『■月◎日
何とか今日も一日を無事に終えられた。正直この先の未来に絶望しかないが……。このまま私は人として生きていけるだろうか。
現実逃避かもしれないが、記憶を整理しよう。それなら少しは落ち着けるはず。まず、Undertaleというゲームについて。
世界中に愛されたインディーズゲームというのは前述した。その人気の理由は、それまでのゲームには無かった要素や、魅力的なキャラクター達によるものだ。ストーリーも勿論だが。
ストーリーとしては、昔、モンスターと人間の二つの種族の戦争があり、その戦争に負けたモンスター達は人間の力によってEbot山の地下空洞(でいいのだろうか)に閉じ込められた。その後登ってはいけない禁じられた山になったEbot山に、子供が登り、地下世界へと落ちる……というのがオープニング。
落ちる子供の人数は主人公を含めた八人。それぞれ『ソウル』と呼ばれるものを持つ子供達だ。多分、これは世間一般的に言う所の魂と定義していいと思う。このソウルを動かすことによって、主人公……というよりプレイヤーは攻撃を避けたり、攻撃したり、行動したりする。ちなみにゲームでは四つの選択肢があり、それぞれ『FIGHT』『ACT』『ITEM』『MERCY』が存在する。
ゲームでは敵としてモンスター達は襲ってくる。理由は、主人公のソウルだ。地下世界にはモンスター達を閉じ込めている結界が存在し、それを打ち破るには七つの人間のソウルが必要になる。主人公が落ちた時点で、モンスター側には既にソウルが六つ確保されていた筈。あと一つ、主人公のソウルさえあれば、モンスター達は待ち焦がれた地上へと出られる。そういう理由で彼らは主人公のソウルを狙ってくる。
それまで七人落ちているのにソウルが足りない理由は、一番最初の人間(確か名前はChara)がモンスターの王族の子供(名前はAsriel)と企てた計画が失敗し、最終的にはAsrielもCharaのソウルも失うという結果に終わったから、という理由だったはず。
次に主人公によって行われるセーブやロード、そしてリセットについて。この世界に置けるそれらは、主人公が持つ「決意」というものによって行われているらしい。大分意味合いが違ってくる。この世界は、リセットを同じ時間のループとして捉えている。なので、セーブデータをリセットした後にもう一度ゲームを始めると、キャラクター達の会話に『会ったことがある気がする』という台詞が追加される。
問題なのは、ゲームだった時のUndertaleには大まかにまとめてしまえば三つの分岐ルートが存在するということ。Neutral、True Pacifist、Genocideの三つ。主人公がNeutralから地下世界の全てを救うTrue Pacifistに真っ直ぐ進んでくれる優しい人間ならいい。だがもし、主人公が「好奇心」でGenocideを選んだりしたら、どうなる? 「決意」を使ってリセットやロードが出来る主人公が、好奇心で、Genocideを選んだとしたら?
Genocideの果てに待つのは、この世界の終わりだ。犠牲になったモンスターのソウルと引き換えに甦ったCharaによる完全な世界の破壊、破滅が待っている。私を含めた生き物全てが、存在丸ごと死ぬ。』
『■月▽日
昨日の続きを書こうと思う。昨日は書いていて気分が悪くなって思わず筆を投げてしまった。
そもそもの話、この世界にもプレイヤーがいないとも限らない。あのゲームは、あくまでも主人公はプレイヤーの手によって動かされているというスタンスで進んでいた気がする。Genocideの最後にはCharaがプレイヤー側に語りかけてくるなんてことがあった。
結局、私という命は、誰か知らない上位の存在の掌ということだ。
正直、恐怖で頭がおかしくなりそうだ。元々私もそちら側にいたのに、立場が変わるだけでこんなに恐ろしいものなのか。いつ私の存在が消されるのか分からなくて怖い。皆が殺されるのが怖い。それを平然と無かったことにされるのも、怖い。何時死ぬのか分からない恐怖で思考が動かなくなる。』
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『■月▲日
明日を生きる気力が湧かない。周りの子供達の話についていこうとする意味が分からなくなってきた。周りの何も知らない人達が羨ましい。この先生きたって、何の意味もないのに。何でそんな風に笑っていられるのかが分からない。』
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『●月●日
この世界の正体に気がついて一ヶ月が経った。成る程、Sansはこんな気持ちだったのか。漸く理解できた。
Sansとは、Undertaleの主要キャラクターの一人だ。種族はスケルトンで、弟が一人いる。怠け者な性格で、寒い親父ギャグやケチャップを好む。ただの盛り上げ役かと思いきや、ゲームに置ける重要な立ち位置にいる。ただの陽気な主人公の監視役であり、主人公が地下世界で行った事に対して審判を行う。そして、主人公の集めたLOVE……Level Of ViolencEとEXP……Execution Pointsによって、審判を下す。このLOVEは他のゲームでいうところのレベルと経験値であり、モンスターを殺すことによって得られるものだ。SansはどういうわけかこのLOVEのEXPを計測出来る。そして、GenocideではLOVEが極限にまで溜まっている主人公の前にラスボスとして立ち塞がる。
