ONE PIECE -Stand By Me -   作:己道丸

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大変ご無沙汰しております。
年末年始からの多忙もありましたが、絵創作にかかりきりですっかりこっちがおろそかになってしまいました。今年はもうちょっと字創作とのバランスをいきたいですね(もう六分の一が終わってしまいましたが……)。



前回までのあらすじ
スリラーバーク海賊団を結成したモリアとギーアは、逆襲のために百獣海賊団が支配する島を攻撃する。現大看板“音害のジャック”がけしかけたナンバーズにより危機に陥るが、それを止めたのは、海軍のモリア討伐部隊を率いる大将青キジだった。


“モリア討伐部隊”

「海軍!? それも大将の部隊だとぉ!!?」

 

 “音害”のジャック、百獣海賊団最高幹部“大看板”の一人は望遠鏡をかなぐり捨てた。

 弾丸より早いそれは周囲にいた部下の一人を打ち抜いたが、それを気遣う者はこの場に一人もいなかった。

 突如現れた脅威への危機感、そしてそれに勝る眼前の怒りに対する恐怖が先だったからだ。

 

「ど、どうして大将が今ここに……?」

「決まってンだろうが!」

 

 青い顔で話しかけた部下はジャックの巨大な手に掴み上げられ、歯ぎしりする鬼のような形相を間近にする。血走った二つの目は火が付いたようだ。

 

「ゲッコー・モリアの野郎を追ってきたんだ! ヤツは天竜人を殺してるからな、あの疫病神め!!」

「ぐ、ぐえぇっ!」

 

 激高するままに五指で締め上げられた部下は、まるで目玉と内臓を吐き出さんばかりであった。

 カエルの鳴き声にも似た苦悶をあげるが、それでもジャックの頭を冷やすことはできない。

 

「あの大将もどうかしてやがる! おれたちは百獣海賊団だぞ! 白ひげやビッグ・マムに比肩する、あのカイドウさんの部下だぞ! そのナワバリに入ってきやがって……!!!」

「ジャ、ジャックさん、どうか落ち着いてくださ……」

「うるせぇ!!!」

「ギャアッ!」

 

 内臓までひしゃげた体を投げつけられ、諫めようとした部下が悲鳴を上げる。

 声をかけた端から八つ当たりの的だ。居並ぶ部下の顔が軒並み青ざめ、震えあがって後ずさりした。

 だが激するこの男が指示しなければ動けない。

 部下たちの間で視線が交わされ、いくらかの間をおいて一人の男が進み出た。取り巻きの中でも特に身なりの汚い、貧相な男である。

 

「そ、それで、これからどうするんで?」

「決まってるだろうが!!!」

 

 当然、その男は叩き潰された。

 

「野郎どもォ!!!」

「へ、へい!」

「前進しろ、モリアも海軍も皆殺しだ!!!」

 

 竦みあがる部下たちに怒号を浴びせ、それまで座っていた大椅子を蹴とばすと、ジャックは進み出た。

 

「どいつもこいつもおれをナメやがって……! このおれを誰だと思ってやがる!!!」

 

 肩をいからせ、大男は積雪を踏み荒らす。

 赤黒い凶相は殺意と悪意に満ち満ちており、胸の内にあるたった一つの不文律を遂行しようと全身をたぎらせていた。

 目の前のすべてを破壊しろ。

 それが海賊、百獣海賊団の掟であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガブルは見た。

 その男が巨人たちを氷漬けにするのを。

 

「す、すげぇ……」

 

 かかしのように細い手足をした、もじゃもじゃの髪をした長身の男だ。額にアイマスクをずらした顔は眠たげで、雲のように白い息を吹きこぼしている。

 男はこちらをゆっくりと見下ろし、

 

「よう、ケガぁないかい?」

「……あ、ああ……、いや、はい」

 

 ガブルは返事を改める。

 巨人たちを氷の塊に変えたこの男がなんと名乗ったか、それを思い出したからだ。

 そして、それはどうやら聞き間違いではなかったらしい。男の後ろから続々と白い軍服を着た集団が駆けつけてくるではないか。

 間違いない。

 

「海軍……! 本当に、この島へ」

 

