喩え、この身が業火に焼かれても   作:行方不明者X

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※大変長らくお待たせしました

※動物に対する残酷描写があります


9.Talk With Me!/DON'T Say Anymore

Sansは近道を使ってPapyrusがいるであろう所の近くにまで移動する。きょろきょろと辺りを見渡してPapyrusの姿を探していると、道の先で見知った赤色が翻ったのが見えた。あそこか、とSansはその赤色を目指して歩き出した。

赤色を追うと、地面にぎっしりと灰色のパネルが敷き詰められている大規模なパズルが仕掛けられている場所に出た。探していたPapyrusはそのパズルの起動装置の前にしゃがみ込んでいた。どうやらチェックをしているらしい。

 

 

「待たせたな、兄弟」

 

 

その背中に近付いていって声をかけると、PapyrusはちらりとSansを見て、また装置を見た。いつもなら一言小言が飛んでくる筈なのに、そんな一言を言う暇すら惜しんで作業をしているのかと思いきや、何をするでもなく、ただじっと、何かを考え込んでいる。弟のその様子におや、と思ったSansは、少し間を開けてから口を開いた。

 

 

「……そんなにしゅんとして、どうかしたのか?」

 

 

「別に、何でもないぞ」

 

 

Sansの言葉に装置を見つめたままPapyrusは言い返す。しかし、いつもよりずっと覇気がない。明らかに落ち込んでいるのが丸分かりだった。

 

 

「んー……どう考えてもそうは見えないんだが」

 

 

「……」

 

 

頬を掻きながら言ったSansの言葉に、Papyrusはきゅ、と口を引き結んだ。そして、観念したように口を動かす。

 

 

「人間が………これも、やってくれないのかなぁと思ったら、なんか、悲しくて……」

 

 

「……あぁ、成る程な」

 

 

Papyrusがぽつりと溢した本音に、Sansから表情が消え失せた。

 

 

「なぁ、Sans。何で人間はパズルをしてくれないんだと思う? 何で何にも反応してくれないんだ?」

 

 

そんなSansの様子は露知らず、Papyrusは装置を見つめたままそう続ける。今のPapyrusの頭を占めるのはその事だけだった。

Papyrusの知る『人間』は、ちゃんと会話が成り立つ存在、という認識だった。なのに、目の前に現れた人間は、ただ黙ったまま、俯いたまま、此方が用意にした全てを踏みにじって台無しにしていくような、自分が考えていたよりもずっと怖い存在だった。モンスターだって黙ったまま迫ってくるようなモンスターはいない。彼の中で人間は、訳の分からない行動を繰り返す恐ろしい存在として定義されようとしていた。

 

 

「ずぅっと黙ったままだし、俺様、人間が一体何をしたいのか分かんないぞ………」

 

 

不安そうにそう溢す弟に、Sansは何か言わなければ、と口を開こうとする。しかし、こんな時に限って、Sansの口からは何の言葉も出てこなかった。沈黙の中でSansが言葉を探していると、Papyrusはすっくと立ち上がる。

 

 

「でもまぁ、これはALPHYS博士の自信作のパズルだしな! きっと気に入ってくれるだろう! なんせ、あのパズル嫌いなUNDYNEだってこのパズルは大好きだしな!!」

 

 

「あー、おう、そうだな」

 

 

弱気な自分を振り払うように、自信満々ないつもの笑顔を浮かべるPapyrusに対し、その情報はあまり宛にならないと思うぞ、という言葉を言うのは止めておいた。その情報の真相は、UndyneがAlphysに良いところを見せたかっただけである―――というのは、彼女の名誉の為にも黙っておく事にした。

 

 

「……なぁ、兄弟」

 

 

「ん? なんだ、SANS」

 

 

張り切って最後の微調整をし始めたPapyrusに、Sansは後ろから声をかける。そして、一呼吸置いて口を開いた。

 

 

「……俺に任せてくれてもいいんだぜ」

 

 

Papyrusは兄の言葉にピタリと動きを止める。

 

 

「幾ら仕事とは言え、無理に相手する必要はないと俺は思うぜ。だから、」

 

 

「いいや」

 

 

Papyrusは話を遮り振り返って、真っ直ぐにSansを見て、首を横に振った。

 

 

「俺様がやる。これは俺様に任せられた仕事だからな」

 

 

「………そうか」

 

 

その答えを聞き、Sansは俯く。

 

 

(まだ、話そうとしているのか。………まだ、解り合おうとしてるのか)

 

 

