先日まなぶおじさん様から頂いた三次創作を基に加筆修正をした、
後日譚となっております(本人了承済み)。
雨の中、始まる2人
あれから4年の月日が流れた。
ナカジマと出会って、自分の本心を告白して、将来を誓い合ったあの日から、いつの間にかそれだけの時が過ぎていた。
楽しいことも辛いこともあったあの日々は、思い起こそうとすれば、きっといくらでも思いだせるだろう。村主にとっては、それが一番の大切な過去だったと言っても過言ではないから。
そう、一番大切『だった』過去だ。
「―――お待たせ、村主」
「待ってたよ、ナカジマ」
ライトブルーのシャツにジーンズ、そして黄色い傘を手にするナカジマが、変わらないにこやかな顔で村主に寄ってくる。
久々に会えた衝動からか、村主も早歩きでナカジマと距離を詰めた。
「元気にしてたか?」
「してたしてた。村主は?」
「相変わらずだよ」
苦笑いをこぼしながら、視線を真上に向ける村主。せっかくナカジマと会える日だというのに、空ときたら威勢よく大雨を振らせている真っ最中だった。
ナカジマも村主と同じように笑いながら。
「みたいだね」
「なぁ。とりあえず、立ち話もなんだからどこかで腰を下ろさないか?そこで色々と、な」
「うん」
ナカジマが素直に頷く。
―――ナカジマとこうして出会えたのも、一体いつぶりになるだろうか。
村主もナカジマも、ひたすらに夢を追い求めているからか、どうしても会う時間に恵まれない。
もちろん2人とも、それは理解し合っているつもりだった。だから、隙あらばメールを送ってナカジマとコミュニケーションを取り合っているし、電話を掛けたことだって何度もある。大学の友人から、『お前、いつも誰かと電話したりしてるよな』と言われるぐらいには。
そんなわけで、ナカジマとは良好な関係を保っている。
良好
□ □ □
2人が入ったのは、街角にある落ち着いた雰囲気の喫茶店。
窓際の2人掛けの席に座って、会えなかった間のことを楽しそうに話す。窓の外では雨が降り続けているが、お互いに相手のことだけを見ているから気にしない。
「―――それでホシノ、最速でライセンス取ったんだって」
「本当か?」
向かいの席に座るナカジマは、村主の問いかけにうんうんと頷く。
「ホント。この前電話がかかってきて、やったやった、って大喜びしてた」
「へー、そりゃすごいな・・・。今度何か祝ってあげないと」
何をあげればホシノは喜ぶだろう、と村主が考えていると。
「あー、それなんだけどね、村主?祝い事をするのなら、ちょっと財布の中身に気をつけた方がいいかも」
意味ありげに口元を曲げるナカジマ。
その言葉と表情の意図が皆目見当もつかない村主の口からは、『へ』と疑問を呈する声しか出ない。
「実はホシノ・・・彼氏にプロポーズされたんだって」
少し溜めてから告げられたことに、村主は一瞬呆けてから。
「ま、マジで?」
「うん、マジで。卒業したらすぐ結婚するんだって。いやぁ、ホント最速だね」
「・・・流石は、元『大洗一速い女』・・・」
心底嬉しそうに、ナカジマはあっはっはと笑う。
対して、村主は冷静ぶって紅茶を飲むことしかできない。とても他人事とは思えない話だったから。
「いやー、うらやまし・・・くもないか」
ナカジマが、視線を手元の紅茶に落とす。
「私も村主と・・・結婚するんだし」
「・・・ああ」
他人事と思えない理由を、あっさりと口にする。
「・・・嬉しいな」
「・・・ああ」
紅茶に口をつけて、ナカジマはふわりと笑う。村主のことだけを見つめながら。
そんなナカジマの顔を見て、村主の息が震えだす。心臓が音を立て始める。村主はただただ、紅茶を飲むことしかできない。
「ねぇ、村主」
「?」
「・・・村主と同じ道を歩めて、本当に良かった」
「・・・俺もだ」
頷く。
ナカジマには、たくさんの夢があった。レーサーになってひとっ走りするか、クルマの整備士になるか、戦車の整備士を務めるか。
精一杯に、悩んだだろう。すべてが、ナカジマの『好きなこと』だったから。
精一杯に、考えただろう。どれかに、ナカジマの一生を捧げるのだから。
そしてその末に、ナカジマは村主の目を見てこう言ったのだのだ。
「好きな人と、好きなことで手を取り合える。こんなにも素敵なことは、他にないよ」
―――村主と、同じ道を歩むよ。
「・・・・・・そうだな」
「うん。村主と一緒だから、どこまででも走れるよ」
良かったと、切に思う。
ナカジマの、こんな顔を見ることができて。
「・・・ナカジマ」
「うん?」
「あのさ・・・」
だからもう、恐れない。
「実は、ナカジマに渡すものがあるんだ」
「え、何なに?あれ、今日って誕生日だったかな」
もう、迷わない。
「これを」
もう、抑えきれない。
「・・・・・・え」
雨男なんて体質は、大体煙たがれる。
俺自身、その雨男という体質を自覚し始めた頃はうんざりしていた。
だが、雨も慣れれば悪くはない。
雨が降っているからこそ分かるものがあるし、景色も違うように見えてくる。新しい発見だってある。
「・・・・・・ホントに?」
「・・・ああ。ナカジマに、受け取ってほしい」
そして、新しい出会いも降ってくる。
雨男という体質も、今はなんだかんだで好きだ。
「・・・そっか、そっか」
こうして、雨のように涙を流してくれる、そんな素敵な人と巡り会えたのだから。
□ □ □
私は、昔から雨が好きだった。
きっかけは何だったか。本当に子どもの頃からだから、よく分からない。きっと音とか、匂いとか、雰囲気とか、そう言ったものが私に合っているんだと思う。
友達にも、『雨が好きなんだよね』と口にしてみたことがあるけど、反応は『分かる気がする』だった。少なからず、雨にはそう言った魅力があるのかもしれない。
だから私は、今日も今日とて雨が降りしきる大洗女子学園艦の町を歩いていた。
車の走る音が、雨の隙間から聞こえてくる。傘に雨粒が弾かれる音が、絶えることなく耳に残る。
その音を聞くたびに、いいな、と思う。
やっぱり雨はいいものだな、と思う。
そうしてあてもなく学園艦を歩いていると、ふと公園が目についた。1つ下の階層にある、海に面した公園だ。
―――少し、座ろうかな。
みんなで走り回るのも好きだけど、たまには1人で静かな雰囲気に浸るのも悪くない。
だから私は、鼻歌交じりに公園に歩いて行って、そのまま東屋で落ち着いた。
晴れていれば、穏やかで綺麗な海が望めるけど、雨が降っている今は景色も霞んでいる。
そんな海を眺めながら、いくらかの時間が過ぎた。
目を瞑ってみると、雨の音がよく耳に入る気がする。雨の中で、1人だけ取り残されたような感覚も、いい感じだ。
しばらくこうしていようかな。
そんな風に思っていたら、雨の中に足音が聞こえてきて、
―――え。
声が、雨の中に溶けて消えた。
学園艦では見慣れない、私と同じぐらいの年の男の人が、私の隣に座っていたから―――
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
まなぶおじさん様、素敵なお話を贈ってくださり、
本当にありがとうございました!