喩え、この身が業火に焼かれても   作:行方不明者X

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※大変長らくお待たせいたしました(土下座)


※明けましておめでとうございます(大遅刻)、今年も宜しくお願い致します


2.Daughter/Other

Torielは目の前で首を傾げる人間を見て、そして、はっとして頭を振った。そうして改めて人間を見ると、その人間に重なって見えていた幻影は消えていた。

 

 

「……ごめんなさい、何でもないわ。初めまして、私の名前はToriel。このRuinsの管理人をしているの。毎日こうして人間が落ちてこないか確認に来ているの。人間が落ちてきたのはとても久しぶりだわ」

 

 

昔、娘として育てていた子供にそっくりな顔の人間に、笑いかける。

 

 

「あぁ、もしかしたら私が貴方を襲おうとしているんじゃないかと思っているかもしれないけど、食べたりなんてしないから、安心してちょうだいね」

 

 

「…………そう、ですか」

 

 

もしかしたら今までの子供達のように警戒しているかもしれない、と考えたTorielは、言葉の最後に自分に害する気はないという意思を言い添える。その言葉を聞いて警戒を下げてくれたのか、人間の肩が少し下がったような気がした。

 

 

「さて、さっそくだけれど、これから貴女を保護させてもらうわね」

 

 

Torielはそれ以上人間が警戒をさせないように笑みを浮かべて、人間の近くに寄る。そして、自分の身体を屈め、人間と視線を合わせた。土の色をした瞳が、驚いたように瞬いた。

 

 

「さっきも言ったけれど、私が貴女を襲うことは絶対にしないと約束するわ。それで、Ruinsを案内するから、付いて来てほしいのだけれど………何処か怪我してたりするところはない? 自分で歩けるかしら?」

 

 

そっと人間の手を握り、Torielは優しく微笑んでそう言った。そして、人間の体を隈無く見る。見たところ怪我はなさそうだが、もし服の下などに怪我をしていて、我慢なんてしていたりしたらと考え、本人と目線を合わせ、訊ねてみる。

 

 

その問いに、人間は目を見開いた。

 

 

「………え、あ」

 

 

「………? 何処か、痛いところがあるの?」

 

 

「……いえ、何処にもないですよ。一人で歩けます」

 

 

人間の妙な反応に、Torielは思わず首を傾げる。何処か痛むのだろうか、そう思って再度訊ねると、人間はにっこりと笑って、首を横に振った。そして、Torielの手を離した。傷が付かないようにだろうか、そっと、本当にそっと離された手に、Torielは少し悲しい気持ちになる。

 

まるで、昔、娘と一番最初に手を繋いだときのようだった。確か、あの時も手を握ろうとして、離されたのだったか。

 

そう思い出して、少し悲しくなる。

 

 

「えっと、案内よろしくお願いします、Torielさん」

 

 

「えぇ、任せて、我が子よ。さぁ、こっちよ」

 

 

――――大丈夫、きっとこの後、仲良くなれるわ。だって、あの子もそうだったんですもの。

 

そう気を取り直して、Torielは先頭に立って歩き出した。

 

―――――――――――――――――――

 

「新しい家へようこそ、我が子よ。Ruinsの歩き方を教えてあげるわね」

 

 

赤い落ち葉が溜まった道を抜け、道中、Torielは一つ目のパズルがある部屋で立ち止まり、人間にパズルの解き方を教えた。その次の部屋では実演してもらい、パズルを終えて戻ってきた人間に微笑みかける。

 

 

「よくできました! お利口さんね、我が子よ」

 

 

「………あはは、有難うございます」

 

 

一瞬、また人間は目を見開いたものの、すぐに笑みを浮かべた。

 

 

「さぁ、次の部屋に行きましょうか」

 

 

「はい」

 

 

先を行くTorielに人間も続いて行く。人間とボスモンスターが連れ立って歩いている、という奇妙な絵面は、Ruins内のモンスター達の興味を誘っていた。今は物陰に隠れて姿を見せないが、此方を興味津々に窺っているのはTorielには分かっていた。

