ONE PIECE -Stand By Me -   作:己道丸

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図らずもきっかり二カ月後の更新となりました。ごぶさたです。


“死ぬまで言い続ける”

「行け! 道がふさがれる前に突っ切れ!!!」

 

 ゲッコー・モリアの長刀が雪の山を斬り飛ばす。

 連山に等しい積雪の一端が崩され、モリアとともに向こう側へ至るのは兵士ゾンビの集団だ。

 雪煙を払い見えてくるものは、

 

「なんだこりゃ!? 雪が踏み固められてるぞ!」

「これは……ナンバーズが走った跡か!」

 

 巨大すぎる足跡の羅列は街道と見紛うほどだ。モリアが斬り崩したものは、足跡の主が蹴散らして積もった雪であったのだ。

 そうして足跡の続く方に目を向ければ、その主たちが雄叫びをあげる姿が見て取れた。

 

「ジュキキキ! ジュキァアアアアアアアアア!!」

「ゴキイィィィィィィィッ!!!」

「ジャギャアアア! ジャキキキ!!!」

 

 曇天を突くほどの巨体が三つ、雪原の向こうで咆哮をあげ暴れている。

 ナンバーズ。

 百獣海賊団が従える、特に巨大な巨人たちだ。

 一走りで雪原に道ができるほどの体躯が敵である。その事実に周囲のゾンビたちは青白い死相をことさらに青くする。

 

「おいゾンビども、とっとと走れ! 敵に囲まれるぞ!!」

 

 そんな竦みをモリアの命令が打ち破る。

 指令とともに雪の地平線を指させば、ナンバーズを暴れる方から人影の群れが迫ってくる。

 海軍だ。

 

「大将が差し向けた海兵どもだ。その大将だって、いつまでもナンバーズじゃ足止めできねぇぞ」

「あのデカブツ三匹が相手にならないンすか!?」

「それだけじゃねぇ」

 

 こちらへ振り返ったゾンビたちに、モリアは更なる脅威を示して見せる。

 足跡による大道の両側、左右に積もる雪の連山で足止めされている敵海賊の軍勢だ。

 

「くそっ、ナンバーズが蹴散らした雪か!」

「吹き飛ばすしかねぇ! 迫撃砲を持ってこい!」

 

 怒鳴り散らす野卑な男ども。

 先ほどまで兵士ゾンビとともに戦っていた、百獣海賊団傘下の海賊たちである。

 

「雪山だっていつまでも足止めにならねぇ。早くこの大道を通り抜けねぇと、海軍と敵海賊に包囲されちまうぞ」

「……!」

「幸い海兵どもは大将とナンバーズの戦場を迂回して来る。上手くやれば、大道で分断された敵海賊をぶつけられるはずだ」

 

 図らずも、この雪原の戦場は左右と中央の三つに分けられたのだ。

 

「雪山が崩されて戦場が一つに戻る前に離脱するぞ! 急げ!!!」

「了解しました、ご主人様!!!」

 

 モリアは走る。兵士ゾンビたちは後に続いた。

 巨人を超える巨体で踏み固められた雪道だ、それまでの雪原よりもよほど走りやすく、一団の進行速度はそれまでの比ではなかった。

 しかし危機は迫る。

 

「待ちやがれ、てめぇらぁ――――!」

 

 左右の雪山が吹き飛び、雪道に敵勢が侵入する。

 モリアたちが走り抜けたことに気付いた敵海賊たちも迅速であり、次々に雪山を破って大道に入り込んでくる。

 

「お、追ってきます、ご主人様!」

「ビビッてんじゃねぇ! 走るんだよ!」

 

 ゾンビたちをけしかけ、走る速さは増していく。

 だがここは敵陣の真っただ中だ。背後で起きたことが、ここより先で起こってもおかしくはない。

 

「ギャハハハハ! ここで行き止まりだ!!!」

 

 前方にある雪山が吹き飛び、入り込んできた敵海賊たちが大道を塞ぎ始める。

 

「クソッタレ、切り捨ててやる!」

「ダメですご主人様、後ろの連中に追いつかれる!!」

 

 ここは一本道だ、足を止めればすぐに背後の敵が追いつく。

 しかもモリアがいるのは一団の先頭。後方に斬撃を飛ばせば、後続の兵士ゾンビを巻き込み兵力が減る。

 

「……! どうする!!」

 

 歯ぎしりして逡巡した、その直後、

 

 

 

