※どうかこれからも本作をどうぞよろしくお願いいたします
※戦闘に関してオリジナルの描写を含んでおります。ご了承ください。
ザク、ザクとゆっくりと近付いてくる足音を聞いて、Papyrusはそちらに振り返る。すると、自身の兄であるSansがそこにいた。兄の登場にPapyrusはぱっと眼孔を輝かせ、そして、Sansの周りに誰も居ないのに気付いて、目元を吊り上げた。
「SANS!! 人間は何処に行ったんだ!!?」
「あー……悪い。それが逃げられちまってな」
「なんだと!!? なんてことをしてくれたんだ!!!」
思わずPapyrusが怒鳴ると、Sansはへらりと笑い、頭蓋をカリカリと掻いた。
Papyrusが怒っているのは、先程Sansが『捕まえた』と言っていた人間も一緒にやってくると思っていたからだった。だが、どうやらSansはその人間を逃がしてしまったらしい。ずっと待ち焦がれていた人間を捕らえられるとわくわくしていた自分の気持ちが地に落ちた瞬間だった。
ボフボフ、と雪を踏み締め、地団駄を踏むPapyrusを、Sansは笑って宥めた。
「そんなにカッカしなくても大丈夫だぜ、兄弟」
「何が大丈夫なんだ!? 人間が逃げてしまったというのに!!!」
「いやだって、ここは一本道だろ? この先に進むにはここを通るのが一番早い。だからここで待ってればもうすぐ来ると思うぜ」
まぁ、人間が本当に隠れていくつもりなら森の中を無理矢理突っ切る可能性もあるが。
頭に思い浮かんだもう一つの可能性は伏せ、PapyrusにSansはそう話す。それを聞いたPapyrusは、
「……それもそうだな!!」
と、素直に納得して頷いた。
「なーSANS! いつ人間は現れるんだよー???」
そんな今にも待ちきれない様子で心から待ち望む弟の横に立ち、Sansは横目で道の先に視線をやる。すると、真っ直ぐ此方までやってくる陰を見つけた。
嗚呼、来てしまった。
ざくり、と雪を踏み締める音がする。
「俺様は最高の日曜日を迎えたいのだ……」
ざくり。
ざくり。
「それかかなりいい感じの火曜日でもいいぞ」
ざくり。
ざくり。
少しずつ此方に近付いてくる足音がPapyrusには聞こえていないのか、近付く影には気づかず、Sansの方を向いて話し続ける。
「……その服装の他はないのか?」
「ああ、でも髪型は変えられるからな!」
どうやら自分の声の大きさに掻き消されて聞こえていないらしい。そんな彼に苦笑しつつ、会話に応じる。Papyrusは訊ねたSansに頷き、髪の毛の無い頭をまるでそこに髪があるかのように撫で付け、胸を張る。
「おお、そうか。そりゃ良いな」
その様子を見て、Sansは思わずくすりと笑った。そして、直ぐそこにまでやってきた気配がある方に、指を差す。
「………ところで、なぁ、あっちを見てみろよ?」
突然の兄弟が道の方を指差したことにきょとんとPapyrusは眼孔を瞬き、言われた通り顔をそちらに向ける。
するとそこには、自分の知らない何かが立っていた。
「……? ……!! !!」
先程まで居なかったのに。どうしてそこに。なんで。いつから。
そんな思いに思わず何度も何度もSansと顔を見合わせたり、眼孔を擦ったり、交互に見たりと、わたわたと忙しなくしてしまう。
(ハッ!! これではいけない!!! 俺様はどんな時でもクールなのだから!!!)
慌てていた自分を押し止め、Papyrusはキリッとした面持ちを作ってそれに向き直る。そして上から下までじっくり見た後、後ろを向いてからSansの肩を引き寄せ、顔を寄せる。
「SANS!!! 何てこった!!!! めまいがするぞ。俺様はなにを見てるんだ?」
「よーく見な」
興奮した様子でいつもよりは小声でそう言うPapyrusに、Sansは笑ってまた指を差す。その指に釣られて、Papyrusはそれ………ではなく、その後ろにある岩を見た。
「なんてこったー!!!」
そして驚いたように叫び、すっと表情を消してSansを見つめる。
「なんでお前は岩を見ろだなんて言うんだ」
「冗談だって。おい、あの岩の前にあるのは何だろうな?」
半目になってじとーっとした眼差しを向けてきた弟に笑いつつ、今度はちゃんと人間の方を指差し、Papyrusに訊ねる。Papyrusはそれを見て、はっとする。
「そんな!!!」
そして、そのまま首を傾げ、
「あれがなんなのか見当もつかないぞ」
と言った。
Sansはその返答に思わず真顔になったものの、そう言えば人間がどんなカタチをしているのかや、どんな背格好をしているのかなどを昔からずっと教えていなかったことに気が付き、あれが何なのか考え出している弟に惚けて言う。
「おや。ありゃ岩じゃないな」
「岩じゃない……?」
そう言えば、Papyrusは更に首を傾げたものの、はっとして眼孔を目一杯に広げた。
「まさか!!! それなら消去法で!!! あれは人間ってことだな!!!」
それの正体に気が付いたPapyrusは、改めて人間を見る。生涯で初めて出会った人間は、黄緑と黄色の服を着て、そこに立っていた。
色々な思いが込み上げてくるのを抑え、Papyrusはクールに振る舞おうと咳払いをした。
「ゴホン!! やい人間!! これからの事、覚悟しておけ!!!」
びしり、と指を差したPapyrusの声がけに、人間は顔を伏せたまま、びくりと肩を跳ねさせた。
「災難! パズル! 巧妙な罠! お祭り! あらゆる手を使い、必ずお前を捕まえてみせるぞ!! 一度は逃げられたが、今度は絶対に逃がさないからな!!」
そんな様子には気付かず、Papyrusはカッコつけながらそう言う。
「さぁついて来い……勇気があるならな! ニェッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘ!!!」
キリッとした顔でそう言い捨て、Papyrusは独特な高笑いをあげて走り去る。
(やった! やった!! やった!!! やっと人間が来た!!!)
