大洗での実習3日目の昼休憩後、村主は副隊長の河嶋桃に呼び出されていた。
「ここのスイッチを押せば全体に通信が入る。伝えるのは試合開始の合図と、撃破の判定、試合結果だけでいい」
「撃破判定は、双眼鏡で確認すればいいんですか?」
「ああ。ただし、複数個所で同時に戦車が撃破されることもある。注意しておけよ」
「分かりました」
村主は、模擬戦用の無線機の使い方を教わっていた。
今日は週に1度の模擬戦の日で、各車輌の戦い方やチームワークを確かめるためのものだと言う。
模擬戦を行う主旨は事前に聞いていたが、審判を頼まれたのはついさっきのことだ。こうしてやり方を教えてもらっているので、知識無しのまま放り出されるよりはマシな方だが。
「ごめんね、急に頼んじゃって」
「いえ、気にしないでください」
手を合わせて謝ってくるのは、生徒会副会長の小山柚子。ふわふわした雰囲気の人で、きっちりしている桃とは正反対の雰囲気だ。
「まあ初めてだし、気楽にやっていいからね~」
「会長、審判が気楽なのは困ります・・・村主、しっかりやれよ」
「はい」
気楽に、と言ったのは生徒会長の角谷杏。どうにも緩い雰囲気のする人で、つかみどころがない。村主の中の生徒会長というイメージとはかけ離れている。
そしてこの生徒会3人で構成されているのが、カメさんチーム。彼女たちの乗るヘッツァーは、あの全国大会決勝戦で、黒森峰の切り札・マウスの下に潜りこんで足止めをし、マウス攻略に一役買った。あの局面には村主も度肝を抜かれたものだ。
そんなヘッツァーにはどんな人が乗っているのかと思ったが、結果は三者三様。何というか、これもまた拍子抜けな感じがする。
「西住、指揮!」
「あ、はい。では皆さん、準備に入ってください!」
『はい!』
桃に促されて号令をかけたのは、大洗戦車隊の隊長である西住みほ。全国大会で幾度となくどんでん返しを見せた、戦車道界隈では時の人となっている名将だ。
その彼女の号令で、隊員たちは戦車に素早く乗り込もうとする。
村主はそれを尻目に監視用の見張り台へ向かおうとするが、そこでナカジマに呼び止められた。
「村主は審判初めてなんだよね?大丈夫?」
「ん?ああ、一応やり方は聞いたし、何とかなると思う」
「そっか・・・頑張ってね」
手を振って去ろうとするナカジマに、村主は声をかける。
「ナカジマも、頑張れよ」
「うん、ありがとね」
村主は審判役だが、実際に戦車に乗って戦うのはナカジマだ。大変なのは彼女に決まっている。
それに、村主も一時的だがレオポンチームの一員だ。だから戦車には乗れずとも、チームメイトとして応援するのは当たり前のことだった。
村主の激励の言葉に、ナカジマは笑って頷きポルシェティーガーに乗り込む。村主もまた見張り台へと駆け足で向かった。
『試合開始!』
腕時計で時間を確かめてから、事前の指示通り無線機で号令をかける。その直後、森をメインとした演習場にいる戦車が一斉に動き出すのが、双眼鏡越しに分かった。
模擬戦は、AチームとBチームそれぞれ4輌ずつの殲滅戦。どちらかのチームの車輌を全て倒したチームの勝ちだ。
Aチームの隊長車はⅣ号戦車D型、続けて八九式中戦車、Ⅲ号突撃砲、ルノーB1bis。
Bチームの隊長車はヘッツァー、それと三式中戦車チヌ、M3リー、そしてポルシェティーガー。
ほぼバランスの取れたチーム分けだが、どうなるのかは分からない。
Aチームは最初に八九式を先行させて、偵察に向かわせているらしい。Bチームも、M3リーを同じように偵察に向かわせている。
(・・・偵察同士でかち合うか?)
双眼鏡で試合の様子を見ながら、これからの盤面を予想する。
思えば、戦車の試合をここまで間近に見るのも初めてだ。ましてや、雑用的なものは任されると思ってはいたが、審判まで任されるとも思わなかった。
その時、『パタタタタ・・・』と小気味よい砲撃音が聞こえてきた。双眼鏡で確認すると、八九式が機銃でM3リーを撃っている。だがそれもほどほどにして、八九式は反転して戻っていく。挑発行動だろうか。
M3リーはそれを追い、Bチーム全体も追う。ポルシェティーガーは足回りが不安なところがあるので最後尾だった。しかし、それでも遅れることなくついて行く。
「お」
八九式が機銃を撃ちつつ逃走し、それをBチームが追う。
だが、その先の窪地で待ち構えていたⅢ突が発砲し、Bチームの先頭を行くM3リーを撃破した。
『Bチーム、M3リー走行不能』
そこで自分の役目を思い出して、言われた通り撃破の報告を伝える。
どうやら八九式の役割は、偵察と囮だったらしい。八九式の全体的なスペックは低く、できることは少ないから妥当だろう。
その隠れていたⅢ突を狙ってチヌが発砲するが、Ⅲ突は即座に後退して逃走。Bチームの残りの3輌はⅢ突と八九式を追撃する。
だが、Aチームの他の戦車はどこにいるのかまだ分からない。
(ん?)