更に驚くことに、彼は主人のリセットによって生じた時間の流れの乱れを知っている。計測機があるらしいが……。
彼が怠け者なのは、これが理由だ。何をしても、どう足掻いても巻き戻されて、無かったことにされる。それならば、もう何をしても意味がない。そう彼は考えてしまったらしい。
確かに、そうだ。それに怖い。怖くて堪らない。Sansは一人でこんな恐怖に耐えていたのか。少し同情してしまう。直接会ったこともないのに。』
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『●月◎日
公園のベンチに座って周りの景色を眺めてみた。この景色がいつか全て無かったことにされてしまうのか。』
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『▲月○日
そう言えば、主人公はいつ産まれるのだろう? それとももう産まれているのだろうか? せめてそれぐらい分かれば、死ぬ覚悟も出来るのだが。』
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『☆月★日
やっぱり死にたくない。母さん達を見ているとそう思う。だって、まだしたいことが沢山あるのに。どうして一人の身勝手で死ななくてはならないのか。そんな八つ当たりにも程がある事を考えてしまう。自分だって、ゲームで世界中の人を殺した癖に。』
『☆月▲日
これはもしかすると、私への罰なのかもしれないと考え始めている。プレイヤーだった私は、Genocideの果てに世界を消して、世界中の人を殺した。それに対する罰なのかもしれない。それならどうして私以外のプレイヤーには罰を与えてくれないのだろう。不公平だ。いや、もしかしたら同じ様な目に遭っているプレイヤーもいるかもしれないが。』
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『▽月◇日
今日も辛うじて生きていられた。こんな生殺しみたいな状況に頭が可笑しくなりそうだ。』
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『▽月■日
授業中、ふと恐ろしいことを考えてしまった。主人公を殺せばこんな心配をしなくてすむんじゃないか、と。それがベストなんじゃないか、と。
先生に指名されて名前を呼ばれて我に返って、何て事を考えているのか自分でも理解できなかった。私は恐怖で壊れてきているのかもしれない。少なくともこんな人には言えない暗い思考をするような人間ではなかったはず。それが、何故、こんな考えを?』
『▽月○日
そもそも、主人公を殺すにしても私は主人公の出身も何も知らない。確かに、現実的に考えてもしかしたらEbot山に近い町とかに住んでいるかもしれないが、私がこうして日記を書けていることから考えてまだ産まれていない可能性だってある。
いや、待て、何故私は『主人公を殺せない理由』を書いているんだ。これじゃまるで『殺せないから殺さない』みたいじゃないか。』
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『▽月▲日
本当に私は精神的に可笑しくなっているのかもしれない。日に日に主人公への憎悪が強くなっている。こんなのはただの八つ当たりだって、分かっているのに止められない。自己中心的な思考に腹が立つ。』
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『▼月◇日
いっそのこと、死にたい。このまま、自分が狂うぐらいなら、誰かに殺されるなら、死んでしまいたい。』
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『◇月■日
漸く一年が巡った。私も今年で九歳になる。新聞記事を探してみたけれど、Ebot山からモンスターがやってきた、というような記事はない。
色々な事をこの日記に書いてきたけれど、もうグダグダ悩んでいても仕方がない、どうせ私が生きていくのはこの世界なんだし、折角の第二の人生なんだから楽しまなきゃ、と開き直る事にした。こうでもしないと正常に生きていけない。明日からは自分がしたかった事をしてみようと思う。』
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『◇月▽日
ビッグニュースだ。私が沈んでいる間に母さんが妊娠してた。妊娠一ヶ月と診断されたと夕食時に何でもないようにカミングアウトされた。私に下の弟妹が出来るらしい。どうしよう、前世では一人っ子だったから何だか気持ちが落ち着かない。ちなみに父さんはお茶噴いてた。知らなかったらしい。』
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『*月▲日
母さんの妊娠が発覚して一ヶ月過ぎた。まだ自分が姉になるという実感がない。未来の行き先を知っている私としては、いつか滅びるかもしれないこの世界に産まれてくるなんて、と思うところは有るけれど、母さんの胎に居る子が元気に産まれてきてくれる事を祈るばかりだ。』
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『#月◇日
母さんが妊娠して三ヶ月になる。お腹も少し大きくなっているような気がする。そういえば、脂っこいものがあまり食卓に並ばなくなってきた気がする。多分お腹の子の影響を考えてるんだろう。あとは妊娠すると味覚が変わるらしいし。私ももっと手伝いを増やしてみよう。』