寒いSnowdinの中を駆けながら、Papyrusはソウルが跳ねるのを感じる。
(人間を捕まえれば、俺様は王国騎士団に、人気者になれる!!! そうすれば、薔薇色の生活が待っているのだ!!!)
長年の夢が叶うことの期待と、そして。
(あぁ、あの人間はどんなやつなんだろう……!! 考えただけでワクワクするぞ! ………ハッ!! いやいや、違うだろう! 俺様はアイツを捕まえるのだ!! アイツがどんなヤツでも関係ない!!! ………いや、でも、ちょっと話すくらいなら、Undyneも許してくれるよな……?)
『人間』への憧れによる高揚感をソウルに秘めて、Papyrusは走っていく。
そんな弟の背中を見えなくなるまで見送って、Sansは改めて人間へと向き直った。
人間は、微動だにせずそこにいる。雪の中でじっと佇む人間に、Sansは静かに問いかける。
「……お前、このまま本気で進む気か?」
「……」
問いには答えず、人間はじっと黙り込む。沈黙の中、人間が吐き出す白い息だけが空気に溶けた。
「heh、だんまりかよ。はぁ………今ならまだ、間に合うと思うぜ」
独り言を呟くように、Sansは人間にそう告げる。そして、Snowdinの奥へと消えていった。
「………」
去っていく彼の背をじっと見つめ、人間はまた息を吐き出した。Snowdinの寒さに冷やされた息は白く染まり、そして消えていく。その様をずっと見つめていた彼女は、漸く歩きだした。
「ハッ、ハッ………」
少し歪な見張り小屋に見向きもせず、人間が森の中を歩いている。そして、その向こうからも息を切らして何かが走ってきていた。近付いてくるにつれ、がしゃりがしゃりと金属が擦れる音も混じり始めた。余程の健脚なのだろう、それは雪の積もる道だというのに、軽快な足取りで雪道を駆けていた。
「ハッ、ハッ、ハッ……ワンッ」
道の向こう側からやって来ていたのは、Lesser Dogだった。
彼は王国騎士団に属するモンスターではあるが、元々がこの辺りの出身である事から警備兵として配属され、こうして巡回――という名の散歩だが――に日々精を出していた。今日も今日とて巡回しにこの近くにまでやってきたのだが、自分の鼻に全く知らない臭いが風に乗って届いたので、興味深々でここまでやってきたのである。
四足歩行から立ち上がってすんすんと空気を嗅ぎ、そして、キョロキョロと辺りを見渡し、遠くに佇む人間を見つけて、ぱっと嬉しそうに顔を輝かせた。ああ、あれだ、と。そして、空気に混ざる臭いを嗅いで、おや?と首を傾げた。
どうして、街の子ども達の匂いがあれからするのだろう?
彼は普段はひとりでいることが多い。一つ何かをし始めると、ついそれに熱中してしまうからだ。しかし犬のモンスターであるということも相俟ってか、本来は懐っこい性格をしていた。騎士団の皆はもちろん、街の皆が好きだった。そんな彼にとって、時折一緒に遊んでくれる街の子ども達は大切な友達だった。だからこそ、彼は子ども達の匂いを覚えていたのだ。
彼らの匂いがするということは、彼らの友達だろうか。
そう考えた彼は此方に向かってくる人間を、わくわくしながら待つ。もしかしたら、遊んでくれるかもしれないと期待して。
一歩ずつ、少しずつ近付いてくるそれに期待を膨らませ、尻尾を振る彼に、ひゅお、と、前方から風が吹き付ける。
その風に乗っていた臭いを嗅ぎ、彼の尻尾がぱたりと止まる。
どうして、彼らの匂いに混ざって、あの嫌な臭いがするのだろう?