すると、そのBチームが追撃している場所から少し離れた場所をⅣ号が走っていたのが見えた。それも、Bチームの後ろを取るかのように大回りをしている。
(何するつもりだ?)
ともかく、村主は追撃するBチームの様子を見る。
その追撃している途中で、ポルシェティーガーが発砲し、Ⅲ突を撃破した。
『Aチーム、Ⅲ号突撃砲走行不能』
通信を入れながらも、ポルシェティーガーの威力に村主は目を見張る。
ポルシェティーガーは足回りが不安な面を除けば、性能は大洗の中でもトップクラスだ。主砲の火力が違うから、砲撃音も他とは違う。Ⅲ突が前面固定砲塔で後ろを狙えないのもあったが、とにかく火力の比較的高いⅢ突を落としたのは大きい。
すると今度は横合いからルノーが飛び出してきて、ポルシェティーガーを狙って発砲する。だが入射角が悪かったのか、掠り傷をつけるだけで致命弾に至らない。
そして、飛び出したルノーはヘッツァーの射線上にいた。あの距離でヘッツァーの火力なら、ルノーの撃破も狙える。
ヘッツァーもそのつもりだったようで、ルノーに向けて発砲した。
ところが。
「・・・・・・どこ狙ってんだ」
ヘッツァーの砲撃は、ルノーに掠りもせず明後日の方向に向かって行ってしまった。あの距離で、しかも固定砲塔なのに、なぜあんな所に着弾するのか。
チヌもルノーを狙おうとするが、ルノーの装甲がそこそこ厚いので致命弾にはなりえない。
「あっ」
そこで、戦場の外側を大きく回っていたⅣ号が、Bチームの後ろへと迫っていた。
Aチームの戦車が全て陽動で、隊長車のⅣ号が本命だったらしい。
そしてⅣ号は、ヘッツァーを後ろから打ち抜いて撃破した。
『Bチーム、ヘッツァー行動不能』
これでBチームは司令塔を失ってしまい、それぞれの判断で戦わなければならなくなった。村主も、戦いでの基本はまず相手の頭を叩くことだとマンガで読んだことがあるが、実際に見るとは思ってもいなかった。あのⅣ号も随分と酷なことをする。
Bチームはチヌとポルシェティーガーだけで戦うことになってしまうのだが、2輌共勝負を諦めずに懸命に戦っている。だが、チヌの動きが少しぎこちないように村主には見えた。
一方でポルシェティーガーの動きは、結構手慣れた感じだ。乗っているレオポンチームの車関連のポテンシャルが高いからかもしれない。そんなことを考えていると、ルノーが撃破された。
『Aチーム、ルノー行動不能』
面白くなってきたと、村主は思う。
Bチームは隊長車を失ってはいるが、それでも諦めずに果敢に戦おうとし、ルノーを撃破した。チヌも砲撃こそ当てられてはいないが、まだ勝負を捨ててはいない。
するとⅣ号は加速して、ポルシェティーガーの脇から追い抜く。そこをポルシェティーガーは狙うが、側面装甲―――シュルツェンを弾き飛ばすだけになってしまった。
Ⅳ号はチヌを去り際に撃破し、体勢を整えようとする。そして入れ替わるように八九式が躍り出て、ポルシェティーガーに機銃を撃つ。通常砲撃も交えるが、八九式の性能でポルシェティーガーを倒すなど夢のまた夢の話、撃破はできない。
そしてポルシェティーガーは返す刀で八九式を撃破し、残るはⅣ号のみ。
『Aチーム、八九式走行不能』
しかしⅣ号は距離を取っており、ポルシェティーガーもそちらに車体ごと向けようとする。
そこで、Ⅳ号が発砲した。
「あ」
狙いすまされた砲撃は、ポルシェティーガーの後部に収められているモーターを撃ち抜き、爆発炎上。文句なしの白旗判定となった。
『・・・Bチーム、ポルシェティーガー走行不能。Aチームの勝利!』
ポルシェティーガーが撃破された時、村主は一瞬反応が鈍った。だが、それでも審判としての役割は果たし、試合の結果を伝える。
撃破された戦車は、後でレオポンチームがブルドーザーを使って回収する。唯一撃破されなかったⅣ号だけは自力で帰り、他の戦車の乗員は歩いて帰るらしい。
村主も見張り台を下りて合流しようとする。
(負けちゃったか・・・)
階段を下りながら、村主は先ほど撃破されたポルシェティーガーのことを思い浮かべる。最後まで奮戦していたが、最後には弱点のモーターをやられてしまった。モーターはポルシェティーガーの動力源だから、まさに弁慶の泣き所だ。
村主が今案じているのは、ポルシェティーガーに乗っていたレオポンチームだ。モーターが爆発炎上してしまったが、中にいる彼女たちは大丈夫なのだろうか。車内へのダメージをほぼ無力化できる特殊カーボンがあるとはいえ、やはり心配だ。
それと。
(徹夜確定か・・・)
今回撃破された7輌全てを直すのに、徹夜は避けられないなと村主は苦笑した。
「桃ちゃん、あの距離で外す・・・?」
「桃ちゃんと呼ぶな!」
合流すると、柚子が困るような笑顔を浮かべながら話しかける。それに対して桃は噛みつくが、柚子の顔が『出来の悪い娘を見る親の顔』に見える。
「河嶋先輩は外したにゃー・・・」
「奴はヘッツァー砲手の中でも最弱もも・・・」
「あの距離で外すとは砲手のツラ汚しぴよ・・・」
