Love Box 〜友達100人できるかな in 超平和な出られない部屋〜   作:就鳥 ことり

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語彙力のある上鳴電気(当社比)。

閲覧ありがとうございます。


1箱目、白箱に憑かれた少女 / お友達できるかな!!

「お久しぶりです電気くん、そして懲りずにまた巻き込んでしまったようでごめんなさい」

 

「ハイハイわかったから土下座はやめような~」

 

そろそろこの真っ白な空間にも、毎度の如く土下座で出迎える友人にも、その脇を支え強制起立させることにも、馴れたものだ。

 

「いいか、よく思い出せ(むすび)。お前が防止策をしようとしたのを、やんなくていいって言ったどころか、自ら突っ込んでったのは俺。な? 悪いも何もねぇけど、どっちかっつったら。悪いのは?」

 

「根源悪たる私です」

 

「なんでだよ、普通に俺だろうが。悪いのは上鳴電気くんです。はい、リピートアフタミー」

 

「……悪いのは縁結(えにし むすび)でむぐあっ」

「こいつ」

 

この素直じゃない友人と初めて出会ったのは去年の秋だ。

 

 

**

 

突然襲われた目眩が収まり、視界に写ったのは白い床。顔を上げれば白い壁、そして白い天井。自分の部屋よりも手狭な正方形の空間。そしてその他には何も無い。そう、ドアも窓もないのだ。

俺知ってる、人間ってこういう空間にいるとヤバいらしい。なんかストレスが無いことがストレスになって発狂するってこの前テレビで見た。いやそんなことより、

 

ここ、どこよ。

 

いやいや、待て待て待て待て。落ち着け上鳴電気。まずは深呼吸だ。すぅ……はぁ。おけ、俺の名前は上鳴電気、谷便第一中学校(やびんいっちゅう)3年、今日は10月20日の金曜日。今日の朝飯は卵と牛乳と味噌汁と白米。給食は揚げパンの日!! えーとえーと、午後の授業はぶっちゃけほぼ寝てて記憶がねぇ!! そんでそれが原因で進路指導を受けてたら遅くなって。明日の小テストで八割取らないと推薦出さない、とかマジ無理終わった~って考えてたら、急に目眩がして。

……そんで、気が付いたらここ。と。

 

「マジか。もしかしなくて誘拐じゃね? これ」

 

って、やべぇじゃん!!?? でも、これが相手の個性なら無理に出んのも考えもん、だよな??? えーと何か、何かねぇか……

 

「んっ……」

 

女子の声? マジかよ増えた。半分反射で声の方へ振り返ると、巫女服美少女がしゃがみこんでた。そして、目と目がバッチリと合うこと1秒。全てを把握した彼女は顔を青くして、素早く両手両膝を着いて恭しい所作で深く頭を下げた。

日本人における最上位の謝罪の姿勢_土下座である。

 

所作が綺麗な人は土下座でも綺麗なもんなんだな。思わず見蕩れて、彼女が頭を下げたのに一瞬反応が遅れてしまう。

 

「えっ、どしたの。待てって顔上げて」

 

「この度は私事に巻き込んでしまって大変申し訳ございませんっ。そして大丈夫です犯罪に巻き込まれた訳でも何でもなくただのよくある怪異で、脱出方法も知ってますのでっ、どうか安心してください」

 

彼女はそのまま声を震わせながらも、矢継ぎ早に説明をまくし立てた。たぶん、不安がっているであろう相手に、まずは安全を伝えたかったのだろう。とりあえず誘拐とかじゃないらしい。

 

「そっかぁ、誘拐とかじゃねぇんか、よかったぁ。安心したわ。でもまず顔上げてくんね? 男としては女子にずっとそうされてんのは非常に気まずいというか」

 

「あっ、す、すみません。失礼しますっ」

 

すっと顔を上げた彼女は再び瞳を揺らしながら俺の目を見つめた。綺麗な目してんなぁ。どうにも気を張っている彼女を安心させたくて、俺の中で1番明るい笑顔で笑いかける。

 

