ONE PIECE -Stand By Me - 作:己道丸
今更ですが、作中でスリラーバークって名前でてきてないのにスリラーバーク編って言って良いんですかね。
「来た、海賊だ! ここで止めろ!」
「邪魔だ海軍!!!」
振り抜く刃は斬撃を放ち、さえぎる敵を切り倒す。
この船に入って何度目の応酬となるか、モリアは記憶していない。いずれもとるに足りない相手だったからだ。
しかし、ひしめく海兵の数はこちらをはるかに上回る。
自分たちが打ち勝つには本丸を落とすしかない。
「野郎ども! とっとと操舵室を抑えるぞ!!」
「了解ですご主人様!!」
こちらはブギーマンズと兵士ゾンビが数百人。
兵力の質は勝るが、ブギーマンズの大部分は手負いだ。体を包む“皮”の所々が破けていて、油断すると中身が陽の光を浴びてしまう。
幸いなのは、船上にも関わらず遮蔽物に恵まれたことだ。
「まさか船の上に森があるとはな」
信じがたい大きさなのは分かっていた。
だが、モリアをして見上げるほどの大樹で満ちた、鬱蒼とした森があるとは想像もしていなかった。
「ちょっとした小島だぜ、これは」
「信じられない。……天竜人も欲しがる訳だわ」
応じるように呟いたのは、肩に乗るステラだった。膝の上にしたペローナを、走る揺れで転がり落ちないように抱きかかえている。
つい先日まで奴隷だった女が、幼女一人抱えて走り続けることは不可能だったのだ。倒れそうになるステラを見かね、モリアは邪魔にならない肩の上へと置いていた。
それほどまでにこの船は広い。
「だが、船もデカけりゃ舵輪もそうなるらしい。良い目印だ」
そう言って見上げる先、木々の合間に覗けるものがある。
城と、その背後に建つ巨大な帆柱だ。そこには大きな滑車のような装置があり、かけられた極太の鎖を垂直に垂らしている。
最初は何のためにあるのか分からなかったが、どうやらあれが舵輪らしい。滑車の仕組みで舵をとる仕組みのようだ。
「つまりあの真下が操舵室だ。そこを落とせば、この船を出航させられる」
「そうなりゃどんなに海兵どもが残ってても慌ててに港に逃げますね、ご主人様!」
「もし残っても、本隊から分かれた奴らなんて物の数じゃねぇ! まとめてゾンビにしてやらぁ!」
「キシシシ! 頼もしいな、我がゾンビ兵ども! だが吟味を忘れるな、影を奪うんなら死なせちゃならねェんだからな!!」
盛り上がる後続の部下たちにモリアも笑う。
ステラはことさらに揺れる肩から落とされまいとしがみついていたが、そこでふと言葉をもらした。
「……島に残ったみんなは間に合うでしょうか」
「ヤツらが心配か?」
それは部下たちに対するものとは違う、押し殺したような真に迫る声だった。
モリアの部下はここにいるだけがすべてではない。遠雷のように戦いの音が響く港湾で、残り半分の部下たちが今も戦い続けているのだ。
「オークション会場に乗り込んだ連中なら大丈夫だ。率いるリューマはワノ国の剣豪、中身は海軍将校の影だ。格下に敗けるような戦力じゃねぇ」
「でも、ギーアさんはその影の本体と戦っている」
「……モモンガか」
かつて戦場で相対したモリアだ。その強さは今も覚えている。
最後に見た時の、怒りと恨みに満ちた目も。
「彼にとって私たちは仇です。貴方の右腕であるギーアさんなら、特に恨んでいるはず」
言って、ステラは震えながら目をつむった。
ひどく恐ろしいなにかを思い出し、恐怖するかのように。
「恨みは人を強くする。ブギーマンズ、いえ、私たちが海兵に対してそうだったように」
「そうだな。おれたちが敵を破ってここまで来れたのは、あいつらが強くなった以上に、敵を滅ぼしたいと強く思っていたからだ」
「では、やはり」
「楽には勝てねェだろう。元々、ヤツらの実力はせめぎ合っていた。なら戦意で勝敗が左右されてもおかしくねェ」
だが、
「ステラ、てめェは知らねェだろうがな。……アイツは海軍大将相手にしんがりをして、生き延びたヤツさ」
「!!!」
「しかも地獄の監獄にぶちこまれながら、大海賊とともに脱獄するなんて離れ業で帰ってきやがった。ギーアには実力と強運が備わってるのさ」
そこまで言って、モリアは頬を吊り上げた。
するどい牙ばかり並ぶ口で三日月を描き、途方もない獰猛な表情を浮かべる。その中に、確かな信頼を含ませて。
「ギーアを信じろ! あいつはおれを海賊王にする女だ!!!」
背後で戦う味方への信頼は追い風となる。
ついにモリアたちは森を抜け、操舵室がある船の中心部に迫ろうとしていた。
檄音の直後、港湾に面する家は穿たれた。
「あぐぁっ!」
建材を無数の瓦礫に変えて、ギーアはしたたかに体を打ちつけた。床を削り、いくつもの家財を弾き飛ばしたところでようやく止まる。
痛みをこらえるために止めていた息を吐きだし、熱をあげた我が身のために新鮮な空気を吸い込む。
擦り傷。
打ち傷。
だがそれ以上に切り傷。
隙間なく埋め尽くしたそれらがギーアを苛む。普段であればヌギヌギの実の力で脱皮し、手早く回復するところだ。
しかしその間を敵は許してくれない。
「!」
跳ねるように身を起こし、腕を構える。
迫る相手を受け止めるために。
「“
「うっ!!」
その速度はまるで砲弾。
しかし砲弾は、これほどまでの気迫と威力で刀を振るうことはない。
「“
「“
「“
絶え間ない斬撃が視界を覆いつくす。
きらめく白刃は輝きの残像を引き、まるで光る檻が迫ってくるようだ。風を切る音が重なり、嵐の中にいるような気さえする。
覇気をまとう黒金色の腕で迎え撃つが、
「“
「!!!」
斬撃は防御ごとギーアを吹き飛ばす。
大蛇を鞭代わりに叩きつけられたような感覚。極太であまりにも重い一閃は、こちらが堪えることすら許さない。
受けた次の瞬間には、背が後方の壁を砕いていた。
「ぐあ……!!」
衝撃が肺を打ち、血を噴くように息が抜ける。
骨の髄を激痛が駆け巡り、全身の筋肉が萎縮するのを感じた。これほどまでの威力は、単なる鍛錬だけで得られるものではない。
(なんて戦意!)