「聞こえてるぞ貴様らッ!!」
そして声を潜めて、どこかで聞いたようなセリフを呟くのは、見た目が奇抜なアリクイさんチームの3人。しかし桃も否定しないあたり、砲撃が当たらないことに関しては気にしているようだ。
「いやー、やられちゃったねー」
「今夜は長くなるぞ~」
そして村主が一番心配だったレオポンチームは、気楽そうにこの後のことを話している。モーターが爆発したせいで服には煤が付いているが、見た感じ怪我はないようだ。それに安心しつつ、村主は声をかける。
「お疲れ」
「お、村主。審判ご苦労様」
「大変だったな・・・モーターをやられて」
スズキが『あーあ』と頭の後ろで腕を組む。彼女にとっても、あれは相当応えたらしい。
「今夜はレオポンにつきっきりだな~・・・あれ直すの結構かかるもんね」
「そうだな・・・ま、やりがいがあるってもんだ!」
ホシノが不敵に笑い、ナカジマたちも頷く。試合の後で疲れているはずなのに意気込んでいるその様から、彼女たちが如何にタフかが分かる。
やがて解散が告げられると、他のチームは『この後どうしようか』と相談しながら帰り支度を始める。
しかしながら、ここからがレオポンチームにとっての本番だ。
「よーし、それじゃ私とツチヤで戦車を回収してくるから、3人はまずⅣ号から直しておいて」
『了解!』
ナカジマの指示に全員が頷く。そしてナカジマとツチヤは、ガレージの裏に回ってブルドーザーに乗り演習場の方へと向かっていく。
「さてと、始めようか」
スズキが指をほぐしながらⅣ号を見上げる。模擬戦で最後まで勝ち残った車輌だが、それでも掠り傷がついていたり、シュルツェンが剥がれてしまっていたりで無傷ではない。
「それじゃ、私とホシノで傷を直すから、村主は・・・シュルツェンの付け直し、できる?」
「ああ、ナカジマから聞いてる」
「それじゃお願い。もしわからなかったら、私かホシノに聞いてね」
Ⅳ号のシュルツェンは、昨日までのナカジマの指導で仕組みは知っている。だから直すことも可能だ。
レオポンチームはあらかじめ、戦車の金物パーツを自分たちで製造し、ストックしているらしい。それを今日のような修理をする際に使うとのことだ。本当、村主はレオポンチームの技術力には頭が上がらない。
あらかじめ聞いていた金物が置いてある場所へ向かい、必要なパーツを必要な数だけ持ち出し作業に取り掛かる。シュルツェンはそれなりに大きくて割と重く、おまけに薄い金属なのでうっかりすると手を切る。軍手は嵌めているが、それでも細心の注意を払わねばならない。
「・・・スズキたちって、試合の後はいつも徹夜で修理してるんだよな」
「そうだね。私らがやらないと誰もできる人がいないし」
スズキが、Ⅳ号の車体に刻まれてしまった傷を、工具を使って丁寧に直しながら答える。
簡単な整備の仕方はマニュアルにまとめたようだが、こうした傷の本格的な修繕はその道に詳しい人にしかできない。レオポンチームも戦車整備には出ずっぱりなのだ。
「一番キツかったのは、決勝戦の後かな」
ホシノが装甲の凹みを直す手を止めずに、当時を思い出しながら話す。
「もう全車輌ボロボロだったし、翌日には大洗に戻らなきゃだったから、一晩で全部の車輌を直した」
「あれは大変だったねー」
スズキもそれを聞いて苦笑する。確かに、あの試合では大洗のどの車輌もボロボロだったのは、試合を観ていた村主も知っている。同じ整備士を目指す者として、あれだけのダメージをたった一晩で全て直すのがどれだけ大変か、分からない村主ではない。
「けどま、やりがいはあったな」
「そうだね~」
だが、ホシノもスズキも、それを苦とは思っていないらしい。レオポンチーム・・・自動車部として修理が本分だからか、それとも機械いじりが好きだからか。多分両方なのだろうと、村主は思った。
「はーい、お待たせ~」
やがて作業を進めていると、ナカジマとツチヤがブルドーザーに乗って戻ってきた。ナカジマがポルシェティーガー、ツチヤがルノーをそれぞれブルドーザーの後ろに引いている。
「やっぱりレオポンは時間かかりそうだから、こっち先にやってくれる?」
「分かったー!」
ナカジマの頼みに、ホシノが威勢よく答える。それを聞きながら、ナカジマとツチヤは戦車とブルドーザーを繋いでいたワイヤーを外し、再び戦車の回収に向かう。
「じゃあ、どうしようかな・・・」
Ⅳ号を下りたスズキが、ポルシェティーガーとⅣ号、ルノーを見比べながら少し考える。
「ホシノー、レオポンはどんな感じ?」
「これは・・・腕が鳴るね」
「なるほど・・・よし」
ポルシェティーガーの壊れたモーターを見て、ホシノが苦笑する。それだけで、スズキは作業にどれぐらいの時間が必要かが分かったらしい。
「村主、悪いんだけど・・・Ⅳ号とルノーの整備、先にお願いしてもいい?」
「え?」
村主を振り返ってスズキが告げたのは、単独での整備だ。
「レオポンはモーターだけでも大分手間がかかりそうだからね。私とホシノでやらないと多分、時間が結構かかると思う。だから村主と・・・ナカジマとツチヤには他の戦車の整備をお願いしたいんだ」