「俺、上鳴電気な。中3。そっちは? 名前聞いてもいい?」

 

縁結(えにし むすび)です。同じく中学3年生」

 

するとあからさまに安心したように、柔く笑みを浮かべた。

 

「縁か、よろしくな!! そんでえぇと、怪異……だっけ? て何? 縁の個性とかじゃなく?」

 

「はい、私の個性とは違います。えっと怪異というのは、簡単に言うと人々の間で語られ続けられたことで、形成され力を持った言霊由来の妖怪の1種です。貴方は『白箱』という怪異や都市伝説、或いは噂をご存知ですか」

 

「わかんねぇ、俺あんまホラー系得意じゃねぇんだわ」

 

「アッそうですよね、すみませんっ」

 

小難しい話もオカルト話も得意じゃない。丁寧に状況説明をしようとしてくれている彼女には申し訳ないが、正直話の半分くらいしか頭に入ってない。なんなら、30分も経たずにきれいさっぱり忘れる自信しかない。

 

しかしまぁ、

 

「俺ってそんな怖いか?」

「はっ、えと、そんなことは、ないです」

 

嘘だ。明後日の方角へと向いた目がすべてを物語っている。そうかぁ、俺怖いかぁ。

 

「えっと、じゃあ、あれです。『出られない部屋』は? 薄い本とか漫画でよく用いられる、部屋の指示に従わないと出れない部屋に閉じ込められるやつ」

「あぁ!! それなら知ってるぜ」

 

あからさまに、話題転換というか軌道修正を図った彼女に内心苦笑いをしつつ、乗っかる。よかった、それなら俺もわかる。なんせ俺は健全な思春期男子。友達の兄ちゃんの宝物を手にしたこともある。それでなくとも少年漫画でも見かけた設定だ。

 

「あれの元ネタが『白箱』という怪異。というか、それらの漫画や同人誌が広めたせいで人々に広く認知され、結果この怪異が力を増してしまったのですが……」

 

「マジか。って大丈夫なんかそれ!!? 相手を殺さないと出られない部屋とかあんじゃん」

 

あと、セックスしないと出れない部屋とかな!!

 

「た、確かに白箱は憑いた相手に応じて殺傷や復讐、贖罪の指示を出すこともありますけど、大丈夫ですっ。私に憑いているのは、この界隈ではLoveBoxと呼ばれるもので愛を育むことを目的とする極めて平和なタイプなようなので」

 

っ!!

『ラブボックス』、『愛を育む』の言葉に、つい先程の思考がフラッシュバックして頬がボッと熱くなる。いやいやいやいやいやいやいやいや落ち着け俺、女子が平和な指示っつってんだからそれは無いだろうがよ。

勝手にこれまでに見たR指定本の内容も同時に脳裏に浮かび熱をあげた。

 

頬が赤いのがバレたのか、俺の思考を察したように補足が入る。

 

「あ、言葉不足でしたかね。何もそんな難しいものは出ませんよ。『好きな物を言い合え』だとか『相手のいい所を見つけろ』だとかそんなものです。あとは『料理を振る舞え』なんてものもありましたね!! 今のところあって手を握るくらいです。あ、それすら嫌だったらすみません。そ、その、……キスとか抱擁とか想像させてしまったかもしれませんが、ご安心ください!!」

「ま、まぁ、『LoveBox』とか『愛を育む』とか言われたらな?」

 

頬を茹だせて伝える縁の姿に罪悪感が沸いた。

ゴメンなさいもっとエグいの想像してました。

健全な思春期男子の煩悩を許して欲しい。頼むからそんな目で見ないで……

 

「縁さんごめんなさい」

「アッ手を握るのもお嫌でしたか!!? だっ大丈夫ですよ、出るとは限りませんし……」

「いや。そのごめんなさい」

「えぇぇ?? あっ、そろそろ指示が出てくるとこの怪異、空気読んでくれるんですよ。ね!!」

 

