ONE PIECE -Stand By Me -   作:己道丸

26 / 34
ご無沙汰しております(定型句)。


“修羅の素養”

「ゲッコー・モリア? ……ああ、あったなァ! カイドウさんに挑んで全滅した海賊団がよォ!!」

『あの場にてめェがいなくて残念だぜ、“音害”のジャック。いれば勝ち筋もついたのによ』

 

 電伝虫から届く声が、ジャックに火をつけた。

 雪と冷気に晒される露天の一室にあって、寒風をものともしない熱気が体を満たしていく。

 熱を上げた激情が蒸気のような声を出す。

 

「調子に乗ってンじゃねェぞ、木っ端海賊」

 

 全身の血管が膨れ上がる感覚。煮え立つ血潮が全身を駆け巡り、その身に宿した獣の形を呼び覚ます。

 人並外れた体躯がまたたく間に巨大化した。

 太い腕はより太く、筋肉で隆起する脚は更に彫りを深めた。指先は鉄塊のような爪に覆われ、全身もまた節くれだった分厚い皮膚に変質していく。

 背筋は連山のように張り出し、尻から伸びる長い尾へと、波打つ形を続けていた。

 最早人の形をしていない。

 その姿は、

 

「きょ、恐竜……ッ」

 

 背後で、アイアンボーイ・スコッチが後ずさる。

 正面にいるナンバーズもそうだ。巨大化したと言っても、奴らからすれば腰ほどもない大きさだ。しかし、3人の誰もが冷や汗を浮かべて、竦んでいる。

 そうだ。

 これが自分だ。

 

「おれは百獣海賊団の大看板だぞ……!!!」

 

 怒りに任せて発動した悪魔の実の力、太古の獣に変身する力は、憤慨するジャックの声をより大きく、深く、禍々しく響かせる。

 それは電伝虫を通じて、余すことなく相手に伝わったはずだ。

 しかし、

 

 

『ああ、知ってるよ』

 

 返事には、数分の震えもなかった。

 

『むしろいるのがお前で良かったぜ。丁度いいからな』

「……そうか」

 

 男の声は嘲るようですらあった。

 その時、ジャックが電伝虫を叩き潰さなかったのは、自制や容赦というものが胸のうちにあったからではない。

 逆である。

 極まった怒りが、逆に頭を冷静にさせていたのだ。

 

 

 

「覚えたぜ、ゲッコー・モリア。てめェはおれが潰す」

 

 

 

 

 宣言は、撃ち出された投石のように頑なだった。

 

「クイーンもてめェを仕留め損なったらしいじゃねェか。その首をとれば、ヤツを出し抜くいい手土産だぜ」

『待ってるぜ? 大看板を討てば、カイドウにもしっかり伝わるだろうからな。……まだおれは食いついてるってよ』

「負け犬ほどよく吠えるぜ」

 

 ジャックは鼻で笑った。

 

「こっちはナンバーズ3人を含むおれの配下が5000。それに、この島を仕切る傘下の海賊団が2000。合わせて7000の兵力だぞ。てめェらにどれほどの兵力があるってんだ?」

『…………』

 

 返された沈黙に、にやり、とジャックは頬を吊り上げた。

 当然だ、こちらはあの白ひげ海賊団やビッグ・マム海賊団に並ぼうとする百獣海賊団、その大幹部が率いる部隊なのだ。

 カイドウがかかげる完全実力主義の下、競い合う荒くれ者どもは今や1万を越える。数も練度も違うのだ。

 一介の海賊団ごとき、挑むのもおこがましい。

 

「どうした? てめェらはどれだけの兵力を連れて来たって聞いてんだよ」

 

 2000か、3000か。

自分たちの半分程度にまで届こうというなら、むしろ誉めてやろう。

 そう思って返事を待つと、やがてかすかに息を吸う音が電伝虫から聞こえてきた。言葉を作るための呼吸を、電伝虫が拾ったのだ。

 さて、どんな数が飛び出すか。

 にたにたとした顔のジャックに向けて、言葉は届けられた。

 

 

 

『――5万だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めちゃめちゃサバ読んでンじゃないわよ、このバカ!!!」

 

 

 モリアが通話を切った瞬間、ギーアの蹴りは彼の向う脛を全力で打ち抜いた。

 