 正義の味方。

 海軍の天敵。

 だが巨大な組織である彼らであっても世界中の人間を救うことはできない。これまで百獣海賊団に虐げられてきた自分たちがその証拠だ。

 それが今、いきなり現れた。

 

「ど、どうして」

 

 答えは分かっている。

 今この島に変化があるとすれば、それはあの連中がこの島に来たことに他ならない。

 

 答えは明白だ。

 ガブルは知っている。今この島に変化があるとすれば、その原因はあの集団が島に来たことに他ならないと。

 

「おい!」

 

 その時、声を張り上げて来る二人組が現れた。

 海兵たちは左右に分かれ、将校用のコートを肩にひっかけた二人に道を譲っている。積雪をものともしない強い歩みは、長身の男に向かって伸びていく。

 男女の二人組だった。

 女は腰に何丁ものライフルを下げ、刈り込んだ髪に勝気な顔で長身の男を見上げる。

 

「先走ってんじゃねェよ青キジ! 大将を矢面に出したんじゃ部下の立場がねェだろ!」

「ベルメール殿、それは部下の物言いではない」

「だがよォTボーンさん、この男ときたら……!」

 

 女を諫めたのは、まるでガイコツが浮き彫りになったかのような顔をした男だ。身に着ける鎧や兜には金の縁取りがあり、海兵というよりはどこかの国の騎士のように思われた。

 長身の男、青キジを前にして歯に衣を着せない女と、それを諫める男。どうやらこの二人は青キジを支える海兵たちの幹部であるらしかった。

 

 

 

海軍 モリア討伐部隊

― 曹長“跳弾”のベルメール ―

 

海軍 モリア討伐部隊

― 少佐“船斬り”Tボーン ―

 

 

 

「んで、どうすンだ大将」

 

 ひとしきりがなりたてるとベルメールは腕を組み、値踏みするような目で青キジを睨んだ。それはTボーンもそうだ。年下であろう青キジに対し、うかがうような態度でじっと黙っている。

 二人の後ろに控える海兵たちの視線も集まる中、しかし青キジは臆した風もなく雪空を見上げ、

 

「そうだなぁ……」

 

 不意に、ゆらりと手を空にかかげた。

 まるで降る雪を掴もうとするかのような何気ないしぐさだったが、

 

「あらら、さすがにこれだけじゃ止まってくれないか」

「は?」

 

 次の瞬間、

 

「!!?」

 

 その手は巨大な氷塊を受け止めた。

 

「な……な、な……!?」

 

 身の丈をはるかに超える、氷塊といってもいい大きさだ。それを青キジは、痩身そのものといっていい体で難なく支えてみせる。

 常軌を逸した強靭さにへたりこむガブルだったが、しかし周囲の海兵たちはそうではなかった。

 誰もが一様に空を睨み、

 

「……ナンバーズが!」

 

 苦々しく、うなるようにその名を呼んだ。

 

「ゴ、ゴキキ……!」

 

 ひと際長身な巨人が全身の氷を砕き、動き出そうとしていた。落ちてきたのはどうやら目元を覆う氷だったらしい、晒された目が怒りに満ちた視線でこちらを見下ろしている。

 他の二体も似たようなものだ。肩やひざにヒビが入りはじめ、今にも動き出しそうになっているではないか。

 

「う、うわ……っ」

「坊主」

 

 青キジは氷塊を投げ捨てた。片腕で投げたとは思えない、とてつもない飛距離と轟音である。

 

「坊主は早いところ街に下がりな」

「え……?」

「ここにいると巻き込まれるぞ」

 

 ゆっくりと雪原に足跡を刻み、青キジはガブルに大きな背を見せる。今や男の正面にあるものは、ナンバーズという巨大な敵だけだ。

 そのまま振り返ることなく白い息を吐き、

 

「ベルメールちゃん、Tボーンさん」

「ちゃんをつけるなっつってんだろ」

「さんは要りませんぞ、大将殿」

「まぁいいからいいから」

 

 ゆるく肩をすくめる青キジ。

 だがほんの少し、顔の半分を見せるようにして向けた目に込められていたのは、厳格な兵士の眼力であった。

「二人は部隊の指揮。おれはこいつらの相手をする」

「「了解!」」

 