俺の対応に困った縁は怪異に助けを求めた。

 

「ね!!」

 

彼女の必死の圧を受けてか、言う通り、間もなくすっと目の前の床に文字が愉快そうに浮かび上がった。

成程、俺らが落ち着くまで待っててくれてたってわけか。

 

『2人で勉強し、上鳴電気がプリントにて3回80点以上の正答率を納めよ』

 

「え、勉強? 愛を育むんじゃねぇのかよ」

「一緒に勉強だなんていいじゃないですか。友達同士でよくするものでしょう? 友愛も立派な愛ですよ」

「……そんなもんか?」

「そしてたぶん、これは君に必要なことです」

 

そうして彼女が指さしたのは俺の背後。振り向けば先程までは確かに存在しなかった、真っ白で無機質な机と二脚の椅子が並び、そして机の上には

 

「っ、俺の筆入れだ!! ノートと教科書も」

 

俺の私物が置かれていた。思わず近付き、パラパラと教科書を捲り確認する。間違いない。この落書きにまみれた教科書は俺のものだ。

 

「上鳴くんが80点目指さなきゃいけないプリントはこれですね。20問か……うん、この範囲なら大丈夫、最近やったところです。必要とあれば教えることも出来ます」

 

彼女は手に取ったプリントをヒラヒラと動かす。

 

「それ、俺の高校推薦がかかったテストの範囲だわ! マジか、そういうことなのかよ白箱さん……!! 縁、お前の言う通りそれ俺にめっちゃ必要なことだわ」

 

驚き半分、怪異の力の鱗片を目の当たりにした興奮半分で、進路指導の内容を縁に話した。すると、縁も納得したように頷いて「もしかしてお勉強、苦手ですか?」と遠慮がちに尋ねた。もしかしなくても、大の苦手だ。

 

「……一緒に頑張りましょう。巻き込んでしまった全責任を持って必ず君を帰して見せます!!」

 

それから5時間は勉強してたと思う。時計も何も無いから体感でしかないけれど。プリントに触れた途端消えた教科書類にカンニングは出来ないと早々に悟る。勿論最初から見ながら解こうとは思ってなかったけど、最終手段には考えていたから落胆した。

 

そして丁寧なことに、毎度毎度問題の変わるプリントに苦戦を強いられ、途中心が折れそうになりながらも縁に励まされ挑戦すること27枚目。ようやく俺の戦いは幕を閉じた。

 

「お疲れ様でした。ほら、扉でました!!」

「おー……本当にサンキューな、縁」

 

疲労から机に突っ伏す俺に労りの言葉をかける縁。名前は覚えて無いけど、なんちゃら効果みたいなやつだろうか。縁がすっげぇ天使に見える。

 

すると目の前に、俺の心情を読み揶揄うかのように文字が浮かび上がる。

 

『頑張ったご褒美にキスでもしてもらえ』

 

「んなっ!!??」

 

『或いは、面倒見てもらったお礼にお前がするか?』

 

「え、えええ縁さん!!? そういう指令は出ないんじゃ無かったんか!!??」

「そういう……?」

 

突然目の前に躍り出た文字に疲労感も吹き飛び、思わず敬語になりながら縁を呼ぶ。すると縁は不可解そうな顔をした後、合点がいったように笑った。

 

「あっ、それ無視して大丈夫ですよ。またやってるんですね。懲りないなぁ。私に憑いた白箱は愉快犯なようで、そういうことしてくるんです。すみません。普通にこのまま帰れます。……でもこれ、完全なる初見殺しですよね。私も昔引っかかりましたもん」

 

くすくすと笑う彼女に力が抜けて、俺も「なぁんだ、残念」と冗談めかして笑った。初めは怯えてオドオドしていた彼女も、馴れたのか随分柔和になったものだ。それから、改めてお礼を言ったり謝られたりした後で

 