「オォ……!!」

 

 銅鑼が鳴るような檄音に、脛はたわむようですらあった。

 人体が抱える急所の一つだ、さしものモリアももんどりうって転がるしかない。足を抱えて伏した姿は、さながら震える小山といった風であった。

 見かねたステラが、いかにもおずおずといった風に手を伸ばす。

 

「あ、あの、ご主人様、大丈夫ですか……?」

「大丈夫、問題ないわ」

「てめェが答えてンじゃねェよ!!」

 

 半壊した酒場の床に額をこすりつけるようにして、モリアが凶悪な三白眼で睨みつける。しかしギーアにすれば痛みを堪えたやせ我慢の行為だ。どうということはない。

 やがて、向けられる怒りに歯ぎしりが加わった。

 

「オイ、おれは百獣海賊団になしをつけた功労者だぞ……!」

「黙ってなさい、この船長! 大ボラ吹いた上に勝手に宣戦布告して……今は潜入中って言ったのに!!」

 

 だが怒りたいのはこちらだ。

 横たわったモリアの顔はあまりにも近い。その貴重な機会を活かし、鼻っ面に怒声を浴びせるつもりで指を突きつけた。

 

 

 

「何が5万! 私たちの戦力は搔き集めても1000程度じゃない!!!」

 

 

 

 

「……兵力の数は、盛って伝えるのが常だろう」

「限度があるわ!! 大体、今この島にいるのは私たち4人だけなのよ!? 兵力はこの島に上陸さえしていないのに……あァもう!」

 

 こんなことを言い合っている場合ではない。

 髪を一しきり搔きむしると、ギーアは唸り声を嚙み殺して勢い良く振り向いた。

 

「ステラ! スリラーバークに待機してる連中をこっちに呼んで! 至急よ!!」

「は、はい!」

「それからペローナ! 貴方がさっき能力で止めた敵はどれ!?」

「え、え? えーと、あのへんに転がってるヤツらだけど……」

「あの連中ね……! オラあんたたち、いつまでも寝てンじゃないわよ!!!」

「ぐぎゃあッ!?」

 

 いも虫のように転がっていたならず者の腹に、モリアも呻く強烈な蹴りが叩きこまれた。

 ギーアたちが全滅させたならず者のうち、ペローナがゴーストで心を折った連中は、体そのものは無傷である。力を加減する必要はなかった。

 胸倉を掴み上げ、鋼鉄仕込みの手のひらで頬っ面を何回か叩いてやれば、呆けた目に正気が戻る。

 

「お、おれは、一体……」

「うるさい!!! 正気に戻ったンなら、知ってること全部吐きなさい! こっちは時間が無いのよ!!」

「ギーアさん、すっごい強引……」

「キレたアイツの相手なんざ出来たもんじゃねぇな」

「多分一番怒らせたの、ご主人様だと思います……」

 

 外野が何やら言っているが、今は無視。

 ならず者の顔を、そうだと分からなくなるまで平手打ちにしてやれば、おのずと口を割らせることができた。

 目鼻の場所も分からないほど腫れあがった顔を放り捨て、ギーアは改めて気絶したならず者を背にしてモリアたちの元へ戻る。

 

「……本当だったわ。今、この島には7000の兵力がいる。しかも、ここにはやつらの兵器工場がある」

「街の人たちが連れていかれていた場所ですね」

「武器いっぱいってこと? ヤバいじゃん!」

 

 ステラとペローナが騒ぎ立てるのを聞きながら、ギーアは腕を組む。

 

「不幸中の幸いは、連中の拠点は兵器工場の向こう側にあるってことね。7000の兵力が準備を整えて出発し、工場で順繰りに武装して雪原を越えてくるなら、開戦まで時間はある」

 

 と言いつつも、決して余裕はない。

 むしろ、僅かばかりの猶予をどう使えばいいのか、その悩みで渋面は深まったと言える。

 こめかみに手を当て、軋むほどに食いしばった歯を開けば、泥のように重い声が漏れ出してしまう。

 

「戦力差が大きすぎる。1000対7000……しかも向こうには大看板とナンバーズ3人……こっちの戦力が持たないわ……」

「ねぇ、ナンバーズって何?」

 

