喩え、この身が業火に焼かれても   作:行方不明者X

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※大変長らくお待たせいたしました


Genocide route
1.Return/Beginning


Ebot山の地下、天井に空いた穴から降り注ぐ光を受け、周りに咲く金色の花と似たような体のモンスター―――Floweyは、愕然として、目を見開いていた。

 

 

先程、地上から人間が落ちてきた。どさり、という何か重いものが落ちてきた音が遺跡の奥からしたのを聞いて、Floweyはただただ無感情に、『人間が落ちてきたんだな』と考えていた。

 

 

好都合だ、とも。

 

 

七つ。人間のソウルが集まれば、この地下世界にかけられた結界は解かれる。モンスターは地上に戻れる。

その為に、人間が落ちてくれば、モンスター達は血眼になって人間を捕らえ、王に差し出し、殺していた。

 

 

Floweyは、そんな彼等を馬鹿らしいと考えていた。

 

 

彼にとって、他のモンスターが憧れ焦がれる地上には、特に魅力がある訳ではなかった。いや、無くなってしまった、ということの方が正しいだろう。彼も昔は地上に行きたい、と願っていた。

 

 

――――……親友が死ぬ、その日までは。

 

 

彼は、昔は『Asriel』という、地上の山羊と良く似たモンスターだった。モンスター達を治める王家に産まれ、王と女王の両親に愛されて育った、心優しいモンスターだった。そんな彼には、親友がいた。

 

 

『Chara』という名の、人間の親友が。

 

 

地上から突然やってきた人間の存在に驚いたものの、彼と両親は優しく受け入れ、彼女を保護した。それから両親は彼女を我が子のように愛し、彼も親友として、兄弟のように思っていた。

 

毎日が幸せだった。もし地上に出たら、いや出れないとしても、こんな日々が続けばいいと願っていた。

だが、その幸せは、掻き消えてしまった。他でもない、Asriel自身と親友の手によって。二人で立てた計画は最後の最期にAsrielの迷いで頓挫し、その代償にAsrielは塵になり、親友は二度と会えなくなってしまった。

 

 

地獄の始まりはそこからだった。

 

 

何の因果か、Asrielの意識は地下世界で目を覚ました。

 

『Asriel』の姿ではなく、『Flowey』として。『決意』と呼ばれる力と共に。

最初は驚き、そして歓喜した。また皆と一緒に居られる、と。『決意』の力の使い方を知ってからは、もし悪戯して怒られたりしたって何回だってやり直せると、これまた喜んだものだった。

 

そして、その頃から彼は夢を見ていた。

 

………まるで現実の続きのような、本当に現実に居るように感じる夢を。

それまで生きてきた記憶、感覚全てがある。明晰夢、と割り切るには妙に現実的過ぎるそれは、最初は明るく、幸せな日常が続いていた。だが、最後には、口に出すのも、思い出すことすら嫌悪するような最悪の悪夢になって幕を閉じる。

 

何故か地下世界にやってきた人間が大切な物を壊し、やがて―――……

 

 

涙を流す赤い瞳とかち合った。

 

 

そこで、はっとして目が醒める。辺りを見渡して漸く、あれが夢だと気付いた。

そうして、夢に出てくる涙を流す人物に、彼は覚えがあった。

 

 

何せ、昔自分が失った親友その人だったのだから。

 

 

驚いて、夢中で手を伸ばしていた。だが、届かずに空回った。そこで、夢はいつも醒める。

夢の中の親友は、泣いていた。涙を流し、ごめんなさいと泣き叫んでいた。

どうして泣いているのかは分からない。けれど、絶対に泣かなかった親友が泣いているのは、見ていられなかった。

 

 

親友を助けなければ。

 

 

あの暗闇から連れ出さなければ。

 

 

そんな思いが、彼の中に浮かびあがっていた。親友があんな場所にいるのに、黙って見ていられなかった。

 

それから彼は、足掻いた。親友を連れだそう、助け出そうと、夢の中でもがいた。だが、何度変えようとしても、何も変わらない。最後は全てを壊れ、そして、赤い瞳を見る。

 

 

自分はああはなってはいけない。

 

 

次こそは連れ出さなくては。

 

 

