ONE PIECE -Stand By Me -   作:己道丸

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“ナンバーズ”

「ぐおおおおお――――――!!!」

 

 尖塔と化したモリアの影がスコッチの胴を撃つ。

 生半なら串刺しになる一撃を、しかし鋼で覆われた巨体は耐え抜いた。さすがは“新世界”の海賊である。

 だが、この場に踏み留まる事はできなかった。

 

「え、お頭……ぐぎゃあっ!?」

「うがっ!?」

「ああああああぁぁぁぁぁぁ――――――…………」

 

 直線上にいた者をことごとく薙ぎ倒し、巨体が飛ぶ。

 伸びる“黒刀影”は射出台、スコッチの体は撃ち出される弾となったのだ。

 その勢いたるや残像を引くほど。またたく間に敵軍を率いた男は、地平線の彼方に消えたのだった。

 

「…………」

 

 沈黙が戦場を満たす。

 敵の誰もが息と身動きを止め、呆然としてこちらを見る。その顔は一様に青ざめ、目がこぼれ落ちそうになるほど見開いていた。

 モリアは周囲一帯にそれが蔓延するのを待って、おもむろに拳を突き上げる。

 かちどきの声であった。

 

 

 

「――“アイアンボーイ・スコッチ”は倒れたぞォ!!」

「うおおおおおおおおおおお――――っ!!!」

 

 

 

 呼応し、友軍の兵士ゾンビたちが雄叫びをあげる。

 活力をみなぎらせる死体の群れに、支配者であるモリアは更なる号令を下した。

 

「やつらを一人も逃すな、半分は殺しても構わねェ!」

「かしこまりました、ご主人様ァ!」

「敵勢を貫け! 反対側にいる友軍と合流する!!」

 

 轟々と猛るゾンビたち。

 それに対して、将を失った百獣海賊団の手勢はあまりにも脆かった。烏合の衆と化していたのだ。

 

「お頭がやられたァ!」

「ど、どうすんだよこれから!?」

「決まってる、敵討ちだ!」

「バカ言え、お頭が敗ける相手だぞ、逃げるんだよ!」

 

 まとまりを失った者どもには潰走の流れすらある。だが、一人たりとも逃がさない。何故なら後に控える敵の本隊に備え、手勢を増やす必要があるからだ。

 この場の敵は全員ゾンビの材料になってもらう。

 

「く、来るな、来るなァ!!」

「ケヒヒッ、影をくれるだけでいいんだぜェ? あんまり逆らうようなら、死体になっちまうかぁ!?」

 

 誰も彼もがゾンビに引き倒されていく。応戦する者もいたが、将を失っては誰もが腰砕けだ。すぐに四方からゾンビに圧し潰され、屍を晒すこととなった。

 そこかしこでそんな光景が繰り返される。

 雪原の戦いは決したのだ。

 この流れはやがて雪原全体に広がり、敵軍を挟んで向こう側にいるギーアにも届くだろう。強敵と対峙し、通信できない状態らしいが、それもすぐに解けるに違いない。

 

「助太刀するか」

 

 その巨体を活かし、モリアは遠くを見た。あるいは、それらしい戦闘が見つかるかと思ったのだ。

 その瞬間である。津波が上がったのは。

 

「!!!?」

 

 巨大な高波、あるいは噴火と言い表すしかないもの。

 信じられない規模の土砂が地平線で噴き上がる。その高さたるや、遠景の山々の中腹に届くほどだ。

 控えめに見て、災害であった。

 

「何が……」

 

 モリアだけではない。辺りの誰もが身動きを止め、降り注ぐ土砂を遠巻きに眺めていた。

 そうするうちに、新たな変化に気付く。

 地震だ。地面が短い周期で、幾度となく揺れている。それはまるで、

 

「あ、歩いてるのか?」

「バカ言え! どんだけデカいヤツが……」

 

 敵勢の誰かが呟き、また別の誰かがそれを否定しようとした。けれどその言葉はしりすぼみになり、言い切ることなく地響きの中に消える。

 いつしか、敵軍の誰もが震えあがっていた。

 その理由がモリアには分かる。何故なら、そうなる原因をモリアは知っていたし、現在進行形でそれを目の当たりにしていたからである。

 