村主はⅣ号とルノーの整備は、昨日一昨日で既に経験している。またナカジマからのお墨付きも貰っているので、ある程度1人で進めることはできる。しかし傷の修復はまだできないので、できることはエンジン回りの整備ぐらいだ。
「・・・分かった」
「よし、それじゃあお願いね。もしわからないことがあったら、遠慮せず聞いてくれていいから」
「了解!」
既にⅣ号のシュルツェンの取り付けは終わっている。傷の修復も既にスズキたちが終えていて、外見は新品同然だ。後はエンジン回りで、これは村主も1人で行うことができる。
村主が答えると、早速スズキはポルシェティーガーの後ろに回ってホシノと共に壊れたスリットを外してモーターの修繕に取り掛かる。
それを見届けつつ、村主は下に潜ってⅣ号のエンジンルームを確認した。
「熱っ・・・」
だが、エンジンルームの蓋を開けた途端に、猛烈な熱気が村主の顔に降り注がれる。少し前までエンジンを稼働させて試合をしていたのだから、熱を持っているのも当然だ。それでも、暑い夏の今それを受けるのは厳しい。
軍手を嵌めていても、電子機器に触れていると指が熱くなってくる。
しかし、パーツの不備を見逃してしまうとどんな大事故につながるかも分からない。そして恐ろしい。
(・・・・・・よし、ここは問題ないな・・・)
だが、熱よりも手元のパーツに集中していれば、自然と気にならなくなる。
ケーブルの掠り傷やナットの緩み1つ見逃してはならないので、集中力は常にフル稼働状態だ。額に汗が浮かんでも、タオルでさっと拭く程度に済ます。
そうして作業を進めている間に、何度かブルドーザーが戦車を運んでくるような音が聞こえてきたが、それも気にせず整備を続ける。
「どんな感じ?」
集中していて反応が遅れたが、自分に向けられたらしき声を戦車の外からかけられたので、村主は作業を一度止める。外を見ると、ナカジマが屈んで戦車の下を覗き込んでいた。
「Ⅳ号のエンジン回りは、そこまで問題はないな。ナットの緩みが少しあるぐらいだ」
「そっか。他に気になったところとかもない?」
「ああ。今のところは」
匍匐前進で戦車の下を這い、ナカジマの下に来る村主。ガレージの外を見ると、既に陽は落ちていた。
「もう夜か・・・時間が経つのが早く感じるな」
「それも整備をしているとよくあるねぇ。集中してるうちに時間なんて全然気にしなくなっちゃうから」
どうやら戦車の回収は終わったらしく、ツチヤも合流している。
これからの動きは、ナカジマ、ツチヤ、村主の3人で戦車の修復と整備。スズキとホシノでポルシェティーガーの修理(主にモーター)と言った形だ。
「本当にいいの?徹夜するの」
「ああ。実際に整備士になったらそう言う機会もあるだろうし」
ナカジマが不安そうに聞いてくるが、村主は笑って答える。徹夜するとは実習前には聞いていなかったが、それでも村主は自分から『やりたい』と言った
「もっと戦車の整備を経験しておきたいしな」
「上昇志向だねぇ」
「そりゃ、自分の夢だからな」
さも当然と村主が告げると、ナカジマはふっと笑った。そのひたむきな姿勢は、ナカジマも嫌いじゃない。
「疲れたら無理しないで休んでいいからね」
「ああ、サンキューな」
ナカジマはそう言うが、疲れているのは彼女たちの方だろうと村主は思う。実際に試合をした上に、休む間もなくすぐに戦車の整備までするのだから、断然疲労度は彼女たちが上だろう。
そんな彼女たちが頑張っている手前、自分だけ休むのも少し違う。だから、多少しんどくてもやるべきだと、村主は意気込む。
「Ⅳ号が終わったら私に声かけて。傷の直し方も教えるから」
「分かった」
ナカジマはそう言って、Ⅳ号の隣に停めてあるルノーによじ登って整備を始める。
村主も、すぐにエンジンルーム下に戻って作業を再開する。と言っても、ほとんど整備は終わっていたので、あとは仕上げの目視と触手点検だけだ。締め直したものも含めて、ナットやケーブル、パーツなどを一つ一つ確かめる。
全てに問題が無いことを確認すると、工具を回収してⅣ号の下から出て、ナカジマの下へと向かう。
「ナカジマ。Ⅳ号は終わったから、後で確認してほしい」
「了解。それじゃまずは、ルノーから始めようか」
そして村主は、ナカジマの指導を受けながらルノーの整備と、傷の修復を始める。ツチヤはM3リーの整備をし、ホシノとスズキは引き続きポルシェティーガーのモーターを直す。
そうして懸命に修復作業をしていると。
「こんばんは~」
レオポンチームの誰でもない声がガレージに響く。村主とナカジマが声の出所を見ると、扉の前にあんこうチームの5人が立っていた。
ナカジマが問いかける。
「どうしましたー?」
「レオポンチームの皆さん、整備でお疲れだと思ったので・・・」
「お弁当作ってきました!良かったらどうぞ~」
隊長兼あんこうチームの車長・みほと、通信手・武部沙織の言葉に、その場にいたレオポンチーム+村主の食指が一斉に動く。