きっとそれは、無意識なのだろう。無意識にまだPapyrusは、人間と解り合えると信じている。その事に気付いて、Sansは閉口してしまった。

そんなSansに、Papyrusは一歩踏み出し、ずいと近付いた。

 

 

「そ・れ・に! SANSに任せたら、どうせまたサボるだろう!!?」

 

 

「おっと、そりゃ心外だな。流石にそんな重要な仕事はサボらないぜ? それどころか粉骨砕身するつもりなんだが」

 

 

「一回逃がしたクセに、何言ってるんだ!!」

 

 

「おぉ、正論過ぎてジョークも出てこないな」

 

 

そんな風にいつも通りに話しているうちに、いつの間にか重たくなっていた空気は消散し、Papyrusもいつもの調子を取り戻したようだった。弟のその様子に、Sansはほっと胸を撫で下ろす。そして、少し間を空けて、また口を開いた。

 

 

「なぁ、兄弟。さっきの続きなんだが……これは、提案なんだけどな」

 

 

「ニェッ?」

 

 

「次もまた何も答えないようだったら、いっそ思い切って、人間に訊いてみたらどうだ? 『何で何も答えないのか』、って」

 

 

Sansからの思いがけない提案に、Papyrusはきょとんと眼孔を開く。

 

 

「分からないなら訊いてみるしかないだろ。もしかしたらまた答えてくれないかもしれないが、訊かないよりはマシだと思うぜ」

 

 

ぽかん、としたままPapyrusはSansの言葉を聞く。言われてみれば確かにそうだ。相手の考えている事は相手にしか分からないのだから、聞いてみるのが一番早い。どうして思い付かなかったのだろう、と思いながら、Papyrusはきらきらと顔を輝かせながら頷く。

 

 

「それは名案だな!!」

 

 

「だろ?」

 

 

「あぁ、すっごく名案だ!! そうする!!」

 

 

そうしよう、そうしようと小声で繰り返すPapyrusを見ながら、Sansは考える。

 

 

(………そう。こんなことしても無駄かもしれない。だが、アイツは()()()とは全く違う。なら、もしかしたら、)

 

 

Papyrusの声なら、届くかもしれない。

Sansは、ただ祈るように眼孔を閉じる。そんな二人が待つ森の中で、ざく、という音が響いた。Papyrusはその音がした方にばっと顔を向ける。そして、パズルの向こう側に人間がいるのを見て、そちらに向き直り、ビシリと指を指す。

 

 

「おい! 人間よ! このパズルはきっと気に入るはずだぞ!」

 

 

反対側にいる人間にも届くようにと声を張るPapyrusのの言葉を聞いているのか居ないのか、人間は俯いたまま、少しずつ足を前に進める。

 

 

「何せ、これを作ったのはあの偉大な……」

 

 

Alphysが作ったパズルの事を、自分の事のように自慢気に話し出そうするPapyrusを無視し、人間はパネルの上を歩いていく。そして、またパズルの半分ぐらいの所で立ち止まった。

 

 

「……ウソだろ?」

 

 

その様子を唖然として見ていたPapyrusは、俯いて手をぶるぶると震えるぐらい強く握り締め、地団駄を踏む。

 

 

「もーー!!!! SANS!!! なんとかしてくれ!!! 俺様のパズルのド真ん中を歩いてくるぞ!」

 

 

「あー、すまん。あれは俺も手に負えないな」

 

 

先程の言葉を忘れたように、まるで幼子のような憤りを見せて放り出したPapyrusに、Sansは諦めたように首を横に振った。Sansでも何とか出来ないのかとPapyrusは肩を落とし、悲しそうにぽつりと呟いた。

 

 

「………パズルの説明をするつもりだったんだけどなぁ」

 

 

Alphysの作ったこのパズルならきっと気に入ってくれると思っていたのに、と期待を裏切られたPapyrusは、悲しい気持ちになる。しょんぼりと落ち込む様子を見せるPapyrusにも、人間は何の反応も見せず、顔を上げることすらしなかった。

 

 

(うーん……もう、どうしたらいいのか分かんないな……)

 

 

何に対しても一つも反応も見せない人間に、Papyrusはとうとう困り果ててしまう。このパズルもダメとなると、もうPapyrusにはどうする事も出来なかった。

考えに考えて、Papyrusはふと思い付く。

 

 

「そうだ。この後イタズラして困らせてやろうかな」

 

 

「ん、アイツはイタズラが嫌いかもしれないぞ」

 

 

「そんなヤツいるもんか!!!」

 

 