例えるならば、いきているモノを無理矢理燃やしたような臭い。その臭いを、彼は一度嗅いだことがあった。それはまだ子どもの頃、
祖父母が死んだとき嗅いだ、モンスターの死の臭いだ。
それに気付いた途端、ぶわ、と彼の全身の毛が逆立つ。嫌な予感がする。どうしてあれからあの臭いがするのか。彼らに何かがあったのか。そう考えているうちに、足音がどんどん近付いてくる。
ザク、ザク、ザク、ザク、ザク
死の臭いも、彼らの匂いも、何もかもが綯い交ぜになったニオイを纏ったそれが近付いてくる。
ザク、ザク、ザク、ザク、……ザク。
「……みーっけ」
足を止めたそれが、そう呟いたのを彼は聞き逃しはしなかった。
ザクザクザクザクザクザク。
足音が早まる。
完全に此方を狙って近付いてきている。
嫌な臭いが濃くなってくる。
知らない臭いに当てられ、混乱しながらも本能で危険を察知した彼は、剣と盾を構えた。それに対して、人間は恐れる事なく駆けていく。
ザクザクザクザクザクザクザクザク、
ザクリ。
そして、彼の射程距離の中へと飛び込んで、カッターを振るってきた。
ヒュンッ
「ワンワンッ!!」
人間の攻撃は彼に寸での所で当たらなかった。それを見逃さなかった彼は、可愛らしく吠えながら剣を縦一閃に振り下ろす。
ブォンッ
そんな音を立てながら振り下ろされた剣を難なく人間は一歩下がって避け、ならばと一歩踏み出すと同時に勢い良く突き出された盾も避け、続けて繰り出された突き攻撃も横に避ける。目の前に突き出されたその腕を両手で棒を横に持つように掴むと、自身の太腿へと勢い良く叩き付けた。
バキィッ
「ギャンッ!!?」
Lesser Dogが今まで経験したことがないような痛みが左腕に走る。関節の無い筈の所が、左に折れていた。骨を折られた衝撃と痛みで剣を取り落とし、彼が怯んで体を少し屈めた所で、人間は足払いをかける。彼がバランスを取れず崩れ落ちた所で、Lesser Dogの後ろに回り込み、
ドスッ
その防御の薄い首へとカッターナイフを深く突き刺し、
ザシュッ
横に、切り裂いた。
「ガ、」
ビシャ、と。体液が地面に飛び散る。彼の白の毛並みが体液に染まっていく。人間はその様子を気にした素振りも見せず、その背中を軽く蹴った。ぼすっ、とLesser Dogの体が雪に倒れ、そして、ざらり、と、灰へと変わった。
「………」
装備を遺して消えていく様をじっと見ていた人間は、完全に灰になるまで見届けると、踵を返し、道を進み始めた。
暫くすると、また見張り小屋の前に差し掛かった。それも無視して通ろうとしたのか、足を踏み出した彼女の目の前に、にゅっと、犬の顔が出てくる。
「………今、何か動いたか? 気のせいかな?」
見張り小屋から顔を出したのは、
「おれは動く物しか見えないからなぁ……」
自分の欠点に少し苛立ちを覚えつつガリガリと頭を掻き、視界で探すことは諦め、Doggoは咥えていたジャーキーを指の間に挟んで鼻から遠ざけると、すんすん、と鼻を鳴らす。嗅覚で何か異常が無いか探ることにしたのだ。
彼は先程から誰かが近付いてきていることは音で分かっていたが、聞いたことのない足音に眉を顰めていた。
(知らねぇ足音……さっき走ってったPapyrusを除けば、今日ここを通ったのは街のガキ共とLesser Dogぐらいだった筈だが……)
王国騎士団に入団し、Snowdinに配属されてから長いこと此処で番をしている彼は、Snowdinの住民の足音を覚えてしまっていた。それなのに、どうして知らない足音がするのだろうか。疑念を抱いた彼は警戒していたのだった。
そして、目の前にいるであろうそれの臭いを吸い込んだ瞬間、ぶわ、とDoggoの全身の毛が逆立ち、思わずジャーキーを落としてしまった。
「ま……待て! 何だこれは、おれは震えちまってる!」
その臭いは、街の子ども達の匂いと、いつかの日、死んだ親戚が研究所へと運ばれていく時に嗅いだ死の臭いと、そして、
つい先程此処を通っていった、Lesser Dogの匂い。
瞬時に見張り小屋を飛び出し、彼は腰に提げていた双剣を引き抜き、身構える。
「だ、誰がいるんだ!?」
恐怖でガタガタと震え、荒く息を吐き出しているDoggoに吠えるように尋ねられた人間は、そちらにふいと目を向けて、
ただ、わらったまま、カッターナイフを振り上げた。
とある日記より抜粋
『Snowdinでは、Papyrusに辿り着くまでに中ボスラッシュ(私が勝手にそう呼んでいるだけだが)がある。覚えている限りだと、Doggo、Greater Dog、犬夫妻の順だったはず。Lesser Dogは……イベントが無いから中ボスではない、と思う。確か彼は彼の持ち場までの道のりの中でランダムで出てくるはずだから、その場に据え置きのボスモンスターというより、遊撃部隊とかなのかもしれない。
この犬モンスター達は、中々人気だった記憶がある。確か友人の一人がLesser Dogのフィギュアとマフラーを持ってたような……。
ACTで撫でることで可愛い反応が返ってくるからかもしれない。
……私も、撫でてみたかったな』