ONE PIECE -Stand By Me - 作:己道丸
またしばらくは5000文字構成で完成させやすい書き方をしていこうかと思います。
ならず者どもは果敢であった。
ギーアたちが何者か、それを理解した上で剣や銃を抜き、襲いかかる蛮勇さを持っていたという意味で。
「ビビんな! こっちは百獣海賊団傘下、スコッチ海賊団だぞ!」
「簀巻きにしてカイドウさんに送りつけてやれ!!」
先頭の男が叫んだ。
未だ青ざめる他の者どもを鼓舞しようとしたのかもしれない。気色ばんだ顔を引きつらせ、旗のようにかかげた剣の刃を輝かせる。
ひょっとしたら、この酒場にたむろする者どものまとめ役だったのかもしれない。
その意気や善し。
問題は、実力が伴わないことだ。
「――腰が引けてる!」
「ぐえっ!?」
隙だらけの体はあまりに脆い。腰の入らない構えは、たった一発の蹴りで総崩れとなる。
人を斬る上で、この男はまるでなっていない。
しかも、未熟な点はそれに止まらなかった。
「剣を握る手!」
「ンぎっ!?」
「床を蹴り出す足!」
「ぎゃっ!」
「敵を見る目!」
「うがァ——!?」
「仲間との位置取り!」
「ウ、ギ……ッ!」
あらゆる不出来を叩きのめしてやれば、あっという間に千鳥足の出来上がりだ。その胸倉を掴み上げるなどたやすい。
片腕で吊り上げられた体は標本箱の虫か、あるいは氷室で垂れ下がる肉の塊である。床から浮いた両足がぶらりと揺れて、あまりにも力ない。
打たれ、腫れあがった男の顔を、ギーアは睨む。
「何より、私たちを狙ったおつむの悪さ。部下を仕切って長いけど、逸るばかりの愚かさだけは手に負えないわ」
「ひ……!」
構えた拳、握った怒気に、男が息を詰めた。
心が折れた者の表情だ。
それは、この酒場についた時に、ならず者どもに組み敷かれた彼らのそれと、まるで変わらなかった。
捻じ伏せられた店長。
床に放り出された店員の娘。
そして、殺される直前の少年。
なによりここに来るまで見てきた、この街のその住人達の姿。それらをつぶさに思い出し、五本の指が一層の力を得る。
確かな手応えは、力と心が噛み合った証拠だ。
「うん」
にっこりと、満面の笑顔でギーアは告げる。
「――あんたたちは、要らないわ!」
「う、うああああ! 助けろお前らぁ――――!!」
蒼白になった男が絶叫した。
胸倉を掴み上げる腕がどうにもできないと悟るや、上擦った声で背後の者どもへと助けを求める。
周囲のならず者どもは、弾けたように走り出した。男は無様だったが、それでも者どもにとっては仲間である。何より、次に同じ目に合うのは自分たちだという確信が、者どもを一致団結させていた。
しかし、そんなものはギーアには無意味だ。
拳に宿す光熱は、それら全てを一掃できるから。
「“
「オゲ――――――!!!?」
光輝。
その一打は男を火だるまに変え、向かってくるならず者どもを迎え撃つ炎の弾として撃ち放った。
「う、うわぁッ、こっちに来ンなァ!」
「に、逃げ……」
「ギャアアアアアアアアア~~~~!?」
蹴散らされた者どもこそ無様である。
大の男が十数人、まとめて木っ端みじんに吹き飛ぶ様子は、まさしく連中の軽薄さが形になって表れたかのようであった。
なってない。
その一言だけがギーアの胸にあった。
「……なまくらね。足りないわ、訓練も覚悟も」
黒焦げになった酒場の一角で、ならず者どもは誰も彼もが丸焼きになって倒れ伏す。指先一つ動かせないようでは、もう立ち上がれないだろう。
惰弱。それ以外に者どもを言い表すことができない。
ゾンビにして従える価値すらもない。
怒りを通り越し、ギーアは嘆息するしかなかった。
「海賊を名乗るンなら、もっと覚悟して来なさい」
「バカ野郎、副船長から狙うヤツがあるか! ……こういう時はなぁ!」
叫んだのは、ギーアを迂回するならず者だった。
数人の男どもを従えたそいつらの行く先は、二人の少女だ。
片方は金髪で華奢な体つき、もう片方に至っては年端もいかない小さな娘だ。身を守る物も、この島の寒気に耐えるための防寒着程度しかない。
男どもは舌なめずりして躍りかかった。
「弱そうなのから狙うンだよォ~~~~ッ!!!」
断頭台を気取ったのか、男は高々と跳び上がる。
ことさら大振りになった白刃は勢いに乗り、落ちる先にある金髪の少女に癒えることのない深手を刻もうと、風を切って迫る。