 不意に、ペローナが手を上げた。

 ギーアは一瞬目を丸くしたが、すぐに小さく頷いて、

 

「あ、ああ、そうね、話したことなかったわね。ええと、ナンバーズって言うのは……」

「巨漢の巨人どもさ」

 

 言葉を継いだのはモリアだった。

 憎々しげに凶相をゆがめた大男は、思い返すように軽く天を仰いだ。

 

「ただでさえデカい巨人の、更に倍はある図体をした連中さ。どこで見つけてきたのか、カイドウはそれを十人近く従えてやがる」

「おおきな、巨人?」

「巨人も見た事ねェか。そうだな、じゃあ……大体おれの五倍はある大男だと思えばいい」

「ご主人様の五倍!?」

 

 そこで、ようやくペローナは想像することができたらしい。それはステラもだ。

 巨体を思い浮かべるようにモリアの頭上を見上げるペローナの隣で、ステラは肩をすくませるほどに顔色を失わせていた。

 

「そ、そんな人間がいるんですか?」

「いるところにはいる、としか言えないわね」

 

 いなければどんなに良かったか。

 かつてモリアが海賊団を率いてカイドウたちに挑んだ時、そこに現れた巨大な姿をギーアは今も覚えている。

 

「あいつらが厄介なのは、ただ強いことじゃない。とても大きいってことよ」

「……? それは、同じことではないんですか?」

 

 小首をかしげるステラに、大きく頷いて見せる。

 

「私やモリアみたいな“強いヤツ”ってのは、要するに“倒れない兵力”なの。もちろん強さも持っているけど、それ以上に、どんな攻撃にも耐え、倒れず、戦い続けることで最終的に勝利を得る」

 

 しかし、

 

「ナンバーズは逆。広範囲に及ぶ一挙手一投足が、一度にたくさんの“弱いヤツ”を攻撃する。一部の“強いヤツ”は耐えても、その他大勢の“弱いヤツ”は無理。そうやって、相手を戦えなくして勝利を得る」

 

 つまり、

 

「本質的に私たちは“受けの兵力”で、ナンバーズは“攻めの兵力”ってこと。こっちが何十分も走り続ける距離を一歩で詰め、ちまちま数十人蹴散らす間に腕一振りで百人を倒す。……戦略的に見て、あれは兵力というより兵器の役回りね」

 

 説明すると、こみ上げる気持ちがため息となった。

 ステラから目をそらすように天を仰ぎ、額を拭ってギーアは言葉を結んだ。

 

「――数が段違いな上に、兵力を減らす力は向こうが圧倒的に上。とてもじゃないけど勝負にならないわ」

「そ、そんな」

「今の私たちに対抗できる手札があるとすれば……」

「おれのゾンビか」

 

 額から手を離し、そう言った声の主を見上げた。

 やはり聡い。時々、いやちょくちょくバカをしでかすが、根は賢い男なのだ。

 このゲッコー・モリアという男は。

 

「影と死体さえあれば、逆らわない兵力をいくらでも増やせる。何より、どんな攻撃を受けても起き上がる耐久力がある」

 

 見返す目には、分かっているんだろう、と言わんばかりの意思が込められていた。

 当然だ。だから、深く頷く。

 分かっている。

 嘆きはあっても、しかし諦めるつもりはない。

 この男を海賊王にするため、自分はいるのだから。

 

「兵士ゾンビをナンバーズに当てる。それしかないわ」

「問題はどう増やすかだな。影は島民から取るにしても、肝心の死体がねェ。この島に都合よく大量の死体でもねェ限りな」

 

 顎を手を添えるモリアに、ギーアも腰に手を当てて渋い顔を浮かべた。

 スリラーバークの時は大量の死体を用意する環境があったが、今回はそうではない。この街の人間半分を死体にしても、結局得られる兵力は全体の半分ということになる。それは避けたい。

 敵海賊団の構成員を死体にするか。

しかしやつらは一丸となって攻めて来る。本体の百獣海賊団とぶつかるまでに、そんな悠長な準備をしている間がない。

 

「どうしたものかしらね」

 

 こうして悩む間も惜しいほどの状況。消費する時間が苦悩を助長するのが否応もなく分かる。

 いよいよ歯ぎしりした歯を噛み砕いてしまうか、そう思われた時、

 