「んじゃ。腹も減ったしそろそろ帰るか」

「私の個性はあらゆる良縁を結んだり悪縁を切ったりできるんですよ。効果のあるおまじないのようなものです、気休めかも知れませんが受験の願がけにさせてくれませんか?」

 

ゆるりと笑う彼女に、どうしてだろうか。

 

「いいけど。なぁ、縁本当にそれだけなんだよな?」

 

どこか寂しそうな悲しい空気の揺れを感じた。

 

「っ、はい。それだけですが………?」

 

わかり易い程に跳ねた肩に確信する。何かあるのだと。

 

「お前、嘘吐くの向いてねぇな」

「な、なんのことでしょう」

 

「縁」

念押しするように名前を呼べば、彼女は観念したかのように俯いた。

 

「私の個性で私との縁を切ります。絶対にとは言えませんが、幾分かまたこうして巻き込まれる可能性は下がるはずです」

 

「……切ったらどうなるんだよ」

 

「大丈夫です。今日の事が無くなったり無かったことになったりはしませんよ。帰っても記憶には残ります。ちゃんと勉強したことも無駄になりませんよ!! ただ私との縁が切れて、巡り会いがしにくくなるだけです。縁が無ければこうして私の怪異に巻き込まれることも無いですし、メリットしかありませんよ」

 

まぁ、また自然に縁ができてしまうこともあるので、2度と巻き込まれないとは言いきれませんが……と補足する。

 

「ね? 切らせてください」

 

マジで言ってんのか、この子……はぁぁ、そこじゃねぇよ縁さん。

何も大丈夫じゃないんだわ。

 

「デメリットしかねぇよ。俺は、せっかく新しくできたダチに会えなくなんのが嫌なの。わかる?」

 

「ダチ……え、と、友達!?」

 

俯いて俺の手をみつてめていた顔をふっと上げる。どうしようもない喜色を滲ませ歪んだその顔に、胸の奥が締まるのを感じた。

 

あぁ、たぶん、コイツは今までもこうやって縁を全て断ち切って、誰も巻き込まないように、手に届く人も全て突き放して、1人を選んで来たんだろう。

 

「そ、お友達。まぁ縁は俺の事そう思って無いみてぇだけど? 俺にとってはもうお前はダチなんよ」

 

そんなの、しんどいに決まってる。少なくとも俺は耐えられそうにない。俺は人と居るのが好きだから。

 

「それにこの怪異、大して無理難題押し付けられるわけでも、傷つけられる訳でもねぇし。全然怖くねぇじゃん。何回巻き込まれたって、俺にはダチに会いにいくようなもんだし」

 

「ダメです。怪異を舐めてはいけません。次もまた平和なものだと限られなければ、いつ呼ばれるかもわかりません。それこそ、テストや受験中に巻き込まれる事だって」

 

「いい。もし巻き込まれてもそれは俺の選択だし、それはもう縁の責任じゃねぇから。な。大丈夫だから、寂しいこと言うなよ」

 

そっちが突き放すなら、俺が掴む。

 

今日会ったばっかで変なのはわかる。でも縁を放っておきたくない。何かを堪えるように袴をキツく握り締めるその手を、そっと取る。

あぁ、今にも泣きそうな目だ。我慢しないで泣きゃいいのにな。力が緩んだ手をしっかり握って、ダメ押しするように笑いかけた。すると握った手は再び強張り、縁はキュッと唇を噛む。

 

「……っ、 あなたみたいな軽々しく女の子に接する人嫌いです!! あなたが私に会いたくても私は二度と会いたく無い!! また何時間もあなたの要領の悪い頭に付き合わされてはたまりません!! 嫌いです、大嫌い。友達だなんて、思い上がらないでください!! 手を、放してください……!!」

 