Papyrusが思い付いた事をそのまま口にすれば、横のSansがやんわりとそれを制す。しかし、Papyrusはそれを直ぐ様否定した。

 

 

「そうか? undyneはどうだ? あいつはパズルが嫌いじゃないか?」

 

 

「パズルは嫌いだ。でもイタズラは大好きだぞ」

 

 

「なるほどな」

 

 

先程も話題に出たUndyneを引き合いに出せば、Papyrusは首を横に振った。その言葉を聞いて、Sansは前に、PapyrusがUndyneに不意打ちで雪玉をぶつけていた事を思い出す。本来上司にそんな事をしようものなら怒られそうなものだが、彼女は『私に対する挑戦だな!?』とノリノリで雪玉を投げ返し、最終的に街の皆を捲き込んだ雪合戦になった事があった。それに、確かAsgore王の背中に『わたしはもふうさおうです』と書かれた紙を貼り付けたりなんかもしていた、と誰かから聞いた気がする。確かに彼女は悪戯が好きだったな、と考え直した。

Sansが懐かしい出来事を思い出している内に、Papyrusはまた人間に話しかけていた。

 

 

「人間!!! お前はどう思う!!?」

 

 

くるりと向き直って、Papyrusは人間に問い掛ける。

 

 

「パズルとかイタズラは?」

 

 

「………」

 

 

「…………はぁ。わかった、こんなの聞かなくて構わん」

 

 

しかし、森に響くのはPapyrusの声だけだった。人間は何も答えず、俯いている。案の定何も答えない人間に溜め息を吐き、Papyrusは額に手を当て、首を緩く横に振った。

 

 

「どこにも、なんにも反応すらしないのだからな」

 

 

失望を滲ませた声で、Papyrusはそう言う。それきり誰もが黙り込んでしまったその場に、刺すような沈黙が暫し流れる。その間も、人間はずっと俯いていた。Papyrusはそんな人間をじっと見る。その眼孔は、ちゃんと人間を捉えていた。けれど、人間がずっと俯いている所為で、Papyrusは一度も人間の顔を見ることが出来ずにいた。

 

 

「……なぁ、どうして何にも反応してくれないんだ?」

 

 

そこでPapyrusは、訊ねた。先程のSansの提案通りに、人間にただ疑問をぶつける。

 

 

「パズルが嫌いなら嫌いって一言言ってくれれば、俺様も一緒に解くぞ? イタズラが嫌いなら、首を横に振ってくれれば、絶対にイタズラしないって約束するぞ? でも、何も言ってくれないと、幾ら俺様でもどうしたらいいか分からないんだ」

 

 

もしかしたらまた何も答えてくれないかもしれない。それでも何もしないよりはきっといい筈だ、と言葉を重ねる。人間は顔を上げず、沈黙を保ったままだった。答える気は、無いのかもしれない。

 

 

「もしかして、俺様に遠慮してるのか? そんな遠慮はいらないぞ! 俺様、おしゃべり大好きだからな!」

 

 

そう言って、Papyrusはにかっと笑う。まだ沈黙は続いたままだった。人間の態度に、笑顔から一転してPapyrusは悲し気な顔をする。

 

 

「………答えてくれさえすれば、」

 

 

そこで一度言葉を切り、Papyrusは続けてこう言った。

 

 

「お前のどんな解答にだって、俺様たちは最大限応えるというのに」

 

 

――――その言葉を聞いた途端、突如人間が弾かれたように顔を上げた。

その時に漸く、Papyrusは人間の顔を見た。人間の母なる大地のような茶色の瞳に、初めてPapyrusがちゃんと映り込んだ。

 

 

(………あ、)

 

 

初めて見た人間のその顔を見て、Papyrusは眼孔を見開き、やがてにっこりと笑った。

 

 

「やっと俺様を見てくれたな、人間!」

 

 

「……!」

 

 

人間はその言葉にはっと目を見開き、また俯いてしまう。

 

 

「あぁ、また俯いてしまったぞ……」

 

 

人間のその挙動に、Papyrusは悲しげに眉を下げた。

 

 

「でも、俺様の声が聞こえてないわけじゃないんだな!! うんうん、それが分かっただけでもいい収穫だ!!」

 

 

けれどぱっと顔に笑顔を浮かべ、明るくそう言い放った。

 

 

(悔しいが、SANSの言うとおりだったな。訊いてみて良かった!! 答えてはくれなかったけど、俺様の声が聞こえてないんじゃないって分かった!!)