時計を見ると時刻は既に20時を回っている。訓練が終わってから村主たちは何も食べていなかったので、切りのいいところでコンビニにでも夕飯を買いに行こうと思っていたのだ。
集中のあまり空腹さえも感じなかったが、意識しだした途端にお腹が空いてきた。
「ありがとうございます~!それじゃ遠慮なく、いただきますね」
戦車を降りたナカジマが弁当を受け取る。
「おーい、みんな~!休憩にしようか~!」
ナカジマが他のメンバーに呼びかけると、ホシノが『りょうかーい!』と元気に返事をし、それぞれ作業を終えてナカジマの下へと集まる。村主も工具を箱に戻してから合流する。
「どうも、こんばんは」
『こんばんは~』
村主の挨拶に、丁寧に返事をしてくれるあんこうチームの面々。
あんこうチームは大洗を代表するチームだ。あの全国大会決勝戦で、黒森峰のフラッグ車と一騎打ちを繰り広げて戦いを制した、まさに勝利の立役者。
そして、優れた隊長が搭乗し、乗員それぞれが戦車乗りとしてずば抜けて秀でているとされているチームだ。
しかし蓋を開けてみれば、彼女たちもまた一介の女子高生にしか過ぎない。
「すみません・・・モーターを壊してしまって・・・」
「気にしないでください。試合なんですし、直すのは私たちの本分ですから」
みほはあの模擬戦でモーターを撃ち抜いてしまったことを後悔しているのか、律儀にナカジマに謝る。ナカジマの言う通り試合だから仕方がないのだが、妙なところで優しいなと村主は思う。
そのすぐそばでは沙織が弁当の準備をてきぱきと進め、装填手の秋山優花里はホシノたちが整備をしていたモーターを興味深そうに見学している。操縦主の冷泉麻子は、ツチヤと何かを話していた。
「大洗には慣れましたか?」
「え?ええ、まあ・・・」
そして、ゆったりとした口調で話しかけてきたのは、砲手の五十鈴華。あんこうチームの中でも比較的背が高く、均整の取れた身体つきと長い黒髪から、大和撫子と表現できる人だ。
「整備の実習ということですが、なぜ大洗に?」
「えっと、自分の担任が大洗のOGで。そのツテで」
「そういうことでしたか」
初対面の村主に対して、華は割と積極的に質問をしてくる。そういう性格だからか、それとも身近に男性がいて耐性があるのかもしれない。
「ほら、みんなご飯にしよ?」
「いやー、お腹空いたな~」
「疲れた疲れた・・・」
沙織が声をかけると、皆がレジャーシートに座る。ひどい損傷を負ったモーターを修理していたせいか、ホシノとスズキのつなぎやタンクトップは煤でところどころ黒ずんでしまっている。小麦色の肌にも煤がついていた。
「ごめんね、わざわざ用意してくれて」
「ううん、気にしないで。レオポンチームのみんながいるから私たちは戦車に乗れるんだし、これぐらいはしないと」
「ありがとうね~」
沙織がツチヤと話しながら弁当を広げていく。あんこうチームも一緒にここで食べるようで、量は割と多めだ。
重箱にはおにぎりや、から揚げや卵焼き、ポテトサラダなどのおかずが詰められていて、色鮮やかだった。見ているだけで、否が応でも食欲を掻き立ててくる。
『いただきまーす』
全員座ったところで手を合わせて、割り箸を手に取り食事にありつく。
「ん、美味しい!」
卵焼きを食べたツチヤが顔を輝かせる。『ありがとうね♪』と表情を輝かせた沙織を見るに、やはり作ってきたのは彼女のようだ。村主も1つから揚げを食べてみるが、確かに美味しい。
「・・・美味しいです」
「ホント?よかった~」
素直な感想を告げると、沙織は胸を撫で下ろす。もしや、『不味い』と言われることを恐れていたのだろうか。
「男の人から美味しいって言ってもらえたってことは、まず料理はクリアってことかな?」
「ど、どうかな・・・あはは・・・」
すると、沙織とみほがひそひそと何かを話している。厳密には、みほが沙織の話を聞いて苦笑する感じだが。
「・・・・・・いつものことだ。気にするな」
「はあ・・・」
困惑する村主の疑問を察したのか、隣に座る麻子がおかずをパクパク食べながら達観したように告げる。沙織たちが何を話しているのかも分からないので、村主も深く考えようとはしなかった。
「村主殿は外部から実習とお聞きしましたが、戦車がお好きなのですか?」
訊ねてきたのは優花里。うきうきしている感じがするので、彼女は戦車が好きなのかもしれない。
「ええ、まあ。母の影響で」
「男の方で戦車が好き、というのも珍しいですね」
「よく言われます」
優花里の言葉は実際、何度も言われたことだ。男のくせに女性のイメージが強い戦車道に興味を持つなど、変わっていると。
「でも、そのおかげで私たちは助かってるよ。整備にもちょっと余裕ができてるし」
村主の左隣に座るナカジマが笑って告げる。『助かってる』と言われると、自分がしっかり力になれていると実感できるから素直に嬉しい。
「えっと、質問いいですか?」
「あ、はい」
手を挙げてきたのは、沙織だった。
「村主さん的には、戦車に乗ってる女の子ってアリですか?」