「あれは……!」

 

 高波を割ってそれが来る。

 三つの、これだけの距離があってなお巨大な人影が、響き渡る足音とともに走ってくる。

 哄笑するそれらの正体は、

 

「ジャキキキキキキキッ!」

「ゴキッ! ゴキキキキ――――――!」

「ジュキキキキィ~~~~!!」

「――ナンバーズ!!!」

 

 モリアがかつてワノ国で戦った、巨人をはるかに越える異形の大巨人たちである。

 

「な、なんでナンバーズが来るんだよ!」

「あいつらはデカすぎて武器工場を通れなかったはずだろ!? それがどうして……」

「……決まってンだろ」

 

 口々に上がる敵軍の悲鳴に、モリアはサメのような歯を軋ませて答えた。

 

「さっきの高波が武器工場だ。やつらに蹴散らされたんだよ」

「え……じゃあ」

「お前らの総大将は武器工場もこの雪原も見捨てたんだよ! ナンバーズと本隊がいれば、状況はひっくり返せるってなァ!!!」

「そんなァ!!」

 

 その間にも、大鬼としか言いようのない姿が迫る。

 だがモリアは、げらげらと笑うそれらが駆逐すべき敵である自分たちを全く見ていないことに気付いた。

 いずれもより遠くを見据えて走ってくるのだ。

 

「なんだ、どこを見ていやがる」

 

 どいつもこいつも知性のかけら一つ感じない顔だったが、一直線に走ってくる以上、何がしかの目標はあるはずだ。そもそも、その程度の知能すらなくては百獣海賊団にいられない。

 だとすれば答えは一つ。

 目標は自分たちではないのだ。

 

「まさか」

 

 ありえないと思いつつも、モリアはそれを確信した。

 武器工場を突破し、途中で敵味方関係なく雪原を踏み潰して、だがやつらの目的地はその向こうにある。

 この雪原の先にあるもの。

 つまりそれは、

 

「やつら! 街を襲う気か!!!」

 

 モリアの額に焦燥の汗が浮かぶ。

 今、あの街の住人はほぼ全てモリアの能力によって影を奪われ、気絶している。つまりナンバーズから逃げることができないということだ。

 ゾンビたちを動かす影は、本体である彼らの命と繋がっている。もしこのまま住人が街ごと踏み潰されれば、増員した兵士ゾンビは全て機能停止する。

 

「やつら、カゲカゲの実の能力を知ってるのか!?」

 

 慮外の強襲だった。敵はこちらの軍勢を根本から揺るがす策に打って出たのである。

 だがモリアにとって、それに勝る危機感があった。あの街には非戦闘員である仲間が控えていたからである。

 このままでは巻き添えになる。

 そう思った瞬間、かつて仲間を滅ぼしつくされた記憶が蘇り、モリアの心を焼き焦がす。

 気がつけば、叫んでいた。

 

「――逃げろ!!! ステラ!! ペローナ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パハハハ! 行け、ナンバーズ! 全部踏み潰せ!」

 

 山間部に“音害”のジャックの哄笑がこだまする。

 持ってこさせていた専用の大椅子に腰かけ、覗き込んだ望遠鏡に映るのは大鬼たちの後ろ姿だ。これほどの距離をあっという間に走り抜け、ナンバーズは雪原を越えようとしている。

 その足元では、天災にも似た疾走に逃げ惑う者たちがいた。だがそれは敵だけではない。むしろ友軍の方が多かった。

 その姿に、ジャックは膝を叩いて笑う。

 

「雑魚どもめ、あんなガキどもに押されやがって。良いざまだ」

 

 だが、控える部下が声を上げた。

 

「しかし良いんですかい? 武器工場をぶっ潰して」

「どのみち敵に入り込まれて始末に悪い。だったら一揉みにした方が楽だろ? ……なぁに、連中のせいで破壊されたって言っときゃ問題ねェさ」

「ですが……」

「それに、お前もあれを見てみろ」

 