「“野伏魔”!!!」

「!!? ぎゃあああああああああ!!!」

 

 

 

 雪山を崩す砲撃をはるかに超える威力。前方の敵がまとめて吹き飛ばされた。

 宙を舞う誰もが胴や腕を斬り裂かれており、それが飛ぶ斬撃によるものだとモリアは理解した。

 それに合わせるかのように、新たな一団が現れる。

 

「ご無事ですか、ご主人様!!!」

「サムライ・リューマ!」

 

 大道に入ってきたのは和装のゾンビと、一様に同じ女の姿をした集団、ブギーマンズであった。

 しかしモリアは、自らの相棒と同じ姿をとるその集団に本物がいないことを一目で見抜いた。

 

「ギーアは!?」

「敵主力を止めるため残りました! 私たちをご主人様の増援として送り出して……」

「あいつが残るほどの敵だと……?」

 

 腐っても“新世界”の海賊、強豪・百獣海賊団の傘下ということか。

 だがこうする間も足は止められない。思考も然りだ。

 

「ギーアなら勝って合流する! このまま戦場を抜けるぞ!」

「了解!」

 

 上意下達はスリラーバーク海賊団の特色だ。モリアの決定に部下とゾンビたちは即応する。

 

「手勢を入れ替える! ブギーマンズはおれと来い、兵士ゾンビはリューマについて後ろを足止めしろ!」

 

 広いとはいえ雪山に挟まれた一本道。それも走りながらでは、二つの手勢をすれ違わせるのは難しい。

 なので指揮者のみを入れ替える。

 モリアは急停止したゾンビたちを置いていき、リューマとすれ違ってブギーマンズと並走する。

 そしてリューマは兵士ゾンビと合流した。

 

「総員、一歩たりともご主人様に近づけさせるな!」

「おう!!!」

 

 海軍将校の影を内蔵したリューマの号令に、ゾンビたちも吼えて応じる。得物を抜いて立ち塞がる後ろ姿は、まさしくしんがりのそれだ。

 

「もうすぐ海兵どもも追いつく、適当なところでお前たちも離脱しろ!」

「了解!」

 

 兵士ゾンビたちは島民や敵勢で作った即席の手勢だが、リューマはワノ国から持ち出した映え抜きの戦力である。失いたくはない。

 何より、もうすぐナンバーズを突破するだろう大将を前にしては、立ち塞がる意味が全くない。

 だから、

 

「お前も早く合流しろよ、ギーア……!」

 

 雪山の向こうにいる相棒を思いつつ、モリアは雪の大道を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モリアたち、大分近いわね」

 

 砲撃と剣戟、男どもが叫び合う声。激戦区が動いているのを聞きつけ、ギーアは目を向けた。

 先ほどナンバーズが走り抜けてできた雪山の向こうからそれらは聞こえる。モリアたちはそこにいるはずだ。

 

「リューマたち、うまく合流できたかしら」

 

 移動する激戦区を先回りするよう指示したが、成功したかは祈るばかりだ。

 そう言ったところで、ギーアは再び正面に顔を戻す。

 誰もが倒れたこの戦場で立ち上がる者がいる。

 

「……この場の勝敗は決した。私も行きたいのだけど」

「ごごは……! 通ざねぇ……!!」

 

 百獣海賊団の傘下と、それらが奴隷部隊と呼んだ覆面の者たち。そのほとんどは雪原に伏している。

 唯一の例外は眼前の大男だけだ。

 

「……呆れた頑丈さね」

 

 奴隷と書かれた覆面を向けてくるのは、奴隷部隊の隊長と目される巨漢だ。

 他の兵力が全滅し、ギーアが何度殴り倒しても起き上がってくる打たれ強さは驚くばかりだ。

 それだけに惜しい。

 

「貴方を侮蔑しながら支配する連中は倒れた。それでも命令に従うの?」

 

 この場に立つのはギーアと大男だけだ。

 現れた時から疲弊していたこの巨漢が、それでもここまでの戦闘力を発揮する。そこまでの強さを持ちながら奴隷の立場を甘んじるのが哀れであった。

 だが奴隷は両腕を膨らませ、構えをとる。

 

「お前らが、百獣海賊団に勝でるわげねぇ……」

「貴方を支配する傘下海賊に勝てても、その上の百獣海賊団には勝てないから無意味ってこと?」

「ぞうだ」

「勝つわよ」

 

 頷く大男を、しかし否定した。

 