この時、沙織と村主を除いた全員が『またか』という表情を浮かべた。
沙織が恋に恋する性格なのは今に始まったことではないし、それは戦車道チームの周知の事実。比較的遅く戦車に乗り始めたナカジマたちレオポンチームでさえそれを知っているのだから、その情報は『濃い』。
「アリ・・・とは?」
「・・・・・・要するに好きか嫌いかだろ」
要約した麻子の言葉に、村主は『ああ』と言ってから。
「普通にアリですけど」
戦車に乗る女性は敬遠されがち、という話を村主は聞いたことがある。だが、村主はそうは思わない。むしろ自分が戦車が好きだから、戦車に乗る女性だって好みの範疇に含まれる。
「・・・よし、よし」
その答えを聞くと、なぜか沙織が意気込むように腕をぐっと構えた。反応の理由が分からずに、村主は小首を傾げる。
「気にしないで大丈夫ですよ。本当にいつものことですから」
華がおにぎりを片手に笑いかけてくるが、本当に沙織の反応がいつものことだとしたら不安になってくる。
ちなみに沙織が『よし』と言っていたのは、戦車乗りがモテないという可能性が少なくともゼロではなくなったことに安心したからだ。
「ええと・・・ところで、村主さんはどちらの学校から・・・?」
微妙な空気を払拭するように、当たり障りのない質問をみほがする。
「東京の、技術専門学校から来ました」
「どんな学校なんですか?」
「大づかみに言うと、エンジニアを育成する学校です。IT関係のシステムエンジニアとか、車とか飛行機の整備士とか・・・」
「へー、何だかカッコいい!」
優花里と沙織も興味が湧いてきたらしく、村主の方を向いてくる。みほもまだ気になるところがあったらしく、さらに聞いてくる。
「戦車のカリキュラムは、無かったんですか?」
「うちって、女子がほとんどいなくて戦車道の授業もないんです・・・だから、戦車の整備はどこかで実習を受けるしかなかったんですよ」
だからこうして、村主は今大洗でナカジマたちと共に戦車の整備をしているのだ。こうして徹夜まですることになるとは、来る前は思ってもいなかったが。
「大洗はどうですか?」
「皆さん良くしてくれますし・・・のどかな感じがしますし、いい場所だと思います」
華の質問にも、率直な感想を述べる。まだ大洗に来て数日しか経っていないが、宿の主人然りレオポンチーム然り、良いところだと思う。
それを聞いて、皆は小さく笑ってくれた。自分たちの住む場所が良く言われて嬉しいのだ。
「皆さんは大洗に実家が?」
大洗とは、陸とこの学園艦両方を指すのだが、その中で首を振ったのは華とみほだった。
「私は水戸の方に・・・」
「そうなんですか・・・西住さんは?」
「私は・・・熊本から」
「熊本?また遠くですね・・・」
水戸とあれば、隣にある市だからまだ近い方だろう。みほもそうなのだろうかと思ったが、よもや県どころか本州からも離れた場所から来たとは予想外だ。
「どうして大洗まで・・・?」
となれば、わざわざ熊本くんだりからここまで来る理由が気になる。
「・・・・・・・・・」
しかし、それを聞くとみほの表情が陰ってしまった。それだけで、村主は何か触れてはいけないことに触れたことに気付く。
そして、隣に座っていたナカジマから軽く袖を引っ張られて、唇に人差し指を当てるジェスチャーを向けられる。『深入りするな』と言うことだ。
「・・・・・・すみませんでした」
「いえ・・・・・・・・・」
村主はすぐに謝ったが、みほの表情は未だ硬い。
「あの、あの!村主さん!1つ質問してもいいですか?」
「あ、はい」
再び沙織が質問してきたので、村主はそれに答える。沙織がみほの変化に気付いたからどうにかしようと思ってのことだったのは、村主にも分かった。
1時間ほど雑談を交えながらの夕食会が続き、9時過ぎになるとあんこうチームは帰って行った。
そして再び、レオポンチームのメンバーと共に村主は戦車の整備に戻る。
「・・・村主」
「ん?」
ルノーに上ろうとしたところで、ナカジマが話しかけてきた。ナカジマが少し悲しそうな笑みを浮かべていたので、村主は普通の話じゃないと気付く。
「あまり、西住さんの実家のことには、触れないであげてね」
「?」
切り出されたのは、食事会での一幕。あのことは、村主自身も気にしていた。
「西住さん、2年生から大洗に転校してきたんだけど、熊本の方でちょっと色々あったみたいでね。だから・・・ね」
「分かった」
ナカジマの言わんとすることは、分かった。
村主には、人のトラウマや嫌な思い出をほじくり返す趣味はない。人がされて嫌なことを進んでやるつもりもないので、ナカジマの忠告は素直に聞き入れる。
「・・・ありがとうね」
「お礼なんて」
本当にお礼を言われるほどのことでもないので、村主は小さく笑って再び整備に取り掛かる。
ガレージの中では、工具を使って戦車を整備する音しか聞こえてこない。ナカジマから傷の直し方を教えてもらう村主も、相槌を打ち、時にメモをとりながら作業を続ける。
「ワイヤーストリッパー」