 そう言われて、部下も望遠鏡を取り出した。

 自分と同じ方向にそれをレンズを向けた部下は、やがて何かに気付き、大きく身を乗り出す。

 こちらと同じものを見つけたのだ。

 

「あれは、戦艦!?」

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 戦塵と降雪にまぎれ、確かな姿は見てとれない。

 しかし大型の船が街の傍に着こうとしているのは間違いなかった。

 

「あれを含めても五万にはならんだろうが、戦力があるのは本当だったようだな」

 

 敵の船長、ゲッコー・モリアとの会話を思い出す。ブラフもどきの見栄とあの時は笑ったが、仕込みはあったようだ。

 だがそれもナンバーズの前では無意味だ。

 

「やつらなら戦艦一隻沈めるなんてワケもねェ。街には尊い犠牲になってもらおうじゃねェか」

 

 そう言ったジャックだが、その顔には隠す気もない愉悦の色がある。周囲の部下たちもそうだ。

 暴力。

 破壊。

 それは百獣海賊団の誰もが持つ激情だったからだ。

 敵船が砕かれ、街が踏みにじられる。それを妄想するだけで、分厚い胸板は燃えるような思いを得る。

 感情の火を吹くように、ジャックは雄叫びを上げた。

 

「やっちまえ! 全部ぶっ潰せェ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちに来るぞ! 逃げろォ!!」

「ダメだ、間に合わねェ!」

「ぎゃああああああ~~~~~~!!!」

 

 敵も味方もなく、全てが雪もろともに蹴散らされる。

 落ちてくる土と血の混じった雪が、逃げ遅れた者どもの哀れな末路であった。

 

「なんて巨体だ!」

 

 ナンバーズの進路から外れていたモリアだが、それはつまり、その巨体を見送るしかないということだ。追おうにも地響きがすさまじく、走ることもままならない。

 だが、止めなければならない。

 街ごと住人たちを始末されれば自軍は崩壊し、しかも二人の幹部がその巻き添えになるのだから。

 

「くそったれが!」

 

 策などない。だが、追いつかなければ話にならない。

 震えあがる地面を踏み、追いかけようとして、

 

「!?」

 

 見た。

 ナンバーズが拓いた戦場の隙間、その先に見える街から人影がやってくる。

 あまりにも小さな人影だ。その上、ほぼ全ての住人が気絶した街からやってくる人間など何人もいない。

 ステラとペローナが避難しているのかと思った。

 だが違った。

 不格好な走りでナンバーズに向かっていくのは、

「――ガブル!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガブルの頭の中は真っ白だった。

 考えなどない。ただ、突き動かす衝動だけで走る。

 

「くそっ、くそォっ!!!」

 

 涙が、鼻水が止まらない。

 恐ろしさのせいでつま先まで冷え切っている。

 今すぐにでも脇に逸れ、逃げてしまいたかった。

 けれど、

 

「ちくしょォ――――――――――ッ!!!!」

 

 距離感を狂わせる巨体が迫ってくる。顔にいたってはかすんで見えるほどだ。

 向こうはこちらに気付いてすらいないだろう。子供の自分は、ただの人間同士であっても見下ろされるのだ。巨人相手ではそれも当然だろう。

 このまま行っても、なんの甲斐もなく踏み潰されて終わる。それだけだ。

 だから許せなかった。

 

「お前らに! 何が分かるってんだよォ!!」

 

 自分の命。

 この街の生活。

 それらを無視して、軽はずみに滅ぼそうとするやつらが、憎くてしょうがなかった。

 だから走る。走るしかない。

 届かなくても、何も出来なくても、何もしないなどという判断を、自分に許すことができないから。

 叫べ。

 

「やめろォ!!! 街の皆に近寄るなァ!!!!」

 

 渾身の叫び。

 答えは、降り注ぐ足裏だった。

 

「――あ」

 

 天井が降るようだ。

 影が落ちる。

 死ぬ。

 気付かれず、何も残せず。

 奴らがこれから死なせる人間の最初の一人になって、終わる。

 畜生。

 

「誰か、助けて」

 