マシンガンの如く放たれた叫び声に、笑っちゃいけないのはわかるけどな、思わず頬が緩む。

「お前さぁ、やっぱ嘘吐くの向いてねぇよ」

「嘘じゃない!!」

「いいんや、嘘だね。お前、言葉と顔が合ってねぇじゃん。なんでそんな泣きそうな顔しんてんの?」

「嫌いな人に手を握られて怖いからです」

「じゃぁ、なんで手を振り払わねぇんだよ。なんで、嫌いな奴を罵んのに、そんなしんどそうなんだよ」

 

自分から出た過去最高に優しい声に自分でも驚きが隠せない。こんな声出せんのに、なぜあの時好きだった女子の前ではあんなに上擦った声しか出なかったんだ。

「……めて、やめてください」

 

衝撃の事実にふと過去を思い出すも、暖かい液体が当たる感覚に思考を引き戻された。

限界を迎えたように、ポロポロと涙を零した彼女は、力なく声を振り絞り最後の抵抗を始めた。

 

「っ、やめてください。ダメなんです。その優しい言葉で私は満足なんです、私にはそう思って貰えるだけで充分なんです」

 

握られた手を俺に離してもらわないと、縁は進めない。突き放すようなことは言えても、自分から離せないんだと思う。言葉にするより、行動することの方が難しい。

 

縁は独りになりたくてなったわけじゃない、独りを選ばなくてはなら無かった。縁の人間性がそれ以外を許さなかった。でも、本当は友達だって欲しいだろう。一緒に遊んだり、飯行ったり。独りは寂しい。家族はどうしてっか知んないけど、友達と家族は別枠だ。

だから、握られた手を払えない。

 

「お前も俺の手を払えない、俺も離さない。それでいいじゃん。1人だけ特例で友達にしちゃえよ」

「っ、ダメ」

「はぁー。たく、お前も強情だなぁ。素直になれって」

 

『縁結、上鳴電気。ならばこうしろ』

 

埒が明かないと思ったのか静観を決め込んでいた怪異が割り込むように、2人の間に文字が踊り出る。

 

『1度縁を切れ、その上で再び巡り会えたならそれはもうただならぬ縁だ、諦めて友となればいい』

 

「……切られた縁がまたできるってどんくらいムズいんすか」

 

『お前の行動次第だ。何もしなければそれまでよ』

 

「そういうことなら、乗る。どうする縁、お前もこれに乗ってくれんなら今日は手を離すけど」

 

「……嬉しかったですよ、そこまで言ってくれたのは貴方が初めてでした。さっきはひどい言葉を言ってごめんなさい。訂正します。本当はとっても楽しかったです。私、誰かと一緒に勉強することも、教えることもあまりなかったので。でも、私のことは探さないでください」

 

すると途端に俺の指や手首から無数の半透明に輝く糸が浮かび上がった。そのうちのひとつ、淡く輝く薬指から伸びる糸を彼女はプツリと切った。

 

「ありがとう、上鳴くん」

 

途端に思考に靄がかかって、朧気な記憶で扉の外へと歩いたことはわかる。気が付くと元の路地にいた。

そして周りには大勢の警察……どうやら俺の鞄を調べてるようだ。

 

「っ、君は上鳴電気くんかい?」

 

周囲にいた警察官が路地に突然現れた俺に気付いてすぐに声をかけられた。

 

「そうっスけど」

 

「高橋さん、電気くん見つけました!! __こちら捜索チーム第2班上鳴電気少年を保護しました」

 

「あの何かあった……っ。そういうことかよ」

 

仰々しい様子に慌てて周囲を見渡し、高く昇った満月に粗方を察した。月の高さで時間を測る能力は無いけど、満月だけは別だ。なんせ満月は日没と同じくらいに顔を出す。それが空高く登っているのだそれが指す答えは簡単だろう。

 

なんと戻った時にな夜の10時。あまりに遅い帰りに両親が警察に連絡したのだ。幸い捜索が始まって間もなく俺が帰ってこれたからそこまで大騒ぎにはならずに済んだようだ。

 