度し難いほどの感情に裏打ちされた猛攻だ。
鋼仕込みの腕に覇気を集中させ、ようやく斬撃を鈍らせることができる。もしあと一歩でも覇気が足りなければ、自分はすでになます切りになっていただろう。
刃をふるう男の怨嗟はそれほどまでに執拗だ。
「……随分私にお熱ね? モモンガ准将殿」
「貴様は! 貴様らだけは!! 許す訳にはいかんのだ!!!」
眼光は燃え盛るように輝く。
敵意、害意、殺意、そういったもので勢いを増す猛火のごときものを瞳に宿しているのだ。
「部下たちの仇! 天竜人を殺した社会の敵! 貴様らこそ“悪”だ!!!」
「天竜人こそ、世の害悪だと思うけどね」
にやり、とギーアは唇を舐めた。
海賊は逆境でこそ笑うものだから。
「あれから目をそらすことを、どうとも思わないの? 奴隷にされた者たちが反旗をひるがえしたことこそ、人にとってあれがどういうものかを示してる」
「……だがそれは“正義”ではない」
男の目に理性が差し込んだ。
しかしそれも一瞬のこと。凝り固まった理念がそれを押し潰し、言い聞かせるようなかたい声が絞り出された。
「今ある社会に牙を剥いた時点で、何より貴様ら海賊に加担した時点で、あの者たちも“悪”! 同情に値しようとも、それで理を曲げることはできない!!」
ギーアに、あるいは自分に向けて言うかのように。
「裁きに情はいらんのだ!!」
「話にならない」
立ち上がる姿こそ陽炎のようだ。
なにも感情に火がついたのはモモンガだけではない。ギーアもまた、その目に激情を灯して敵を見据えている。
「“正義”か“悪”かなんて興味ない。あんたが何を思うかも自由。……でもね、私や仲間に手を出すなら、こっちも自由にやらせてもらう」
拳がある。
意思とともに。
「あんたが“正義”だとしても!! 私の“敵”よ!!!」
「まさに海賊!!!」
互いの思いは放たれた。ならばあとは押し通すだけ。
男と女が駆けるのは同時であった。
「“
「“
鉄と鉄。
斬撃と熱量が衝突する。
「ああああああああああああああああああああ!!」
吼える。相手を討つために。
感情を叫べ。意志を示すことこそ戦いだ。
全身全霊は今この瞬間のためにある。
「……っ!!」
星が生まれたかのような輝きは二人を弾き飛ばす。空気が破裂し、弾けた威力は建物の中で荒れ狂う。
それでも戦う者たちが倒れることはなく、今なお敵を倒すために走り続ける。
「やぁ!!」
攻めたのはギーアだ。
得物を持つモモンガとは違い、ギーアは徒手空拳。四肢を自由にできる分、立ち回りの早さには分がある。
振り下ろす蹴りがモモンガを捉えた。
「ぐおっ!」
半身を打ち抜き、男の巨躯を叩き伏せる。床を砕いて跳ね上がるそこへ、更なる追い打ちが飛ぶ。
「“
噴射によって蹴りは加速する。当たりさえすれば背骨もへし折る強烈な一撃だが、
「“
「!」
しかし空中を跳ぶことによって躱された。
煙が爆ぜ、それを踏むかのようにしてモモンガは上空へと身をひるがえす。
今や男はこちらを見下ろす位置取りだ。
「政府側の体術、“六式”ね!」
「ふん、私の影から聞き出したか」
「素直はゾンビの長所。あんたの強さは全部教えてくれたわ」
「ならばこれも知っているな!? 私が使える三つの“六式”!!」
体を逆さまに、天井へと着地したモモンガは、次の瞬間かき消えた。
「“
跳んだのだ。次の瞬間、男の姿は眼前に現れる。
そして、
「“
「!!」
振り抜く脚が斬撃を生んだ。
風を切る風、鎌風だ。鍛え抜かれた脚力がカマイタチを生み出したのである。刃渡りと呼ぶべきものはあまりに長大。刀が繰り出す技よりもずっと大きく、長く、広い。
だが、
「この程度……!」
ギーアの強固な両腕を崩すには至らない。
「ええ、知ってるわ! 六つの技であんたが使えるのは足由来のものだけ! しかも“嵐脚”は、“月歩”と“剃”を身につけた結果使えるようになった、おまけ程度の練度ってこともね!!」