「はい。ラジオペンチちょーだい」
「ん」
未だポルシェティーガーのモーターは直らず、スズキとホシノがつきっきりだ。聞こえてくるのも、道具を渡すような最低限度の会話しかない。
単独で整備をしているツチヤも、多くの器具を使って黙々と戦車の傷を直している。
こうして無駄な音、会話が無いのも、それだけ作業に集中しているからだ。作業に集中しなければ、戦車が不調を来すかもしれないし、間違って自分がけがをしてしまうかもしれない。整備とは身の危険と隣り合わせのものなのだと、村主も学校で教わっているから、それは言われなくても分かる。
その時、ガレージの外から何か音が聞こえてきた。
「・・・・・・雨だ」
村主がちらっと外を見ると、ガレージの明かりに反射して雨粒が見えた。しかし勢いはそこまで強くはなく、サーっと降る感じの雨だ。
「いい音だねぇ。捗りそう」
隣で作業をするナカジマは、うきうきするように笑って戦車と向き合っている。
雨の音を聞くと気持ちが落ち着くし、頭もすっきりする。以前、ナカジマはそう言っていた。と言うことは、今はナカジマにとっては絶好のコンディションなのだろうか。
「・・・・・・ああ、確かにな。なんかこう、リラックスする」
そして村主も、似たような気持ちだ。
大洗に乗艦した日の雨とは違い、今日の雨は静かに降っているから気を散らすようなものではない。気持ちを落ち着かせるような、それこそリラックスできる音だ。
「それじゃ、張り切っていこうか」
「おう」
ナカジマと同じで、雨の音を聞いてリラックスできたので作業にも集中できる。顔を見合わせて頷き合い、戦車の整備を続ける。
村主たちの夜は、真剣に戦車の整備をしながら過ぎていった。
時計の長針が何度か“12”の数字を跨いでから。
「よーし、整備完了!」
『お疲れ様~!』
つなぎや頬が煤で汚れてしまったナカジマが、全ての戦車を見直してそう宣言すると、村主たちは疲れ切った声と顔で挨拶を返す。ちなみに、他の誰もがナカジマと同じようにつなぎも頬も煤だらけだった。
ポルシェティーガーのモーターが直り、戦車の傷や凹みも全て修復が終わった。他の戦車も、傷や凹み、禿げた塗装が元通りになっていて新品同然だ。
「うあ~、疲れた・・・」
その戦車たちを見ながら、村主は首を回したり、腕を伸ばしたりする。ほぼ一定の姿勢で作業をしていたせいで、変な感じに身体が凝ってしまっている。
時計を見ると既に夜中の4時を過ぎていて、整備を始めてから実に10時間近くが経過していた。外ではまだ雨が降っているが、勢いは変わっていない。
「さて、それじゃ7時ごろまで仮眠しようか」
『はーい』
工具を片付け終えてからナカジマが告げると、レオポンチームは部室棟の方へと向かおうとする。
忘れてはならないが、夜が明けたらまた戦車道の訓練がある。それに演習場の整備もまだできていないので、作業が完全に終わったわけではない。だから、自分の住む寮に戻らずに学校に留まるのだ。
そして仮眠となれば、村主にも問題が生じる。
「村主はどうする?私らは部室で休むけど・・・」
スズキが聞いたことこそが、村主にとっての問題だ。
前に自動車部の部室に入った際、部屋はそこまで広くはなかった記憶がある。だから5人も入ることはできないだろう。それ以前に年頃の男女が同じ部屋で寝るのも倫理的にどうかと思う。
「俺はガレージにいるよ」
もちろん、それは村主も考えていた。今の時期なら、ここのような場所で仮眠をとっても風邪はひかないだろうし、問題はないはずだ。
「それじゃ、またあとでね。お休み~」
「ああ、おやすみー」
村主がそう言ったことで納得したのか、ナカジマたちも頷いて手を振りながらガレージを去って行った。村主はそれを見送りながらガレージの明かりを消し、あくびを1つかく。
「疲れた・・・眠い・・・」
そして、思い出したように疲労感と睡眠欲が襲い掛かってくる。妙に体が重く感じるし、体中が凝っているように錯覚する。
村主はとりあえず、ポルシェティーガーに背中を預けて座り、天井を見上げて大きく息を吐く。
「はー・・・」
自然と瞼が重くなってくる。やはり長時間整備を続けていたから体力を消費したのに加えて、集中力を駆使していたから頭も疲れている。
今なお雨は降っていて、静かな音が聞こえてくる。その気持ちを落ち着かせるような音が、睡魔を誘ってくる。
「ふぁ・・・」
また1つ、あくびを零して村主は目を閉じた。
雨の音が耳に入ってくるが、それも少しして村主が眠りに就き、聞こえなくなった。
肩に何かが当たるような感触。
「・・・・・・・・・ん」
それで村主は、目を覚ました。まだ雨は止んでいないが、空は少しだけ明るくなっている。時計は6時半を指していて、どうやら2時間半ほど眠っていたようだ
そして、肩に当たったのは何だろうと思ってそちらを見て。
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」
(・・・・・・・・・・・・え?)