だが、図らずも傷を得たのはならず者自身だった。
「ぎゃあああ~~~~! 痛ぇ~~~~~~!!」
まず響いたのは、刀身が砕ける甲高い音。
続いたのは、男の野太い悲鳴。
砕け、跳ね返った剣の切っ先が、持ち主であるならず者の顔を切り裂いたのである。
顔から血を噴いて落ちたならず者に、後続の者どもは足を止め、刃を砕いたそれを驚きの顔で見上げた。
「何じゃこりゃあ!?」
「か、殻ァ!?」
ならず者の剣を砕いたもの、少女たちがいたはずの場所にあったもの。
それは、渦巻きを描く巨大な楕円形の殻だ。
「バカデケぇ電伝虫!?」
者どもはそれに見覚えがあった。否、この世界の人間であれば、ほとんどの者がそうであっただろう。
電伝虫、改造を施すことで離れた場所の相手と通話できる家畜のそれと、目の前のそれはまったく一緒だったからだ。
だが電伝虫の大半は、手のひらに乗るか、少なくとも抱えられる程度の大きさだ。見上げるほど巨大な電伝虫など滅多にない。
まして突如現れるなど。
「大丈夫だった? ペローナ」
困惑する者どもを他所に、殻から声がした。くぐもっていたが、か細くか弱い女の声だ。
やがて、ゆっくりと殻が持ち上がり始めた。殻の底を晒すように、片側から傾けるように起き上がると、そこから何か軟体じみたものが這い出してくる。
ぬるりとした動きで伸び上がった軟体。
その正体は、下半身がカタツムリのようになった金髪の少女であった。
あまりにも異様なその姿に、圧倒された者どもの口をついたのは、至極簡単な一言だった。
「で、電伝虫人間……!」
「あの、私たちを襲わないでください。貴方たちでは、私の殻は砕けないと思いますので」
「な、ナメやがってェ――!」
だが、少女に諭されて引き下がるようでは海賊足りえない。申し訳なさそうな少女の顔は、尻込みしていた者どもを決起させる呼び水でしかなかった。
頭に血をのぼらせ、血を流して倒れるならず者も無視して、者どもは走り出す。
それを笑う者がいた。
「ホロホロホロ! バカなおじさんたち、せっかくステラが親切で言ってやったのに!」
鈴を転がすような声。
けれど、続いたのは者どもを見下すあざけりだった。
「可愛くねーお前らじゃ何やってもムダだよ!」
声の主は、殻の影から現れた幼い娘だった。
いやに大きな目を弓なりにし、結わえた髪を揺らす姿は、およそこの場には似合わない可憐さだ。
だが、いるからには獲物である。
「このガキィ!」
まして煽られたとあっては狙うしかない。
小さな少女へと、屈強な男の群れが殺到する。雪崩のようなそれらは、しかし、
「“ネガティブホロウ”!!」
「!!?」
白い何かによって貫かれた。
「ォアア……ッ!?」
娘の体から飛び出してきた、人の形をした半透明の何かであった。それは泳ぐ魚にも似たゆるい動きで、迫りくる者どもの胸を通り抜ける。
その直後だ、男どもが膝をついたのは。
「…………!!」
血はない。傷もない。だが力もない。
頬や肩でもって床にすがりつく者どもは、ことごとく蒼白な顔にうつろな目を浮かべていた。
そして、うわ言じみたうめき声こぼす。
「……生まれてきてすみませんでした……」
「ホロホロ、ザマァねェなァ! 私のゴーストに触れて、心が折れないヤツはいない!」
打ちひしがれる者どもを見下し、娘は胸を張る。
その周囲に浮かぶ白い人型どもは、なるほど確かに幽霊と呼ぶしかないような風体をしていた。
『ネガティブ、ネガティブ』
そんなかけ声を背に、少女は豪語した。
「ステラに守られた私に死角はねェ! 無敵のペローナ様を前に、ネガティブになっちまいな!!」
「おい、やり過ぎるなよ。お前の能力だと、どいつもこいつも話が通じなくなっちまう」
そんなペローナを諫める声が降った。
見上げるほどの、天井を破りかねないほどの大男だ。
色白の肌に三白眼、赤毛を炎のように逆立てた姿は、地獄の悪鬼がこの世に現れたようですらある。
凶相は呆れ顔で少女を見ていたが、それもやがて、別の者どもへと向けられた。
残りのならず者どもへと。
「ひ、ひぃ……!」
大男の睥睨に立ち向かえる者はいなかった。
誰もが大男以上に蒼白となり、震える足腰で後ずさる。中には武器を取り落とす者すらいた。
そんな姿を見た三白眼は細められ、生え揃った牙は剥き出しになる。
辺り一面を怒気が塗りつぶす。