 弦を弾いたような了解の直後、こちらと青キジの間に巨大な氷壁が伸びあがった。ナンバーズとの戦いを街へ飛び火させないために、青キジが作り出したものなのだろう。

 その証拠に、壁の向こうから轟音と地鳴りが響き、そこへけだものどもの雄たけびが続いた。

 

「ほ、本当に一人であの怪物と戦ってるのか」

「さぁ君、大将が言った通り街に下がっていなさい」

 

 呆然とするガブルの肩に置かれたのは、Tボーンの節くれだった手だ。彼の顔からはとても連想できないほど穏やかな声に促され、ガブルはおずおずと立ち上がる。

 一方のベルメールは部下の海兵たちに向き直り、

 

「おし野郎ども、カチコミだ! こっからならモリア一味の背後をつける、鉄火場を利用して今度こそあの野郎をとっ捕まえるぞ!!!」

「イエス・マム!!!」

 

 敬礼した軍服の男たちは銃を構え直す。

 湯気が上がるほど戦意に満ちた海兵たちの様子にベルメールはうなずき、自らも腰の銃を手に取る。

 準備万端。

 あとはこの場で最も高位の号令を待つだけだ。

 

「Tボーンさん」

「あぁ」

 

 呼ばれ、その男は応えた。

 背の長剣をたかだかとかかげ、大きく息を吸う。

 叫びを成すために。

 

 

 

「――総員突撃!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 一気呵成。

 部隊は大きく左右に分かれ、青キジが立てた氷塊を迂回して突撃していく。白煙を立てて雪を蹴散らす様は、さながら蒸気機関車のようであった。

 進む先にあるのはただ一つ、モリアの手勢と百獣海賊団がせめぎ合う戦場である。ここに海軍という第三勢力が加われば、戦況は大きく狂っていくだろう。

 ガブルとていつまでもじっとしていられない。

 

「ステラさんたちに伝えないと……!」

 

 ガブルは走った。

 街に入り、目指すのは隠れ家にしていた民家だ。ナンバーズの接近に思わず飛び出したそこには、一緒に隠れていたステラとペローナがいる。

 今この島の通信を掌握するステラにこのことを伝えなければ、モリアたちが危ない。

 扉を蹴破る勢いで隠れ家に飛び込み、

 

「ステラさん! この島に海軍が……!」

 

 息を切らした叫びが家の中に響き渡る。

 無人の家に。

 

「……え?」

『戻ってきてくれたのね、ガブルくん』

 

 がらんとした家には人一人分の影すらない。

 あるのは一つ、テーブルの上の電伝虫だけだ。

「これは……」

 

 電伝虫は通話状態になっていた。殻の装置から伸びる受話器が届けるのは、ステラの声だ。

 

『ごめんなさい、貴方と海軍の様子は遠くから見ていたわ。大丈夫、彼らは私たちの敵だけど、民間人をおろそかにはしない。貴方たちを守ってくれるわ』

「で、でも追手なんだろ!?」

『ええ、もうこの島にはいられない。私たちは先に船に行って、この後戻ってくる船長たちを迎えて逃げる準備をします』

「だ、大丈夫なのか? 来たのは海軍の大将なんだろ? それに百獣海賊団だって……」

「心配しないで。今までも逃げきってきたの」

 

 彼女の言葉には確信があった。

 そしてそれは、続けられた言葉で最高点に達する。

 

『彼は海賊王になる男。こんなところでは終わらない』

「……!」

 

 ガブルが知るステラの口調は、いつだって温和で物静かだった。しかし今聞いた彼女の語気は、それをくつがえすほどの強い意思が込められている。

 

『成り行きで救われた私だけど、今はそうすると決めているの。彼はね、私たちみんなで海賊王にする人なのよ』

「……信じてるんだな、モリアのこと」

『ええ、だからもう行かなきゃいけない』

 

 言葉では言われていない。だがガブルには分かった。

 これは別れであると。

 決して長くない付き合いであったが、けれど彼らがもたらしたものはあまりにも大きい。永遠に続くと思っていた地獄に風穴をあけたのだから。

 