 

 

「次は、これでお勉強をしましょうか」

 

 

「勉強……ですか」

 

 

「えぇ」

 

 

そんなモンスター達の対処法を覚えてもらうため、Torielは次の部屋に用意しておいたDummy人形の前にまで人間を立たせると、Torielは説明を始めた。

 

 

「このRuinsに居るのは私だけじゃない。沢山のモンスターが居るの」

 

 

「そうなんですね」

 

 

「モンスターたちは人間を見つけると、襲ってくることもあるわ。その時のために準備しておかなくちゃね。でも心配しないで! やり方は簡単よ」

 

 

他のモンスターが居ることを知った人間が少し身体を強張らせる。その緊張を解く為、Torielは明るい声で続きを説明した。

 

 

「モンスターに遭遇すると戦闘が始まるの。戦闘が始まったら仲良くお話すればいいのよ」

 

 

「えっ、お話……? それだけでいいんですか?」

 

 

「えぇ。時間を時間を稼いでくれたら、私が仲裁するわ。このダミーで練習してみましょうか」

 

 

Torielの話す『対処法』に目を丸くした人間に頷き、まずは試しとDummyに向き合わせる。Dummyに向き合った人間は、困惑したような素振りを見せたが、すぐに人好きする笑顔になった。

 

 

「こんにちは、初めまして。これからよろしくね。仲良くしてくれると嬉しいな」

 

 

「わぁ、いいわね! よくできました」

 

 

にっこりと笑ったまま、人間はDummyに話し掛けた。Torielはちゃんと挨拶をし、自分の言った通りにお話することが出来た人間を褒める。

 

 

「………あはは。これぐらいなら、何て事ないですよ」

 

 

振り返った人間は、照れ臭いのか笑いながらそう首を横に振る。

 

 

(謙虚な子なのね、この子は)

 

 

その反応を見て、Torielはそう感じた。

 

 

(………まるで、あの子との出会いをやり直しているみたい)

 

 

そう考えた所で、Torielははっとして、また目の前の人間と娘を重ねている事に気付いた。そして、内心苦笑した。顔が似ている所為か、どうしても娘をこの人間に投影してしまうらしい。

 

 

「さて、次の部屋に行きましょうか」

 

 

「はい」

 

 

Torielは人間に背を向けて先頭に立ち、次の部屋へと歩き出す。後ろから聞こえる歩幅の違う足音を聞きながら、Torielは次は危険なパズルだった事を思い出す。そこで、部屋に出た所で振り返って、人間に訊ねてみる。

 

 

「パズルはもう一つあるの。解けるかしら……?」

 

 

「あー、どうですかね………。見てみないと分からないです」

 

 

「それもそうね」

 

 

至極全うな返答をした人間に頷き返し、Torielはまた歩を進める。

 

 

(いつも落ちてくる人間と比べたら大きいし、一人でも大丈夫かしら……。でも、針山で怪我したら怖いわね。やっぱり、手を繋いで行くべきかしら………)

 

 

道を歩いているうちに、Torielはそう考えていた。

 

 

 

 

―――――その時だった。

 

 

 

 

「ギャッ」

 

 

 

 

小さな悲鳴が、Torielの思考を遮った。

 

 

平和なRuinsでは聞き慣れないその声にぎょっとしてTorielが振り向くと、人間が床に座っていた。座りかたからして、尻餅をついたのだろう。先程の悲鳴は彼女のものかとTorielは判断して、人間に駆け寄った。

 

 

「ど、どうしたの!?」

 

 

「あ、えっと………急に虫が目の前に飛んできたので、吃驚しちゃって。転んじゃいました」

 

 

はは、と笑ってから、虫が大の苦手なんです、と顔色を悪くし、引き吊った笑顔で続ける人間に、大したことではなかったことに安心したTorielは胸を撫で下ろし、ほっと息を吐いた。

