ONE PIECE -Stand By Me -   作:己道丸

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ちょっと身辺がバタバタして、間が空いてしまいました。


“ムクロダマ作戦”

「また来るぞォ!!」

 

 百獣海賊団の叫びはあまりに遅い。

 ゲッコー・モリアの太刀は既に振り抜かれた。

 

「“影断分(かげたちぶ)”!!!」

「!!!」

 

 飛ぶ斬撃が敵勢を割り、攻め入る者どもをみっつに分ける。

 攻撃を免れた者と、直撃し息絶えた者。

そして、深手を負いつつも生き永らえた者。

 血や手足を失う彼らだったが、しかし、失ったものはそれに留まらない。

 

「クソ! また影を奪われた!」

 

 雪原に倒れた負傷者に、あるべきものがない。

 影だ。

 本来人の足元に投影されるべきそれは、全身黒塗りの人型となって負傷者の傍で立ち上がっている。

 影の実体化。モリアの能力だった。

 

「影ども! 死体に入ってゾンビとなれェ!」

 

 カゲカゲの実の能力によって形を得た影は、それ故にモリアの支配力を強く受ける。轟くように命令してやれば、影どもは迅速に応えた。

 切り伏せた負数の死体へと飛びかかり、その中へと溶け込んだのである。

 そうして出来上がるものこそ、モリアの手勢。

 ゾンビである。

 

「畜生ォ!! おれたちの仲間だぞォ!!!」

 

 今の今まで隣にいた者が、青ざめた死相で襲いかかる。その恐怖と怒りは怒号となり、そこかしこから噴き上がった。

 だがそんなものは幾らでも聞いてきた。

 

「残念だが今はおれの部下、情で手が鈍るなら好都合だ。……野郎ども、押し潰せェ!!」

「了解しましたご主人様ァ!!!」

 

 軍勢に紛れ込んだゾンビに慌てる百獣海賊団へ、モリアが率いる兵士ゾンビたちが突撃する。

 弾幕を受け、剣に裂かれようと進撃は止まらない。

 命令に忠実なことこそ、ゾンビの特徴だからだ。

 それは数でも質でも劣るこちらが勝っている点の一つだったが、それで油断することはできない。

 モリアの巨体は、この戦場を俯瞰していたからだ。

 

「敵勢をゾンビにして、やっとおれの兵力は約1000」

 

 だが、

 

「――敵が減らねェ」

 

 数十のゾンビを作り、それに倍する負傷者と死者を出したのに、迫る百獣海賊団はまるで減った様子がない。

 この雪原へ、次々と増員されている証拠だ。

 

「この場の敵は今も変わらず約2000」

 

 比率にして1対2。

 元が900と2000の戦いだったことを思えばマシになったと言えるが、気休めだ。

 何より、敵の兵力が2000で留まるはずがない。こちらがゾンビを作る以上の早さで、敵は増え続けているのだから。

 

「押し返せェー! 化け物がなんだ、数はこっちが上だぞ!!」

 

 凶悪な風体、かつての仲間とはいえ、命がかかった戦場にあっては、時間が経つほどに構っていられなくなる。

 後ろからの増援に押し出されたこともある。

 内部にゾンビが紛れ込んでいるにも関わらず、敵勢はこちらの攻めを受け止めつつあった。

 

「仇をとるんだ! ゾンビを斬り倒し、ゲッコー・モリアを討ち取れェー!!」

 

 慣れてしまえば、恐れを強いた分だけ敵の戦意と殺意は熱を上げる。反撃は戦線を動かし、こちらを圧倒しようとしていた。

 そうして進めば進むほど、敵の増援が入る場所も増える。

 今や雪原にいる敵勢は2000を越えていた。

 それはつまり、

 

「計画通りだ」

 

 増え続ける敵を見下ろし、モリアは獰猛に笑む。その目は、敵が来る地平線の先へ向けられていた。

 

「頃合いだ。任せたぞ、ギーア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頃合いね。行くわよ、スリラーバーク別動隊」

 

 振り向くギーアを、輝く目の群れが見返した。

 戦意のまなざしだ。

 この瞬間、この言葉を待ち続けた者たちの、抑え続けてきた意気が眼光となって表れている。

 スリラーバーク本船から呼び寄せた兵士ゾンビとブギーマンズ、合わせて1000。

 だが一際強い光を放つ者は、そこに含まれない。

 

「待ってたぜ、ギーアさん」

 