そう自分に言い聞かせ、彼は毎夜と続くその夢を乗り切って、毎日を過ごしていた。あまりにも現実的過ぎるその悪夢を、現実と混同するのと何とか防ぎながら。

 

だが、その内彼は、現実でも違和感に気付く。変わったのは姿だけではなかったのだと。

 

 

Asriel―――いや、Floweyは、一度死んでしまった所為なのか『心』を失くし、何の感情も感じない『ソウルレス』へと変わってしまっていた。

 

 

 

その事に気が付いた彼は絶望し、『決意』の力を使って足掻きに足掻いた。だが、何度やっても変わらなかった。夢の結末さえも変えられなかった。

その内、彼は自身の心を取り戻すこと諦めてしまった。

 

何回も繰り返し、自分自身の好奇心だけはあるのだと理解した彼は、『決意』を使い、周りのモンスター達で遊び始めた。

 

 

ある時にはとあるモンスターの親友に。

 

 

ある時にはとあるモンスターの子供に。

 

 

ある時には誰にでも優しいモンスターに。

 

 

沸き上がる好奇心のままに様々な自分を演じ、周りの反応を見て楽しんでいた。

 

 

そうして、その内…………彼の中に、危険な好奇心が芽生えてしまう。

 

 

――――彼らを殺せば、どうなるだろう。どんな顔をするだろう?

 

 

その危険な好奇心に従って、彼は殺戮の道を選んだ。

 

 

殺してもいいのだろうか、と戸惑ったものの、彼は結局好奇心に従ってモンスターを手にかけた。そして、自分の攻撃で塵になっていくモンスターを見ながら、彼は自分が強くなっている感覚を覚えた。『EXecution Point(E X P)』と『Level Of ViolencE(L O V E)』が上がっていくのを感じた。

 

 

モンスターを殺す度、そのぞくぞくと背筋が泡立つような感覚はやってくる。

 

 

Floweyはその感覚に、『楽しみ』を見出だした。

そしてその感覚を求めて、次々とモンスター達を殺していった。

 

 

あるタイムラインでは親友だったモンスターを殺し。

 

 

あるタイムラインではライバルだったモンスターを殺し。

 

 

そして、遂に………昔、親だったモンスターも手にかけた。

 

 

それを何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し、Floweyは欲求を満たしていく。

 

 

こうやって殺せばどんな顔をするだろう。

 

 

ああやって苦しめればどんな顔をするだろう。

 

 

知りたい、知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい!!!!

 

 

そうしてFloweyは罪を重ね、モンスターを殺し続けた。

 

 

未だに続く夢の中でも、殺し続けた。

 

 

――――あれ、本当の現実はどっちだろう。

 

 

ふと、モンスターを殺している最中、Floweyはそう考える。ああはなるまいと考えていたのに、いつの間にか自分は夢と同じ道を進んでいる。それどころか、全く同じ事を繰り返している。

 

 

――――まぁ、どうでもいいや。どうせどっちも変わらないし。

 

 

そんな事を考えても仕方がない。

直ぐにそうやって答えを出すことを諦めたFloweyは、殺戮に溺れていく。涙を流す親友に背を向けて。

 

 

だが、LOVEが溜まりに溜まって今にも溢れそうになるぐらいに繰り返した後は、彼は殺戮にも飽きてしまってすることを失くしてしまった。それから彼はこうしてずっと地下世界の行く末を見てきたのだった。

 

 

彼に、もう地上への憧れはなかった。

 

 

その代わりに、彼にはある好奇心が沸いていた。

 

 

――――――――もし結界を壊す直前にソウルを奪われたら、皆どんな顔をするだろう?

 

 

そこまで必死になって集めてきたソウルを奪われたら、どうなるだろう?