 

 

「――あるぞ」

 

 

 

 声が響いた。

 それはギーアの仲間のうち、誰のものでもなかった。年若くはあるが、しかしペローナのような少女特有の高い声色を含んでいない。

 低音を含む、芯のある声だった。

 

「たくさんの死体が必要なのか? それがあれば、あいつらに勝てるのか?」

 

 少年だった。

 ギーアの振り向いた先、一人の少年がこちらを見ている。

 見据えていると言ってもいい。

 らんらんと輝く二つの瞳にあるのは強い意気。体の震えを抑え込み、少年をこちらに立ち向かわせる激情が、光となって溢れているのだ。

 

「……子供の出る幕じゃないわ」

 

 ギーアの威圧が走る。

 結果としてならず者どもから助ける形になったが、何も自分たちは島を救いに来たヒーローではない。単なる圧政者の競合相手に過ぎない。

 少年もそれは分かっているはずだ。

 だからこそ、続く言葉には威圧に抗おうという激しい語気が込められていた。

 

「大勢、死んだんだ!!」

 

 涙がある。

 悲しみと、それに勝る怒りによって絞り出される感情の実体化が、少年からこぼれ出していた。

 

「やつらがこの島に来た時! 追い払おうとして、でも戦ったみんなは死んだ! その墓場がこの島にはある!!」

 

 大きく肩を震わせて、

 

「おれの父ちゃんも……! 何千人も斬ったけど、最後はあいつらに殺された……!!」

「……へぇ」

 

 やがて、少年の声は嗚咽に飲まれてしまう。

しゃくりあげる息に押しつぶされ、言葉が続かなくなる。

 けれど、確かに少年の言ったことはギーアの関心を誘った。

 

「興味あるわね。百獣海賊団に大立ち回りした、この島の戦士」

 

 少年が顔を上げた時には、ギーアは彼の眼前に立っていた。

 見上げる顔は、どうしようもなく不細工だ。目元を赤く腫らし、涙と鼻水と涎にまみれ、嗚咽をこらえようと食いしばる歯は剥き出しになっている。

 けれど、決して目はそらさない。

 瞳の光は途絶えることなく、こちらをまっすぐ見上げている。

 

「“新世界”の人間なら、悪魔の実を知ってるわね? 私たちはその能力で死体を操り、兵士にするわ」

 

 ギーアは少年の意志を認めた。

 だから試す。彼が自分たちを知ってなお同じことが言えるのか。

 

「分かる? あんたは今、同郷人や父親の死体を、武器として海賊に差し出そうとしてるのよ?」

「……それであいつらを追い出せるなら」

 

 ギーアの言葉に、しかし意思は揺らがなかった。

 

「みんな、戦って死んだ! それでも守れなかったなら、死んだって戦いたいハズだ……!!」

「……そう。あんた、才能があるわ」

 

抗う才能。戦い続ける才能。

 それは、修羅の素養であったけれど。

 

「あんた、名前は」

「ガブル」

「強かったっていうの、貴方の父親の名前は?」

「――()()()()。みんなは、()()()()()()()()って呼んでた」

 

 少年、ガブルは鬼の宿る形相で言った。

 

 

 

「7000人斬りの剣豪、ジゴロウ。……あいつらを追い出してくれるなら、父ちゃんたちの眠る墓場まで案内してもいい」

 

 




作中にてジゴロウがガブルの父ってことにしてますが、勿論これは独自設定です。というか、もう設定のパッチワークですね、コレ。
「ガブルとその祖母がいるなら、間にもう一世代あるなー」って感じで、ジゴロウの死体獲得の流れをここにねじ込みました。ジゴロウはワノ国の人間って考察もあるみたいですが、ワノ国出身じゃなくても和風なキャラはいる(たしぎとかクマドリとか)ので、本作ではそちらを採用していません。

あと、ナンバーズの役回りについては個人的解釈がありますが、別に軍事的知識が豊富な訳じゃないので、あんまり突っ込まないでやってください<(_ _)>。
原作では作画に花を添えるための目立つモブみたいな扱いでしたが、ちゃんと兵力戦を展開するならカイドウや大看板たちとはまた別の活用法があるキャラだと思うんですよね、ナンバーズ。



感想や評価をいただけると、今後の励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。