 アブサロムだ。

 一歩進み出た彼は、この島で加わった戦力である。

 顔の下半分をギーアの“皮”で包んだ男は、崖から身を乗り出し、眼下にあるものを覗き込んだ。

 

「ようやくあの武器工場をぶち壊せるんだな」

 

 ギーアたちは今、雪山の中腹にいた。

 雪の積もる山林に手勢を忍ばせ、岩陰に潜むことしばし。そこからの解放感も、眼光を強める一因だろう。

 だがそれも、百獣海賊団に勝つための作戦だ。

 

「武装するために一度武器工場を経由する。それは敵を最も強くするけど、同時に隙でもある」

 

 ギーアがいる山と向かいの山、その谷間を埋めるように広がる武器工場。山奥から来る列が入り、雪原へ抜ける様は関所のようだ。

 武装する百獣海賊団の手勢である。

 

「あれを叩く。しくじれば、私たちは兵力差に押し潰されて敗けるわ」

「大丈夫さ、そのために島中からかき集めたんだからな」

 

 言って、アブサロムは背後に合図を送る。すると彼の部下たちが、何か大きな塊を転がしてきた。

 肉塊。

 あるいはゾンビの塊というべきものだ。

 直径はギーアの背丈に勝るほど。その表面は、数十体のゾンビが互いの手足を掴み合い、網状になって覆いつくしていた。

 その隙間からは別の死肉が覗いており、塊は中に至るまでゾンビが詰まっているのだと分かる。

 そんなものが、続いて幾つもやって来た。

 

「あのガブルってガキ、とんでもねェこと思いつきやがる」

「そうね、まともじゃない。でも、今の私たちがまともに立ち向かっても奴らには勝てない」

 

 ゾンビの詰め合わせとでもいうべきこれらこそ、百獣海賊団に勝つための策だ。

 そして発案者にとっては、全てを投げ打った背水の陣でもある。

 

「頼むわよ、“影法師”」

 

 呼ぶと、黒塗りの巨体が進み出た。つい先ほど空を飛んで来た、モリアの影である。

 命じられた“影法師”は手近なゾンビの塊を掴み上げた。こんな大玉でも、この巨体にとっては片手で掴み上げられる程度の大きさでしかない。

 それから、体を大きくひねった。

 引き絞るように力を溜めた巨体を認め、ギーアは改めて標的を見据える。

 口火となる宣言を放つために。

 

 

 

「ガブル発案、“ムクロダマ作戦”。――かかれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは屋根を砕いて飛来した。

 

「!!? な、なんだァ!?」

 

 突然の轟音、瓦礫となって降り注ぐ天井の残骸。

 武器工場で意気揚々と武装していた百獣海賊団は、目を剥いて仰ぎ見るより他になかった。

 瓦礫の雨の中、何かがある。

 大きな塊。それが武器工場を上から突き破り、破壊を伴って侵入しているのだ。

 もっともそれが分かったところで、その真下にいる者たちに逃げ道はなかったが。

 

「ぎゃああああああああああッ!!!」

 

 人がひしめく工場内にあっては逃げ場などない。

 数十を越える者どもの姿と悲鳴は、瓦礫と轟音の下敷きとなって掻き消された。

 

「オイ! 大丈夫かてめェら!!」

 

 霧のような粉塵を振り払い、辛くも被害を免れた周囲の者どもが駆け寄る。

 手探りで瓦礫を押し退け、埋もれた仲間たちを助け出していく。その誰もが傷だらけで、致命傷を負っている者も少なくなかった。

 

「ウ、ウゥ……」

「しっかりしろ! 気を確かに持て!」

 

 それでも息のある者はいる。だから肩を貸し、手当てをしようと瓦礫の山から担ぎ出した。

 しかし、

 

「お、お前……?」

 

 その中の一人が気付いた。

 肩を貸す負傷者の体が、あまりにも冷たいことに。

 とても生きているとは思えないほどに。

 

「へへ、腐れヒデェ。投げ込まれちまったよォ……」

「ひィ!?」

 

 思わず悲鳴を上げた。

 もたげられた負傷者の顔が、青ざめた死体の顔だったからだ。

 

「ゾ、ゾンビ!?」

「今さら気付いたって遅ェんだよォ~~~~~~!」

「うぎゃあああああッ!?」

 