 

 

Papyrusの問いに対して、人間が返したのは挙動一つだけだった。だが、そのたった一つで、先程まで沈みかけていたPapyrusの心は希望で満ち溢れる。

 

 

この声が届いているのなら、きっと、話しあうこともできるはず。そう信じているからだ。

 

 

「人間!! お前が何故話そうとしないのかは、正直、俺様には分からない!! けど、もし、ただ話したくないだけなら、別に話さなくてもいい!! パズルだって、やらなくてもいい!! そもそも、見知らぬ所に来て、混乱してるかもしれないしな!! もし俺様がお前と同じ状況だったら、俺様だってそうなる!!」

 

 

人間に言葉を投げ掛けながら、Papyrusは腕を組み、合点がいった、というように頷く。

混乱しているのなら、今までの行動にも納得がいく。それならパズルをする心の余裕もないだろうし、仕方がない。そう考える事が出来たからだ。

 

 

「だから、お前はここで、一回深呼吸して、頭の中を整理した方がいいと思うぞ!! その間は、捕まえるのもちょっとだけ待ってやろう!!! このPAPYRUS様にかかれば、お前を捕まえるのは一瞬だからな!! それぐらいの心の準備タイムがあったっていい!!」

 

 

そう言って、Papyrusは横にあった機械を少し操作すると、その横に紙を置いた。

 

 

「というわけで、俺様は先にいくが、もしパズルをやりたくなった時の為に、ここに説明書を置いておくからな!! それじゃあな、人間!!」

 

 

そう言い残して、Papyrusは走り出した。微かに見えた希望に、胸を躍らせて。

 

 

(ああ、大丈夫だ……!! アイツはきっと、悪い奴じゃない!!)

 

 

そう思い込んでしまったまま、肉の無い身の軽さで、彼は走りづらい雪を物ともせず、飛ぶように走り去っていった。

 

 

「……だってよ。どうすんだ?」

 

 

そして、残された二人の間には、Snowdinの空気よりも冷たくて重い空気が流れる。

 

 

「俺としては、兄弟の言う通り、少し頭を整理した方がいいと思うぜ。それこそ、パズルみたいに、ピースをきちんと嵌めていけば、少しは整理がつくんじゃないのか」

 

 

言葉を投げ掛けると、人間は此処に来て、初めて少し、身動ぎしてみせる。その挙動が、ただ寒くて震えているのか、それともSansの言葉に心が動いたからなのか、Sansには判断がつかなかった。何せ、また直ぐに、人間は去っていってしまったから。

 

 

 

「下手なこと、言わなきゃ良かったか」

 

 

Sansはぽつりと後悔を溢す。最初に出会った森の入り口で、親切心からの助言のつもりで『やめとけ』と言ったのは、悪手だったかもしれない。Sansもまさかここまで、(だんま)りを決め込むようになるとは思っていなかったのだ。

 

しかし、先程、Papyrusの言葉に反応した、その様子を見て、その顔を見て、Sansは。

 

 

「……頼むから、止まってくれよ」

 

 

そう、小さくなる背中に向けて、呟くしかなかった。

 

 

一方の人間は、というと。

道すがら見つけたモンスターを殺し、塵に成り逝く骸を眺めていた。

 

 

「……これで、あと二人」

 

 

何かを指折り数えて、そう呟く。そして、骸が全て塵になるのを見届け、また歩きだした。

本来ならきちんと足止めとして機能する筈のパズルは、またFloweyが解いたのか、それとも今度は電源を落としでもしたのか、恐ろしい人間の行く手を阻む針山は全て、地面へと姿を隠していた。靴に染み込む雪の刺すような冷たさも、人間の足を止められはしなかった。

 

 

ざく、ざく。

 

 

落ちてくる雪を払いのけながらも氷の小路を通り抜けると、急に視界が開けた。Snowdinの長い森を抜けたのだ。

そのまま先に進むと、饅頭のように丸められた雪の塊がぽつぽつと並ぶ広場に着いた。その端には、騎士団の詰所が見えた。

 

 

_______________________________________________

 

 

Greater dog(グレータードッグ)は、身を隠した雪まんじゅうの中で、わくわくしていた。

 

先程、敬愛する団長から、Snowdinに住むモンスター達の避難誘導の指示が緊急で入った時に聞いた、恐ろしい敵が迫っているという知らせ。

避難誘導を終えた後、団長は自分に、その敵と戦え(あそべ)と命じられた。普段は、『街のモンスター達と遊ぶには、お前の力は強すぎる。長く一緒に遊びたいなら手加減しろ』と言われていたのに、酷く険しい顔で『全力でやっていい』とまで仰っていた。