言葉を失った。
なぜなら、そこには村主と同じくポルシェティーガーに背を預けて眠っているナカジマの姿があったからだ。それも、ナカジマは少し村主に寄り掛かるような形になっていて、肩が当たっている。それがさっきの感触だ。
寝息を立てているあたり、ナカジマはまだ眠っているらしい。
(待て待て、おい、どういうことだ)
そのナカジマを見て、村主は寝起きで鈍った頭を必死で回転させる。一体全体どうしてこんなことになったのかは、皆目分からない。自分が寝る前には確かにナカジマはいなかった。つまり、ナカジマの方から来たと言うことになる。
だが、その理由は皆目分からない。なぜよりにもよって自分の隣で眠っているのか。
「・・・・・・・・・」
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」
ナカジマの寝顔を見る。まだぐっすり眠っているようで、村主が起きたことにも気づいていない。
よほど疲れているのだろうと、村主は思う。昨日は戦車の模擬戦もあったし、加えて数時間続けての整備をしていたのだから仕方がないが。
(・・・・・・と言うか)
改めて、ナカジマを見る村主。寄り掛かっているので、ナカジマの顔も今はよく見える。
(ナカジマって・・・・・・)
そして今、その顔を間近に見ていることで、村主は見落としていたことに気付いてしまった。
(結構・・・・・・可愛い・・・・・・?)
そう気づいたところで、ナカジマが身を捩じらせて目を開けた。
「あ、村主・・・おはよう」
起きたナカジマは、何でもないように村主に話しかける。
村主は今自分が感じたことを胸に仕舞い、一番の疑問を投げかける。
「・・・何でここに?」
ナカジマは部室で休むと言っていたはずだが、なぜここに、しかも村主の隣にいるのか。
「いやー。雨が降ってるし、せっかくだから雨の音がよく聞こえるここで寝ようと思って。雨の音って聞いてると落ち着けるからさ~」
「・・・そうか」
雨の音が落ち着くから、というのは分かる。村主だってそのおかげですぐに寝付くことができた。
「・・・何で俺の隣に?」
しかしやはり、それが気になる。雨の音ならガレージの中でどこでも聞こえるはずなのだが、どうしてよりにもよって村主の隣に座ったのか。
「嫌だった?」
「・・・そう言うわけじゃないが」
ナカジマが隣で寝ている、と知ったのは起きた後だから、嫌だとかそう言うことはない。それと、図らずも女子と接近できたことに関しては結果オーライと言ってもいい。
「まあ・・・同じレオポンチームの仲間だし、距離を取ってって言うのも何だか変な感じがしたから」
「・・・・・・そうか」
それを聞いて村主は、妙に『寂しかった』。
ナカジマから『仲間』と言われたことは素直に嬉しい。あくまで実習生と言うわけではなく、対等な存在として見てくれていること自体は、嬉しく思う。
だが、どうしてだか、胸の奥の奥がチクリと痛んだ気がした。
それが何なのか、どうしてなのかは上手く言葉にできないが、ただ『寂しい』と言う気持ちはあった。
ナカジマが村主の隣に座った理由は、『同じレオポンチームの仲間だから』と言うのもある。
だが、それ以外の理由もナカジマにはあった。
しかしその理由とは、『ただ近くにいたかった』と荒唐無稽に近いものだ。
(なんでそんなこと思っちゃったのかな・・・)
そしてナカジマ自身、どうしてそう思ったのかは分かっていない。自覚できていない。
しかし、自然と村主の傍にいた。それは村主のことを悪く思っていないからなのは明白だが、それだけで隣に座って寝ようと思うだろうか。
どうしたんだろう、と頭を働かせていると、ホシノたちが姿を見せたので考えを止めた。
これからは、演習場の整備が始まる。