喩え、この身が業火に焼かれても   作:行方不明者X

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Prologue

何の変哲もないその日、両親から与えられたお気に入りの積み木で遊んでいたとある少女は、ふと、知らない記憶を思い出した。

 

 

何か大きなショックを受けた訳でもなく、例えるなら長い夢から醒めるように突然やってきたそれは、短い間とはいえ今まで生きてきた自分の人生とは全く関連性のないものばかりで、少女は混乱した。

突然の事に混乱する自分を深呼吸して落ち着かせ、少しした後に、少女は記憶の中の知識を用い、『これは自分の前世の記憶というものなのではないか』、という結論を出した。そうして当然行き着いた『自分は転生したのだ』という事実を受け入れられず、現実逃避も兼ねて子供特有のつるりとした頬を抓る。紛れもない鈍い痛みがある事で夢などではないと漸く気付き、頭を抱えた。

幸いなことは、彼女の前世は少ない知識ではあるが『転生』という概念を知っていた為、混乱の勢い余ってこの事を両親や周りに話せばどんな目に遭うか察知出来たことだろう。家庭崩壊の原因に成りかねないそれを防ぐことが出来た事に気付き、ほっと息を吐いた。

 

 

手に握っていた積み木を弄くりながら、少女は記憶の影響で大分成長した思考回路を回す。到底齢一桁の少女がする事ではないそれに、子供らしかった今世の自分の性格が大分変わってしまっている、もしくは人格そのものが潰れてしまったかもしれない事に気付いて自嘲する。

考えた末に、彼女は積み木を玩具箱に片付けて立ち上がった。そうして短い足で部屋から出ると、迷いなく隣の両親の部屋の前に移動した。

 

コンコンコン

 

 

「ママー!」

 

 

記憶を思い出す以前に言われていた通り、ドアをノックして中に居る人物に呼び掛ける。少しするとドアが開いて、今世の母親が顔を出した。

 

 

「あらLily、どうしたの? 積み木遊びは飽きちゃったのかしら?」

 

 

「うん、次お絵かきするー! 紙とペンちょうだい!」

 

 

優しい笑顔の母親に少し罪悪感を感じつつ、子供らしい笑顔と厚かましさを装って両手を広げて前に突き出す。

 

 

「いいけど、自由帳はどうしたの?」

 

 

「描くところなくなっちゃった……」

 

 

「あら、そうだったのね。あぁ、そうだ、ちゃんと積み木は片付けた?」

 

 

「もちろん! もう一人でできるよ! あのね、紙なんだけどね、いっぱいお絵かきしたいからいっぱい描ける絵本みたいなやつがいいな。あとママがいつも使ってるペン使ってみたい!」

 

 

「ふふ、そう。分かったわ、少し待っていて頂戴ね」

 

 

自慢気に胸を張ってみたり、然り気無く(?)お願いしつつ会話し、部屋の中に消えた母親を待つ。子供らしく振る舞うのってこんなに大変なのか、と内心記憶の片隅に居る某名探偵に同情した。ボロ出すぎやろとか思ってごめんな、とこの世界には居ない彼に謝罪していると、またドアが開き、ノートとボールペン片手に母親が出てくる。

 

 

「はい、ペンってボールペンで良かったかしら?」

 

 

「うん! ありがとうママ!」

 

 

「いえいえ。もう少ししたらお昼ご飯にするから、もうちょっと遊んでてくれる?」

 

 

「はーい!」

 

 

物理的に体が小さいからか、少し大きく感じられるノートとボールペンを受け取り、部屋に駆け足で戻る。そうして部屋に戻るなり彼女――――Lilyは部屋の隅に行き、壁を背にして座り込んだ。そうしてノートを開き、ボールペンを手慣れた動きでノックを押してペン先を出して、何かを書き始める。

 

先ずは現状を整理しよう。

 

先程積み木を弄りながら考えた結果、Lilyはそう考え、今知っている限りの事を書き付ける事にした。この部屋に紙は有れども自由帳代わりにしているそれらは何時両親に見られるか分からない為、咄嗟にもう無いと嘘を吐いてしまった。

ノートの最初の方にカモフラージュを兼ねて子供らしい絵を描き、数ページ間を開けて母親と父親の事、そうして自分の年齢、家の住所などを記憶の中から引っ張り出し、書き込んでいく。

 

 

今世と前世の『自分』の情報を書き出し終わった所で、前世の情報を丸で囲い、今世の情報を書き出した部分も囲う。そして前世から今世まで矢印を引き、『今の私はこっち』と書き加えた。

 

 

そこまで書き出した所で、今度は今後の方針を考え、書き連ねていく。

 

とにかく、主人公になりたいわけでもないし、前の人生みたいに平凡に生きよう。どうも見た感じファンタジー系の世界に転生した訳でもないし、どちらかと言えば前世とほぼ同じような世界のようだ。そんな世界で両親に気味悪がられれば、捨てられることは間違いない。今は愛してくれているけれど、愛想を尽かされる可能性は否定できない。嫌われないようにする事が大事だ。捨てられでもしたら絶対心が折れる。年相応に振る舞いながら、少しずつ自分を出していこう。そうすれば気味悪がられることなく成長できるはず。前の自分がどうやって生きてきたのかを思い出せ。

 

そこまでをノートに書いて、ふと考える。日記でもつけようか、と。

 

 

そうすれば記憶の整理も出来るだろうし、朝見返すようにすれば前日の事を振り返ることが出来る。子供らしくいるためにも必要なことなんじゃないだろうか。

 

 

そう考えた彼女は、早速ページを何枚か捲り、今日の出来事―――主に今後に関することなど―――を書いていく。

 

 

『○月▲日

 

より子供らしくあるために今日から日記をつけることにした。まさか自分が二次元でよくある転生に巻き込まれたなんて信じられない。具体的には今でも夢だと思いたいぐらいには信じられない。何故こんな事が起きたんだろう。いやそもそも前世の私は死んでしまったのか?

 

まぁとにかく、まずこれから生きていくのに家を追い出されるのはまずい。まだ未熟な子供の体のままでは絶対に死ぬ。それはやだ。騙すみたいでちょっと心苦しいけれど、母さんや父さんが本当にこの子は子供なのかという疑問を持たないように振る舞わなければ。

 

1、前世の癖などを出さずにすること

2、自分は子供ということを弁えて行動すること

3、出来る限り子供らしく、今までの私らしく行動すること

 

取り敢えずはこの三つは必須だろう。

 

そう言えば、この世界はアニメの世界だったりするのだろうか? 今のところ前世とは特に何も変わらないみたいだ。ただの平行世界ならいいけど、私が知らないだけでなにかのアニメの世界なのかもしれない。日常系ならまぁ兎も角も、バトル系だったら絶対に関わらないようにしよう。ただのクラスメートAぐらいでいよう。主人公には絶対に関わりたくない……。絶対に死ぬ気がする。それに私に何が出来るっていうんだ。

 

その自衛のためにも、情報収集するべきだ。前世でアニメやゲームにはあって現実に無かった都市伝説や神話、機械や知らない国などがあれば、この世界を把握する手がかりになるはず。早速情報収集する方法を考えなければ。』

 

 

そこまでを書き、ノートを閉じる。そうして自身の知られたらまずいことを綴ったそれを隠す場所を探し始めた。

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