 

 

心のない彼の思考に久々に浮かんだ、恐ろしい好奇心だった。その好奇心に従って、Floweyは緻密に計画を立てていた。

 

 

………実を謂えば、彼の思惑はこの狂っていると断言出来る理由だけではない。

 

 

モンスターは人間のソウルを取り込めば神のような力を手に入れられる。その事をFloweyは知っている。身を持って知っている。心を失くした今でも苦くて飲み込めない程の感情と共に。

そして今現在、地下世界にはソウルは六つある。六人分の人間のソウルが。

 

 

一つだけでそんな力があるのに、七つも取り込めば、どうなるのか。

 

 

昔の一つだけ……親友のソウルを取り込んだ時よりもずっと強大な力が手に入るのは間違いない。それはFloweyにも直ぐに予想できた。だが、そこから先は未知の世界だ。二つ以上取り込むことなど、Floweyもやったことがない。

 

 

 

…………もしかしたら、この世界を、作り直せるんじゃないか。

 

 

 

可能性を考えに考えた末、Floweyの思考に、ふとそんな考えが浮かんだ。

 

 

 

七つのソウルの力と、本当に神様になれるんじゃないか。

 

 

 

また、親友と笑いあえるんじゃないか。

 

 

 

―――――あの暗闇の中で苦しむ親友を、今度こそ助け出せるんじゃないか。

 

 

 

そんな一縷の望みが、彼の計画を後押ししていた。

 

 

その計画の為に、彼は誰にも悟られないように、水面下で準備を進めてきた。

 

 

だが、その計画は、今この瞬間に瓦解した。

 

 

ぼすん、と。ある日突然、遺跡の奥から重いものが落ちてくる音がした。今まで(ユメ)の中でその重いものの正体を知っているFloweyは、漸くやってきたのか、とほくそ笑む。これで計画が進む、と。

 

どんな人間であろうと利用してやる。

 

 

Howdy(やぁ)! ぼくはフラ、ウィ………」

 

 

自身がいるこの場所に誰かが近付いてくるのを察知したFloweyは、そんな打算に濡れた奥底を隠し、やってきた人物に笑みを貼り付けた顔で振り向いた所で、びしりとFloweyは凍りついた。

 

 

「………やぁ、お花君。いい天気だね」

 

 

そういって、にっこりと笑う目の前の人物を見て、あまりの驚愕に、無い筈の心が動き、動揺するのを彼は感じていた。

目の前の人間は、Asrielだった頃の自身が気に入っていたお揃いの柄のパーカーを着ていた。

 

 

「は、え、嘘、でしょ……?」

 

 

何度も目を瞬き、自分の目の前に居るのがどんな人物なのか、夢では無いのかを確かめる。

挨拶をしてきたと思えば突然挙動不審となったFloweyの行動に疑問を持ったのか、目の前の人物は首を傾げる。さらりと、動きに合わせてボブカットに切り揃えられた髪が揺れる。

 

 

「…………どうかしたのかい? 私の顔に何か付いてるのかな?」

 

 

何度目を擦ろうと、そこに居る人物は消えない。それどころか、自分の反応を見て首を傾げている。夢ではない。幻ではないのことの証明だった。

混乱する頭の中、唯一出された考えに、そんな筈はない、と自分自身で否定しながら、Floweyは声に出す。

 

 

「もしかして………Chara、なの………?」

 

 

震える声で、Floweyは、まるで親友と同じような出で立ちと、親友の生き写しのような顔立ちの人間に訊ねた。

すると、その人物は、目を丸くして。

 

 

「……何でその名前を知ってるんだ、お前」

 

 

自分の記憶の中にある、まるで隠し事が見つかった時の親友の様な顔をしたものだから、思ってしまった。

 

 

親友が帰ってきたんじゃないか、と。

 

 

「……!!! Chara!! 僕だよ、僕!!! 君の、親友の………!!」

 

 

そう考えたらたまらずに、Floweyは目の前の親友らしき人間に、自分の事を思い出してもらおうと、気が付いてもらおうと必死になって自分の事をアピールする。本当に親友ならきっと、気が付いてくれる筈だと信じて。目の前の人間が親友じゃないかもしれない可能性は、頭から抜け落ちていた。

その期待に答えるように、人間は、

 

 

「…………もしかして、As……?」

 

 

戸惑いながらも、今は呼ばれなくなってしまった本当の自分の愛称を呼んでくれた。

 

 

「!!! Chara!!!」

 

 

この人は親友だ。

人間は知らない筈の愛称を呼んだ目の前の人間―――Charaの足元に、Floweyは縋り付く。

 

 

「あんな所から抜け出せたんだね!! 良かった、本当に良かったよぉ………」

 

 