「私たちは勝つ。この島の百獣海賊団に勝つし、今は逃げるあの海軍大将にだっていつか勝つ」

「……どうじて、ぞう言い切れる?」

「私たちは未来の海賊王が率いる海賊団だからよ」

 

 断言。

 答えに大男は息を呑み、震える声を漏らす。

 

「……正気か? この海、この島でそれを言う意味が分かっているのか?」

「“新世界”はこれを言えないヤツが死んでいく海。私たちは一度カイドウに敗けた、でも死んでない」

 

 だから、

 

 

 

「言い続けるわ。――モリアを海賊王にする、ってね。止まるのは、叶えた時か死んだ時だけよ」

 

 

 

 静寂が生まれる。

 戦場の轟音は遠く、雪原の風だけが二人の間にある。答えるべきを答え終えたギーアと、唖然としたように肩を緩める大男だけがここにいるからだ。

 やがて覆面の顔が俯き、たたずみ、そして、

 

「……フフ」

 

 肩が揺れた。

 

「ティガガガガガガ! 大した啖呵だ、上等だぜお前は!!!」

 

 哄笑が上がる。

 声は枯れていた。だが意気が違う。

 それまでの死にかけたしわがれ声ではなく、晴れやかと言ってもいいほどの感情があふれ出す。

 胸を震わす笑い声を受け、ギーアは理解した。眼前の男が感情を取り戻した、と。

 

「――だったら証明してみせろ」

 

 男は覆面をかなぐり捨てた。

 晒されたのは骨ばった顔と分厚い唇。長い髪と顎髭は海藻のように黒々と波打っていた。

 だが目を引くのは顔立ちではない。

 男の赤すぎる肌と、波打つ髪をかき分ける背びれだ。

 

「……魚人族」

 

 人間の十倍近い腕力を持つとされる、魚の特徴を体に持つ屈強な種族。大男がそれを出自とするなら、その強靭さも納得できる。

 

「この海に巣食うのは何も暴力だけじゃねぇ。信じられねぇほどの権力と横暴は、時に暴力を越える」

 

 続けて大男は服を破り捨てた。

 体格に相応しい屈強な胸板が寒風にさらけ出される。その中央に刻まれていたものは、

 

「……“天駆ける竜の蹄”」

 

 獣の足跡に似た焼き印だった。

 

「天竜人に捕らわれたのね」

「この世の地獄を見たぜ。……そこから払い下げられて海賊の奴隷だ。おれの人生は権力と暴力に支配されている」

 

 故に。

 その二文字に代えて、大男の剛腕は太さを増した。

 

「おれに勝て。でなきゃお前らもおれの二の舞だぞ、人間の女」

「ギーアよ」

「あ?」

「私の名前」

 

 ギーアもまた構えた。

 先ほどまでの、相手を案じるゆるみはない。勝ち、倒すことで救いを示すという意思が、体格差をものともしない威圧感となって放たれる。

 

「貴方は? 名前あるんでしょう?」

「おれの名か。 口にしなくなって何年経つか」

 

 自嘲するように笑い、答えた。

 戦いの火ぶたを切るその名前を。

 

 

 

「――フィッシャー・タイガー。魚人の冒険家さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼鉄の五指に首を掴まれ、アブサロムは武器工場の残骸へ叩きつけられた。

 

「うぐああっ!」

 

 骨身をもって瓦礫をさらに砕く羽目になり、たまらず少年は悲鳴をあげる。しかし首を鷲掴みにする巨大な手のひらは離れることがない。

 それどころか、アブサロムの体をやすやすと吊るし上げてみせる。

 

「やってくれたな小僧! まさかゲッコー・モリアがてめぇとつるむとは!」

 

 首一つで体を支える苦痛に顔をゆがめ、それでも怒声を放つ敵を見据えた。

 鋼鉄の腕と顔面を持つ巨漢の姿を。

 

「アイアンボーイ・スコッチ……!」

 

 百獣海賊団の傘下としてこの島を牛耳る海賊。ガトリング砲を義手とする鋼鉄の男。

 そしてアブサロムの顎を砕いた仇敵だ。

 

「クソッタレ、くたばってなかったのか!」

 

 スコッチは半壊した武器工場に突如飛来した。

 戦闘不能になってもおかしくない状態だ。しかしすぐさま立ち上がった男は、鬼気迫る勢いでこの戦場を制圧し始めた。

 そうしてアブサロム自身は窮地に陥っている。

 