人だけではない。床や壁や天井や、酒場の机や酒瓶の群れさえ、ことごとく竦んで震え上がった。大男の激情が、まるで形を持って湧き上がっているかのようだ。
事実、大男の足元から這い出すものがある。
彼の影だ。
「てめェらみてェのがカイドウの威を借りてるのかと思うと、虫唾が走るぜ」
「ひ、ひぃ!」
影は渦を巻き、主の号令を待つ。
まるで引きずり込まれているかのように立ちすくむ者どももまた、同じ有り様であった。
そして、言葉は成った。
「“
「!!?」
形を得た影が天を突く。
塔、否、巨大な槍だ。矢にも勝る勢いで伸び上がるそれは、残りのならず者どもを屋根もろとも撥ね飛ばす。
砕け散る建材に混じって者どもが舞い上がる様は、まさしく木っ端海賊と言うべき有り様であった。
「ギャアッ!」
やがて者どもが降り注ぐ。
ある者は床板を砕き、またある者は表通りの積雪に沈む。共通するのは、誰もが満身創痍で身動き一つできないということだった。
大男の怒号が響く。それが、彼にとっての許しだから。
「ツケは払ってもらったぜ! このおれ、ゲッコー・モリアを侮ったツケはなぁ!!!」
「……はぁ、軒並みノシちゃって。伝言させるんじゃなかったの?」
「歯ごたえがなさすぎる。この雑魚どもが悪い」
あたりは死屍累々だ。
雪の上に散乱する瓦礫と負傷者、酒場は天井すら砕かれて露天の廃墟となり、ギーアたちを雪から守る役目を放棄してしまっていた。
肩に乗る雪を払い、ギーアは半眼でモリアを睨むが、しかし当の本人はそっぽを向いて取り合わない。
どうやら、このならず者どもには相当おかんむりらしい。
逆襲を目論んでこの島へ来た彼からすれば、あまりにも肩透かしだったのだろう。
「ホロホロホロ! 私たちにかかればこんなもんだよ、モリア様! 私たち、スリラーバーク海賊団にかかればね!」
風通しのよくなった酒場で、ペローナの笑い声はよく通る。
モリアは変わらずヘソを曲げたままだが、しかしギーアはそこまで落胆していなかった。
この連中は、自分たちが狙う敵の本隊ではない。それにおもねる傘下海賊の、そのまた末端だ。そもそもの格が違う。
それに、今狙う敵はまだ残っている。
「でも、目立ってしまいましたね。早く離れないと」
「そうね。今敵の本隊に見つかるのは、さすがに時期尚早だわ」
おずおずとしたステラの言葉に頷く。
ギーアたちは先遣隊だ。近海に泊めた海賊船、スリラーバークに控える兵力を呼べるように、この島の様子を探って準備すべく、潜入している。
部下がゾンビか、あるいはギーアの皮をかぶって同じ姿になったブギーマンズしかいない以上、人目を忍ぶには、ギーアたちが自ら潜り込むしかなかった。
「モリア、もう私たちがいるってことは隠せないし、何人かさらって行きましょう。連れ帰って締め上げてやるわ」
「あぁ、そうだな」
船長に提案し、頷きを得たギーアは、近くにいたならず者を掴み上げた。
痛む体を引きずりあげられて男は苦悶したが、しかしやがて、卑屈な忍び笑いを浮かべてこちらを見た。
「お、おれたちをやったぐらいでいい気になるなよ。いや、むしろやっちまったと後悔するといいぜ」
「……何?」
この期に及んでする大上段の物言いに、ギーアは首を傾げた。
それが可笑しいのか、男はことさら煽るように叫ぶ。
「自分たちの運の無さを呪え! 大看板がいる時にこの島へ来た不運をなぁ!!」
「!!!」
大看板。
それは仇敵の最高幹部だ。この“偉大なる航路”後半の海、“新世界”において覇権を誇る百獣海賊団において、頂点に立つ男を守る3人の実力者。
その力と凶悪さ故に、“災害”という別の呼び名すら持つ大海賊たちである。
「大看板の一人がこの島にいる……?」
「……キシシ、面白くなってきやがった」
息を呑むギーア。だが一方で、それを聞きつけて寄ってきたこの男にとっては、吉報でしかないらしかった。
目をらんらんと輝かせたモリアは、牙しかないその大口で呑み込むかのように、ならず者を覗き込んだ。
「誰だ? ――誰がこの島に来てやがる!!?」
麦わら一味に例えるなら、モリアは船長枠として、
ギーア … ゾロ枠
ステラ … ナミ枠
ペローナ … チョッパー枠
みたいな感じです。原作のスリラーバーク一味を始め、増員する予定ですが、書き上げられるのはいつになるやら。
今回のエピソードにおける敵方も次でようやく顔見せできそう。気長に読んでやっていただけると嬉しいです。