どうやらそいつは、同僚のLesser dogや、犬夫婦まで退けてきているらしい。つまりは、我ら騎士団すら壊滅させる程の実力者(遊び相手)がやってきたというワケだ。

そんな話を聞いて、期待にソウルを跳ねさせない方が難しかった。

それを聞いたGreater dogは、お気に入りの槍を引っ掴み、鎧を磨きあげ、そして、雪の下に鎧を埋めた。ちょっとした不意打ち(サプライズ)として、喜んでもらえるだろうかと思ったからだ。小さな弱そうな相手かと思ったら、身体の大きい、強い相手が出てきたなんて、自分だったらとても興奮する。

ただ、一つ残念に思うことがあった。それは、全力でやったらきっと、二度と遊んでくれなくなるだろうということ。全力を出すと、いつも相手が動けなくなるまで傷付けて(あそんで)しまうから、また怖がられてしまうだろうな、と寂しく思いながらも、それを上回る高揚感がソウルを満たしていく。

 

 

ざく。

 

 

前方で、足音が聞こえた。奴が来たのだと察して、ソウルが跳ねる。鎧の下の尾が震える。

足音は真っ直ぐ、此方にやって来る。

 

 

ざく、ざく、ざく。

 

 

そして、自分の隠れる、雪まんじゅうの前で足を止めた。

 

 

 

来た! そう思って、雪まんじゅうを突き破り、顔を出す。

 

 

 

―――――その瞬間に、ガツンと強く響く衝撃が顔に走った。

 

 

「ギャンッ」

 

 

思いもよらない衝撃に、頭が揺られ、視界が定まらず、反応が遅れる。それが命取りだった。首が思い切り掴まれ、締め上げられる。

 

 

「がッ」

 

 

そして、ぐん、と本体である自分の本当の身体が雪の下に隠していた鎧から引き抜かれ、雪の上に引き倒された。

まずい、と鎧の方に逃げようと体勢を立て直そうとするも、そのまま上にのし掛かられ、逃げ場が無くなる。そして、大きく振り上げられた、きらりと光る得物。

 

しまった。そう思った時にはもう遅かった。

 

 

ドスッ

 

 

「ァガッ」

 

 

ドスドスドスドスドスドスドス

 

 

抵抗する間も与えず、身体中に、何回も刃が突き立てられる。痛みが止めどなく襲い、悲鳴すらろくに上げられない。逃げようと体を捩るも、人間は腹の上に跨がっている。鎧を着ていない小さな体では、その体を上から退かす程の力は無かった。

こんなの戦い(あそび)じゃない、一方的な暴力だ、という非難すら出来なかった。

 

 

ドスドスドスドスドスドスドス

 

 

「ア………」

 

 

ドスドスドスドスドスドスドス

 

 

「………」

 

 

そしてふと、痛みでぼんやりする思考の中、思う。もしかして、自分と戦った皆は、こんな風にされて、ただの暴力だと思っていたのかな、と。現実逃避を兼ねた、走馬灯だった。

………そうして、何十回も、執拗にカッターを突き刺された彼の身体は、ざらりと塵へと変わる。

 

 

それを見て、人間はカッターを引き抜き、塵になるのを最後まで見つめ続け、そうして、また指折る。

 

 

「これで、あとひとり」

 

 

そのひとりは、言うまでもなく。

 

 

 

この先で待つ、このSnowdinのボスモンスター、たったひとり。

 

 

 

その赤いスカーフの首もとのすぐそこまで、人間の狂気の刃は迫っていた。




とある日記より抜粋



『Greater dogは、大きな鎧と、槍を携えたモンスターだ。けれど、それは見せかけで、本当は小さな犬が鎧を操作している。どうやら、魔法で鎧を動かしているらしい。

鎧を着ている状態は、私よりずっと体格がいい。正直出来ることなら、相手取りたくない。ゲームのGルートでは、二、三撃で倒せていたような気がするけれど、現実で相対して、そんな瞬殺できるわけがない。

ならば、先手を打とう。

彼は最初、雪まんじゅうの中に体を埋めている。そこから尻尾と顔が出てきて、それから鎧が出てくるのだ。その際に顔を、顎を蹴って、隙を作ろう。そして、その隙に引き摺り出してしまえば………


そういえば、彼は、遊んでやって見逃すと、自ら鎧を脱いで、顔を舐めてくれたはず。

その様子が、ゲームではとてもかわいらしくて、きゅんとしてしまった。



■■■■■■■』
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