……縁が渋る訳だ。

あっちに居た時間分、こっちの時間も進んでいる。もし、教室とか俺をよく知る大勢の前で急に姿が消えたら? もし、今日みたいにすぐに帰れなかったら? 騒ぎが起こるのは避けられない。

そして何度も同じ騒ぎが起こったら、どうなる? (ヴィラン)に狙われていると、そう考えられても仕方ない。

 

次の日小テストは満点で、進路指導の先生は酷く驚いていた。そして言いづらそうに、申し訳なさそうに俺に告げた。推薦の枠が貰えなくなったのだと。昨日の夜決まったらしく、先生は全力で抗議したのだが覆らなかったと涼しい顔で教えられた。

 

俺にはその真偽はどうでもよかった。

 

そんなことよりただ、直感的に縁が切れたってこういうことなのだと、根拠も無くそう感じたことが問題だった。……ならば一般を使ってでも入るしかない。雄英高校に行けないことが縁が切れた結果なら、行けばまた少しでも縁ができるかもしれない。

 

取り敢えず雄英に行く。

そして考えろ上鳴電気。世間に迷惑をかけずに、素直じゃないあの友人を迎えに行く方法は必ずある。

 

 

**

 

 

結論から言うと、雄英に縁はいなかった。

どうだ!会いに来てやったぞ!とあの寂しそうな目を見返してやりたくて、必死に探し回っても繋がりの糸が見えない。

雄英にはもはや何の手がかりもなく、俺は完全に行き詰まって。すっかり立ち止まってしまった。

それでもハードな高校生活は忙しなく、いつしか季節は1周してしまっていた。

脳内に無理という文字がチラつく。でも、既に諦めきって動けなくなっている縁が、どこかで待ってんのに。俺が諦めちゃダメだろ。あんだけ啖呵切っておいて、そりゃねぇよ。そうやって、プライドで踏ん張って探し続けて。それでも正直、諦めかけた頃。

 

あんなに必死こいても掴めなかった縁は、唐突に。

諦めて折れかけた俺を笑うように、巡ってきたのだ。

 

「占い、良縁祈願で6名ご予約の八百万様方ですね」

 

「はいあの、2人程増えてしまったのですが問題ないでしょうか?」

 

……みつけた。

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

黒く絹糸のような髪、小豆色の目、柔かい耳に心地いい声。

どれもうろ覚えだったけれど、一目見て、一声聞いて確信した。

 

「えにし、縁!!」

 

「かみ、なり、くん……?」

 

走り出さずには居られなかった。やっと、やっと見つけた。

 

マジかよ、雄英に行くことが縁のつながりってこういうことかよ。確かにね、八百万達が話題に出さなきゃこんな遠い山ん中の神社来なかったけどさ!!!! もう、これはセルフでやるっきゃないっしょ。

 

「えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

「えっ、えっ、えぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

叫ばずには居られなかった。藁にも縋る思いで縁結び神社に行くという女子に便乗したら、これだ。もう俺はテンション爆アゲどころの騒ぎではなく。正気ではなかった。高ぶるまま、ひたすら困惑して目を回す縁に飛び付く寸前視界が傾いた。

 

白箱が、応えた。

 

「縁、次はお前が約束を守る番だ」

 

指先からは千切れた糸が伸びていく。糸は心得たとばかりに、宙を漂う彼女の糸をそっと絡めとり、蝶結びを作った。縁が修復されてゆく。

 

「……仕方ありませんね。そう、これは仕方ないことです。怪異の決めたことです。不可抗力です。私はできる手立てはしました。それを押し退けて来たのは向こうです。えぇ、仕方ありませんね。怪異に誓ってしまいましたから」

 

「え、縁さん?」

 

無理矢理納得させるようにブツブツと言い聞かせる彼女に情けない声が漏れる。それとは裏腹に、ギッチリと彼女の糸を結び付けた俺の糸に、執念を感じた。

 

「はい、上鳴くん」

 

