運命に保障されたような気分になったからだ。
だが、いつまでも浸ってはいられない。
腐っても自分は軍勢の指揮官。戦線が崩壊しかけた時、戦場に何が現れるのかを知っている。
劣勢を押し返す英雄の出現だ。
「そこまでだ」
「!!?」
蹴り上げた砂粒のようにブギーマンズが吹き飛んだ。
一瞬のことだ。前線の海兵たちを突破しようとしていた一団が、木っ端みじんに散らされたのだ。守っていたはずの兵士ゾンビごと、ひとまとめに舞い上がる。
「来たわね」
ブギーマンズと兵士ゾンビ、今できる最良の作戦であり難攻不落の戦略。破られるとしたら、可能性は二つだけ。
共通する弱点、海水や塩を受けること。
もう一つは、兵士ゾンビの守りをものともしない強力な攻撃を受けることだ。
「こいつらはおれが引き受ける。お前たちは敵の首魁を討て」
「ゼファー教官!!」
海軍側の指揮官、ゼファーの参戦であった。
一度に数十人を蹴散らしてみせた剛腕を構え、かつて大将と称えられた男が盤石の態度を示す。
「報告ではインペルダウンを脱獄したのは二人。悪魔の実の能力で手駒を増やしたようだが、それは本体以外は有象無象ということだ。敵本体を押さえれば鎮圧できる」
そう言って、ゼファーはちらりと脇を見た。
戦場の外に転がる天竜人の死体を。
「……これは好機だ。この混乱に乗じて、天竜人に囚われた奴隷たちを助ける」
「!!! は、はい!」
告げられた言葉に、海兵たちが喜色に染まっていく。
それは海兵たちが押し殺していた本心だったのだろう。おそらくゼファー自身も。
(上手いわね)
自分という立場も実力もある人間が戦線に立つことで戦術的な優位を保証し、かつ押し殺していた本心を解放させることで戦意も鼓舞する。
部下たちの心を掴み士気を高揚させる手腕は、まさに海軍大将のものだ。歴戦の海兵という事実を理解させられる。
しかし唯一難点があるとすれば、
「貴方が蹴散らしたブギーマンズこそ、その奴隷たちだったんだけどね」
皮肉だ。
敵を倒して人助けをしようとする者たちの、その敵こそが助けようとしている相手なのだから。
つまるところ、海兵たちは動くのが遅すぎたのだ。あるいは、状況さえ整わなければ助けることすらできなかったとも言える。
今の世の海兵と正義の限界だった。
「でも、ゼファーに来られたら誰も敵わないわね」
「ヤツの存在は完全に想定外だったからな。ブギーマンズやゾンビは勿論、おれとお前が加わったって勝てやしねェだろう」
モリアも頷いて同意する。
役職を辞しても実力は変わらない。大将を務めた男と真っ向勝負で勝てると思うほど、ギーアもモリアも向こう見ずではない。
自分たちだけなら、きっとこのまま突き崩されただろう。
しかし、今は彼がいる。
「……!? 教官、何か来ます!」
「何!?」
“それ”は風を切って現れる。
金色の影だ。残像を引いて一閃となった“それ”は、停泊する船の合間を縫って飛来する。
「がっ!」
「ぎゃあ!!」
「ひぎ……!」
すれ違う海兵たちを片っ端から切り伏せ、“それ”はゼファーへ一直線に奔る。
そして、激突。
「!!!」
「うあああああああああああああああああああああああああっ!!?」
噴火にもひとしい衝撃。
飛び散った海兵たちはしたたかに地面へ打ちつけられる。地面さえ砕ける激震だ、一兵卒が耐えられる波動ではない。
密集していた海兵の戦線を穿つ穴。
粉塵浅からぬその中心にいたのは、たったの二人。
「ジハハ! 久しぶりだな、“黒腕のゼファー”!!!」
「貴様か!! “金獅子のシキ”!!!」
黒金色の腕と競り合う、両足を剣にした大男だった。
「き、“金獅子”!! かつて海賊王と覇権を争った大海賊!?」
「だ、脱獄したってのは、本当だったのか!」
「そういうことよ。あまりに退屈だったんでな、イキのいいベイビィちゃんとシャバに帰ってきたぜ」
両者は拮抗し、その余波は今なお周囲を威圧した。
どちらもかつては大勢力の筆頭を成し、しかし今はその座を離れて久しい者たちだ。条件が同じなら、今ある力もまた同じ。
つまりこの二人が対峙する限り、両者は戦場から除外されるに等しいということだ。
「こいつはおれが止めてやる! ベイビィちゃんと若造は、とっとと先に行きな!!」
「ありがとう、シキ!」
「そのままくたばれ、クソジジイ」
「コラ! そういうこと言わない!!」
シキの到来こそ、ギーアたちが待っていたものだ。
「ま、待て貴様ら……!」
駆け出したこちらへ目を向けようとして、しかしそれさえゼファーには許されない。
ほんのわずかでも集中を乱せば押し切られるほど、眼前の敵とは拮抗していたからだ。
「てめぇの相手はおれだよ!!」
「ぐ……!!」
せめぎ合う巨岩のような二人を横目に、ギーアは戦場へと走る。
「ブギーマンズ! 兵士ゾンビ! 行くわよ、ついてきなさい!!」
「イエスマム!!!」
指揮官の参戦に鼓舞されるのは海兵だけではない。
ギーアとモリアの到来に、ブギーマンズも兵士ゾンビも、熱を持った了解を叫ぶ。
だからギーアも一層の覇気をもって吼えた。
「敵を突破して!! 進むわよ!!!」
こんな感じで、戦闘パートの始まりです。
当分は一話あたりを短くしてコンスタントに投稿したいと思っていますが、さてどうなるか。
追伸
外部サイト「進捗ノート」に二次創作小説関係のノートを作りました。
進捗具合は適宜書いていきたいと思っているので、もし進み具合が気になる方がおりましたら、こちらをご覧いただければと思います。
https://shinchoku.net/notes/66000