今はオークション会場へ向かったリューマは、このモモンガの影で動いている。男と同じ強さと技を持つそれは、持ちえる技量をつまびらかに教えてくれた。
“六式”を身につけたのは、戦闘において俊敏に動き回るためであったと。
「空中移動と高速移動を叶える脚力なら、たしかに強風ぐらい起こせるでしょうね! でもこの程度の威力じゃ、倒せるのは雑魚ぐらいよ!!」
「ああ、分かっている。貴様を倒すのはこの刃だ」
構えられた白刃が光を放つ。
男が構える刀こそ、ギーアが真に注意すべきものだ。覇気をまとう鋼仕込みの腕でさえ防ぎきれない、圧倒的な威力を誇る強力な武器である。
これを越えなければギーアに勝利はない。
「………………」
気がつけば、互いに声を無くしていた。
ギーアがそうであるように、モモンガもまた、相手の最たるものを越えるために、全身全霊を己の武器に集中させていたのだ。
女は拳。
男は刀。
自らのそれで相手のそれを破るために。
静けさの中で、押し殺した戦意が空気を震わせる。
そして、
「!!!!」
力は放たれた。
「“
「“
矢を放つがごとき男の突撃を、しかし光が包む。
ギーアの放つ強力な熱量は部屋を焦がし、屈強な男の全身を焼き尽くす。
爆ぜる空気があらゆるものを吹き飛ばした。
ただ一つの例外を除いて。
「おおおおお!!!」
モモンガだ。
心に差した一本の槍、戦意という意思を支えにして、折れることのない感情で満ちた体は止まらない。
「な……!」
光熱を抜けて現れた男にギーアは驚愕する。
“六式”で鍛え抜かれた突撃はまさに巨大な弾丸。刃を水平に構え、残像が一直線に伸びる様は長大な槍のようですらある。
わずかな間を一瞬で詰め、切っ先が迫った。
「!!!!」
貫きは為された。
豊かな乳房のあいだ、心臓のある場所を鍔が触れようかというところまで、深々と刃が突き刺さる。
まごうことなき致命傷だった。
それが、人体であれば。
「何!?」
しかし、ない。
出血がない。
それどころか、端正な顔からは目や歯、舌といったものが失われ、ぽっかりと闇を覗かせている。
つまりこれは、
「“
声は貫かれたギーアの背後にあった。
何故なら彼女はそこにいるからだ。
「身代わりか!」
モモンガが穿ったのは、ギーアが脱ぎ捨てた“皮”だ。その背を破って後ろに退いた本体は、“皮”の影に潜んで刃を躱している。
さらに、
「うっ!?」
“皮”が引っ張られ、巻き取られた刀につられて男の構えが崩れる。つんのめった体に生じた隙は、まさしく絶好の好機だ。
「おおおおおおおおお!!」
雄叫びを追い抜き、覇気をまとう一撃が敵を討つ。
「“
「!!!?」
おまけ。
モモンガの技は、動物のモモンガの古い呼び名や妖怪・野衾(モモンガやムササビの姿をしているとされる)からとってます。
①野伏魔(のぶすま)…野衾。モモンガやムササビの別名でもある。
②飛倉武蔵(とびくらむさし)…野襖の別名「飛倉」+歌川国芳作『美家本武蔵 丹波の国の山中にて年ふる野衾を斬図』
③斬技渡(きぎわたり)…木々渡り。モモンガが木々を飛んで渡ることから
④犯捕(ばんどり)…バンドリ。モモンガの別名。
⑤百具破(ももぐは)…モモングァ。江戸時代の古い呼び名。
⑥威太刀音速(いたちねずみ)…鼯鼠。モモンガの別名。
⑦割空(かっくう)…滑空。モモンガがやるアレ
⑧王鉄砲(のうでっぽう)…野鉄砲。野衾の類型にあたる妖怪。
ちなみに日本においてモモンガとムササビは区別されていなかった時代があり、呼び名は結構ごっちゃです。なのでこのへんはふわっと考えてください。本題じゃないし。
p.s.
第4話「ワノ国を出国せよ」にページワンが登場する流れ、原作の時系列的に修正しなきゃいけないんですが、少々お待ちいただければ。
なけなしのモチベーションなので、スリラーバーク編を終わらせることに集中させたいのです。一段落着いたら修正します。