「クソはゲッコー・モリアさ。ヤツのおかげでこの島はめちゃくちゃだ。ジャックが武器工場を壊した責任をとる訳がねぇ、全部おれのせいにされるだろう」

 

 鉄下面の下で歯軋りの音が漏れる。

 

「てめぇらを皆殺しにして! 少しでも工場を守らねぇとおれは破滅なんだよ!!」

「へ、へへ、バカが。ここまで壊れたら、何したっておしまいだぜ……っ」

「口に気をつけろよ小僧! どうやって直したか知らんが、その顎をまた粉々にしてやろうか!」

「ぅげ!」

 

 五指の力は今やアブサロムの首をへし折る寸前だ。

 思わずスコッチの手を掴むが、少年の腕力ではびくともしない。むしろ怒りを刺激するだけだった。

 

「ゲッコー・モリアが何のつもりでてめぇごときを部下にしたか知らんが、てめぇの死体を晒せば少しは見せしめになるだろうよ!」

 

 首は軋み、息はもう喉を通らない。両目は焦点を失い始めていた。アブサロムは意識が遠のくのを自覚する。

 首の骨が砕ける。その直前、

 

「邪魔だ!!! どきやがれぇ~~~~!!!!」

「!!?」

 

 それを見た。

 恐竜である。

 

 

 

百獣海賊団 大看板(最高幹部)

― “音害”のジャック ―

リュウリュウの実古代種 モデル パラサウロロフス

 

 

 

「ジャ、ジャック……さん!?」

 

 大樹を思わせる太い足は瓦礫を蹴散らし、大破した武器工場をことさら砕いて走り抜ける。鼻先から後頭部に伸びるトサカが、その巨体を汽車かなにかに思わせた。

 だがそれも一瞬のこと。

 喋る恐竜はまたたく間に後ろ姿となり、雪原へ走り去る。

 

「前線に出るつもりか、部下を置き去りにして! ……あの野郎ォ~、また武器工場を壊しやがって!!」

 

 苦虫を噛み潰した声を上げ、スコッチは血走った眼を遠のく恐竜へと向けた。

 それが隙になるとも思わずに。

 

「い、今だ……!」

 

 わずかに緩んだ五指が力を取り戻す前に、アブサロムは渾身の力を込めて叫んだ。

 そうすれば伏兵が来るからだ。

 

「!? ぐああっ!」

 

 飛来する白刃がスコッチの腕を切り裂き、アブサロムを救い出した。

 宙吊りから解放された少年はすぐさま距離を取り、飛びのいた伏兵と並びスコッチを睨む。

 

「助かったぜ、おれ」

「世話焼かすなよ、おれ」

「……てめぇは……ジゴロウ!?」

 

 刀を携えた伏兵の姿をスコッチは覚えていた。

 それも当然だ。この島において、この男ほどスコッチや百獣海賊団を苦しめた人間はこれまで存在しなかったのだから。

 

「バカな、てめぇは死んだはずだ!」

「ゲッコー・モリア、ご主人様の力さ。このジゴロウは、おれの影で動くゾンビとして蘇ったのさ」

「影……? 悪魔の実の能力か!」

 

 アブサロムも悪魔の実による透明人間だが、モリアの能力はそれをはるかに超える力だった。

 だが細かいことを考える気はない。

 そこまで頭はよくないし、目の前の敵に復讐できるなら、仔細はどうでもよかったからだ。

 

「クソガキめ、二人ならおれに敵うと思ってるのか?」

「言ってろ。知ってるはずだぜ、七千人斬りの剣豪、“風のジゴロウ”の実力をよ」

 

 と言っても中身はアブサロムの影、刀の扱いなど我流程度にしか知らない半端ものだ。剣豪の肉体を使いこなすことはできないだろう。

 しかし強靭なのは変わらないし、はったりにはなるはずだ。

 だから決めろ。

 覚悟を決めろ。

 それはジゴロウも思っているはずだ。

 何故なら中にあるのは自分自身の影なのだから。

 今こそ挑め。

 

 

 

「おれが――いや、おれたちが相手だ!!!」

 

 

 

 




挿絵(作中における戦況の概要図)

【挿絵表示】


↑ぼちぼち状況が込み入ってきたのでざっくり図解を作ってみました。参考になれば。
本作オリキャラの方のジャックも、ようやく能力を明かすところまで来ました。長くなってしまった……。
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