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『*●月◯日
母さん妊娠四ヶ月目。お腹が出っ張ってきた。検診から帰って来た母さんに育ち具合を聞いてみたところ、順調に育っているらしい。性別は女の子らしいから、妹が産まれてくることになる。妊娠期間は十月十日、と聞くから、産まれるまであと六ヶ月。この調子だと、誕生日は冬になりそうだ。』
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『▲☆月▼日
母さん妊娠五ヶ月。お腹がどんどん大きくなってきた。安定期に入ったらしいが、妹はもう人の形になっているんだろうか。今度エコーの写真を見せてもらえないか訊ねてみよう。』
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『●*月※日
母さん妊娠六ヶ月。妹はすくすくと育ってきているみたいだ。随分お腹が大きくなった。それに伴って母さんもだんだん動き辛そうになってきた。父さんが母さんが動く度にはらはらと心配そうにしている。何となく気持ちは分かる気がするけど。もし階段で転んだりしたら二人とも命が危ないもんね。』
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『★◇月×日
母さん妊娠七ヶ月。父さんが少し早めに帰ってくるようになった。今日は一緒に料理もした。夕飯の後、ソファーに座る母さんのお腹を優しく撫でていた。「二人目を妊娠してくれてありがとう」って母さんにキスしてたのはバッチリ見た。思わず「ラブラブですなー」ってにやにやしながら冷やかしたら母さんが真っ赤になってた。父さんは何でもないように笑ってた。強い。母さんも妹も愛されてるな、と感じた。』
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『▽?月◎日
母さん妊娠八ヶ月。風が冷たくなってきた。母さんの身体に悪影響があるといけないから、今日は私が買い物に行ってきた。要はお使い。自転車で行くにはちょっと寒かった。昼食は父さん特製のカルボナーラだった。これ、滅茶苦茶美味しいから今度作り方教えてもらおう。』
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『☆!月>日
母さん妊娠九ヶ月。お腹を触っていたら中から衝撃が返ってきた。何事だと吃驚していたら、母さんが笑いながら胎動だと教えてくれた。本当は五ヶ月目ぐらいからしていたらしいんだけど、丁度私が触っていなかった時ばっかり動いていたらしく、今まで体験することが無かったらしい。「早くお姉ちゃんに会いたいよ、って言ってるんだよ」って優しく言われてしまった。妹が産まれるまであともう少し。早く会いたい。』
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『×※月#日
母さん妊娠十ヶ月。今月中には産まれるそうだ。父さんと母さんの三人で妹に「早く産まれておいで」とお腹を擦っておいた。
正直、少し不安だ。幾ら前世の記憶の影響で周りより少し大人だからといって、私は妹にとって良い姉になれるだろうか。いや、そもそも、何時この世界が破滅するかも分からないのに、充分に愛してあげられるだろうか。私としては愛したい。大好きだと伝えて、幸せにしてあげたい。
だからどうか、何処かに居るかもしれない主人公よ、妹の生きる未来を邪魔しないでくれ。』
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『×※月◎日
そんな うそだ』
『×※月▼日
私は妹を愛せないかもしれない。最悪の事態が起こった。混乱して昨日一日はあれこれ考えてしまって筆が進まなかった。
昨日は心待ちにしていた出産日だった。大人達の話を聞いていたところ、ちょうど日付が変わるぐらいに陣痛が始まったらしい。いざ病院に連れていこうとした時に、子供一人を家に置いていくことは出来なかったのか、深夜に叩き起こされた。叩き起こされた時は何事だと思った。そのまま父さんが運転する車で病院へ行き、母さんは分娩室へと連れていかれた。父さんと二人で部屋の前で出産を待っていた。空が白んできて、父さんが焦り始めてきた頃に、漸く産声が聞こえた。産科医さんが中から出てきて、父さんに何か話した後、父さんに連れられて中に入った。中ではぐったりしている母さんと、白い布にくるまれて、ナースさんに抱かれた妹が居た。父さんがナースさんから妹を受け取ると、みるみるうちに泣き出してしまった。妹に「生まれてくれてありがとう」とか、母さんに「産んでくれてありがとう」とか、色々言っていた気がする(泣きすぎてあんまり聞き取れなかった)。私が生まれた時もこんなだったんだとか。ちょっと恥ずかしくなった。
問題はその後。父さんが妹の名前を言ったときだった。
父さんが口にした名前は、『Frisk』だった。
ぎょっ、とした。母さんや周りが喜んでいる声が、聞こえなかった。妹が生まれて嬉しい気持ちが一気に吹き飛んで、絶望だけが残った。だって、私は、その名前に聞き覚えがあったから。
「Frisk」という名前は、UndertaleのTPルートで明かされる、主人公の名前だ。
だから、つまり、私の妹は、Undertaleの主人公かもしれない。
いつか、世界を滅ぼしうる存在かもしれない。』