ちょっと傷付いたなぁと考える間もなく花を咲かせた彼女にそれも杞憂に終わる。

 

「えぇ。お友達になりましょう上鳴電気くん」

 

ぱぱーんっ。突然耳をつらぬく破裂音が響き渡る。

一発2発どころではなく、ただただ白い空間を花火のような祝砲が埋めつくした。

 

「びゃっ!!?」

「うぇぇいぃ!!? なになに何事よ!!??」

 

降り注ぐ紙吹雪、紙テープ、火薬の匂い。もしかしなくてもクラッカー。お互いに髪や服に色とりどりの花弁をつけて、ぱちくりと目を見合わせた。

 

『祝!縁結はじめてのお友達!!!!』

 

呆然とする俺らに構わず、嬉しそうに躍る文字。これは……もしかしなくても

 

「白箱さん、縁のこと大好きなんじゃね?」

「えぇと。……自称保護者と宣っておいでです」

 

『結が世話になる……次泣かせたら祟る』

 

シャレになんねぇな?

だがしかし、縁が孤独を強いる事になった元凶、テメェにだけは言われたくない。

 

『此処を出たくば両名、名で呼び合え』

「へへ。よろしくな、結」

「ありがとう、電気くん」

 

**

 

「むぐぅむぐぐ、むが」

「まだ言うか」

 

口を塞いでもわかってしまう、この友人は卑屈で強情な面倒臭いやつなのだ。

仕方ない。

 

「なぁ、結さん。俺はお前に会えて嬉しいから、白箱さんありがとうって感じなんだけど。結にそんな態度取られると嫌われてるんじゃって思っちゃうんだけどなぁ。電気くん傷付くなぁ」

 

「ふぐっ!!」

 

反応を返した結に、塞いでいた手をそっとどかせば

 

「ぷはっ。そんな訳ないじゃないですか。多分あなたが想定してる倍は大好きですよ。でも、だからこそ!! あなたの私生活に悪影響があるから私は、それが嫌なの!! 君に会えてお話できて嬉しくない訳がないこと。わかってるくせに意地が悪いですよ!!」

 

「おう……ごめんて」

 

予想以上の豪速球が返ってきた。

 

「照れないでください。……返り討ちに逢いましたね、電気くん。私だってやられてばかりではないですよ」

 

「うるせ。さて、今日のはなんだろな」

 

この前呼ばれた時は叩いて被ってジャンケンポン。その前はドミノ……あれはもう暫くやらなくていい。

500枚を綺麗に並べて、1度も突っかえらず倒すってだけなのだが、それがまぁ難しい。あれはまさに脳死ゲーム。2人とも目が死んだし、1日かかった。

 

「うーん。この時間だと電気くん学校ですよね。なら、早く遊んで帰らなくちゃ。簡単なものだといいのですが」

 

確かに運良く昼休み中とは言え、早いところ戻らないと授業に遅れてしまうのだが。

まったく、2ヶ月ぶりに会うというのにつれない友人である。

 

『2人で交互に投げてスペアを3回達成せよ。尚、ストライクは数えない』

『尚、ストライクを達成する事に相手の好きなところを1つ言うこと』

 

その文字が消えて間もなく、手狭だった部屋が拡張しコースができあがり、10本のピン、ボールの陳列棚が何も無かった床から生えた。

天上からは見慣れた得点掲示板のモニターが現れる。

 

「ど、どうしよう電気くん、私球技系本当に無理です。意図せず『今夜は返さないぜ』してしまいそう」

 

真っ青な顔で真面目なんだかボケてんだかわかんないことを言い出す結。

 

「お前そういうのどこで覚えてくんのよ。俺も得意とは言えねぇけど、まぁ、電気くんに任せとけって」

 

この後めちゃくちゃボーリングした。5限目にはスライディングアウトだった。結には間に合ったことにしようと思う。

 




ネタ消化の、殴り書き失礼しました。

結はすっかり、上鳴電気のひよこです。ぴよぴよしてる。
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