そう言ってFloweyが足に抱きついていると、CharaはFloweyに視線を合わせて座り込み、抱き締め返した。

 

 

「………ただいま、As。ずっと、会いたかった」

 

 

「! 僕もだよ、Chara! おかえりなさい!」

 

 

あの頃よりずっと大きくなっている体に包み込まれ、Floweyは破顔する。服越しに伝わる温い体温が、彼女が生きて此処に居ることの証明に思えた。

 

 

「………ねぇ、As。お願いがあるんだけど」

 

 

「なぁに、Chara?」

 

 

暫くお互いに抱き合った後、彼女の方から沈黙が破られた。彼女はそっと体を離して、Floweyとしっかり目線を合わせる。土の色をした彼女の目を、Floweyも見つめ返す。一呼吸置いて、彼女は口を開いた。

 

 

「僕が此処に戻ってきたのはね、As。今度こそ皆を救いたいからなんだ。それで、その計画にはAsの力が必要なんだ。………まさか、そんな体になってるとは思ってもなかったけど。でも、頼むから力を貸してほしい。頼む」

 

 

「いいよ」

 

 

「……え」

 

 

彼女の申し出にFloweyが即答すると、彼女はまさか直ぐ様返事が返ってくるとは思っていなかったのか、目を丸くした。

 

 

「勿論いいに決まってるじゃないか、Chara。だって、ぼくたち親友でしょ?」

 

 

にっこりと笑って、Floweyは言う。

自分が建てた計画が潰れるのは惜しいが、他でもない親友がまた戻ってきてくれたのだから、そんな事はどうでも良かった。

 

 

「………それに、ぼくはあの時、自分の迷いの所為で計画を破綻させて、Charaを死なせてしまった。あんな暗くて怖い所に放り込んでしまった。許さなくてもいいから、その償いをさせてよ、Chara」

 

 

そう言えば、目の前の彼女はふっと笑った。その笑みは、在りし日に見た笑顔そのものだった。

 

 

「ありがとう、As。流石僕の親友だ」

 

 

「! 当然でしょ!」

 

 

人間の口から出た『僕の親友』という言葉に少しだけ心が動いたような気がしたFloweyは、胸を張った。

 

 

「………それで? 僕は何をすればいいの?」

 

 

Floweyがそう問うと、彼女はFloweyにそっと顔を近付け、内緒話をするように、小声で彼の役目を告げる。

 

 

「―――――――――――――」

 

 

Floweyはその内容に目を見開いたものの、

 

 

「………うん、分かった。それが君の望むことなら、ぼくは必ず役目を果たすよ」

 

 

彼女に向かって、蕩けるような笑みで笑い返してみせたのだった。

 

 

「それじゃあ、早速動かないとね! Chara、また後でね!」

 

 

そう言ってFloweyはその場を後にする。自らの役目を果たすために、色々な事を考えながら。

 

 

―――――――…………人間がニヤリと、歪な笑顔を浮かべた事など露知らず。

 

 

人間は立ち上がると、膝についた土を払い、前を見た。目を凝らすと、奥から何かがやってくるのが見えた。だんだんと近付いてくるその影をぼうっと見つめたまま立ち尽くしていると、差し込む日の光に照らされて、その影の正体が顕になった。

 

 

「………Chara……?」

 

 

真っ白な毛で覆われた山羊のようなモンスター―――Torielが、人間を見て目を見開く。先程も呼ばれたその名を聞いて、人間は首を傾げた。

 

 

「えーっと、どちら様ですかね。()はCharaさん?ではないんですが」

 

 

そう、にっこりと微笑んでみせたのだった。





とある日記より抜粋


『まず、計画の始めに、Floweyに取り入っておかなければ。計画を邪魔される可能性が二番目に高い。一番は勿論Sansだが。

こいつはGではFriskをChara(一番始めに落ちた人間。故人)だと勘違いしていた。多分だけど、顔が似ているんじゃないだろうか。グラフィックが割りと似ていたし。
……なら、その親友のフリをすれば、邪魔をさせないどころか、利用できるんじゃないだろうか?

コイツを味方に出来れば計画が容易に進むし、一石二鳥だ。

「もしかしてCharaじゃないんじゃないか?」と疑われないようにしなければ。Charaを演じるのは大変だが、やるしかない。』

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