 離すのも間に合わず、躍りかかったゾンビの剥き出しの歯が喉笛に食らいつく。

 そうして押し倒される様が、粉塵の中で幾つも生まれていた。

 

「うがァ!」

「ぐぎゃああ~~~~!!」

「ヒ、ヒィ! ゾンビ、ゾンビがァ!!」

「どうしたお前ら! 何が起きてンだぁ!!?」

 

 次々とあがる悲鳴に、駆け寄ろうとしていた者たちがたじろぐ。粉塵と瓦礫に何かが潜むと分かったからだ。

 だがその認識は甘かった。

 襲いかかるものどもが、粉塵の中から出てこない保証など、どこにもなかったのだから。

 

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「うわあああああっ!? う、牛!?」

 

 立ち込める煙を貫き、牛が飛び出してきた。

 それだけではない。

 

「メエエッ! メヒエエエエエエエッ!!!」

「フゴフゴッ! ブヒィ!」

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 羊、豚、熊。鶏や猪、鹿にいたるまで、様々な獣が続いて現れ、足踏みしていた者たちを踏み潰していく。

 だが、襲い来るのがそれだけならまだ幸いだった。

 中には名状しがたいものもいたのだから。

 

「うあああああああああああああああああっ!!!」

 

 それを目にした者たちは一際大きな悲鳴を上げた。

 生きた獣に襲われる、そんな常識的な危機をはるかに越える、理解しがたいものどもが現れたのだから。

 

「ブオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「ブゴゴッ! ブフオオオオォ――――!!!」

 

 それは、首を断たれた牛や鶏の死骸、全身の皮を剥かれた豚の死体。

 そして、腕や顔面の皮を縫い付けられ、タコかクモのように這いまわる岩石であった。

 それらが獣の雄叫びをあげて迫ってくる。その恐怖は、百獣海賊団の混乱を助長した。

 

「何だこれは! 一体何が入り込んだんだ!!?」

 

 無数のゾンビ。

 荒れ狂う動物たち。

 立って走る獣の死骸。

 うごめく人皮付きの岩。

 そのすべてが、百獣海賊団の理解を越えていた。

 

「ば、化け物だ!!! 化け物が入り込んだぞォ―――――!!!!」

 

 警告とも悲鳴ともつかない叫びは、しかし新たに天井が砕ける轟音で踏み潰された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“影法師”、玉が尽きるまで投げ込みなさい!」

 

 ギーアが命じるまま、“影法師”は運ばれてくるゾンビの塊を投げ飛ばし続けた。

 山の中腹から投じられ、落ちる先は眼下の武器工場。一つ、また一つの屋根に穴を穿たれ、その全てから悲鳴が湧き上がる。

 

「うまくやってるみてェだな。玉にして放り投げられたってのに、忠実なやつらだ」

「それがゾンビよ。たとえ中の影が人のものでなかったとしてもね」

 

 アブサロムは加わったばかりだ。ゾンビの性質や成り立ちを聞いても半信半疑だったのだろう。

 だがギーアにしても、今回のゾンビははじめて見るものだった。それはおそらく、作ったモリア本人にしてもそうだろう。

 そんなものどもが暴れまわる様を、ギーアは遠くから想像していた。

 

 

 

「獣の死体と、死体や皮を縫い付けた無機物のゾンビ。言うなれば“動物(ワイルド)ゾンビ”と“びっくりゾンビ”」

 

 

 

「……獣の影でも動いてくれたのは助かったわね」

「戦いが始まるまでに島中の動物を捕まえるのは骨が折れたぜ」

 

 肩を回して見せるアブサロムに、ギーアは苦笑する。

 

「おかげで兵力を底上げできたわ。動物の影だとゾンビも獣並みの知能しかなかったけど、モリアの支配力があれば問題なかったしね」

 

 そういう間にもゾンビの塊が新たに投じられる。

 ゆるやかな曲線を描いて飛んでいく大玉を見送り、ギーアはその中身を思い返す。

 いわば攻城兵器そのものとなったゾンビたちを。

 

「動物ゾンビやびっくりゾンビ、あと影を奪った獣たちを、手足を繋ぎ合って網状にした兵士ゾンビでひとまとめにする」

「それを“影法師”に投げ込ませりゃ砲弾代わり。ついでに武器工場へ手下を送り込むこともできる、か」

 

 肩をすくめたアブサロムである。

 