『これまでありがとう、ガブルくん。さようなら』

 

 そして言葉は成った。

 言い終えるなり通話は切られ、電伝虫は眠ったように目を閉じる。そうやって、本当の意味でこの家はガブル一人になった。

 こみ上げる感情に肩を震わせ、けれどそれ以上はこらえた。まだ戦いは終わっていないのだから。

 外から聞こえる雄たけびと地響き、轟音の群れ。それらが聞こえてくる方へ、ガブルは決然とした顔を向ける。

 そして思う。どうやら自分の出番はここまでだ、と。

 あとは投げられた賽の目を信じるだけだ。

「モリア、ギーア、……みんな。ーー後は頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおーっ、腐れヤベェー! あれ海軍なんじゃねェのか!? 敵だろ、あれもよォ!」

「当たり前だろ、おれたちは海賊だぞ、ご主人様の部下なんだからよォ!」

 

 前に百獣海賊団。後ろに海軍。

 新手の出現によって別々の勢力に挟撃される形となり、ゾンビたちが大きく浮足立つ。

 だが中心にいるたった一人だけは違う。

 ゲッコー・モリアは、その凶相にまったく似つかわしい獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「ご、ご主人様……?」

 

 死相をことさら青くしたゾンビたちが、巨体の上にあるこちらの顔を見上げている。

 モリアはそんな周囲に檄を飛ばす。

 

「面白くなってきたじゃねェか! 海軍はおれを追ってきたが、だからって百獣海賊団を素通りしやしねェ。百獣海賊団だってそうだろうさ」

「そ、それは」

「海軍をうまく利用して兵力差を一気に縮めンだよ! そしておれたちはうまいところだけさらっていくのさ!」

 

 いまや一団は静まり返っていた。それどころか、ゾンビたちは期待するような目をモリアへと向けている。この静けさは、嵐の前の静けさなのだ。

 だから言おう。

 死体であるこいつらが、死ぬ気で立ち向かっていけるようにする言葉を。

 

「野郎ども、ズラかるぞ。――百獣海賊団を踏みつぶしてなァ!!!」

 

 長刀の切っ先をかかげ、モリアは大きく吠えた。

 それは戦場の端にいる部下一体一体に届くほどの、すさまじい叫び声であった。

 

「ズ、ズラかるって、まさか……百獣海賊団を突っ切っていくってことですか!?」

「ああ、最初からやることは変わっちゃいねェ。敵を潰して島から出る、それだけだ。後ろからケツを叩く連中が来たってンなら、ありがてェ話じゃねェか!!」

「腐れヤベェ! 正気かよご主人様!」

「だ、だがよォ……」

「……ああ」

「もう、それしかねェぞ!!!」

 

 ゾンビたちの間で戦意が灯る。

 活力などあるはずもない死体に力がこもり、たずさえる武器を構え直す音がそこかしこで上がった。

 そして誰もがこちらを見る。

 先ほどまでのうかがうような、期待するような目ではない。確信に満ちた目だ。次に来ると確信する言葉を今か今かと待つ、そういう目だ。

 にやり、とモリアはサメのように歯を剥いた。

 

「キシシ。なんだ、命令してやらなきゃならねェか?」

「当たり前っスよご主人様、おれたちゾンビですぜ」

「あんたの兵隊だ、あんたのためなら死ぬ気で戦いますぜ、おれたち。……もう死んでんですけど!!!」

「ちげェねェ!」

「……ふん、しょうがねェやつらだ。いいぜ、だったらくれてやるよ、命令をな」

 

 鼻を鳴らし、モリアは大きく息を吸った。この場にいるすべてのゾンビへと命令が届くように、胸を強く張り詰めさせる。

 放つのはそれが頂点に達した時。

 今だ。

 

 

 

「戦うぞ!!! 敵を蹴散らせェ――――!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――!!!」

 

 

 

 さながら地獄からの行進。

 モリアとその手勢は一丸となり、敵軍への進撃を開始した。

 

 

 

 




このエピソードとしてはやっと後半戦、ずいぶん長くなってしまいました……。
主力同士の戦いまで流れ込みたいところですが、さてはて。
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