 

 

「そうだったのね……。でも、虫には慣れておいた方がいいわ。ここには虫の形をしたモンスターが多いから」

 

 

「そうなんですか、分かりました。……出来る限り、頑張ります」

 

 

Torielの言葉に人間は青い顔のまま頷いた。そして何事もなく立ち上がると、パンパンと砂埃を払い落とし、手をパーカーのポケットに突っ込んで笑ってみせた。

 

 

「さぁ、行きましょうか。私は何ともないので、気になさらないで下さい」

 

 

「そう……? なら、いいのだけれど」

 

 

手を差し伸べようとした所で人間が立ち上がってしまったので、Torielは中途半端に手を伸ばすようなおかしな格好になってしまった。行き場の無くなった手を下ろし、人間の顔を覗き込む為に少し屈んでいた体を起こすと、もう一度前を向いて歩きだす。今度はちらちらと人間が何ともないか気にしつつ、パズルの前まで歩いていく。

 

 

(やっぱり危険だわ)

 

 

改めて鋭い針山が立ち並ぶパズルを見て、人間がもし道を踏み間違えてしまったら大変だ、と考えたTorielは、後ろを付いてきた人間に向き直って、笑いかける。

 

 

「これもパズルね、だけど………見ての通り、少し危ないものなの。だから、少しの間私の手を握っていてね」

 

 

「えっ。……は、い。分かりました」

 

 

Torielが手を出した途端、人間は一瞬肩を強張らせた。だが、流石に針山は怖かったのか、おずおずと手をTorielの手に重ねた。毛皮のないつるりとした手をそっと握ると、人間もその手を握り返す。手を繋いだまま、Torielは針山の橋を少しずつ進んでいった。

ちらり、と後ろを見ると、人間は顔を俯かせていた為、顔は見えなかった。だが、人間のその様子に、Torielは既視感を覚える。

 

いつかの日、娘と初めて手を繋いだ時のようだ、と。

 

 

(………確かあの子も、こうやって顔を俯かせていたっけ)

 

 

Torielがそう考えているうちに、向こう岸へと辿り着いた。橋を渡りきったその直後、またそっと手が離される。

 

 

「……案内して下さり、有難うございました」

 

 

「いいのよ、我が子よ。今のあなたに、これは危険すぎるわ」

 

 

「そうですかね」

 

 

ぺこりと頭を下げた人間に、何て事はないと笑って首を横に振るToriel。顔を上げた人間は首を傾げて針山を見た。その様子にくすりと笑い、Torielはまた前に向き直り、次の部屋へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………なんだ、こんなものか

 

 

――――――そう呟いた声を聞き逃したのに、気付かずに。

 

 

彼女のパーカーのポケットに入っていたものが、どんなもの(塵のついたカッターナイフ)であるかも知らずに。

 

 

 

そして、Ruinsから命が一つ消えてしまったのにも気付かないまま。

 

 

 

Torielの背後を、人間は遅れて着いていく。

 

 

 

人間がが立ち去った後、人間に殺されたF()r()o()g()g()i()t()()()()()()の残骸が、風に乗って消えていった。






とある日記より抜粋


『次はTorielというモンスターについて、作戦を立てておこう。


TorielはRuinsのボスモンスター。かつてモンスターの王Asgoreの元妻であり、AsrielとCharaの母親であったモンスターでもある。つまりは元王妃。Asgoreとは人間を守るか殺すかで意志が食い違い、離婚している。
今はRuinsで落ちてくる人間の子供を死なせないために動いている筈。


母性愛の溢れる、とても素敵なモンスターだ。


このモンスターが第一関門だ。Floweyは偽者だと気付かれたら直ぐに殺せるけど、このモンスターは元王族、そしてボスモンスターということもあって強い。


ゲーム通りにLOVEを上げて、油断させた所を切るしかない。




■■る■と■■、■■■■■■■(この部分は塗りつぶされている)』

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