「ゾンビじゃなきゃできねェ作戦だな」

「体で網を作るのも、投げつけられて行動不能にならないのも、ゾンビの忠実さや頑丈さがなければできないものね」

「しかも落ちた衝撃で気を失っていた獣どもが目を覚ます、か。容赦ねェなァ、ギーアさん」

 

 そうして、やれやれ、という風におどける彼だったが、しかし、不意にそれをやめた。

 神妙な目つきになり、続けざまに投じられ続けるゾンビの塊を見て、

 

「でも一番容赦ねェのは、あのガキだぜ」

「……そうね」

 

 それについてはギーアも同じ思いだった。

 この作戦を思いついた少年、ガブルの恨みや決意を思うと、空恐ろしさで背筋が冷えるようだ。

 

「雪合戦でもするみてェに死体をひとかたまりにして投げつけるなんて、まともじゃねェよ」

「それだけじゃない。この作戦は、ガブルの街やこの島にある資源の、ほぼ全てを絞り出している」

「この戦いが終わった後の生活を考えてない、ってことですかい?」

 

 問いかけに首肯した。

 

「動物ゾンビを作るため、島の獣や家畜は狩り尽くしたし、食糧庫にあった加工中の食肉も全部持ち出した」

 

 つまり、あの街には貯えがないということだ。

 

「数日振りに目が覚めたら食肉と家畜は全滅、狩る獲物も無し。保存食だけで雪の降る冬島はまず乗り切れない」

 

 断言する。

 

 

 

「この戦いに勝とうが敗けようが、街の人間は生き残れない」

 

 

 

「大した鬼だぜ。街全部を巻き込んだ復讐とはな」

「でも、おかげで勝ち筋がついた。見なさい」

 

 眼下の武器工場で轟音が連発する。

 それは施設が壊される音であったり、武器の発砲音であったり、人間の悲鳴であったりと様々だ。

 その結果、屋根の崩落や工場から逃げだす人の群れが見て取れた。それまでの流れに逆らい、山間の方へ戻る人の波もある。

 敵の拠点が混乱しているのは明らかだった。

 

「狙い通り、武器工場を境にして敵を分断できた」

「後は雪原に取り残された連中と、武器工場で泡食ってるやつらを叩けば、百獣海賊団の少なくない兵力を削れるってことか」

「武器工場の占拠を忘れてるわよ。……山間に残る敵本隊に備えなきゃならないんだからね」

「分かってますって」

 

 注意に頷くアブサロムが“影法師”へと振り向くと、ギーアもそれに続いた。

 見れば、“影法師”は最後のゾンビの塊を投げ終えたところだ。

 

「そろそろ動くわ」

 

 その一声に、周囲の誰もが意気を高める。

 

「“影法師”とリューマ、それにブギーマンズは私と一緒に雪原へ。敵を挟撃してモリアを助けるわ。兵士ゾンビはアブサロムについて武器工場へ」

「ギーアさん、おれの子分は連れてっていいよな?」

「もちろんよ。それから、そのゾンビもね」

 

 そう言った時、アブサロムの背後には一体のゾンビがいた。腰に二振りの刀を差した男の死体だ。

 彼に付き従う姿は、まさしくそれを動かす影のあるべき姿と言えるだろう。

 

「貴方の影で動く、貴方の分身よ。上手く使いなさい」

「おうよ! あんたたちの部下になっての初陣だ、役に立って見せるぜ!」

 

 拳を握って応えたアブサロムに笑みを返し、しかしすぐにそれを引き締め、ギーアは部下たちへ振り返った。

 戦意でらんらんと目を輝かせる者たち。

 その全てに火をつけ、ともに駆けだすために。

 檄は飛んだ。

 

 

 

 

「やるわよスリラーバーク別動隊!!! ――百獣海賊団を滅ぼせェ!!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 兵力は雄叫びをあげ、山を駆け降りるようにして戦場へ乗り込んだ。

 




そんな感じで、オリ主も参戦です。
ゾンビを塊にして投げ、敵陣に飛び込ませる作戦は、まぁバーフ〇リを思い浮かべてもらえば、近い絵面になるんじゃないでしょうか。



感想や評価をいただけると、今後の励みになります。





p.s.
私はお絵描きもするんですが、某イラスト中心SNSで年に一度開催されるイベントの日程が発表されまして。その他諸々のお絵描きタスクが溜まったこともあり、次回以降も投稿の間隔が空きそうです。
読者の方々には申し訳ないですが、気長にお付き合いいただけると幸いです。
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