 

 

「――おう、任せなさいよ」

 

 そして何もかもが凍りつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 その瞬間起こったことは、場所を問わず、戦場にいた誰も彼もを驚愕させた。

 三体のナンバーズが突如、氷像になったのだから。

 

 

 

「何だ!? 何が起きた!!」

 

 山間部。

 街が滅ぶ光景を心待ちにしたジャックは、望遠鏡を取り落として声を上げた。

 

 

 

「どええ~~!? 巨人どもが凍ったァ!!!」

 

 武器工場。

 半壊したそこで、やっとの思いで瓦礫から這い出したアブサロムは、最初に見たその光景に叫んだ。

 

 

 

「……ウソでしょ!? こんなところまで追ってくるなんて!!!」

 

 雪原。

 青ざめた顔でギーアは絶叫する。振り切ったと思っていた相手に、再び追いつかれたと分かったからだ。

 

 

 

「キシシ、しつこい野郎だぜ」

 

 そしてモリアは、その相手を睨んでいた。

 街の中からやってくる姿は、さっきのガブルよりも余程大きい。見つけるのに苦労はしなかった。

 

「な、何が起きたかご存じなんですか、ご主人様!?」

「ああ、この島で作ったお前らは知らんだろうな」

 

 すがりつくように訊いてきた周囲のゾンビに、モリアは頷きを返した。

 

「おれはこの島に来る前に天竜人を殺し、船を奪い海軍を振り切って逃げ延びた。……だがな、それで諦めてくれるなら世界政府は務まらねェよな」

「て、天竜人を!?」

「そんな! じゃあ、まさか!?」

 

 元になった影の記憶を引き継いでいるのか、ゾンビたちもそのあたりの知識は持っているらしい。

 そのおかげで、これ以上説明する手間は省けそうだ。

 

「そうさ。天竜人に手を上げたヤツには海軍から戦力が差し向けられる。……海軍大将がな」

「大将!」

「海軍の最高戦力……!!」

「追い回されるのを振り切り、百獣海賊団のナワバリにまでは入っちゃこねェだろうと思ったんだがな」

 

 鼻を鳴らし、モリアはいかにも忌々しくその顔を思い浮かべる。

 

「さすが新任。仕事熱心ってことかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 寒風が奔った。そう思った時には、全てが固まっていた。

 ナンバーズはもれなく氷漬けとなり、自分へと足を振り下ろそうとした格好のまま止まっている。

 この冬島でも、ここまでの冷気が起きることはない。一体何が起きたのか、困惑に目を白黒させていると、

 

「……あ」

 

 何かが頭の上に乗った。

 暖かく、大きく広がるそれが、人の手のひらだと気付くのには少しの間を要した。

 手のひらは、ひどく固かった。鍛えられた男の、分厚く固くなった手であった。そうと分かったのは、ガブルにはなじみのある感触だったからだ。

 父の手だ。

 かつて生きていた時、幾度となく触れたその手だ。

 

「よく言った、坊主」

 

 見上げると、そこには男がいる。

 父ではない。当然だ。

 だがその目には優しさがあった。ガブルを認め気遣う心が、視線に乗って感じられる。

 長身なその男は、にやりと笑って、

 

「後はおれたちがやる」

 

 頭の上にあった手はかかげられた。合図だった。

 その仕草に応えるように、数百に及ぶたくましい男たちがやって来る。

 その誰もが、その身に白い軍服を着込んでいた。

 そして、彼らの先頭に立つこの男こそ、彼らのリーダーであるのは間違いない。

 それを証明するように男は告げた。

 

 

 

「――ここからは海兵の出番だ」

 

海軍 モリア討伐部隊隊長

― 大将“青キジ”(クザン) ―

ヒエヒエの実の氷結人間

 




やっと本エピソードの転調まで話を進められました。
青キジは、原作のルフィに対するスモーカー的ポジションになってもらいました。狙いを定めて追いかけてくる、主人公勢にとっての海軍代表って感じですね。
乱戦混戦はワンピの華。ここからは彼らも込み込みで戦ってもらいましょう。
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